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蛇・神寂縁は、夜の街を奔りながら己の在りようを省みていた。
蛇とは空前絶後のモンスター。数多の顔と絶対不変の悪性を以って世界に蔓延る、天下万民にとっての逃れ得ない破滅の運命に他ならない。
少女喰いの性さえ彼にとってはある種の枷。もしもこれが卑賤な欲望すら持っていなかったら、その時こそ世界は終わっていただろう。
それだけの力と、それを可能にして尚眉ひとつ動かさない残虐無比の精神性を彼は併せ持っている。
なのに――そんな常識が、この僅かな時間で狂い始めたことを、他の誰よりも蛇自身が感じ取っていたのだ。
(さっきのはらしくなかったな。久々に取り出した玩具如きにああも心を乱されるなんて、支配者にあるまじき醜態だ)
レミュリン・ウェルブレイシス・スタールを前にして衝動を抑えられなかったことはまあいい。
結果論にはなるが、あれがなければ彼女が自分の野望を実現に導く聖女であることに気付けなかった。
だが雪村鉄志に対する体たらくは流石に擁護不可能だろう。もっと感情を抑え、淡々と処理していれば、ああもしてやられることはなかった筈だ。
あの草臥れた、頼みの若ささえ失った廃棄物(ロストマン)に動揺を晒してしまったその事実。
それに蛇は少なからず動揺している。いや、驚いていたと言うべきか。
まさかこの自分に、まだあんな人間らしい一面が残っていたとは――驚愕すると同時に、己から脆弱性を引き出してのけた男に対する認識を改める。
(彼は僕にとっての癌細胞だ。取るに足らない玩具とばかり思っていたが、放置すれば支配の未来を狂わせかねない)
膝を突いて媚びるならエデンの末席くらいは与えてやってもいいと、甘えたことを抜かしていた蛇はもういない。
彼は支配狂い。常に上に立ち、万物万象を統べていなければ気が済まない精神病質者だ。
(本懐を遂げ次第、最優先で切除しよう。跡形も残さず踏み躙り、僕の世界に存在した事実すら残さないのが賢明だな)
よって人として紡いだ友誼など、少し思い直した程度で未練なく屑籠に放ってしまえる。
それだけで切り替えは完了。万物の恐怖が、万象の死が、蛇鱗の王が戻ってくる。
蛇腔領域は蛇の体内。内部の構造は勿論、そこに存在する異物の位置も常に完璧に捕捉することが可能だ。
そこを踏まえて計算――レミュリンの許に辿り着くまで、あと数分もかからない。
恐らく赤坂亜切が守っているのだろうが、問題にもなるまい。
ルー・マク・エスリンにも致命傷を負わせた。〈脱出王〉山越風夏は鬱陶しいだけの小蝿で、端から敵ですらない。
命知らずにも自分を追ってきた輪堂天梨の主従も、所詮は力ずくで押し潰せる程度の障害だ。先の不覚は所詮初見殺しの産物。二度は食わない。
「あぁ、会いたいな。早く君を手に入れたい。僕のものにしてしまいたいよ、レミー……」
レミュリンさえ、スタールの徒花さえ手中に収められたなら、蛇の願いはすべて叶う。
聖杯などという手垢の付いた大神秘とは次元が違う。魔王の願望を満たすという点にかけては、比べ物にすらならないだろう。
レミュリン・ウェルブレイシス・スタールの本質は時の魔女。
姉のジュリンが初代ウェルブレイシスの域に到れる器なら、レミュリンは初代を超えていける可能性を持った器だ。
その理屈にさえ、もう蛇は思い至っている。彼の規格外の存在強度は、彼女が放つマゼンタの炎に触れただけで事の真贋を鑑定できた。
奇しくも彼自身の愚行が、追い求めてきた不老不変の理――楽園を築くための最後のピースを埋めたのだ。
時の魔女を素体に、超絶完成度の燃焼時計を創り上げて根源へ到達しよう。
そして得た真理を、取り込んだ彼女の魂を筆記用具として、思いのまま現行の世界へ転写しよう。
条件を満たして尚途方もなく困難な道程だが、自分にならばそれが出来る。
故にレミュリンの捕食こそ神寂縁にとってのゴールなのだ。彼が魔女の魂魄を呑み干した瞬間、世界は終わる。
「さあ、追いかけっこもそろそろおしまいだ」
もう猶予は幾許もない。
すべての因果が一点に収斂しようとしている。
大いなる運命の流れからは、誰であろうと逃れられはしない。そのことを、蛇は誰よりもよく知っていた。
◇◇
〈脱出王〉を主軸とした作戦会議は、抗う彼らに一定の方針を見出させた。
神寂縁を斃す上で肝要なのは、まだ完成していない未成熟な器達。
ならばその発育を妨げるノクトら蛇の共犯者を妨害し、本命へ挑む希望の数を絞ること。
決まった内容に異論はない。
だが現実とは、そう上手くは運ばないもので。
彼らの作戦が機能し始めるよりも早く、蛇が遊びを止めてしまった。
「野郎、もう来やがった。どうやら何か、想定外があったみたいだな」
ルー・マク・エスリンの言葉に、亀裂にも似た緊張が走った。
赤坂亜切と〈脱出王〉。本来決して相容れない衛星達を同居させた呉越同舟ながら、火花など散らす暇もない。
神寂の姓を持つ魔獣。その理不尽にも似た強さを知っていれば、不毛な争いにリソースを費やす気は自然と失せる。
「まだ動けないのかい。君に矢面に立って貰えれば一番助かるんだけど」
「動けはする。ただ霊核に罅を入れられてるんでな、万全を期すならもう少し回復に時間を使いたいってのが正直なとこだ」
蛇は怪物。だが道理を逸した強さは奴の専売特許ではない。
神代の大英雄であるルーも当然、常識を破却する埒外の能力値を秘めている。
彼が受けた攻撃を食らって生存できる英霊の数は、現在生存している全英霊を引っ括めても五指居るかどうかだろう。
それだけの一撃で沈められておきながら、こうして満身創痍程度で済んでいることが既にこの男の異常性を物語っていた。
とはいえ、流石にすぐ戦線復帰とは行きそうもない。
そう自由が利く身体でもないのだ、恐らく最前線で打ち合えるのは一戦が限度。
まさかの増援でもない限りは、賭けるに値する戦局まで温存するべきだ。
「やー、しっかし本当、厭らしいことばっかりしてくれるよね。
これじゃ最悪、ノクト達と蛇さんの板挟みになる可能性まで出てきちゃった」
会議の結論を、今一度整理しておこう。
神寂縁は純粋な強さだけでなく、ある種の因果的なトリックを持った存在である。
よって無策に挑んでも頭数を減らすだけで、彼に足切りを食らわない、或いはその上で跳ね除けられる未熟な戦力をチョイスするべきだ。
そこでアギリを筆頭とする、蛇との相対資格を持たない者達……そして事の中心であるレミュリンは距離を取りつつ、蛇に力添えしているノクト・サムスタンプなどを押さえ込む。
賭けの要素は多いものの、このまま不毛に戦い続けるよりは幾分もマシになる筈。
しかし蛇が戻ってくるとなれば、作戦の始動よりも先に、これをやり過ごして逃れる必要が出てきた。
即ち。なりふり構わなくなった魔王との、結果の見えた再戦である。
当然、まともに打ち合ってやる意味はない。
勝利条件は全員、最低でもレミュリンだけは生存した状態で、神寂縁を撒くなり撃退するなりすること。
討伐に比べれば難易度は数段以上落ちるだろうが、それでも修羅場なことには変わらなかった。
「あの暗黒足長おじさんの狙いはレミュリンだ。何を置いても彼女を守れるように陣を敷くべきだろうね」
「〈脱出王〉、君が前線で足止めしてこいよ。逃げ回るのは得意だろ? それしか能がないとも言うが」
「わーお人を人とも思わぬ提案。今の私が裸一貫も同然の状態ってのを知っての物言いかな」
「真面目に言ってるんだよ。君以上に適した囮がいるか?」
一見するといつもの煽り合い。
しかし忘れるなかれ、彼らは互いのパーソナリティを端から端まで熟知し合っている。
不倶戴天だからこそ、誰よりも深く知っているのだ。
狂人共が同じ方向を向いて轡を並べるなど、本来ならまず有り得ることのない異常事態。
難易度は破格だが、もしも叶えば得られる恩恵は計り知れない。独りでさえ能力、経験値、精神性全てが突出した魔人達が、経験を元手にした反則技の共演を見せてくる。敵にとってこれほど厄介な布陣もあるまい。
「分かってるさ。確かに妥当な役割分担だけど、二つほど問題があるね」
「と、言うと?」
「まず、あの蛇さんは本物の外れ値だ。まして此処はあれの体内も同然、鬼ごっこをやるにも限度ってものがある。
それにさっきの一悶着で、少なからず手持ちのマジックを見せちゃってるからね。
稼げる時間は数分そこらだろう。何ならつれなく無視されるかもしれない」
だが――再三に渡り述べてきた通り、神寂縁の脅威度はその盤石ささえ超えてくる。
「ライダーがいればまた話も違ったんだろうけど、こればっかりは読み違えちゃったな。面目ない」
「……ていうかそうだ、聞きたかったんだよ。君、なんで丸腰でこんなところ彷徨いてるんだ。相方の猫はどうした?」
「え? あーうん、わけあって見どころのある不良っ娘に無利息で貸し出し中」
「やっぱりもう一回死んどくか?」
「いや君も人のことは言えないだろ。あのおっかない女神さんはどこに置いてきたんだい――わ! わわ! マジで燃やそうとしてない!? ちょ、ちょっとー! レミュリーン! へるーーーぷ!!」
ハリー・フーディーニが両翼揃っているならまだしも、現世を生きる山越風夏だけでは蛇への対処は難しい。
正面切っての迎撃は不毛。かと言ってデコイを用いての足止め、誘導もこの通りあてがない。
暗礁に乗り上げたかに思われたが、そこで(アギリの放ってくる禍炎をぴょんぴょん躱しながら)〈脱出王〉は続けた。
「人の話は最後まで聞くもんだよ。言ったろ、問題はこれだけじゃない。もうひとつあるんだ」
「勿体ぶってないでさっさと聞かせろよ」
「相変わらずエンタメってものが分かってないなぁ……あのね、私達が悩んでるのはひとえに戦力の不足だろう?
