「――――カドモスは、どんな気持ちだったんでしょうね」
――――その問いを聞いたのは、さて、いつのことだったか。
なんて、嘘だ。覚えている。
テーバイ。
不敗将軍エパメイノンダス。その邸宅。
寝台の上、寝そべるエパメイノンダスの懐の中で、まだまだ顔立ちにあどけなさを残す少年が彼を背もたれ代わりにしながら、読んでいた巻物から顔を上げた。
スパルタを打ち破り、テーバイをギリシャ随一の大国に押し上げた英雄を不遜にも背もたれ代わりにするこの少年の名は、フィリッポス。
マケドニアからやってきた王子であり、後に征服王アレキサンダーを産み、西はエジプト東はインドまで跨がる大帝国の礎を作った、未来の英雄である。
もっとも、この時の彼は弱小国から覇権国へと差し出された人質に過ぎない。
小国マケドニアは覇権国家テーバイへの恭順の証として、自らの第三王子を差し出したのである。
とはいえ彼が虜囚の辱めを受けることがなかったのも、見ての通り。
若き王子の身柄は英雄エパメイノンダスが自ら預かり、その面倒を見ていたのである。
エパメイノンダスはこの若者のことをいたく気に入っていて、なんでも教えてやったし、自由にさせていた。
武器の扱い、組み打ち、歴史、神話、哲学、算術、娯楽。
仮にも他国の王子に政治や軍略の要訣すら望むままに全て教えてやっていたのだから、とても人質に対する扱いではなかった。
礼儀正しく、聡明であり、好奇心旺盛。
しかして時に獰猛な野心を覗かせ、そのことを客観的に理解すらして、「エパメイノンダス殿には隠すだけ無駄ですから」と明け透けにする。
そんなフィリッポスのことを、エパメイノンダスはすっかり気に入ってしまったのだ。
魅了されていた、と言ってしまっても差し支えは無いだろう。
エパメイノンダスはこの若き王子に対し、まさしく英雄の気風である、と見込んでいた。
王政を「時代遅れのやり方」と認識している彼であったが、フィリッポスを見ていると、なるほどこれが王家に連なる者から滲むカリスマというものか、と感心すらしていた。
だから、エパメイノンダスはフィリッポスの問いに対し、のんべんだらりと葡萄を房からもいで食べていた手を止め、軽く指を舐めてから、寝そべったままに答えた。
「さて、どういう意味だ?」
「いえ。カドモスの神話を読んでいると、彼が常に他者のために行動しているように思います。
冒険の始まりは妹を探すためで、アレスの大蛇を殺したのも部下を殺された怒りのためであると記述されている。
晩年に王位を退いたのも、アレスの怒りがテーバイの民に及ばないようにという気遣いでしょう。
神話の英雄としては、非常に利他的な人物ではありませんか」
英雄が怪物に挑む理由は、どんなものだろうか。
多くは、名誉のためである。
あるいは神託のためか、自らの安全のためか。
贖罪のために戦う者もいれば、ただ巡りあったからという理由で怪物と対峙する者もいる。
けれどテーバイの祖カドモスはそのどれでもなく、長く苦楽を共にした仲間とはいえ、部下が殺された怒りによって大蛇に挑み、これを殺している。
神話の英雄としては、非常に稀な道理の立て方である。
国を離れたといえど王の子たる英雄が、目下の者を殺されたことに怒りアレスの神獣に挑むなど!
妹、父母、部下、妻、子、民草……カドモスの生涯は常に、守るべき誰かへの愛で紡がれている。
「……ですが、カドモスはそうして愛したものを全て失っている。
妹は見つからず、故郷には帰れず、部下は蛇に殺され、子らはことごとく神の気まぐれや怒りに触れて失われています。
彼が愛したものは、全て彼の手からこぼれ落ちていく……カドモスはいったいどんな気持ちで楽園に旅立ったのだろうか、という疑問です。興味本位ですね」
「…………おまえね」
くつくつと、エパメイノンダスは喉を鳴らして笑った。
肩や腹を揺すらず控えめに笑ったのは、それによってエパメイノンダスにもたれかかっているフィリッポスに揺れが伝わって不快な思いをしないようにという思いやりのためである。
「ソレ、あんま外では言うなよ?
なにせカドモスは我らが国父、テーバイの誇りなんだからよ」
「わかっていますよ。建国の英雄を余所者にあれそれと批評されてもいい気はしないでしょう。
私は貴方とふたりきりで、貴方だから尋ねているんです、エパメイノンダス殿」
「くく、かわいい奴め。どこで覚えた殺し文句だ?」
くしゃ、とフィリッポスの頭を撫でる。
少年はにこりともせず、しかし抵抗もしないで撫でられるままにしていた。
「あーあ……お前、ほんとに俺の息子にならねぇか?」
「お気持ちは嬉しいですが、私にはマケドニアがありますから」
「ちぇっ。お前がマケドニアの王子でさえ無けりゃあなぁ!」
「私がマケドニアの王子で無ければ、こうしてエパメイノンダス殿のお世話になることも無かったと思いますよ」
「惜しいぜ。うーん実に惜しい」
口では惜しいと言いつつも、まぁ、軽口である。
冗談ではなく本心から息子に欲しいと思っていたし、本当に惜しいとも思っているが、それはそれとして仕方のないことだと割り切れるのが、エパメイノンダスという男であった。
「ともあれ。それで、質問に答えていただけますか、エパメイノンダス殿」
「ああ、まぁ、そうだなぁ」
エパメイノンダスは指先で己の顎を撫で、いくらか思案した。
栄光と悲劇の王、カドモス。
数多の栄光に満ちた生涯を歩みながらも、それ以上の悲劇に見舞われてきた英雄。
その英雄は波乱に満ちた人生の最後に、なにを想ったのだろうか。
「……俺には、カドモスの気持ちがわかるわけじゃないが……ひとつ言えることはある」
「言えること、ですか」
「ああ。いいか、フィリッポス。
そもそもからして、悲劇ってのはな――――――――」
◆ ◆ ◆
――――悪魔の魔力弾が、浮遊する盾に阻まれる。
盾は衝撃を受けて後方へと吹き飛んでいく。
あるいはあえて後方へ逃げることで、衝撃を逃がして破損を避けているのだろうか。
意思持たぬはずのただの盾が、どの程度“考えて”動いているかは判然としない。
いずれにせよ、盾が吹き飛んで乱れた戦列を縫うように風の刃が飛び――――浮遊する槍が入れ替わりに割って入り、それを弾く。
“彼ら”の連携は、常にニコイチ。
盾が槍を、槍が盾をフォローしあい、ミニマムな連携で前線を維持していく。
もはや肉体も魂も持たずとも、彼らの絆は伝説となってここに在る。
あるいは、絆だけが――――それだけが、永遠であると言わんばかりに。
150組300体。
参陣と同時に最大展開された『神聖なる愛の献身(テーバイ・ヒエロス・ロコス)』は、ノクト・サムスタンプとその二体のしもべの攻勢を完全に抑え込んでいた。
(どうにもうまくねぇな……)
攻めあぐね、ノクト・サムスタンプは内心で舌打ちする。
防御に徹する神聖隊の狙いは明白だ。
主であるエパメイノンダスと、テーバイ王カドモスの決闘に横槍を入れさせないためにノクトたちを抑えている。
意思持たぬ武具そのものでありながらある程度の自己判断を行う神聖隊は、エパメイノンダスの思考リソースを微塵も使うことなく独立しての戦闘を可能とする。
無論、マスターを仕留めればエパメイノンダスも消滅し、その宝具である神聖隊も消滅するのだから、ノクトも一旦は河二を狙ってはいるのだが、どう攻めようとも神聖隊の守りがあまりに堅く、攻めあぐねているのであった。
それ自体は、まぁ、いい。
仮にも英霊の宝具、容易に突破できないのは当然のことだ。
(どうしてエパメイノンダスの野郎は俺を無視してカドモスと戦ってる?
