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 時は、七番目の狂人が寝殿への入城を許されてから数十分後。

 永久に鎖された女神の城の前に、すべての役者は集っていた。
 出迎えるのは舞台役者と将校、魔女と厄災、旧き神代の狩人。
 相対するのは偶像と悪魔、人形と髑髏、狼と奇術師、そして雷光と弓神。
 頭数にして十三、主従だけでさえ六組。通常の聖杯戦争ではまず一堂に会することのない人数が結集している。
 ともすれば一触即発と化しても不思議でない状況だが、にも関わらず誰一人として口火を切る気配は見せていない。
 恒星神の討伐という埒外の命題が、その他様々な不倶戴天の動機を些事に貶めていたからだ。

「久しいな、イリス。息災……とは言い難いようだが、心境の変化でもあったのか」
「殺すわよ、ホムンクルス。あんたにだけは変化云々言われたくないわ」

 ホムンクルス36号に対する楪依里朱の面差しはまるで珍獣でも見るかのようなソレだった。
 しかし無理もないだろう。
 ガーンドレッド肝煎りの人造生命体が、少し見ない間に普通の子供大のサイズにまで成長していたのだ。
 臆病者の一族が道具に成長性などというリスキーな概念を搭載するとは思えず、全く以って経緯が想像できない。
 ひとつだけ確かなことは、彼にもまた、それまでの価値観をぶち壊すような青天の霹靂があったらしい事。
 自分然り彼然り、やはり此度の舞台はただの再演などではないらしい。既知の天井を粉々に打ち砕き、遥かの銀河にまであらゆる級位を跳ね上げる、増長慢上等の大蠱毒か。

「私だってあんたみたいな根暗と組むなんてしたくないっての。ましてやその厄ネタ、よくもまあ平然と連れ回せるものね。喧嘩売ってんのかしら」
「サーヴァントは現世での記憶を継承しない。おまえほどの魔術師ならば知っているものと思ったが、買い被りだったか?」

 それはさておき、〈はじまりの六人〉はあいも変わらず不倶戴天。
 結果的にはイリス達の同盟を利する形で退場したホムンクルスでさえこれなのだ。
 先が思いやられるとはまさにこのことだったが、今回譲ったのは魔女の側だった。

「……で、首尾はどうなの。何か解った?」
「"城"自体については、直接対峙して得たデータとそう変わらん。
 究極の概念防護、正面突破は不可能。事実の再確認止まりだな。
 よってむしろ問題は、先刻この場所で展開された結界術の方だろう」

 啀み合っている場合ではない。そんな当たり前で譲歩することが狂人共にとってはひどく難しい。
 なのに赤坂亜切と並ぶ凶暴の最右翼格であったイリスがそれをする辺りが、事の重大さを物語っている。

「残滓の解析を行った結果、率直に言って戦慄した。恐ろしく位の高い術師だ。現代にこの域の使い手は存在しないだろう」

 ホムンクルス――ミロクも、彼女が譲るなら不毛な罵り合いを続ける気はないようだ。
 端的に伝えられる解析結果。月の絶対防御の凄まじさは再三に渡り伝えてきた通りで、しかし今回はそれとは別の発見があった。
 無明の領域を展開し、誰もに有無を言わせることなく、悠々と入城を果たした一組の主従。
 スカディ曰く"陰陽師"。推定、月側に与したと思われる影法師達が残した痕跡は、叡智の人形をして背筋を寒からしめるものだったらしい。

「本当に天枷仁杜と足並みを揃えて戦ってくるならきわめて厄介だ。可能なら、本番を迎える前に排除したいが――」

 そこでミロクは、ゲオルク・ファウストへと視線を移す。
 貴殿も知恵を出せ、という無言の促し。
 些か横柄、というか傲岸な挙措だったが、当の彼もそれは臨むところ。

「楪さん。〈蝗害〉の戦力投入はやはり難しいでしょうか」
「そうね。一応奥の手はないではないけど、できるならあまり切りたくはない手段。少なくとも、本命以前の障害物に使うのは論外」

 ファウストにとって最大の誤算と言ってもいいのが、イリスの〈蝗害〉を頼れないことだった。
 虫螻の王シストセルカ・グレガリア。その猛威はファウスト自身、相棒共々身を以て体感している。
 無限大の物量に物を言わせた圧倒的攻撃力もさることながら、暴食の飛蝗達は今聖杯戦争随一の結界殺しだ。
 ともすれば女神の方陣を崩す働きも期待できるかと考えていたため、彼らが人事不省に陥っている事実には苦い顔を禁じ得なかった。

 そんな彼の問いに答えながら、イリスは自身の片手を見やる。
 そこに刻まれている刻印の数は、既に残一画まで目減りしていた。

 彼女の語る奥の手とは、令呪を用いての精神汚染解除だ。
 ただそれも永くは保つまい。だから作り出したわずかな時間で、〈蝗害〉の総軍をあらん限り暴れさせる。
 究極の飽和攻撃であり、月の弱体効果を強引に押し潰す文字通りの力技である。
 ファウストにもそのことは読み取れたが、だからこそ彼は驚きを禁じ得ない。

「失礼。その本命というのは、天枷仁杜のことを指していると看做していいのですね?」
「それ以外に何があるのよ。一から十まで言わなきゃ解んない?」
「失礼ながら、貴女は神寂祓葉に執心しているものと思っていたので」
「……あぁ、そういう。ヤんなるわね、どいつもこいつも人の行動原理を見透かして、胸糞悪いったらありゃしない」

 〈はじまりの六人〉は祓葉という太陽を中心に廻る衛星。
 であれば令呪は極星との対峙まで是が非でも温存したがるものと思っており、使う選択肢を想定していること自体驚きだった。

「ええそうよ。私はあの眩しい有害女のこと以外、ぶっちゃけ言うとどうでもいいの。
 色々迷走した自覚はあるけど、だからこそ此処で始末を付けたら元鞘に戻るつもり。
 女神気取りの莫迦を弑(ころ)したら、すぐにでも祓葉のところへ行くわ」

 疑問に対する回答は一言で事足りる。
 その通り。楪依里朱の、〈未練〉の狂人の本質は今この瞬間も微塵たりとも変わっていない。

 彼女の根源にはいつも初めての青春、初めての友人、初めての未練が横たわっている。
 祓葉と決着を着けること。これこそ魔女の至上命題であり、それを揺るがすことは誰にも出来ない。
 ましてイリスは口にした通り、運命の刻限を大幅に早めるつもりでいた。

 恒星神の覚醒が彼女に抱かせた焦燥。
 オルフィレウスが、ノクト・サムスタンプが、恐らくはホムンクルス36号も到達したろう可能性に、この癇癪持ちも同じく到っていた。
 原初の恒星、神寂祓葉にもまた――かつて見せた奇蹟の更に先があるのではないか。
 可能性を認めてしまったからこそ、最早のんべんだらりとやるつもりはなくなった。

「ただでさえ一番槍を取られてイラついてんのよこっちは。
 あいつがあいつでいる内に、他の誰でもない私がケジメを付けてやる」

 打算ではなく、実に思春期らしい青い衝動がイリスに事を急がせる。
 自分に数多の初体験をくれた親友が、これ以上先に行ってしまう前に。
 轡を並べて生きた"ヒト"のままの彼女を捕まえ、青い日々のすべてを清算しよう。
 半端な成果で満足などするものか。祓葉を殺し、歪んだ現人神が弾き語る運命論を破綻させてやるのだと誓う。

「なるほど、まさに不退転の覚悟というわけですね。しかしそれなら尚更、余力は残したく思うのが普通かと思いますが」
「何。本当に一から十まで説明してやらないとダメなわけ?」
「失礼ながら、見ての通りまともな価値観とは縁遠い身でしてね。後学のためにもどうかひとつご教授を」
「――チッ。私、あんたみたいなヤツ嫌いだわ。その理詰めで話したがる感じ、どっかのヤブ医者を思い出すの」

 理屈はそれでいいとして、だがやはり疑問は残る。
 祓葉を運命と据えるならば全力投球すべきはそちらで、にも関わらず女神などという前座に有り金を出し切ってしまうのは行動原理と矛盾しよう。
 なぁなぁで流さずやんわりと詰問してくるファウストに、イリスは刺々しく舌打ちした。

「言ったでしょ、始末を付けるって」
「……、……」
「天枷仁杜を壊したのは私。砂粒みたいな凡人の献身を許して、あいつを殺し切れなかったのも私。
 立つ鳥跡を濁さずじゃないけど、自分のケツくらい自分で拭くわ」

 苦々しく、しかし狂人らしからぬ複雑な感情を滲ませて語る声を聞き、ファウストが抱いた感想は。

(不便な性格だな。ずいぶん生真面目な狂人が居たもんだ)

 そんな、呆れにも似た形容だった。
 要するにこの少女は、仁杜に絆されてしまったことを悔いているのだろう。
 その上で終わらせてやることも出来ず、あんな恒星(もの)にさせてしまった。
 本人は絶対に認めないだろうがそこに自責の念を抱いていて、だからそこの解決に打算を持ち込むつもりがない。
 感情に支配された都市世界の中ではある意味模範的とも言えるような、理屈を無視したエモーション。

「それに。こんな虫ケラの助けなんかなくたって、私は祓葉に勝ってみせる」

 肩に止まった飛蝗を払いのけながら、白黒の魔女は毅然と断言する。
 己こそは極星を撃ち落とす銀の弾丸。彼女の真の運命、不倶戴天の魔弾なのだと信じる言葉は一転して狂熱に満ち。

「横から失礼するが、それは不可能ではないだろうか。おまえと我が主では基礎出力が違いすぎる。具体的なプランがあっての発言なのか?」

 ……そこに同じく真面目系狂人の筆頭だろう幼童が要らない横槍を入れた。

「あ? 殺すぞクソガキ」
「第一、よくぞ私の前でそんな世迷い言を宣えたものだ。分を弁えろ、楪依里朱。彼女は私の運命だ。貴様に譲るつもりはない」
「は? 死ねよボケクズ」
「罵倒以外にまともな反論はないのか? 三度目があるなら我が主に言語野の機能拡張を希ってはどうか、と提案する」
「よし。殺す」
「やってみろ」

 ゲオルク・ファウスト、心からの嘆息である。
 狂人同士は不倶戴天。ノクト・サムスタンプとホムンクルスが対峙した際のことからも分かっていたつもりだが、今目の前で繰り広げられているのはあれより数段程度が低い。
 完全に子どもの喧嘩だ。というかミロクもミロクである。本当に口火を切られたら困るのはどう考えても彼の方だろうに。

「おやめなさい。周りが怖がってしまうでしょう」
「安心しろ。ちょっとした冗談だ」
「後で輪堂さんには情操教育をお願いしておきますね」

 イリスは青筋を立て、今にも彼へ掴みかからん勢いだ。
 流石に本気で事を起こすほど馬鹿ではないだろうが、そんな常識で安心できないのが彼女ら狂人共。
 策士泣かせも甚だしい。不発弾を抱えて雪中行軍させられている気分だった。

「些か話が逸れているようだったのでな。ついてはそろそろ、貴殿の対応策を聞かせて貰いたい」
「ご心配なく。確かに個人的興味で深堀りしてしまったきらいはありますが、ちゃんと考えていますから」

 話を戻そう。
 月に恭順するという理外の一手を打ってきた陰陽師の主従へどう対処するか。
 〈蝗害〉をぶつけるのが最も手早かったが、確かにイリスの言うことも一理ある。
 あくまでも本題は月女神の討伐で、一度きりのワイルドカードを露払いに切ってしまうのは愚策だろう。
 となれば肝腎になってくるのはプロファイル。魔術師達が叡智を結集させて生み出したホムンクルスをして規格外と評する結界師を相手に、一体如何様にして対抗するのか。

「私が彼らの立場なら、確実に女神におこぼれを強請ります」
「ふむ」
「要するに、何らかの形での戦力的恩恵ですね。
 普通に考えれば武力面の増強、ないし幻術製の怪物なりが浮かぶところでしょうが……話を聞いて推察するに、件の主従には優秀なブレインがいる。
 あくまで"私ならこうする"という仮定の域は出ませんが、取ってきそうな手はひとつ明確に浮かびます」

 淡々と述べるファウストの表情は、しかしお世辞にも芳しいものとは言えなかった。
 熟考の末に"不可能"という解を導き出してしまった学者のように、苛立ちと諦めを綯い交ぜにしたような顔で、彼は――


「追って全員に通達しますが、お二人には先に伝えておきましょう。
 これは想定し得る限り最悪の可能性と言っていい。
 敵がこの手を取ってきた場合、我々が事前に取れる対抗策はありません」


 ――並び立つ狂人達へ、そんな悲観的な結論を告げた。



◇◇



「……で、なぁんでテメェがいるんだよ」
「後から来ておいて図々しい言い草だね。私は別に、君がいようがいまいが構わないんだけど?」

 覚悟していたとしても、やはり苛立つものは苛立つ。
 アンガーマネジメントなど蚊帳の外の人間だから言える詭弁で、まさに毒にも薬にもならない戯言だと実感できた。
 心のささくれを隠そうともしない憮然な物言いを向けられた茨の王子は、かつて下した筈の路傍の狗へと肩を竦める。

