◆◇◆◇


『薊美(アザミ)。僕の大切な娘』
『君は、素晴らしい才能に恵まれているんだ』
『僕だけじゃない。皆だって信じている』
『君なら御姫様にだって、王子様にだってなれる』
『その素質を輝かせる道を歩むべきだと、僕は願っている』




 在りし日の、父の言葉。
 映画や演劇。物語を愛する父。
 裕福な家庭の、優しい父の思い出。
 私を愛し、私の未来を望んでくれた。
 私はとても綺麗で、眩い才能に溢れている。
 そう信じてくれた父の微笑みが、ずっと心に焼き付いている。

 幼い頃から、私は御伽噺が好きだった。
 王子様と、お姫様。ロマンチックな夢物語を愛していた。
 あんなふうになりたいと、憧れていた。

『うん。わたし、がんばるね』

 あの日、私は喜んで頷いた。
 “お父さん”に褒められたから、自分を信じてみた。
 ほんの些細な、何気ない口約束だったけれど。
 あの瞬間、私の生きる道は決まった。
 父の期待に、皆の期待に、応えることを選んだ。
 いつしかそれは、私が“ここ”にいる意味になっていた。

 才能があったから。
 美人だったらしいから。
 本当にそれだけのことだった。
 だから――なんにだってなれた。

 そうすることが出来たから、そうした。
 私はすごく整った顔をしているらしくて。
 私は何かを演じるのが誰よりも上手くて。
 私が振る舞えば、みんなが喜んでくれる。

 私は、望むがままに歩み続けた。
 望まれたままに、踊り場で舞い続けた。
 舞台の上での芸術者として、歩み続けた。
 ボーイッシュに切り揃えた黒いショートヘアを靡かせて。
 誰よりも端正な顔で、静かに微笑む。

 あの日から、私はもう“普通の女の子”じゃない。
 世界でいちばんの、御姫様(おうじさま)。




『薊美せんぱい!』
『伊原先輩!』
『薊美さん!』
『アザミさんっ』
『先輩、ほんとに格好良い』
『舞台に立ってる時も』
『普段の振る舞いすらも』
『学園の王子さま』
『可憐な王子さま』
『一番の王子さま』

『あの人が首席の生徒だって』
『薊美先輩、いつも綺麗』
『あれが伊原 薊美さん?』
『いつ見ても美人すぎるよね』
『先輩、大好きです』
『いつも応援してます!』
『今日も頑張ってください!』
『薊美さん、私達と同じ学生には思えない』
『とっくに舞台女優って感じがする』
『才色兼備って、ああいうことだよね』

『容姿も演技力もずば抜けてる』
『あちこちの劇団からスカウトされてるって……』
『スターの卵って感じだよね』
『綺麗だなぁ』
『かっこいい』
『笑うと可愛い』
『素敵だよね』
『見惚れちゃいそう』

『薊美先輩』
『薊美さん』
『せんぱい』
『伊原先輩』
『あざみ先輩』
『せんぱい!』
『薊美先輩』
『薊美先輩』
『薊美先輩』
『アザミさん』
『アザミさん』
『アザミさん』
『アザミさん』
『アザミさん』

『もうやだ』

『追いつけないよ』
伊原薊美さんは』
『あんなにも遠い』
『ねえ、なんで?』




「演劇の道を歩んだ理由?」
「私は、小さい頃にね――」
「“お父さん”に勧められたから」
「ただ、喜んでほしかった」
「この道を歩めて、私は幸せだよ」




 あの日も遠い思い出。
 気がつけば、私は18歳。

 私を持て囃す声に包まれていた。
 その彼方に、嘆き苦しむ声があった。
 私という存在を羨み、妬み、憎む、怨嗟の声だった。

 演劇系の由緒正しき女学園。
 数々の舞台女優を輩出してきた名門校。
 私は、その首席に立っていた。

 舞台女優の卵。未来のスター。
 生まれながらの主演女優。
 歴代随一の才覚の持ち主。
 才色兼備の王子様(おひめさま)。
 私は、皆から仰ぎ見られていた。

 かつて父が望んだように歩み続けて、成功を続けた。
 思うがままに、自由奔放に。
 そう振る舞うだけで、たちまち私は駆け上がっていく。
 称賛の声を浴びて、誰からも認められる。
 皆が私を褒めて、私を愛してくれる。