蛇さんは強い。強すぎると言ってもいい。相対できるのはそこにいるランサーくらいのものだけど、手負いの彼を投入する場面は選ぶべきだ。アギリもそこを分かってるから、私にお鉢を回してきた」
そう、彼らには絶望的なまでに戦力が足りていない。
ルーの負傷に始まり、ジリ貧の状況が続くことが約束されてしまっている。
「じゃあ逆に言えば、人員が……それもさっき話した"蛇さんに抗える資格(ちから)"を持った誰かが拡充されれば、誰かを捨て駒にしなくてもいいってわけだ」
「ああ、そうだね。だが、そんな都合のいい駒が――」
「来るよ。たぶん、もうすぐだ」
その現状がじきに覆されると、〈脱出王〉は確信を以って断言した。
「脱出王(わたし)がこう言ってる。根拠はそれで十分だろう、違うかい?」
彼女は"脱出"の起源を拗らせた覚醒者。
遠い前世の誰かが目覚め、転生を経ながら宿痾を濃縮され続けた生粋の脱出狂い。
だからこそ〈脱出王〉は、山越風夏は、ハリー・フーディーニは、希望の気配にとても敏感だ。
「もしかすると、因果応報ってヤツは本当にあるのかもね。潮目が変わってきた。これからますます面白くなるよ、余所見厳禁だ」
運命という無形の概念が、時に誰かの働きかけで加速するモノならば。
一人一人に用意された因果もまた、その速度に合わせて廻るのが道理だろう。
無敵に思えた蛇の傍らに、死神の影が闊歩し始めた。それもきっと一人ではない。
舞台の変調を愉快愉快と喝采しながら、稀代の奇術師は鷹揚に笑う。
◇◇
(――ねえ、ランサー)
狂人達の論戦を見つめながら、レミュリン・ウェルブレイシス・スタールは己が英雄に問いかけた。
(わたしに出来ることって、ないのかな)
赤坂亜切は、彼女にとって複雑な想いの入り交じる仇である筈だった。
だけど今、レミュリンは彼に守られている。
アギリがいなければ、彼女はとっくに蛇の毒牙に掛かっていただろう。
〈脱出王〉とてそうだ。味方になったステージマジシャンは想像の何倍も頼りになる。
都市の狂人達に守られて、スタール家の忘れ形見はなんとか命を繋いでいる。
――彼らは頼もしい。だけど、守られるだけのお姫様でいるのは苦しくもあった。
自分のせいでルーは傷を負った。それこそアギリも、山越風夏もだ。
この蛇腔領域だって元を辿れば自分を確実に喰らうために展開されたもので、一体どれだけの人々が危険に晒されているのか想像も付かない。
なのに当のわたしは何も出来ていない。守られて、庇われて、建設的なアイデアの一つも出せやしない人畜無害なトロフィーだ。
そんな現実に無感でいられるほど、レミュリンという少女は図々しくはなれなかった。
(頼って貰えるのは嬉しいが……今は偉そうに助言できる立場じゃねえなあ)
(いいの、そんなこと。ランサーがいなかったらわたし、どうなってたか)
相談を受けたルーは、自虐もそこそこにむぅと唸る。
そもそもの話、現在の状況はとある大きな不明を孕んでいた。
両親を喪い、半ば巻き込まれる形で針音の聖杯戦争に迷い出た少女。
そんなレミュリンが、この数時間で急に様々な厄種から目を付けられ始めた。
その代表が神寂縁である。今は目的を同じくしているものの、赤坂亜切や〈脱出王〉だってそうだろう。
では、彼女は具体的に何を有しているのか?
スタール家の悲願、〈燃焼時計〉が絡んでいるのは想像できるが、そこまでは蛇杖堂寂句も掴んでいない様子だった。
レミュリンにしてみれば、まったく身に覚えのないことであちこちから取り合いされているようなもの。当惑するのも無理はない。
(嬢ちゃん。君は、あの蛇男をどう思う?)
(ぇ――?)
そこを踏まえてルーが投げた問いは、レミュリンにとって予想外のものだった。
(敵を知るにはまず己からと言うが、俺に言わせれば逆も然りだ。
己を知りたければ、敵を知ってみるのもまたひとつのテ。というわけで聞かせてくれよ、君にアレはどう見える?)
(どう、って、言われても……)
レミュリンは、蛇と呼ばれる男の顔を四つ知っている。
ジェームズ・アルトライズ・スタール。自身の叔父で、家族を亡くした自分を献身的に援助してくれた恩人だ。
アンドレイ・ダヴィドフ。日本での後見人、深い慈愛を湛えていると信じたロシア人神父。
蛇杖堂絵里。あの傲慢な暴君の姪を名乗って接触してきた、優しいお姉さんの顔をした女怪。
そして――神寂縁。欲望の徒、藪の魔王。自分を求めて止まない、邪悪の権化のような男。
(怖い。怖いよ。カムサビエニシは、とても怖い)
ぎゅ、と握り締めた拳は微かに震えていた。
この都市で、色々な人と出会ってきた。
いい人悪い人、そのどちらなのかも分からない人。
様々居たが、あの百の貌を持つ魔人は常軌を逸している。
彼の行動原理はひたすらに低俗で、ある意味では凡俗と言ってもいい。
少女喰いという自分の性癖に忠実に行動し、抱く志の格は間違いなくレミュリンの知る誰より低いだろう。
だが支配の蛇は、そんな下らない動機にすべてを注ぎ込めるのだ。
それが怖い。大義を以って狂奔する人でなし達の方がよほど安心できる。
ただ――
(だけどわたし、言われてみればあの人のこと、何も知らない)
何故、彼が自分にだけこうまで固執するのか。
獲物だからというのもあるだろう。が、それだけではない筈だ。
そこに、自分が一体何者なのか。
どんな使命を埋め込まれた、如何なる正體を持った存在なのか。
その答えがあるかもしれないと、ルーの問いが気付かせてくれた。
(どうせあの野郎はもうじき此処に来る。回避不能の災害なんだ、思うことがあるなら全部ぶつけちまいな。疑問も、感情も、鬱憤とかもな)
わたしに出来ること。それを探すためにはまず、自分自身の真実を知らなければならない。
レミュリンは脳裡に響く声へこくりと頷いて、彼女なりに精一杯前を向く。
自分だけの戦いを見据え、青くか細く、けれど確かに灯り続けるその火を煌めかせた。
◇◇
悪意が降り立つ。朝の来ない永劫の宵闇に、人の形をした蛇が妖しく揺らめく。
神寂縁。絶対悪。あどけない魂を喰らい、保存して、その可能性を玩ぶ天下万民の嘲弄者。
「おや、意外だな――尻尾を巻いて逃げるものと思ってたんだが」
晴れて念願に追いついた大蛇の視界に広がっていた光景は、予想とは異なるものだった。
レミュリン・ウェルブレイシス・スタール。蛇の最高到達点そのものが、手負いの槍兵を侍らせながら立っていたのだ。
罠か、とすぐに思い至る。同時に浮かべたのは心からの嘲笑だ。この期に及んで愚かなる演者共は、未だ自分をそんな猪口才な計略程度で捕らえられる存在と空想しているのか。
「君にしては浅知恵をやったね、ルー・マク・エスリン」
「どうだかな。吠え面かくのは案外お前の方かもしれないぞ? カムサビエニシ」
だとすれば失望は禁じ得ない。
蛇は絶対の捕食者だ。窮鼠が猫を噛むことも時にはあろうが、白亜紀の恐竜を食い殺す鼠の群れなど存在しないだろう。
仮に現在蛇腔に囚われている全戦力を結集させてぶつけたとしても倒せないのがこの魔王だ。
それを鼻先に人参をぶら下げた程度でコントロール出来ると、未だにそう考えているなら無識も甚だしい。
とはいえ愉快。支配されることを拒んで足掻く弱者の姿は何度見ても笑えるものだ。
本当ならすぐにでも放つ筈だった初撃を一旦引っ込めて、魔王はレミュリンに向けて眦を緩めた。
「その他大勢の滓共ならともかく、レミーの希望なら仕方がないな。
いいだろう、少しだけ時間を割いてあげよう。で、どうする? 落とし穴か? 足を止めさせての狙撃か? ああそれとも、まだ見ぬ手品でも飛んでくるのかな。君には優秀な手品屋が付いているのだし」
蛇は慢心を捨てた。
故にこれは傲慢の顕れではなく、レミュリンへの純粋な愛情から出た行動である。
時の魔女の資格を抜きにしてもこの少女は実に愛らしい。
容姿、年頃、生い立ち、精神性、すべてがおしなべて高水準の極上肉。
なら人柱にする前に、少しばかり愛でてやってもいいだろうという一種の慈悲だ。
どの道傲慢ではないかと言われたら、確かにそう。超越者の感性は当人以外誰にも定義できない。
「僕は動かない。好きにしなさい、レミー」
「カムサビエニシ。わたしは、あなたのことが知りたい」
「――何?」
だが、事はルー・マク・エスリンの言った通りになった。
促されるまま真意を開陳したレミュリンに、蛇は眉根を寄せて問い返したのだから。
「ジェームズおじ様。エリさん。ダヴィドフ神父。
わたしは色々な"あなた"と話して、関わってきた。
だけどわたしは、本当のあなたを……カムサビエニシという人間のことを知らない」
ある神が、朋友の少女にこう言った。
何かを討つと決めた時、絶対にしてはいけないことがある。
それは、わけも分からず殺すこと、であると。
二つの陣営間に存在する面識は、まともな会話もままならないごく一瞬だったが。
レミュリンは意図せずして、天津神の金言に従っていた。
「だから、教えて。あなたはどういう人で、どうしてわたしのことが欲しいのか」
対面し、彼の剥き出しの悪性に触れるのは少女にとって閾値を超えた恐怖であった。
少しでも気を抜けば歯の根が震え、足など子鹿のように震えてしまいそうだ。
込み上げる弱気を空元気でかき消して、なけなしの虚勢を張って立つ。
そのいじらしさはまさに、蛇が彼女を愛する理由の最たるものであったが――
「……く」
口角が吊り上がる。
永遠の闇を描いた腔内から、嘲りでも何でもない、心からの声が漏れてくる。
「く、ははははは――そうか。これは確かに一本取られたな。言うに事欠いて、この僕のことを知りたいと。そうか、そうか」
藪を分け入って破滅した者は山のようにいた。
だが藪の前に立って、直接中を見せてくれと嘆願してきた者は初めてだ。
凡庸故に可能な非凡。その愚直を、やはり蛇は愛した。
「いいよ、君になら教えてあげよう。僕はかつて、どこにでもいる普通の子どもだった」
雪村鉄志に覗かせたのとはまた違う、らしからぬ寛大さ。
斯くしてレミュリンの希望は成就する。支配の蛇の中身を知りたいという、場違いな願いが。
「まあ、当時から頭は良かったか。やろうと思えば大概のことは出来る能力はあったが、言ってしまえばその程度さ。
ただある時、ふと魔が差した。この話は前にもしたね。
拭いても拭いても汗が滲み出てくるような炎天下で、僕はある少女の後ろ姿を認めた。それが僕の〈はじまり〉だ」
但し、そこに凄惨な生い立ちや、やり切れない悲劇など欠片も登場しない。
彼は常に加害者で、奪う側の人間で、あるがままに破綻者である。
「レミーは、"起源"という言葉を知っているかい?」
「……ううん」
「言うなればその人間の設計理念のようなものだ。
どのように生きるのか、どのように世界と関わるのか、僕らは誕生した瞬間から行き先を定められている。
例えば"切断"。例えば"結合"。例えば"反証"。例えば"禁忌"。
普通に生きている分には然程厄介なものでもないが、希に自分に科されたソレを認識してしまう人間がいてね。僕もそのケースだった」
男の起源は"支配"。
遍く総てを統べよと、世界は彼にそのカタチを求めた。
自分より遥かに歳下の少女にしか情欲を向けることが出来ない。
性癖としては今日び珍しくもないが、彼の場合それは、己の起源に導かれ獲得した素質だったのだ。
「結果的に、僕は沸き起こる黒い衝動に逆らわなかった。
愉しかったよ。一度味わってしまったらもうやめるなんて考えられない。
だから殺した。殺して、殺して、殺し続ける内にだんだんと知恵も付いてきた」
無垢な少女を欲望のままに奪い、生命を支配する。
死とそれが齎す喜怒哀楽を以って、運命を支配する。
フィクサーとして暗躍することで、社会を支配する。
神寂縁の生涯は、そのすべてが"支配"の二文字に帰属している。
「成人までに百人を食った。食った魂が僕の中に残っていることに気付いたから、それを使って姿形を変える芸当も身に着けた。
同級生が大学でキャンパスライフを謳歌してる頃、僕は永田町で国会議員をやっていたよ。
金、人脈、地位に名声。集めたすべてを餌にまた殺した。正直、僕ほど個人的動機で殺し続けた人間は他にいないだろうな」
酒のジョッキを片手に、赤ら顔で青春時代の悪事を自慢するような。
そんな軽い調子で語られる非現実的な所業の数々にめまいを覚えた。
長い講釈を聞くのは二度目だが、これと蛇杖堂寂句では何もかも違いすぎる。比べるのもあの暴君に失礼だ。
レミュリンもまた、改めて理解する。これは悪だ。掛け値のない、限りなく純黒に近い闇の化身だ。
「ただ……本当に欲しいものだけは、どうしても手に入らなくてね」
蛇が声のトーンを落とす。
彼は、すべてを手に入れてきた。
数多の顔を使い分け、万事において天賦の才を発揮できる黒幕に、叶えられない欲望などない。
そう、たったひとつを除いては。
「どうしてわたしのことを欲しがるのか、と聞いたね。それは、君が僕の長年の夢を叶える時計(せいはい)だからだよ」
「わたし、が……聖杯……?」
「僕の理想とは時の止まった世界。
誰もが永遠に現在の姿のまま固定され、成長も、死も、あらゆる発展性が排された"楽園"だ。
エデン、ユートピア、エリュシオン、ニライカナイ……呼び名は何でも構わないが。兎角僕は、そういう地平を求めている」
それ即ち、星と全人類に対する支配の完了を示す。
生命。運命。社会。そして魂。
蛇は四つの概念を手中に収めたが、まだ一つ足りないものがあった。
時間という、絶えず流れ続ける海流だ。
時を奪われれば、人は絶対に今より強(おお)きくなれない。
知恵の実がないエデンに破綻は起こり得ず、死という自由さえ赦さない永遠の牢獄(ビオトープ)と化す。
「お姉ちゃんが背負っていた使命は蛇杖堂寂句から聞いただろう。僕はそれを、君でやろうというわけだ」
「――どうして? どうして、わたしなの? わたしには、お姉ちゃんみたいな才能はないのに」
「いいや、君は可愛いだけの優等生とは訳が違うよ。
僕が想像するに、君の才覚は姉と違って、分かりやすく表に出てくる類のものではなかった。
だから僕も一度は見落としたし、あの無能な夫妻なら言わずもがなだ。気付いていたのは多分、彼女だけだったんじゃないかな」
――ジュリン・ウェルブレイシス・スタール。
そんなわけない、と否定することは出来なかった。
何故なら自分はもう、彼女が遺した"仕掛け"を知っている。
更に言うならその前から、謎はずっとあったのだ。
意味深な文字列と共に、本の中に納められていた懐中時計。
東京の地に現人神を産み落とした、ある科学者の妄執の具現。
どうして姉は、そんなマスターピースを妹へ宛てて遺したのか。
いや、まず、第一に。
どうしてソレは、そこにあったのか?