 ――華村悠灯。伊原薊美。
 つい数時間前リトルビッグホーンの戦いの再演に興じ、命を賭して殺し合った仇敵同士の会敵だった。

「とはいえまあ、流石に驚いたな。まさかあれで生きていたとは」
「ハッ。温室育ちの王子様と違って、こっちは頑丈さくらいしか取り柄がなくてね」

 悠灯にとっての薊美は誇張でなく相棒の仇。
 そして薊美にとっても、このような端役に少なからず辛酸を嘗めさせられた屈辱はちょっとやそっとでは忘れ得ないものだ。
 この二人は生まれも育ちも、築いてきた価値観も何もかもが水と油。
 故に分かり合うことなどあり得ない。あのホムンクルス36号が危惧し、先んじて悠灯へ薊美の存在を伝えただけのことはある。

 悪感情をあけすけにぶつけ合って静かに火花を散らす、ふたりの少女。
 だがこれでもまだ、お互い立場と状況を弁えて自制している。
 月女神・天枷仁杜の討伐という至近の大事がなければ、殴り合いどころか殺し合いが始まっても何ら不思議はないだろう。

「訊いてもいいかな。"それ"、どういうこと?」

 華村悠灯の魔術は人狼魔術。
 死を病的に恐れる想いが研鑽を伴い生み出した、死を遠ざけ続ける現実逃避の産物だ。
 だから、カスターの蹂躙走破を生き延びたこと自体は薊美としてもまだ納得できる。
 しかし。過去と現在の間を隔てるわずかな時間の間に悠灯に起こった変化を見逃すほど、茨の王子は愚鈍ではなかった。

 悠灯の五体に、暴力的なまでの生命力が漲っている。
 死を誤魔化す、なんて生易しいものでは断じてない。
 これは死を破却する脈動だ。定命をねじ伏せ、死神を蹴り飛ばす、現世利益の不死そのもの。
 そして伊原薊美は、この気配を知っていた。
 この吐き気がするような、全身の血管が千切れ飛ぶような許容し難い異物を、知っている。

「ハッ、なんだよ。羨ましいのか?」
「質問に質問で返すのは感心しないな。まあ、ストリートチルドレンに言うのも酷だとは思うけど」
「強がんなよ。別に隠すことでもねえ、気になるんだったら教えてやる」

 自分はすべてを持っていると信じていた。
 まさしく地上の星と、そう呼ばれるに足るモノと信じていたのだ。

 なのにその自負は、ひとりの少女の登壇を前に微塵に打ち砕かれた。
 麗しき奔放の星。無垢にして無知、だが絶対的に劇的。
 あらゆる視線を独り占めし、あるがままに主役であり続ける純白の極星。
 そんな最悪の生物と同じ気配を、かつて石ころと切り捨てた女が宿しているなど……断じて許容できる話ではなかった。

 薊美の矜持を見透かしたように笑う悠灯。
 実際拳を交え、彼女の人となりは多少なり透けている。
 だからこそ都市を去った相棒の分も含め、ありったけの意趣返しをくれてやるのだ。

「ダチに譲って貰ったんだよ。欲しいならアメスピ三箱で売ってやる」
「――――」

 骨の髄まで射貫くような、凛と研ぎ澄まされた殺意。
 それを感じながらも、悠灯は白い歯を覗かせて笑った。
 大一番の前に、少しは胸のすく復讐が出来たらしい。
 そして薊美も見せた動揺は一瞬で、すぐに元ある"王子"の表情を取り戻す。

「良かったね。棚から牡丹餅じゃないか」
「どうだかな。アタシには正直、これがそんなイイものだとは思えねえや」

 ――まあ、受け取っといて何言ってンだって話だけど。

 悠灯はそんな薊美の皮肉を受け止めながら、自分の胸へ手を当てた。
 神寂祓葉。都市の極星、その称号の通り、星の如く美しい女。
 あのようになりたい。そう思ったことがないと言ったら嘘になる。
 戦慄と羨望。自分がどれだけ手を伸ばしても届かなかったモノ、その全部を当たり前に持ち合わせる眩き太陽。
 それほどまでに焦がれていたのに、やはり改めて彼女のことを述懐した際、込み上げてくる感情は以前のとは趣を異にしていた。

「お前さ」
「何かな」
「やっぱり祓葉(アイツ)になりたいの?」

 だからこそ宿敵へ、水底から見上げる絵空の君へと戯れに問う。

「まさか」

 これに対し茨の王子は、たおやかに笑ってかぶりを振った。

「アレは所詮旧式だよ。目指すなら先を行かなきゃ意味がない。
 私はどこぞの誰かさん達みたいに、あの極星が理想形だとは思ってないんだ」
「それにしては随分饒舌に喋ってくれるじゃん。効いてんの丸分かりだぜ、王子サマ」

 語るに落ちるとはまさにこのこと。
 伊原薊美はやはり、あの天頂の星を追っているのだ。
 否、追っているなんて生易しいものではない。
 彼女が目指しているのは現宇宙の極星、神寂祓葉の超越。
 それにより主役の座布団を己のモノとし、自分こそが真にして唯一の恒星となる未来を希求している。

「ま、なんだ。分かってると思うけどよ、アタシはお前が嫌いだ」

 尊大なる茨の王子。このひと月を共に過ごした、偉大な戦士(あいぼう)を己から奪った女。
 満天達の手前がなかったら、一も二もなく殴りかかるくらいはしていただろう。
 昨日の敵は今日の友、と何もかも水に流してしまえるほど、悠灯の心は広くない。

「ただ、負けて初めて分かったこともあったよ」
「……へえ?」
「アタシはお前とは違う。心境の変化ひとつで投げ捨てちまえたんだ、最初から役者じゃなかったってことさな」

 なのに不思議と、その口は饒舌に物を語った。
 かつて懐いていた憧れを認めながら。
 自分はもうそこに背を向けたのだと、宿敵へ宣言する。

 ありったけの皮肉と、一摘みばかしの羨望を込めて。
 資格なき身で銀河に昇ろうとする王子へ、寂れた路地裏から餞別を贈った。

「成りてえんなら試してみろよ。"あいつら"から見れば、アタシもテメェも石コロだ。そんで身の程分かったら、その時は一服奢ってやる」
「――――君に言われるまでもないな」

 殺意の籠もった微笑が、その目の前で花開く。
 自分を貴き者と信じ、そう在るべく生きてきた女にとって下賤の者からのエールなど侮辱に等しい。
 悠灯もそれを分かった上でやっているのだから、これは完全に挑発だった。
 そこに彼女なりの真摯さを込めていたとしても、結局やはり、華村悠灯は伊原薊美のことが気に食わないのだ。

 少女二人の中空で散る、見えざる火花。
 あわや一触即発、どちらが口火を切っても不思議ではない。
 そんな状況を収拾したのは、彼女達の因縁の外にいる人間であった。

「こら、何やってんのあんた。元気が有り余ってるのは頼もしいけど、時と場合ってやつを考えなさい」
「――ぁだっ!?」

 イエローのメッシュと、藍のインナーカラーが特徴的な少女だ。
 彼女の名前はアンジェリカ・アルロニカ。
 悠灯の頭にげんこつを落とし、まったく油断も隙もない、とばかりの顰め面で嘆息している。

「開戦前夜に内輪揉めしようとする奴がどこにいるのよ。わたしもマンテンもみんな迷惑するんだからね。わかった?」
「っ痛ぇな……。ベツにそんなつもりじゃねえよ。これはなんだ、アタシなりに発破掛けたっつーか……」
「わ・か・っ・た?」
「…………ハイ」
「よろしい」

 不承不承返事をした悠灯は、不貞腐れたようにそっぽを向いてしまった。
 大人になる道を選んだとはいえ、一朝一夕で叶えられる夢ではないようだ。
 まずやんちゃな人狼を治めたアンジェリカの目線が、驚いたように見つめる薊美のそれとかち合う。

「アザミもいいわね。ユウヒとの間に色々あったのは聞いてるけど、とりあえず今は抑えて」
「分かってますよ。そもそも私から話しかけるつもりはありませんでしたから。あっちから売ってきたので、適度に構ってあげただけです」

 薊美は特に食い下がることもせず、素直に頷きを返した。
 "プロデューサー"はいい同盟相手を見つけてきたものだと思う。
 協調性のある性格な上、連れている英霊の質も目算で分かるほど高い。
 曲者揃いの砕月同盟において、こういう常識人ほどありがたい存在もないだろう。
 だが、薊美にとっては――

(どうしたね、令嬢。なんだか困り顔じゃないか)
(そう見えた?)
(何度も死地を共にしたお陰かな。最近になってようやく、君の表情の機微という奴が分かるようになってきた)

 カスターの指摘通りだ。
 正直、今のには少々面食らった。
 悠灯との諍いを邪魔されたから、ではない。
 薊美もちゃんと状況は弁えている。あの場で売り言葉に買い言葉で心許ない余力を擦り減らすような真似をする気はなかった。

(別に、そう大した話じゃありません)

 では、何に面食らったのか。
 何に、困ったのか。
 そう問われたなら、こう答えるしかない。

(ただ、苦手なタイプだな、と思っただけで)

 アンジェリカ・アルロニカは恐らく凡人の類だ。
 それこそ、あの高天小都音のような。
 魔術師としてどれだけの能力を秘めているにしても、人格そのものは小市民の域を出ないだろう。
 なのに物怖じせず、自分が正しいと信じたなら超人たちの世界にさえ踏み込めてしまう。
 そういう能力を持った凡人は殊の外厄介なものだと、目前に聳える"お城"でのひと時を経た今の薊美は知っていた。


◇◇


「ふーーん?」
「ア、アノ……」
「へーー?」
「お、お触り厳禁なので……もうちょっと、その……もう少し離れて、イタダケルト……」
「ほーーーーん?」
「ウアアアアアア……! マ、マンテンヲイジメヌンデ……」

 一方その頃、煌星満天はひと足先に生命の危機に直面していた。
 ほっぺを抓られている。
 優に二メートル以上はあろうかという長身の、それはもうめっちゃくちゃな美女に、むにーーん……とそのほっぺたを抓られているのだ。

「これが恒星(カミ)の器ねぇ。随分かわいい後輩がいたもんだな」

 英霊の名はスカディ。
 北欧神話に語られる雪靴の女神。
 怒りに任せてアースガルドに突撃し、神々の詫びを引き出した超の付く武闘派だ。
 そんな旧き女神様は現在、恒星の資格者のひとりたる満天に興味津々。
 華のアイドルの顔面をあれやこれやと捏ね回しながら、何やらふんふんと頷いている。

「これならマキナのお嬢ちゃんの方がまだそれらしいが……いや、将来性って意味だとこっちも負けてないのか……? 何にせよ、アギリの趣味とは違いそうだけども。
 マンテンだっけ? アンタ運がいいね、なにせ今は面倒臭いオタクが不在だ。アイツと来たらこのアタシにさえ本気で殺意向けてくる筋金入りだからな」
「アーーーーウ……!」

 やめてよしてひっぱらないでちぎれちゃう。
 そんな満天の懇願は伝わらず、スカディは実に満足げな顔だった。
 あまりにもあまりなシチュエーションを見かねてか、髑髏面の暗殺者が気まずそうに介入してくる。

「姐さんよ、その辺にしといてやんな。芸姑の顔をそんな餅みたいに引っ張るもんじゃねえよ」
「おっと。いやぁすまんすまん、ちょっと分析に熱が入り過ぎちまったかねぇ」
「へぶっ」

 スカディは鷹揚に笑いながら検分を終え、今まさに苛めていた(※自覚なし)満天をぺいっと地面に放り捨てた。
 四つん這いになって己の不運を呪う満天。キャスターはこんな時どこで何をしているのか。
 見れば当の彼は魔女とホムンクルスと、至って真剣な顔で議論の真っ最中らしい。満天の方など見向きもしない。
 瞳に涙をいっぱいに湛えながら、どうしてこんな目に……と打ち震えるのも詮無きことだったろう。

 継代のハサンがそんな満天を憐れみの眼差しで見ていた。
 同じアイドルでも、輪堂天梨がこういう扱いをされてる姿は想像し難いのは何故だろうか。
 或いはこういう方向性のイベントに次々巡り合うのも、煌星満天というアイドルが持つ彼女なりの美点だったのかもしれない。別にそんなことないのかもしれない。

「しっかし、アンタとこうして轡を並べて戦う日が来るとは思わなかったよアサシンの兄さん。
 アギリから聞いてるよ? "前回"は大層な暴れぶりだったそうじゃないか」
「あー……おたくも知ってんだろ? 英霊は現界の記憶を原則引き継がねえんだよ。
 だから俺にしてみれば、俺じゃない俺の話で恨まれてるみたいなもんでな」

 閑話休題。
 スカディの言に、継代は迷惑そうに肩を竦めた。

 "継代"のハサン・サッバーハは衆生を操る。
 〈はじまりの聖杯戦争〉にて彼は悪辣な策士の許に喚ばれ、あらん限りの混沌を生み出した。
 但しその戦いは、彼自身としてもあまり気持ちのいいものにはならなかったらしい。
 なので誇らしいとも思わないし、こうして現在進行形で覚えのない恨みを買いまくっている時点で論外だ。
 継代当人にとっては自分だけ要らないハンディキャップを付けられているようなもので、冗談抜きに不平等を訴えたくて堪らなかった。

「とはいえ、それ抜きでもこれだけ都市社会が崩れちまうとな。
 俺みたいな三下の暗殺者に出来ることはガキのお守りくらいさ。だからまぁ、そんなに警戒しないでくれると助かる」
「そうかそうか、そいつは災難だね。ところでこの国には、窮鼠猫を噛むって諺があるらしいが?」
「ははは、何のことやら」

