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◇◇



 『〈針音仮想都市〉管制室から管理者(マスター)・オルフィレウスへ』
 『異星法則 月光夢幻神界(ムーンキャンサー・ウートガルズ)の侵略状況を報告します』
 『渋谷区に続き目黒区、港区、世田谷区、中野区の全域に法則が到達。
  新宿区陥落まで概算、残り十一分。
  杉並区はランサー・カドモスの宝具により鬩ぎ合いが成立している模様。残り二時間は耐久が可能と推定されます』
 『品川区、千代田区、中央区、練馬区への浸潤が既に開始』
 『針音仮想都市全域の陥落まで 概算、残り――――』



◇◇



『あのさ、コトネよ』

 高層ホテルの最上階。
 わがままなお姫さまのお城兼、その近侍達の休息所。
 そこでトバルカインは、己が主にこんな問いを投げていた。

『お前、嫉妬したりしねーの?』
『また藪から棒に。なんのこと?』
『愛しのお姫さまが知らん奴に掻っ攫われて、腹立ったりしないのかってこと』

 そんなやり取りが交わされてることも露知らず、安酒のロング缶を傾けながらミーム系の動画を見てけらけら笑っているお姫さま。
 もとい天枷仁杜は、現在汚いロミオとジュリエットに陶酔している。
 今宵のジュリエットは人の気持ちがわからない無職女。対するロミオは、悪意を振り撒くだけが能のタチが悪い暗黒イケメン。
 その冗談みたいなカップルが、誇張抜きに都市のすべてを思うままに蹂躙できる力を持っているから悪夢だ。

 高天小都音にとって、天枷仁杜は親友である。
 カタチとしては腐れ縁に近いのかもしれないが、少なくとも小都音はそう思っていた。
 トバルカインもそれは承知だ。小都音の仁杜に向ける感情はそのくらい献身的で、危うさすら感じさせる。

 小都音は凡人だ。彼女自身認めるところだし、カインとしても異論はない。
 無辜の犠牲を躊躇する。けれどもし必要なら心を痛めながら許容する。
 赤の他人より自分の命。悪く言えば都合のいい思考回路だが、異常者の犇めくこの針音都市では正常の証に等しい。
 実に月並み。凡人の免許証ほど、この都市で値打ちのあるものもないのだから。

『……もしかしてセイバーって、私がにーとちゃんにホの字だとか思ってる感じ?』
『え。違うの?』
『違うわ馬鹿。お前さては私の部屋でなんか読んだな』

 しかしそんな正常の天秤が、天枷仁杜という人間が絡んだ時だけは狂ってしまう。
 あえて言葉にはしないが、きっと小都音は仁杜のために命を投げ捨てられる人間だ。
 もしそれが必要になった時。高天小都音は喜んで、月女神のための生贄になるだろう。

 そう分かっているから、この現状にははっきり言って落ち着かないものを感じている。
 これだけの盤石の布陣を突き崩すのは容易でないと思う反面、もしもの可能性をどうしても空想してしまう。
 予感は数時間後に的中することになるのだったが、この時のトバルカインは知る由もない。

『私はただ、にーとちゃんの友達なだけ。
 まあ見ての通りどうしようもないダメ人間だけど、なんだかんだ十年弱は付き合ってる間柄なわけですし?
 此処まで辛抱したなら、もう最後まで付き合うよ。それだけで、それまで。別に百合ィな関係になりたいってわけじゃありません』
『そういうもんなのか。本当か?』
『そういうもんです。断じて』

 星に灼かれただなんて陳腐な言葉でその献身を表現するのはあまりに無粋だろう。
 高天小都音は月の眷属。されど彼女は信徒ではなく友として、誰より純粋に仁杜を想っている。

 言うなればそれは正方向の狂気。
 友のために命を擲つ。友情の美しさを説く者も、いざ本当にその状況に立たされて一瞬も迷わず盾になれる人間がどれほど居ようか。
 しかしトバルカインは確信していた。高天小都音は、それができる人間であると。
 友情のために自分を捨て、世話を焼くことの延長線として散れる、月並みな女が唯一持ち合わせた非凡な感性。
 神寂祓葉でさえ獲得し得なかった、青春のように清らかで澄み渡った衛星。当の月はそのありがたみに、まだ気付きもしていない。

『……まあ、とはいえ。正直思うところはあるけどね、私だって人間ですから』

 苦笑しながら、まだ空いていない酒缶をベッドの下に隠していく小都音。
 流石にこれ以上の飲酒は後に響くとみなしたらしい。
 当の本人は部屋の隅で休んでいる白黒の魔女に画面を押し付け、『ねぇいーちゃんこれ見て』とだる絡みしている。
 死ぬほど迷惑そうな顔をしていた魔女だが、次の瞬間『ぶふっ』と噴き出していた。いやお前も知ってるんかい。

『あの子、顔だけはいいでしょ』
『まあ』
『だから、いつかヤバい男に引っかかるんじゃないかなとは思ってたんだよ。
 そしたら案の定。しかもそいつが力だけはアホみたいにある怪物でーとか、悪い夢だよねもう』

 でも、と、小都音。

『それはそれとして、やっぱりちょっとはグラっときたよ。
 にーとちゃんの隣にいるのはずっと私だなんて、男でも重すぎる言い分なのにさ』
『散々世話焼いてやったバカ犬がある日突然他の新顔に尻尾振ってたみたいなもんだろ? 私ならキレるわ』

 なんとなく、自分達の友情は永遠に不変だと信じていた。
 大人になっても、もっと歳を重ねて老いていっても。
 私がいて、にーとちゃんがいる。その光景は不可侵のものだと思っていた。

 でもやっぱり、この世に永遠なんてものはないのだろう。
 針音の調べは愛した日常を呑み込んで、再会した友の隣には新しい相棒が我が物顔で並んでいる。
 なのにぶつくさ言いながらも世話を焼き続けてやっている辺り、小都音にとって仁杜がどれだけ特別な存在か分かる。
 本人が思っている以上に、小都音は仁杜に甘いのだ。そう考えるとカインの辛辣な喩えもあまり間違いではないかもしれない。

『けどさぁ。あの子、アイツと一緒にいると本当に楽しそうなんだもん』

 それでも小都音は結局、仁杜の非凡な才能には寄り添ってあげられなかった。
 むしろ終始打ちのめされ続けた側だ。只人の彼女には、月の視界は分からない。
 ウートガルザ・ロキは違う。神をも恐れぬ"最強"は、仁杜の孤独へ容易く分け入っていった。

『だったらまあ、いいかなって』

 仁杜が笑える世界がそこにあるなら、別にそれでいいだろう。
 他に何も望むべくはなく、自分が穢い独占欲を出す場面でもない。
 だって自分はどこまで行っても、月だの星だのに届くべくもない石ころでしかないのだから。

 願っただけで星を降らせることもできなければ、この身に迫る死をねじ伏せることもできない。
 どこにでもいる普通の人間だ。自分はどうやっても、あの夜空には上がっていけない。小都音は誰より、それをよく理解っている。

『あの子が幸せだって言うなら、私なんかが出しゃばる幕はないでしょ』

 満足そうに、けれど少しだけ寂しそうに、小都音は魔女に絡んではしゃぐ酔っ払いを見ていた。

『そう考えるとまあ、肩の荷が下りた気もするかもね。
 ああ、やっと私がいなくても大丈夫になってくれたんだって。
 頼れる彼氏さんに後は任せて、老兵はのびのび余生を楽しみますよ』
『そんなもんかね』
『そんなもんよ、友達なんて』



 結局のところ、それは間違いだった。



◇◇



『おや。君から話しかけてくるとは珍しいじゃない、トバルカイン』

 けらけらと笑いながら当然みたいに悪意をぶつけられ、顔を歪めて鯉口を切る。
 それを受けてへらへら両手をあげるまでがワンセットだ。
 北欧の大幻術師、奇術王ウートガルザ・ロキ。
 星ならざる身で、針音都市の最強の一角を担う特記戦力である。

『お前よ、マジで大概にしとけよ。これ以上ウチのマスターのメンツ潰すなら――』
『なんだ、まだその話? いいじゃない、君がうまい感じに纏めてくれたんだから』
『――チッ』

 煌星満天らとの交渉を台無しにしたのは仁杜だが、火に油を注いだのはこの男だ。
 仁杜が小火を起こして、ロキはそこにガソリンをぶち撒けて大火災を引き起こそうとした。
 トバルカインが脅しで場を収めたからよかったものの、最悪血で血を洗う全面戦争に発展していたかもしれない。

 なのに当の本人はこの通り、悪びれた風もなく寝こけたお姫さまを抱き上げてご満悦だ。
 よ~しよし……と口笛吹きながら揺すっている。そいついい歳した大人だろ、と毒づこうと思ったがやめた。馬の耳に念仏なのは見えている。

『で、まさか本当に釘刺しに来ただけってわけでもないでしょ。
 いいよ、手間をかけたのは事実だしね。おしゃべりくらいなら付き合ってあげる』
『そりゃどうも。背ぇちっこくて助かったわ』
『あ~? 何それ、煽ってんの? 分かってないなぁ、君のはただ貧相なだけじゃんか。
 にーとちゃんは確かにちっちゃくて可愛いけど、抱っこしてみると意外ともっちりしてて――うお。危な』

 一度目は堪えたが、二度目はつい斬撃を放っていた。
 頸動脈を狙った本気の一太刀である。理由はメチャクチャウザかったから。
 しかしロキはひょいと首だけ反らしてこれを回避。つくづく可愛げのない男だった。

 絵面はどうあれ命のやり取りが行われたにも関わらず、北欧のスパダリはこういうところでも隙を見せない。
 身体の揺れは最小限にしているから仁杜は未だにすやすやおねんね、今日もお姫さまのお城は(本人にとっては)平和である。

『危ないだろ。にーとちゃんに当たったら殺しちゃうぞ』
『ハッ。そん時は、お前がその程度の男だったってだけの話だろ』
『言うねぇ。で? ちびっ子殺人鬼ちゃんは俺に何を聞きたいわけ?』

 ふう、と一息。
 納刀しつつ、視線をロキから彼に抱かれた"姫"へと移す。
 天枷仁杜。人界の月。人外魔境を地で行く針音都市の只中で、女神と呼ばれる恒星の卵。
 この誰が見ても分かる非の打ち所しかないダメ人間がそんな大それた存在であることは、もう今更疑うまい。
 ただ自分達の――正確には守るべき主の未来のため、ひとつだけ問うておかねばならないことがある。

 現在、天枷仁杜を中心とした同盟は恐らく都市における最強の集団だ。
 刃向かう敵が超えなければいけないハードルは三つ。
 奇術王ウートガルザ・ロキの幻を打ち破り、倒せる力があること。
 栄光狂ジョージ・アームストロング・カスターの手数を物ともしない強度があること。
 殺人鬼トバルカインの殺意を掻い潜り、生き延びる術があること。
 どうにかそれを乗り越えたとして、その先には自分達すら輪郭を測れていない特級の不確定要素が待っている。

 即ち、仁杜の恒星としての覚醒である。
 戦力に数えるにはあまりに不確かすぎる可能性だが、三重の壁に守られた女神はまさしく最強無敵の"お姫さま"。
 これを外から打ち崩すのはまず不可能だ。余程の事でもない限り、仁杜の寵愛を受けている自分達は勝ち馬に乗れるだろう。
 聖杯戦争も造物主達の思惑も踏み潰して、月明かりが照らす未来地図は完成する。トバルカインでさえ、それを現実的な顛末として考えていた。

 だからこそ、その時が来るまでに知っておかねばならない。

『にーとは勝つだろ。正直此処から負ける方が難しいわ』
『同感だね』
『けどよ。あいつが勝った時、コトネ達の世界に何が起きる?』

 トバルカインは人でなしである。
 無辜の犠牲などなんとも思わないし、罪のない誰かを斬り殺すことになど今更何も感じない。

 だがそんな彼女も、小都音のことは気に入っていた。
 小都音と過ごした一ヶ月の平穏。それは余程、この捻くれた刀鍛冶の眼鏡に適うものだったらしい。
 カインは仁杜のことなど正直なんとも思っていない。彼女が気にかけているのは、いつだって己が主のことだけだ。
 なればこそ知る必要がある。天枷仁杜が天下を握った時、その後の世界はどんな風に歪むのか。
 大真面目な問いに、ロキは微笑んだまま腕の中の想い人を撫でる。悪意の化身らしからぬ、慈しむような仕草だった。

