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 それは、何の比喩でもなく神話の戦争だった。
 片や北欧の女神。片やケルトの英雄神。
 後者は現界にあたり神性を落としていたが、有り余る武勇がその欠損を帳消しにしている。
 力の女神。技の英雄。繰り広げられる激突は、余人には何が起きているか把握するのも困難な領域に突入していた。

「ははははははッ! いいじゃないか、流石に伊達じゃないねえ"長腕"の!」

 強いて優劣を語るなら、押しているのはスカディの方だ。
 スキー板を振り回す度に暴風が吹き荒れ、得物がぶつかり合う度に暴力的な衝撃波が乱れ咲く。
 何が狩猟の女神か。これではどっちが肉食獣か分かったものではない、とルーは思った。

「あんたみたいなじゃじゃ馬はメイヴで懲りてる。できることなら、もう二度と御免だったんだがな――!」

 スキー板という一見するとふざけた得物だが、だからこそ打ち合うのは想像以上にやり難い。
 槍よりもリーチが長く、形状自体が特殊なため勘所を掴むのも至難だ。

 さながら、人型の暴風と相撲を取ろうとしているようなもの。
 一発でも対処を誤れば骨が砕けるか腕が吹き飛ぶかする癖に、一挙一動の全部が烈しさと繊細さを同居させているから始末に負えない。
 にもかかわらずルーが近接戦で食い下がっている理由は単純で、彼女に弓を執らせる方がよほど恐ろしいと思ったからだった。

 ルーは投擲で己が祖父・邪眼のバロールを討滅した英雄である。
 戦場における距離の概念の大切さ、そしてそれをあってないが如しにできる遠距離攻撃の脅威性は誰より知っていた。
 彼に言わせれば、弓兵に距離を許すなど正気の沙汰ではない。
 本気で勝ちだけに固執するのなら、敵に本領を発揮させないに越したことはないのだ。
 だからこそ彼はスカディ相手に最前線で応戦しつつ、彼女を自分の間合いに引き止め続けている。

 無論、それは本来机上論のたぐいだ。
 言うのは易いが、実際にできるなら誰も苦労しない理想論。
 スカディに弓を抜かせないという無理難題を、なのにルーは苦い顔をしながらも現状完璧にこなしている。
 彼女にしてみれば、何をこいつは苦労人みたいな面をしているのか、という話であった。

 とはいえ、やはり巨人の暴力は伊達ではない。
 ルーの得物は槍であり、その点状況だけを見れば常に敵を自分の間合いに納められている彼の方が優勢だ。
 が、スカディは圧倒的な暴性に物を言わせて強引にそこを埋め合わせている。
 怪物級の膂力をフルに使ってスキー板をぶん回し、ルーに得意の技量を押し出す隙を与えない。
 言うなればこれは二体の化け物が、各々の長所を潰し合いながら殺し合っている構図だった。

「さあさどうしたね、威勢の割にはこの程度かい?」

 されど――

「まさか。吠え面かけよ、女神殿」

 ルー・エス・マクリンは、神ならずとも大英雄である。
 死ぬほど強い暴力の化身程度のもの、数え切れないほど打ち倒してきた。

「荒れ狂う巨人の一匹程度、調伏できずして何が英雄か。
 俺は――あの子のサーヴァントだぞ!」

 途端、これまで維持されてきた拮抗が崩れる。
 ただし、スカディ側が綻び始めるという理外のカタチで。

 攻めの精彩を欠いたわけではない。
 疲労で連撃が疎かになったわけでもない。
 彼女が弱くなったのではなく、ルーが急に強くなったのだ。

 ルーとその槍を手にした者に対し、戦保ち続けるこれかなわず。
 彼は敵がいかなる手練れであろうとも、戦いの中で乗り越えていく。
 冬の女神が振るう暴嵐をねじ伏せながら、攻防を占める閃撃の割合を跳ね上げた。

「へえ、こいつは……!」
「どうだね姐さん。俺もなかなかやるもんだろう?」

 『常勝の四秘宝・槍(ランス・フォー・ルー)』。
 〈この世界の神〉にさえ一度は勝利をもぎ取った、ルー・マク・エスリンの第一の槍。
 本来は防御と地の利を無効化する代物だが、優れた攻撃は時に最大の防御とも化す。
 であればルーに破れぬ道理なし。形勢は逆転し、狩る者が狩られる側に変わるまで時間はかからなかった。

 凄まじいまでの槍撃の嵐は、もう完全にスカディの手数を超えている。
 如何に規格外のタフネスを持つ巨人女神とはいえ、大英雄ルーの槍はおいそれと受けられるものではない。
 よって必然的に行動の比重は守りに傾き、ますます第一の槍の猛威を後押ししてしまう。

 スキー板の表面が抉れるほどの威力、彼女のトップパフォーマンスを優に凌駕する槍速と手数。
 敵が強ければ強いほど強化されていくのは何も極星の特権に非ず。
 更にこの状態から、ルーは悠々と次の手札を切ることさえ可能なのだ。

「俺も武人の端くれだ。腰据えて語り合いたいのは山々なんだが、生憎今は時間がなくてな」

 否、それはそんな生易しいものではない。
 正真正銘、この大英雄が切り札とする究極の槍。
 冬の女神のお株を奪う穂先の凍てついた槍が、削り合う二人の中空に音もなく出現する。

 第一の槍を放り投げ、その冷槍を掴み取ったルー。
 瞬間、スカディの眉間に厳しく皺が寄る。
 漏れるのは舌打ち。これまで誰と戦っても余裕を保ってきた女神が、初めて焦燥を滲ませた。

「速攻で片付けさせて貰うぞ。なあ――『鏖殺せよ、屠殺の槍と(アラドヴァル)』よッ!」

 穂先を凍らせているのは、そうした方が強いからではない。
 そうしなければ、ルー自身にもこの槍を抑え込めないからだ。
 その封印が、真名の解放と共に溶け落ちる。
 露わになった鋒は、太陽を思わす紅蓮の色彩を湛えていた。

 第三の槍、開帳。
 これが彼の切り札である所以を、スカディは刹那にして思い知る羽目になる。

「ぎ――ぁ、ぐ――!?」

 途端、全身を撫でたのは魂が蒸発するような超高熱の洗礼だった。
 開帳の余波、挨拶代わりの発揮でさえ屈強な巨人が悲鳴を漏らす。
 巨人外殻を持つ彼女だからこの程度で済んだ。
 もしそうでなければ、たちまちに全身へ致命の火傷を刻み込まれていただろう。

 これぞ、ルー・マク・エスリンの第三の槍。
 地上の太陽。比喩でなく、地表のあらゆる景色を焼き滅ぼせる屠殺者の槍(アラドヴァル)。
 速攻で片付けるという宣言に一切の偽りなし。
 彼がこれを抜き放った事実が、他の何をも凌駕する殺意となってスカディを追い詰める。

「チ……! 思いの外イケるクチじゃないか、過小評価を詫びるよ長腕の!!」

 相性だなんだと小賢しい概念を持ち込む意味もない。
 そこにあるだけで強く、他のすべてを薙ぎ払う力。
 そんな破格の兵装を、最上の英雄のひとりであるルーが握っている事実は言うまでもなく絶望的だ。

 遊びを捨てた英雄が最も恐ろしい。
 スカディも熱に耐えながら猛攻の手を強めるが、成果は芳しくなかった。
 第一の槍の常勝補正を失いはしたものの、その分を差し引いても第三の槍が強すぎる。
 言うなれば一挙一動すべてが回避不能の炎熱攻撃と化しているようなもので、攻防の概念すら崩壊している。

 槍が纏う熱量が強すぎて、武器で打ち合うだけでもリスクが伴う次元だ。
 スカディのスキー板は宝具に匹敵する強度を持った業物だが、それでも彼女は槍との直接接触を避けていた。
 確証が持てなかったからだ。己と数多くの戦場を渡り歩いてきた愛板が、目の前の炎に焼き尽くされないという確証が。

(――おや)

 さあ、どう攻める。
 さあ、どう守る。
 絶え間ない逡巡の中で、スカディは自分の躰が小刻みに揺れているのに気が付いた。

(参ったね、震えてるのかいこのアタシが。
 ああ、こんなの一体いつぶりだ? 何にせよとんだイイ男見つけちまったねえ――)

 震えている。
 暴の巨人、狩猟の女神が、戦いながら震えているのだ。
 なんと畏ろしい敵だろうか。誇張でなく、一手でも択を間違えれば心の臓を貫かれると確信する。

 恐ろしい。
 怖ろしい。
 畏ろしい。

 いつ以来かの"おそれ"が、スカディを震わせた。
 麗しの美女がそうしている姿は本来哀れがましくさえあろう。

 ルーもそれを察知し、小さく息を吐く。
 綻びが見えた。僥倖だ、この女神は野放しにするには危険すぎる。
 アラドヴァルを抜く魔力もタダではない。
 此処でこのまま押し切り、討ち取ってからレミュリンの元に凱旋しようと腹を括って――

「……ッ」

 少女のように震えながら、肉食獣のように引き裂いた口で、牙を剥き出しにして嗤う女神の顔を見た。

「イイ。あんた、本当にイイ男だ」

 次の瞬間、スカディの五指が刺突のために突き出したルーの右腕を掴み取っていた。
 穂先が首筋を掠めており、傷口から火傷が徐々に広がっていく。
 体内に地獄の炎が流れ込んでくるような苦痛だろうに、スカディは気に留める様子もない。

 腕を振り解こうとするのだが、びくともしない。
 いざ自分の肉体で味わうと彼女の剛力はあまりに想像を超えており、さしものルーも絶句する。

「アタシを震えさせる男が、元旦那(オーディン)の他にいるとはねえ!」
「が、ぁっ……!?」

 腕が軋む。肉が抉れる。骨が悲鳴をあげる。
 苦悶の中で、ルーは女が震えたその意味を理解した。

「おかげでアツくなってきた。このアタシに火ぃ点けやがったんだ、最後まで付き合ってくれるんだろうねぇ?」

 スカディは狩猟の女神。
 自然を知り、弱肉強食を知り、生命の摂理と親しみながら育ってきた彼女はすべての恐れを飼い慣らしている。

 そんな彼女を震わせるものがあるとすれば、それは歓喜を除いて他にない。
 弱き者は恐怖で震えるが、強き者は悦びで身を震わせる。
 すなわち武者震い。この短い時間でこうまで自分を魅せてくれた目の前の男に、スカディは今感動さえしていたのだ。