「オルフィレウスの永久機関。古びた懐中時計。"君も"、覚えはあるんじゃないか?」
考えていたことを言い当てられて背筋が凍る。
蛇に睨まれた蛙、という慣用句が脳裡を躍った。
「君の両親が用意していた隠し球だよ。魔術師は秘密主義。叔父の僕にさえ隠していたのだから、よほど肝煎りの秘策だったんだろうな」
「な、んで……あなたが、そんなこと……」
「蛇杖堂記念病院に向かう道中、ウチの姪っ子と会っただろう?
あの時に確信した。初代ウェルブレイシスに足りなかったものは電池だ。
無限にも等しい膨大な時間を観測し続けるために必要な、究極の炉心が必要だった」
人柱のコンディションを保ち続ける燃料電池。
少年科学者の歯車は没年時点では未だ欠陥品の域を出ていなかった。
それでも異端狩りが動く程度には世界を震撼させる代物だったわけだが、一つだけ巨大な陥穽を抱えていた。
――『時計じかけの方舟機構(パーペチュアルモーションマシン)』は、一般的生命体の肉体に適合しない。
「だが、ジュリン・ウェルブレイシス・スタールではどうせ無理だったろうね。
片田舎の科学屋が遺した永久機関が本当に額面通りの品物であったなら、スタール家如きの手に渡る筈がない」
人間どころか、英霊でさえまともに扱うことの出来ない、肩書きに偽りありの"永遠"。
故にオルフィレウスは失意の中で夭折し、三流英霊として座の片隅で腐っていたのだ。
――神寂祓葉という不世出の才能を見出すまでは。そう、例外は存在したのである。
「燃焼時計計画に必要なのは理論ではなく資格だったんだ。欠陥品の歯車に適合し、扱いこなして、真の永遠に到達できる魔女の器」
では。果たして本当に、それはひとりだけだったのか。
「君が僕の魔術を相殺してのけたあの瞬間、僕は君こそがその資格を有する者なのだと確信した」
「わたしは――そん、なの……!」
「逆に聞くが、本当に分からないのかい? 窮地に際して出力を跳ね上げ、自分に迫る危険を打破する。それをやってのけた人間を、君は僕と一緒に見ている筈だよ」
「っ……!?」
崖っぷちでの限界突破。
不可能を可能にする、天元突破の権能。
〈恒星の資格者〉でさえ全員は持ち得ない極上の理不尽。
その第一人者を、神寂祓葉という主役の存在を、レミュリンは確かに知っていた。
「そういうことさ。レミー、いや、レミュリン・ウェルブレイシス・スタール。君は――」
そうして告げられる答え合わせ。
最後の錠前を、悪意の秘鑰がゆっくりと開いていく。
「――無限大の可能性を持って生まれた、神寂祓葉の近縁種だ」
◇◇
その少女に、見かけ上非凡なものは一切なかった。
強いて言うなら容姿は端麗の部類だったが、それも魔性の域と言うほどではない。
だから彼女を産んだ夫妻は、当たり前のように赤子を後継者のスペアとして育成した。
夫妻の名誉のために付記しておくと、彼らはちゃんと次女のことも愛していたし、だから彼女は何も知らないままのんびりと歳を重ねて来られた。
されど、蛇・神寂縁の推測通り、本当に答えへと辿り着いていたのは少女の実姉ジュリン・ウェルブレイシス・スタールだけだったのだろう。
きっかけは分からない。こればかりは当人がもはや語る口を持っていない以上、憶測を並べ立てるしかない。
レミュリンの才能は、分かりやすく表に出てくる類のものではない。
ともすれば一生、誰にも知られることなく終わる可能性さえあるものだった。
神寂祓葉がオルフィレウスと出会い、自分が本気を出せる世界の存在を知ってしまったように。
退屈だが地に足の着いた平穏が維持されてさえいれば、レミュリンはただの少女のままでいられたことだろう。
与えられた日常の檻を飛び出していったのは、他の誰でもない彼女自身。
蛇は、レミュリンを恒星の資格者と呼称しない。
何故なら彼女には、恒星の如き莫大な自我が存在しないからだ。
永遠の幼年期に耽溺する、少年のような奔放さを持たない。
堕落のままにあらゆる倫理を捨て去れる、月姫のような残酷さを持たない。
善く在ることは素晴らしいと信じ続ける、天使のような愚直さを持たない。
立ち塞がる現実を爆ぜ飛ばして進む、悪魔のような烈しさを持たない。
救いあれと自分だけの創神論を奉じ輝く、機神のような無垢さを持たない。
レミュリン・ウェルブレイシス・スタールは――恒星の資格を持っていない。
彼女は奇しくも神寂縁と同じ、市井の中に偶然生まれた突然変異種だったのだ。
されど現人神への類似性という観点では、レミュリンのそれは蛇をも凌駕し得る。
「だから僕は君を喰らう。そうして総ては、永遠の幼気に呑まれるんだ」
永遠の幼園が完成すれば、そこに待つのは神寂縁にとって至福の安寧だ。
世界の総てが己の所有物となるのだから、もういちいち迂遠な犯罪計画を講じる必要もない。
「誇りに思うといい、レミー。君の犠牲を以ってして、世界はかつてない美しさを手に入れる」
かくて世界は救済される。
自由と成長、それをさえ手放せば。
家畜として生きる未来を受け入れさえすれば。
蛇の箱庭に生死の概念はなく、時の消えた世界はあらゆる命を永久に不変たらしめるだろう。
故に魔女よ、楽園の礎となれ。
蛇は言う。魔王は嗤う。
エデンを築く人柱となり、君が世界を救うんだと手招きする。
「これ以上の不毛は止そうじゃないか。おいで、レミー」
「――あなたは、楽園を作って、どうしたいの?」
「その永久(とこしえ)に君臨する。
すべてを僕が統べ、万象が僕のために跪き続ける、完成された理想地図を。
それでようやく僕は安心して眠ることができるんだ。何故ならそこには、僕が持っていないものがひとつたりともないのだからね」
レミュリンは今にも過呼吸に陥りそうな胸をどうにか制御して、蛇との問答に集中し続けた。
支配の起源を持つ男。この世のすべてを思い通りにしたい、その一心だけで数多の命を奪い、弄んできた黒幕(フィクサー)。
「そんなにも、すべてを持ってないのが忌まわしい?」
「忌まわしいね。正直に言えば、癇癪のままに喚き散らしたくなる」
三千世界の鴉を籠に詰め込んで、飛ぶもののいない空を我が物顔で眺めたい。
蛇の願いとはそういうモノだ。
奢侈を尽くしたいわけではなく、ただ単純に、これは自分に支配されていないモノがあること自体が許せない。
個々の人権すら例外ではなかった。蛇は常に嗤っているが、その実、常に狂おしく怒っている。
こうして誰もが自分に恐れ慄き、逃げ惑う光景さえ、彼に言わせればなかなか己に恭順しない現実の象徴なのだ。
時の魔女を手中に収め、エデン計画が成就すれば、遂にそんな苛立ちからも解放される。蛇にとってそれは夢にまで見た救済だった。
「それ以外に、あなたが幸せになれる未来はなかったの?」
「無い。断言しよう。
僕はあの夏、己の真理に到達した。
この身は魔王として君臨し、世界の総てを導くべくして生まれたのだと悟った。
王の使命とは統べること。支配者の理想とは万物の完全管理。ならば、妥協などできる筈はないとも」
「――、――」
さあ。
蛇が、手を伸ばす。
愛しい理想の最終ピースへと。
ルー・マク・エスリンが槍に手を掛けたのさえ、彼は一顧だにしていなかった。
抵抗するというなら今度こそ磨り潰すだけ。
何もやることは変わらない。そう信じて疑わない男の前で、少女は、ぽつりと。
道端に打ち捨てられた子猫の死骸でも見たような声音で、一言呟いていた。
「…………かわいそう」
「なに?」
蛇の手が、止まる。
レミュリンの放つマゼンタの火を見た時と同じ、呆気に取られるような感覚。
「カムサビエニシ。あなたは、壊れちゃったんだね」
レミュリンの言葉は、思索を凝らした挑発などではなかった。
今しがたの問答を受けて抱いた、純粋なただの感想。
だからこそその憐れみは、神寂縁という男の芯を食っていた。
「完璧じゃない自分が許せない。すべてを持っていない自分を認められない。だから止まれないし、誰とも通じ合えなかったんでしょ?」
神寂縁はかつて、どこにでもいる普通の少年だった。
そんな彼の中である日目覚めた、起源という名の宿痾。
芽吹いてしまった病巣は彼の全身へ根を広げ、ヒトでも悪魔でもない、がらんどうの厄災を作り出した。
「ねえ、カムサビエニシ。あなたは本当に、あなたなの? 本当のあなたは、どこにいってしまったの?」
ある船の部品を、すべて新品へと置き換えた。
では換装が終わったその船を、果たして同じ船だと呼べるのか。
起源に染まり、起源に喰われ、書き換えられた男。神寂縁とはまさにテセウスの船だ。
此処にいるのは、果たして神寂縁という人間なのか。
それとも彼のすべてを食い潰して成り代わった、〈支配〉の起源そのものなのか。
誰にも答えは出せない。他でもない、蛇自身にさえも。
問答を通じてそのことを読み取ったからこそ、レミュリンは込み上げる動揺も目の前の男への恐怖も忘れて、彼女らしい善性で憐れんだのだ。
「――?」
ああ、なんと初々しいのだろう。
こんな益体もない、禅問答めいたやり取りで時間を稼ごうだなんて。
笑みを浮かべかけて、蛇は奇妙な感覚に囚われ、自分の右腕を見下ろしていた。
肌がぷつぷつと粟立っている。
それが鳥肌だと認識した瞬間、この男は夢にまで見た最終目標の少女に対し、自分が今どんな感情を抱いているのか自覚した。
「レミー、君は」
これは嫌悪だ。
あどけない顔で己を憐れむ最愛の花嫁へ、害虫に向けるような不快感を懐いている。
「君は――」
何を言うつもりだったのかは彼にしか分からない。
しかし、最後まで紡ぐことは出来なかった。
「よう、さっきぶりだなァ塵屑野郎」
ミサイル弾の着弾を思わせる死の毒炎が、立ち尽くす蛇を呑み込んだからだ。
「レミュリン――下がれッ!」
「っ……、うん!」
これを好機と見て、ルーもまた炎の中に槍撃を突き穿つ。
肉を抉る手応えがあった。確実に痛打を与えたと、先の一戦以上の確信を抱く。
「……次から次へと」
されど蛇は強靭無敵。
胴から血を流し、身体に負った火傷を高速再生させながら、苛立ちも露わに毒の煉獄を消し飛ばす。
その視界に映る者達は誰もが皆、支配の蛇へ仇成して藪を暴いた烏合の愚者共だったが。
そこに二人一組(ツーマンセル)の、新たな役者が追加されていた。
「皆さん――っ、聞いてください!!」
響く少女の声が一瞬詰まったのは、立ち向かう者達の中に嫌な記憶のある顔を見つけたからか。
だが曇りかけた表情を勇気と使命感で無理やり保ち、最強の偶像は端的に、場の全員へと己の価値を伝えた。
「私は、あの人を浄(たお)す方法を知ってます!」
少女の名前は、輪堂天梨。
傍に立つのは復讐鬼、シャクシャイン。
恒星の資格者にして、〈脱出王〉が預言した、希望の星であった。
◇◇
あどけない顔に、数時間前まではなかった覚悟を灯し――凛と立つ白皙の天使を認めた刹那、神寂縁は颶風と化した。
「っ――」
「おぉっと! 悪いがさせないぜ、蛇野郎……!!」
即断即決、彼らしくもない遊び皆無の即殺択。