しかも神聖隊は全部こっちに回して、正真正銘のタイマンと来た。
戦闘狂の英霊なら理解できる行動だが、あいつはそういう手合いでもないだろ……
なにか狙いがあるはずだ。考えろ、考えろ……)
神算鬼謀の<非情の数式>をして、文武に長じたエパメイノンダスは油断ならぬ武人である。
盤外の騙し合いならば他に厄介な手合いはいくらでもいるが、こと戦場の駆け引きにおいてはこの聖杯戦争において最も油断ならない敵のひとりであると彼に評価を付けている。
率直に言って英霊としての格は“そこそこ”に過ぎず、単純なスペックで言えば残る参加者の中でも下から数えた方が圧倒的に早いだろうが、そういった数字以上の脅威がそこにはあった。
その男が、怨敵であろうノクトを無視して国父に決闘を挑んでいるのだ。
あまりに理解不能であるが故に、ノクトはその真意を読むことに必死になっている。
(カドモスの侵食型固有結界は対神寂縁においてワイルドカードになる。
魂を溶かすこの空間にいる限り、サーヴァントが前線に立つのは不可能に近い。
逆に言えば固有結界さえどうにかしちまえば、ある程度まともな戦いにはなるだろうからな。
だから神寂縁との決戦を考慮するなら、カドモスを味方に引き入れるのは必須条件……
そのカドモスと敵対する理由はなんだ?)
思考を回す。
その間にもロミオとベルゼブが神聖隊を突破しようと試み、ノクトは風の魔術でそれを援護する。
(実力を認めさせる……バカ言え、そんな段階はとっくに超えてる。
カドモスは傲慢だが馬鹿じゃないし、流石に同郷だけあってエパメイノンダスにはそれなりに心を許してる素振りがあった。
ならマスターを失って消沈するカドモスへの発破……?
いやいや、この状態のカドモスを消耗させるリスクが先行するし、俺らを排除してからでいいだろ……!)
あらゆる可能性がノクトの脳裏を巡り、同時に否定材料が並んでいく。
軍略家としてエパメイノンダスを評価しているからこそ、答えが遠い。
仮にも古代ギリシャというヨーロッパの中心文明地域で、僅か十年程度なりともひとつの国家を頂点に押し上げた将軍なのだ。その行動には必ず意味がある。
今のところうまく立ち回れているノクトだが、それも常に薄氷の上であると自認している。
ロミオを他所の主従に奪われもしたし、蛇杖堂寂句に片腕を奪われもしたし、ベルゼブブを契約で縛ることもできていない。
彼の立ち回りはいつだってギリギリで、だからこそノクト・サムスタンプは油断しない。
特に蛇の固有結界の中にいる現状、逃げ場が無いのは彼にとっても同じことなのだ。
(……悪国征蹂郎と蠍のランサーが暗殺の準備を整えるまでの時間稼ぎ……ひとまずそこは間違いねぇと見ていい)
それでも着実に、数式は状況を整理して解答を導き出す。
(英霊は己の物語に縛られる。
いくらロミオが規格外だっつっても、毒で死んだロミオはどうしても毒には弱い。
あのランサーの真名はまるで見当もつかねぇが、毒槍使いなのは確かだ。
それも詳細原理は不明だが、オルフィレウスの永久機関も狂わせる規格外の猛毒。
悪国征蹂郎としても暗殺は本業なんだから、この状況で狙わない道理はねぇだろうさ)
恋愛悲劇ロミオとジュリエット。
その主人公であるロミオの死因は、毒を飲んでの自殺。
無制限の自己強化を行う宝具の影響下にあるロミオならば多少の毒程度は耐えきって見せるだろうが、“効きやすい”攻撃属性であることは間違いない。
ましてやその毒は、まさしく神をも殺し得る強力な毒なのだ。
この世にそぐわない超越者を放逐する猛毒、と蛇杖堂寂句は形容していたか。
単純な毒ではなく、なんらかの概念毒の類であろうとノクトは推測している。
運命か、魂か、もっと別の物か……直接に死を刻み込む理外の猛毒。
事実、あの毒は神寂祓葉の神性を狂わせ、穢したのだ――――忌々しい。
それを想えば今すぐにでもこの手で八つ裂きにしてやりたいが、それ以上の利用価値が有るのだから憎悪は一度脇に置く。
なにせ、あの蛇杖堂寂句が助手として“神殺し”の大任を託したサーヴァントだ。
この聖杯戦争に跋扈する規格外どもへの対抗策として、是非とも手元に欲しい駒。
実際、現在のノクトの狙いは悪国征蹂郎を屈服させてギルタブリル/天蠍アンタレスを使役することであり、扱いにくそうな割に強すぎるカドモスなどさっさと排除してそちらに向かいたいのだが、そこについては御覧の有様。
無数の盾と槍に行く手を阻まれ、悪国征蹂郎への追撃ができないでいる。
……とはいえ、彼らもやがて合流してくるだろう。
仲間を殺されていつまでも黙っていられる奴ではない。そのことは、とっくに把握済みである。
(ならやっぱり、時間はあっちの味方だな。
意味不明な決闘は……マジに発破かけんのが狙いなのか?
カドモスの野郎、思ったよりも自分のマスターに入れ込んでたらしいからな……あのぐらいの荒療治が必要と判断した、か)
この推論が正しいかどうかはわからない。
だがひとまず、“そういうことにしておく”。
仮定をすれば方針も決まる。
戦略規模の作戦ならばもっと慎重に仕込んで動くが、刻一刻と状況が変化する戦術規模の作戦ならばある程度の柔軟性・アドリブ力も必要だ。
故にノクトはエパメイノンダスの陣形の意図を『悪国征蹂郎及び蠍のランサーのための時間稼ぎ』『平行して意気消沈したカドモスを発奮、あるいは打破による協力体制の確保』であると仮定する。
……結論を言ってしまえば実際の所、この推論はほとんど当たっていた。
契約魔術師であるノクトは、相手の望みを読み取る能力に長けている。
それは詐欺師の才能であると同時に、策士の才能でもあるのだ。
相手が何を思い、何を求め、何を目指しているのか――――それを読み取れるならば、相手の行動は手に取るようにわかる。
非情の数式にとっては、他者の情すら計算に組み込めるものでしかない。
エパメイノンダスにとってカドモスは対神寂縁戦線における切り札であり、畏敬すべき国父である。
故に彼がここで脱落してしまっては困るし、“気に入らない”。
マスターを失ったカドモスは遠からず消滅する運命ではあるが、少なくともこの蛇腔の中では頑張って貰わないと困るわけだ。
そしてテーバイを愛するエパメイノンダスとしては、国父が情けなくも意気消沈している姿を見過ごすわけにもいかない。
あそこまで憔悴した老王を発奮させたいなら、言葉だけではとても足りない。強引な力業が必要だろう。
そういった機序で、カドモスに発破をかけるために決闘を挑んでいる――――そのように、正しい予測を立てる。
「……はぁ、もう。敵に回すとほんとにうざったいですねぇ、アレ」
そうやってノクトが思考を回している最中も、ベルゼブブは魔力弾を放って盾を押しのけようとしている。
もっともそれは一向に成果を上げておらず、状況は完全に膠着しているのだが。
とはいえそれはベルゼブブのモチベーションが不足しているというよりは、神聖隊の精強さをこそ褒めるべきであろう。
カドモスの侵蝕型固有結界によって“テーバイ”となっているこの空間は、エパメイノンダスにとっても故郷。
故に彼の宝具も相応の強化を受け、通常時よりもより頑健に、より鋭く、より力強くなっている。突破は容易ではない。
連れてきた眷属はほぼ全てが先ほどの攻防で消滅し、事実上ベルゼブブの攻撃手段は魔力の投射のみ。
僅かな溜めの後に繰り出した魔弾の濁流が、こともなげに盾と槍で防がれてしまった光景を見て、ベルゼブブは忌々しげに唇を尖らせた。
「この人と同じこと言うのもひじょーに癪ですけど。
せっかく命を拾ったんだから、もっと大切にしたらどうです?」
「…………………。」
「あーあ、ナシロさんもどうしてこんな人を助けちゃったんでしょうかねー。
おかげでこんなコワモテのおじさんの言うこと聞かなきゃいけないし、いい迷惑ですよホント」
軽やかに、しかし明確な負の感情を乗せ、突き立てるように紡がれる言葉。
小さな悪魔は、琴峰ナシロのことを大切に思っている。
その隣にいたこの少年のことだって、憎からずは思っている。
みんなで一緒に過ごしたあの短い時間の事を、かけがえなく思っている。
――――それでも心のどこかでは、思っている。
どうして、と。
どうして、あんな無謀なことをしたんですか?