 だから――

「だから嫌なんだよ、おたくみたいな女は――!」
「返事は"イエス"以外求めてないよぉ――ッ!」

 久方ぶりの情動に燃え上がったスカディは、傾きかけた趨勢を木っ端微塵に破壊する。
 掴んだルーの肉体を、雪玉でも投げるみたいにノーバウンドで投擲。
 ビルを五軒以上も連続でぶち抜きながら、大英雄を瓦礫の藻屑に変えた。

 それ自体も驚異的だが、重要なのはスカディに距離を確保させてしまった事実だ。
 ルーの殺陣から解放された女神が、とうとう念願の弓を抜き出す。
 弓兵に隙を与えるのがどんなに愚策かは彼の考えているその通り。
 その上今の狩猟女神は、現界以来最大と言っていいほどに昂ぶっている。

 赤坂亜切が彼女を喚べたのはある種の縁。
 きっかけひとつあれば、いくらでも烈しく燃え上がれてしまう熱情の狂気。
 もうひとつの"禍炎"。雪靴の二文字に騙されるなかれ、スカディもまた業火の如き魂を持つ魔人である。

「そぉら、大盤振る舞いだ!」

 矢を取り出し、番えて、放つ。
 ただそれだけ。
 なのにその"それだけ"が、死の釣瓶撃ちと化して都市を蹂躙する。

 イチイの矢が、弓から放っているとは思えない速度と物量で射線上の建造物を次々粉砕していく。
 まさに超原始的なガトリング射撃。鏃の密度も持つ威力も比較して遜色ない、どころか上回る。
 粉砕。撃砕。爆砕。あらゆる生物から生存権を剥奪する狩人の弾幕。
 当然逃れる術などあるべくもないが、そんな当然に対しても"例外"となれるのがルーという男だ。

「――まったく、やってられねえな」

 ルーはあろうことに、多少の擦過傷を受けた程度で済んでいた。
 辺りには瓦礫の山。自分の額に迫る最後の一矢を、アラドヴァルで焼滅させながら叩き落とす。

「大勢死ぬかもしれなかったぞ。俺が人払いを敷いてなかったらどうなってたか」

 彼は、自分が戦うにあたって周囲にどれほどの破壊が振り撒かれるか理解していた。
 だからレミュリンの命を受けて馳せ参じながらも、少しでも巻き込まれ散る命が少なく済むよう尽力していたのだ。
 ルーの魔術師としての適性は低い。なので、英雄の武威を威嚇として発散させることでの不格好な人払いである。
 とはいえ彼ほどの男がやるのだから、齎されるのは並の魔術師が振るう全力以上の効果。
 現にスカディがこれほどやらかしているのに、今回の激戦で出た死者の数はゼロ人だった。

「あんたも一応女神なんだろ。ちょっとは情け容赦ってもんはないのか?」
「眠たいこと言うんじゃないよ、長腕の」

 咎めるような口振りに、スカディは一笑で応える。

「アタシは無益な殺戮は好まないがね、所詮人間も動物だろう。
 災害、病気、不幸な事故。命が壊れる理由なんてこの世にはごまんとある。
 そこで死ぬならそれまでさ。アタシが斟酌してやるようなことじゃない。手前のケツは手前で拭けってことさね」
「……、……」
「第一、アタシがそいつらの立場だったら慮られるのは屈辱だよ。
 赤子ってわけでもないんだ。生きることが権利なら、死ぬこともまたそいつの権利だ、違うかい?」

 ケルトの神話は過酷にして苛烈である。
 人など数え切れないほど死ぬし、命の値打ちはこの令和時代とは比較にならないほど軽い。
 すべての生命が風の前の塵に同じ。
 そんな世界を生き、光の御子を産み落とした。
 ルーはスカディの言を糾せるほど、博愛主義な男ではない。

「そうだな。いや、あんたが正しいよ。俺も実際、此処でさえなかったならそう思ったかもな」

 だから否定はしないし、むしろその考えはまさに神として立派だとさえ思い首肯する。
 されど。

「だが、今の俺にはその言葉が許せない。いや、許すわけにはいかないんだ」

 針音都市のルー・マク・エスリンは、それを肯定してはならぬと燃え上がれる英雄だった。
 何故なら彼が許しても、彼の主はそれを許さないから。
 いや、そのように強い言葉では不適当。
 憤ることもなく静かに眉を顰めて、無言のまま哀しみに幼顔を曇らせるような、そんな少女が今の彼の"戦う理由"なのだ。

「俺はあんたの語る言葉を、あの子に聞かせたくないと思う。
 その価値観は、我がマスターの笑顔を曇らせる有害なものだと認識した。
 だから恥を承知で言うぞ、アーチャー。凍原に咲く麗しの花嫁よ」

 眼光が尖る。アラドヴァルが、熱量を増して燃え盛る。
 よくぞ云った、と、スカディの暴言に正面切って糾を唱える。

「おまえの主張を俺は認めない。義憤を以って打ち倒させて貰おう、女神スカディ!」
「自ら進んで青に染まるかい。お人好しだねぇ、幼子のようじゃないか」

 ルー・マク・エスリンはレミュリン・ウェルブレイシス・スタールのサーヴァント。
 彼女のための英雄にして、彼女の戦いに寄り添う守り人なれば。
 己の常識など、あるいは罪業でも、彼女のために容易く歪めよう。
 いつだとてあの子が胸に抱いて勇気を出せる、そんなひとりの英雄であろう。
 その自負が、彼を女神を討つ輝きの星として立たせる。

「ますますノってきた。此処で出し惜しむのも無粋だ、どれ、ひとつ試してみようか」

 スカディの魔力が、アラドヴァルの熱さえ食い破らんばかりの冷気の波長を帯びる。
 第二宝具の解放は先に潰されたにも関わらず、彼女が取る手は同じだった。
 違うところがあるとすれば、そこに込められた戦意の程度。

「アンタが義憤で槍を握るなら、アタシはこの高揚のままに弓を握ろう」

 ルーは確信する。ここから己が何をしようと、次の宝具解放は止められない。
 たとえまた門を壊したとしても、スカディはもう一切頓着しないだろう。
 館の崩壊をも顧みずの全霊解放。さすれば顕現するのは、アラドヴァルをしても破れるか分からない冬の地獄だ。

 火の点いたスカディを前に常識は通用しない。
 宝具の喪失。実質的な壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)をやらかすことにも躊躇など微塵もなく。
 そのことを直感で理解したからこそ、ルーも全霊で迎え撃つことを決める。

「……ならば俺は、その狂熱さえも焼き尽くす光になろう」

 アラドヴァルが感光し、イチイの矢の残骸さえ炭に変わって消えていく。
 語らいの時間はもう済んだ。
 ルーとスカディの両者が共に理解している、目の前の敵は出し惜しみしながら討伐できる相手ではない。
 故に狩りではなく戦いなのだ。ルー・マク・エスリンは、狩猟の女神を戦闘の場へと引きずり出した。

「行くぞ、女神(スカディ)――」
「――来な、英雄(ルー)」

 よって、これから始まる殺し合いの規模がどれほどになるか彼ら自身にさえ想像がつかなかった。
 ともすれば都市ひとつが焦土と化しても不思議ではない、極大の戦争の予感を到来させながら。

 鏖殺の槍が煌めき、冬の山門が再び奇しくその面影を浮かび上がらせたところで――"それ"は起きた。


「あ?」
「なに……?」


 女神と英雄の顔に浮かぶ怪訝。
 彼らの許をその現象が通過するのに要した時間は一秒にも満たなかったが、杞憂などである筈もない。
 こうまで燃え上がった神話の猛者共が、抜いた剣そっちのけで注意を惹かれるほどの、何かが起こった。

 規模としては天変地異と呼んでも生温いだろう。
 神話の性質的に"異なる世界が乱立する"という状況に慣れているスカディは、いち早く事の仔細を理解することができた。

「中途半端な横槍ならブチ切れて殺しに行くところだが……こりゃまた、どこの誰か知らんがえらい真似をやったねえ」
「……解説プリーズ、って言ったらやってくれるか?」
「おいおい、アンタ腐っても元は神だろ。このくらい分かんなくてどうすんだい」
「悪かったな、今は鈍くなってんだよ。おたくと違って横紙破りは慎ましくやるタイプなんでな」

 スカディはこういう唆る場面で横槍を入れられるのを死ぬほど嫌う。
 一も二もなく激昂し、相手がどこにいようと叩き潰しに行くのが普通だ。
 なのにそんな彼女が、感嘆半分呆れ半分といったリアクションを見せている。
 今起きているこれが、巨人の女神をして理解の及ばぬ異常事態という証明だった。

「固有結界の、更にもう幾つか上の領域だね。
 自分自身の心象を世界の表層(テクスチャ)に貼り付け(ペースト)して、無理やり支配権を奪い取りやがった」
「――莫迦な。そんな真似、英霊にできていい範疇を超えてるだろう」
「そうだね。だからこれをやったのは、多分アタシ達みたいな影法師じゃあないってコトだ」

 絶句するルーとは対照的に、スカディは愉快そうにくつくつ喉を鳴らしていた。
 これは面白い。こうでなくちゃ祭りはつまらない。
 そう言いたげな顔は神らしい愉悦と、底抜けの昂りを秘めている。

「本物の神霊か、もしくは案外、ただの人間か」

 この都市でなければ、誰も本気でなど受け取らないだろう。
 しかし針音都市には、既に規格外の力を持つ人類種の前例がある。
 神寂祓葉。恒星の肩書を持つあの少女、もしくはそれと同種の力を有した何者かが、まだ他にも潜んでいたのだとしたら……。