 彼の『奇想誘惑(ザバーニーヤ)』は最大一万にも及ぶ端末を作り出せるが、かと言って個々に与えられる力は岩を砕く程度が精々である。
 その上社会機能が完全に崩壊している都合、日常の影に忍ばせた不意打ちというものが効力を発揮し難い。
 まさしく今の継代は追い詰められた鼠だ。月女神戦役においても、彼が為せる役割は後方支援の域をまず出ないだろう。

 それでいい。それがいい。
 継代がそう思っていることを、スカディは当然のように見透かしていた。
 そも、渋谷の天変は彼にとって最悪と言っていい不測の事態。
 嵐が過ぎるのを待てば、月光の消えた都市がやってくる。
 彼は髑髏面の下で、無害の風を装いながら、今も牙を研ぎ続けているのだ。

「で? そこのガキと天使のガキ、どっちが勝ちそうなのさ」
「……おいおい。そいつを俺に聞いちゃいますか、女神さんよ」

 食えない女だ。物理的にも、格の差的にも。
 たじたじになっているところに放り込まれた爆弾に、継代は改めて辟易する。

「新参の神如きに遅れを取る気はないけどね、気になるものは気になるだろ。
 マンテンと、あー、テンリ? だっけか。
 天使と悪魔。人間と人間。どっちがアタシの喰らう壁になるのか、興味だけなら大いにある」

 継代のハサン。その主たるホムンクルス36号は、輪堂天梨という恒星資格者に傾倒している。
 当の天梨が蛇の腹の中である以上致し方のない話だが、この対月戦線は彼らにとって、敵に塩を送るようなものだった。

 天使の星光と対峙する悪魔に、決戦に先んじて完成した恒星との戦闘経験を積ませてしまうのだ。
 言うまでもなく不味い話で、だからこそ継代は相応に懸念を抱いていた。
 天使を救うために臨む此度の戦いが、彼女が打ち勝つべき宿敵(ライバル)を育んでしまう。
 何とも皮肉で、ままならない話である。その矢先に投げつけられた女神の問いは、意地悪以外の何物でもないだろう。

 継代は暗殺者だ。故に主の命令ひとつあらば、満天を排除することに迷いはない。
 ただそうしてしまったら、それこそすべてが台無しだと分かる。
 輪堂天梨を恒星に上り詰めさせるには、煌星満天の存在が必要不可欠で。
 そして煌星満天が恒星に成る上でも、同様に輪堂天梨を欠かすことは出来ない。

 喰らい合う運命の光と闇は比翼連理。
 常に共に在り、互いを糧に成長する。
 そういう意味でも、月女神との戦いに勝たねば御破算だった。
 そんな諸々の難しさを噛み締めながら、さあどう答えたものかと頭を悩ませていると。

「…………あ、あの」

 事の当人達、その片割れが。
 おっかなびっくり手を挙げて、英霊同士の会話に割って入る。

「わ、私――――負けないので」
「へえ?」
「天梨は強いし、正直、どう勝てばいいかも分かんないくらいのアイドルだけど。
 でも、それでも……私だって、精一杯。あの子を超えるために輝いてみせるから」

 月女神を倒さなければ、この都市に未来はない。
 誰にとってもそうだったが、照らし合う偶像達は特にそう。
 何故なら彼女達は月の消えたその時にこそ、ようやくステージに立てるのだから。

「だから……、……わ、私達のライブを見て、それで判断してくださいっ!」

 満天としてもいい加減、外野にごちゃごちゃ言われたり論評されるのは御免だった。
 天梨(推し)のことを悪く言われるのは勿論だし、だからといって自分をぼろくそに貶されるのもそれはそれでやっぱりちょっとは腹が立つ。

 ちょうど今はファウストも見ていないし、大きな目標を前にしてるから滅多なことにはならないだろうし。
 そんな打算も含めての喝破が響き、スカディは一瞬沈黙して。

「――ぷ。ふふ、ははっ、あっははははは! 確かにそうだな、決戦(ライブ)の前にあれこれ勘繰ろうとするのは無粋か!!」

 何がツボに嵌ったのか、呵々大笑しながら満天の頭をぐりぐりと撫で回した。

「ぇ、あっ、ちょ……!?」
「イイじゃないか、成程星と呼ばれるだけはある。
 このアタシに"ちゃんと見ろ"なんて啖呵を切るとはねぇ、なかなか有望なおチビちゃんじゃないか」
「そそそそそんな偉そうな言い方してないんですけ、ど、ぉ……!?」
「或いはアンタみたいに愚直な方が、ああいうお利口さんな女にはブッ刺さるのかもな。
 何にせよ、楽しみにさせてもらうよ。そのライブとやらも、これから始まる戦いでのアンタの輝きにもね」

 なでなでと言うにはややガサツすぎる手付きだったが、それに不服を示す暇はない。
 スカディの発言の締め括り。
 この後に待つ戦いでの働きを期待する旨を受けて、満天は現実へと立ち返った。

「――――ぇ゛。あ、あの、それはその、勝負は時の運っていうか……ハハ……」
「? なぁに青い顔してんのさ。アンタ、このアタシに向けて"よく見やがれこの馬鹿野郎が"って吠えたんだろ?」
「い、言ってない言ってない言ってないぃ……! そんなヤンキー漫画みたいな語彙持ってません、あ、あっ、やめてやめて頭掴まないでぇ……!?」
「だったらライブ本番でと言わず、その前座でも輝いて魅せてくれなくちゃね。期待してやるから、魂振り絞って魅せてみな、マンテンよ」

 絵面は完全に捕食者と被食者。
 苦労人同士引かれ合うものがあるのか、継代は心底から可哀想なものを見る目で満天を見ていた。

「はいはいツノを持つのはやめてやんな、可哀想だろ」
「何をしているんですか貴方達は」

 堪らず制止に入ったところで、心底呆れたような悪魔(ファウスト)の声が響く。
 うお、びっくりした――と継代が振り向けば、そこにはいつもと変わらない鋭利な面立ちを湛えた、煌星満天のプロデューサーの姿。

「ぜぇ……ぜぇ……!
 や、やっと来た……!
 プロデューサーなら担当アイドルのそば離れないでよ……!」
「漫才をしている暇はありませんよ。我々はこれから、いよいよ作戦を実行に移します」

 抗議する満天だが、そんな彼女もプロデューサーの続く科白を聞けば表情が強張る。
 彼がホムンクルスと魔女との意見交換を終え、こうして自分の許まで戻ってきたこと。
 その意味するところは、つまり。

「これから作戦の概要と、新たに浮上した問題に関する考察を共有させていただきます。
 煌星さんも――サーヴァントのお二方も、一言一句たりとも聞き逃さないようにお願いしたく。
 何しろ私の想像通りであれば、敵は相当に狡猾な手段を取ってくる筈ですので」

 月女神・天枷仁杜の居城。
 『月姫真体・堕落恒星』への突入作戦、それを実行に移す時。
 恒星(ほし)を弑す物語――その始動の瞬間が、とうとうやって来たのだ。



◇◇



 ――キャスターの告げた想定は、私達にとってまったくいいものではなかった。

 これから私達を待つものは、情なんて介在する余地もない荊道。
 お月さまの無邪気さに、どこの誰とも知らない協力者が毒花を添えた。
 悪意と智慧ある誰かが考えつきそうなことを瞬時に思いついて共有できるうちのプロデューサーも大概だと思うけど、でも今だけはその悪どさすら頼もしい。

「――これより五分後、我々は仮称・"城"内部への突入作戦を敢行します。
 開錠役は楪さん。彼女が開かせた扉を、場合によってウチの煌星と、その他火力要員が力ずくで抉じ開ける。
 失敗時のリカバリ案は現状存在しません。私達の命運は月女神の気まぐれと、各員の働きにかかっています」

 ひと月も行動を共にしてるから、キャスターという英霊の人となりは分かってる。
 無責任にも思える言い草は彼なりの誠意だ。
 嘘偽りなく、私達がしくじれば、そうでなくても何かひとつ歯車がかけ違ったら全員が此処で詰む。
 不退転。誰もがそうなるしかない行き止まりに、今まさに私達は追い込まれているのだ。

「わずかな時間ですが、少しでも心身を休めてください。以上で、作戦の伝達を終了します」

 猶予は五分。心の準備が出来る時間は、秒数にして三百秒。
 それでも今の私達に――少なくとも私にとっては、この上なくありがたい余暇だった。
 恒星の資格者。正直未だに実感の湧かない呼ばれ方だけど、だからってあれこれ逃げてはいられないことくらいは流石の私も分かってる。

 私には、天梨や、この先で待つ月女神――にーとさんと同じ力が宿ってる。
 目の前の壁をぶち壊して、道理をねじ伏せる力。
 使い方を間違えれば人の心をも妬いてしまうような幼心の輝きを持っている。
 神にも通ずる力が、このカラダの中に宿ってる……悪い冗談みたいな現実が、今まさに私の前に広がっていた。

「はあ……」

 ため息をついてしまうことくらいは許してほしい。
 何せ託された役割が重すぎる。頭の中に推しの顔を思い浮かべて益体もない現実逃避に浸るくらいしかやることがない。
 天梨は、大丈夫かな。ひどいことされてないかな。
 すごく心配でいても立ってもいられないけど、そのことが私を支える闘志のひとつになってるのは事実だった。

 私は、あの子と約束をした。
 約束は守らなくちゃならない。
 そうでなかったら、私は二度と今までみたいに笑えない気がするんだよ。

 天梨を助ける。そのために、にーとさんを倒す。
 正直にーとさんのことはおっかないというか話通じないというかで、まったくいい印象なんてないんだけども。
 それでも、人を殺す――そんなことを目標に歩まなきゃいけない事実に何も感じないほど、私は割り切れそうになかった。

「おい」
「――――ふぇっ」

 そんな時のことだ。
 私に、この場でも一二を争うくらいのおっかない、できるなら関わりたくないたぐいの人種が話しかけてきたのは。

「あ、あ、えと、えと……お、お金なら持ってないです……なんだったらジャンプとかしますか、エヘ……」
「うるさいキモい苛つく喚くな。余計なことは喋らなくていいの」
「き、きもっ……!?」

 髪の毛と服、そのどちらもを白黒の二色に塗り込めた、冗談みたいな装いの女の子だった。
 楪イリス。あの、〈蝗害〉を率いてるマスター。
 ほむっちさんやノクト・サムスタンプと同じ、前回の聖杯戦争の参加者。

「思えばまともに話すのは初めてか。いつぞやはうちのバッタが世話になったね」
「あ、あれは不可抗力っていうかぁ……!」
「んなこと分かってるわよバカにしてんの?」
「ひぇ……」

 困った、どんなリアクションにも喧嘩腰の返事が返ってくる。
 言うまでもなくめちゃくちゃ苦手なタイプだ。コンビニで店員さんの不手際にキレてそう。
 ちなみにイリスさんの背後では、なんだかあんまり元気なさそうなバッタの群れが『ゴメンネ』と人文字ならぬ虫文字を作っていた。なんだおまえぶっ飛ばすぞ。

「え、えーーと……それで、何のご用でしょうか……」
「何、自覚ないの? 私が門を開けたとして、あんた次第で作戦の成否が左右されるんでしょ。話しかける理由としては充分だと思うけど?」

 た、……確かに!!
 納得しながら、自分の役割がいかに重大かを改めて痛感した。

「まあ、それは理由の半分だけど。もう半分は、単純な興味」
「……へ?」
「ノクトのゴミクズが取り立てたリーサルウェポン。一体どんなものかと思ってね」
「あ……、あ〜〜〜……。なるほど、そういう……」
「あんたみたいなおどおどした奴は嫌いなんだけど、そこに関しては同情してあげる。あの入れ墨野郎めちゃくちゃムカつくでしょ?」
「はい」

 即答した。だって本当にそうなんだもの。
 あんちくしょうと来たらいっつも上から目線だし、人の足元見て顎で使いやがるし。
 好きになんてなれるわけがない。とはいえあの人にいいように使われたからこそ、出来た成長もあったわけなんだけど……。

「だけど、アイツがあんたの擁立に一枚噛んでると聞いてなんか納得したわ。いや、納得できないことが分かった、って言うべきかな」
「……と、言うと……?」
「祓葉のバカがどこまで考えてるかはさておき、二周目の私達にはもうひとつテーマが与えられてる、ってこと」

 はてな。
 一瞬疑問符を浮かべかけたけれど、私の頭もあれこれと難しい命題に晒され続けたことでちょっとは冴えてきたのかもしれない。
 イリスさんが言いたいことには比較的すぐ思い当たった。
 ノクト・サムスタンプは私。ホムンクルスは天梨。そしてイリスさんは、にーとさん。
 私が出会った三人だけでも、全員が恒星の資格者――そう呼ばれる人物を見出して、形はどうあれ擁立している。
 言葉にする勇気はないけども、イリスさんだってそうだ。この人の行動が天枷仁杜という人間が神になる、最後のひと押しになったのだから。