 私に敵はいなかった。
 敵なんて、どこにもいなかった。
 だって、敵にすらならなかったから。

 “伊原 薊美には及ばない”。
 “伊原 薊美には負ける”。
 “伊原 薊美に比べれば落ちる”。
 “伊原 薊美には届いていない”。
 “伊原 薊美ほどの華がない”。
 “伊原 薊美よりは――”。

 そうして敗けて、何人も折れていったらしい。
 思うところは、特になかった。
 勝手に現れて、足元に転がってきただけだから。
 だから私は、そっと潰していった。

 たわわに実った、林檎の果実。
 足元に転がる、赤い“いのち”。
 無数に横たわる、才能という輝き。
 ひとつひとつ、くしゃりと躙って。
 微笑みを湛えて、舞台へ向かう。
 靴の裏には、真っ赤な痕がへばりつく。

 気にも留めない。
 私は、望まれたから。
 “お父さん”が望んだスターだから。
 “お父さん”に愛された子供だから。
 望むがままに、踊っていく。

 皆が褒めてくれれば、私はなんにだってなれる。
 だから、恨みも妬みもどうだっていい。
 主演は――“麗しき王子”は、私だけだから。

 栄光への行進。勝利への凱歌。
 目映い御伽噺への道のり。
 私は、私を輝かせながら進み続ける。
 愛おしい暖かさを、胸に抱きながら。

 あの日の“お姫様”は、いまや“女王様”。
 ひどく傲慢なのに、微笑みを絶やさない。


◆◇◆◇


『演目』

 私はスター。

『“騎兵隊の行進”』

 私は王子さま。

『どうか、最後まで』

 私は、無慈悲な女王さま。

『ご覧あれ』

 踏み潰してあげる。


◆◇◆◇


「コーヒーをどうぞ、我が令嬢(マスター)!!」
「うん。ありがとう」
「はっはっは!!私が丹精を込めて淹れた一杯さ!!どうかご賞味あれ!!」

 ――私の従者(サーヴァント)は、中々に厚かましい。
 いつもよく笑って、声が大きくて、得意げな顔をしている。
 思わず苦笑いをしたくなってしまう。
 けれど紳士的で、妙に憎めないところがある。

 高級マンションの一室。リビングの椅子に腰掛けていた私。
 大仰な従者によって、受皿と共にコーヒーカップをテーブルの上に差し出される。
 私はそれを手に取って、こくりと黒い液体を口に軽く注ぐ。
 程よい苦さとコクが広がる。心地よい暖かさが、味覚を刺激する。
 確かに美味しい。自慢は伊達ではないらしい。

 いつの日か、父もコーヒーを煎れてくれたことがあった。
 この従者が淹れたものに比べれば、不器用な味だったけれど。
 それでも父の優しさが、あの温もりからは感じられた。
 そのことを思い出して。私の口元には仄かな微笑みが溢れた。

「やはり喜ばしい限りだ!!私を呼び寄せたのが、君のような麗しくも聡明な淑女だったのだから!!
 “黄色人種(バーバリアン)”に仕える日が来るとは思ってもみなかったが――君は私が仕えるに足る女性だ!!」
「……褒められていると捉えていいんだよね?」
「勿論とも!!私は貴女を称賛しているのだよ!!」

 相変わらず私の従者は、豪放磊落と言うべきか、何というか。
 時おりデリカシーのない一言も零すけど、悪い人ではない。
 彼を召喚してから間も無いけれど。その人となりは、段々と掴めてきた。

「いやはや――それにしても"聖杯戦争”か!!
 古今東西の英傑が覇を競い合い、奇跡を追い求める!!
 兼ねてより私も興味を持っていたが、君と出会えて実に幸先が良いものだ!!」
「私も、貴方みたいな親切な方がサーヴァントで良かったです」
「はっはっは!!そうでしょう、そうでしょう!!」

 良くも悪くも、彼は前向きということだ。
 彼は私のすぐ傍で、さっきからずっと胸を張っている。
 そんな彼を、目を細めるようにして見つめる。

「……図々しいって言われたことはない?」
「ふはははは!!上官や政治屋からもよく言われたよ!!」
「貴方みたいに生きていけたら、きっと人生は楽しそうだね」
「私の前向きさは皆様に見習っていただきたい程だ!!」