「何にせよ、アタシは好きになれないタイプだね。こういう女々しいのはイライラしていけないよ」

 スカディとルー、針音都市の中でも間違いなくハイエンドを張れる英霊達すら呑み込む大結界。
 それは同時に、彼らだからこの程度で済んでいるということでもある。

「深酒の翌日みたいな気分だよ。異様に眠たくて気だるい。我慢してないと欠伸が出そうだ」
「概ね同感だ。これは恐らく、堕落の精神汚染だな」

 渋谷を呑み込み、今もなお拡大を続ける新世界の名は『月光夢幻神界』。
 月女神の法が人々に与えるものも、要求することも、要約すると今まさにルーが口にした単語に帰結していく。
 『堕落』。腰を下ろして休み、何もかもを投げ出して忘れ去り、慰め合いながら怠惰に過ごそうという現実逃避の全肯定だ。

 スカディとルーは眠気と軽い倦怠感程度で済んでいたが、都市の最上位でもそのくらいは影響されてしまう。
 では、彼らほど強くない他の聖杯戦争参加者達……ましてやただの人間がこれを浴びればどうなるのか?
 女神はさしてそこの心配はしていないようだが、英雄は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

(タチが悪すぎる。こんなもん、無責任に他人の足を引っ張ってるだけだろうが)

 こうしている今も、脳裏では誰かの声が甘く囀っている。
 大丈夫大丈夫あなたは十分がんばった。休んでいいよ。サボっていいよ。しあわせになっていいんだよ。
 この声を、さして抱える未練もない自分は馬耳東風と受け流すことができるが。
 逆にもし未練を抱え、後悔を抱き、辛い気持ちを噛み殺しながら生きている人間がこれを聞かされてしまったなら――。

 月の救済は無責任。
 他人を片っ端から誑かしておいて、責任など取らないし感じもしない。
 都合がよくて甘ったるい囁きは、けれど聞く者によっては本当にこの上ない救いになる筈だ。

「――レミュリン……ッ!」

 そう、例えば。
 胸の傷を押さえながらそれでも前に進み続ける、あの少女のような人間には特に。

(ランサー……、聞こえる……?)

 折しもそのタイミングで脳裏に響いたレミュリンの声は、明らかに憔悴したものであった。
 彼女の身に起きたことを察し、ルーは奥歯を軋らせる。
 軟弱などという気にはとてもじゃないがなれない。彼もまた、彼女の苦悩を知っているから。

(大丈夫か――なんて、聞くまでもないな。すまん、俺がついてやれなかったから……!)
(ううん、大丈夫……ではないけど、ランサーのせいじゃないよ。
 戦いに行ってって言ったのはわたしだから、謝らないで)

 優しい子だ。強い子だ。そんなレミュリンをルーは誇りに思っている。
 だからこそ、そのちいさな強さを踏み躙るような真似をしたどこかの誰かに憤りを禁じ得なかった。

(聞いて。わたしね、今……アギリ=アカサカと一緒にいるの)
(は……?)

 とはいえ、続いた言葉には困惑を禁じ得ない。
 何故だ。何故、そんなことになっている?
 まったく不明な状況だったが、何より不可解なのはレミュリンが今に至るまで自分に対するアクションを起こしてこなかったことだ。

 アギリ=アカサカ……赤坂亜切とは狂った殺人鬼。
 レミュリンの家族を焼き殺し、今は祓葉の衛星と成り果てている極めて危険な狂人の筈。
 そんな男に生殺与奪を握られてしまう状況なら、令呪を使ってでも自分を呼び戻そうとするのが普通ではないのか。
 なのにレミュリンはそれをせず、このことを伝えてくる声色も彼に対する怯えや嫌悪の念とはどこか無縁に聞こえた。

(エリさん――ううん、あの人を演じてた"なにか"はわたし達の味方なんかじゃなかった。
 すっごく複雑ではあるけど、アギリがいなかったらわたしは殺されてたと思う)
(……待て、どういうことだ。さっぱり話が読めないぞ)
(詳しく話すと長くなるんだけど……アギリは"今は"敵じゃないみたいで。むしろわたしを守ってくれてるっていうか……)

 守る? スタール家を滅ぼした男が、その忘れ形見を?
 蛇杖堂絵里は味方じゃなかった? 絵里を演じていた"なにか"?
 まったくもって話が繋がらない。チグハグのまま無理やり組み上げたパズルのようだ。
 が、そこで思考停止するほどルーは愚鈍ではない。
 分からないことも知らねばならないこともたくさんある。しかし最も優先すべきことは別にあった。

(分からんが、分かった。俺の力が必要なんだな?)
(うん。その……こっちに戻ってこれる?)
(見逃して貰えるかは分からんが善処する。もし本当にまずい状況になったら、その時は躊躇なく令呪を使うんだ)

 レミュリンは今、自分の力を必要としている。
 赤坂亜切とも違う、また何か種別の違う脅威が彼女を襲っている。
 であればルーのすべきことはひとつだった。
 彼女のもとに馳せ参じ、その不安と恐怖を打ち破る。
 それが少女の英雄たるルー・マク・エスリンの、何よりも優先すべき戦う理由であった。

(……わかった。ごめんね、ランサー。勝手なことばかり言って)
(謝るな。俺は君に使役されて、心地いいと感じているんだから)

 念話が途絶するなり、ルーは状況の咀嚼もそこそこにスカディへ向き直る。
 今すぐにでも駆けつけてやりたいのは山々だが、こればかりは相手次第だ。
 幸い、この近辺の人間は人払いと派手な戦いの余波でほぼ残らず逃げ出してくれたようだ。
 レミュリンが己へ任せた使命は、とりあえず果たせたことになる。
 である以上は、後は目の前のおっかない女神からなんとか情状酌量を勝ち取るしかない。

「おやおや。どうしたんだい? 急に焦ったような顔をして」
「惚けんなよ。あんた、最初から全部知ってたな?」
「さあ、何のことやら」

 スカディのマスターは、赤坂亜切だ。
 北方の狩猟女神なにするものぞ、そう吠えた記憶は確かにある。
 奇妙なことだがアギリはレミュリンを助け現在進行系で庇護しており、レミュリンもその状況をとりあえず良しとしている。
 であればもはや戦いを続ける理由がないのは明白だが、そんな当たり前を適用できる相手では残念ながらない。

「で、どうするよ長腕の。アタシはもっと語らいたい気分なんだがね」

 相手が規格外の強さを持つ女傑なことは分かっていた。
 真の誤算は、どうも予想を超えて彼女を興に乗せてしまったらしいことだ。

 アギリの指針なのかそれとも意図的に無視しているのか、スカディは闘志をまるで衰えさせずにいる。
 女神と聞いてお淑やかで清らかな美女をイメージするほど初心ではないが、それにしたってこれはあまりに予想の斜め上。
 じゃじゃ馬なんてものではない。メイヴの性欲を闘争心に置き換えて、クー・フーリンの強さを付け足したみたいな怪物だ。
 そんなとんでもない女のお眼鏡に適ってしまったらしい事実にさしものルーも背筋が寒くなる。
 今だけは神の霊基が恋しい。恐ろしいのは、それでも目の前のこれを調伏するのに足りるかどうか、正確な判断が付かないところだった。

「……すまん!!」

 兎にも角にも、スカディの許しを得ないことにはどうにもならない。
 彼女に足を止められるのも最悪だし、よしんば勝てたとしても確実に無事では済まないだろう。
 レミュリンを襲う脅威を打ち払うにあたり、余力は少しでも多く残しておきたい。
 となればどうするか。平身低頭の勢いで頭を下げるのだ。

「こっちから売っておいて本当に情けない話なんだが、頼む! この場は見逃して貰えないだろうか……!?」
「――アンタ。それ、本気で言ってるのかい?」

 ルーは、百人が見れば百人が認めるだろう気持ちのいい男である。
 そのため武人の粋も当然のように重んじる。相手が誰だろうが無碍にはしない。
 自分から戦いを申し入れた挙句、こっちの都合でそれを反故にするなど無粋も無粋、とんだ非礼だ。

 スカディの発する殺気が目に見えて強まったが、ルーは頭を下げたまま微動だにしなかった。
 もし彼女が怒り出し襲いかかってくるのなら、甘んじて受けて立ち、喧嘩を売った側の責任を果たすつもりでいた。

「虫のいい話をしてるのは分かってる。が、どうしても行かなきゃならねえんだ」
「知ってるよ。ウチのから報告があったんだろ。それで?」

 アタシが、それを汲んでやる理由がどこにある。
 スカディは薄笑みを浮かべてはいたが、ひとつでも回答を誤れば取り返しの付かないことになるとルーの直感が告げている。
 さりとて、返す言葉は決まっていた。
 虚飾も欺瞞も彼は好まない。ましてや命を賭してしのぎを削った好敵手に対してならば尚のことだ。

「俺はあの子の英雄であると誓った。もしその誓いを違えれば、後に残るのはもう俺であって俺じゃない」
「……、……ふは」

 されど、ある意味ではしたたか。
 伊達に神代の世を生きてきた英傑ではない。
 スカディが己に執着しているのなら、見出した輝きが毀損されることなど到底許せない筈。
 だからこそ律儀に誠意を示しつつ、暗にこれを蔑ろにすることのリスクを提示しているのだ。

 もし此処で自分の足を止めるなら。
 その結果、レミュリン・ウェルブレイシス・スタールを守れなかったなら。
 そうなってしまったなら、もうお前が惚れたルー・マク・エスリンはどこにも居なくなるぞと。

「は、あは、あっはははははは! 言うじゃないか、流石にやるねえお隣の主神殿は!!
 指を咥えて見逃すか、二度とご馳走にありつけないか選べと言うのかい!
 あ~~おかしい! アタシにこんな命知らずをやらかす奴なんていつ以来だろうねぇ!!」

 果たして、効果は覿面だった。
 スカディは抱腹絶倒の勢いで呵々大笑し、ひらひらと手を振る。

「そう言われちゃアタシも弱い。
 行きなよ、どっちにしろアギリからは余計な真似すんなって言われてたしね。此処はその侠気に免じて、アンタの顔を立ててやるさ」
「……恩に着る」
「ただし、これだけは覚えときなよ」

 これにて一件落着。
 ああ、本当にそうなったならどれほど幸いであったろうか。
 くく、くふ、と笑いを漏らしながら口元を拭い、女神は眼光を歪めた。
 その妖しげな美しさが、これまで彼女が見せたどの殺意よりも恐ろしく見えるのは気の所為ではない。