それは天梨の言葉に、理屈要らずの真実味を与えるには十分なものだ。
シャクシャインが動いたのと同時に、ルーも動き、二人がかりで蛇の凶腕を押し止める。
「おい。しゃしゃるなよジジイ、大人しく手前の要石だけ守っとけや」
「それは失礼! 最近の若者はつれないな! まあ、それはさておき、だ」
ルーは復讐者の悪態を爽やかな笑顔で受け流したかと思えば、すぐさま微笑みの中に蛇への挑発を織り交ぜた。
「随分余裕がないじゃないか。らしくないな、よっぽどこの嬢ちゃんが怖いのかい?」
輪堂天梨はこう言った。
自分は、蛇を倒す方法を知っていると。
察するに彼女達は、本命へ向かう蛇を追いかけて此処まで来たのではないか。
これほどまでに気位の高い支配狂が、目の前の反乱分子を逃がして本命確保にひた走る。
あり得ないとまでは言えないが、らしくないのは事実だ。
それが意味するところはひとつ。この蛇腔での戦いは、少しずつだが風向きを変えつつある。
だからこそ蛇もようやく焦り始めた。幾つかの不測の事態が、驕り好きな魔王の尻に火を点けたのだ。
「前線は俺達で押さえる! 君、名前は!?」
「天梨! 輪堂天梨、ですっ!」
「オーケーいい名前だ! 前線は俺達で請け負うから、うちのマスター共々後ろに下がっときな!」
顔を見合わせる、天梨とレミュリン。
天梨が手を出し、レミュリンもそれを取った。
手を繋いで駆ける、日向の天使と時の魔女。
あどけない少女達の共通点は、世界の命運をも書き換えかねない、破格の才気を有していること。
「君は――」
「――あなた、は」
ルーに促された通り、後衛に下がる中で、天梨と葬儀屋の青年の視線が合った。
狂人・赤坂亜切。彼に味わされた恐怖が並大抵でなかったことは、今も痛む折れた片手が物語っている。
彼とその相棒により天梨は絶望を味わされ、一時的な堕天にまで至ったのだ。
なのにそんな相手と再会し、同じ陣営で戦うことになるとは、なんとも数奇な運命だった。
「アーギリっ。ねね、彼女のことどう見える?」
「黙れ。今、ちょうど推し測ってるところだよ」
アギリの両眸は魂を形質として視認する。
だからこそ彼は――彼女自身さえ正しく認識しているか疑わしい――翼のカタチの変化に誰より早く気付けていた。
(妹力が大幅に下落。代わりにお姉ちゃん力がそれ以上の上昇を見せてる、か……一体何があった? いい加減想定外にも慣れたところだが、短期間で此処までの数値変動は初めて見る)
かつて出会い、痛め付け、一杯食わされた時に見たのは紛い物の太陽。
弱い輝きで余人を温め続ける、極星(ほんもの)を知るアギリに言わせればつまらない輝きだった。
しかし今は違う。紛い物は紛い物でも、照らす範囲を絞ることを覚えている。
つまり愛する者には優しく。逆に、望まない者にはどこまでも苛烈に。
熱を分配しながら輝くその様はまさしく、白夜の太陽。
天使の慈愛に、あらゆる闇を赦さないという別の頑なさが加わった形だ。
本質的には神寂祓葉に近付き、照らす相手を選ぶようになった点では遠のいた。
そうまで想いをかける誰かを見つけたのか。それとも何か、その誰かに対する心境の変化があったのか。
「怯えなくてもいい。君と争うつもりはないよ、今はね」
「あっ、はい……」
「うんうん、大丈夫大丈夫!
アギリは知っての通り超危険な変態だけど、味方になったら案外頼もしいヤツなんだよ。
だから宜しく、輪堂天梨! あっ、後でサイン貰ってもいい? 実はそのうち会いに行こうかと思っててさぁ」
ぷい、とそっぽを向いて面倒臭そうに吐き捨てたアギリ。
〈脱出王〉は例の如く陽気に、よろしくねぇ、なんて言っている。
天梨は何が何だかといった様子だったが、そこにレミュリンも付け加えた。
「危ないことしようとしたらすぐ止めるから安心して、テンリさん」
「わ……わかった。まだちょっと怖いけど信じるよ」
事がすんなりと纏まったのは、演者の中でも抜きん出た博愛精神を持つ天梨だからだ。
彼女だから、狂人との呉越同舟という異常な状況にも比較的すぐ適応できる。
それは、降って湧いた天敵が足場を固めてしまうという、蛇にとって面白くない展開への発展を意味していた。
(不思議な気分だ。蛇腔(これ)を展開してからというもの、世界の総てが悉く僕の邪魔をする)
英雄二騎の苛烈な攻撃を凌ぎながら、蛇は改めて潮目の変化を知覚する。
これまで軽々と転がせていた運命が、巨大な岩盤のように道を阻み始めた。
雪村鉄志。輪堂天梨。そして、レミュリン・ウェルブレイシス・スタール。
各々が見せた、自分の想定を超える強い意志。
赤坂亜切と山越風夏の二人は戦力としてこそ矮小だが、場数に物を言わせた状況判断力は厄介と言う他ない。
致命傷を刻んでやったルーは変わらず目障りで、偏執的なほどしつこく食い下がってくるシャクシャインの存在も煩わしい。
「どうした。やっぱり面白くないか、思い通りにならないってのは」
「実に不快だね。やはりこれは僕の物語に不要な蛇足だな」
「はっはっは! まだまだガキだな、紆余曲折を楽しんでこその人生だろう!?」
蛇は戦闘狂ではない。
戦いの中に悦を見出す感性は有していないし、挫折をありがたがって珍重する奇特な性癖もない。
その彼が産まれて初めて直面する、"なるようにならない"という歯痒さ。
感慨と厭悪の間で、人柱から掛けられた言葉が無意味な反響を続けている。
――かわいそう。
憎まれることはあれど、憐れまれる筋合いなどない。
そんな風にこの身を評した人間は、彼女が初めてではなかった。
かつて擦り潰した、力もないのに高説を垂れてきた拳士の顔を思い出す。
思えば先のレミュリンは、まさにあの男が最期に浮かべたのと同じ表情をしてはいなかったか。
「その手の問答に興味はないな」
勝利を誓う槍を受け止め、足踏み一つで激震を巻き起こしながら蛇が呟く。
「とはいえ、一杯食わされたことは認めよう。
おかげで僕も、また計画に変更を加えなければならなそうだ」
「ほう――具体的にはどうする気かな?」
「簡単なことさ」
次の瞬間、蛇腔領域に新たな災害が現出した。
いや、現れ始めたというべきだろう。
他でもない魔王の玉体を中心に、気配が爆発的に増殖していく。
「優しく抱くのは止めにする。可愛いレミーを痛め付けるのは心が痛むが、まあ、脳が残っていれば十分だ」
この蛇腔には、蛇に喰われた被害者達の霊魂がその数ぶんだけ蠢いている。
幼年期という母胎から脱け出すこと叶わず命を落とした、可能性の水子霊達。
蛇は、彼らが持っていた未来を、自由自在に操ることが出来る。
幾多もの顔を有していたのはそんな技術の応用だ。
ならばたった今彼が見せようとしているのは、本来の使い方と言っても過言ではない。
体内に留めていた魂を直接支配し、操り、傀儡として使役する生かさず殺さずの死霊魔術(ネクロマンシー)。
「チ……! どこまでも陰険な野郎だ……!」
「同感だが……しかしこれは、不味いな……!」
少年がいた。少女がいた。まだ首も座っていない赤子がいた。
土気色の肌のまま、だらりと顎が外れたように口を開け、泣き叫びながら生ける者に縋り付こうとする魂引きの百鬼夜行。
蛇腔に入ったばかりの輪堂天梨が遭遇したものよりも格段に極悪、猛悪、凶悪な軍勢が、明確な指向性を与えられて溢れ出す。
シャクシャインが心底気に入らなそうな舌打ちと共に毒炎を放ち、まろび出てきた端から焼き払ったが――まるで数を減らせていない。
いやそれどころか。増えて、増えて、増えて増えて増えて。害虫の集団越冬を突いたような勢いで、続々とエデンの水子達が数を増やしていく。
「斬っても焼いても構わないが……無駄だよ。彼女達の大元の魂は僕の中に保存されている。太源を断たない限り――つまり僕を滅ぼさない限り、どうしたってこちらの手数は減らせない」
しかも何より厄介なのは、その視線が間近にいるルーやシャクシャインではなく、一様にひとりの少女へ向けられていることだった。
即ちレミュリン。時の魔女の器たる、この蛇腔で最も失われてはならない命。
そこを目掛けて無数にも等しい邪霊の軍勢が時に二本足で、時に四つ足で、時に宙を足場にひた駆けていく。
「総数にして4423体だ。凌げるものなら凌いでみたまえ」
4423。それ即ち、神寂縁の保有する魂総数(キルスコア)とイコール。
たかだか四半世紀の内にこれだけ殺した男が、果たして現代にどれほど居るか。
桁違いの罪業を以って解き放たれた死の波は、言わずもがな立ち向かう者達に致命的な事態を齎した。
蛇を中核として永劫に囚(う)まれ続ける不死身のワイルドハント。
物理的手段での殲滅が叶わない奥の手の開陳が、拮抗していた盤面を桁違いの混沌で押し流す。
「――なんで、こんなことができるの……!」
その中で最初に行動を起こしたのは、彼の天敵たる日向の天使だった。
白夜に転じても抱く善性自体は健在。
かつて自分が触れた"助けを求める声"、終わらない地獄の中で泣き叫ぶ命達。それをどうしてこんなに手酷く弄べるのか。
ホムンクルスからの助言によって覚えた、許せない何かへ怒るという情動。
それを遺憾なく発揮して、義憤のままに蛇を睨み、彼女だけの星光を行使する。
「【受胎告知(First Light)】――!」
存在の強制高次化。
未だ発達途上ながら、天梨の神秘は既に魔術の常識を超越していた。
蛇が抱える魂を成仏させて支配の檻を、彼を魔王たらしめる常識を壊すという鬼札。
蛇を浄化する方法を知ると豪語した言葉の真贋を証明する行動が、輝きが、闇の中核たるヒトガタの共同墓地に注がれて――
「舐めるなよ。君如きで照らせるほど、この闇は浅くない」
「え、っ……」
ぱぁん、という、破裂に似た音が響いた。
冷たく見据えるのは蛇、動揺に瞳を震わせたのは天梨。
それだけで、彼女の目論見が失敗に終わったことは容易に窺えた。
「来ると分かっていれば、対魔力の要領で抗うことは可能なんだよ。勉強になったかな?」
対魔力。一部クラスの英霊が持つ、魔術に対する抵抗力。
少なく見積もってもサーヴァントの数倍以上の存在強度を持つ蛇は、身体の自己改造で以ってその性質を擬似再現出来る。
天梨の魔術行使に合わせて内界を変容させ、光が深淵に保存した魂達まで届かないように調整した。
浅知恵を淡々と指摘しながら、レミュリンを攫うついでに、軽く1000体を超える死霊を天梨に目掛けてけしかける。
どう考えても彼女単体では対処不可能な死の津波を、防ぐのはやはりシャクシャインの仕事だった。
馬鹿が、と悪態を吐きつつも、惜しみなく解放した第二宝具の死炎は天使を守る防波堤になる。
だがその傍ら、希望を取り上げられた少女に助言したのは意外な人物。
「あんな変態の言葉をいちいち真に受けてどうする。呆ける暇があるなら足を動かせよ、紛い物」
赤坂亜切だ。慣れた様子でレミュリンをひょいと担ぎ上げつつ、面倒臭そうに天梨へ目線を向けてくる。
「少しは頭を使いな。あのゴミは君の攻撃を"防御"したんだ。つまり、無策では喰らえなかったってことだろう」