 つまり、その意味するところは……

「代理戦争……ですか?」
「恐らくね。正直私とホムンクルスだけなら偶然の範疇でも済むだろうけど、ノクトは気まぐれなんか起こすタマじゃない」

 一度死に、そして蘇った六つの衛星による、新たな主役達の代理戦争(プレゼンテーション)。
 例外はあるのかもしれないけど、いざ示されてみると納得の行く話だった。
 いや、こっちの事情も知らないでヘンな使命を載せないで欲しいってのは本当にそうなんですけども。
 でも主役の座を掻っ攫うくらいの覚悟がなかったら、私の目指す極点には辿り着けないのだろう。
 まるで最初から仕組まれていたみたいに、恒星(わたし)の進む道は神の座へと続いている。

「でも、じゃあにーとさんを倒しちゃったらイリスさんが大変なんじゃ……?」
「はあ? バカにしてんの?」
「いえいえ断じてそんなことはないですただの興味本位の疑問であわわ」
「あのね。他のクズ共がどうかは知らないけど、私はンな取ってつけたみたいな裏ルールになんて興味ないの」

 二周目の狂人達は、新たな星の擁立を求められている。
 祓葉さんの願いなのか、もっと根源的な世界の仕組みなのか。
 それは判然としないけれど、なら自分の見出した星を追い落とすというのは彼らの役割と矛盾する。
 でもイリスさんの答えは揺るぎなく、無責任に言えば、ある種の痛快さすら含んでいた。

「星だろうが世界だろうが、私の狂気(ネガイ)は誰にも邪魔させない。
 祓葉を殺すのは私で、他の事情なんて介在させるものかよ」

 その宣言を聞いて私が覚えたのは、ちょっとした親近感だった。
 顔を合わせてから精々小一時間、言葉を交わしてからは一分経つかどうか。
 それでも私は今、楪依里朱という人間の本質の一端を垣間見た気がした。

 この人は、ずっと寂しかったんじゃないだろうか。
 じっとりと絡み付く緩やかな絶望と、息が詰まるような閉塞感の中で生きてきたんじゃないだろうか。
 気持ちが分かる、なんて言ったら怒られるだろうけど、実際そうだった。
 私も、運命みたいな出会いには、ふたつほど覚えがあったから。

 自分の夢が。キャスターと競い合う理想の果てが。天梨と共に立つ未来のライブステージが。
 自分の与り知らない大いなる何かに導かれた結果なのだと言われたら、ふざけんなって怒鳴ると思う。
 怖いし、話にならないし、正直苦手なタイプの人間ではあるけれど――。
 気持ちは分かる。この場に集まった演者達の中でたぶん私だけが、これから"鍵"の役目を果たす女の子の心のカタチを解していた。

「そろそろ時間ね」
「……ですね」
「ムカつくけど仕事は果たしてあげる。だからあんたも、しくじるんじゃないわよ。知ってると思うけどあのクソニート、全部の判断基準が自分の興味関心だけなんだから。殊勝さとかそういうのには期待しないで、抉じ開ける覚悟をしときなさい」

 そうして、私達の準備時間は今度こそその幕を下ろす。
 五分経過。約束の刻限がやって来て、誰もが一様に聳え立つ城の門へと視線を遣った。
 後戻りはもうできない。踵を返せば、先にあるのは甘やかな堕落のメリーバッドエンドのみだ。
 私も一丁前に拳を握り締めて、キャスターの指示を仰ぐべく、魔女へ背を向け駆け出した。


◇◇


 針音都市が月の神界に呑み干された時、この聖杯戦争はどこへ向かうのだろう。
 全能の造物主オルフィレウスは現状、天枷仁杜という脅威への対抗策を打ち出していない。
 恒星の資格者と呼ばれる少女達の存在を早期から認知し、未覚醒の仁杜の切除に腰を上げもした彼が沈黙を守り続けているのは不可解だった。

 完成した恒星神は、舞台を仕組み運命を手繰る少年神をしてお手上げの厄災だったのか。
 それとも、何か勝算、ないし打算を以ってして静観に徹しているのか。
 白黒の魔女は、これを後者であろうと半ば確信していた。
 知らない仲でもないのだ。あの生意気な科学者の魂胆など手に取るように分かる。
 何せ、オルフィレウスはガキだ。童なのだ。実年齢が幾つかはさておき、その内面は思春期の少年と然程変わらない。
 彼にもし考えがないのなら、静観など絶対にしない。むしろ怒髪天を衝いて全戦力を投入し、なりふり構わず神の粛清に取り掛かる筈。
 なのにそうしていないということは、つまり――。

(試金石、ってことね)

 奴も気付いていると考えるのが妥当だろう。
 天枷仁杜が神となれたように、神寂祓葉もまた現人神のその先のステージを控えさせている可能性。
 神殺しの一団、そして煌星満天という別な資格者の輝きを前にして、月女神が放つ神威を観たい。
 科学屋が最も重要視するのはデータ。彼らは観測を以って、未知を科学する。
 自分達は不本意ながら、オルフィレウスの実験動物にされてしまうというわけだ。

 しかし今だけは、癇癪任せに自棄を起こすわけにもいかない。
 砕月を放棄すればオルフィレウスの計算を狂わせることは出来るかもしれないが、その代償はあまりに巨大すぎる。

 針音都市は順当に破滅し。
 聖杯戦争の建前は崩壊して。
 自分は本懐を果たす前に、二度目の未練という異物に凌辱されるだろう。

 笑う顔を覚えている。
 きれいだね、と言ってくれた声を覚えている。
 一緒に遊んだ時間を覚えている。
 腹立たしいことに、自分はあの"お姫さま"と過ごしたすべてを余すことなく記憶している。

 なんて体たらくだ。これではアギリが失望するのも分かるというもの。
 唯一の運命と見初めた女に裏切られた途端、傷心しながら後釜を用立てるなんて女々しいことこの上ないのだから。
 やはり天枷仁杜は殺さなければならなかった。あの判断に後悔はない。でも事実、自分は彼女を殺し切ることさえ出来なかった。
 渋谷に神を産み落としたのは楪依里朱だ。神がどれだけ白痴を貫こうとも、その〈はじまり〉だけは決して揺るがない。

「では、楪さん――」
「――分かってる。全員、準備しときなさい」

 よって現在、都市の未来は、魔女の双肩に委ねられている。

「――――数時間ぶりね、クソニート」

 硬く、目で見えるより遥かに堅く/難く閉ざされた扉の前に、魔女が立った。
 香篤井希彦は彼なりのアプローチでこの城門を突破したが、二度通じる手段ではない。
 だからこそ使えるカードは正攻法、それ一択。一枚きりの手札じゃ、思案することも許されない。

「好き勝手してくれちゃって、本当迷惑な女。そういう所、アイツにそっくりだよ」

 髪先を玩びながら、語彙を選びながら、ちっぽけなプライドと悲鳴をあげる本心を調律して音に変える。
 アギリが見れば表情を消すだろう。ノクトが見れば嗤うだろう。ミロクが沈黙を保っているのは、彼なりに思うところがあるからか。

「どの面下げて、って思うでしょ。いいよ、別にそれでも。私だってあんたに頭を下げるつもりなんてないんだから」

 楪依里朱は、高天小都音を殺めたことを悔いていない。
 あれは必要な選択だった。あの場で仁杜を否定しなければ、自分は自分でいられなかったのだから。
 魔女にとっての星とは神寂祓葉。どれだけ寄り道をしても、魂に刻んだ至上命題だけは決して覆らない。
 即ち、最初の親友との決着を。それを為すためならば、イリスは親でも誰でも幾らでも殺す。
 たとえそれが仮初めの日常で絆を結んだ、二人目の友人の命だったとしても。
 小都音が庇いに入る事態を考慮できなかったのは自分の落ち度だ。すべてはその失敗に起因している。

「だけど、私も……自分で思ってる以上に、あんたには思うところがあったみたい」

 知ったことかと無視し、匙を投げることも出来た。
 自分が招いた大災害など素知らぬ顔で、祓葉を狙うことだって許されていた。
 なのにそうしなかった理由は、つまるところひとつだけ。

「ほら、ドアを開けろよ。高天とロキ、あんたの仲間の仇が来てやったぞ」

 取捨選択なんて真似をしなきゃいけないほど、イリスにとって仁杜は大きな存在になっていたのだ。
 壊れてしまった姿を放っておけないくらいに、二人目の友人が魔女の心に占める容量(スペース)は大きかった。

 だからこそ、魔女は選択する。
 痛恨の失敗、神殺しのやり直しを。
 青春の破却、その予行演習を。
 もう一度――

「ちゃんと決着つけよう。GGもないゲームセットなんてつまんないでしょ…………にーと」

 ――あの愛(にくたら)しいにやけ面に叩き込んでやれ!


 そっと触れた指先が、開かない筈の扉を押し開ける。
 扉の隙間から漏れ出す月の光は、女神の内界を満たす至高の幻燈。
 音もなく開かれた神世への孔に向けて踏み出しながら、魔女は後ろを振り向いた。

 それが合図。月女神は資格/興味なき他者を決して通さない。
 面と向かって宣戦布告していた満天でさえ例外ではないだろう。
 だからこそ、イリスが作った刹那の間隙は全員にとって最初で最後の希望だった。

「――煌星さん!」
「うんっ!」

 一番槍は満天。
 悪魔への転身は既に終えている。
 地を蹴り、魔女へ続くべく進みながら、その指先から星の輝きを迸らせた。

  キラキラひかる、満天の星よ
「"Twinkle, twinkle, little star――――"」

 イメージするのは満天の夜空を引き裂いて咲く、一面の花畑。
 『星の瀑』は制御性に難がある。
 今求められるのはよりコンパクトに、そして少しでも永く持続する爆発だから。

「『微笑む爆弾・星の花(キラキラ・ボシ・スターマイン)』――――ッ!!」

 よって選ばれたのは『星の花』。
 一発の起爆を引き金に、終わらない誘爆を引き起こす偶像の神秘だった。
 イリスが消え、後は閉まるのを待つのみになった扉を、継続して爆ぜ続ける破壊力で強引に抉じ開ける。
 万象拒絶の特性を持つ仁杜の月光法に曲がりなりにも拮抗できているのは、彼女が恒星資格者である故だろう。
 未完成とはいえ満天もまた神の器。ならばそのエモーションは、堕落の慈愛にさえ太刀打ち適う爆発になる。

「ハハッ――魅せるじゃないさ! 悪魔の旦那よ、アンタいい女見つけたねぇ!!」
「その言い方は控えてください。色々な意味で具合が悪い」

 呵々と大笑するスカディに、ファウストは足を動かしながら眉根を寄せた。
 今の呼び方は比喩ではないだろう。やはり正真の神は侮れない、あの僅かな時間のどこで自分の正體を見抜いてのけたのか。
 定かではなかったが、しかし反省している暇はなかった。

「それよりも。後輩達にあれだけ幅を利かされては、先人として立つ瀬がないのでは?」
「分かってるさ。救世主気取りの引きこもりといい、あの爆弾娘といい、若いのは鼻息荒くて微笑ましいが……」

 満天の奮戦は評価に値するが、彼女だけではまだ不足だ。
 恒星神の出力は常軌を逸する。扉が閉じないという不測の事態を認めれば、女神は城の閉鎖により多くのエネルギーを注ぎ込んでくるだろう。
 そうなればもう一手、可能なら二手は入り口を広げる手立てが要る。
 その一角と目されていた旧き女神は、皆まで言うなとばかりに牙を覗かせて。

「だからこそ、ひよっ子共に理解(わか)らせてやらないとね。竜戦虎争の神代を生きた"本物"の強さってもんをさ――!」

 死が物質化して具現したのかと見紛う狂笑の儘に、物理的に巨大化しながら剛矢を射掛けた。

 余技などでは断じてない。正真正銘、女神スカディ本気の一矢である。
 よって単純な破壊力でなら、これは満天の爆弾さえ優に超えていた。
 閉じないよう固定された扉を、そのまま吹き飛ばさんばかりに神の矢が突き穿つ。
 風圧だけで吹き飛ばされかねないほどの威力は、宣言通り先人の沽券を見せつけた。
 連鎖誘爆さえ押し返しながら閉じ始めた扉が、矢の直撃を受けて激しく後方へひしゃげたのだ。

「っ、お、おおぉおおおぉぉ……!」

 『星の花』の爆発はまだ続いている。
 イリスが作り、スカディが後押ししてくれたこの好機を逃すまいと満天が全力を注ぐ。

(こ、れで――)
(――後は)

 二柱の悪魔の、その思考が共鳴する。
 いや、城を目指す全員がそうだったに違いない。
 何故なら事前に、最後の仕事を請け負う者の名は共有されていたから。

「おう、コラ……!」

 華村悠灯が、挑発的な笑みを湛えて呟いた。
 契約の繋がりがなくとも、現在、"そいつ"の主を務めているのはこの不良少女。
 ならば発破をかける役目は自分しかいないと直感したのだろう。
 令呪のような強制力など持たない、ただ尻を蹴り飛ばすだけの発破だ。
 しかしきっと意味はある。そう信じて、轟音の中で悠灯は叫んだ。

「――ヘボやらかしたら承知しねえぞ、ハリー・フーディーニ!!」
「やれやれ。こうもお膳立てされたんじゃ、しくじるわけにはいかないね」

 拒絶と破壊でせめぎ合う、たったひとつの城門。
 その前に降り立った奇術師が、恭しい一礼と共に白煙の嵐を巻き起こす。

 忘れるなかれ、彼は〈脱出王〉。
 脱出と侵入は表裏一体、彼にとって此度の依頼はごく容易いものだった。
 煙の中で、どこから呼び出したのかも分からない無数の棺が、砕月を志す全員を喰らい閉じ込めてゆく。
 さながら絵面は都心に突然出現した集団墓地。一見すると妨害行為にしか思えない行動に、しかし今更疑いをかける者はいないだろう。