ねぇ、コージさん。
あなたがあの蛇さんに勝てるわけないなんて、わかり切ってたじゃないですか。
ナシロさんがあなたを見捨てて逃げられるわけないなんて、ちょっと考えたらわかったじゃないですか。
ねぇ。
あなたがそんなに弱くて馬鹿だから、ナシロさんはこの詐欺師に自分を売り渡すハメになっちゃったんですよ?
あなたのせいなんですよ、コージさん。
それなのに、あなたはナシロさんに救って貰った命で、何をしようって言うんですか?
…………悪魔が一番許せないのは、あんまりに弱い自分自身だったけれど。
それでも心のどこかでは、この少年だって許せない気持ちでいた。
ノクト・サムスタンプは契約で縛られていない彼女が高乃河二と真面目に戦うか危惧していたようだが、馬鹿馬鹿しい。
“ヤドリバエ”は真剣に、高乃河二を憎んでいる。
琴峰ナシロはそれを望まないだろう。
だが、それがどうしたというのだろうか?
もうとっくに、ヤドリバエは無辜の民を何人も何人も何人も何人も、その手にかけている。
彼女が守りたかったものを、この手で穢して壊している。
だったらこの少年を殺してしまうことだって、あんまりにも今更の話じゃないか。
「おはなしになりませんよ、ノータリン。
あなたが本当にナシロさんを助けたいなら、私ぐらい殺してしまえる力と覚悟が最低ラインってもんでしょうが――――――――!!」
戦線の維持を命じられた神聖隊は、決して自ら踏み込んでくるようなことはしない。
ならばと薄く透き通るような翅を不快に鳴らして高く飛び上がったベルゼブブが、神聖隊の防壁を破壊するだけの魔力を禍々しく練り上げ――――飛来した槍が、その“溜め”を中断させる。
「っ、!」
回避運動。
槍の突き込みは余裕を持って回避するも、カバーするように突進してきた盾が少々厄介だ。
投槍は点の攻撃だが、盾は突撃すれば面の攻撃なのである。
かわすよりは迎撃が有効と判断し、乱暴に手を振って放った魔力の波で盾を押し返す。
なんのことはない。
隙を見せたベルゼブブに対し、戦列の後ろから様子を伺っていた河二が神聖隊たる槍のひと振りを掴み、投げつけてきたのである。
なるほど、少年はこのためにわざわざ前線に出張って来ているのだ。
神聖隊の戦列に対して大技で対処しようとする者を牽制し、妨害するために。
高乃の武術は太極拳の流れを汲むものだが、この手の中国武術というものは往々にして、剣や槍などの武器術を内包するものである。
当然、河二もある程度は槍を扱うことができたし、槍自身の自立駆動も勘定に入れるならその投槍は馬鹿にならない脅威になり得る。
「――――確かに、君には僕を糾弾する権利がある」
少年はいつも通りの怜悧な瞳で――――否。
燃えるような決意を宿した瞳で、真っ直ぐにベルゼブブを見た。
「僕の弱さと愚かさが、彼女を追い詰めた。
度し難い愚鈍だ。僕自身怒りでどうにかなってしまいそうなのだから、君はその比ではなく僕が許せないだろう。
それは当然の権利であり、僕は弾劾される義務があるとすら思う」
……弱い自分が許せないのは、河二だって同じだ。
あんまりにも愚かで、弱くて、未熟で、それ故に高乃河二は琴峰ナシロを守れなかった。
責められて当然だし、そうあるべきだと思う。
けれど。
けれど、けれど、それでも!
「それでも――――僕は戦うよ、アサシン。
僕が足を止めるのならば、それこそが彼女への裏切りだろう」
――――だからこそ、彼は立ち向かうことにした。
失意に暮れることなんて、誰も望んでやしない。
約束したのだ。
蛇を倒し、彼女を救うと。
約束したのだから――――止まることなんて、できるわけがない。
「……そういうところが」
その、酷く愚直な姿が――――
「おはなしにならないって言ってるんですよ……ッ!!」
ベルゼブブの、神経を逆撫でする。
おまえが、おまえがそんなんだから、あの人は今、苦しんでいるんじゃないか。
爆発するような魔力波の濁流。
黒い魔力が波打つように押し寄せ、終結した神聖隊の盾が必死にそれを抑え込む。
「あはっ……死んじゃえ、死んじゃえ、死んじゃえっ!