神寂縁の肉体性能は頭抜けている。
かく言うアギリさえ、自慢の嚇炎を以ってしても本気の蛇に傷を負わせられる自信はなかった。
そんな男が、明らかに取るに足らない少女の攻撃に対し、守りの構えを取った。
結果はどうあれその事実は、天梨の言葉が間抜けな思い上がりなどではないと示していたのだ。
「とはいえ、命の優先順位は君の方がずっと下だ。
僕はあのクソ人形みたいに盲いちゃいないんでね。
そこのガキ共みたいに死に腐りたくなかったら、精々必死に付いてきなよ」
「……、……。えと。あ、ありがとうございます……?」
踵を返すアギリに、場も弁えずきょとんとしてしまう天梨。
繋がれたままの彼女の手に、レミュリンがぐっと力を込めた。
「行こ、テンリさん!」
「うん。レミュリンちゃんも私の手、しっかり握っててね……!」
この戦いのゴールは、蛇を討つことではない。
元々逃げ切り、本来の作戦に移るのが目的の撤退戦。
とはいえ天梨の介入によって、ただの徒労ということもなくなった。
蛇打倒の任を託すに足る"可能性の塊"を味方に引き入れられた以上、これを前進と言わずして何とするか。
天梨もそのことを理解していたから、レミュリンの手のひらを精一杯強く握り返した。
◇◇
「ねえ、どういう風の吹き回し?」
そんな光景を横目に、〈再演〉が〈妄信〉に問いかける。
口調こそ詰問めいていたが、表情はいつもの如く面白可笑しく笑っていた。
「何がだ」
「とぼけないでよ。君が他の星に優しくするなんて、似合わないことこの上ないぞ?」
「優しく、ね。そう見えたかい」
赤坂亜切とは、はじまりの六人、残虐無道の六凶における最右翼。
彼が他の恒星の存在を許すなどあり得ず、向ける念は凶気以外に決して存在しない。
〈脱出王〉も例に漏れずそう信じていたから、先の天梨に対する態度は些か以上に驚きだった。
いや、遡るならレミュリンに対しても然りだ。
彼女がこの燃ゆる狂人に価値を示したのだろうことは解る。
だがアギリと関わる上で真に恐ろしいのは、むしろ気に入られてしまった後だ。
厳しい採点基準をクリアしてしまえば、その先には六凶随一の偏執狂による愛憎の地獄が待っている。
一度でも解釈と異なる姿を見せようものなら即座に滅却。普通に殺されるより酷い目に遭わされるのは明々白々。
なのに彼のレミュリンへの対応はどう考えても甘く、まるで彼女が姉妹云々以外にも、赤坂亜切という人間にとって特別な価値を持っているかのよう。
「だとすれば節穴もいいところだ。僕は今も変わらず、お姉(妹)ちゃん以外の星を認めていないよ」
「へえ。その割にはレミュリンにといい天梨にといい、さっきからえらく親切じゃんか。理由を聞かせて欲しいものだね」
〈脱出王〉は好奇心の獣だ。ハリー・フーディーニはあらゆる知識欲に逆らわない。
土産話をせがむ子どものように目を輝かせる彼女に対し、アギリの返事は淡々としていた。
「……少しだけ、考えを改めた。
この舞台は、思ったよりも底意地悪い構造をしてるようなんでね」
「その心は?」
「屑星を信奉してるホムンクルスには嫌悪しかないが、あいつも、多分イリスも、役者としては正解択を踏んでたってことさ。
むしろ不正解だったのは僕やジャックの方だ。"都市の主役は未来永劫ただひとり"、そういう固定観念に囚われていた時点で出遅れていた」
〈脱出王〉もまた、針音都市の聖杯戦争が持つ裏の側面には気が付いている。
神寂祓葉という特大の外れ値が招き寄せた、次代の神の卵達。
抑止の尖兵にして、剪定されゆく世界の終末装置――恒星の資格者。そしてそれに匹敵する力を秘めた器ども。
前回の敗残者たる自分達が、そんな神寂祓葉を倒し得る可能性達を、第二の主役を擁立する代理戦争であると。
祓葉は未知を望んでいる。
東京全土を火の海に変えたあの大戦争でさえ満足できなかった彼女は、改めて自分を脅かす驚異の到来を求めていた。
だからこその二周目。バッドエンドのその先で繰り広げる、世界の破壊さえ厭わない究極至高のカタストロフィー。
「ふむふむ。じゃあアギリは、正式にレミュリンを擁立する気になったと。そういう認識で相違ないかな」
「君に答えてやる義理もないが――まだだな。まだ見極めが足りない。
僕をもう一度狂わせ直すほどの輝きを示せなければ論外だ。その時は自分の見当違いを雪ぐため、骨も残さず焼き尽くしてやるよ」
「おーこわ。天梨は駄目なの? まあ、ミロクと競合しちゃうことになるけど」
「趣味じゃないな。確かに一度は魅せられかけたが、もう僕の好みとはズレてしまった」
アギリが祓葉以外の少女を星と認めることは決してない。
これは天地がひっくり返ろうと揺るがない現実で、しかし信念可愛さに祓葉の希望を蔑ろにするのかと言われれば、それも否だった。
レミュリンとの遭遇が、彼女の見せた異常値の姉/妹力が、アギリに新たな道を示したのだ。
今はまだ見極めの段階。あの少女が、本当に主役の座を脅かすに足る超新星なのかどうか……そこをこの蛇腔戦を通じて確かめる。
「僕の理想は共に歩める家族だ。姉にしろ妹にしろ、僕以外の誰かにお熱というならその時点で論外中の論外。アバズレに用はないんだよ」
「すっごい真面目な顔ですっごいキモいこと言うね」
「とはいえ、あの紛い物が放つ輝きは実際大したものだ。
蛇野郎の打倒にも役立つだろうし、僕の想像が正しければ、アレはいつかこの都市に大きな嵐を巻き起こす。
だから今は守ってやった方が後々旨い、それだけのことさ。疑問は解消されたかい?」
一方で輪堂天梨に関しては、打って変わって完璧なる打算の産物だった。
現在進行形で歪み続けている、臨界寸前の核物質のように不安定な有翼の娘。
多少の変心を起こしたとしても、六凶は六凶。彼らが都市最悪の戦争屋であることは論を俟たない。
聖杯戦争がこの先も継続していく以上、混沌を引き起こす材料は維持しておくべきとみなした。
心優しい純真の星よりも、自我を振り翳して磁気嵐を吹き荒らす星の方が、彼らにとっては値打ちが高いのだ。
「気が済んだなら、僕からも一ついいかな。答えが何であれどうでもいい、単なる個人的な疑問なんだが」
狂いながらも理知的という、この狂人の恐ろしさを凝縮したような回答だったが。
それが出揃ったところで、今度は彼から宿敵へ問いを投げた。
「君は、いつまでそうやってフラフラしてる気なんだ?」
問う声に宿っていた感情は果たして、どれだったろうか。
だが確かなのは、決して友愛の類ではなかったこと。
挑発。軽蔑。そんな皮肉をたっぷりと詰めた、奇術師の心裡へ切り込む一言だったには違いない。
「――――、」
〈脱出王〉が、そんな質問に何かを答えようと口を開いて。
五体が吹き飛ぶような衝撃と突風が、発された筈の音を掻き消した。
◇◇
未だ手負いの状態であるルーは、自分という存在が持つ価値を正しく認識していた。
赤坂亜切も山越風夏もサーヴァントと分断されている以上、己はこの陣営の最大戦力。ワイルドカードと言っていい。
追い付かれてしまった以上蛇への応戦は不可避だが、踏み込みすぎた結果犬死にしては意味がない。
よって現在、最も果敢に戦っているのはシャクシャインだった。イペタムを毎秒数十発以上も振るい、一振り毎に百を超える斬撃を生み出して蛇の血肉を切り刻んでいく。
「死ねや糞屑がァァァッ――!」
気迫は十分。天使の祝福により、霊格も本来の数段は引き上げられている。
それでも蛇は変わらず歩みを進め、斬撃の九割方を素の皮膚強度だけで封殺してしまう。
その上で彼が持つ"白騎士の権能"――強制的な出力調整が、シャクシャインがどれだけ気張ろうと決して上を行けないという絶望を作り出す。
「片やがなるしか能がなく、片や年長者面が上手いだけの傷病人。見窄らしくて涙が出るな」
「そいつは……どうかな!」
だが、勝ち切れずとも負けさえしなければ問題はない。
今求められているのは時間稼ぎで、事実蛇は口では嘲笑していても、シャクシャインとルーの布陣を突破できずに手を拱いていた。
シャクシャインの剣舞、三桁を優に超える銀閃の隙間を縫って、ルーの槍撃が蛇の眼球を破壊する。
視界の彼方に見える針の穴を撃ち抜くような超人技だったが、極限の技量を持つ彼にとってはいつでも再現可能な芸当でしかない。
手負いでさえ彼の一撃が生む破壊力はシャクシャインのそれを大きく超えており、大英雄の名に偽りがないことを証明する。
「脳幹を傷つければ鈍るとでも思ったか。残念ながら、その程度では前言撤回してやれないね」
しかし蛇は、穿たれ潰れた眼窩から、蚯蚓ほどの細さの白蛇を無数に生み出して即座に反撃した。
怪異そのものとしか言いようのないグロテスクな絵面が、そのまま死に直結してくる常軌を逸した悪夢。
万全のルーとさえ平然と勝負を成立させていたこの怪物も伊達ではなく、一瞬の油断も許されはしない。
だが。そんな崩壊寸前の均衡が、かれこれ数分に渡り続いていたのは果たしてただの偶然か。
否、必然である。
ルー・マク・エスリンの第一宝具、『常勝の四秘宝・槍(ランス・フォー・ルー)』には限定的な因果操作の権能が封じられている。
ルーがこの槍を握って戦っている以上、どれほどの強者であろうと絶対に彼のペースに翻弄されてしまう。
それは蛇でさえ例外ではなかった。もし此処に立っているのが彼でなかったなら、とっくに戦線の体は崩れ去り、陣営の八割は殺戮されていただろう。
「おい、デカブツ。まだか?」
「悪いな、もう少し踏ん張ってくれ」
レミュリン達がある程度の安全圏まで逃れられたなら、こちらも即座に撤退し、本命の作戦に移ればいい。
不退転ではなく、適度なところで退くことを前提にした遅延戦法。
蛇を倒すのは未だ至難でも、引き止め、苛立たせることなら十分に可能なのだとルーは示し続けていた。
だからこそ。
「……さっき甘い顔を見せたせいで、勘違いさせてしまったかな?」
そんな束の間の希望は蛇にも伝わり、この絶望の化身は、喜悦を浮かべながらそれを否定する。
「所詮は過去の残影、今を生きる肉体も持たない波打ち際の砂城。
死物狂いで頑張ろうがこれこの通り。君達如き影法師では、僕の足を引くことすら敵いはしない」
その光景は――何も知らずに見たなら、思わず見惚れてしまうほど幻想的だった。
腐敗色の空に、幾つもの光が昇っていく。
地から天へ。迷える魂の臨終を思わせる光景だが、決してそんな美しいものではない。
「え……?」
声を漏らしたのは、天梨だったろうか。レミュリンだったろうか。いや、両方だったかもしれない。
時の魔女を喰らうべく奔っていた死霊の群れが、気化したように空へ還ってゆく光景を彼女達も見ていた。
神仏の慈悲でも下ったのか。もしそうだとすれば、何故浄化されていく彼ら彼女らはこうも痛ましく絶叫しているのか。
『縺九∴繧翫◆縺?°縺医j縺溘>縺九∴繧翫◆縺?°縺医j縺溘>縺九∴繧翫◆縺?°縺医j縺溘>縺溘☆縺代※縺溘☆縺代※縺吶¥縺」縺ヲ縺吶¥縺」縺ヲ縺吶¥縺」縺ヲ縺翫°縺ゅ&繧薙♀縺ィ縺?&繧薙>繧?□縺?d縺?>繧?□縺?d縺?ィィァァァィィィ――――!!!!!』