『にーとちゃんはさ、優しいんだよね』

 彼女は極めて無配慮で不躾な言動をしがちな人間だが、根っからの悪人というわけではない。
 仁杜はただひたすらに無頓着で配慮がないだけなのだ。
 自分と、自分の好きな人間。それ以外の感情の機微、これをされたらどう思うかということに対し非常に感受性が鈍いだけ。
 逆に言えば自分の世界の内側に入った人間に対しては、人並みの優しさを振り撒くことが出来る。

『だからまあ、ことちゃんや薊美ちゃんが不幸になることはないんじゃない?
 特にことちゃんは絶対だ。俺は彼女のことは正直好きじゃないが、これだけはにーとちゃんの近衛として断言しよう。
 にーとちゃんが彼女を蔑ろにすることは絶対にない。だからそんなビクビクしてないで、大船に乗ったつもりで俺達の花道に拍手でもしてればいいさ』
『……ああそう。ま、予想通りの答えだナ。どこまで信用していいかは知らねーが』

 ロキの返答は、この男らしからぬ力強さを孕んだものだった。 
 愛する月に関する話題で嘘は吐けない、そんな芯が一丁前に滲んでいる。
 小都音といい彼といい、あんな女のどこがそんなにいいのかとんと分からず、トバルカインは改めて呆れた。
 その真面目さの百分の一でも普段の行いに回して貰えたら、こっちの仕事もずっと楽になるというのに。

『――で。薊美を焚き付けたのはテメェか?』
『まぁね』
『アホが。獅子身中の虫を自分で育ててどうすンだよ』
『いや、あの子はなかなか気骨のある逸材だよ。
 羽化するにしろ現実を知って折れるにせよ、にーとちゃんの引き立て役としちゃ十分さ。
 いい舞台にはいい役者が不可欠だろう。だから少し発破をかけてあげたわけ』

 それに。
 月の近衛は、心底愉快そうに嘲笑う。

『俺だって馬鹿じゃない。そういうのは全部分かった上でやってるよ。だってあの子は、にーとちゃんには決して勝てない』
『根拠は』
『だって彼女、ちゃあんと絆されてるんだもの。
 魔女っ子もそうだが、いじらしいじゃない。自分が灼かれ始めてる事実を理解もしないで、あくせく頑張ってる姿ってのはさ』

 伊原薊美は確かに獅子身中の虫だ。
 ウートガルザ・ロキが自ら餌をやって育てた、月を滅ぼす千両役者。
 しかしてロキは悪意の極み、嘲笑の王。
 彼が綴るラグナロクの結末は、己が奉じる女神の勝利以外の結末を端から持ち得ない。

 伊原薊美は木星である。
 彼女は所詮、何があろうと天枷仁杜に勝てない。
 万が一にでも己等の前に立つ日が来たのなら、その時は全霊を以って磨り潰そう。
 そうして身の程というものを知った茨の王子は、晴れて月の友人に立ち返るわけだ。
 なんて素晴らしい見世物。なんて素晴らしい筋書き。
 徒花のレーヴァテイン。神殺しは起こり得ず、二代目の全能神は月光と共に宇宙の中心で確と君臨する。

『彼女も、君もさ』

 月の隣人はかく語りき。

『にーとちゃんを舐め過ぎだよ。
 君らが見据えてる相手は、神をも凌駕する至純の光だぜ』

 天枷仁杜こそは至上。
 遍く宇宙を照らし上げ、他のすべてを圧する全能の器。
 何人たりとも、その幼気を冒すこと能わず。
 何人たりとも、姫の世界を壊せない。

『たとえ、その隣に誰もいなくたって』

 慈しい堕落の理は、いつか宇宙を覆い尽くすだろう。
 地球に始まって版図を広げ、道理をねじ伏せて世界そのものの仕組みをも凌駕する。
 終わりの見えた世界に永遠をもたらし、甘美な陶酔を無限に広がる枝葉の隅々まで布教していく。

 天枷仁杜こそ神であり、月こそ宇宙の主星なのだ。
 よって誰も敵わず、彼女に匹敵する役者はいない。

『俺もことちゃんも、あの子の傍に誰もいなくなったって――にーとちゃんは、何も変わらずあの輝きを放ち続けるだろうさ』



 結局のところ、それも間違いだった。



◇◇



 結局のところ。
 小都音もロキも、誰も彼もが間違えていた。
 天枷仁杜は星である。先天性の根源接続者で、やがて全能になることを約束された女。

 しかし仁杜はその実、どうしようもないまでに人間だった。
 持って産まれた破滅的なパーソナリティ。
 全能を堰き止める少女性。それが、彼女を架空の存在に羽化させることなく保ってきた。

 いつも現実から逃げたがってる癖に、失くしたくないと願う"誰か"を持っている。
 仁杜はただ、自分が幸せな世界だけを希求していて。
 けれど彼女の語る"しあわせ"の中には、いつだって一緒にいてほしい誰かの存在があったのだ。

 それは神には不要な余白である。
 だからやっぱり、仁杜はヒトだった。
 不世出の超越者でも、宇宙の中心に立つ統括者でもない、自堕落で寂しがりなただの人間。

 "私がいなくても大丈夫"。
 月の隣人はそう安堵して身を投げた。
 "俺の女神は完全にして無欠"。
 月の近衛はそう喝采して背中を押した。

 かくて神は誕生した。
 孤独に耐えられない生き物は、独りぼっちの星となった。
 都市の何より美しく。都市の何より慈しく。
 けたけたと笑いながら、すべてを堕落で塗り潰す終末のスターゲイザー。
 壊れた神は今も楽しく自分だけの夢幻に微睡んでいる。
 無数の禁忌肢こそ恒星神誕生のフローチャート。
 かつてある街に、ヒトの形をした神話を産み落としたように。

 過ちの破片が、バッドエンドの恒星を打ち上げた。



◇◇





 この世界は糞だ。
 どいつもこいつも糞みたいな馬鹿しかいない。

 だから私は、あの時からずっと。
 ずうっと、狂おしいほどムカついてんだよ。





◇◇



 九つの頭を持つ白狼が、女神の敵を追走していた。
 鎖から解き放たれた、月女神謹製の極上の悪夢。
 ニウ・フェンリル。幻で編まれた神獣の九体融合。
 その脅威度はもはや生半なサーヴァントなど超越する。
 己が宿縁を超えた騎兵隊は、神罰の脅威に直面させられた。

「――もっと飛ばせませんか!」
「ううむ無理だな、既に最高速度(トップスピード)だ!」

 騎馬に揺られながら声を張り上げた薊美に、カスターは冷や汗を垂らしながら答える。
 背後から聞こえるのはコンクリートジャングルの破砕音。
 振り向けば視界の先には、悪夢としか言い様のない神々しい怪獣の姿が見える。

 シッティング・ブルを打ち破った薊美達は、勝利の代償として満身創痍だった。
 魔力の回復も追い付いておらず、何より疲労の蓄積が酷い。
 今の状態であの九頭狼を相手取るのは無理があるし、そも万全だったとしても勝機はゼロに近いだろう。

 ジョージ・アームストロング・カスターは近代英霊だ。
 持つ神秘は薄く、対城宝具の類も持ち合わせていない。
 つまり今追われているような、物理的に規格外な敵には攻め手を欠くのだ。
 第二宝具の殺戮結界を発動して、その上で有り金全部注ぎ込んで、ようやく防戦が成り立つかどうか。
 よって取る択は逃げの一択だった。相手は神の尖兵である、馬鹿正直に相手取っていたら魔力が幾らあっても足りない。

「……めちゃくちゃですね。流石ロキさんのお姫さまだ」

 思わず皮肉を零すが、笑い事ではまったくない。
 やはり天枷仁杜はウートガルザ・ロキを継承している。
 神の出力から繰り出される限度なしの大幻術。擬似的な願望器と呼んでも誇張ではないだろう。

 手慰みみたいに投げつけられた走狗相手でさえこのザマだ。
 仁杜が本気で殺しに来たなら、薊美達は確実にあの場で虐殺されていた。
 自分が挑むモノ――夜空の恒星共がどれほど恐ろしいかを改めて噛み締める。
 それでも心に滾るのは臆病ではなくその逆、業火で鍛え上げられた極上の殺意。

 ああ――殺したい。
 目障りだ。私の視界で何を輝いている。
 舞台の主役は徹頭徹尾私一人、そんな道理も分からずに煌めくあの星が憎い。

(いつまで待たせるの?)

 道を開けろ現実。
 頭を垂れて迎えろ運命。

(もう十分噛み締めたよ。そろそろ次のシーンを始めてくれる?)

 英雄譚の華とは打開と勝利。
 現実の過酷さなんて観客は誰も求めちゃいない。
 超える壁の大きさを知ったなら、そこに向かってただ翔ぶのだ。
 今の薊美に必要なのはそれを可能にする一対の翼。
 宇宙の真ん中に引き篭もった哀れな神へと自分を押し上げる、そんな引き立て役(バディ)が必要だ。

(――早くしろ)

 主役の求めに従って、台本の頁は捲られていく。
 白狼からの追走劇、その退屈な筋書きを切り裂くように。

「……あは」

 薊美は、視界の先に見慣れた白黒のシルエットを見つけて微笑んだ。
 眼と眼が合う。歓迎など到底されていないと分かる視線だったが知ったことではない。

「うん。やっぱり私、持ってるな」

 展開された蝗の群れ、虫螻のファイアウォール。
 そこに突っ込んでいく形になるというのに、薊美の胸には欠片の恐れもなかった。
 勝利を確信しながら、神殺しの英雄は目当ての運命を手繰り寄せる。
 今宵の相方は白黒の魔女。困難を打破するために魔女の智慧を頼るなんて、実に王道なストーリーではないか。



◇◇



「突っ込む!? 正気かね!?」
「大真面目です。大丈夫、予想が正しければちょっと痛いくらいで済む筈だから」

 魔女・楪依里朱のサーヴァント――〈蝗害〉。
 脅威度で言えばウートガルザ・ロキに匹敵する、暴食の厄災である。
 カスターもその猛威は十分に理解していたし、だからこそ突撃しろという薊美の指示は狂気の沙汰としか思えなかった。

「ぐむむ……。仕方がない、そうまで言うならこのカスター、同胞共々腹を括ろう!」
「うん、そうして。ギャリーオーウェンの勇敢さに期待します」
「All right! 行くぞ者共、YeeeeeHaaaaaaaw――!!」

 しかしもはや、伊原薊美はカスターにとってただの要石ではなくなっている。
 共に戦場を駆け、光となって己を導く勇ましき令嬢(フェアレディ)。
 此度も北極星めいた輝きで道を示す彼女の下知に、将軍はそれ以上疑わず従うことを選んだ。

 無数の騎馬が、黒い砂嵐に突っ込んでいく。
 嵐を構成するのは万を超える飛蝗の群れ。
 草や肉では飽き足らず、魂まで噛み砕いて食い散らかす猛悪な害虫共だ。
 神秘の薄い近代英霊がこれに無策で触れるなど愚の骨頂、自殺行為に等しいが。
 しかし群れに激突した瞬間、カスターは薊美の意図を悟ったらしい。

「ほう、そういうことか……!」
「うん。ほら、予想通りだ」

 明らかに飛蝗共の活きが悪いのだ。
 平時なら壁を突っ切ることも許されないだろうに、勢い任せに進撃を続行することができている。

「弱くなってる。お姉さんの結界に引っ張られてる感じかな」

 堕落の月光は、知能の構造が単純であればあるほどよく効くらしい。
 つまり現在の〈蝗害〉は骨抜きで、格下の英霊一体食い殺すにも難儀する有様。
 言うまでもなく薊美達にとっては好都合だ。
 サーベルを片手に握ったカスターが虫の壁を抜け、魔女の前に現れる。