「アタシはアンタを気に入った。逃がさないよ、地の果てまででも追いかけて白黒つけるからな」

 英雄は、荒ぶる女神に見つかってしまったのだ。

「面倒な全部が片付いたら、是が非でも続きをやろうじゃないか」
「ちなみに、拒否権は?」
「ない。たとえウチのマスターがやめろと言おうが、アンタとアタシはこの瞬間を以って運命だ」

 女神スカディの真の恐ろしさはその格でも暴力でもない。
 ひと度火が点いてしまったら、神でも止めることのできない狂おしい激しさ。
 恋する乙女の熱情を神がやる。故に彼女の進撃は、ひとつの世界ですら容易く揺るがす。
 かつて彼女の父神が殺された時、怒りのままに神界への進撃を敢行したように。
 現世にまろび出た狩猟女神は、悠久の時を経て巡り合った運命に激しく烈しく陶酔している。

「――殺すよ、アタシの全力を賭して。
 ――愛すよ、アタシの尊厳(すべて)を賭して」

 それは宣戦布告。
 或いはこの世の何より情熱的で破滅的な、愛の告白。

「ぞっとしねえな。本当、とんでもない女に遭っちまったもんだ」

 ルーは踵を返しながら、腹を括る。
 この女とはなあなあでは終われない。
 どちらかが勝ってどちらかが死ぬ、その結末を以って娶られるか否かが決まる。
 そういう風に白黒付けない限り、己は永遠に雪靴の女神の偏愛から逃れられないのだと理解した。

「俺も男だ、点けた火の責任は取るさ。次に俺達がかち合った時、そこの白黒はきっちり付けると誓おう」
「分かりやすくていいね。勝てば総取り、負ければ服従だ。実にアタシらの時代らしいじゃないか」
「……そういう野蛮なのは好きじゃないんだけどな。あんたも少しはこのレイワとかいう時代のノリに学んでみたらどうだ? スカディよ」
「冗談。"優しい世界"ほどつまらないものはないよ。例えば今この渋谷を覆ってる理みたいにね――ああいや、これはこれでいじらしくて多少面白くはあるが」

 されども今更怖じ気付きはしない。
 重ね重ね、この喧嘩は自分から売ったものなのだから。
 責任は取る。そこを違えれば戦士として、男としての沽券に関わる。
 格というものは大切だ。時代のノリがどうこう言っていても、結局のところルーもやはり、神代育ちの益荒男なのだった。

 斯くして、英雄と女神の戦場はとりあえず一旦の幕引きを迎える。
 霊体化してレミュリンのもとに向かう直前、一度だけルーは足を止めて。

「ところで、最後にひとついいか?」
「今のアタシは機嫌がいい。内容にもよるが、検討くらいはしてあげようかね」
「アギリ・アカサカは――お前になんと命じたんだ?」

 レミュリンを巡る悪意に満ちた陰謀に際して。
 未だ顔も知らない狂気の〈葬儀屋〉は、果たして己が従僕をどう動かすのかと。
 疑問に思ったから投げたその問いに、スカディは口角を吊り上げて短く即答した。

「"僕が戻るまで、そっちは好きに暴れとけ"だってさ」
「そうかい。じゃあ、一言だけ念話で伝えといてくれ」

 その回答を以って確信する。

「ロクでなしが、ってな」

 赤坂亜切はやはり狂っている。
 間違っても、手放しに信用していいような男ではない。
 知らねばならないだろう、レミュリンと彼の間に何が起きているのか。
 解らねばならないだろう、レミュリンを襲うモノ、蛇杖堂絵里を名乗ったなにかは一体如何なる脅威であるのか。

 電光石火の勢いで、神ならぬ大英雄は主のもとへひた駆けていく。
 少女を蝕む"熱の日々"、その転換点が間近にあることを直感しながら。


◇◇◇


 ルーとの念話を終えて。
 レミュリン・ウェルブレイシス・スタールは、腰が抜けたように全身の力を抜いた。
 アギリに抱えられた格好でなければ、致命的な隙を晒していたに違いない。
 それほどまでに、彼女はもう限界だったのだ。

 疲労なら無視できる。心の疲れだってそうだ。
 が、頭の奥、胸の裡から絶えず囁きかけてくるその誘惑だけは話が違った。


 『つらいよね。苦しいよね。寂しいよね。お父さんがお母さんがお姉ちゃんが恋しいよね。
  なんでわたしだけこんな目に遭うんだろうね。ひどいよ情け知らずだよ理不尽だよ。こんなことがあっていいわけないよ。
  わたしがどんなに頑張ったって、誰ひとり帰ってきやしない。
  そもそもなんで勝手に殺されてるの? わたしはこんなにつらいのに訳知り顔でみんなでいなくなって、それでもほんとにわたしの家族なの?
  わたしはいつまでどこにもいない家族の顔を思い出しながら生きればいいの? それってほんとに意味あるの?
  ああもう疲れたやめたいしんどい意味ないくだらない、そうだそうだよやめちゃおう全部投げ捨てて楽になっちゃおう。
  座っちゃおう。寝ちゃおう。忘れちゃおう。だって過ぎたことは過ぎたことで、過去は過去でしかないんだから。
  わたしが今やめたって誰も怒んないし、むしろよく頑張ったって慰めてくれるんじゃないかな。それってとても気持ちいいと思わない?
  大丈夫大丈夫わたし(あなた)は十分がんばった。休んでいいよ。サボっていいよ。しあわせになっていいんだよ』


 響くその声は、ぞっとするほど優しくて。
 でもどこか、友達のように親しげで。
 聞いているとつい、"なら、もういいか"と考えてしまいそうになって。

 それが自分にとって最悪の結末を招くと分かっているから、お腹の底に力を込めてぐっと堪える。
 許されるなら舌だって噛み潰したい気分だった。
 でもそうまでしてさえ、せり上がる堕落への衝動を完全には殺しきれない。

 ――だって、その未来は。
 ――あまりに楽で、しあわせなものに思えたから。

 家族のことも、仇のことも、自分を付け狙う素性も分からない"なにか"のことも。
 さっき一瞬垣間見た、座標不明の"いつか"のことも。
 全部忘れて座り込む。眠る。今まで頑張った分、うんとダラダラ過ごして好きに生きる。
 年若くしてすべてを失い、ある日急に聖杯戦争なんて地獄みたいな環境に放り込まれて、むしろ今日までよくやってきたじゃないか。
 そろそろ休んだっていいだろう。誰にも文句は言われないだろうし、言ってくるならそいつは人でなしだから聞く耳を持つ必要はない。

 第一、死んだみんなも悪いのだ。
 お母さんもお父さんもお姉ちゃんも、わたしにひどい隠し事をしていた。
 口ではあなたも大事な家族だよって嘯きながら、わたしのことを蚊帳の外に置いていた。
 お姉ちゃんが物言わぬ時計にされてしまうなんてこと、自分はまったく知らなかったし。
 もしお姉ちゃんがダメだったなら、次はわたしにその番が回ってくるなんてもちろん寝耳に水だった。
 ひどい。人間のすることじゃないし、これでよく家族がどうだと人に語れたものだ。
 そんな薄情な人たちのことを、こんなにつらい思いをしてまで考え続ける意味があるのだろうか?
 そうだ、間違いに違いない。わたしは間違っていた。もうやめよう。全部投げ出して、今までつらかった分ものんべんだらりと過ごしていこう――

 そういうことを。
 少しでも気を抜くと、どうしても考えてしまう。

「ぅぶ……!」

 防衛反応としての自己嫌悪。
 吐き気がして、咄嗟に口元を押さえた。
 逆流する胃液をどうにか喉の途中で押し止めたが、手が涎で濡れる。

「おいおい、大丈夫かい?」
「っ――」

 もしもレミュリンがひとりだったなら、為す術もなくこの誘惑に屈していたかもしれない。
 けれど今彼女には同行者がいて、皮肉にも彼の存在が少女に立ち続ける理由を与えていた。

「だ、……いじょうぶ。だから、心配しないで……っ」

 赤坂亜切。赫眼の葬儀屋。
 レミュリンの家族を無慈悲に焼き殺した、本来なら憎むべき仇の彼。
 だがレミュリンは彼に守られており、同時に現在進行形で命を握られている。

 彼がなぜ、こうまで自分に献身的に接してくれるのかは正直未だよく分かっていない。
 けれど、この殺人鬼が自分の何かに期待してそうしているのは確かだ。
 つまり、もしその期待を裏切るような真似をすれば自分は即座に彼に殺される。
 つかの間の安全の代償に、十重二十重のバッドエンドに囲まれている――それがレミュリンの自己認識で、事実それで合っていた。

「――あのなぁ。そんなに腫れ物に触るみたいな扱いされるのは流石に不本意なんだけど」

 アギリは肩を竦めて言うが、レミュリンからすればどの口でとしか言いようがなかった。
 人となりを知って短い時間でもわかる。この男は剥き出しの核地雷のようなものだ。
 少しでも判断なり言動なり誤れば、一瞬で起爆して自分を焼き尽くす火に変わる。
 実際、その認識で合っている。〈はじまり〉を共にした狂人達ならば誰もが認める人物評だろう。

「せっかく身を挺して守ってあげてるのに。君、僕のことを何だと思ってるんだい?」
「…………やだ。言わない。わたしも馬鹿じゃないもん」
「いいかどうかは聞いてみてから決めるし、そんな気負うことないよ。ほらぽしょっと言ってご覧」
「言ーいーまーせーんー……!」

 話通じない変態の人殺し――という言葉は胸の中にそっと秘めておくことにした。

「言わぬが花ってか。まあ、それも正しい。
 自分ではみんなが言うほど短気な質じゃないと思ってるんだが、燃やすかどうかの判断が早い自覚はあるからね」

 アギリは、レミュリンを見極めようとしている。
 自分の中の価値観をわずかな時間で致命的に揺るがしたスタール家の落とし子が、果たして本当にその座に値するものか否か。
 そこを見定めるまでは、アギリは損得を抜きにしてレミュリンを守り続けるだろう。
 ただしその工程が終わった時、彼が彼女をどうするかは彼自身にさえ分からない。