何せ4423体。それだけの霊魂が思い思いにあげる絶叫は、最早文字に起こすことなど不可能。
一つだけ確かなことは、断じてこれは救いなどではないということ。
迷える魂達は、誰もが皆、地獄の業火もかくやの熱に焼かれていた。
死ぬことも許されず囚われ続ける魂を発火させ、燃焼させ、余分を削ぎ落として燃料だけを抽出する冒涜の精製工程。
そうして遥か上空に集められたエネルギーは魂が保有する熱量の凝集体であり、純度百パーセントの怨嗟で沸き立つ噴火口である。
「戻ってあげた方がいいんじゃないか? 僕は言ったぞ、優しく抱くのはやめだ、って」
「ッ――!」
これは駄目だ。
ルーもシャクシャインも共に確信した。
幸いにして距離は、まだ然程離れているわけではない。
英霊の脚力であれば、追い付くことは不可能でもないだろう。
だが、だとしても。
この一撃を以って、蛇の狙いは達成されることが確定していた。
名付けるならば疑似宝具、『水子界・賽鬼和讃(ギャシュリークラム・ケルンケアン)』。
蛇が蓄えた魂を総燃焼させ、その爆発的熱量と呪詛によって、生きとし生ける総てを焼き払う大厄災。
されど4423の無念は今も変わらず神寂縁の腹の中。よって彼は、何度でも自分の小間使い達を焼き払い、何度でも無念の火を降らせることが出来る。
誰かが言った。
これに並ぶ悪はないと。
そう。
真の悪とは常に、無数の糸(プラン)を手繰っているものだ。
◇◇
「ぉ、ぉ――ぉおぉおおぉお、ォ――!!」
空から、嘆きの焔が降ってくる。
一条の光と成った子どもたちの成れ果てが、見上げる全員を焼き尽くさんと呪っている。
これに対抗する手段を、蛇に抗う者達はひとつしか持っていなかった。
ルー・マク・エスリンの切り札たる"第三の槍"だ。
熱には熱を。おいそれと使える代物ではなかったが、こうなっては背に腹は代えられない。
だが普通に解放したのでは、周りにいるレミュリン達まで焼き尽くしてしまう危険性がある。
故に、ルーは地上の沙汰をシャクシャインに任せ、ビルを足場に天高く跳び上がった。
今もその胸からは少なくない量の流血が続いている。
満身創痍であるのは変わらず、蛇もそれを分かっているからこそ、彼を更に削る方法を選択したのだろう。
(保つか……!? いや、保たせるしかない! 気張れよ"長腕のルー"! 此処でやり遂げられなきゃ、英雄の名が泣くってもんだぜ……!!)
レミュリンを、守るべき総てを守り抜け。
その上で死なずにこの窮地を乗り切ってみせろ。
二重の難題は困難を極めたが、ルーに臆する気など微塵もなし。
そんな男の背中を押すように――天の御遣いが輝きを放つ。
頭上で燃え盛る亡者の苦火とは訳が違う、優しく抱き締めるような陽だまりの温もり。
天使の光が生んだ成果は、文字通り今後の命運を左右するほど大きかった。
「――ッ、はは……! ありがてえ……!!」
破壊されたままだった霊核が、万全ではないまでも修復されていく。
それに応じて下落していた能力値の一部が戻ってきて、アラドヴァルを握る腕にもより強い力が籠もった。
輪堂天梨の魔術、究極の他者強化。
言葉は無理でも、光だけなら届かせることが出来たのだろう。
ルーの霊基性能が向上し、半死半生だったコンディションも目に見えて快調する。
「凶槍よ、世界を灼け――――『鏖殺せよ、屠殺の槍と(アラドヴァル)』ッ!!」
消え失せる、氷の鞘。
露わになった穂先の温度は、太陽面爆発にも匹敵し。
彼を中心に爆ぜた黄金の焔が、邪悪なるもの、その一切を焼き払って――
◇◇
「……アヴェンジャー!」
その異変は、逃げる天梨達にも伝わっていた。
ルーが迎撃へ向かったことも、シャクシャインが防衛役として駆けつけてくれたことも。
「私はいいから、レミュリンちゃんを守ってあげて!」
「……ッチ、偉そうに命令し腐りやがって。後で覚えておけよ」
一皮剥けたような毅然とした対応に、復讐者も事の仔細を理解する。
恐らく天梨は、既に上空に跳んだルーへ【受胎告知】の行使を済ませた。
普段なら敵に塩を送るなと罵倒の一つもくれてやるところだが、今はその余裕もない。
蛇は馬鹿ではない。この攻撃さえ、恐らくは彼にとっては囮(デコイ)。
最も厄介なルーを対処に出払わせ、その隙にレミュリンを獲りに来る筈だと分かっていた。
シャクシャインにしてみればレミュリンはどうでもいい存在だったが、蛇の最終目標である以上は無碍にも出来ない。
よって天梨の懇願に従い、己の星ではなく時の魔女の前へ立ち、息を切らしながら妖刀を構える。
「あの……ありがとう、アヴェンジャーさん。ランサーと一緒に戦ってくれて」
「煩いな、無駄口を叩くなよ。俺個人としては、君やその相棒がどうなろうが知ったことじゃないんだからな」
端的なやり取りだけでも、この少女は天梨と気が合うだろうなと感じた。
あるがままに善良で、こんな時でも他人を慮ることを忘れない精神性。
和人でなくて良かった、と思う。あんな奇特な女、この世に二人と居て堪るものか。
「――来るぞ。念のため、気だけは最大限に張っとけよ」
「っ、うん……!」
レミュリンも『赤紫燈(インボルク)』の発動準備を整えて、来たる悪意に備える。
視界の先から、迫ってくる蛇の影。
やはり来た。藪の魔王は、あんなにも強い癖に誰より狡猾だ。
小物じみた策を弄することを躊躇せず、ほんの僅かな隙間さえ活用して、目当ての少女を啜りに来る天性の捕食者だ。
(腹立たしいが、この霊基でもアレの相手は手に余る。無論殺してやる心算だが、どれだけ抑えられるか)
シャクシャインの五体が、焼身自殺もかくやの絵面に変わっていった。
毒の炎。疫病神の火。彼にとって最も忌まわしく、そして最も親しんだ死毒の煉獄。
(――何の冗談だ。この怒りを、誰かを護るために使うなんて)
そんなのは、もうとっくに卒業した筈ではなかったか。
すべてに意味はなかったのだと、最初から間違えていたのだと、屈辱と絶望の中で悟ったあの日に。
それなのにこの都市に現界してから、腹が立つほどらしくないことばかりだ。
右も左も憎たらしい和人共に囲まれているのに、未だ一人の首級も挙げられていない。
どころか口を開けば鬱陶しい綺麗事しか喋らない女に傾倒して、挙句の果てには見知らぬ他人の主君を護っている。
考えれば考えただけ、腐った腸が煮えくり返る。
この怒りは、是非ともあの醜悪な愚物で発散してやろう。
命の何たるか、流儀の何たるかも心得ていない最も醜い生き物。糞の中の糞。
アレの五体を寸刻みにし、己が死炎で焼き尽くしてやるのだと誓いながら、妖刀を握る手に力を込め。
「あ?」
瞬間、シャクシャインは、心からの驚愕に眉を顰めた。
「待て手前、何を……」
蛇の姿が、視界から掻き消える。
レミュリンという本命をモノにする絶好の機会を放り投げて、汚穢と卑猥を突き詰めた王の輪郭が消失する。
そう、誰も彼もが、神寂縁に支配されている。
万象万事、すべては巨大な蛇の蜷局のその上。
布石は常に打たれていた。
レミュリンに向ける度を越した執着、彼女を喰らうためなら何をも惜しまないという狂的なまでの情念。
時に行動で、時に言葉で。蛇は常に、自分にとってレミュリン・ウェルブレイシス・スタールという娘が如何に重要かを喧伝してきた。
だから欺かれる。
だから、想像もしない。
〈支配の蛇〉がそれを一度脇に置いて、別の目的を果たしに来るという事態を――ごくごく自然に、誰もが視野の外に置いていた。
「葬儀屋。ルー・マク・エスリン。復讐の狂戦士。そして輪堂天梨。
認めよう。君達は確かに、この僕にさえ手を焼かせる、実に厄介な面子を揃えてみせた」
ぐぢゅ。ぐぢゃ。
水っぽい音が響いている。
蛇の、神寂縁の腕が、誰かの何処かを掻き回している。
「だが、最も目障りなのは君だった。
戦力としては矮小の部類でも、生き汚さというその一点だけで、君の存在は他の誰より煩わしい。
君が生きている限り、僕はあらゆる奇手を想定しなければならなくなるのだから」
貫かれた当人でさえ、信じられない、というような顔をしていた。
それを驕りと呼ぶ者は誰もいない。
事実、彼女と最も付き合いの長い嚇眼の悪鬼でさえそうだったのだ。
「蛇杖堂寂句が言うところの"舞台に上がる資格"ってやつを、この際正式に得ておこうと思ったのもあるがね。正直、思ったよりはずっと楽な仕事だったよ」
「が――っ、あ……」
「前にも言ったが不合格だ。燃え殻なんて美味くもない、わざわざ食う真似はしないよ。君はただ、確実に死んでくれればそれでいい」
誰も、彼女(かれ)を囚えられなかった。
誰も、彼(かのじょ)を止められなかった。
唯一、神寂祓葉を除いては。
故に人は、彼を、彼女を、こう呼んだのだ。
最大級の嫌悪と、ほんの僅かな畏敬の念を込めて。
「で? 僕からはどう逃げてみせるんだい、現代のハリー・フーディーニ」
〈脱出王〉――と。
◇◇
〈脱出王〉の躍動を支えるものは、起源覚醒者特有の超人的な身体能力。
そして彼女が持つ、言語では説明不可能な逃亡にかける卓絶したセンスであった。
弾丸を発射されてから回避する。サーヴァントの音超えの攻撃を当然のように掻い潜る。
果てには逃げ場のない大爆発や建物の倒壊、こうした範囲攻撃さえ〈脱出王〉は躱し続ける。
だが彼女も無敵ではない。夜のノクト・サムスタンプに重傷を負わされたように、不確定要素が入り込む余地を可能な限り削がれた上で、スペックその他を根拠にしたゴリ押しを受ければ――百戦錬磨のステージマジシャンとて、こうして血を流すことはある。
されど今回のは、内臓を潰されただとか骨を折られただとか、そんな手傷とは次元が違った。
腹を破って食い込んだ五指に中身を掻き回され、破壊されて、痛覚神経が沸騰するのを感じながら山越風夏は思い出す。
(……わあ。マジか。これ、多分死んじゃうやつだな)
〈はじまりの聖杯戦争〉、その終局の日(ドゥームズデイ)。
当時山越風奇という名で参戦していたハリー・フーディーニもまた、計画の最終段階へと移っていた。
敬虔なる愉快犯、狩人ジャン・シャストルによる聖杯の改造。
彼の調教により願望器を獣化させ、過去最高最悪の馬鹿騒ぎを巻き起こしながら悠々と東京を去る。
日本が誇る百万都市を巻き込んで繰り広げた脱出ショーは、盛大な喝采の中で幕を下ろす。
そう信じながら、〈脱出王〉は神寂祓葉の前に立ち――何の面白みもなく、嘘のようにあっさりと斬り伏せられた。
理解が出来なかった。
絶望もなければ、いつものように好奇心で胸がときめくこともない。
只管に疑問符が躍る中で見上げた視界には、太陽みたいな笑顔を浮かべた都市の主役。
"――私の勝ちだね、ハリー"
そのようにして神をも恐れぬステージスターは死に至り、他の衛星と同じく、神となった少女の手によって反魂されたのだ。
(んー……どこでマズったんだろ。ライダーの私を悠灯に渡したところ? それとも、調子に乗って蛇さんに目を付けられたこと?