 楪依里朱。白黒の魔女。
 伊原薊美。神殺しの英雄。
 数時間ぶりの再会である。

「お久しぶりです。また会いましたね、いーちゃんさん」
「死ね」

 微笑んで挨拶した薊美に、イリスが返したのは殺意だった。
 白黒の槍が地面を突き破って出現し、カスター諸共呑み込まんとするが。
 今更こんなもので泡を食う薊美ではない。
 レーヴァテインを振るい、顕現した端から焼き尽くしていく。

 次に殺到するのは色彩の魔弾。
 弾幕と化して襲ってくるそれも言わずもがな脅威だ。
 端的に言って、この齢の魔術師が易々繰り出す攻撃とは思えない。

「胸を貸してもらったおかげかな。貴女の手品もだいぶ見慣れました」

 しかし、超人の域に入っているのは薊美も同じである。
 ましてや色間魔術の使い手とは既に一度矛を交え、身を以てその強さを体感していた。
 なら遅れは取らない。出力と年季の差を物ともせず、ロキの忘れ形見を寄る辺に戦闘を成立させる。

 炎を逆巻かせて滅却の旋風を作り出し、白黒の暴威を捌きつつ飛蝗の抵抗もシャットアウトした。
 薊美一人で〈蝗害〉を擁する魔女に抗戦が成立している光景は驚くべきもので。
 その上、もちろん彼女は一人ではない。
 令嬢の奮戦に感化されたが如く、レーヴァテインの火を掻い潜りながらカスターがイリスへ吶喊を敢行する。

「可愛いなぁ、魔女のお嬢さん。そんなザマで粋がってもいじらしいだけだぞ」
「ッ――」

 怒髪天を衝いた魔女の色彩が、その右手に巨大な大剣を顕現させた。
 カスターのサーベルと色彩剣が激突し、火花を散らしながら切り結ぶ。
 打合の拍子に舞い上がった砂煙をイリスの指先が撫でれば、それは即席の散弾と化して眼前の主従に吹き荒んだが。
 やはり火力不足。騎馬による再度の突撃(チャージ)が強引に剣戟の防衛線を破壊し、イリスは持ち堪えられず後方へ押しやられる。

 楪依里朱は天稟の色間魔術師だ。
 片田舎の集落で細々と覇権を維持し、報われる気配のない悲願への邁進を続ける一族に産まれた神才だ。
 その上神寂祓葉と出会ってからの能力の伸びは著しく、狂人として蘇った現在では英霊と比べても遜色のない実力を有している。
 しかしそんな彼女にも限界はある。要するに、無い袖は振れないのだ。

 月の一軍を崩壊させる際に用いた"切り札"。
 〈獣化術式・黒白の魔女〉。
 色彩の化身と成る秘奥義はただでさえ頭抜けている能力値を文字通り超常の域まで跳ね上げるが、代償に極めて巨大な魔力消費を求める。
 現在も土地そのものから吸い上げる形で回復に徹しているのだが、それでもイリスの消耗は控えめに言っても薊美の二段は上。
 この状況では如何に最強の戦闘能力を持つ衛星といえど、奮戦に翳りを帯びてしまうのは否めなかった。

 カスターが迫る。
 格下と侮っていた連中に追い詰められている事実に歯噛みしながら、イリスは胸の苛立ちをぶち撒けるように叫んだ。

「――ライダー!」

 呼び声に応えて、虚空を舞う飛蝗の群れが一体のヒトガタを結ぶ。
 ツナギ姿の青年が現れ、金属バットを象った得物でサーベルの一撃を受け止めた。
 シストセルカ・グレガリアの総体意思。一時は神寂祓葉すら追い詰めた自然界の魔物だが、しかしこれも――

「だから言ったろ。今の俺は使い物になんねえんだって」
「ふはははは――ッ!」

 薊美の推測通り、月の堕落法によって見る影もなく弱体化している。
 末端が弱くなっているのなら、当然本丸もその例外ではない。

 カスター程度の剣戟を相手に、受け止めるのがやっとの有様だ。
 それでも足止めしている辺りは流石だが、在りし日の彼と比べれば出力は甘く見ても十分の一以下だろう。
 そこに加えて、薊美の駆る炎波まで襲い掛かってくるのだ。
 末端から次々死んでいくことで身体の像がブレ、一般人の眼からでもその姿が無数の虫螻による擬態と分かるほどに乱れている。
 あまりの体たらくに、カスターは打ち合いながら主へと念話を送った。

(――令嬢よ。どうする)

 〈蝗害〉はウートガルザ・ロキに匹敵する災厄。
 もし天枷仁杜が斃れ彼らが本調子に戻ってしまえば、彼らは再び最凶の敵の一角に返り咲くだろう。

(いっそこのまま、潰してしまうか?)

 ならば月へ挑むための足がかりにする心算は撤回して、此処で排除してしまうのも十分に有りではないか。
 カスターの提案は尤もだったが、しかし薊美は即答で切って捨てた。

(ううん。バッタは兎も角、イリスさんはまだ必要だから)

 楪依里朱もまた狂人である。
 命を助けてほしければ〈蝗害〉を絶滅/自害させろと命じたところで、彼女がそれに首肯することはないだろう。
 かと言ってイリスを此処で殺すのはもっと論外。
 たとえ飛蝗共が健在だったとしても、薊美は彼らではなくあくまでイリス個人に価値を見出している。

「――やめましょう。別に落ち武者狩りがしたいわけじゃないんです」

 炎剣の火を消し、イリスはカスターを諌めるように右手を挙げた。

「それに実を言うと、こんなことしてる場合でもないんですよね」
「……は?」

 魔女は訝るように眉を顰める。
 そんな彼女をよそに、そろそろだろうか、と薊美は自分達の来た方を見やった。
 途端、摩天楼の屋上を足場にして此方へ向かってくる巨大な異形の姿が視界に入る。

 辛酸を嘗めさせられた屈辱も忘れて、イリスは唖然とそれを見た。
 九つの頭を持つ、子どもが粘土で作ったようななんとも頭の悪い合成獣(キメラ)。

「おっっっ……まえ……!」
「ふふ。まあ、そういうわけでして」
「――――殺す! ふざけんな莫迦!!」
「前に組み手に付き合って貰ったお礼です。助けてあげるので、私の話を聞いてください」

 口角泡を飛ばしてキレ散らかすイリスだが、当の薊美はどこ吹く風だ。
 自分で脅威を呼び込んでおいて恩を着せる、とんだマッチポンプである。
 女神の尖兵、九頭のフェンリルが迫ってくる。
 茨の王子は悠々と跨った騎馬の後ろをぽんぽんと手で示し、まず端的に要件を告げた。


「天枷仁杜を殺します。力を貸してください」



◇◇



 響く咆哮、破壊音の中に覆い隠されて響く馬の蹄音。
 イリスは大変不快そうな顔をしながら、気に食わない女とのタンデムに相伴していた。

 何から何まで反吐が出るほど不愉快だ。
 こんな女にいいように嵌められたことも、こうして自分へ無防備に背中を見せている事実も。

 要するに薊美は見透かしているのである。
 イリスは自分を殺さないし、そもそも殺せない。
 此処で事を起こせばカスターと背後の白狼に挟撃されて詰むし、何より"あの話"を振られた以上決して無碍には出来ない筈だと。

「まず、あの同盟を壊してくれてありがとうございました。
 頃合いを見て私が手を汚すつもりだったんですけど、おかげで無駄なリスクを取らなくて済みましたよ」
「狡辛い考えね。アイツはそんなせせこましい真似しないよ」
「かもしれませんね。けどまあ、今はいいかな。千里の道も一歩から、って言うでしょ」

 破滅の火蓋を切ったのは他でもない楪依里朱だ。
 天枷仁杜を否定しなくては、彼女は自分の狂気(アイ)を保てなかったから。
 だから殺す、そのつもりだった。
 しかし訣別の一撃は高天小都音という石ころに阻まれ、仕損じた報いはこうして今も都市を蝕み続けている。

「あなたの行動によって、にーとのお姉さんは壊れました。
 月女神は誕生し、もう誰にも止められない。
 私も実際この目で見ましたが、あれは駄目です。彼女は、神寂祓葉と同じ存在に成ってしまった」
「……おい」
「話の腰を折らないでください。事実なんだもん、認めなきゃ仕様がないでしょ」

 恒星とはエゴを燃料に輝く、意思を持った核爆弾。
 彼女達は感情のままに万象を踏みしだき、我此処に在りと謳い上げる。
 微睡みのコギト・エルゴ・スム。
 神寂祓葉が勝利以外の結末を破却して舞うように、天枷仁杜もまたある概念を全無視しながら天に煌めいている。

 月の女神は現実を見ない。
 夢と現実の形勢が完全に逆転しているのだ。
 彼女の見る夢は救済として世界を蝕むのに、現実が引き起こす事象は何ひとつ彼女へ影響を与えられない。

 ――"無敵"である。
 現在針音都市に存在するすべての戦力をかき集めてぶつけたところで、仁杜の引きこもった夢幻の卵殻に傷一つ付けられないだろう。

「だとしても、私"達"はあの星を墜とさなければいけない。
 その一点で、我々の利害は一致している。違いますか?」
「……、……」

 それでも殺すのだ。
 殺意を込めた弾丸を、あの月に向かって撃ち放つのだ。
 他の誰でもない、己自身に定めた魂のカタチを貫くために。
 自分が自分であるために、少女達は神殺しを遂げねばならない。

 とうに夜は明け、こうしている今も月の侵食は拡大している。
 堕落の理。慈しい破滅。現実と夢想の相転移。
 もう予断は許されない。だからイリスも、薊美を嗤いはしなかった。

 彼女自身、ずっと未練を燻ぶらせていたからだ。
 自分が二人目の友と認めた女が、今も壊れたまま輝き続けている事実に。
 天枷仁杜を殺せないまま逃げ出してしまった事実が、熟れた傷口のように疼いている。

 そんな折に舞い込んだ、月を撃ち落とすための商談。
 これがノクト・サムスタンプのような策謀家の提案だったなら、イリスは一顧だにせず激情を返していただろう。
 しかし伊原薊美はそういうタイプではない。
 彼女は子どもだ。大人びた風を装っていても、根っこの部分にある信念の実像はひどく幼い。
 奇しくもイリスと同じである。彼女達はずっと止まっているのだ。そういう意味ではこの二人、意外と相性がいいのかもしれない。
 そんな女が吐く言葉は、同類の魔女にとって理路整然と並べられる利害などより余程心を揺さぶられるものだった。

「――アテはあるの?」
「ありますよ」
「聞かせな」
「私達が挑む、ってことです」
「はぁ?」

 真面目に話せよとドスを利かせたが、薊美にふざけている様子はない。

「分かりませんか? 相手はにーとのお姉さんですよ。
 どこまでも自分に甘くてだらしない癖して、身内には駄々甘なあの人が相手なんです」

 数時間前、あの"お城"で過ごしていた時。
 仁杜は本当に幸せそうで、いつまでもにへにへと笑っていた。
 彼女は自分に優しい人が好き。自分の好きな人が好き。
 そんな"友達"のためになら、らしくない頑張りだって見せられる。

 完全無欠のクズの中に唯一輝く美点。
 ゴミ溜めの中から時折覗く星の輝き。
 天枷仁杜は友達思いだ。親友の死が崩壊の引き金になった辺りからも、そのことはありありと窺える。

「お姉さんの友達だった私達になら、ちょっとくらい扉を開けてくれそうじゃないですか」
「……どうだかね。裏切り者二人がのこのこやって来たところで、門前払いで終わりかもよ?」
「その時はその時で、また考えましょう。薄情者二人で膝突き合わせて」
「本当いい性格してんな。このクソ女」
「お互い様でしょ。人殺しに言われてもね」

 砕月の第一歩は仁杜のヴェールを剥がすこと。
 彼女にもう一度、現実を直視させること。
 高天小都音が死んだ時のようなインパクトを起こすこと。
 それができるのは、一時でも仁杜の友達だった者だけだ。
 故に少女二人、か弱い演者達が、此処でだけは、どんな英霊にも勝る値千金の価値を持つ。