「君の賢明に免じて採点状況を開示しよう。安易にこのクソ汚染に流されない健気さは、プラス五点ってところだ」
「……、わかってたんだ」
「当たり前だろ。君が馬鹿じゃないっていうなら、僕はそれ以上に馬鹿じゃないんだよ。
 まったく腹立たしくて仕方ない。どこの屑だか知らないが、僕にこんなゴミを流し込んでくるなんてね」

 アギリもまた、月の汚染を浴びている。
 彼の脳裏にもレミュリンが受けてるのと同じ堕落への誘惑が間断なく押し寄せている。
 レミュリンは抗うだけで精一杯という様子だが、アギリは逆に明らかな憤怒を滲ませ眉間に皺を寄せていた。

「助言するよ。この声の主は、どこまで行っても無責任な屑だ」
「……、……」
「君にも僕にも、この世の誰にだって寄り添うつもりがない。
 世界のすべてを自分の好悪でしか考えられない癖に、一丁前に神を気取ってる落伍者(クズ)だよ。
 つまり、こいつの声に聞く価値は一ミリもないってこと。ただ声がでかいだけの莫迦さ、鼻で笑って聞き流すといい」

 炎/〈妄信〉の狂人にとって進み続けることとは尊厳そのもの。
 祓葉に向かい続けることこそ彼の燃え尽きた生涯が持つ唯一無二の価値であり、それを訳知り顔で捨て去るべき苦痛などと言われれば殺意も募る。
 もしこの声を聴いて殺意以外の感想を抱ける人間が〈はじまり〉の中にいたのなら、アギリは侮蔑も露わに焼き尽くしたろう。
 事実彼はレミュリンの見極めが済み次第、壊れたラジオの仕掛け人を是が非でも焼殺する気でいる。

 けれどレミュリンは、アギリのそんな態度にどこか違和感を覚えていた。
 優しさとは違う。でも彼はどうも、彼なりに自分を慮ってくれているようで。
 すべて焼き尽くす嚇炎とはまた違う、ぶっきらぼうだがそれこそ気を抜くと安心してしまいそうな暖かさ。

(実は結構、面倒見いいタイプなのかな……)

 そう考えてはっとなり、ぶんぶん首を振る。
 忘れるな、彼は恐ろしい殺人鬼なのだ。
 身を委ねても心は許すな。彼にそれをした先に待ち受ける末路はひとつしかない。

「ところで君、そんなぼけっとしてていいのかい」
「え?」
「あのアーチャーは足止めを食ってる。
 蛇野郎は分からないけど、多少は距離を稼げてる筈だ。安心するにはまだ早いけどね」
「……あっ」

 言われて気付き、急いで懐から携帯電話を取り出した。

「なんだ、カマかけのつもりだったんだけどな。やっぱり同盟相手がいるのか」

 面倒臭そうに、或いは鬱陶しそうに言うアギリに意識を割いてる暇はない。
 そうだ、彼らに伝えなければならない。
 蛇杖堂絵里なる人間が、この世のどこにも存在しなかったこと。
 無害そうな女の皮を被って、都市で不気味に蠢く本物の怪物がいたこと。
 それは彼らの身を想ってのことでもあるし、今なお続く袋小路を打破するためにも必要な行動だった。

 歯を食い縛って頭の中の誘惑を無視しながら、素早くテキストメッセージを作成していく。
 作業していると少しだけ堕落の方から遠ざかれる気がしてそこはよかった。
 そうして、遂に藪の中の蛇を暴き立てる告発文が送信される。

 奇しくもその宛先は、蛇の罪業に傷つけられた"遺族達"。
 引力に寄せられた運命が、とうとう根源に近寄り始めた。
 いや。近付いているのではなく、引きずり込まれているのかもしれなかったが。



◇◇



 緊急連絡です。


  Wellbrace-S@xxxxx.ne.jp

  宛先:TakanoK@xxxxx.ne.jp

  エリさんは味方ではありませんでした

  彼女の正体はカムサビエニシ? という名前のとても恐ろしいマスターです

  わたしは今、アギリ・アカサカと一緒に渋谷にいます

  カムサビエニシには気をつけてください。彼はこんな魔術を使います

  ・姿を変える魔術(今はわたしの叔父、ジェームズ・アルトライズ・スタールという男性に化けています)

  ・蛇の怪物に化ける魔術

  ・コユウケッカイ

  なにかあったらまた連絡します



◇◇



「カムサビ……エニシ……?」

 レミュリンから届いた連絡文に記されていたのは、とても信じられないような内容だった。
 蛇杖堂絵里。河二達も対面で話をしたあの女性マスターが、実は得体の知れない怪物だったというのだ。
 その上、事もあろうにレミュリンは現在赤坂亜切と行動を共にしていると来た。
 情報量が多すぎる。河二と、件の文章を共に読んだナシロが圧倒されてしまうのも無理はない。

「待てよ、何を言ってるんだ。赤坂亜切は家族の仇なんじゃなかったのか」
「僕も、確かにそう聞いた筈だが……」
「全体的に内容が突飛すぎるぞ。もしかしてこの文章自体、赤坂が私達を誘き出すために書かせたものってことはないか?」

 ナシロの懸念はもっともだ。
 河二も、まず真っ先にその可能性を考えた。
 だが。

「「いや、それはない(ねえな)」」

 彼とそのサーヴァントが、同じタイミングでかぶりを振る。
 そう、あり得ない。赤坂亜切がレミュリンを脅しているのなら、絶対にこの文面にはならない筈なのだ。

「……どうして言い切れるんだよ。どう考えてもその可能性が一番濃いと思うんだが」
「この世には冗談でも言っちゃならないことがあるんだよ。嬢ちゃんもそこは分かるだろ?」

 エパメイノンダスの言葉に、ナシロは怪訝な顔をして頷く。
 差別発言然り、相手のルーツに関わる部分然り。
 人間の社会には常に無数の地雷が埋まっていて、それを踏み抜くと時に取り返しの付かないことになる。

「断言する。赤坂アギリが俺達の考える通りの人物なら、嘘でもこの文章は書かん」
「待て、話が見えん。もう少し分かりやすくだな……」

 それはナシロも知っていたし、常々気を配っていることだったが。
 そこが何故メールの筆者がレミュリンである証明になるのかがどうもピンと来ない。
 頭を抱えるナシロに、諭すように口を開いたのは河二だ。

「琴峯さん。僕達は楪依里朱に会ったな」
「……ああ。会ったし、話もした。何なら揉めた」
「赤坂亜切は彼女の同類だと聞く。ならやはり、こういう嘘は絶対に吐かないんだよ」
「――! そういうことか……!」

 河二に言われ、ようやく彼女も理解が追いつく。

「あいつらが"この名"をみだりに使うことは絶対にない」
「そうだ。赤坂が僕らの想像する通りの人間なら、だが」

 楪依里朱、そして赤坂亜切。
 〈はじまりの六人〉は主星・神寂祓葉を神の如く崇敬している。
 形は違えど信仰は信仰だ。白黒の魔女も、祓葉の話題になると目に見えて冷静さを損なっていた。
 そんな彼らが神寂の名を騙り、あまつさえ醜悪な蛇の怪物になぞらえるなどある筈がない。
 六人の狂気は恐ろしいものだが、恐ろしいが故に信用できる。
 彼らは決して己が想いを偽らないという負の信頼が、荒唐無稽な告発文に信憑性を与えたのだ。

「しかし、だとすると、"こいつ"は――」
「僕も、同じ考えだ」

 ナシロは、戦慄をさえ抱きながらまじまじと文面を見つめ。
 河二も平時通りの鉄面皮ではあったものの、概ね同じ想いで胸の高鳴りを押し殺す。
 蛇の怪物。自由自在に姿を変え、直接話しても別人であることを一切悟らせない狡猾さ。
 ふたりの頭の中に、一匹の蛇の姿が浮かび上がった。
 かつてある刑事が無数の事件記録を重ね合わせる内に見出したのと同じ、不気味なビジョン。

「ランサー。貴方はこの文章をどう見る」
「断言するには根拠が足りねえが、そうだな……」

 意見を求められたエパメイノンダスが顎先を掻く。
 彼は戦力であると同時に、この同盟に欠かせない頭脳(ブレイン)だ。
 最前線で数多の策謀としのぎを削ってきた彼の視野は、泰平生まれの子ども達とは比にならないほど広い。

「恐らく、エリ――いや、カムサビエニシに襲われたレミュリンちゃんを助けたのは赤坂アギリだ」
「……それは私も考えたが、雪村さんから聞いた人物像といまいち一致しないんだよな」
「狂っちまった野郎の価値観を常識の物差しで測るのは危険だぜ、良くも悪くもな。
 第一このメール、明らかに急いで書いたって感じの文面に見えねえか?
 記述がえらく端的だし、注意喚起にしては説明も足りなすぎる。もし腰を落ち着けて文を打てる状況だったら、もうちょっと詳細に書くだろう」

 ばらばらだったパズルのピースが、会話の中で組み上がっていく。

「レミュリンちゃんは、赤坂アギリと一緒にカムサビエニシから逃亡している。
 逃げる最中でようやくちょっとは余裕が出来たから、とにかく速度重視で文面を作って送ってきた――俺の推理はそんなとこだな」

 理由は想像もつかないが、赤坂亜切はレミュリン・ウェルブレイシス・スタールを『カムサビエニシ』から助けた。
 その上で現在共に逃走中。逃避行の中で見つけたわずかな時間を使い、同盟相手である自分達に警鐘を鳴らしてくれた。
 とすると、今ここで気にするべきなのは葬儀屋・赤坂亜切ではなく。
 星に灼かれた悪鬼にさえ逃げの一手を打たせる、変幻自在の怪物『カムサビエニシ』。

「僕は正直、運命という言葉はあまり信じていないんだが」

 "彼"が蛇杖堂絵里なんて皮を被って近付いてきたことに、少年達は鳥肌を禁じ得ない。
 自分達が安全圏にいるつもりで交渉を交わしていたあの瞬間も、ずっと怪物/殺人犯はそこにいたのだ。
 人の目を欺くだけに飽き足らず、英霊さえ無識な道化に成り下がらせる嘲笑者。