自分の無力を思い知りながら、理想を抱えて溺死しなさい、人間風情がっ!!」
慈悲は無い。
彼女は本当に思っている。
琴峰ナシロを救いたければ、私ぐらいは殺してみせろ、と。
それができないのなら、おまえだって殺して、私がナシロさんを救ってみせる、と。
すでにそれだけの覚悟を、小さな魔王は決めている。
琴峰ナシロの生存と解放。そして、復讐。
それだけを望み、それ以外の全てを切り捨てている。
情も、思い出も、祈りも、夢も、理想も、全部じゃまっけだ。
どれほどこの手を血と糞で穢したとしても、この二つの誓いだけは必ず果たすと、そう決めた。
だから高乃河二に対する攻撃に、加減や慈悲は一切無い。
本当に全力で、少年の命を貪り喰らってでも前に進む覚悟でいる。
……これは、ノクトにとっては嬉しい誤算と言えた。
ベルゼブブを契約で縛ることはできていないが、琴峰ナシロという人質はそれほどに有用なものであったわけだ。
だから問題は、むしろ――――――――
「…………おいバーサーカー、しっかりしろ。その体たらくじゃ、いつまでたってもジュリエットに会いに行けねぇぞ」
「っ、ぐ……わかっている……わかっているさ、そんなことは……!!」
いかに神聖隊が、テーバイという土地の加護を得たとはいえ。
全力全快のロミオであれば、それを真っ向から蹴散らしてしまうことができる。
恋に狂える狂戦士はそれほどまでに規格外で、それを裏打ちする実績はもう、幾度となく積み上げられている。
蝗害に正面から立ち向かい、三騎の槍兵を同時に相手取って押し込み、青銅の濁流すら乗り越え、あらゆる不可能を越えて今ここに立っている。
そんなロミオが、今――――まったくもって、動きに精彩を欠いている。
細剣を握って盾に打ち込めば、盾は微動だにせずそれを受け止め、槍の反撃を受けて押し返されていく。
もう何度も、ロミオはそんな攻防を繰り返している。
ハッキリ言って何の役にも立っていない。
ベルゼブブの圧倒的な攻撃力と、それを支援するノクトの風魔術。
この二つのみが戦況に寄与しており、本来ならば前衛として戦線を構築すべきロミオはまったくもって蚊帳の外となっていた。
ノクトが舌打ちする。
忌々しいが、理由は明白だ。
最強無敵の狂戦士が、見る影もなく弱体化している理由。
(ここに来て絆されやがったか……だから頼りにしたくねぇんだ、こいつは)
恋する貴公子、ロミオ。
彼は、そもそも、根本的に――――極めて、情緒不安定で情に厚い人間である。
友を愛し、人を愛し、ひとたび恋をすれば燃えるように相手を愛する、愛に生きる人である。
狂化と、“恒星”たる煌星満天への激しい慕情により、ここしばらくのロミオは異常なまでの暴走を続けていたが――――ここに来て、そのモチベーションが陰っている。
胸を打たれてしまったのだ。
少女を救うために立ち上がる少年。
父祖を救うために決闘を挑む男。
暴走によってそういったものを“ジュリエットへの愛の前では些細なこと”と流してきた彼であったが、彼にとってもエパメイノンダスがカドモスに挑みかかったのは意外な展開であり、それによって生まれた意識の空白に、ふと別の思考が差し込まれてしまったのである。
だって彼らは、間違いなく愛のために戦っているのではないか――――
ロミオは本来、ナイーヴで善良な青年である。
愛のためならばどんな苦難も乗り越えて見せるが、それ故に他者の抱える愛に対しても大げさに受け止めてしまう節があった。
あるいは、何も大げさなどでは無いのかもしれない。
少年も、将軍も、胸に宿る愛のために武器を手に取っているのだ。
今この瞬間、彼らのモチベーションに愛以外の余分なものが何もないということを、彼は本能で理解してしまったのである。
「がはっ……! ああ、すまないジュリエット……キミにまた、寂しい想いをさせてしまっているね……大丈夫、すぐに逢いに行くよ……だから今しばらく限界を知らぬままでいたまえ、肉体という名の我が檻よ……!!」
こうなると、ロミオの無敵性は大きく削がれてしまう。
モチベーションに比例して際限なく強くなるというのが彼の特性であり、規格外性だが、それ故にこうしてモチベーションが低下すれば相応に弱体化を余儀なくされる。
迷い、憐憫、シンパシー……そういった不純物が、ロミオを弱くしている。
彼の余力は今、これまでの激戦で負った致命的なダメージを誤魔化すことでいっぱいいっぱいになっている――――無論、それだけでも尋常ならざることではあるのだが。
そういう英霊だからこそ、ノクトは彼を扱いにくいと評していたし、代わりの手駒を欲していたのだ。
(仕方ねぇ。ここはベルゼブブに頑張ってもらうとして……さて)
それでも、起こってしまった事象は覆らない。
ならばロミオの弱体化すらも計算に入れ、立ち回る他は無い。
リアルタイムで数式を並べ直し、リスクとリターンを勘定する。
(実際あそこから立て直せるつもりなのかね、将軍さんよ?)
そして――――――――
◆ ◆ ◆
――――――――そして、エパメイノンダスの力強い盾による殴打を、カドモスは槍を両手で構えて受け止める。
素手による殴打から始まったこの決闘だが、カドモスの方に武器を手放す道理は無い。
故にカドモスは槍でもって無手のエパメイノンダスに対応し、ならばとエパメイノンダスは左手に盾だけを構えて戦いに挑んでいた。
「なに、を……っ! 貴様まで血迷ったか、エパメイノンダス……!?」
カドモスの狼狽ぶりといえば、尋常のものではない。
なにをどう考えても、エパメイノンダスがカドモスに襲い掛かる理由が無いのだ。
エパメイノンダスからカドモスに向けられる畏敬の念を王は理解していたし、今この瞬間ですらそれは失われていない。
理屈の面から言っても、神寂縁への切り札になり得るカドモスは最も重要な戦力のひとつのはずだ。
それがマスターを失い、ノクトたちによって排除されようという瞬間に割って入る。
そこまでは当たり前とすら言える行動だが、そこからカドモスに殴りかかるのはまったくもって理解不能。
そもそもからしてカドモスの侵蝕型固有結界がエパメイノンダスにとって極めて有益であるという事実は、今エパメイノンダス自信がその身で思い知っているはずなのだ。
土地をテーバイに変えるこの固有結界の恩恵は、テーバイ最後の英雄であるエパメイノンダスにも惜しみなく与えられているのだから。
だと言うのに、エパメイノンダスは躊躇なくカドモスに殴りかかって来る。
槍を使わず、盾と徒手による殴打で攻めて来るというのも、まったくもって奇妙な話であった。
敵前なのだ。
神聖隊が抑えているとはいえ、敵の主従が目と鼻の先にいる盤面で、なにを遊んでいるというのだ、この男は!
「血迷ってるのはあんただろうが、カドモス王ッ!!」
そんなカドモスの動揺を無視し、エパメイノンダスは憤懣を押し付けるように突進した。
槍と盾による鍔迫り合い。
それも徐々に、たたらを踏むようにカドモスが押し込まれていく。
女神の加護、宝具による魔力供給、テーバイ化した土地の霊脈。
それらによって補ってはいるが、マスターを失ったカドモスの弱体化は避けられていない。
サーヴァントにとってマスターを失うというのはバケツの底に穴が空くようなものであり、どれだけ水を注ぎ込もうとも、その端から抜け落ちていってしまうのが道理。
故に、本来ならば格上であるはずのカドモスは、エパメイノンダスの猛攻を前に防戦一方を強いられる。
否――――あるいは魔力供給が真に万全だとて、こうなっていたかもしれない。
そもそもからしてカドモスに、戦う意思が無いのだ。
ただ、迫る攻撃に対処しているだけ。
彼にはもはや戦う意思も生きる意志も無く、ましてやエパメイノンダスと戦う理由もない。
王として、英雄としてのなけなしの矜持だけが、かろうじて彼に槍を握らせているに過ぎない。
「なにをしょぼくれた顔をしていやがるッ!! そんなにあの嬢ちゃんが死んだのが悲しいかッ!?」
「っ、貴様……貴様に、なにがわかるというのだ……!!」
しかしてその言葉が、とうとうカドモスの心に火をくべる。
盾に足を乗せ、蹴って押し返す。
押し返されてたたらを踏むエパメイノンダスに対し、カドモスは素早く槍の石突きを振って頭蓋を砕かんとした。
それを盾で受け流し、受け流せば逆サイドからやってくる穂先をまた受け流し、受け流し、受け流し。
「どれほど!! どれほど手を尽くし、心を砕き、守ろうとしても!!
無駄なのだッ!! なにもかもッ!! 全ては醜悪なモイライどもが定めた織物のまま!!
儂の周囲にある物は、儂が愛したものは、等しくくだらぬ悲劇に飲み込まれていくのだぞ!!」
悲痛な叫びを吠えたてながら、カドモスは怒涛の連打でエパメイノンダスを押し返していく。
「呪われろアレス、呪われろカドモス、呪われろテーバイッ!!
貴様らは所詮、悲劇を作るしか能のない出来損ないどもだッ!!」
いかに弱体化しようとも、やはり彼は神話の大英雄。
戦神の大蛇を仕留めた槍捌きは常に鋭く、力強い。
「全て、全て儂の掌から零れ落ちていくッ!!
どれほど大事に握り込もうとも、全て指の隙間から零れ落ちて何も残りはしないッ!!
それがどれほどの絶望か、貴様にわかるのかエパメイノンダスッ!!