 ニウ・フェンリルが迫ってくる。
 そもあちらの方が出せる速度が上なのだ、追いかけっこの勝敗は見えていた。
 騎兵隊の後列は既に九つの顎で食い散らかされ始めている。
 やり取りが途切れる。次に聞こえたのは、魔女の溜息。

「――――仕事しな、役立たず」

 答えは出た。
 勝算などゼロに等しい、気に入らない女の誘いだが。
 結局のところやはり自分は、あの仮初の友情ごっこを終わらせないと前に進めないらしい。

 奇形の白狼と第七騎兵隊、その間を阻むように黒い旋風が巻き起こる。
 中心で像を結ぶのはシストセルカ・グレガリアの総体意思。
 見る影もなく弱っていることは先の一幕で晒した通りだったが、それでも物量という一点では依然〈蝗害〉は脅威的な存在だ。

「ひでえ言い草だなぁおい。病人をこき使うんじゃねえよ」
「クズの甘言に引っかかって怠けてるだけでしょ。少しは役に立ちなさい」

 軽口に辛辣な正論で返しながら、イリスは目の前の女に向けて言う。

「いいよ。あんたのプランに乗ってあげる」
「それは何より」
「けど、これだけは覚えとけよ」

 堕落の月を撃ち落とす。
 もうひとりの"友達"を終わらせる。
 果たせなかった結末、その"未練"に決着を付ける。
 斯くして白黒の魔女は、茨の王子の共演者となることを決めた。
 主役を気取る屑星の引き立て役に甘んじるのは業腹だが、今はそんな意地よりもこの後悔を雪ぎたい気持ちの方が勝ったから。

「途中で折れたら、すぐに殺してやる」
「こっちの台詞です。精々私の役に立ちなさい、燃え殻の魔女」

 斯くして、王子と魔女の砕月同盟は成立した。
 向かう先は月の寝殿、堕落の女神の閨。

「それで、どうすんのよあの化け物。今の私らじゃ殺し切れなそうだけど」
「そうですね、私に少し考えが――」

 彼女達は、月の敵だ。
 己が己であるために、過日の友を弑すると決めた裏切りの共犯関係。
 本懐遂げるにしろ志半ばで灼け落ちるにしろ、もうその殺意が折れることはない。

 だから。


「よう。雁首揃えて何の相談してんだ売女共」

 女神の領域において万死を司る凶剣が、神殺しの物語を始まる前に終わらせる。


「ッ――!?」

 その声は、一体誰があげたものだったろう。
 薊美だったかもしれない。イリスだったかもしれない。或いは、両方か。
 だが声の主が何某であったにせよ、それを惰弱と責めるのは酷だった。

「何だよ、鳩が豆鉄砲食ったみてえなツラして。こっちから会いに来るとは思わなかったってか?」

 何故なら彼女達は、声を聞くまでこの存在が近くにいることにさえ気付いていなかったのだから。
 つい一瞬前まで認識の外にあった、しかし確かにそこにいた、褐色の矮躯と薊美の乗る騎馬がすれ違う。
 冷え切る肝。総毛立つ全身。先陣を切るカスターが、いつになく焦った顔で振り返って叫ぶ。

「令嬢ッ!」
「分かってる……!」

 言われるまでもない。レーヴァテインを抜きながら防戦の構えを取った薊美だが、その矢先彼女を襲ったのは浮遊感だった。

「な――」

 一瞬の内に、騎馬が胸から尻まで、一直線に割断されている。
 体感としてはすれ違っただけ。剣を振るう瞬間を目視さえ出来なかった。
 落馬の瞬間、切羽詰まった形相のイリスとアイコンタクトを交わす。
 触れた爪先を起点に地面がツートンカラーで覆われ、盛り上がって衝撃を殺しつつ、追撃に対する防御陣と化す。

 だが、その時白黒の魔女はあり得ない光景を目撃した。
 隆起していく足元が、彼我を隔てる障壁の形を取ることなく砂のように崩壊する。
 一体何が。疑問の解を得る前に、彼女は鼻先まで迫った殺人鬼の顔を見た。

「仁杜からの伝言だ。お前ら、もう要らんとさ」

 現象の正体は単純だ。配置された色彩が役目を果たし切る前に、すべて物理的に切断されただけのこと。
 今回の色彩操作は小規模だった。芸当を可能とするのに必要な斬撃の数は三桁そこそこで済んだろう。
 これを一秒二秒の内に用立てる腕があれば、まあ、可能な御業というわけだ。

「つーわけで死んでけや。テメェらの素っ首並べて、コトネの墓標に飾ってやるよ」

 そんな技を持つ達人にとって、凡人に毛が生えた程度の少女二人の首など俎板の魚を卸すようなもの。
 死神の魔手はまたも音もなく振るわれたが、イリスを押し退けて割って入った男が一人。

「つれないじゃないか、セイバー。このカスターに挨拶もなしとは」

 ジョージ・アームストロング・カスターである。
 皮肉にも彼女から貸与されたサーベルを片手に、カスター将軍は原初の刀鍛冶と相対していた。

 現在、カスターの霊基は二つの後押しを受け強化されている。
 薊美の魅了魔術と、彼女が行使した令呪によるブーストだ。
 数値で言えば全ステータスが1ランク上昇している状態で、騎兵隊の首魁が見せる蛮勇は更にその烈しさを増していた――の、だが。

「レディと呼ぶには些か幼すぎるが、それでも袖にされると男の沽券が傷付くものだ」
「はぁ。別にテメェはどうでもいいんだけどな」
「……ッ。そう言わず踊ろうではないか、さァ――!」

 カスターは、刃を交えた瞬間に理解している。
 今目の前にいる彼女が受けている"加護"は、己が令嬢より賜ったものとは比較にならない。
 比喩でなく、まったく別の英霊と言っていい次元の強化がそのか細い手足に横溢しているのだ。

 幾度となく戦場に身を置き、戦雲の下で戦い、死をも超えた将校の魂が告げている。
 これは勝てない。もはや目の前の彼女は、真の意味での死神の領域に在る存在だ。
 故に結末は見えていたが、しかし少年将校は今も変わらず不退転。
 宿縁を乗り越えてより磨かれた蛮性が、戦士の矜持が、守るべき令嬢とその同盟者を守護する大義を選ばせる。

「邪魔だ」
「――――ぐ……ッ!」

 振るわれる剣、剣、剣――嵐の如く。
 一閃ごとに体格で圧倒的に優れている筈のカスターがたたらを踏み、体勢を乱されながら削られていく。
 速い。重い。剛柔内包どころの騒ぎではなく、その二つが極めて高度な次元で完全に融合していた。
 全動作が刹那。全動作が致命的。ヒトを殺すという概念の極北が、今カスターの目の前にある。

「――Massed fire!!」

 されどジョージ・アームストロング・カスターは剣士に非ず。
 敗北の見えた剣舞は、あくまで戦線を維持する一手段に過ぎない。
 彼の本質とは悪名高きソルジャー・ブルー、鏖殺の第七騎兵隊を指揮する権限なれば。

 ニウ・フェンリルの猛威は一旦後に置くしかない。
 幻の神獣と極限の技量を宿した達人、どちらが恐ろしいかなど考えるにも能わないのだから。
 フレンドリーファイアすら厭わない、カスター諸共射線へ巻き込んでの集中砲火。
 しかしこれに対して凶剣が取った選択肢は、誰もの理解を超えるものだった。

 "何もしない"。
 見ない、逃げない、撃ち落としすらしない。
 ただその場に佇んだまま、剣を操り続けるだけだ。
 なのに彼女の身体からは一滴の血も流れず、騎兵隊の存在が無いことかのように事が続いていくから不可解極まりなかった。

「はは、悪魔め……ッ」

 弾が自ら避けていくだなんて可笑しな話は起こっていない。
 彼女は実際、当たらないように工夫している。但し、人智を超えた技巧によって。
 要は剣を振るう殺陣の動きを、背後から迫る殺気/弾丸すべての軌道を計算に含めながら、リアルタイムで構築しているのだ。
 剣舞とはその名の通りひとつの舞踏。ならば当然実現できる、数多の剣閃を放ちつつ超高密度の弾幕を透かし続けるという芸当も。
 "生物の死"という概念への理解度が究極まで備えていることを条件にしていいのなら、そう難しいことではない。

「ほら、どうしたよ。そんなもんか、えぇ?」
「舐め――」
「そりゃ舐めるだろ。手前の体たらく見てから言えや」

 奮起の声を遮って、嘲笑。カスターの首筋が裂け、血が噴出する。
 英霊でなければ確実に致命傷だ。傷口を抑えながら地を蹴って下がる彼に、刀身の軌道をなぞって不可視の斬撃が伸びた。
 防げたのはほぼ奇跡。持ち前の悪運の強さだけが、彼我の絶望的な戦力差をギリギリの瀬戸際で繋ぎ止めている。

 更に踏み込もうとした凶手へ、文字通り降って湧いたのは蝗の群れだ。
 堕ちた虫螻の王、その眷属達が大陸を超えて南北戦争の英雄を助ける。
 稼いだ時間は須臾だったが、そこを演者の少女達が補った。
 吹き荒れる神殺しの火。飛来した白黒の槍は全方位から、矮躯を完全に圧潰させんと大質量をけしかける。

「づ――おおおおおぉおおおッ!!」

 各々の機転で窮地を救われたカスターも、即座に復帰して包囲網へ加わった。
 ライフルを引き抜き、照準を合わせて引き金を引く。
 狙いは喉元。派手好きの将軍にしては現実志向な狙い所だったが、彼に拘りを捨てさせるほど状況は切迫していた。

 蝗害が動きを止め、煌炎と白黒が押し潰し、急所を英雄の凶弾が穿く。
 陣営も目指す未来も、掲げる志も違う呉越同舟の一極集中。
 凶手が静かに剣を下ろす。その動作を諦めの産物と看做す蒙昧はこの場にいない。
 いや、そもそも追い詰めてすらいないのだと理解っていた。
 この挙措はただ単に、面倒事をより効率良く処理する手段があるからそっちに切り替えたというだけのこと。

「――――来い」

 短く命じた、次の瞬間。

「っ、薊美! 下がんな!!」
「……分かってる!」

 この場で唯一彼女の奥の手を知っているイリスが声を張り上げる。
 薊美は瞬時に意図を理解し、爆炎のジェット噴射で強引に距離を取りにかかったが、正解だった。

 凶剣の殺人鬼を発生源として、虚空から無数の武具が噴き出したのだ。
 濁流のように噴出したのは剣、槍、斧、小刀、暗器、……鉄で鍛えられるあらゆる凶器の見本市。
 武器庫の開帳と同時に、曲がりなりにも彼女を討ち取らんと迫っていたすべての殺意が鏖殺される。
 かつて彼女が失敗作と断じた試行錯誤の積み重ね。青春の腐乱死体。その切っ先が、峰が、柄が、か細い包囲網を硝子のように粉砕した。
 蝗を引き裂き、炎を捻じ伏せ、色彩を叩き割り、弾など油圧機にかけられたように圧し潰された。

 『死河山嶺(リミテッド・ブレイドアーカイブ)』、有限の剣製。
 千など優に超える、刀鍛冶の妄執のアーカイブは、その本数分の死を体現する。
 死による死の破却。死を弑する死。走る戦慄――モノを殺すということの究極が此処にある。

「は。おい、ンだよその顔は。ビビってんのか?」

 嗤う殺人鬼。原初の刀鍛冶、生涯を費やして最上の死を希求した生き物。
 たかがひと月、されどひと月。心を通わせた相棒を失った彼女は皮肉にもすべての無駄を削ぎ落とされた。

「――――テメェに言ってんだよ、クソ魔女」
「あ……」

 彼女は怒っている。この都市のすべてに。
 彼女は怒っている。大事なもの、守るべき尊厳。何もかもを取り零した自分自身に。
 拗れ、捻れた殺意は奇しくも、彼女に全盛期の冴えを取り戻させていた。