 最高のお膳立てと、最大の期待を背負った世紀のマジックスターが、この状況で失敗などする筈がない。
 客の期待を裏切らないからこそ、人はこの男に、脱出の王の名を与えたのだ。

「さぁさお立ち会い。今宵の演目は、不遜にも月(そら)へ弓引く愚か者たちの乱痴気騒ぎ」

 棺達の扉が、開いていく。
 しかして中身は、案の定と言うべきか、とっくのとうにガランドウ。
 そこにいた演者たちの姿をひとり残さず消失させて、山越風奇は委ねられた無理難題を完遂した。

「――不肖の第三生がその幕開け、確かに引き受けました」

 存在しない観客に対し、礼を保ったまま口上を述べ終えて。
 そうして彼もまた、ぽんと消え失せる。
 現から夢へ。地上から月面へ。人界から神界へ。
 斯くして賽は投げられた。これより始まるのは、星を否定する物語。



◇◇



 2024年5月4日午前9時27分。
 異星法則 月光夢幻神界(ムーンキャンサー・ウートガルズ)の侵略状況を以下に記述する。
 完全陥落地域。渋谷区、目黒区、港区、世田谷区、中野区、新宿区、品川区、千代田区、中央区、練馬区。
 侵食途中地域。杉並区、大田区、江東区、墨田区、台東区、文京区、豊島区、板橋区。
 月の神威は甚だ凶悪。残り三時間もあれば都市の侵略を完遂できるペースで版図を拡大させている。

 堕落者の数は少なく見積もっても500万人超。都市機能の崩壊とそれに伴う数多の人災を引き起こすには十分な数字だった。
 これぞ完成した恒星の猛威。最も侵食性に特化した星光という点を加味しても、規格外に過ぎる速度で神界が人界を呑み干していく。
 もはや誰にも止められない。月の楽土が完成し、しあわせの魔法が針音都市の絶対法理と化す未来は避けられない。
 唯一――"彼ら"の存在を除いては。

 楪依里朱は役割を果たした。
 煌星満天、スカディ、そしてハリー・フーディーニが最初で最後の亀裂を抉じ開けた。

 現時刻を以ってムーンセル・オートマトン内部に、砕月の一軍が侵入を果たす。
 天下分け目と呼ぶには些か早かれど、それは確かに世界を救う希望の聖戦。
 未来喰みのネバーランドに撃ち込まれた、一発きりの弾丸(げんじつ)だった。



◇◇


/ Carol


 ――現実(リアル)が溶ける。

 満天が想起したのは、明晰夢を見ている時の感覚だった。
 自我を保ちながら不条理の世界へ堕ちていく、あの名状し難い浮遊感。
 一人なのか、複数なのか。いやそもそも、自分は今本当に此処に存在しているのか。
 ともすればそれさえ見失いそうな浮遊と潜水が、一体どれほどの時間続いただろう。
 一瞬だったかもしれないし、もっと迂遠な、永遠と呼んでもいい長さだったかもしれない。
 そんな体感を終えた満天が目を開けた時、そこに広がっていたのは、想像していたのとは一味も二味も違う風景だった。

「え?」

 目玉が飛び出るような金額を叩かなければ泊まれないような、豪奢で格調高いスイートルームが広がっていたのだ。
 万年金欠の満天にはもちろん縁のない空間だったが、それでも此処が、恐らくホテルの一室だろうことは分かる。
 お城と言っても外観はホテルだったのだからそうおかしなことではない。とはいえ毒気を抜かれたのは否めなかった。

「やっぱり満天ちゃんはむちゃくちゃだね。まさかあんな方法で、わたしの神界(セカイ)に入ってくるなんて思わなかったな」
「にーと、さん……」

 そんな部屋の、ふわふわのベッドの上に、天枷仁杜が座っている。
 変哲もない寝台を玉座代わりにしている辺りに、この女神の本質が窺えた。
 堕落の女神。無責任を肯定し、遍く衆生を苦しみから解き放つ麗しの月姫。
 満天にとって幸いだったのは、彼女とこうして対峙しているのが自分だけではなかったことだろう。

「ね、ねえっ……キャスター。これ……」
「ええ。どうやら、悪い予想が的中したようです」

 そして不幸だったのは、その頭数が、乗り込んだ面々の半分にも満たなかったこと。

 満天達は首尾よく月の寝室に辿り着くことが出来た。
 違う。彼女達は辿り着いたのではなく、招かれたのだ。
 寝殿の中枢に入室を許されたのは満天とファウスト。イリスとシストセルカ。そして、ミロクと継代のハサン。
 六人。主従にして三組。たったそれだけ。

「満天ちゃん達もいーちゃん達も、おかえり。そして見知らぬお二人はようこそおいでませ。此処が私のお城だよ、ゆっくりしていってね」
「――――成程。やはり、白痴に知恵を授けた莫迦がいるようだな」

 ホムンクルス36号がファウストに視線を送る。
 ファウストも忸怩たるものを隠さず、それに頷いた。
 そう。この事態こそ、ゲオルク・ファウストが予見し、その上で回避不可能としていた最悪の可能性だった。

 突入者達の分散(シャッフル)。
 戦力を撹拌し、総力戦の体をそもそも取らせない。
 女神単体では思いつかない、思いついても実行しない方策だろう。
 何故なら月女神は怠惰で傲慢、そして掛け値なしに他者に対して関心がない。
 蟻の牙を恐れる象がいないように、神は人の足掻きなど鼻で笑ってお終いだ。

 しかしその前提を、先回りして壊した何者かがいた。
 最新の狂人。香篤井希彦と、彼が率いる老陰陽師――!

「あれ? あれれ? なぁに、そんな豆鉄砲を食ったみたいな顔して」

 神が嗤う。天枷仁杜という名の、恒星が笑う。
 ひどく無邪気に。幼気に。だがだからこそ、この女は手が付けられない。

「もしかして、正々堂々戦うとか思ってた?」

 全員が再認識する。
 悪魔も、魔女も、人造生命も、暗殺者も、この場に限っては大差なかった。
 自分達は釈迦の掌で踊る猿だ。
 女神にとって自分達はどこまでも矮小な、吹けば飛ぶよな塵に過ぎないのだと知る。

「だけどさ、いーちゃん。さっきの科白は、正直ちょっとアガっちゃったよ。
 確かにそうだよね。回線落ちで中断なんて、そんなつまんない幕切れもないもの」

 女神は――仁杜は。
 寝台の上に座り、微笑んだまま、静かに権能を行使した。
 スイートルームの体は保ちながら、上下左右の壁が軒並み意味を失う。

 上にも、下にも、左にも、右にも。
 この時を以って、この空間からは"果て"という概念が除去された。
 四方に広がる無限の距離。自然界には存在しない概念も、女神の前では随意自在。
 何故なら此処は彼女の胎内。『月姫真体・堕落恒星』という、天枷仁杜だけの神界(アースガルド)なのだから。

「いいよ。ちゃんとさ、白黒はっきりさせようか」

 これは単なる演出などではない。
 全能の女神が全力を発揮するための前準備だ。
 未だだらしなく胡座を掻いたまま、テーブルゲームでも始めるように仁杜は開戦を宣言する。
 同時にその指先へ、周囲へ、寝室の全域へ横溢していく月の神威。
 彼女が心から愛し、そしてすべてを継承した男の奇術が、しあわせの魔法と化してあらゆる不可能を可能にしていく。

「おいで。星(わたし)が胸を貸してあげる」

 絶望の第一戦にして最終戦。敵は、停滞の恒星神(ムーン・キャンサー)。



◇◇



 "それ"を直視した時、香篤井希彦が抱いたのは安堵だった。

 ああ、よかった。
 "彼女"への想いを再定義しておいてよかった。
 散々見苦しく焦れったく回り道してきたけれど、どうにかギリギリ間に合ったのだと理解する。
 もしもあの時、彼女に挑むという選択肢を選べていなかったなら。
 我が身が滅ぶのも厭わず、この恋慕(おもい)に殉ずる勇気を出せなかったなら――僕はきっと、この存在に魅入られていただろう。

 希彦は第七の狂人。
 都市において狂人の二文字は、伊達や酔狂で名乗るにはあまりに重すぎる諱だ。
 死を経ても失われることなき不変の想い、それを貫く心の真がなければ祓葉の衛星は務まらない。
 そんな筋金入りの異常者達の網膜さえともすれば灼き焦がしかねないのが、完成した恒星の魔力。
 先にもっと上の輝きを視ておいてよかったなと、希彦は苦笑しながら胸を撫で下ろした。

「……初めまして。お招きいただき感謝します、月光の君。僕は香篤井希彦、陰陽師をしています。どうかお見知りおきを」
「――――」
「? ……その、何か?」
「――――い」
「い?」

 そう、例えば。

「い、いっっっけめーーーん……! ロキくんほどじゃないけど、わ、わわ、すんっっごいイケメン出てきちゃった……!?」

 開口一番人の顔を見てはわわわ!と口元に手を当て頬を赤らめるようなあーぱー女でさえ、狂人のアイデンティティを揺るがす脅威性を孕んでいるのだ。

「ていうかそのビジュで陰陽師って狙いすぎじゃない!? あ、いや、バカにしてるんじゃなくてね。ちょっと内なるオタク心を擽られたというか、なんというか……でへへ」

 希彦は月女神の猛威は知っていれど、天枷仁杜という個人について窺うのはこれが初めてだった。
 なので当然唖然とする。呆然とする。シンプルに空いた口が塞がらない、この都市に来てから何度か味わったあの感覚と再会を果たした。
 そう、忘れるなかれ。天枷仁杜は基本的にアホである。
 在りし日の希彦なら真備とは別な意味で天敵になったかもしれないほどの、常識というものがまったく通用しない天下無敵のお姫さまである。

「なるほど」

 なるほど。

「…………なるほど!」

 なるほど、狂人の座を手に入れても自分はこういう星巡りからは逃れられないというワケか。
 いいよいいよ上等です。バカもトンチキももう散々見てきたので涼しい顔でなんとかしてみせましょう。
 この間十秒。結構かかったが、なんとか狂人の沽券を守り通すことに成功する、

「えー、こほん。こほこほん。それで、僕の提案を受けて下さるということでいいのですね、女神さま?」
「あ、うん! なんか面白そうだったし、とりあえず一旦いいよ。わたしは天枷仁杜。親しい人はにーとちゃんって呼ぶよっ」
「……仁杜。にーと。あのごめんなさい。僕、やっぱり認められてなかったりします? ていうかふざけてますか?」
「ひどい!? お母さんとお父さんがうんうん悩んで付けてくれた素敵な名前なんですけど!?」

 前言撤回、やはり苦手なタイプには変わりないようだった。
 名が体を表しすぎている。さっき感じたのとは別な意味で、一皮剥けてからの遭遇で良かったと思う希彦であった――が、それはさておき。

「して、にーとさん。状況は理解してますか?」
「んー。まあ、ぼちぼち? かな。
 わたしをやっつけようって子達が集まってるのは知ってるよ。ていうか見てたし。
 満天ちゃん達も来るんだろうねー。正直ああは言ったものの、ケンカしてあげるのはちょっとだるいんだけどさぁ」

 月女神は気まぐれだ。さっきの一幕でもそれは十分に分かった。
 外界への不感を貫いていながら、少し耳通りのいい提案をしてやればこの通り。
 それは与しやすくもあるが、逆に勝ち取った安寧が一秒後には終わっても不思議ではない、波打ち際の砂城にも似た危うさと隣り合わせということも意味している。
 故に希彦は示さねばならない。示し続けねばならない。自分達の価値を。月女神に寄生して恩恵に与るには、それが必要不可欠だった。

「良かった、なら話は早い。採用いただいたばかりで出過ぎたことを申しますが、僕らに貴女の加護を分けてはいただけませんか」
「――、ふぅん?」
「僕のサーヴァントもまた陰陽師です。先のを見れば分かる通り、ムカつくことに僕など及びもつかない技量を有している。そこに月の恩寵が合わさればまさに鬼に金棒、にーとさんの寝殿を脅かす者は永劫現れないと約束しましょう」

 幸い、その手段にはアテがある。
 希彦に無言で促され、禿頭の老人が彼の隣に像を結んだ。
 吉備真備。千里眼さえ備わっていたならば、かの安倍晴明にも勝り得る――陰陽道の始祖とも呼べる好々爺である。

「ま、そういう訳じゃ。どうぞ何卒よろしく頼めんかね、月の姫さんよ」
「いいけど。具体的にどうしてあげたら何ができるの?」
「なぁに、難しいことじゃないわい。このホテル――お城じゃったか。そこに踏み入ってきた曲者共を"何処に出すか"。その裁量を、儂に委ねて貰いたい。ああ、他の力も貰えるんなら喜んでいただくがの」

 陰陽道の花形にして基礎とは結界術。
 指揮権の一部でも移譲されれば、真備の手管は百計にも勝る悪辣で敵を襲う。
 彼の力は女神はおろか、砕月側に与した雪靴の女神にも力ずくで引きちぎられる程度でしかない。
 だが力とは使いよう。万物万象を己が道具として操りけしかける吉備真備の老獪は、都市を彼方まで見渡しても他に並ぶ者がいない。
 よって地獄が具現するのは必然と言えた。
 ただでさえ無敵、盤石を誇る月女神に最後の一ピースを付け足す存在、それこそ彼らだったのだ。