 整えられた髭とカールの掛かった髪。
 装飾や刺繍で彩られた、青い騎兵隊服。
 鍔広のハットを被り、首には赤いスカーフを巻いている。
 30代ほどに見える白人の男性である。
 その表情からは、不敵な笑みを絶やさない。

「しかし、安心するといい!!
 このように愉快な男だが、私とて一介の英雄!!
 君のことは全力で護り抜くと誓いましょう!!」

 ライダーのサーヴァント。
 真名――ジョージ・アームストロング・カスター
 アメリカの西部開拓時代、第7騎兵連隊を率いた軍人。
 私の従者は、出会った時にそのように名乗った。

「貴方のことは期待している。父が見ていた古い映画でも、貴方は大活躍だったから」
「それは素晴らしい!!後世においても私の名は語り継がれていることは知っていた!!
 しかし令嬢(マスター)の父君にも愛されていたとは!!実に光栄の極みだ!!」

 その名前は、父から聞いたことがあった。
 父は往年の映画をよく見ていたし、西部劇も愛好していた。
 その中で幾度となく題材に取り上げられていたのが、荒野を駆け抜ける騎兵隊。
 未開のフロンティアを切り開き、インディアンと激しく戦うヒーロー。

 そんな騎兵隊において、実在する第7騎兵連隊の隊長として有名だった存在。
 数々の古典的作品において英雄として扱われていた軍人。
 それが“カスター将軍”だった。父は度々その手の映画を見ていた。
 とはいえ――今となっては物議を醸す存在、だそうだ。

 私の目の前には、まさにその“本人”が佇んでいる。
 白黒のフィルム。粗い映像の中で、馬に乗って荒野を掛ける騎兵。
 銀幕の中で朧げに見つめていた“英傑”が、眼前に存在している。
 そのことを受け止めて、私は物思いにふける。

 私は――伊原 鮮美は、聖杯戦争へと招かれた。
 参加者は、古びた懐中時計に導かれた者達。
 古今東西の英霊を従えた魔術師達が覇を競い、殺し合う。
 勝ち残った主従は、あらゆる願いを叶える“奇跡の願望器”を掴み取る。

 私は魔術には何の縁もなくて、そんなものが存在することも知らなかった。
 懐中時計も、父の知り合いだった骨董屋から偶々譲り受けた程度のもので。
 それが奇跡を巡る戦いへのチケットだったことなど、知りもしなかった。

 偶然巻き込まれて、訳も分からず知識を与えられて。
 この作られた箱庭の中に、従者と共に放り込まれている。
 そのことへの困惑や動揺が無かったといえば、嘘になる。
 それこそ、まるで演劇か何かで見たお伽話のような。
 そんな異常な事態に、予期せずして足を踏み込んでいる。
 聖杯を巡る闘争に、私は導かれてしまった。

 ――奇跡。あらゆる願いを叶える力。
 最後まで勝ち残れば、それが手に入る。
 万物の祈りに、想いに、その器は応えてくれる。
 けれど私に、聖杯へ託す願望などない。
 わざわざ奇跡に縋ってまで、祈りたいことなどない。

「して――我が令嬢(マスター)よ!!」

 だって、私は。

「貴方には……」

 私は。

「願いはありますかな?」

 そんなものがなくても。
 叶えられるから。

 だから、ライダーからの問いかけに。
 私は、ぴくりとも感情を動かさなかった。
 そして、迷うことなく。
 私は、こう答えることにした。

「無いかな」

 そう、何もない。
 奇跡に託すことなど、何もない。
 けれど。だけれども――。

 ぶちり。ぶちり。ぶちり。
 頭の中で、色彩が蘇る。
 真っ赤な色が、足元に広がる。
 潰れた果実が、床を紅く染める。
 靴の裏を、べっとりと汚す。
 そんなものを、気に留めず。
 私は、歩み続ける。

「でも」

 まだ、止まる訳にはいかない。
 この世界に招かれたマスターは、従者を失うことで消滅するらしい。
 つまり、敗北者に、生きて帰る資格は与えられない。
 それは、私の望む道の終わりということであり。