 眼光を向けた刹那、イリスの身体が宙に浮く。
 瞬速の接敵からの蹴り上げで腹をかち上げた。喀血する魔女には、反撃はおろか防御の暇も許さない。

「ち……!」

 舌打ちしながら救援に入ったのは伊原薊美。
 月を砕く上で、白黒の魔女の協力は最重要事項だ。
 カスターに指示を飛ばしていたのでは間に合わない。
 よって自ら炎剣を握り、煌々と瞬く殺意の炎を具現化させたが。

「テメェもだ。借り物の力でイキり立ってんじゃねえよ」

 つまらなそうに一瞥し、文字通り返す刀でその手からレーヴァテインを弾き飛ばした。
 殺陣の真髄、剣術の粋、そんなものにこの殺人鬼は微塵も興味がない。
 どうせ殺せば死ぬのだ。ならば追及すべきはそこに至るまでの速度であり、ましてや格下相手にあれこれ粋を心がけて何の意味がある。
 武器そのものを弾くという掟破り。無粋の極み。されどその無粋が、成りたての超人には特段によく効く。

「ロキの気まぐれに与ってそれか?」
「――あ……ッ」

 胸倉を掴み、引き寄せる。
 次いで抵抗も許されず、茨の王子が文字通り空転した。

「だったら辞めちまえよ。才能ねえから」

 廻る視界、三半規管を掻き回されるような吐き気に内臓が裏返る。
 模倣した色間魔術を駆使して咄嗟に防御用のヴェールを展開したが、苦し紛れなのは薊美自身分かっていた。
 展開前に切り刻まれて崩壊する楪家の神秘。
 丸裸にされた薊美の喉笛へ神速の刺突が音を置き去りにしながら迫る。

「テメェらは底が浅ぇ。酔いどれ同士で轡並べて、誰が一番屑か競い合ってる蛆虫だ」

 先は薊美がイリスを助けたが、今度は逆だった。
 〈蝗害〉の総体意思が割って入り、バットで閃撃を受け止める。

「おいおい、自虐になってンぜおチビちゃん。今のお前はその蛆虫の使いっ走りやってんだろうが」
「そうだな」

 しかし次の瞬間には、青年に擬態した数万匹の虫螻がすべて斬殺死体となって散らばった。
 『死河山嶺』で展開した剣の山。それを手当たり次第に掴んで、一斬毎に放り捨てながら舞う死の舞踏。
 一撃振るえば次、また次、次次次次。〈この世界の神〉をさえ圧倒した手数の極みが、月の加護に包まれて異界のソレへと昇華している。

「だから尚更、ムカついてんだよ」

 カスターが踏み込んだ。
 軍馬を駆り、持ち前の果敢な突撃(チャージ)と共に鋭烈なサーベルの一閃を操る。
 剣と剣が触れたと認識した時には既に、カスターの手許は崩され、体勢は半歩ほど外へ流されている。
 そこへ矮躯が潜り込んだ。低く、鋭く、獣のように、ただ最短距離を裂いて現れる死の線。
 咄嗟にサーベルを寝かせて受けたが、衝撃だけで腕がもげそうになる。

「私はお前らが嫌いだ。私にはもう、お前らが生きてるコトが許せない」

 改めて言葉にされた厭悪に、どこか自嘲するような色が滲んでいたのは果たして錯覚か。
 言葉と共に第二撃、第三撃。斬撃は嵐のようでありながら、一つとして無駄がない。
 重さで圧し、速さで置き去りにし。相手が受けに回ればその受けごと両断する。

 殺人と呼吸が同義になってしまった怪物の剣。
 打ち合いが成立しているように見えても、偉丈夫の身体には既に無数の斬痕が刻まれている。
 まるで嵐だ。彼が並外れた悪運の持ち主でなかったなら、とっくにその五体は挽肉と化していたろう。

「ぬぅうううぅううんッ!!」

 カスターは吼え、それでも強引にサーベルを捻じ込んだ。
 気迫で道をこじ開ける豪断である。
 だが殺人鬼は半身をずらすだけでそれを透かし、空振った腕へ自らの剣の峰を叩き込んだ。
 鈍い衝突音。痺れが肩まで駆け上がって、将軍の指が一瞬緩む。

 その一瞬で十分だった。
 浅く一歩踏み込み、ほとんど密着した距離から剣を閃かせる。
 死が英雄を撫でた。軍服が胸元から斜め上に裂け、遅れて鮮血が噴き上がった。

「が、ァ……!」

 ――此処までで、剣士の乱入から一分。
 わずか六十秒にして、王子と魔女の同盟は崩壊目前。
 誰も止められない。月との対峙を待たずして英雄譚は破綻する。

「ほら見ろ、一皮剥いたらこんなもんじゃねえか」

 下らない。つまらない。
 極限の失望が怒りと混ざって殺人鬼の激情を駆り立て続けていた。
 彼女こそは原初。生き竈のトバルカイン。
 女神の微睡みを守る遺命を仰せ遣った、鏖殺の暴力装置。

「こんな奴らのせいで、アイツは死んだのかよ」

 赤銅色の頭髪を苛立たしげに掻き毟り、唾を吐き捨てる。

「時間の無駄だった。もういい、終わらせてやる」

 その瞬間、巨大な影が砕月同盟の面々を覆い隠した。
 虚像の獣が、沙汰を告げる執行人のように九つの首を擡げる。
 女神は目障りな裏切り者達の死を望んでいる。
 万人を救う理を布いておきながら、自分の意に沿わないならあっさり排除を選択できる矛盾。
 燻る燃え殻と未達の人工星で乗り越えるには、この壁はあまりに巨大過ぎた。

 突き付けられた詰みに息を切らし、魔女はどう此処を脱するかに頭を巡らせていたが。
 茨の王子はそれとは対照的に――何故か皮肉げに口角を歪めていて。

「優しいんですね。まるで、私達を試してくれたみたい」
「あ?」

 戦闘の最中から抱いていた、ある違和感を口にした。
 確かにトバルカインは強大で、自分達は為す術もなく蹂躙された。
 言い訳のしようもない。彼我の戦力差は絶大であり、仮にカスターの殺戮結界を展開させたとしてもイフの介在する余地はなかっただろう。
 今の彼女なら不可視の銃撃だって当たり前に斬り伏せてのけるという負の信頼がある。やはり彼女に追い付かれた時点で、どうあがいても詰んでいたのだ。

「寝ぼけてんのか」
「この通り、おめめぱっちりですよ。
 じゃあ聞きますけど、貴女、どうしてそのオオカミさんと一緒に戦わなかったんですか?」

 ましてや追跡者、女神の猟犬ニウ・フェンリルまでいる始末。
 トバルカインと九頭狼が共闘しながら追い立ててきたら、今頃確実に全員死んでいた。

 が、結果はどうだ。
 散々にやられたとはいえ薊美もイリスも五体満足で生存しており、ニウ・フェンリルは何故かトバルカインの戦端に介入しようとしなかった。
 まるで誰かに、手を出すなと命じられていたかのように。
 そんなことをできる者が居るとするなら、それはトバルカイン以外にはあり得ない。

 では、何故?

「――――貴女。本当に、お姉さんの味方なの?」
「口を慎めよ糞餓鬼」

 殺意の桁が一気に膨れ上がり、薊美の唇が裂けて血が滴り落ちた。
 殺気だけで他人を殺せるのかと錯覚しそうな威圧は、しかし彼女の言葉がトバルカインの逆鱗を撫でた証左だ。

「安心しろよ、テメェらが心底嫌いなのは本当だ。
 生きながら家畜の餌にしてやりたいほど憎たらしい。念願叶って嬉しいよ」

 トバルカインには何かがある。
 主の遺命と女神の加護、そして霧中に隠されたもうひとつ。
 だがその答えを薊美達が知ることはない。
 テストは不合格。再受験の機会は二度と与えられないのだから。

「死ねや、グズ共が」

 ニウ・フェンリルが、飛び付くためにその巨体を低くした。
 トバルカインも改めて殺意を研ぎ澄ます。もはや遊びはないと、氷点下の闇を宿す双眸が告げていて。
 当然のようにバッドエンドは訪れる。
 天枷仁杜に対して失敗したのは薊美もイリスも同じ。
 恒星は完成し、女達はその輝きを再度仰ぐことなく磨り潰される――


「――――やあ、こりゃまた随分と姦しい。早起きだねぇ、お嬢さん方」


 ――そんな運命が、舞い降りた新たな暴力によって蹴り飛ばされた。


「■■■■■■ッ……!?」

 ニウ・フェンリルに向け、北東の方角から無数の矢が飛来してくる。
 圧倒的な破壊力を有しながら、しかしその照準は正確無比。
 ガトリング砲撃もかくやの矢雨に曝され、結合神獣の巨体が冗談みたいに吹き飛んで轟音を鳴らす。

「んむ? 妙な手応えだな。ははあ、そういうこと。夢幻の類かい」
「……誰だ、テメェ」

 呑気な口調でやって来た乱入者に、トバルカインの眦が向く。
 身を裂くような殺意を浴びて尚、彼女の貌は涼やかだった。

「んー、そうさね」

 女性の標準を大きく超えた、天を衝くような長身。
 その上痩躯ではなく、美しい肢体には肉食の獣を思わす強靭な筋肉が詰まっている。
 纏う存在感は月の加護を受け、霊基強化されたトバルカインと比べてもまったく劣っていない。
 浮かべる笑顔は絶世と呼んで余りあるのに、どうしても一挙一動から獰猛な剣呑さが滲み出る。

「通りすがりの狩人だよ。そんな大物見せられたら、山育ちの血が騒ぐってもんさ」

 クラス・アーチャー。真名をスカディ。
 月乙女の御膝元に顕れた――もう一体の"女神"であった。



◇◇



「ッ。なんでアイツが此処に……!?」
「知ってるんですか?」
「教えてやったでしょ。赤坂亜切のサーヴァント、女神スカディよ!」
「……へえ。あれが」

 〈妄信〉の狂人、嚇炎の悪鬼。
 赤坂亜切が召喚した、北欧の狩猟神だ。
 直近で言うなら新宿に異常気象を発生させ、季節外れの大寒波を引き起こした。

 楪依里朱は、かの女神と既に一戦交えている。
 結果は痛み分けに終わったが、重要なのはその時、彼女の〈蝗害〉は万全な状態であったということ。
 無限物量による事実上の不滅と、視界のすべてを喰らい尽くす規格外の凶暴性。
 それを併せ持った大厄災と、正面から切った張ったの勝負が出来る――女神スカディはそういう怪物なのだ。
 結果だけ見ればイリス達は彼女の乱入に救われた形になるが、だからと言って胸を撫で下ろせるわけがない。

「とにかく、あいつらが睨み合ってる間に逃げるよ。
 セイバーだけでも手に余るってのに、あんなバケモノ女まで来たら――」
「あぁそうだ、そこのお二人さん。今逃げたらアンタ達から狙うからな」
「――ッはぁ!?」

 わざわざ小声で耳打ちしたのに、一瞬で釘を刺されて魔女はキレた。
 耳元でヒステリー全開の咆哮を食らい、薊美の鼓膜はきんきん言っている。
 仁杜が『いーちゃんはゲーム中めっちゃブチギレるから、ディスコの音量下げてないと耳ないなるんだよ~』と(聞いてもないのに)話してくれたことを思い出した。

「そんな驚くことでもないだろ、白黒の。アンタ相変わらず見てて飽きないねぇ」
「……何。アギリの意向ってわけ?」

 イリスとアギリは、暗黙の不可侵状態にある。
 だから初回の小競り合いを除いて、これまでお互い積極的に潰し合おうとはしてこなかった。
 故に彼女が苛立つのも尤もだったが、スカディはよく吠える小型犬でも見るような顔でからからと笑う。

「あいにくアイツは出払っちまってるけどね。それでもその体たらくを見たら、つい潰したくもなるだろうさ」

 魔女の眼が苛立ちに見開かれる。
 すぐにでも〈蝗害〉をけしかけて踊り食いにしてやりたかったが、今の彼女には叶わない。
 そのことがスカディの発言に説得力を与えていた。 
 心身共に疲弊しきり、頼みの相棒さえまともに機能しない。それが現在の楪依里朱なのだ。