他でもない、たかだか十年程度の栄光のためにテーバイを滅ぼした貴様にッ!!」
国父による、テーバイ最後の英雄への弾劾。
つまらない野心のために故国をみすみす滅ぼした男への拒絶。
「――――ああ、わからねぇなァッ!!!」
常ならばその叱責を甘んじて受けたであろう将軍は、しかし今だけは、怒りのままにそれを跳ね除ける。
「ここに来る前、あの嬢ちゃんの亡骸を見たよッ!!」
「っ!」
「どんな顔をしてたと思う……なぁ、どんな顔をしていたと思うよ、カドモス王ッ!!」
盾で大きく槍を払い、踏み込んでの前蹴り。
カドモスはそれを体を捻ってかわすも、急所を避けるのみで蹴り自体は受けてしまう。
生まれた好機に、エパメイノンダスはさらに一歩を踏み込んだ。
「笑ってたよ――――世界一幸せそうな顔だったよ」
エパメイノンダスたちは、アルマナ・ラフィーの亡骸と、それを悼む悪国征蹂郎を見た。
事情も、大まかに聞いた。
ベルゼブブの悪辣な奇襲爆撃を前に、アルマナは悪国を守ることを選び、死んだのだと。
カドモス王が、何よりも守ろうとしていた少女をみすみす失ったことを理解した。
……けれど、もはや動くことのないアルマナの亡骸は――――穏やかで、安らかで、幸せそうで、満ち足りていて。
「あれが悲劇か、カドモス」
愛する者の死に嘆き悲しむのは、人の道理である。
「あんたはあれを、悲劇と呼ぶのか」
けれど、けれど、けれど、けれど!
「――――あの嬢ちゃんの生き様を、あんたは悲劇にしちまうのかと聞いてんだよッ!!!」
撃ち抜くようなアッパーカットが、カドモスの顎を捉えてかち上げる。
脳を揺らす渾身の一撃が、嘆きの老王を思い切り吹き飛ばした。
「ぐ、がっ……!!」
再び、カドモスがもんどりうって転がっていく。
彼もさるもの、すぐに膝をついて立ち上がりはするが、流石に足元はふらついていた。
「ああ……俺は確かにテーバイを滅ぼしたさ。
分不相応な野心を抱き、十年程度の栄華を味わい、テーバイをそれっきりの国にしちまった。
それを父祖カドモス王に糾弾されるのならば、この首差し出したって構わねぇ。そのぐらいには、俺も申し訳なく思ってるさ」
エパメイノンダスは、テーバイをギリシャ随一の覇権国家に押し上げた。
しかしその黄金期は、僅かに十年余り。
後継者を育てられなかった不敗将軍は、自らが死んだ後も覇権を維持するだけの力をテーバイに残せなかった。
だから、テーバイは滅びた。
甚だしくは、エパメイノンダスはテーバイを滅ぼしたマケドニアの王子にこそ己の戦争力学の全てを授けたというのだから、なんと罪深いことだろう。
それでも。
それでも、とエパメイノンダスは思う。
「それでも、なぁ、カドモス。我らが王よ」
ならば彼の生涯は、間違いだったのだろうか?
親友ペロピダスと共に駆け抜けたあの人生は、テーバイ滅亡という悲劇の前章に過ぎなかったというのだろうか?
――――――――馬鹿言え、そんなわけはない。
「俺達は、楽しかったよ。
俺も、ペロピダスも、ゴルギダスも、神聖隊のみんなも。
みんな、楽しくて、満ち足りて、幸せな人生だった。最高の人生だった」
たった十年程度の栄光のために、親友と共に、仲間と共に、必死に駆け回って戦った。
いくつもの苦戦や窮地を乗り越えて、その度に勝利をその手に掴み、最後は全てを失ったとて、その人生に悔いなどない。
なぁ、どうして悔いなど作れよう。
そんなものを作ってしまえば、あの青春を共にした仲間たちへの、この上ない侮辱じゃないか。
「――――――――テーバイは、幸せな国だったよ」
「っ……開き直り、おって……!」
よろめくカドモスが、槍を構える。
エパメイノンダスは、盾による殴打でそれに応えた。
槍が盾の殴打を受け止め、また盾が振るわれて殴打が続く。
その全てを、カドモスは精緻なる槍捌きでどうにか受け止めていく。
「ならばなぜ、我が子らは呪われねばならなかった……!!
ならばなぜ、オイディプスの子らは身内で相争わなければならなかった!!
ならばなぜ、ヘラクレスは妻子を殺めねばならなかったッ!!
これのどこが、幸せな国だと言うのだ!! あれほどまでに多くの悲劇に呪われた国が、どうしてッ!!」
老王はあまりに、多くの悲劇を見てしまった。
己の生涯においても、そう。
己の国にまつわる英雄たちにおいても、そう。
テーバイは多くの悲劇に呪われている――――悲劇に呪われた、カドモスが作った国だから。
「マキナの嬢ちゃんと言い、あんたといい、どいつもこいつもよぉ!!」
その結論を、テーバイ最後の将軍は真っ向から踏み躙る。
「悲劇がねぇとは言わねぇさ!! 神々の気まぐれ、運命の悪戯、人の愚かさ、失意の内に果てる命!! なるほどそいつは悲劇かもしれねぇ!!」
盾による殴打を一撃叩き込むごとに、その力は強くなっていく。
それは怒りの強さであり、想いの強さであり、決意の強さである。
一撃一撃に、エパメイノンダスはありったけの想いを込めている。
「――――なら逆に聞かせてもらうぜ!! そもそもハッピーエンドってのはなんだ!?」
衝撃と共に、どうか伝われこの激情。
怒りと、それからありったけの敬愛を。
テーバイという国を作った貴方への感謝と、それを呪う貴方への憤懣を。
「悪いことがあったら悲劇か!! 人生悪い事ばかりじゃねぇだろう!!
死んだら悲劇か!! 形あるものはいずれ滅びるのが道理だろう!!
運命に弄ばれたら悲劇か!! 受け入れたって立ち向かったって、運命と関わらなきゃいけねぇのは誰しも同じだろう!!」
悲劇だ、悲劇だ、と貴方は言う。
あの小さな機神もそう。
カドモスは悲劇に屈して諦観し、マキナは悲劇を打ち砕くために生み出された。それだけの違い。
どちらも共通して、世界は悲劇に満ちていると嘯いている。
でも、本当に、本当にそうなのだろうか?
世界は本当に悲劇に満ちていて、諦めたり、救ってやったりしなくちゃいけないものなのだろうか?