「勝ち残りたい」

 そんな結末を、受け入れることはできなかった。

「だって――」

 なぜなら、私は。

「私は、“望まれている”から」

 “王子さま”だから。

「私も、それを“望んでいる”」

 “女王さま”だから。

「私の道は、輝きの先にある」

 踏み越えて、踏み越えて、その果て。
 私の望む結末は、そこにある。
 ――魔術師も、奇跡の願望器も。
 私にとっては、“足元に転がる果実”なのだ。
 邪魔だから、擦り潰していくしかない。

 そんな私の答えを聞いて、ライダーは神妙な顔を一瞬浮かべて。
 それからニヤリと、また不敵な笑みを作った。

「――それでいい。私も、勝つことを望んでいるのだから」

 彼の眼差しは、私を確かに認めていた。
 期待通りの存在。見込んだ通りの淑女。
 そう言わんばかりの面持ちで、私の答えを聞き届けた。


「勝利の彼方にある栄誉。やはり君と私は同じなのだ」


 彼は、私を“聡明な女性”と呼んだ。
 彼は、私を“仕えるに足る女性”と云った。
 彼を召喚して間もない時に、やりとりを交わして。
 私の望みと、私の在り方を、知ったから。
 だからカスター将軍は、私への協力を快諾したのだ。


◆◇◆◇


「“誰かに望まれた姿”に己の野心を見出し、そのために何かを蹂躙する者」

「我が令嬢(マスター)よ――君は私の同胞と呼べるだろう」


◆◇◆◇


 何時の日にか、夢を見た。
 “彼”が体験した、生前の光景を。

 凍えるような寒空の下。
 枯れた木々が立ち並ぶ川畔。
 平野に“帆布の住居(ティーピー)”が寄り合い。
 傍では冷え切った大河が静かに流れる。
 一面は、初冬の白い雪に覆われて。
 夜明けの前は、淡々と静まり返っていた。

 そこから、遠く離れた地点――木々の狭間にて、無数の騎兵が佇む。
 偵察兵の報告を聞き、彼らは“野営地”の方角へと視線を向ける。

 憤りを込めて。忌々しげに。憎たらしげに。決意と共に。
 各々の表情は、それぞれ異なる。
 されど、強い“敵意”だけは同じだった。
 数多の眼差しが、視線の彼方にある“敵勢の集う地”を濁った瞳で見据える。

 逞しい軍馬に跨り、青い兵隊服を纏った男達。
 彼らの姿は、獲物を狙うコヨーテの群れのようだった。

 敵はインディアン。アメリカの先住民族。
 見据えるものは、先住民が集う野営地。
 彼らはこれより、殲滅のために進撃する。

 ――“女子供には銃を使うな!”

 彼らの先頭に立つ騎兵隊長が、高らかに口を開いた。
 切り揃えた髭と、カールの掛かった髪。
 鍔広のハットに、刺繍と装飾に彩られた隊長服。
 その顔には、自信を湛えた笑みが張り付いている。

 ――“女子供など、武器を使うまでもない”
 ――“馬で踏み潰すのだ。林檎の果実のように”
 ――“弾は大事だからな。節約せねば”

 敵意に凝り固まった兵士達へと振り返り。
 その男、“隊長”は何てこともなしに語る。
 いつものように胸を張り、堂々としながら。

 ――“ふむ。諸君ら、随分と堅苦しい顔をしているな?”

 そんな姿に、兵士達は面食らったような表情を浮かべる。
 人道を踏み外すような指示に動揺したのか。――きっと、違う。
 インディアンを徹底的に叩くことに、今更彼らが慄く訳が無い。

 この戦争の先鋒に立つ隊長が、その顔に何の怒りも憎しみも浮かべていなかったこと。
 それどころか、インディアンに対する侮蔑の態度すら伺えない。
 ただ合理的な判断で、いつものように、彼は“そう命じていた”。
 そのことに、兵士達は驚いていたのだ。

 ――“君たちの怒りと憎しみは尤もだ!”
 ――“無辜の開拓民に対して先住民どもが行った所業を思えば、私も胸が痛む”
 ――“しかし。だからこそ、堂々と振る舞うのだ!”

 隊長は、尚も変わらず笑みを浮かべる。
 慌てることはない。焦る必要もない。
 大丈夫だ。お前達には私が着いている。
 そう伝えるかのように、彼は自信に満ちた姿を崩さない。

 ――“我々は神々の使徒だ。明白なる運命を果たさんとしているのだ!”
 ――“我々は、正しき大義のために此処へ来たのだ!!”
 ――“憎しみではない!!怒りではない!!正義こそが我々を突き動かす!!”
 ――“胸を張れ!!誇りを抱け!!私達は誉れ高き第7騎兵隊なのだから!!”