「――ま、それは嘘。本当のところを言うとだね、アタシ滅茶苦茶暇なんだよ」

 が、スカディはどこまでも気まぐれな女神だった。
 後のことを考えるなら此処でイリスらを摘み取るのが利口だろうに、彼女は一時の諧謔で最善手を投げ捨てる。

「アギリはガキのケツ追い回してるし、イイ男に会えたと思ったらこれからって時にお預けを食らっちまった。
 好きに暴れろとは言われてるけど、街がこんな有様なんだ、利口な奴らはどうせちょこまか逃げ回ってるだろ?
 どうしたもんかと悩んでたら、ちょうど追い込みかけられてるアンタ達を見つけてねぇ」

 何せあの赤坂亜切ですら、完全には手綱を握れなかった特記戦力である。
 生誕からして人間とは違う、異種族としての神の挙動をヒト如きが読めるわけがない。

「ほう。では、我々を援けてくれるということでよいのかね?」
「あー違う違う。流石にそこまで気前良くはないよ。
 とりあえずこいつらを片付けて、それからアンタらの値打ちを量ろうって腹さ」

 お眼鏡に適わなかったらどうなるかなんて確認するまでもなかった。
 その時は彼女の獲物が新たに二、三増えるだけだ。
 どうする、とカスターが薊美へ視線を送る。
 薊美はそれにこくりと頷いた。柔和な笑みを浮かべ、畏れることなく巨躯の女神へ口を開く。

「きっとご満足いただけると思いますよ」
「――へぇ、そいつはいい」

 ハードル上げんな馬鹿、とイリスが脇腹に肘鉄を入れたが、やはり茨の王子はどこ吹く風だ。
 スカディの指がイチイの矢を数本抜き取り、弓に番える。
 対峙するは原初の鍛冶師と、九頭を持つ結合神獣。

「待たせたね。じゃあ狩(や)り合おうか、金物屋」
「次から次へと、いけ好かねえヤツばっかり涌いてきやがる」

 戦場のギアが上がる。
 渦を巻く冷気は第二宝具の限定解除、巨人の進撃に付随して溢れる余波が小規模な冰期を拡げていく。

 ――暴力の神を殺戮の人が饗す、この世で最も血腥い舞踏会。


◇◇


 矢の一斉掃射。狩猟の神が本気で穿つ矢だ、一発一発が摩天楼の景観を大いに変える威力を持っている。
 そんな近代兵器も顔を青くして逃げ出すような大破壊が、巨躯に見合わない俊敏さで釣瓶撃ちされる。
 圧倒的な速度と威力、そして密度。しかし弾幕の中を、華奢な矮躯は当然のように潜り抜けていた。

「――ハ! いいね!」
「舐めンなよ婆」

 吶喊と回避の両立。その上で目視不能の超高速で剣を振るい、矢を切り捨てながらスカディに致死の斬撃を飛ばしていく。
 たとえ真実(まこと)の神であろうが、ヒトの形をしているならば何処を斬れば殺せるかは手に取るように分かる。
 トバルカインにとって神殺しなど、人間相手の殺害行為と何も差がない。
 『死河山嶺』は既に展開済み。最強の動作精度と最上の手数が、真っ向から人と神を拮抗させる。

 矢の弾幕に敗けじと喰らいつくのは剣の弾幕、閃撃の網。
 剣のリーチを超えて轟く斬波が頬を掠め、まずスカディが血を流した。
 しかし憤激するでもなく、それどころかますます歓喜の色を強めて狩猟狂が躍動する。

「そぉらァ!」
「しィィッ!」

 スキー板の薙ぎ払いと長剣の逆袈裟斬りが激突し、その衝撃で頭上の雲が真っ二つに割れた。
 剛力ではスカディに分がある。反動で後退させられたトバルカインへ、尚も襲い掛かる一撃爆砕の神矢。
 これを殺人鬼は顔を右に傾けるだけでいなし、百を超える剣戟でそれ以上の追撃を許さない。

 スカディの剛脚が杭を討つように大地を踏み砕いた。
 地震兵器もかくやの激震に足を取られる前に、トバルカインは跳躍。
 そのまま宙を足場に疾駆し、一瞬で距離を詰め首筋を狙う。
 機械めいた即断即決だったが、次に神が取る行動まではさしもの彼女も読めなかった。

「塩っぱい戦い方するねぇ。せっかく愉しい喧嘩になりそうなんだ、もっと腰据えてどっしりやろうよ」

 スカディは殺戮技巧の極みたるこの一閃を、腕を盾にして防御したのだ。
 当然肉が裂けて血が噴き出す。ただ、そこに通った骨までは断ち切れない。

 巨人外殻。
 神であると同時に巨人種でもあるスカディの肉体は、常に堅牢な鎧を纏ってるのと同義だ。
 刃が通っているだけでも十分驚嘆に値する成果だったが、無論そんな理屈は何の慰めにもならない。
 狂笑を浮かべた女神が、もう片方の手で自らの右腕にめり込んだ刃を掴み、力任せに握り砕く。
 巨人の握撃。規格外の筋力を前にしては人類史上最高の鍛冶師が鍛えた剣も、硝子細工と然程差がなかった。

「ち。猿が……!」
「まあ――アタシも人のこと言えた義理じゃないがねッ!」

 真上から降ってくる破城槌めいた衝撃。
 スキー板で以って、トバルカインが地へと叩き落される。
 五体が瞬時に圧潰するほどの威力だが、殺人鬼の技巧(わざ)は攻防一体。
 人を壊す手段を知り尽くしているのなら逆に、どうすれば人体が壊れないのかも当然修めている。

 額から血を流し、血痰を吐き捨てた。
 その程度の負傷に留めながら、新たに地から剣を抜く。
 そこでスカディは、真横からの大質量に打ち据えられた。

「■■■■■■■■――!」
「はは、どうどう。じゃれるなじゃれるな」

 ニウ・フェンリルの牙が、巨人の身体に食い込んでいる。
 だというのに当の本人はこの通り、むしろ微笑ましげに応じているから奇怪極まりない。
 頭を撫でるように九頭の一つを掴み、次の瞬間再び常識の枠組みをぶち壊す行動に出た。

「所詮まがい物だが、悪くないじゃないか。こっちの方が幾分か素直で可愛いよ」

 トバルカインと打ち合っていた時点で最初の三倍程度まで伸長していた体躯が、当たり前のように膨らんでいく。
 寸尺が四十尺を超えた辺りで、ニウ・フェンリルの巨体が地面から浮き上がった。

「なあ――ヴァナルガンドよ。アタシの旦那は旨かったかい?」

 持ち上げた九頭狼を、そのまま天から地へと投げ落とす。
 地面に巨大なクレーターが刻まれ、潰れた頭から脳漿が色とりどりの花を咲かせた。
 それでも半壊した頭で牙を剥き出し、偽りの神獣は百を優に超える狼牙で神を喰らわんと猛る。
 神々の黄昏にて、主神オーディンを、スカディの元夫を喰らい殺した忌まわしき狼(ヴァナルガンド)。

 血と内容物に塗れながら迫る姿に神々しさはなく、ひたすらに醜悪なだけだ。
 九つの頭で月女神の敵を喰らい尽くす、月光夢幻神界の使徒。
 大元のフェンリルの要素など欠片も残していないし、そもそも制作者は理解する気さえ皆無。
 そんな張りぼての生物兵器に、スカディは憐れむでもなく矢の暴風を叩き込んでいく。

「■――ァ――■■■■――■■■■■■■――」
「なんだ、何か言ってるのか?」
「■■――■■■――■■■■■■■■――!」

 そう。ニウ・フェンリルとは、天枷仁杜の幻術によって生み出された被造物である。
 彼女が奇術王から継承した秘術は、世界そのものを欺く魔法に等しい大魔術。
 凡そ完全無欠に近い能力だが、それでも付け入る隙がないわけではない。

 幻を幻と理解し、まったく恐れない強い心を持ち続けること。
 それが出来れば夢幻の存在から受けるダメージは一定量軽減され、こちらの攻撃も届きやすくなる。
 とはいえ言うは易く行うは難し。理屈で分かっていたとしても、実際に実現できる者などまず居ない。
 それほどまでにウートガルズの幻は凶悪無比。故にこそウートガルザ・ロキは最強の英霊と称されたのだが――

「いいよ、もっとはっきり言ってご覧。知らない仲でもないんだ、遺言くらいは聞いてやるさ」

 スカディは、初見にしてその要求を完全にこなしていた。
 彼女の心は真実不動、敵が何であれ微塵も心象を変えない凪の境地。
 神の中でも一際生死の流転に対しドライな価値観を持つこの女神を相手に、精神(こころ)の比べ合いを挑むなど無謀に尽きる。

 故にその矢は、フェンリルの九体合成という悪夢を身も蓋もなく捻じ伏せていく。
 既にニウ・フェンリルは、生き物と呼ぶに足る構造(カタチ)を失って久しい。
 増やした頭は悉く射抜かれて潰れ、胴も肉塊と化し、そこから無数の足が生えて蠢く様は狼というより蜘蛛を思わせた。

「星の大海に浮かぶ慈母たる月の眼窩から滴り落ちる羊水は甘美に尽きたるメタンフェタミンとなりて甘やかな糖蜜の洪水を以ち衆生を救済し遠く途切れぬ午睡の渦に小繭蜂の遊泳海岸を築き億万光年に拡がる天上楽土の藪知らずで踊る稲の舞踏会が」
「ははは」

 もはや口と呼べる部分も消失した肉の内側から響く、黒板を引っ掻くような不快周波数のウィスパーボイス。
 或いは月光夢幻神界のソースコードとも呼べたかもしれない、読経めいた調子の遺言を聞いたスカディは苦笑。

「悪い悪い。やっぱ、何言ってんのか全然分かんないわ」

 そのまま足を振り上げて、囀る月の眷属を踏み潰した。
 ニウ・フェンリルを討伐したことを誇るでもなく、視線は本命の方へと向かう。
 刹那、回転する断頭台が彼女の腕を這い上がりながら無残に刻んだ。

 小柄な身体を活かし、肉体そのものを廻しながら斬り込むことで斬撃の破壊力を数倍にも底上げさせる。
 巨人外殻を断つためのアイデアを考案から即実行へ移し、実際に成功させる技量の冴えはどんな語句でも不足なほど異常だった。
 スカディは斬られながら腕を跳ね上げ、トバルカインを宙に舞い上げる。

「痒いねぇ。もっとよく研ぎな、おチビちゃん」
「死ね」

 ストックしていた刃物を、巨人の眼球に向けて投擲。
 殺人鬼の能は斬る、刺す、だけに非ず。
 投げて穿つ、射ち殺す。そうした技も当然彼女は修めていた。

 が、相対する敵は肉体性能の究極。
 急所狙いの投擲に対しスカディが取った行動は、ただの瞬きだった。
 瞼を上から下に下ろす。それだけで最上の鍛冶師が鍛えた剣刃が砕け、用を成さなくなる。
 眼瞼筋の力だけで無刀取りに挑み、本来期待される成果以上の結果を当たり前みたいに勝ち取る理不尽。

「はッはァ――!」
「遅えよ能なし」

 偉業から間髪入れずばら撒かれる死の矢雨を、トバルカインも刹那で全弾切り落とす。
 常人には理解することさえ能わない、肉と技のすべてを注ぎ込んだような攻防が繰り広げられていた。

「せぇ――ッ!」
「ヌルいよ、型なし」

 意趣返しの挑発を吐きながら、返す刀の一閃を今度は逆に弓射で破壊する。
 必殺と必殺が正面切って殺し合うとどうなるか、そんな命題の答えが此処にあった。
 血風舞い散る千日手。伯仲した死線と死線が、一秒ごとに想像の限界を超えていく。

 応酬の中で、いつしかトバルカインも少なくない量の血を流していた。
 何せ相手はもはや三十メートルにも達そうかというサイズの巨人。
 矢や得物の直撃は避けられても、そこに付随する殺人的な衝撃波を無視するのには限度がある。
 肩を上下させ、明確な疲弊の色を覗かせるようになって久しい。