「最後に笑って、ああ、まぁまぁ悪くねぇ人生だったなと言って終われるのが、ハッピーエンドってやつじゃあねぇのか!!」
ふざけるな、とエパメイノンダスは思う。
カドモス。
カドモスよ。
我らが王、カドモスよ。
エパメイノンダスは、笑って死んだぞ。
アルマナ・ラフィーは、笑って死んだぞ。
それすらも、貴方は悲劇と呼んで憚らないのか。
ふざけるなよ、とエパメイノンダスは奮起する。
王と、友と、あのほとんど言葉も交わさぬままだった少女のために、彼は攻める。
「俺達は生きたぞ、カドモスッ!! 我らが王よ!! 俺達は懸命に、精一杯に生きた!!」
伸ばした腕が槍の下をすり抜け、カドモスの胸倉を掴んだ。
エパメイノンダスが、大きく頭を引いていく。
「――――――――――――俺たちの人生を、勝手に悲劇にするんじゃあねェッ!!!」
そして――――渾身の頭突きがカドモスの頭蓋に叩きつけられ、今度こそ、青銅王カドモスは地面に叩きつけられた。
……もはやカドモスに、抵抗の余力は残っていない。
いや、そんなものは、最初から存在しなかったのだ。
アルマナ・ラフィーを失った時点で戦士としての彼は死んでいる。
残されたのは、悲劇に嘆く老人ひとり。
そんな彼の前に、エパメイノンダスが――――遠い遠い、テーバイ最後の愛し子のひとりが立ちはだかったのならば、どうしてまともに戦うことができよう。
「…………ならば……どうすればよかったのだ…………」
仰向けに倒れたまま、老人は呻いた。
とうに枯れ果てたはずの涙がひと筋、まなじりから零れ落ちる。
「開き直った振りをした。終わりよければ全てよし。数多の栄光が悲劇を打ち消すと、白痴のように己を誤魔化して老いさらばえた」
栄光に酔い、傲慢に心を麻痺させて、それでも最期まで酔い続けることはできなかった。
認めたくなかった。
己の作った国が、数多の悲劇に囲まれた、呪われた国などと。
どこで何を間違えてしまったのか何度自問したって、答えは出てこなかった。
「悲劇と表裏だと言うのならば、儂は栄光など欲しくはなかった。
子らが、民が、幸せに、穏やかに暮らしてくれれば、儂はそれでよかったのだ……」
カドモスの願いは、己が栄光の破棄。
それによって、まつわる悲劇の全てを否定する事。
つまりそれは、己の栄光が常に悲劇を呼ぶ呪いであると認めることに他ならない。
己が呪われた英雄であると認め、テーバイが呪われた国であると認め、呪いごとその全てを否定する。
…………ああ、だから、エパメイノンダスは怒っているのだ。
栄光と悲劇が表裏一体と言うのであれば、彼は呪いと悲劇の反対に存在する栄光と幸せを、否定してほしくは無かったのだ。
悲劇は、ある。
残念ながら、それは事実だ。
けれどそれだけでも、無い。
テーバイは決して、悲劇だけの国では無かったはずだと、テーバイ最後の英雄は怒っているのだ。
「俺が言うのも、なんだけどよ」
倒れ伏すカドモスの隣に膝をついて、エパメイノンダスは答えた。
「そう思うなら、残された奴が精一杯に生きて、死んでいった奴らの人生が無駄なんかじゃなかったと、言ってやるしか無いんじゃねぇか」
「…………逃避だな……逃避だ、それは」
「そうかもしれねぇ。でもな、カドモス王」
テーバイに何も残せなかった男がこれを語るのは、なんと皮肉なことだろう。
それでもエパメイノンダスは、心から思うままに言葉を紡いでいる。
負い目は、あるようで無かった。
だって彼は、己の人生に納得してしまっているから。
「そう思うのは、あんたが愛に満ちた人間だからで……そんなあんたが作った国だから、テーバイは愛に満ちた幸せな国だったと、俺は思うよ」
ずっと伝えたかった、感謝の気持ち。
ああ、カドモスよ。
我らが王。テーバイ建国の父。青銅の発見者よ。
誰よりも優しく、慈悲深く、愛に満ちた悲劇と栄光の英雄よ。
「――――――――俺達(テーバイ)を愛してくれて、ありがとう」
父よ。
貴方に、ありがとう。
◆ ◆ ◆
(…………向こうは決着がついたか。はぁ、ったく。潮時かね……)
一方、神聖隊戦線。
ベルゼブブの奮戦にも関わらず、結局のところ神聖隊による鉄壁の防御はまったく崩せていない。
決闘が終わったからには、エパメイノンダスも合流してくるだろう。
そうなれば流石に分が悪い。
骨を折った割には大した収穫も無かったが、アルマナ・ラフィーを仕留められただけでもよしとして撤収するべき頃合いだろう。
ノクト・サムスタンプはそのように判断し――――そのように判断するということを、予測している者がいる。
――――――――ということを、ノクト・サムスタンプは予測している。
「悪いが通らねぇよ、悪国征蹂郎」
ベルゼブブに合図を飛ばし、撤退の素振りを見せる。
その瞬間、ぬらりと踏み込んでくる大男。
刀凶聯合頭目、悪国征蹂郎。
特徴的な構えから繰り出される“抜刀”が、シームレスにノクトへと飛んで首を刎ねる――――否、虚像。
空気の屈折で作られた幻影だ。
「……!」
「なに意外そうな顔してんだよ。暗殺者の顔が見えなかったら警戒ぐらいするだろ普通。自己評価が低すぎるのも良くないぜ?」
必殺の暗殺をすかされた悪国が歯噛みする。
悪国征蹂郎の暗殺があり得ると判断した段階から、ノクトは空気の流れを利用した感知魔術の網を周囲に貼っていた。
どれほど精巧に気配を消していたとしても、物理的にそこにある以上は空気の流れに干渉する。
ノクトは風を操る魔術でこれを知覚し、暗殺の瞬間に備えていたのである。
「――――我が友から離れろ、暗殺者めッ!!!!」
そしてこの瞬間、急速にロミオの気勢が回復する。
友に迫る暗殺者の魔の手、という具体的な危機が、彼の狂気のアクセルを再び押し込んだ。
力任せの、しかし恐ろしく素早い無数の剣閃が悪国征蹂郎目がけて繰り出される。
数枚の神聖隊が悪国征蹂郎をフォローし、なんとか彼の後退を支援するも、先ほどまでの様子が嘘のようにロミオは浮遊する盾を蹴散らして見せた。
「空を切り裂き獲物を襲う蜻蛉でさえ、貴様よりは礼節を知るだろう! 恥を知れ卑怯者!!」
暗殺者に何を言うか、という話ではあるが、ロミオにそんな道理は関係がない。
あっという間に神聖隊がなぎ倒され、不用意に接近した悪国征蹂郎を仕留めんと暴走暴力が振るわれる。
しかし、その瞬間――――――――
「で、ランサーの不意打ちと。読みやすくて助かるねどうも」
風の魔術の導きがロミオの進路を強制的に変更させ、飛び出してきたアンタレスに向けてその暴力を振るわせる。
激しい金属音。
槍と副腕による圧倒的な手数の連撃を、ロミオは己のフィジカルのみでねじ伏せていく。
「お前も我が友の首を陰から狙っていたか、怪物め!!」
「くっ…………!!」
「よし、不確定要素はちゃんと開けてから退かねぇとな。
アサシン、撤退するぞ。デカいの一発――――」
とはいえ、このまま欲張ってアンタレスを手に入れようとするのもうまくない。
先述の通り、エパメイノンダスが合流してくるのだ。
あるいはともすると、奮起したカドモスもセットで来る可能性だってある。
欲張り過ぎずにここは撤退が正解。
撤退中に悪国征蹂郎の不意打ちを受ける危険性も排除した。
得たものは少ないが、ベルゼブブの試験運用としては十分な成果と言えるだろう。
そう判断し、ノクトは意識を完全に撤退へと向け――――――――
「――――――――ああ。貴方が策士で、良かった」
…………ノクト・サムスタンプは、臆病である。
それは傭兵としての美徳であり、常に慎重に立ち回って油断をしない。
けれど、策士である。
自分の策がカッチリとハマり、思い通りに戦況が動いた時。
策士は必ず、慢心する。
するり、と。
ロミオと打ち合っていたはずの、彼に押されていたはずのアンタレスが、有り得ない滑らかさで地面を滑りノクトを間合いに入れる。
それはほんの一瞬の事。
ほんの僅かな意識の隙間を縫った急接近。