 “英雄”は、高らかに謳う。
 “英雄”は、其処に佇む。
 そんな男の姿に、兵士達は目を引かれる。
 一人の男の堂々たる出で立ちの前に、兵士達はひとつになる。
 熱の荒波を指揮し、男は高らかに拳を掲げる。

 ――“さあ皆、存分にやるぞ!!”

 幾つにも重なる、蹄の音。

 ――“星条旗を打ち立てよう!!”

 幾つにも重なる、兵士の雄叫び。

 ――“勝利の凱歌を奏でよう!!”

 熱を灯す、“将軍”の鼓舞。

 ――“決して忘れる事なかれ!!”

 まるで、歌劇のように。

 ――“諸君らには私がいるぞ!!”

 まるで、喝采のように。

 ――“カスター将軍がいるぞ!!”

 騎兵の軍勢を、進撃へと導く。
 誉れ高き青色が、敵を無慈悲に踏み潰しに向かう。
 犠牲となるのは、数多の先住民たち。
 戦士も、女子供も、大義の前に等しく嬲り殺しにされる。

 それは、“英雄”の進攻だった。
 それは、“英雄”の蹂躙だった。
 誰よりも輝き、誰よりも猛り狂う。

 彼は、“己の望む姿”を振る舞う。
 彼は、“誰かが望む姿”を振る舞う。
 即ち、“輝かしい英雄”としての在り方。

 その栄香の中で、幾つもの果実を踏み躙っていく。
 赤い果肉で靴底を汚しながら、彼は笑い続ける。

 ああ――私みたいだ、なんて。
 そんなことを、ふいに思ってしまった。

 勝つためには、輝き続けて。
 そして、全てを焼き払うしかない。
 きっと、それだけが真実なのだろう。

 ならば私も、変わる必要はない。
 これまでも、これからも、そう在ろう。
 私はいつだって、人の上に立つ女王様(おうじさま)だから。

 果実を潰して、潰して、潰した先。
 その果てに、私たちの栄光はある。
 誰にも邪魔なんかさせない。
 魔術も、奇跡も、関係ない。
 私の行く先にあるのは、星の輝きだけ。




「“先住民族(インディアン)”は、哀れだったさ」

「大自然の神秘に生きていた筈の彼らは、文明という身勝手な怪物に飲まれてしまったのだ」

「自らの信仰と文化を奪われ、挙げ句踏み躙られた彼らには、我々を憎む権利があるだろう」

「されど、私は星条旗の使徒なのだ」

「神の教えに従い、合衆国の使命に従い、私自身の野心に従う者」

「それが“カスター将軍”である」

「故に私は、こう伝えねばならなかった」

「“選ぶべし。降伏か、死か”」


◆◇◆◇


【クラス】
ライダー

【真名】
ジョージ・アームストロング・カスター@アメリカ西部開拓時代

【属性】
秩序・中庸

【パラメーター】
筋力:C 耐久:D 敏捷:C 魔力:E 幸運:C+ 宝具:D+

【クラススキル】
対魔力:E
魔術に対する守り。
無効化は出来ず、ダメージ数値を多少削減する。

騎乗:C
騎兵隊の軍人であり、卓越した乗馬の技能を持つ。
その他にもスキルの恩恵により、現代の乗り物なら一通り乗りこなすことが出来る。

【保有スキル】
単独行動:B
マスターからの魔力供給を断っても暫くは自立できる能力。
Bランクならばマスターを失っても2日程度は現界可能。
開拓地への遠征は騎兵隊には付きものである。

猛進の騎兵隊:C+
勇猛果敢なる騎兵としての逸話に基づく複合スキル。
同ランクの「勇猛」「戦闘続行」と同等の効果を持つ。
また馬への騎乗時には自身と使い魔である騎兵の突進力が大幅に向上し、敵の攻撃や防御を打ち破りやすくなる。
多数の騎兵達と共に突撃を行うことで、低ランクの攻撃宝具にも匹敵する貫通力を発揮する。

ラストスタンド:B+
勇敢で向こう見ず、そして悪運が強い。
戦闘時に強力な幸運値バフが発生し、あらゆる攻撃の被弾率が大幅に低下する。
また致命傷となるダメージを高確率で回避・無効化する。
「はっはっは!!南北戦争の頃を思い出すなぁ!!」