あっははは、心当たりが多すぎて分かんないや。でもどっちにしろ、こりゃ一本取られたってわけだね)
心臓を覗く主要な内臓が軒並み破壊されている。
多少の延命は可能でも、どうあがいても永くは保つまい。
いやそれどころか、このまま蛇に擦り潰されて終わりかもしれない。
(早いとか遅いとか言ってないで、もっとガンガン攻めていくべきだったかぁ……)
山越風夏は、幾つものミスを冒してきた。
舞台を面白くするため、運命を加速させるため、あの極星に喜んで貰うため。
緻密な打算で盤面を転がしたかと思えば、神経衰弱でポーカーをやるような理解不能の手を平然と打つ。
善悪の彼岸すら超越した、他の誰にも真似のできない全方位への煽動外交。
因果は巡ると、少し前に彼女自身がそう言った。
しかし応報の対象は蛇だけに非ず。脱出の王もまた、とうとう因果に追い付かれたのだ。
仕込み、磨いてきた舞台設計が実を結ぶ、その瞬間を待たずして。
(でも、一番のミスは、やっぱり……)
アギリの言葉を反芻する。
"君は、いつまでそうやってフラフラしてる気なんだ?"
節操なく飛び回っては、火種を増やし続ける根なし草。
華村悠灯という切り札を見出したはいいが、職業病か、一点に目的を絞るということはどうしても出来なかった。
そこが彼女と赤坂亜切、楪依里朱、蛇杖堂寂句、ホムンクルス36号、ノクト・サムスタンプの違い。
故に彼女だけの物語には辿り着けず。こうして夢半ばで、その狂気は没滅の時を迎える。
「はは――そう、か。そう、だな。ああまったく、厄介な"起源"だ」
レミュリンが祓葉の近縁種なら。
縁の近縁種は、間違いなくこの山越風夏だ。
起源・〈脱出〉。
これを持つ者は、有形無形を問わず、この世のすべてから逃げ続ける。
停滞さえ脱出狂いにとっては檻の同義語となり、故に生涯、決まった一点に留まることが出来ない。
退屈から脱出し、騒乱から脱出し、袋小路から脱出し、凪の平面から脱出し、どこまで逃げてもゴールの存在しない常在戦場。
そう。ハリー・フーディーニはその誕生から山越風夏(現在)に至るまで、一瞬たりとも途絶えることなく、ステージに立ち続けてきた。
この世の総てを支配せねば気が済まない、そんな妄執に囚われた男のように。
彼女もまた――ともすると何処かの段階で、ヒトとしての在り方を食い尽くされていたのかもしれない。
「つまらないな。悟ったように死ぬなよ、悪役は見苦しく喚いてナンボだろう」
「は……っ。その主張はまぁ、理解できないでもないけど。でも気を付けなよ? その言葉、もうじき自分に帰ってくるかもだ」
支配が、脱出を破壊していく。
世にも悍ましい調律を受けながら、しかし死にゆく脱出は、血で赤く染まった歯を覗かせていつも通りシニカルに笑った。
「驚いたな。君のような人間が、悪因悪果を説くのかい」
「戯れ言と思いたいならそうすればいい。吠え面を拝めないのは残念だけどね」
蛇は知らない。
だが、〈脱出王〉は既に気付いていた。
先刻、彼がレミュリン確保――そして、自身の狙いが〈脱出王〉抹殺であると悟られないためのカモフラージュとして解き放った死霊の軍勢。
蛇はその数を、4423体と言ったが。
実際には彼がけしかけてきた死霊は、それよりわずかに少なかったのだ。
具体的には1体足りなかった。水子界の軍勢は4422体だった。数え間違いなど、ハリー・フーディーニの名に懸けて有り得ないと断言出来る。
(どこの誰かは分からないけど、蛇さんに仕掛けを打ち込んだヤツがいる。
酷く巧妙で、非道く悪辣な時限爆弾だ。もし最高の形で爆発すれば、比喩でなく状況はひっくり返る)
宿り蝿のベルゼブブがセットした、一発きりの銀の弾丸。
それは今も蛇の体内で、集めた魂の貯蔵庫にて、発射の瞬間を待っている。
そのことを〈脱出王〉は理解した。だが無論、此処で蛇に悟られるわけにはいかない。
(――さて。最後の仕事だ。
この身体はもう保って数分、それまでにレミュリン達を逃がし切らないと)
慈悲のない話だと思う。
さぞや痛快だろう逆転の瞬間を、この目で見ることが叶わないなんて。
同時に、ありがたい話だと思う。
これで死にゆくこの身体に、新たな脱出目標が装填された。
題目は身を挺しての、自分以外全員の"脱出"。
恐ろしい蛇の怪物を相手に闘牛をして、未来の希望を逃がし奉る。
何しろもう本当にこれで終わりだ。
であれば秘中の秘、切り札中の切り札、もっと先に切る予定だった手品まで総投入出来る。
頸を落とすべく放たれた、神寂縁の手刀が空を切った。
内臓ごと鷲掴みにされていた筈の〈脱出王〉が、すり抜けるようにリーチの外まで躍り出る。
しかし有様は凄惨の一言。
腹は破れ、吐血で身体中が赤く染まり、息は絶え絶えで顔は青白い。
「――アギリ! 名残惜しいが、レミュリンと天梨は君に譲ろう! 見せ場を分けてやるんだから、ちゃんと守らないと蹴っ飛ばすからね!!」
それでも笑顔は絶やさない。
〈脱出王〉は、絶望など毛ほどもしていなかった。
何故なら己が死せども、この針音都市にはまだ"ハリー・フーディーニ"がいる。
蛇ではないが、既に布石は打ってある。
第一、自分が死ぬ可能性を想定してなかったら、丸腰でこんな所に立ったりなんてしないのだから。
彼は新たな主を得て、大脱出の野望を引き継いで、必ずや神の箱庭を壊すだろう。
その未来こそ、山越風夏が神寂祓葉へ捧ぐ究極の奉公。
死すら踏み台に魅せる、一世一代、最終最高の脱出劇!
「我が名は山越風夏、第三生のハリー・フーディーニ!
神寂祓葉に灼かれ再臨した、〈再演〉の狂人!」
壮絶な光景に息を呑むレミュリンに、大丈夫だよ、と一度だけウインクをして。
大仰な身振り手振りと共に、最期の共演者となる化生へマイクパフォーマンスをくれてやる。
「たかが腹をぶち抜いた程度で殺した気になるなんて笑止千万、片腹痛し!
私は此処にいるぞ! 生きているぞ! この息が絶えるまで、嫌ってくらいにおまえの邪魔をしてやるぞ!」
たとえ、自分が彼に殺されるのだとしても。
恨みなどない、あろう筈もない。
きっとこれから行う公演は、自分の最高瞬間風速になる。
「悔しかったら捕まえて魅せろ――"人間"!」
巡る因果がこの頸を刈り取っていくというのなら。
それさえ演出に変えて、奇術の粋をお魅せしよう。
この期に及んでそんな考えが出てくる辺り、やはり彼女もまた、筋金入りの狂人だった。
◇◇
【月光夢幻神界〈渋谷〉/二日目・早朝】
【神寂縁】
[状態]:固有結界解放、ダメージ(小)
[令呪]:残り2画
[装備]:様々(偽る身分による)
[道具]:様々(偽る身分による)
[所持金]:潤沢
[思考・状況]
基本方針:この聖杯戦争を堪能する。
0:都市の全員を殺し、〈蛇〉を知る者を消し去る。
1:レミュリンを喰い、本懐を遂げる。
2:〈脱出王〉の排除。しぶとい虫ケラめ。
3:輪堂天梨は目標の達成後、捕食ないしは殺害する。
4:アルマナちゃんとランサー(アンタレス)は高得点。
5:アサシン(ベルゼブブ)は……ふむ。
6:雪村くんは、僕の天敵だ。ならば僕も全力でお相手しようか。
[備考]
※奪った身分を演じる際、無意識のうちに、認識阻害の魔術に近い能力を行使していることが確認されました。
とはいえ本来であれは察知も対策も困難です。
※神寂縁の化けの皮として、個人輸入代行業者、サーペントトレード有限会社社長・水池魅鳥(みずち・みどり)が追加されました。
裏社会ではカネ次第で銃器や麻薬、魔術関連の品々などなんでも用意する調達屋として知られています。
※楪依里朱について基本的な情報(名前、顔写真、高校名、住所等)を入手しました。
蛇杖堂寂句との間には、蛇杖堂一族に属する静寂暁美として、緊急連絡が可能なホットラインが結ばれています。
※赤坂亜切の存在を知ったため、広域指定暴力団烈帛會理事長『山本帝一』の顔を予選段階で捨てています。
山本帝一は赤坂亜切に依頼を行ったことがあるようです。
→赤坂亜切に『スタール一家』の殺害を依頼したようです。
※神寂縁の化けの皮として、マスター・蛇杖堂絵里(じゃじょうどう・えり)が追加されました。
雪村鉄志の娘・絵里の魂を用いており、外見は雪村絵里が成人した頃の姿かたちです。
設定:偶然〈古びた懐中時計〉を手にし、この都市に迷い込んだ非業の人。二十歳。
幸は薄く、しかし人並みの善性を忘れない。特定の願いよりも自分と、できるだけ多くの命の生存を選ぶ。
懐中時計により開花した魔術は……身体強化。四肢を柔軟に撓らせ、それそのものを武器として戦う。
蛇杖堂家の子であるが、その宿命を嫌った両親により市井に逃され、そのまま育った。ぜんぶ嘘ですけど。
→蛇杖堂絵里としての立ち回り方針は以下の通り。
・蝗害を追う集団に潜入し楪依里朱に行き着くならそれの捕食。
→これについては一旦アーチャーに任せる方針のようですが、詳細な指示は後続の書き手にお任せします。
・救済機構に行き着くならそれの破壊。
・更に隙があれば集団内の捕食対象(現在はレミュリン・ウェルブレイシス・スタールと琴峯ナシロ)を飲み込む。
※蛇の体内は異界化しています。彼はそこに数多の通信端末を呑み込み、体内で操作しつつ都度生成した疑似声帯を用いて通話することで『どこにでもいる』状態を成立させているようです。
この方法で発した声、および体内の音声は外に漏れません。
※スタール家の〈燃焼時計〉計画にジェームズ・アルトライズ・スタールとして関与していました。
蛇の最終目的は完成した〈燃焼時計〉で根源に到達、時を操る真理を得ることです。
※アサシン(ベルゼブブ/Tachinidae)による『産卵』を受けています。蛇はまだ、このことに気付いていません。
【レミュリン・ウェルブレイシス・スタール】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(小)、魔力消費(中)、精神的動揺(大)、決意
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:6万円程度(5月分の生活費)
[思考・状況]
基本方針:――進む。わたしの知りたい、答えのもとへ。
0:フーカさん――
1:胸を張ってランサーの隣に立てる、魔術師になりたい。
2:アギリ・アカサカともっと話す。そうでなくちゃ、わたしはあの日から抜け出せない。
3:コージさん達と合流できればいいんだけど……。
4:さっきみた、アレは……一体、なに……?