「これに限っては、そうと言う他ないかもしれない」
「……同感だよ。まだ確定したわけじゃないが」

 蘇るのは、雪村鉄志の言葉だった。
 かつてその陰謀に敗れ、すべてを失い。
 針音の旋律に触れて再び立ち上がった男が、親なき子達に伝えた名前。

 ――――〈ニシキヘビ〉。

 泰平の国の裏側で蜷局を巻き、数多の血と涙と、あった筈の未来を貪り続けてきた想像上の怪物。

「高乃、スマホ貸せ。雪村さんに転送しとく」

 ナシロの言う通り、まだそうと決まったわけではない。
 だが彼女も河二も、この時既に確信していた。
 理屈ではない本能、魂とでも呼ぶべき器官がこの結論こそ真実なりと吠えている。

 ――ニシキヘビは実在した。
 ――〈支配の蛇〉は、この街にいる。
 ――運命が、過日のことに追いついたのだ。

「……しっかし、難儀なことになったもんだ」

 呟くエパメイノンダスと、他の面々はまったく同じ感想だった。
 理外の形でフィクサーの暗躍に針をかけられたのはいい。
 が、しかし蛇の怪物が跳梁している場所が悪すぎる。
 何を隠そう、彼らは今まさに渋谷と杉並を繋ぐ区境の前にいるのだ。
 なので当然、気付いている。
 現在の渋谷が、数刻前とはまるで別物の"異界"と化していることに。

「やはり危険か、この先に進むのは」
「んー、そうだな……ただちに死ぬってわけじゃないだろうが、お前らジャリ共にはちと刺激が強い冒険になる。そこは多分間違いねえ」

 この一団の中で、実際に渋谷の土を踏んだのはエパメイノンダスだけである。
 彼がそこで味わったのは、深層心理の底から沸いて出ては囁きかけるウィスパーボイス。
 アレは毒だ。己がそうであることを悟らせず、他者を優しく寝床に導く良薬の皮を被った精神毒。
 彼ほどの英霊ですら多少くらりと来るものがあったのだから、人間であり、しかも喪失の過去を持つ河二達が踏み入るリスクは甚大だろう。

「とはいえ、お前らが行きたがるなら止めねえよ。
 いや、俺にはそれを止める資格がない。
 人間誰しも、一生に一度か二度は、理屈を抜きに博打に出なきゃいけない時があるもんだ」

 もし彼らがそう望むなら、その道筋を守るのは自分の役目だ。
 ますますきな臭くなってきたこの都市がどこへ向かうのかは、正直エパメイノンダスにももう予測が付かない。

 彼は眼前に広がる渋谷から、昨日の日没頃に相見えた幻術遣い(ウートガルザ・ロキ)の魔力反応を強く感じ取っていた。
 しかし不可解。あの道化は確かに反則的な強さを誇っていたが、だとしてもこれほど広い範囲にまで業を及ぼせるものだろうか。
 それに、どうもこういうやり方はアレの手癖とは違う気がしてならない。

 渋谷の異変は時間の経過につれ、急速に版図を拡大させている。
 この杉並が持ち堪えられているのは、既に別な誰かの領土であるから、たまたま進行を多少遅延させられているだけだ。
 渋谷を包んだ"結界"が都市を覆い尽くしたその時、一体何が起こるのか――どう考えてもろくなことにはならない。それだけは確かだった。

 と、そこで。

「ん。そういやどうしたねヤドリバエちゃん、さっきからやけに静かじゃねえか」

 エパメイノンダスは、いつも騒がしいアサシンのサーヴァントがずっと沈黙を守っていることに気が付いた。
 見れば彼女はナシロ達の様子にも興味を示さず、忘我の境地めいた表情で、区境線の先に広がる渋谷の地平を臨んでいる。
 兎にも角にも楽観だけが取り柄の彼女らしからぬ、どこかノスタルジーさえ思わす佇まいだった。

「――え。あれ、わたし今なにしてましたっけ?」
「……? だから、ずっと大人しく黙りこくってたが」
「あ、そうでしたそうでした。
 なんか茶々入れるのも憚られるムードだったので、下手なこと言ってシバかれるくらいなら黙っとこうと思ってたんでした……」

 我に返ったように頭を掻く彼女の姿に、エパメイノンダスは首を傾げる。
 わざわざ指摘するほど大きなものではない。単に、何だからしくないな、と思った程度のものだ。

「えぇと……よくわからないんですけど、なんか……」

 この悪魔/英霊は、こんな顔で笑う少女だったろうか。
 こんなどこか儚げな顔で、遠くを見つめるような娘だったろうか。
 渋谷の方を見据え、否、物理的な距離とはまた違う物差しで彼女にしか見えない"なにか"を見つめて。

「なんか、なつかしいなあ、って――」

 今まさに終わりゆく世界を前に、悪魔(ベルゼブブ)は、顔を綻ばせながらそう言ったのだ。



◇◇



 高乃河二から転送されてきたメールを見て、雪村鉄志は時が止まる錯覚を覚えた。
 姿を変え、蛇に化けるモノ。狡猾で周到な、人間とは呼び難いナニカ。
 鉄志がずっと追いかけてきた容疑者(ホシ)の像と完全に一致する情報が、スマートフォンの無機質な画面には躍っていた。
 その名、カムサビエニシ。都市の極星と同じ名を持つ、正体不明の殺人犯。

「く、くく」

 気付けば鉄志は、周りの目も憚らずに笑っていた。

「そうか、そうか。そう来るか、面白えじゃねえか運命さんよ」

 これが笑わずにいられるものか。
 奇人扱いされようが上等だ、羞恥心など欠片もありはしない。
 思えば長い旅路だった。多くを失い、何度も挫け、時には前に進む意思さえ見失った。
 もしも針音の運命に招かれることがなければ、今も自分は死んだように燻りながら余生を送っていただろう。
 妻の仏壇に線香をあげ、娘の記憶をアルバムのように見返しながら泥の如く眠るばかりの日々。
 無味乾燥に命を使い、色付いていた過日を想いながら腐っていったに違いない。

 だが、今。
 百年の折り返しを目前にし、生死の境を超えたばかりの今。
 妻を亡くして十年が経過した、今この瞬間。

「――――やっと見つけたぞ、蛇野郎」

 遂に雪村鉄志は、藪に潜む怪物の尾を掴んだのだ。

 己が手でその正體を暴きたかったという想いは無論ある。
 彼はどこまでも凡人だ。妻を理不尽に亡くし、たまさか強く生きる道を選択しただけの凡夫。
 されどそれ故に、鉄志は成功のカタチを選ばない。
 顔も知らない少女が見つけてくれた。暴いてくれた。その名を己に、伝えてくれた。
 ならば恥も外聞もなく縋るのみだ。縋って追いかけて、ただし絶対に逃がさない。
 カムサビエニシ。その名を魂に焼き付けて、錆びた瞳に焔を灯す。

「テメェだな。俺の娘を攫ったのは」

 弁解など要らない。
 分かるのだ。
 もしくはこれこそ、真に運命と呼ぶべき天啓なのか。
 理屈を度外視し、その名を見た瞬間に血が沸き肉が舞い踊った。
 こいつを殺せ。藪の中から引きずり出せ。おまえの星はそこにいると、本能が喝采している。

 それに。

「蛇杖堂、絵里……ね。
 やってくれるじゃねえか、上等だよ」

 ――その名が使われていたことが、他の何にも優先される証拠として鉄志を後押しした。

 カムサビエニシは姿を自在に変えられるという。
 ならば確定だ。ニシキヘビは、間違いなく自分のすぐそばにいた人物だ。
 雪村鉄志という一個人を認識し、それが針音都市に招かれていることを知った上で、反吐の出るような悪意をぶつけてきた。

「死んでもテメェを白日の下に引きずり出してやる。逃げられると思うんじゃねえぞ、クソ野郎が」

 その挙措の意図は明白だ。
 嘲っている。どうせここまで辿り着ける筈もないのだからと、安全圏で腹を抱えている。
 だが現実はどうだ。蛇の実在はひとりの少女に暴かれ、藪中の怪物は皆の知るところになった。

 支配者気取りの殺人犯は今、名実ともに"かれら"の標的と堕したのだ。


「ますたー、では……」
「ああ。俺はこれから渋谷に向かう」

 マキナが、不安げな眼差しを向けてくる。
 その視線の意味が蛇との戦いに臆しているわけでないことは鉄志とて承知だ。
 ニシキヘビとの相対という悲願(ゴール)に向け走り出そうとしている己の姿が、彼女にはどこか危ういものに見えたのだろう。

 胸に溜まった空気を、一呼吸でゆっくり吐き出していく。
 そうだ、落ち着け。士気高揚は結構だが短気であってはいけない。
 もしカムサビエニシが自分の追っていた存在と同一ならば、奴は非常に狡猾な存在だ。
 積年の怒りで我を忘れた復讐者など、まさに絶好の手玉であるに違いない。

 だから今必要なのはクールダウン。
 最低限、相棒くらいは安心させられるような姿を意識して演出する。

「心配すんな。俺だって馬鹿じゃないんだ、無策の突撃なんかしねえよ」
「……と、言いますと?」
「幸い、俺は〈葬儀屋〉に顔が割れてる。
 レミュリン・ウェルブレイシス・スタールを連れてる奴と合流し、三陣営の共同体制で蛇野郎を追い詰めるんだ」

 まさかあの焼殺狂と縁を結んだことに感謝する日が来るとは思わなかったが、使えるものはこの際なんでも使おう。
 元刑事の洞察力は流石のもので、鉄志もまたエパメイノンダスと同じ結論に到達していた。
 つまり、レミュリンとアギリはどういうわけか協力し合っている。
 それだけ蛇が脅威なのか、もしくは自分では推測も出来ない深遠な理由か――何にせよ、利用しない手はない。

「高乃達がどう出るかは分からないが、うまく行けばかつてない規模の連合を作れる。
 これなら俺なんぞが命を張らなくたって勝ちの目も見えてくる。だろ?」
「……! はい!」

 マキナの顔が向日葵みたいに明るくなる。
 鉄志はほっと胸を撫で下ろした。たとえ血の繋がりがなくとも、子どもの不安な顔は見たくないものだ。

「おう、良かったな。お前さんの運命は向こうから来てくれたっちゅうわけか」
「まだ確定したわけじゃないが、可能性は高いと思ってる。いろいろ世話になったな――あんた達はどうするんだ?」
「だそうだが、どうするんじゃ」