誉れ高き勇士:C-
米国において死後偶像化され、長らく英雄として讃えられてきたカリスマ的魅力。
集団戦闘の際に味方全体の士気を高め、軍団の能力を向上させる。
自らが召喚した騎兵隊にもスキルの恩恵は発揮される。
ただし敵側から自身が標的として狙われやすくなる他、権威から虐げられた逸話を持つ者には効果を発揮しない。

【宝具】
『駆けよ、壮烈なる騎兵隊(グロリアス・ギャリーオーウェン)』
ランク:D 種別:対軍宝具 レンジ:- 最大捕捉:-
自らが生前に率いた“第7騎兵連隊”を使い魔として召喚する宝具。
隊員達はいずれも低ランクの「単独行動」「騎乗」スキルを備え、銃やサーベル、そして騎馬によって武装している。
偵察や隠密行動に長けたインディアン斥候や、演奏によって連隊のステータスにプラス補正を与える軍楽隊など、状況や用途に応じて専門的な兵士達も呼び寄せられる。
また宝具として連隊そのものが概念化しているため兵士達に数の限りはなく、魔力の続く限り召喚し続けることが出来る。

『朽ちよ、赤き蛮族の大地に(インテンス・ソルジャーブルー)』
ランク:D+ 種別:対軍宝具 レンジ:1~40 最大捕捉:300
ワシタ川での強襲虐殺作戦の具現。インディアンの殲滅者としての伝説に基づく宝具。
宝具の発動と共にレンジ内の空間が“領域”と化し、範囲内にいる敵の四方八方の“虚空”からまるで戦場の如く次々に“銃撃”が襲い掛かる。
“銃撃”は弾幕を張るように断続的に放たれ続け、レンジ内にいる全ての敵を執拗に追撃していく。
“異民族・異教徒に対する殲滅行動”が概念化した宝具であり、それ故に“アメリカ合衆国民”以外の存在に対して「防御・耐久系の能力や宝具の貫通」「常時クリティカルヒット発動」の効果が発動する。

【Weapon】
六連装拳銃、ライフル。
派手に装飾したサーベルも腰に下げている。

【人物背景】
通称“カスター将軍”。生没年1839-1876、アメリカ合衆国の軍人。
南北戦争で北軍の若き騎兵として活躍し、その勇猛さによって数々の軍功を重ねたことから“少年将官”と評された。
内戦終結後は第7騎兵隊の連隊長に任命され、西部開拓時代の“インディアン戦争”へと身を投じていくことになる。
それ以来開拓地のアメリカ先住民族に対する弾圧政策の一翼を担い、“ワシタ川の虐殺”などに関与。
最期は“リトルビッグホーンの戦い”での無謀な突撃作戦によって命を落とす。
所業について当時から批判はあったものの、その死をきっかけに伝聞や創作の中で美化・神話化されていく。
それによりカスター将軍は“インディアンとの戦いに殉じた伝説的英雄”として長らく語り継がれた。

しかし時を経た1960年代、アメリカ国内で数々のリベラルな政治運動が活発化。
それを契機に西部開拓期のインディアンに対する民族浄化は批判的に語られるようになる。
そうした世論はカスター将軍の評価にも影響を与え、以後の彼は“インディアン虐殺の象徴的存在”として槍玉に挙げられるようになった。
2003年のハリウッド映画『ラスト・サムライ』ではトム・クルーズ演じる元騎兵隊の軍人が、かつて仕えていたカスター将軍を指して「自分の名声に取り憑かれた、尊大で愚かな人殺し」と語る一幕がある。
カスター将軍はその歴史的な立ち位置により、アメリカの世相と共に評価が揺れ動く存在となったのである。

【容姿・性格】
「はっはっは!!御機嫌よう、紳士淑女諸君!!古今東西の英傑達と覇を競い合えるとは!!軍人としてこれほどの誉れは無いだろうッ!!」

「飾り、装い、堂々と佇む!!男にとってこれ以上の“武器”があろうか!!人々は“偶像”を崇拝し、“英雄”を讃えるのだ!!――故にッ、私もそう振る舞うのだよ!!」

カールの掛かった髪、整えられた髭が特徴的。がっしりした体格の白人の伊達男。
刺繍や装飾の付いた青い騎兵服と鍔広のハットを纏い、首には真っ赤なスカーフを巻いている。
この聖杯戦争におけるカスター将軍は概ね肖像に近い容姿である。