「滓どもの相手を律儀にやるなど性に合わんじゃろ。そうじゃな、三分割がいいわ。一組は儂らが引き受けて、もう一組は神さんの懐刀をぶつける。で残った一組は、あんたが好きに遊んでやればええ」

 砕月同盟は大所帯だが、だからこそ些か玉石混交のきらいがある。
 満天達やスカディのように高い攻撃性を持つ者がいる一方、悠灯や薊美らは青天井の火力に対抗する術がほとんどない。
 そこの足並みを乱してにべもなく制圧してしまおうというのは、成程策士らしい、理に適った戦法だった。

「……あれ。わたし、セイバーちゃんのこと話したっけ?」
「阿呆、儂ゃ英霊じゃぞ。いちいち見聞きして確かめんでも気配で分かるわい」

 で、返事は如何に。
 あほ……としめやかに傷ついている仁杜のペースに真備は付き合わない。
 彼だけの未来を見据えて、いつものように神算鬼謀を描くだけだ。
 悪魔とも傭兵ともまた性質の異なる、善にも悪にも、希望にも絶望にも転がり得る唯一無二の賽の目を。

「んー……いいよ。そういうことなら、お爺ちゃん達にも分けてあげるね」

 月の加護が、二人の共犯者を瞬く間に一時的な眷属へと変えていく。
 霊基増強。身体能力強化。真備が希望した堕落恒星内部の空間操作権も恙なく譲渡された。
 かくて大分される三つの死合舞台(Cell)。
 一難去ってまた一難とはまさにこのこと。月へ飛び込んだ春の虫達は、それぞれの殺虫灯に曝される。



◇◇



/ Crown


 嵌められた。
 苦渋はあれど、だが薊美の驚きは然程でもなかった。
 事前にゲオルク・ファウストからこうなる可能性を伝えられた時、心底納得したからだ。
 というより、彼に言われなくても思い付いていた。
 身も蓋もない理由だ。天枷仁杜に力添えした狂人、自分が彼の立場ならこうした、というだけのことである。

 しかし事実として、目の前に広がる光景は考えられる限り最悪のものだったと言っていい。
 特に薊美にとっては、最も厄介な相手をぶつけられた形だ。
 視界に広がるのは剣の丘。万など優に超すだろう文字通り無数の剣が埋め尽くした、赤銅色の荒野。
 その中心に、伊原薊美にとっての死神が立っていた。

「チッ。けったいな演出しやがって……皮肉のつもりか? 全部片付いたら膾切りにしてやらねえとナ」

 セイバーのサーヴァント、殺人鬼トバルカイン。
 原初の鍛冶師にして、ロキの任を継ぐ月の近衛にして、高天小都音の遺剣。
 来るとは思っていた。そうでなければ道理が合わないとも感じていた。
 だが改めてその姿を認めると身体に力が入る。策士肌ではない薊美だが、この後起こることまで正確に予想出来ていたのは彼女だけだ。

(――巧いな。彼女が相手なら、ハリー・フーディーニは何もできない)

 〈脱出王〉の片割れと共に過ごした時間は長くないが、それでも分かる。
 この剣士は手品舞台の天敵だ。何せ遊びがなすぎる、その殺陣は無駄を排した詰め将棋。
 ロキのように無から有を生み出す幻術師ならいざ知らず、トリックありきのマジックショーではどうあがいても太刀打ちできまい。
 吉備真備は、ハリー・フーディーニというある意味で最大の変数を、初手から天敵にぶつけることで事実上封じ込めたのだ。

(そして私は、この後彼女が出してくる"提案"を断れない)

 更にもうひとつの変数。
 神殺しの貴公子もまた、これと対峙させられたことで否応なく正念場に立たされた。

 未来が視える。
 先の一幕で垣間見た、トバルカインの中に眠るとある感情。
 心の贅肉とは無縁の鏖殺装置が抱えるひとつきりの陥穽に、既に薊美は気が付いていた。
 だからこそ時間をかけて熟考するまでもなく、敵の考えることが読めてしまう。
 その上で、どうしようもない。視えた未来を変えることは出来ないと悟った。何故ならそこを揺るがしてしまえば、茨の王子は不可逆の破綻を被る。

「やあ。探す手間が省けたね、お嬢ちゃん」

 スカディにとってトバルカインは取り逃した獲物だ。生粋の狩人である彼女にとってこのマッチメイクは願ってもないものだったろう。

「芋引くなんて興醒めな真似しないでおくれよ? してもいいが、今度はどこに駆けようと逃がさない。アンタの首級をもぎ取って、一足早い晩餐会と洒落込もうじゃないか」

 よって戦闘役を引き受けることに迷いなど微塵もなかった。
 怖じることなく前に出て、瞬時に臨戦態勢を整える。
 だがそんなスカディに対し、トバルカインの対応はごく冷淡なもの。

「そいつは結構だが、若者差し置いて色気立つなよ老害。テメェの相手は後だ」
「……ほう?」

 狩人が首を傾げたのは当然の反応だ。
 ではカスターを要求するのか。それともハリー・フーディーニか。どちらだとしても不可解で、意味のない要求と言わざるを得ない。
 最大戦力以外をぶつけるなど貴重な人員を本命前にみすみす捨ててしまうようなもので、希望の名前が誰であろうとまず頷かれはすまい。

「面白いこと言うじゃないか。じゃあアンタは誰とのダンスがお望みなんだい?」
「おい、テメェでもう分かってんだろ。皆まで言わすな、さっさと出てこい」

 そもそも敵の要求など聞く義理はなく、突っ撥ねて一方的に事を始めてしまえばいい。
 それが普通。だからこそ――

「ええ。私ですよね、セイバーさん」

 ――伊原薊美は断れない。
 炎剣を右手に、ひりつくような重圧を感じながら前へと出る。
 その肩を後ろから引っ掴んだのは華村悠灯だ。

「おい、この馬鹿。何してんだ、死にてえのか」
「離してくれるかな。君には関係ないことだ」

 悠灯にとって薊美は相棒の仇であり、この先も断じて理解り合うことはないだろう水と油である。
 だがそれでも、この狂った判断を間近で見て止めもしないほど薄情ではない。
 寧ろ悠灯にしてみれば、止めたのが自分だけということが信じられなかった。
 狂気の沙汰と言う他ない真似をしているというのに何故カスターもハリーも、つれなく一蹴されたスカディでさえもが、薊美の蛮行を咎めようとしないのか。

「これは私の問題なんだよ。だって君は、こうなる道から逃げたんだろう?」
「――――ッ」

 悠灯の手をそっと振り払って、薊美が再び足を進める。
 もう引き止めることはしなかった。茨の王子にしては親切なことに、彼女は悠灯へ答えをくれたのだ。

 伊原薊美は、自分こそが唯一の恒星となることを望んでいる。
 月も妖星も、この世界の極星すらも蹴散らして、独りきりの星空を造るのだとそう吠えた。
 だからこそ彼女は試練から逃げられない。超越者の素養とは顧みぬこと。一度自分で設定した役柄(ロール)を裏切れば、一流の役者も忽ち一山幾らの凡演者に堕ちる。

 よって薊美はどう考えても詰んでいた。
 吉備真備が介入し、この対局を都合した時点で、もはや彼女に未来はない。

「……もう一度聞くぞ。死ぬ気か、お前」
「まさか。あまり見くびるなよ、そんな殊勝な性分に見えるかい?」

 ただ一つ。針の穴を通すどころか、伸ばした細腕で夜空の星を掴み取るような極小の可能性を除いては。

「ご指名ありがとう。どういう風の吹き回しか……なんて聞くのは野暮ですよね」
「たりめーだ莫迦。つーか聞かれたところで答えねえよ」

 伊原薊美がこの関門を突破し、自らの手で英霊トバルカインを打倒する。
 それ以外で彼女が命を繋ぐ術はない。
 膏肓に入った強迫観念が、茨の王子からすべての逃げ道を奪い去る。
 恐れも緊張もメイクの下に隠して、少女は奇術王の形見を抜剣した。

(往くのかい、令嬢)
(無論。待ちに待った試練があちらから来てくれたんだもの、活用しない道理はありません)

 『災禍なる太陽が如き剣(レーヴァテイン)』。北欧神話における神殺しの象徴は、果たされなかった誓いの履行に向けて煌々と地獄を展開する。
 ウートガルザ・ロキはもういない。薊美が滅ぼしてやると誓った憎たらしい微笑は今や泡沫の果て、残っているのは壊れ、狂った愚神だけだ。
 されど上等。己を嘲り、嗤い、心底見下しながら武器を施してきた忌まわしき宿敵の力は恒星神・天枷仁杜の中に受け継がれている。
 であればやることは一切不変。ただ喰らい、踏み潰し、超えてゆくまでだ。資格なきこの身こそ、真の極星の座に相応しいのだと証明しよう。

「――私は、木星にはならない」

 まずは前座。しかして弩級に凶悪。
 試練とは言っても、手加減の類は一切期待できないだろう。
 その思惑を半ば見透かしながら、薊美は五感に留まらず六感までをも最大限に研ぎ澄ます。
 知らず口をついて出た言葉は、奇しくも彼女の創星神話(はじまり)が紡がれた時のと同じだった。

「精々踏み台になってください。私が、あの星空に昇るために」
「星になりてえなら叶えてやるよ。頸を出しな、木星女」

 難局の第二戦。敵は、星を呪う凶剣(トバルカイン)。



◇◇


 アンジェリカ・アルロニカは、湖の真ん中に立っていた。
 踏み締められる湖面という矛盾を知らぬ存ぜぬと罷り通らせて、幻想小説の一篇を思わす絶景が広がっている。
 空に輝くのは不明の恒星。太陽のようであり、月のようであり、妖星のようで、そのいずれでもないナニカのようでもある。

 円を描いたその星に照らされて、アンジェリカは見知らぬ男と相対していた。
 青年の理想像のように整った顔貌が魅力的だが、その反面はケロイド状の火傷痕に覆われている。
 なのに当の本人にそれを恥じ入る様子は微塵もなく、痛ましさと尊大さのギャップが、かの者が既に正気の世界を去っていることを物語っているようだった。

「あんた、"あいつら"の同類ね」
「誰と重ねているのか知りませんけど、そんな旧型と一緒にされるのは心外ですね。僕は彼らの誰よりも先進的に、己の恋路に殉じているつもりですが」
「そういう台詞を臆面もなく出せる辺りが、そっくりだって言ってんのよ」

 故にアンジェリカは確信する。
 目の前の男は間違いなく、ホムンクルスや蛇杖堂寂句――〈はじまり〉の六凶の同類であると。

「その指摘が出てくる貴女は、もう"彼女"を知っていると見受けます」

 青年は、香篤井希彦はにたりと嗤う。
 厭らしい顔だ。恋に狂い、狂に酔い、総ては己が感情のままに躍ると信じている者の顔。
 神寂祓葉の信奉者。破滅も厭わず目の前の輝きに焦がれ、灼かれながら魔道を進む破滅の一ピース。

「理解できないものを見るような目をされていますが、僕に言わせれば貴女の方こそ理解できない。
 何故あれだけの美しいものを拝謁しておいて、そうも憮然を貫けるのかとんと分かりません」

 彼らと関わり合う上での必須事項、それは対話を期待しないことだ。
 狂人。その称号を獲得した時点で既に彼らは人間の枠組みを離れている。
 光や風に話しかけても無意味なように、常人を逸脱した精神構造の人間へ語彙を尽くして繋がりを求めたところで意味はない。

「後学のために教えてくれませんか。貴女の出会った彼女は、一体どんな顔をしていたのか」

 だがアンジェリカは、その最適解を是としなかった。
 この世で最も愚かなことは諦めること。我とおまえは違うのだと決めつけて目を逸らし、見て見ぬふりをすること。
 数多のそういう間違いの末に、あの後輩は産声をあげたのではなかったか。
 だから少女は青年に応える。恒星の否定者が、その信奉者に真を示す。せめて一抹でも、互いの心が通じ合うことを信じて。

「――あいつは、いつだって寂しいんだよ」

 かつて神寂祓葉という少女(カミ)と接し、得た印象を率直に伝えた。

「あいつほどの寂しがりは他にいない。誰よりも世界に失望してるから、誰よりも希望を求めずにはいられないんだろうね。だから自分の前に現れる誰も彼もが、自分に何かを魅せてくれることを祈ってる。そんな寂しん坊のガキが、わたしの見た神寂祓葉」
「――――ふぅん」
「どいつもこいつもあの女を買い被りすぎなのよ。盲いるにも限度があるでしょ、よく考えてみろっての。アレのどこが神なのよ。アレのどこが星なのよ。見てくれだけありがたがって中身に目を向けないなんて、そんなのただの面食いと変わらないじゃない」

 神は、あんなに屈託なく笑うのか?
 神とは、他人に魅せて貰わなくちゃ生きられないほど弱い生き物なのか?
 アンジェリカは生まれてこの方宗教というものに傾倒したことがないし、何なら白眼視さえしていたが、だとしても断言できる。
 アレは神なんかじゃない。かつてはじまりの聖杯戦争を制し、現在も都市の中心に君臨する我らが主役は、ただの寂しがりで甘ったれた女の子だ。
 今となっては、存在してはならない生き物と侮蔑しかけた過去すら恥じよう。星の悲劇を食い止めたいと願うなら、そういうところから意識改革せねばなるまい。