 真備に話を振られ、希彦は一瞬考えた。
 蛇なる脅威の撃退に力添えし、恩を売りつつ今後のために布陣を整える。
 それも悪くない。が、白み始めた空が彼にそちらを選ばなせなかった。

「僕は神寂さんに会いに行きます。そうしないと、どうも前に進めそうにないのでね」

 具体的な時刻は明示していないが、朝に会うと約束した。
 祓葉は中央区のアパートにもう一度来ると言っていたものの、流石に今からあそこまで戻るのは厳しい。
 労力的な問題ではなく、都市の現状が二の足を踏ませる。

 このわずか一日弱で、聖杯戦争の様相は一気に様変わりした。
 希彦もまた、隣区から伝わってくる得体の知れない気配に気付いている。
 目黒、品川、港……と渋谷を迂回して向かうことも可能ではあるが、移動に時間を食われるのはあまり旨くないだろう。

 それに何より、相手はあの祓葉だ。知れば知るほどいかにとんでもない力と人格の持ち主かが分かる、都市の現人神だ。
 約束のことなどすっかり忘れて、どこぞで遊び呆けている可能性も大いにあると希彦は思っていた。
 これに関しては、慧眼である。彼女はどこまでも馬鹿で、そして勝手な女だから。

「あー、求婚したんだったか……? アドバイスできる義理でもないが、正直"やめとけ"って感想しか出てこないんだが」
「余計なお世話ですよ。ひとりの男として惚れ、お付き合いしてほしい旨を伝えたんです。これだけは途中に投げるわけにはいかない」

 相手の答えが、どちらであったとしても。
 更には自分が、改めて彼女に会って何を思うとしても。
 素通りだけは絶対にあり得ない。そんな情けない真似、男のすることではない。

「そういうわけで、貴方達との同行は此処までです」
「まあ、そこまで言うなら止めねえよ。ただくれぐれも気を付けな」
「……おかしなことを言いますね。これは聖杯戦争、殺し合いなんですよ?」

 鉄志の何気ない言葉に、希彦は呆れたように言う。

「次に会った時、僕は貴方の敵かもしれない。ならむしろ、玉砕して死ぬのを祈るのが道理でしょうに」
「いや、まあ……それはそうなんだが」
「お節介のお礼に、僕からもひとつ助言を。
 妻子の仇に執着するのはいいですけど、そろそろ仇討ちが終わった後のことも考えた方がいいと思いますよ」
「――何?」

 雪村鉄志にとって、これから始まる戦いは人生の天王山だ。
 勝つか負けるか、生きるか死ぬか。
 蛇が斃れずして、鉄志の無念が晴れる機会は決して来ない。

「何、って……。嘘でしょ、本当に考えてなかったんですか?」

 が、蛇が落ちたとしてもそこで鉄志の物語は終わらない。
 悪意の怪物の生き死にに関わらず、生き延びたなら彼の人生は続いていくのだ。
 そして無論、聖杯戦争も。
 願いを叶える万能の願望器を巡る戦いは、何も変わらず継続される。

「聖杯を手に入れれば、雪村さんが奪われたものは全部帰ってくるでしょう」

 であれば当然、可能である。
 復讐を遂げた男が、熾天の頂へと到達し。
 そこにある王冠を取り上げて、すべての願いを叶えることも。

 妻も子も健在で、何ひとつ理不尽に奪われることのなかった異聞(イフ)の空想を拡げることも――許されるだろう。


「……あー、バカが地雷を踏んづけたところ悪いんじゃが」

 気まずい沈黙が横たわる中、口を開いたのは真備だった。
 希彦はと言うと、流石にデリケートな部分を土足で踏み抜いたことに気付いたらしい。
 何を言ったものかとまごまごしていたところだったので、今回ばかりは真備の無遠慮に素直に感謝した。バカ呼ばわりも不問に付せるくらいには。

「渋谷に行くんなら気ィ付けよ。今の彼処はもう、お前さんの知る世界じゃねえ」

 結界術に精通した者ならば、感じ取れないはずがない。
 英霊の真備だけでなく、希彦すら分かっていた。
 鉄志が渋谷に向かうと発言した際にマキナが顔を曇らせたのも、それが理由だ。

 今、あの街は既に常世ではない。
 異星の神が居を構え、法則を塗り替えた異界である。

「こいつは儂の勘だがのう、雪村よ。アレはお前のような奴にはさぞかし極悪に効く筈じゃ」

 これから彼らはそんな場所に向かい、最悪の怪物を相手取らねばならない。
 月の光が降り注ぐ藪の中。運命の終着点として、およそ考えられる限り最悪の決戦場。
 大切なものを奪われた喪失者達は、当然のように心に無数の古傷を抱えていて。
 その痛み、病み、苦しみに――月の女神は必ず寄り添う。

「は……言われるまでもねえよ」

 鉄志は、真備の言葉の意味をすべて理解できたわけではないが。
 それでも笑った。ただし今度のは、自分自身をも誤魔化すための繕いだった。

 希彦の言葉を受け、ほんの一瞬。
 妻がいて、娘がいる、そんな日だまりのような幸福な世界を幻視してしまったから。
 そうまでしてでも誤魔化さないと、自分が自分でなくなってしまいそうだったのだ。
 もしかすると、自分の敵はニシキヘビだけではないのかもしれない。
 受けた言葉を噛み締めながら、鉄志は砕けんばかりに拳を握った。
 決着の時も、彼がなにかを選ぶ時も、共に近い。



◇◇



【月光夢幻神界〈渋谷〉・中央付近 /二日目・早朝】

【アーチャー(スカディ)】
[状態]:疲労(中)、巨人化(一旦収縮中)
[装備]:イチイの大弓、スキー板。
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:狩りを楽しむ。
0:アギリの呼び出しがあるまでは狩りを続ける。
1:向こうのゴタゴタが済んだらランサー(ルー)を再び狙う。逃がさないよ、色男。
2:日中はある程度力を抑え、夜間に本格的な狩りを実行する。
3:マキナはかわいいね。生きて再会できたら、また話そうじゃないか。
4:ランサー(アンタレス)を獲る。一皮剥けたようだしね、食べ頃だろ。
5:キャスター(シッティング・ブル)は一度見逃す。ただし次は必ず狩る。
6:面白いことをやるヤツがいるもんだ。懐かしい匂いだが、同郷のナニカかな?
[備考]
※ランサー(ギルタブリル/天蠍アンタレス)の宝具を受けました。
 強引に取り除きましたが、どの程度効いたかと彼女の真名に気付いたかどうかはおまかせします。


【ランサー(ルー・マク・エスリン)】
[状態]:疲労(中)、魔力消費(中)
[装備]:常勝の四秘宝・槍、ゲイ・アッサル、アラドヴァル
[道具]:緑のマント、ヒーロー風スーツ
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:英雄として、彼女の傍に立つ。
0:レミュリンのもとに戻り、彼女の敵を打ち払う。
1:レミュリンをヒーローとして支える。共に戦う道を進む。
2:神寂祓葉についてはいずれだな。今は考えても仕方ねえ。
3:今更だが、馬鹿じゃねえのか今回の聖杯戦争?
4:渋谷の"神"は非常に危険。レミュリンの問題を片付けたら、早急にどうにかする必要がある。
[備考]
予選期間の一ヵ月の間に、3組の主従と交戦し、いずれも傷ひとつ負わずに圧勝し撃退しています。
レミュリンは交戦があった事実そのものを知らず、気づいていません。
ライダー(ハリー・フーディーニ)から、その3組がいずれも脱落したことを知らされました。
→上記の情報はレミュリンに共有されました。


【月光夢幻神界〈渋谷〉・路上/二日目・早朝】

【赤坂亜切】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、眼球にダメージ、左手に肉腫跡、右耳欠損、妄信
[令呪]:残り三画
[装備]:『嚇炎の魔眼』、M360J「SAKURA」(残弾3発)
[道具]:魔眼殺しの眼鏡(模造品)
[所持金]:潤沢。殺し屋として働いた報酬がほぼ手つかずで残っている。
[思考・状況]
基本方針:優勝する。お姉(妹)ちゃんを手に入れる。
0:レミュリン・ウェルブレイシス・スタールを見極める。そのためにも、まずは蛇を撒く。
1:適当に参加者を間引きながらお姉(妹)ちゃんを探す。
2:日中はある程度力を抑え、夜間に本格的な狩りを実行する。
3:他の〈はじまりの六人〉を警戒しつつ、情報を集める。
4:神寂縁。〈蛇〉。雪村のオッサン相手に使えそうなネタだが、さて。
5:〈恒星の資格者〉は実在する。忌まわしいことだが。
6:脱出王は次に会ったら必ず殺す。希彦に情報を流してやるか考え中
7:じゃあな、蛇杖堂寂句。あんたの英霊もすぐそっちに送ってやるよ。
8:渋谷をおかしくした元凶への激しい殺意。部外者が知った顔で何を囁いてやがる。焼き殺すぞ。
[備考]
※彼の所持する魔眼殺しの眼鏡は質の低い模造品であり、力を抑えるに十全な代物ではありません。
※香篤井希彦の連絡先を入手しました。

※ホムンクルス36号の見立てによると、自身の魂を燃やす彼の炎は無限ではなく、終わりが見えているようです。
 具体的にどの程度の猶予があるかは後続の書き手にお任せします。
※一回目の聖杯戦争で組んでいたランサーは、鬼若(いわゆる武蔵坊弁慶)でした。