だが、それだけだ。
今から槍を繰り出そうと、ノクトの離脱は十分に間に合う。
アンタレスがうまく自分をかわしたことを理解したロミオが、怒りのままに割って入ろうとしている。
間合いを詰めて、槍の射程に入れただけ。
それだけの行動。
それだけの行動が――――彼女にとっては、なによりも必殺になる。
「あの人はそんなことは望まないでしょうが……貴方は、マスター・ジャックの仇です」
動けない。
かわせない。
ノクトの視界で、迫るアンタレスとロミオがスローモーションで描画される。
避けねばなるまい。
避けてしまえばそれでいいのだ。
頭ではそうわかっているはずなのに、どうしてか体がまったくついていかない。
傲慢の報い。
たった一度だけ、増長する相手の隙をついて必中必殺の攻撃を行う権利を得る、アンタレスのスキル。
「滅びの毒を受ける栄誉を、差し上げましょう」
彼女の毒槍に、魔力が集まる。
ロミオが二人の間に割って入る。
もう遅い。
真名解放。
これなるは毒。
比類なき、抑止の毒。
「――――――――『英雄よ天に昇れ(アステリズム・メーカー)』ッ!!」
深紅の槍は、吸い込まれるようにロミオの腕の下を通って――――ノクト・サムスタンプを、見事に貫いた。
「が、は……ぐぁ……っ!!」
浅い。
手応えから、天蠍アンタレスはそのことを理解する。
槍の穂先はほんのわずかにノクトの脇を掠めただけだ。
というのも、割って入ったロミオという乱数が、必中必殺の一撃を僅かに狂わせたためである。
「貴様ッ!!!!」
続くロミオの剣閃を受け止めながら、アンタレスは素早く離脱した。
浅い。
浅いが、十分だ。
浅くとも、天昇の毒は確かに仕込まれたためである。
「く、っそ、そうか、テメェ、オリオン殺し……英雄殺しの、天の蠍……ッ!!」
「光栄に思ってください。貴方には、英雄になる可能性があったようですから」
宝具の一撃を受けたノクトが、スキルによって隠蔽されていた真名……天蠍アンタレスに辿り着く。
だが遅い。
もう何もかも手遅れなのだ。
「ああ、友よ、友よ、僕の腕の下を通って刃が……またなのか……またなのか……!?」
「く、そ、がァ……ッ!!! アサシン!!!」
巻き戻される予定。
状況を理解できていないベルゼブブが、言われるがまま特大の魔力弾を地面に叩きつける。
その爆風と衝撃に紛れ、ノクトたちは撤退。
瞬きの間に姿を消す。
追撃をするか、という河二の視線に……悪国は静かに首を左右に振った。
「…………あの男はもうおしまいだ」
「例の毒か」
「ああ。……こんなことをしても、アルマナは喜ばないだろうが」
欲を言えば、そのまま存在そのものをこの世から追放してしまいたかったが。
それでも既にノクト・サムスタンプの死の定めは確定した。
ただその毒の性質上、手負いの彼を無理に追うのは危険というだけのことである。
彼が天昇の毒を受け止めるに十分な可能性が眠っていたのは幸か不幸か……あれだけの狡知、只人の領域では終わるまいというのは予測できていたことだが。
「悪国征蹂郎」
遅れて、二人の槍兵が合流する。
エパメイノンダスと、老王カドモス。
悪国征蹂郎は、半ば反射的に顔を伏せた。
アルマナ・ラフィーを己のために死んだということを、理解していたからだ。
カドモスには百の痛罵と万の殺意を繰り出す権利があり、悪国征蹂郎にはそれを受ける義務がある。
…………けれど、カドモスは怒りも悲しみも表に出さず、静かに問うた。
「アルマナは……あの娘は、笑えたのか」
短く、しかし重い問いだった。
悪国は、迷うことなく、しかし相応に重々しく、答えた。
「…………ああ。幸せそうに、笑って逝ったよ。
俺に、生きろと言って眠りについた。……いつもそうだ。皆俺に、死ねない理由ばかりを預けて来る……」
俺にはそんな価値は無いのだと、叫び出したいぐらいだった。
俺なんかのために命を捨てないでくれと、泣き出したいぐらいだった。
けれどそうしなかったのは、悪国征蹂郎のゴミ山の王としての矜持だった。
皆が悪国征蹂郎を玉座に座らせたことが間違いだったなんて、誰にも言わせることはできない。悪国征蹂郎自身にもだ。
カドモスは悪国の答えを聞くと、「そうか」と短く零して瞑目し、すぐに顔を上げた。
「ならば生きろ、悪国征蹂郎。我が臣に救われたその命、下らぬ理由で散らすことは許さん」
「……ああ。わかっている」
頷きを返す。
王の命は、いつだってひとりのものでは無いのだ。
「――――で、だ」
そうしてしんみりしかけた空気を散らすように、ぱん、と手を叩いたのはエパメイノンダス。
「悪いがのんびりしてる時間はねぇ。振り分けを決めねぇとな」
「振り分け?」
「蛇とノクト・サムスタンプ、どっちを追うかの話だよ」
今現在の最優先討伐対象は、言うまでもなくニシキヘビ……神寂縁である。
彼を倒さない限りこの蛇腔から出ることはできず、ゆっくりと魂ごと溶けていく運命にある。
けれど同時に、ノクト・サムスタンプを放置することもできない。
蛇の同盟者として振る舞う彼だが、蛇が本質的に“同盟者”など必要としていないことも、ノクトが蛇を信用していないことも明白だ。
となればノクトも蛇を倒さなければならないのだが、あの悪辣な詐欺師は蛇とそれ以外の共倒れを平気で狙ってくるだろう。
そういった余計な横やりを防ぐためにはノクトにも対処する必要があるし……
……実際問題ここでノクトを取り逃がせば、確実にあれを殺せる機会というのがどれほどあるのだろう。
この固有結界に閉じ込められているのは、ノクトも同じことなのだ。
彼が逃げられない間に対峙できるというのは、この上ない好機では無いか。
もちろんどこかで戦線が合流する可能性もあるが、それはそれとして追う相手はそれぞれで選ぶべきだ。
「俺はまずテツジとの合流を目指してから蛇を叩く。
そっちの方が役割がありそうだからな。で……」
「僕はノクト・サムスタンプを追う」
静かに名乗り出たのは、高乃河二。
ニシキヘビに父を殺された若き復讐者は、しかし父の仇よりも、今大切な者を奪った詐欺師を追うことを選んだ。
短く、決意に満ちた宣誓だった。
「……なら、俺たちもノクト・サムスタンプを追おう。あいつにはまだまだ借りがあるからな」
「はい。天昇の毒を注いだことで、彼を強化してしまっている分の責任も果たさなければならないでしょう」
そして悪国征蹂郎と天蠍アンタレスも、対ノクト・サムスタンプ戦線に合流。
底の知れない怪物である神寂縁に天昇の毒がどの程度通用するかわからないというのも、理由のひとつであろう。
それから、最後に――――
「――――カドモス。あんたは、俺のマスターに同行して貰えるか」
「……大きく出たものだな、エパメイノンダス。
いつの間に貴様は王に指図できるようになったのだ?」
ぎろり、鋭い視線がエパメイノンダスを貫く。
けれど数瞬ばかりそうしていると、やがてカドモスはフンと鼻を鳴らして瞑目した。
「わかっておる。儂があの蛇の前に出れば奴は真っ先に儂を排除するだろう。
マスターのいない今の儂の手には余る相手だ。貴様に任せてやろう、エパメイノンダス」
そう言うと、カドモスは周囲の青銅を束ねるように操り、一本の槍を作り出す。
「“楔”だ。うまく使うがいい」
「……はっ。ありがたく拝領致す、我らが王よ」
差し出されたそれを、エパメイノンダスは恭しく受け取った。
これがただの記念品では無いと気付けたのは、果たして当人たち以外にいただろうか。
カドモスが蛇に狙われるだろうという予測は、カドモスの侵蝕型固有結界が蛇に対して有効だから。
だからこそカドモスは神寂縁にぶつけるべきなのだが、マスター亡き今テーバイ化した土地の外でかの怪物と戦うのは無茶が過ぎるというもの。
ならばと、老王はエパメイノンダスに槍を託した。
テーバイ最初の王から、テーバイ最後の将軍へ。
要するに、ほんの一瞬だけ、ほんの僅かな空間を、カドモスの“領地”とするための楔なのだ、これは。