5:わたしが、フツハさんの同類……?
6:カムサビエニシはやっぱり怖いし、許せない。でも――かわいそう。
[備考]
※自分の両親と姉の仇が赤坂亜切であること、彼がマスターとして聖杯戦争に参加していることを知りました。
※ルーン魔術の加護により物理・魔術攻撃への耐久力が上がっています。
またルーンを介することで指先から魔力を弾丸として放てますが、威力はそれほど高くないです。
※炎を操る術『赤紫燈(インボルク)』を体得しました。規模や応用の詳細、またどの程度制御できるのかは後のリレーにお任せします。
※アギリ以外の〈はじまりの六人〉に関する情報をイリスから与えられました。
※〈はじまりの聖杯戦争〉についての考察を高乃河二から聞きました。
※アギリがサーヴァントとして神霊スカディを従えているという情報を得ました。
※高乃河二、琴峯ナシロの連絡先を得ました。
※右腕にスタール家の魔術刻印のごく一部が継承されています(火傷痕のような文様)。
※刻印を通して姉の記憶の一部を観ています。
※アルロニカ家の魔術刻印と共鳴することで、世界の始点と終点の一部を観測しました。
※高乃河二に現況についての緊急連絡を送りました。
内容は彼伝てに雪村鉄志にも転送されています。
※レミュリン・ウェルブレイシス・スタールの正体は、神寂祓葉の潜在的な近縁種です。
まだ本人に自覚はありませんが、ある程度祓葉に似通った性質を持っていると思われます。
【ランサー(ルー・マク・エスリン)】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、胸部にダメージ(大)、全身にダメージ(小)、霊核損傷(七割方回復)、【受胎告知】による霊基強化
[装備]:常勝の四秘宝・槍、ゲイ・アッサル、アラドヴァル
[道具]:緑のマント、ヒーロー風スーツ
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:英雄として、彼女の傍に立つ。
0:蛇を一度退け、何とかして距離を取る必要がある。作戦の本座に移るためにも。
1:不覚を取ったが致命傷じゃねえ。この屈辱、働きで雪ぐぜ。
2:レミュリンをヒーローとして支える。共に戦う道を進む。
3:神寂祓葉についてはいずれだな。今は考えても仕方ねえ。
4:今更だが、馬鹿じゃねえのか今回の聖杯戦争?
5:渋谷の"神"は非常に危険。レミュリンの問題を片付けたら、早急にどうにかする必要がある。
[備考]
予選期間の一ヵ月の間に、3組の主従と交戦し、いずれも傷ひとつ負わずに圧勝し撃退しています。
レミュリンは交戦があった事実そのものを知らず、気づいていません。
ライダー(ハリー・フーディーニ)から、その3組がいずれも脱落したことを知らされました。
→上記の情報はレミュリンに共有されました。
【山越風夏(ハリー・フーディーニ)】
[状態]:疲労(大)、腹部に致命傷、複数の内臓が全壊、失血(極大)、絶好調
[令呪]:残り二画
[装備]:舞台衣装(レオタード)
[道具]:マジシャン道具、〈寂句の手帳〉、蛇杖堂邸で回収した幾らかの道具(薬あり)
[所持金]:潤沢(使い切れない程のマジシャンとしての収入)
[思考・状況]
基本方針:聖杯戦争を楽しく盛り上げた上で〈脱出〉を成功させる
0:よーーし、いっちょやってみようか! "私"の、最後の大脱出!!
1:レミュリンはやはり原石だった。彼女は星であろうとなかろうと、素晴らしい未知を生み出す筈。
2:華村悠灯はもうひとりの私に任せることに決めた。しかし青の騎士かー、どうなるんだろね彼女。
3:他の主従に接触して聖杯戦争を加速させる。
4:あっちの"私"を引き離しておいてよかったのか悪かったのかは分からないけど、残りのことは任せよう。
"彼"さえ生きていれば、大本命のリプランは幾らでもできるわけだしね――?
[備考]
準備の時間さえあれば、人払いの結界と同等の効果を、魔力を一切使わずに発揮できます。
〈世界の敵〉に目覚めました。この都市から人を脱出させる手段を探しています。
蛇杖堂寂句から赤坂亜切・楪依里朱について彼が知る限りの情報を受け取りました。
蛇杖堂邸で狙い通り癒しの薬を回収しました。
また、〈寂句の手帳〉を入手していました。寂句が新宿の決戦に出撃する前までに得た情報がおおむねまとめられています。
東京の全区に仕掛けを施しています。主に移動時間短縮用。
【赤坂亜切】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、眼球にダメージ、左手に肉腫跡、右耳欠損、妄信
[令呪]:残り三画
[装備]:『嚇炎の魔眼』、M360J「SAKURA」(残弾3発)
[道具]:魔眼殺しの眼鏡(模造品)
[所持金]:潤沢。殺し屋として働いた報酬がほぼ手つかずで残っている。
[思考・状況]
基本方針:優勝する。お姉(妹)ちゃんを手に入れる。
0:〈脱出王〉の計画に従うのも忌々しいが、それ以外になさそうだ。当面は蛇以外を相手する。
1:レミュリン・ウェルブレイシス・スタールを見極める。
2:ノクト・サムスタンプを殺す。〈脱出王〉よりも優先順位は上だ。
3:神寂縁。〈蛇〉。雪村のオッサンも、来るんだろうか。
4:〈恒星の資格者〉は実在する。忌まわしいことだが。
5:渋谷をおかしくした元凶への激しい殺意。部外者が知った顔で何を囁いてやがる。焼き殺すぞ。
6:輪堂天梨は解釈違い。だが、紛い物なりに価値はある。
[備考]
※彼の所持する魔眼殺しの眼鏡は質の低い模造品であり、力を抑えるに十全な代物ではありません。
※香篤井希彦の連絡先を入手しました。
※ホムンクルス36号の見立てによると、自身の魂を燃やす彼の炎は無限ではなく、終わりが見えているようです。
具体的にどの程度の猶予があるかは後続の書き手にお任せします。
※一回目の聖杯戦争で組んでいたランサーは、鬼若(いわゆる武蔵坊弁慶)でした。
【輪堂天梨】
[状態]:疲労(小)、左手指・甲骨折、全身にダメージ(中)、自己嫌悪(ちょっと落ち着いた)、頭痛(小)、不明な高揚感?、決意
[令呪]:残り二画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:たくさん(体質の恩恵でお仕事が順調)
[思考・状況]
基本方針:〈天使〉のままでいたい。
0:レミュリンちゃん達とこの場を逃げ遂せて、考えてることを聞かせてもらう。
1:ほむっちのことは……うん、守らないと。
2:……私も負けないよ、満天ちゃん。
3:アヴェンジャーのことは無視できない。私は、彼のマスターなんだから。
4:アンジェさんを信用。誰かに怒られたのって、結構久しぶりかも。
5:マキナちゃんのことが心配だったり、アヴェンジャーの妙な態度が気になったり、……いっぱいいっぱい。
6:もしも神さまになったなら。私は、あの子の泣かない世界を創りたい。
7:いいよ。あなた達、みんな私が助けてあげる。
8:〈脱出王〉さん――
9:アギリさんのことはまだ怖い。でも、びくびくしてもいられないよね。
[備考]
※以降に仕事が入っているかどうかは後のリレーにお任せします。
※魔術回路の開き方を覚え、"自身が友好的と判断する相手に人間・英霊を問わず強化を与える魔術"(【感光/応答(Call and Response)】)を行使できるようになりました。
持続時間、今後の成長如何については後の書き手さんにお任せします。
※自分の無自覚に行使している魔術について知りました。
※煌星満天との対決を通じて能力が向上しています(程度は後続に委ねます)。
→魅了魔術の出力が向上しています。NPC程度であれば、だいたい言うことを聞かせられるようです。
※煌星満天と個人間の同盟を結びました。対談イベントについては後続に委ねます。
※一時的な堕天に至りました。
その産物として、対象を絞る代わりに規格外の強化を授けられる【受胎告知(First Light)】を体得しました。この魔術による強化の時間制限の有無は後続に委ねます。
※アルターエゴ(デウス・エクス・マキナ)が恒星資格者であると直感しました。
※天梨の魔術は魂への干渉が可能です。これにより彼女は、神寂縁が体内に保持している死者達の魂を成仏させられるようです。
具体的にどの程度の時間や手間が必要なのかは後の話におまかせします。
【アヴェンジャー(シャクシャイン)】
[状態]:半身に火傷、疲労(大)、マキナへの警戒
[装備]:「血啜喰牙」
[道具]:弓矢などの武装
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:死に絶えろ、“和人”ども。
0:殺す。
1:憐れみは要らない。厄災として、全てを喰らい尽くす。
2:愉しもうぜ、輪堂天梨。堕ちていく時まで。
3:以下の連中は機会があれば必ず殺す:青き騎兵(カスター)、煌星満天、赤坂亜切、雪原の女神(スカディ)、囁き女(にーと)。また増えるかも
4:ホムンクルスも殺してぇ……
5:このクソ喧しい声を今すぐ止めろ
6:アルターエゴ(デウス・エクス・マキナ)に対する警戒。こいつの星は、恐らく完成させてはならない。
7:糞みたいな固有結界の主を現状最優先の標的に据える。醜悪な捕食者気取りが。
[備考]
※マスターである天梨から殺人を禁じられています。
最後の“楽しみ”のために敢えて受け入れています。
※令呪『私の大事な人達を傷つけないで』
現在の対象範囲:ホムンクルス36号/ミロクと煌星満天、およびその契約サーヴァント。またアヴェンジャー本人もこれの対象。
対象が若干漠然としているために効力は完全ではないが、広すぎもしないためそれなりに重く作用している。
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最終更新:2026年08月23日 16:07