【レミュリン・ウェルブレイシス・スタール】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(小)、吐き気、精神的動揺(大)、決意
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:6万円程度(5月分の生活費)
[思考・状況]
基本方針:――進む。わたしの知りたい、答えのもとへ。
0:頭が痛い。諦めたい。でも、諦めてはいけない。
1:胸を張ってランサーの隣に立てる、魔術師になりたい。
2:アギリ・アカサカと話す。そうでなくちゃ、わたしはあの日から抜け出せない。
3:コージさん達と合流できればいいんだけど……。
4:さっきみた、アレは……一体、なに……?
[備考]
※自分の両親と姉の仇が赤坂亜切であること、彼がマスターとして聖杯戦争に参加していることを知りました。
※ルーン魔術の加護により物理・魔術攻撃への耐久力が上がっています。
またルーンを介することで指先から魔力を弾丸として放てますが、威力はそれほど高くないです。
※炎を操る術『赤紫燈(インボルク)』を体得しました。規模や応用の詳細、またどの程度制御できるのかは後のリレーにお任せします。
※アギリ以外の〈はじまりの六人〉に関する情報をイリスから与えられました。
※〈はじまりの聖杯戦争〉についての考察を高乃河二から聞きました。
※アギリがサーヴァントとして神霊スカディを従えているという情報を得ました。
※高乃河二、琴峯ナシロの連絡先を得ました。

※右腕にスタール家の魔術刻印のごく一部が継承されています(火傷痕のような文様)。
※刻印を通して姉の記憶の一部を観ています。

※アルロニカ家の魔術刻印と共鳴することで、世界の始点と終点の一部を観測しました。

※高乃河二に現況についての緊急連絡を送りました。
 内容は彼伝てに雪村鉄志にも転送されています。


【杉並区・区境付近/二日目・早朝】

【高乃河二】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(小)
[令呪]:残り三画
[装備]:『胎息木腕』
[道具]:なし
[所持金]:それなり(故郷からの仕送りという形でそれなりの軍資金がある)
[思考・状況]
基本方針:父の仇を探す。
0:蛇の怪物――ニシキヘビ。
1:どうするかを決める。時間は、それほどない。
2:同盟を利用し、状況の変化に介入する。
3:琴峯さんは善い人だ。善い報いがあって欲しいと思う。
4:ニシキヘビなる存在に強い関心。もしもそれが、我が父の仇ならば――
5:『ことちゃん』とは話ができる可能性がある。が、楪依里朱とライダー(カスター)のマスターには依然として警戒。
[備考]
※ロールとして『山梨からやってきた転校生』を与えられており、少なくとも琴峯ナシロとは同級生のようです。
※雪村鉄志から『赤坂亜切』、『蛇杖堂寂句』、『ホムンクルス36号』、『ノクト・サムスタンプ』並びに<一回目>に関する情報と推論を共有されています。
※レミュリンから『イリス』に関する情報を得ました。
※レミュリンと“蛇杖堂絵里”の連絡先を得ました。
※レミュリンによる連絡を受け、蛇の本名を知りました。

【ランサー(エパメイノンダス)】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージや傷、多数の銃創
[装備]:槍と盾
[道具]:革ジャン
[所持金]:なし(彼が好んだピタゴラス教団の教義では財産を私有せず共有する)
[思考・状況]
基本方針:マスターを導く。
0:さて、どうしたもんかね。
1:同盟を利用し、状況の変化に介入する。
2:〈蝗害〉とキャスター(ウートガルザ・ロキ)に最大級の警戒。キャスター(吉備真備)については、今度は直接会ってみたい。
3:琴峯ナシロは中々度胸があって面白い。気に入った。
4:カドモスと会ってみたいなぁ!
[備考]
※カドモスの存在を確信しました。杉並のテーバイ化にも気付いているようです。

【琴峯ナシロ】
[状態]:疲労(中)、精神疲労(中)、魔力消費(小)、複数箇所に切り傷
[令呪]:残り二画
[装備]:『杖』(3本)、『杖(信号弾)』(1本)
[道具]:修道服、ロザリオ
[所持金]:あまり余裕はない
[思考・状況]
基本方針:教会と信者と自分を守る。
0:本当にいたのか、そんなヤツが……。
1:信者たちを、無辜の民を守る。そのために戦う。
2:楪及び〈蝗害〉に対して、もう一度話をする必要がある。
3:ダヴィドフ神父が危ない。
4:ニシキヘビ……。そんなモノが、本当にいるのか……?
5:アサシン……?
6:身の振り方、か。……確かに、考えるべきなのかもしれないな。
[備考]
※少なくとも高乃河二とは同級生のようです。
※琴峯教会は現在、白鷺教会から派遣されたシスターに代理を任せています。
※雪村鉄志から『赤坂亜切』、『蛇杖堂寂句』、『ホムンクルス36号』、『ノクト・サムスタンプ』並びに<一回目>に関する情報と推論を共有されています。
※ナシロの両親は聖堂教会の代行者です。雪村鉄志との会話によってそれを知りました。
※レミュリンから『イリス』に関する情報を得ました。
※レミュリンと“蛇杖堂絵里”の連絡先を得ました。
※ナシロの投影魔術は一般的なものと性質が異なるようです。
 黒鍵を原型とし、解析で読み取った属性をそこに混ぜ込むことができます。まだ先があるかもしれませんが、詳細は後にお任せします。
※レミュリンによる連絡を受け、蛇の本名を知りました。

【アサシン(ベルゼブブ/Tachinidae)】
[状態]:疲労(小)、脇腹に刀傷、各所に弾丸の擦り傷、ノスタルジー
[装備]:眷属(一体だけ)
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:聖杯を手に入れ本物の蝿王様になる!
0:なんか、あっちは、なつかしい――。
1:ナシロさんが聖杯戦争にちょっと積極的になってくれて割とうれしい。
2:あんなチビっこ神霊には負けませんけど!眷属を手に入れた今の私にとってもはや相手にもなりませんけど!!
3:ウワーッ!!! せっかく作った眷属がほぼ死んだ!!!!!
4:ナシロさん、もっと頼ってくれていいんですよ。
5:守りたいもの……かぁ。
[備考]
※渋谷区の公園に残された飛蝗の死骸にスキル(産卵行動)及び宝具(Lord of the Flies)を行使しました。
 少数ですが眷属を作り出すことに成功しています。 
※代々木公園での戦闘で眷属はほぼ全滅しました。今残っているのは離脱用に残しておいた一体だけです。
※“蠅の王”の力の片鱗を引き出しました。どの程度操れるのか、今後どのような影響を齎すのかは不明です。
 →渋谷の変貌を感じ取り、説明できない懐かしさを抱いています。


【世田谷区・ビジネスホテル(廃墟)/二日目・早朝】

【雪村鉄志】
[状態]:疲労(小)、覚悟、高揚と動揺
[令呪]:残り二画
[装備]:『杖』
[道具]:探偵として必要な各種小道具、ノートPC
[所持金]:社会人として考えるとあまり多くはない。良い服を買って更に減った。
[思考・状況]
基本方針:ニシキヘビを追い詰める。
0:渋谷に向かい、レミュリン達と合流して蛇を討つ。
1:アーチャー(天津甕星)は、ニシキヘビについて知っている……?
2:今後はひとまず単独行動。ニシキヘビの調査と、状況への介入で聖杯戦争を進める。
3:同盟を利用し、状況の変化に介入する。
4:〈一回目〉の参加者とこの世界の成り立ちを調査する。
5:マキナとの連携を強化する。
6:高乃河二と琴峯ナシロの〈事件〉についても、余裕があれば調べておく。
7:神寂祓葉についても静観はできない。調べておくべきだろうな。
8:復讐を終えた後のこと――、か。
[備考]
※赤坂亜切から、〈はじまりの六人〉の特に『蛇杖堂寂句』、『ホムンクルス36号』、『ノクト・サムスタンプ』の情報を重点的に得ています。
※高乃河二達から追加連絡を受け取りました。それ経由で、神寂祓葉の情報も受け取っています。
※アーチャー(天津甕星)の真名を知りました。
※高乃河二経由でレミュリンのメールを読み、蛇の本名を知りました。

【アルターエゴ(デウス・エクス・マキナ)】
[状態]:疲労(小)、不安
[装備]:スキルにより変動
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:マスターと共に聖杯戦争を戦う。
0:マスター、あなたは――。
1:マスターとの連携を強化する。
2:目指す神の在り方について、スカディに返すべき答えを考える。
3:信仰というものの在り方について、琴峯ナシロを観察して学習する。
4:おとうさま……
5:必要なことは実戦で学び、経験を積む。……あい・こぴー。
[備考]
※紺色のワンピース(長袖)と諸々の私服を買ってもらいました。わーい。

【香篤井希彦】
[状態]:魔力消費(小)、〈恋慕〉、だいぶ落ち着いてきた
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:式神、符、など戦闘可能な一通りの備え
[所持金]:現金で数十万円。潤沢。
[思考・状況]
基本方針:神寂祓葉の選択を待って、それ次第で自分の優勝or神寂祓葉の優勝を目指す。
0:神寂さんに会いに行く。そうしなければ、僕は前に進めない。
1:僕は僕だ。僕は、星にはならない。
2:赤坂亜切の言う通り、〈脱出王〉を捜す。
3:……少し格好は付かないけれど、もう一度神寂祓葉と会いたい。
4:神寂祓葉の返答を待つ。返答を聞くまでは死ねない。
5:――これが、聖杯戦争……?
6:〈ニシキヘビ〉なるマスターが本当に存在するのなら脅威。
[備考]
二日目の朝、神寂祓葉と再び会う約束をしました。

【キャスター(吉備真備)】
[状態]:健康
[装備]:
[道具]:『真・刃辛内伝金烏玉兎集』
[所持金]:希彦に任せている。必要だったらお使いに出すか金をせびるのでOK。
[思考・状況]
基本方針:知識を蓄えつつ、優勝目指してのらりくらり。
0:丁と出るか半と出るか。こればかりは、運否天賦ってやつじゃの。
1:どう身を振るか考え中。希彦の約束もあるからのう。
2:希彦については思うところあり。ただ、何をやるにも時期ってもんがあらぁな。
3:と、なると……とりあえずは明日の朝まで、何としても生き延びんとな。
4:かーっ化け物揃いで嫌になるわ。二度と会いたくないわあんな連中。儂の知らんところで野垂れ死んでくれ。
5:カドモスの陣地は対黒幕用の拠点として有用。王様の懐に期待するしかないのう。
6:〈ニシキヘビ〉なる存在への興味。ともすれば非道い難物が出てきそうじゃ、楽しみ楽しみ。
[備考]
※〈恒星の資格者〉とは、冠位英霊の代替品として招かれた存在なのではないかという仮説を立てました。



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最終更新:2026年01月20日 00:55