「恋を謳うなら少しは顧みろよ。ただ知った気になってるだけで、あんた達こそあいつの何も見ていないんだ」
「ご高説をどうも。どうやら、僕と貴女の間には価値観の相違があるようですね」

 理解者を気取るつもりはない。
 だが否定はさせて貰う。
 確と示した回答に、第七の狂人は笑みを崩すこともなく。

「貴女の彼女に対する理解度は浅すぎる。盲いているのはむしろそちらでは?」

 静かな敵意を示しながら、蒼く輝く方陣の展開を開始した。

「彼女は星だ。彼女こそが神なのだ。何故なら僕は生まれてこの方、アレより美しいものを見たことがない」

 吉備真備の大秘術が鳴動する。
 ただでさえ彼の時代における当代一、陰陽道の歴史をひっくり返しても比肩し得るのは一人か二人が精々だろう。
 それほどの男が月の加護を賜れば、神の域にまで指をかけるのは必然だった。
 術師英霊(キャスター)の土俵は後方という常識をねじ伏せて、幻の極星が照らす湖にて掟殺しの陰陽師が全霊の開帳を始めている。

「とんだ期待外れです、がっかりだ。ついては潔く死ぬが宜しい、魔術師のお嬢さん」
「……あんたのことはよく知らないけどさ」

 よって待ったなし。
 第三の戦端が、地獄の釜を開ける。

「本当にごめんなさい。わたし、あんたみたいな男ってメチャクチャ嫌いだわ」
「奇遇ですね。僕もです」

 躍るように舞い上がる形代の飛沫が、千をも超える無数の火球を生み出した。
 吐き出されたそれらは空中にて織り混ざり、アンジェリカを一瞬で焼き払う熱死の理を具現させる。
 よって末路はひとつかと思われたが――敵が神業なら、彼女が擁するのは正銘の神。

「手加減無用よ、あめわか。あのムカつくニヤけ面、ふたつ纏めてぶっ潰しちゃって」
「うむ。私もちょうど、そうしたく思っていたところだ」

 アーチャー・天若日子の放つ矢が、活火山を投げ付けたのかと見紛うほどの熱火球を真っ正面から爆砕させた。
 これほどの偉業を成し遂げておきながら、当の彼に誇った様子は微塵もない。
 ただ凛と立ち、ただ敵を見据える。その生真面目なまでの戦への向き合い方は、玄妙な笑みを湛えながら術を編む老陰陽師とはまったく対極だ。

「おい、術師。死合う前にひとつ答えろ」
「へえ、若輩の弁で良ければ何なりと。何が訊きたいんですかい、天津神殿」
「貴様――何を見据えて此処に立っている?」

 天若日子の問いに、真備は何ら表情を崩さなかった。
 恐らくこの針音都市で、最も事の真髄に迫っているだろう叡智の伝道師。
 吉備真備は欺瞞を許さぬ神の詰問へ、されど敢えて、彼らしく欺瞞で返すのだ。

「さぁの」

 反目の第三戦。敵は、禍つ星(ロマンチスト)。



◇◇



 此処は月の内界、女神の心淵。
 すべてが薄らぐユメの大海。
 もはや誰もが不退転、逃げることは許されじ。



◇◇


【月光夢幻神界〈渋谷〉・『月姫真体・堕落恒星』最上階 "女神の寝室"/二日目・午前】

【天枷仁杜】
[状態]:〈スターゲイザー〉
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:セラフ=アレス改め、アルテミット・ガグンラーズ
[所持金]:もう意味がない。
[思考・状況]
基本方針:さあ、しあわせな夢を見よう。
0:遊んであげる。おいで?
1:都市の制圧。聖杯の獲得。全部叶えようね。
2:薊美ちゃんのことは残念だけど、もういいや。バイバイ。
3:満天ちゃんには同情している。いつでも声をかけてよ、救けてあげる。
4:わたしを倒すなんて、できるわけがないのにね?
[備考]
※楪依里朱(〈Iris〉)とネットゲームを介して繋がっています。
 必要があればトークアプリを通じて連絡を取ることが出来ます。
※祓葉との対話を通じて、資格者としての性質が向上しました。
※セイバー(トバルカイン)と再契約しました。
※恒星真体・スターゲイザーⅠとして覚醒しました。根源の渦への接続が再開されます。
※煌星満天のすべてを読み解きました。

【楪依里朱】
[状態]:疲労(中)、魔力消費(中/色間魔術により回復中)、強烈な自己嫌悪、未練
[令呪]:残り一画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:数十万円
[思考・状況]
基本方針:優勝する。そして……?
0:決着を着ける。
1:にーとを今度こそ、必ず終わらせる。できれば、私の手で。
2:薊美に対しては微妙な気持ち。間違いなく敵なのだが、なんというか――。
3:このデカ女(スカディ)を連れてくとかマジで言ってんのか????
4:月の決戦が片付き次第祓葉に挑む。これ以上、長々と寄り道をするつもりはない。
[備考]
※天枷仁杜(〈NEETY GIRL〉)とネットゲームを介して繋がっています。
 必要があればトークアプリを通じて連絡を取ることが出来るでしょう。
※蛇杖堂記念病院での一連の戦闘についてライダー(シストセルカ)から聞きました。
※今の〈脱出王〉が女性であることを把握しました。

【ライダー(シストセルカ・グレガリア)】
[状態]:総軍、やる気なし、弱体化状態
[装備]:バット(バッタ製)
[道具]:
[所持金]:百万円くらい。遊び人なので、結構持ってる。
[思考・状況]
基本方針:好き放題。金に食事に女に暴力!
0:さ。魅せろよ、イリス。おまえはいい女だ。
1:祓葉にはいずれ借りを返したいが、まあ今は無理だわな。
2:煌星満天、いいなァ~。
[備考]
※イリスに令呪で命令させ、寒さに耐性を持った個体を大量生産することに成功しました。
 今後誕生するサバクトビバッタは、高確率で同様の耐性を有して生まれてきます。
※総軍を結集させました。再度散らすまで、戦闘時の魔力消費が大きく増加します。
※『月光夢幻神界』の堕落の法による影響をきわめて強く受けるようです。
 かなりの弱体化を被っており、戦闘能力は甘く見て平時の一割程度。


【煌星満天】
[状態]:疲労(小)、精神疲労(大)、断片的な記憶の回復、気分高揚気味、炎上に対するむかむか、左肩負傷
[令呪]:残り三画
[装備]:『微笑む爆弾』
[道具]:なし
[所持金]:数千円(貯金もカツカツ)
[思考・状況]
基本方針:トップアイドルになる
0:勝つ。それ以外考えたら、だめだ。
1:魅了するしかない。ファウストも、ロミオも、ノクトも、この世界の全員も。
2:輪堂天梨を救う。
3:……絶対、負けないから、天梨。
4:天枷仁杜には苦手意識。でも、きれいだった。
5:私、なんで忘れてたんだろ?
6:好き勝手言うなよ、私達の何を知ってるんだ。
7:――――私は、何(だれ)?
[備考]
 聖杯戦争が二回目であることを知りました。
 ノクトの見立てでは、例のオーディション大暴れ動画の時に比べてだいぶ能力の向上が見られるようです。
※輪堂天梨との対決を通じて能力が向上しています(程度は後続に委ねます)。
 ・『微笑む爆弾・星の花(キラキラ・ボシ・スターマイン)』
 拡散と誘爆を繰り返し、地上に満天の星空を咲かせる対軍宝具。
 性質上、群体からなる敵に対してはきわめて凶悪な効果を発揮する。
 現在の満天では魔力の関係上、一発撃つのが限度。ただし今後の成長次第では……?
 ・現状でも他の能力が芽生えているか、それともこれから芽生えていくかは後続に委ねます。 
※輪堂天梨と個人間の同盟を結びました。対談イベントについては後続に委ねます。
※過去について少し気付きを得ました。詳細は後続に委ねます。
※満天の記憶には、次兄・暮昏光点によって"蓋"がされています。
※蓋が少しズレました。

【プリテンダー(ゲオルク・ファウスト/メフィストフェレス)】
[状態]:右腕損壊(概ね回復)、及びそれによる失血(同じく概ね回復)
[装備]:名刺
[道具]:眼鏡、スキル『エレメンタル』で製造した元素塊
[所持金]:莫大。運営資金は潤沢
[思考・状況]
基本方針:煌星満天をトップアイドルにする
0:渋谷の神(推定:天枷仁杜)を退かし、かの街でライブを行わせる。
1:状況は最悪。どうにかして後続が追いつくまで時間を稼ぐ。
2:輪堂天梨との同盟を維持しつつ、満天の"ラスボス"のままで居させたい。
3:ノクトとの協力関係を利用する。が、ライブの実施が現実的になったなら切り捨てを視野に入れる。
4:時間が無い。満天のプロデュース計画を早めなければならない。
5:天梨に纏わり付いている復讐者は……厄介だな。
6:高天小都音とは個人的にパイプを持っておく。
7:アンジェリカ・アルロニカは油断ならないが――
[備考]
 ロミオと契約を結んでいます。
 ノクト・サムスタンプと協力体制を結び、ロミオを借り受けました。
 聖杯戦争が二回目であること、また"カムサビフツハ"の存在を知りました。
 高天小都音経由で、〈はじまりの六人〉及び神寂祓葉の情報を知りました。

【ホムンクルス36号/ミロク】
[状態]:疲労(小)、脳にダメージ、肉体強化、"成長(第二フェーズ)"
[令呪]:残り二画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:忠誠を示す。そのために動く。
0:紛い物の女神。天梨の宿敵。さあ、如何なるものか。
1:輪堂天梨を対等な友に据え、覚醒に導くことで真に主命を果たす。
2:……ほむっち。か。
3:煌星満天を始めとする他の恒星候補は機会を見て排除する。
4:アンジェリカ・アルロニカ――。
5:第二、第三の恒星神への対処法を見出すためにも、この作戦は成功させねばならない。
[備考]
※天梨の【感光/応答】を受けたことで、わずかに肉体が成長し始めています。
※解析に加え、解析した物体に対する介入魔術を使用できるようになりました。
※輪堂天梨が修羅場を超え、その力が洗練されたことで、ミロクの成長速度も急激に上昇しました。
 現在、3~4歳程度の童子の姿まで変異しています。


【アサシン(ハサン・サッバーハ )】
[状態]:霊基強化、令呪『ホムンクルス36号が輪堂天梨へ意図的に虚言を弄した際、速やかにこれを抹殺せよ』
[装備]:ナイフ
[道具]:
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:マスターに従う
0:俺場違いじゃないですかね……?
1:さて、どうすんだ、大将? ほんとに神とやりあうのか?
2:大将の忠告を無視する気もないが……ノクト・サムスタンプ、少し気になるな。
3:状況が落ち着いたら新宿の兵隊(機動隊員)の余りをこっちに呼んでみるのもアリだが、さて。
[備考]
※宝具を使用し、相当数の民間人を兵隊に変えています。
※OP後、本編開始前の間に、新宿警察署に集まっていた機動隊員たちを催眠下に捉えていました。
※自身が2回目の参加であること、前回のマスターがノクト・サムスタンプであることを知りました。
※状況が状況なのでホテルに留まることを選びました。新宿の機動隊員たちは、数こそ減ったものの幾らか生き残りがいるようです。
※薊美達へ接触させていたNPC(サラリーマン)が破壊されました。


【月光夢幻神界〈渋谷〉・『月姫真体・堕落恒星』内界 "赤銅の荒野"/二日目・午前】

【セイバー(トバルカイン)】
[状態]:〈夢追人(ドリーマー)〉激しい怒り、高天小都音からの令呪、霊基強化
[装備]:トバルカイン謹製の刃物(総数不明)
[道具]:
[所持金]:数千円(おこづかい)
[思考・状況]
基本方針:――ああ、分かったよ。コトネ。
0:来いよ木星。私がお前の星を測ってやる。
1:腐るのはもうやめだ。
2:お前ら全員、私が殺してやる。
3:神寂祓葉の倒し方に見当が付いた。が、これ結局同じクソゲーさせられるだけじゃないか?
[備考]
※天枷仁杜と再契約しました。
※祓葉を倒せるかもしれない方法に思い至ったようですが、あまり釈然としていません。
※マスターが完成した恒星である仁杜に変更されたことで、霊基性能が向上しています。

【伊原薊美】
[状態]:魔力消費(小)、頭痛と疲労(小)、魅了(自己核星)
[令呪]:残り二画
[装備]:
[道具]:騎兵隊の六連装拳銃、『災禍なる太陽が如き剣(レーヴァテイン)』
[所持金]:学生としてはかなりの余裕がある
[思考・状況]
基本方針:全てを踏み潰してでも、生き残る。
0:トバルカインを倒す。
1:私は何にだって成れる、成ってやる、たとえカミサマにだって。
2:殺す。絶対に。どんな手を使ってでも。
3:太陽は孤高が嫌いなんだろうか。だとしたら、よくわからない。
4:最後に首を獲るのは私。でも、そのためには準備が必要みたいだ。
[備考]
※マンションで一人暮らしをしています。裕福な実家からの仕送りもあり、金銭的には相応の余裕があります。
※〈太陽〉と〈月〉を知りました。
※自らの異能を活かすヒントをカスターから授かりました。