性格は大仰で派手好き、見栄っ張りで行動的な自信家。
大きな声と身振りで堂々と振る舞い、常に不敵な笑みを浮かべている。
その一方、身内に対しては気さくで紳士的。態度は厚かましいが、良くも悪くも前向きで明るい。
彼は“飾って振る舞うこと”で自分や周囲を鼓舞しており、“尊大に胸を張ること”で自他が求める英雄の姿を体現しようとしている。
生前に軍紀違反や向こう見ずな行為を繰り返したのも、そうした態度に起因するものである。
近しい部下や上官からはその活力によって好かれ、人々からはその勇ましさによって持て囃され、そして一部の者達からはその虚勢や傲慢さによって嫌われる。

【身長・体重】
180cm・78kg

【聖杯への願い】
決して穢れることのない武勲、名声、栄誉―――真の英雄としての称号。
聖杯戦争の頂点に立つことで、それを掴み取る。
それは“カスター将軍”の誉れ高い肖像を最期まで守り抜いてくれた妻に対する、彼なりの餞である。
「はっはっは!!無論、私自身の野望でもあるがね!!」

【マスターへの態度】
「“誰かに望まれた姿”に己の野心を見出し、そのために何かを蹂躙する者」。即ち、己の同胞である。
敬意に値する淑女と見做している。黄色人種であることが惜しまれる。


【マスター】
伊原 薊美(イバラ アザミ)

【性別】

【年齢】
18

【属性】
中立・善

【外見・性格】
ボーイッシュな黒髪ショートカット。
美男子のようにも見える中性的かつ容姿端麗な顔立ちで、学生離れした美貌の持ち主。
テーラードジャケットやテーパードの掛かったパンツなど、マニッシュなファッションを好んで着る。

凛とした佇まいが目立つ浮世離れした少女。
普段は穏やかで落ち着いているが、その内面には静かな苛烈さを秘める。
彼女は“望まれた姿”――“才色兼備の天才”を演じ続け、自己の内面と完全に同化させている。

【身長・体重】
169cm・58kg

【魔術回路・特性】
質:C 量:D
特性:魅了(チャーム)
魔術とは無縁の一般人。懐中時計も父の知り合いだった骨董売りから譲られた。
しかし聖杯戦争に招かれたことで装填された魔術回路との高い親和を果たしている。

【魔術・異能】
『魅了』
魔術回路の装填によって発現した固有魔術。あるいは異能。
極めて小規模な“魅了(チャーム)”の魔術。自らを視認した相手をごく短時間だけ支配し、僅かな瞬間のみ思考や行動を操ることが出来る。
これにより自身に向けられた敵の攻撃を逸らさせたり、一瞬だけ意図に反した行動を取らせて隙を作ることが出来る。
本人の成長次第で今後効果が強化される可能性がある。

【備考・設定】
演劇系の名門女学園の頂点に立つ“王子様”。
卓越した表現力と容姿端麗な風貌によるカリスマ性を持ち、将来の成功を約束された首席生徒。

彼女は父親から深く愛されたし、彼女も父親を慕っていた。
その美貌と才能ゆえに“期待”された薊美は、望むがままに応えてきた。
穏やかな振る舞いの裏側で彼女は数多の才能を踏み越え、数多の涙を蹂躙していった。
幼い頃から“それ”が自らの使命だと信じている。与えられた美しさと素質に従い、望まれた頂点に立つことが自分の生きる意味だと思っている。
そのために、彼女は微笑みと共に他を踏み潰していく。その輝きによって、数々の少女達を挫折させていく。
彼女はそんな“全てを超えて輝く自分”に価値があると信じている。

お父さんに褒められることが大好きな、普通の女の子。
そんな彼女は、他の誰よりも優れていた。
だから薊美は、果実を散らす“女王様”になれた。

【聖杯への願い】
願いはない。けれど、生きて勝ち抜くことに意味がある。

【サーヴァントへの態度】
その振る舞いに苦笑する部分もあれど、信頼している。
生前の所業は知っているが、それも受け入れている。

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最終更新:2024年06月06日 02:34