「どうしたね。もう終わりかい?」
「……、……」

 目に見える傷は遥かに多いスカディが、なのに上位者の余裕を滲ませて彼女を煽る。
 それを受けたトバルカインは、区切りを付けるように大きく息を吐き出した。

「――――四の五の言っちゃられねえか」

 切り札の開帳めいた科白だが、行動はまったくの真逆。
 握っていた剣を静かに下ろし、展開した武器庫を閉じる。
 地に散らばり、今や周りの建物の壁面にさえ生え散らかした剣山が、みるみる内にその姿を消していく。

 殺せない相手ではない。彼女はスカディをそう認識していた。
 だが、この調子では首級までの道のりが遠すぎる。
 仁杜の加護を受けてさえそうなのだ。本物の神霊が如何に強大か、否応なしに思い知らされた。
 このまま戦いを続ければ、いずれは巨人女神の首を落とせるかもしれない。
 しかしよしんば勝てたとして、こちらの余力がどれほど残るか判然としなかった。
 神界の領地は加速度的に拡大しているが、まだ自分の成すべき仕事は残っている。
 となれば此処で後先考えずすべて出し切るわけにはいかない――よって、次に取る行動は決定した。

 踵を返し、地面を蹴って風になる。
 但し進む先はスカディとはまったくの逆方向。
 つまり狙いは撤退だ。さりとて、みすみすそれをやらせる雪靴の女神ではない。

「『夜天輝く巨人の瞳(スリング・スィアチ)』――!」

 天に瞬く父神の双眸。
 大いなる眼差しが収斂し、二対の光矢が凛と閃く。

「やれやれ、どいつもこいつも無粋じゃないか。そろそろ生きるか死ぬか、不退転の覚悟ってヤツを魅せて欲しいんだがねぇ!」

 更にスカディ自身も放つ、必殺の精密射撃。
 トバルカインの姿が、光の中に覆い隠されていく。
 たかが射撃によって響くとは思えない、鼓膜が消し飛ぶような大音響が震撼して。

 そして――


「ち。あーあ、まあ日が昇っちまってるからな。こんなもんか」


 血溜まりを残して空蝉した好敵手を、スカディは"仕損じた"と判断した。
 彼女が天に戴く射撃統制装置はその性質上、夜間にこそ真価を発揮する。
 されど既に夜は明け日は昇り、星の輝きは青光のレイリー散乱によって希釈されてしまっていた。

 その上で神と斬り結べるほどの腕が合わされば、必殺の射撃から逃れることもまあ、可能ではあろう。
 重傷を負わせた手応えはあったが、完成した恒星(カミ)の眷属があれしきで沈むとも思えない。

 追うか追わないかの判断は、結局前者を選ぶことにした。
 此処で自分が消えればイリス達は雲隠れするだろうし、何よりトバルカインが最後に零した言葉が気になる。
 アレはそれこそ不退転の覚悟、その顕れだ。
 どこか冷めた態度で戦いに臨んでいた殺人鬼が、遂に抜き身の魂を晒す決意を固めた。そういう風に、スカディは件の科白を聞き取った。

 ならば追う方が無粋だろう。
 遠からず、自分はもう一度あのセイバーと相見える筈だ。
 楽しみはその時に取っておき、熟成させて味わうのが利口だと判断したらしい。
 弓を納め、腕を一振りして滴る血を吹き飛ばす。
 傷口はそれなりに深かったが当然の如く行動の継続に支障はないようだ。
 彼女という巨人/女神にとって手傷とは即ち致命傷のみを指す言葉で、そうでないならすべて無傷と変わらない。

「さて。それじゃ」

 元の寸尺に戻りながら、獰猛な狩人が振り返る。
 少女達は言いつけ通り、逃げずに留まっていた。
 賢明な判断である。もし忠告を破って逃げ出していたら、スカディは必ずや報いを与えていた筈だから。
 神を欺いてはならない。神との誓いを破ってはならない。

「――話を聞かせて貰おうか。満足させてくれるんだろう?」

 神に吐いた唾を、飲むことはできない。
 友好と冷徹を同居させた貌で見つめるスカディに、伊原薊美はそれとまったく同じ表情をして、静かにその巨体を見上げた。



◇◇



「ははあ、成程成程。
 この耳障りなラジオ放送を撒き散らしてる、月の神とやらを弑しに行くと」

 薊美の語る内容を、スカディは愉快げに頷きながら聞き終えた。
 月女神・天枷仁杜。恒星の資格者、その完成形。
 目の前のか弱い少女達は、これから神の首を獲りに向かうというのだ。

 しかも面白いのが、それが打算に基づく行動ではないこと。
 放置しておけば危ないからとか、聖杯戦争を破綻させないためだとか。
 そんなありふれた動機ではなく、己の矜持のために月を墜とすのだと薊美は豪語した。
 その決意表明をスカディがどんな心境で聞いていたかは、彼女の吊り上がった口角を見れば察せられたろう。

「いいじゃないか。なかなかアタシ好みの発想だよ。
 誰にだって譲れないモノってのはあるが、大事なのはそれを害された時にちゃんと行動出来るかさ。
 かく言うアタシも昔、特大の不義理を働かれてねぇ。いけ好かない神々の奥歯をガタガタ言わせてやったもんだ」

 故に満足である。こうも雄々しく語られて、不興を抱く筈もない。
 どだいスカディは父神を殺されて怒り狂いながらアースガルドへ突撃した女傑。
 命知らずは好ましく、蛮勇はいじらしい。
 眼差しが、少女の握る神殺しの剣を見据えた。

「そいつは誰に貰ったんだい?」
「ウートガルズの奇術王です。色々あって、結局形見になっちゃったけど」
「あっはっはっは! 合点行ったよ、そうかあの悪ガキが絡んでたわけかい!」

 自分の命を狙う不穏分子にこんなものを授けるなど、実に性格の悪いことだ。
 ウートガルズの王、もうひとりのロキ。
 彼は悪意のままに跳梁し、愛に殉じてこの都市を去った。

「奴さんも残念だと思うよ。せっかく蒔いた種が実を結ぶところを、結局見られずじまいってんだから」

 伊原薊美――贋りのレーヴァテインを操り、都市のスルトにならんとする女。
 鋼の恒星は今も未成熟で、この程度の出来栄えで曲がりなりにも神の資格を持つ相手に挑もうとするなど自殺行為も甚だしい。
 確かに成長速度は目を瞠るものがあるだろうが、それでも現在の彼女の実力は、手負いの楪依里朱をどうにか追い詰められる程度に留まっている。
 蜘蛛の糸のようにか細い勝算に縋って翔ぶ姿は、夜空の星というよりも火に向かって飛ぶ色鮮やかな蛾を思わせた。

 道化で終わるか、主役の座を奪い取るか。
 所詮他所様の餓鬼だが、その命題はスカディの興味を惹いたらしい。

「うん、なかなか気に入った。どうせ暇だしね、アタシも力添えしてやろう」
「――――は?」

 挙句さらりとこんなことを言い出したものだから、イリスが信じられない物を見るような顔をしたのも当然だった。

「さっきも言ったろ、手持ち無沙汰で暇なんだよ。
 それにウチの坊っちゃんも、このお節介な神託モドキにはご立腹みたいでね」

 月女神の囁きは、結界内のあらゆる生命体へ平等に降り注ぐ。
 諦めていいよ、逃げていいよ、何もしなくていいんだよと救う声は、しかし聴かされる側の事情など一切斟酌していない。
 現にもう既に一本、虎の尾を踏んでいた。昏く捻れた情念の火を燃やす、嚇炎の悪鬼という狂獣の尾を。

「どうせ誰かが潰さなきゃいけない敵なら、皆で仲良く吠え面拝みに行こうじゃないのさ。そう悪い話じゃないと思うけど?」

 この展開は、さしもの薊美も予想外だったらしい。
 とりあえずちらりとイリスの方を見る。
 白黒の魔女は本当に嫌そうな顔でぶんぶん首を振った。
 人間、こんなに表情だけで"勘弁してくれ"って気持ちを表に出せるのかと薊美は思う。

「無理。ていうか無茶。こんな自然災害みたいな奴と足並みなんて揃えられるわけないから」
「そんな酷いの、この人」
「……女と見たら誰彼構わず自分の姉か妹か判定したがる男がいたとする。あんたはそいつをどう思う?」
「それは、まあ。だいぶエキセントリックな変態ですね」
「その男が持て余してる女よ、このデカブツは」

 マジのNGを出されたことが不服なのか、スカディは唇を突き出していた。

「おいおい魔女っ子。アンタは揉み手して頭下げる立場だろ?
 現代の魔術師にしては出来るのは認めるが、飛蝗がそのザマじゃだいぶ苦しいんじゃないかい」
「どうも、無能です」
「お前は黙ってろ」

 まともに動けないと言ってるのに先ほどから度々駆り出されて辟易してるのか、シストセルカが顔だけ実体化して一ボケ挟んできた。
 エルボーでそれを蹴散らしながら、イリスは「あ゛~~……!」と濁った声をあげる。
 彼女は直情的ではあるものの、決して馬鹿ではない。
 スカディの言っていること自体は正論だと分かるからこそ、尚更頭を掻き毟りたい気分だった。

「……ふむ」

 薊美は腕を組み、思案する。
 頭抜けた力こそあるが、制御の利かない暴れ馬。
 ましてや自分達に彼女を律することのできる手札はなく、もし見限られた日には打つ手がない。
 ハイリスク・ハイリターンだ。しかし伊原薊美は茨の王子、己の肥大化のためならば清濁すべてを喰らい尽くす人造のマグネター。

 いざ己の歩む道を再確認すれば、返す答えなど最初から決まっている。
 寧ろ一時でも戸惑ったことを只人の名残として恥じるべきだ。そう考え至り、顔と心を切り替える。
 ひとかけらの拙さもない、至高の令嬢。そういう、王者の相へ。

「じゃあお願いします。イリスさんに着いて貰っていいですか?」
「おい」
「よし来た。承ってあげよう、特別だよ」
「おい……!」

 青筋を立てながら抗議するイリスだが、只でさえ狂人同士は不倶戴天。
 おまけに英霊の格で言えば六人の中で最も高い難物を押し付けられたのだから怒るのも無理はない。
 これから比喩でなく命を賭けた戦いに臨もうというのに、何が悲しくて自ら進んで内憂を抱え込まねばならないのか。
 イリスは初めて、薊美に対して祓葉や仁杜といった"前例"達と似たものを感じ取った。
 当然みたいな顔して無茶苦茶をやらかし振り回してくる、そういうところまで真似なくていいだろうがとブチギレた。

「で、まあ、状況は大体分かってる。
 アギリは恒星のなんたらって呼んでたが、要するにグランドの代替だろ?
 ついでに不良債権の処理も兼ねようって辺りは、抑止(れんちゅう)らしい性格の悪さだが」
「――ふむ、ふむ。なるほど」

 ちなみに、此処で当たり前の話をひとつしておくが。
 伊原薊美は、針音都市への招来にあたり、オルフィレウスの手で後天的に魔術回路を付与された"成りたて(ルーキー)"である。
 にも関わらず既に自身の力の輪郭を認識し、イリスのような歴の長い魔術師へ抗戦できる実力を獲得しているのは驚嘆の一言だ。

 ……だが、まあ、それはそれとして。
 才能ではどうしても埋めがたいものも、世の中にはあるわけで。

「イリスさん、解説お願いします」
「……、はぁあぁぁあぁぁあぁあぁ……!」

 今一度友情の終焉を目指すと決めた魔女は、遂げる前に暫く受難の時間を過ごすことになりそうだった。



◇◇



 少女の薄い腹筋に、抉るような矢傷が広がっていた。
 ともすれば中身が溢れても不思議ではない深さだが、トバルカインはこれを、適当な針金で乱雑に縫い合わせていく。
 撤退の代償は大きかった。分かったことは、やはり付け焼き刃では"本物"には敵わないということ。