→上記ヒントに加え、神寂祓葉と天枷仁杜、二種の光の影響によって、魅了魔術が進化しました。

『魅了魔術:他者彩明・碧の行軍』
 周囲に強烈な攻勢魅了を施し、敵対者には拘束等のデバフ、同盟者には士気高揚等のバフを振りまく。

『魅了魔術:自己核星・茨の戴冠』
 己自身に深い魅了を施し、記憶した魔術や身体技術の模倣を実行する。
 降ろした魔術、身体技術の再現度は薊美の魔術回路との相性や身体的限界によって大きく異なる。
 ただし、この自己魅了の本質は単なる模倣・劣化コピーではなく。
 取得した無数の『演技』が、薊美の独自解釈や組み合わせによって、彼女だけの武器に変質する点にある。

※ウートガルザ・ロキから幻術による再現宝具を授かりました。
 ・『災禍なる太陽が如き剣(レーヴァテイン)』
 対神、対生命特攻。巨人の武具であり、神の武具であり、破滅の招来そのものである神造兵装――の、再現品。
 ロキの幻術で生み出された武器であるため、薊美が夢を見ている限り彼女のための神殺剣として機能を果たす。
 逆に薊美が現実を見れば見るほど弱体化し、夢見ることを忘れた瞬間にカタチを失い霧散する午睡の夢。
 セキュリティとして術者であるロキ、そして彼の愛しの月である天枷仁杜に対して使おうとすると内蔵された魔術と呪いが担い手を速やかに殺害する仕組みが誂われている。
 サイズや重量は薊美の体躯でも扱える程度に調整されている様子。

 →ロキの消滅により、仁杜に対し使用できない呪いが消えているようです。

【ライダー(ジョージ・アームストロング・カスター)】
[状態]:疲労(中)、心臓にダメージ(中)、左鎖骨切断、複数の裂傷と刀傷、魅了
[装備]:華美な六連装拳銃、業物のサーベル(トバルカインからもらった。とっても気に入っている)
[道具]:派手なサーベル、ライフル、軍馬(呼べばすぐに来る)
[所持金]:マスターから幾らか貰っている(淑女に金銭面で依存するのは恥ずべきことだが、文化的生活のためには仕方のないことだと開き直っている)
[思考・状況]
基本方針:勝利の栄光を我が手に。
0:往くのか、令嬢。
1:神へ挑まねば、我々の道は拓かれない。
[備考]
※魔力さえあれば予備の武器や軍馬は呼び出せるようです。
※シッティング・ブルの存在を確信しました。

※エパメイノンダスから以下の情報を得ました。
 ①『赤坂亜切』『蛇杖堂寂句』『ホムンクルス36号』『ノクト・サムスタンプ』並びに<一回目>に関する情報。
 ②神寂祓葉のサーヴァントの真名『オルフィレウス』。
 ③キャスター(ウートガルザ・ロキ)の宝具が幻術であること、及びその対処法。
※神寂祓葉、オルフィレウスが聖杯戦争の果てに“何らかの進化/変革”を起こす可能性に思い至りました。
※“この世界の神”が未完成である可能性を推測しました。

※令呪および、伊原薊美の魅了魔術によって霊基が強化されました。

【華村悠灯】
[状態]:人狼化。心臓喪失。永久機関・生死流転(同化完了)、生への渇望
[令呪]:喪失
[装備]:精霊の指輪(シッティング・ブルの呪術器具)、『時計じかけの方舟機構(Perpetuial motion Machine-Mark-Ⅲ(ver:3.3333333333333...))』
[道具]:なし
[所持金]:ささやか。現金はあまりない。
[思考・状況]
基本方針:大人になる。
0:生きる。好きなように、赴くままに。
1:取り急ぎ、ナイン達と行動を共にする。山越のことは変わらず信用してないが、その目的は利用したい。
2:……ありがとな、キャスター。
3:狩魔さん、ゲンジ――死んじまったのか。
4:あの刺青野郎ってば最悪!!
5:ナイン……お前さ、その……かわいいな……耳とか触っても良――いや待て何言ってんだアタシは!(うがーっ)
6:天枷仁杜は気に入らない。……だけど、カワイソウだ。
7:伊原、薊美――。
[備考]
神寂縁(高浜総合病院院長 高浜公示)、および蛇杖堂寂句は、それぞれある程度彼女の情報を得ているようです。

華村悠灯の肉体は、普通の意味では既に死亡しています。
ただし土壇場で己の真の魔術の才能に目覚めたことで、自分の魂を死体に留め、死体を動かしている状態です。
いわゆる「生ける屍」となります。
強いて分類するなら死霊魔術の系統の才能であり、彼女の魔術の本質は「死を誤魔化す」「生にしがみつく」ものでした。
自覚できていた痛覚鈍麻や身体強化はその副次的な効果に過ぎません。

この状態の彼女の耐久性や、魔力消費などについては、次以降の書き手にお任せします。
→魔力消費の影響をある程度無視できるようです。ただしあくまで誤魔化しているだけなので、度が過ぎると多分死にます。

→華村家の魔術は『死狼魔術』です。
 狼信仰をベースとし、死霊魔術や獣性魔術、死徒の細胞などを取り込んで作り上げた継ぎ接ぎのパッチワーク。
 覚醒した華村の魔術師は擬似的に人狼化し、超人的な身体能力と再生能力を得ます。
 ただし、あくまでも死を誤魔化し、蓋をして無理やりねじ伏せているだけに過ぎません。華村の魔術は失敗作です。

→神寂祓葉から永久機関を手渡され同化中です。
 華村悠灯は適応条件を満たさず体内から自壊していますが、死狼魔術により無理やり適応しようとしています。
 彼女の永久機関はオルフィレウスの開発していた新たな試作品であり、神寂祓葉に埋め込まれた物とは仕様が異なる可能性があります。

→永久機関への適応を完了しました。
 『時計じかけの方舟機構(Perpetuial motion Machine-Mark-Ⅲ(ver:3.3333333333333...))』には自我を無限時計文明の基準に合うよう矯正する機能が搭載されています。
 試作品なので働きはまだ限定的ですが、悠灯の意思が弱まれば侵食が進行するでしょう。
 また永久機関の影響で、サーヴァント不在のペナルティを無視できます。


【ライダー(ハリー・フーディーニ)】
[状態]:第二生(ツー)、令呪『私が令呪で許可するまで、第一生の棺を開けることを禁ずる』
 二生→健康
 三生→健康
 五生→健康
 九生→疲労(小)
[装備]:九つの棺
[道具]:
[所持金]:潤沢(ハリーのものはハリーのもの、そうでしょう?)
[思考・状況]
基本方針:山越風夏の助手をしつつ、彼女の行先を観察する。
0:華村悠灯に同行する。何考えてんだあのバカハリーは。
1:当面は悠灯に従うつもり。
2:神寂祓葉は凄まじい。……なるほど、彼女(ぼく)がああなるわけだ。
3:これは面白い。さあ、君は星になれるかな?
[備考]
準備の時間さえあれば、人払いの結界と同等の効果を、魔力を一切使わずに発揮できます。

宝具『棺からの脱出』を使って第三生のハリー・フーディーニと入れ替わりました。

第二生のハリー・フーディーニ:
生前の名は「山越風奇(やまごえ・ふうき)」
一度目の聖杯戦争に"参加しなかった"山越風夏の前世。
"脱出"の起源覚醒者。魔術的な能力を持たぬ代わりに、超抜の技巧と体幹を備える。

第三生のハリー・フーディーニ:
生前の名は「蛇杖堂寂尊(じゃじょうどう・じゃくそん)」、かの蛇杖堂寂句の2人で1人前の「共同後継者の片割れ」です。
蛇杖堂寂句の医術と体術を継いでおり、治癒魔術や治療薬の知識もありますが、治癒魔術の実践はできません。
寂句に自尊心をズタズタにされており、己の能力を過小評価する傾向がありますが、外科医としての腕と格闘術は超一級です。

第五生のハリー・フーディーニ:
神聖アーリア主義第三帝国陸軍所属。第四次世界大戦を生き延びて大往生した老人。
スラッグ弾専用のショットガンを使う。戦闘能力が高い。
ヴァルハラの神々に追われている妄想を常に抱いており話が通じない。

雪村鉄志、琴峯ナシロ、高乃河二、赤坂亜切の現在の動向について聞きました。

【アーチャー(スカディ)】
[状態]:右腕が刀傷でズタボロ(行動に支障なし)、複数の裂傷
[装備]:イチイの大弓、スキー板。
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:狩りを楽しむ。
0:月女神の討伐に力添えする。アギリもアレは気に入らないみたいだし、丁度いいだろ。
1:面白そうなので一旦静観。区切りが付いたらアタシがセイバー(トバルカイン)を戴く。助け舟? そんな無粋じゃないさ。
2:向こうのゴタゴタが済んだらランサー(ルー)を再び狙う。逃がさないよ、色男。
3:日中はある程度力を抑え、夜間に本格的な狩りを実行する。
4:マキナはかわいいね。生きて再会できたら、また話そうじゃないか。
5:ランサー(アンタレス)を獲る。一皮剥けたようだしね、食べ頃だろ。
6:キャスター(シッティング・ブル)は一度見逃す。ただし次は必ず狩る。
7:面白いことをやるヤツがいるもんだ。懐かしい匂いだが、同郷のナニカかな?
[備考]
※ランサー(ギルタブリル/天蠍アンタレス)の宝具を受けました。
 強引に取り除きましたが、どの程度効いたかと彼女の真名に気付いたかどうかはおまかせします。


【月光夢幻神界〈渋谷〉・『月姫真体・堕落恒星』内界 "極星の湖"/二日目・午前】

【香篤井希彦】
[状態]:〈恋慕〉、健康、右顔面に火傷痕
[令呪]:喪失
[装備]:
[道具]:式神、符、など戦闘可能な一通りの備え
[所持金]:現金で数十万円。潤沢。
[思考・状況]
基本方針:総てを手に入れる。
0:全部やろう。僕は、もう妥協しない。
1:月女神・天枷仁杜へ協力し、彼女に楯突く勢力を掃討する。
2:アンジェリカ・アルロニカを殺す。貴女は見込みがないようだ。
3:こんなものを恐れるなんて、思ったより底が浅いんですね、皆さん。
[備考]
※神寂祓葉との戦闘で一度死亡し、真備の秘術によって蘇生されました。


【キャスター(吉備真備)】
[状態]:全身にダメージ(中)、魔力消費(小)、霊基強化
[装備]:
[道具]:『真・刃辛内伝金烏玉兎集』
[所持金]:希彦に任せている。必要だったらお使いに出すか金をせびるのでOK。
[思考・状況]
基本方針:知識を蓄えつつ、優勝目指してのらりくらり。
0:さて。儂も、閻魔にどやされる覚悟は決めとくかの。
1:希彦の選択に思うところはあるが、魂から望んだことなら止めはすまい。その上で面白可笑しく愉しむまでよ。
2:カドモスの陣地は対黒幕用の拠点として有用。王様の懐に期待するしかないのう。
3:〈ニシキヘビ〉なる存在への興味。ともすれば非道い難物が出てきそうじゃ、楽しみ楽しみ。
[備考]
※〈恒星の資格者〉とは、冠位英霊の代替品として招かれた存在なのではないかという仮説を立てました。
※まがい物の生活続命の法を用い、香篤井希彦を蘇生させました。
 契約のパスが繋がっていることでどうにか出来たウルトラCなので、恐らく再現性はありません。
※スターゲイザーⅠ(天枷仁杜)の加護により霊基が強化されています。

【アンジェリカ・アルロニカ】
[状態]:魔力消費(中)、疲労(小)、頭痛(大)
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:ヒーローのお面(ピンク)
[所持金]:家にはそれなりの金額があった。それなりの貯金もあるようだ。時計塔の魔術師だしね。
[思考・状況]
基本方針:勝ち残る。
0:香篤井希彦を倒す。わたし、あんたのことが嫌いです。
1:未来を変える。私は、神を生ませない。
2:神寂祓葉に複雑な感情。
3:蛇杖堂寂句には二度と会いたくない。
4:あー……きっつい、これ……。
5:満天のプロデューサー(ファウスト)に警戒心。こいつは絶対ロクでなしだ。
[備考]
※ホムンクルス36号から、前回の聖杯戦争のマスターの情報(神寂祓葉を除く)を手に入れました。
※蛇杖堂寂句の手術を受けました。
※神寂祓葉が"こう"なる前について少しだけ聞きました。
※アルロニカ家の魔術刻印と共鳴することで、世界の始点と終点の一部を観測しました。

【アーチャー(天若日子)】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)
[装備]:弓矢
[道具]: ヒーローのお面
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:アンジェに付き従う。
1:眼前の主従を討つ。
2:神寂祓葉――難儀な生き物だな、あれは。
3:星神(天津甕星)とは次に会ったら受けて立つ。私には、その責任がある。
[備考]
※アサシン(継代のハサン)が2回目の参戦であることを知りました。


[全体備考]
※この話の時点で、〈月光夢幻神界〉の侵略状況は以下の通りです。
 ・陥落……渋谷区、目黒区、港区、世田谷区、中野区、新宿区、品川区、千代田区、中央区、練馬区。
 ・陥落目前……杉並区、大田区、江東区、墨田区、台東区、文京区、豊島区、板橋区。
  (※杉並はカドモスの固有結界により例外だが、限界が近い)


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最終更新:2026年08月05日 02:23