 だがそれ以上に、得られたものもある。
 この期に及んでずっと女々しく燻っていた感情に、スカディのお陰でようやく踏ん切りを付けることが出来た。

「借り物の力でイキるな、か。はは、よく言えたもんだナ」

 自嘲し、トバルカインは半ばから折れた剣をゴミでも放るように投げ捨てた。
 しあわせな夢から目覚めた時はいつも虚しい。
 それが人生を費やして眺めた胡蝶の夢なら尚更だ。
 あの日、彼女という胡蝶は潰れ、忘れていた現実が戻ってきた。

 高天小都音が、天枷仁杜の超常性を見て己の身の程を知ったように。
 自分の生涯とは結局のところ地に足着いたものでしかなく、願った空に到ることはないのだと理解ってしまった。
 そこが彼女にとっての幼年期の終わり。夢見る創作者の頁は閉じられ、後に残るのは惰性だけだった。

 だが、どうだ。
 世界は夢に堕ちた。
 辛い現実を拒んで、己の友が命を懸けて守った女は壊れ果てた。

 トバルカインは怒っている。
 小都音を死に追いやったイリスに。
 その信頼を裏切った薊美に。
 友の想いすら我が身可愛さで歪めてしまう仁杜に。
 間違いを積み重ねるしか能のない、狂った世界に。

「――――ふざけやがって。いつまで不貞腐れてるつもりだ、この腰抜けが」

 そして何より、何も守れず、果たせず、空を掴むばかりの己自身に。

 先の苦渋を皮切りに、トバルカインもまた現実を去る。
 戻る先は、かつて放逐された理想(ユメ)の道半ば。
 潰れた身体で足を持ち上げ、破れた羽根を引きずって再び天を目指そう。
 少年のように夢見、少女のように焦がれたその境地を、今こそもう一度求めるのだ。


 即ち"究極の一振り"。
 すべての凶器を過去にする、最強の死(マスターピース)を。

 心臓に灯す熱が、何もかもを焼き尽くす黒炎であろうと構わない。
 いや、そうであるべきだ。
 己が憤るあらゆる不快を、意のままに断ち切る刃が欲しい。
 一切鏖殺の冥府魔道を地で行く、あまねく命の終着点を。
 間違いの集積で肥やされた星色のアーカイブを締め括る、弥終の凶刃を此処に求める。


「は、は」

 脳細胞がブチブチと自ら潰れていくのが分かる。
 過剰な思考は英霊の身でさえ耐え切れず、ともすれば存在ごと罅割れそうだ。
 それほどの執念。それほどの狂念。それをトバルカインは、懐かしいと思った。
 ああ、これはまさしく。かつて己が常に灼かれていた、探究の火ではないか。

「コトネ。お前さぁ、やっぱ向いてねえよ」

 もういない半身に叩く軽口は、素直じゃない彼女が自分なりに紡ぐ謝罪だった。

「呪いってのは、もっとよく考えてかけるもんだぜ」

 仁杜を守れ。ああ承った。
 仁杜を孤独にするな。しょうがねえなぁ。
 仁杜が笑えるように、助けてやれ。やってやるさ。

 その志に嘘はない。
 だが、トバルカインが目指している結末は実のところ、月女神が望む未来とはカタチを異にする。
 自分の選び取ったこの道が、間違いだらけの世界を正す最後にして唯一の"正解"になると信じて。


 ――死骸の胡蝶は、女神を護る、"最強"の死神になると誓った。



◇◇



【月光夢幻神界〈渋谷〉・北東部/二日目・早朝】

【伊原薊美】
[状態]:魔力消費(大)、頭痛と疲労(大)、魅了(自己核星)
[令呪]:残り二画
[装備]:
[道具]:騎兵隊の六連装拳銃、『災禍なる太陽が如き剣(レーヴァテイン)』
[所持金]:学生としてはかなりの余裕がある
[思考・状況]
基本方針:全てを踏み潰してでも、生き残る。
0:女神を討つ。そして私は、恒星に至ってみせる。
1:私は何にだって成れる、成ってやる、たとえカミサマにだって。
2:殺す。絶対に。どんな手を使ってでも。
3:太陽は孤高が嫌いなんだろうか。だとしたら、よくわからない。
4:最後に首を獲るのは私。でも、そのためには準備が必要みたいだ。
[備考]
※マンションで一人暮らしをしています。裕福な実家からの仕送りもあり、金銭的には相応の余裕があります。
※〈太陽〉と〈月〉を知りました。
※自らの異能を活かすヒントをカスターから授かりました。

→上記ヒントに加え、神寂祓葉と天枷仁杜、二種の光の影響によって、魅了魔術が進化しました。

『魅了魔術:他者彩明・碧の行軍』
 周囲に強烈な攻勢魅了を施し、敵対者には拘束等のデバフ、同盟者には士気高揚等のバフを振りまく。

『魅了魔術:自己核星・茨の戴冠』
 己自身に深い魅了を施し、記憶した魔術や身体技術の模倣を実行する。
 降ろした魔術、身体技術の再現度は薊美の魔術回路との相性や身体的限界によって大きく異なる。
 ただし、この自己魅了の本質は単なる模倣・劣化コピーではなく。
 取得した無数の『演技』が、薊美の独自解釈や組み合わせによって、彼女だけの武器に変質する点にある。

※ウートガルザ・ロキから幻術による再現宝具を授かりました。
 ・『災禍なる太陽が如き剣(レーヴァテイン)』
 対神、対生命特攻。巨人の武具であり、神の武具であり、破滅の招来そのものである神造兵装――の、再現品。
 ロキの幻術で生み出された武器であるため、薊美が夢を見ている限り彼女のための神殺剣として機能を果たす。
 逆に薊美が現実を見れば見るほど弱体化し、夢見ることを忘れた瞬間にカタチを失い霧散する午睡の夢。
 セキュリティとして術者であるロキ、そして彼の愛しの月である天枷仁杜に対して使おうとすると内蔵された魔術と呪いが担い手を速やかに殺害する仕組みが誂われている。
 サイズや重量は薊美の体躯でも扱える程度に調整されている様子。

 →ロキの消滅により、仁杜に対し使用できない呪いが消えているようです。


【ライダー(ジョージ・アームストロング・カスター)】
[状態]:疲労(大)、心臓にダメージ(中)、左鎖骨切断、複数の裂傷と刀傷、魅了
[装備]:華美な六連装拳銃、業物のサーベル(トバルカインからもらった。とっても気に入っている)
[道具]:派手なサーベル、ライフル、軍馬(呼べばすぐに来る)
[所持金]:マスターから幾らか貰っている(淑女に金銭面で依存するのは恥ずべきことだが、文化的生活のためには仕方のないことだと開き直っている)
[思考・状況]
基本方針:勝利の栄光を我が手に。
0:Hmm。また凄いゲストが来たものだ。
1:神へ挑まねば、我々の道は拓かれない。
[備考]
※魔力さえあれば予備の武器や軍馬は呼び出せるようです。
※シッティング・ブルの存在を確信しました。

※エパメイノンダスから以下の情報を得ました。
 ①『赤坂亜切』『蛇杖堂寂句』『ホムンクルス36号』『ノクト・サムスタンプ』並びに<一回目>に関する情報。
 ②神寂祓葉のサーヴァントの真名『オルフィレウス』。
 ③キャスター(ウートガルザ・ロキ)の宝具が幻術であること、及びその対処法。
※神寂祓葉、オルフィレウスが聖杯戦争の果てに“何らかの進化/変革”を起こす可能性に思い至りました。
※“この世界の神”が未完成である可能性を推測しました。

※令呪および、伊原薊美の魅了魔術によって霊基が強化されました。


【楪依里朱】
[状態]:疲労(大)、腹部にダメージ(中)、魔力消費(大/色間魔術により回復中)、強烈な自己嫌悪、未練
[令呪]:残り一画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:数十万円
[思考・状況]
基本方針:優勝する。そして……?
0:いい加減にしろよこいつら……
1:祓葉を殺す。
2:にーとを今度こそ、必ず終わらせる。できれば、私の手で。
3:薊美に対しては微妙な気持ち。間違いなく敵なのだが、なんというか――。
4:このデカ女(スカディ)を連れてくとかマジで言ってんのか????
[備考]
※天枷仁杜(〈NEETY GIRL〉)とネットゲームを介して繋がっています。
 必要があればトークアプリを通じて連絡を取ることが出来るでしょう。
※蛇杖堂記念病院での一連の戦闘についてライダー(シストセルカ)から聞きました。
※今の〈脱出王〉が女性であることを把握しました。

【ライダー(シストセルカ・グレガリア)】
[状態]:総軍、やる気なし、弱体化状態
[装備]:バット(バッタ製)
[道具]:
[所持金]:百万円くらい。遊び人なので、結構持ってる。
[思考・状況]
基本方針:好き放題。金に食事に女に暴力!
0:うん、やっぱりまともに動けねえわ。メンゴ!
1:祓葉にはいずれ借りを返したいが、まあ今は無理だわな。
2:煌星満天、いいなァ~。
[備考]
※イリスに令呪で命令させ、寒さに耐性を持った個体を大量生産することに成功しました。
 今後誕生するサバクトビバッタは、高確率で同様の耐性を有して生まれてきます。
※総軍を結集させました。再度散らすまで、戦闘時の魔力消費が大きく増加します。
※『月光夢幻神界』の堕落の法による影響をきわめて強く受けるようです。
 かなりの弱体化を被っており、戦闘能力は甘く見て平時の一割程度。


【アーチャー(スカディ)】
[状態]:疲労(中)、右腕が刀傷でズタボロ(行動に支障なし)、複数の裂傷
[装備]:イチイの大弓、スキー板。
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:狩りを楽しむ。
0:月女神の討伐に力添えする。アギリもアレは気に入らないみたいだし、丁度いいだろ。
1:向こうのゴタゴタが済んだらランサー(ルー)を再び狙う。逃がさないよ、色男。
2:日中はある程度力を抑え、夜間に本格的な狩りを実行する。
3:マキナはかわいいね。生きて再会できたら、また話そうじゃないか。
4:ランサー(アンタレス)を獲る。一皮剥けたようだしね、食べ頃だろ。
5:キャスター(シッティング・ブル)は一度見逃す。ただし次は必ず狩る。
6:面白いことをやるヤツがいるもんだ。懐かしい匂いだが、同郷のナニカかな?
7:伊原薊美。ふぅん。
8:セイバー(トバルカイン)とはまたやり合う予感がする。非常に楽しみ。
[備考]
※ランサー(ギルタブリル/天蠍アンタレス)の宝具を受けました。
 強引に取り除きましたが、どの程度効いたかと彼女の真名に気付いたかどうかはおまかせします。


【月光夢幻神界〈渋谷〉・北東部?/二日目・早朝】

【セイバー(トバルカイン)】
[状態]:〈夢追人(ドリーマー)〉、全身にダメージ(大)、腹部に矢傷(処置済)、激しい怒り、高天小都音からの令呪、霊基強化
[装備]:トバルカイン謹製の刃物(総数不明)
[道具]:
[所持金]:数千円(おこづかい)
[思考・状況]
基本方針:――ああ、分かったよ。コトネ。
0:〈究極の一振り〉を鍛える。すべての間違いを正せる、天衣無縫の死を。
1:腐るのはもうやめだ。
2:お前ら全員、私が殺してやる。
3:神寂祓葉の倒し方に見当が付いた。が、これ結局同じクソゲーさせられるだけじゃないか?
[備考]
※天枷仁杜と再契約しました。
※祓葉を倒せるかもしれない方法に思い至ったようですが、あまり釈然としていません。
※マスターが完成した恒星である仁杜に変更されたことで、霊基性能が向上しています。


[全体備考]
※この話の時点で、〈月光夢幻神界〉の侵略状況は以下の通りです。
 ・陥落……渋谷区、目黒区、港区、世田谷区、中野区
 ・陥落目前……新宿区
 ・浸潤開始……品川区、千代田区、中央区、練馬区
 ・例外……杉並区。残り二時間程度はランサー(カドモス)の宝具により抵抗が可能な見通し。




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最終更新:2026年04月22日 00:54