テーバイの英雄という強い繋がりを持つ英霊同士だからできる、ちょっとした横紙破り。
たった一度だけ、テーバイの領土を作り出す権限を、王は将軍へと託したのである。
「コージ」
槍を受け取ったエパメイノンダスは、最後に己がマスターを見た。
まっすぐに、この一か月を共に過ごした戦友の姿を、しっかりと目に焼き付けるように。
「……勝って来いよ!」
「……ああ。貴方にも、武運を」
…………それ以上の言葉は、交わさなかった。
不要だからだ。
戦士たちはまた、勝利へと――――ハッピーエンドへ向かって、歩き出す。
【月光夢幻神界〈渋谷〉・西端(杉並区との区境付近)/二日目・午前】
【高乃河二】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(小)、月の精神汚染(小)
[令呪]:残り二画
[装備]:『胎息木腕』
[道具]:なし
[所持金]:それなり(故郷からの仕送りという形でそれなりの軍資金がある)
[思考・状況]
基本方針:勝つ。何故? ――もう何一つ失わないために。
0:ノクト・サムスタンプを追う。
1:蛇とノクト・サムスタンプを討ち、ナシロを助ける。
2:蛇は人間だ。ならば倒せる。必ず。
[備考]
※ロールとして『山梨からやってきた転校生』を与えられており、少なくとも琴峯ナシロとは同級生のようです。
※雪村鉄志から『赤坂亜切』、『蛇杖堂寂句』、『ホムンクルス36号』、『ノクト・サムスタンプ』並びに<一回目>に関する情報と推論を共有されています。
※レミュリンから『イリス』に関する情報を得ました。
※レミュリンと"蛇杖堂絵里"の連絡先を得ました。
※レミュリンによる連絡を受け、蛇の本名を知りました。
※致命傷を負いましたが、ノクトによる薬物(蛇杖堂寂句の遺品)を投与されて復活しました。何らかの副作用がある可能性があります。
→傷は概ね回復しました。今のところ副作用は出ていません。
【ランサー(エパメイノンダス)】
[状態]:疲労(大)、胸に裂傷(大)、全身にダメージや傷、多数の銃創
[装備]:槍と盾、カドモスの青銅槍
[道具]:革ジャン
[所持金]:なし(彼が好んだピタゴラス教団の教義では財産を私有せず共有する)
[思考・状況]
基本方針:マスターを導く。
0:掴みに行こうぜ、ハッピーエンド。
1:蛇を滅ぼす。あの男は、存在してはならない害悪だ。
2:まずは雪村鉄志との合流を目指す。
[備考]
※カドモスの存在を確信しました。杉並のテーバイ化にも気付いているようです。
【ランサー(カドモス)】
[状態]:疲労(大)、月の精神汚染(大)、精神的疲労(中)、マスター喪失
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:いつかの悲劇に終焉を。
0:アルマナ――――
1:下郎ノクト・サムスタンプを討つ。
2:神寂縁に対して警戒。
[備考]
※本体は拠点である杉並区・地下青銅洞窟に存在しています。
→青銅空間は発生地点の杉並区地下から仮想都市東京を徐々に侵略し、現在は杉並区全域を支配下に置いています。
放っておけば他の区にまで広がっていくでしょう。
※カドモスの宝具『我が撒かれし肇国、青銅の七門(スパルトイ・ブロンズ・テーベ)』の影響下に置かれた地域は、世界の修正力を相殺することで、運営側(オルフィレウス)からの状況の把握を免れています。
※マスター(アルマナ)の死亡により、出力が若干弱体化しています。
スキルと宝具の効果で魔力供給そのものはカバーされていますが、このままでは半日持たないでしょう。
【悪国征蹂郎】
[状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、出血(大)、全身に軽度の火傷、頭部と両腕にダメージ(応急処置済み)、右腕損壊(大)、腹部に銃創、〈喚戦〉、ランサー(アンタレス)と再契約、月の精神汚染(大)
[令呪]:残り一画
[装備]:レッドライダー製の極薄ガントレット(左腕のみ)
[道具]:なし
[所持金]:数万円程度。カード派。
[思考・状況]
基本方針:刀凶聯合という自分の居場所を守る。
0:生きる。願われた分だけ。
1:蛇に対する最大限の警戒。
2:ノクト・サムスタンプは討つ。やはり、あの男は危険すぎる。
[備考]
異国で行った暗殺者としての最終試験の際に、アルマナ・ラフィーと遭遇しています。
聯合がアジトにしているビルは複数あり、今いるのはそのひとつに過ぎません。
養成所時代に、傭兵としてのノクト・サムスタンプの評判の一端を聞いています。
六本木でのレッドライダーVS祓葉・アンジェ組について記録した映像を所持しています。
アルマナから偵察の結果と、現在の覚明ゲンジについて聞きました。
千代田区内の聯合構成員に撤退命令を出しています。
ランサー(ギルタブリル/天蠍アンタレス)と再契約しました。
警官隊殺害・及び暴動主導の容疑で公開指名手配されています。
【ランサー(ギルタブリル/天蠍アンタレス)】
[状態]:疲労(大)、胴体に裂傷、全身にダメージ(大)、甲冑破損、無念と決意、寂句の令呪『神の箱庭を終わらせ、真の〈神殺し〉を成し遂げてみせよ』及び令呪による一時的な強化、悪国征蹂郎と再契約
[装備]:赤い槍
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:神寂祓葉を刺してヒトより上の段階に放逐する。
0:マスター・ジャックの遺命を果たす。たとえこの身が擦り切れようとも。
1:ノクト・サムスタンプにトドメを刺す。
2:神寂縁は粛清対象。
[備考]
※マスターを喪失しました。令呪の強化を受けていますが、このままでは半日は保たないでしょう。
→悪国征蹂郎と再契約しました。
◆ ◆ ◆
「はぁっ、はぁっ、畜生、やってくれたな悪国征蹂郎……いや、ジャック先生よ……!!
とんでもねぇ置き土産を残しやがる……なるほどあんたが神殺しを託すわけだよ……!!」
撤退した先。
ノクト・サムスタンプは、身体が……否、魂がそのまま作り変えられるような苦痛に耐えながら、呻いている。
「あはっ……苦しそうですねぇ、ノクト・サムスタンプさん。楽にしてあげましょうか?」
「つまんねぇ引っかけはよせ、アサシン……! 今はテメェと遊んでる余裕もねぇんだ……!!」
「ちぇっ、面白くないですねぇ」
天蠍アンタレスの毒は、魂を昇華させる概念毒。
可能性を燃料にして燃やし尽くし、存在を極限まで強化するもの。
その代償に――――この世に存在すべきではないものとして、抑止の排斥を受けるもの。
これを直接に受けたノクトは、アンタレスの毒の性質を大まかに理解した。
相手を強化する毒など馬鹿馬鹿しいにもほどがあるが、それだけに一度受けてしまえば誰もこの毒からは逃れられない。
――――つまり、この時点でノクト・サムスタンプはもはや死を免れない。
それはもはや定まった運命であり、確定した未来である。
生き残れる可能性があるのなら、ただひとつ。
「俺が抑止に追い付かれる前に……聖杯取って勝ち抜けする、しかねぇか……!!」
果たして抑止の魔の手は、いつノクトの命に届くのか。
誰にもわからない。
だが、やるしかない。
(チッ……お前と同じ毒喰らっちまうとはな、祓葉……)
幸いにして、レッドライダーのように明確にタイムリミットが定まったわけではない。
祓葉のように……オルフィレウスの永久機関のように、ただ不利益のみを被ったわけではない。
位階を挙げたこの魂で、全てを蹴散らす他に彼の生きる道は無い。
「やってやるさ…………待ってな、祓葉」
「お前と聖杯は、俺がいただく……!!」
【月光夢幻神界〈渋谷〉・西部/二日目・午前】
【ノクト・サムスタンプ】
[状態]:疲労(中)、腹部にダメージ(大)、魔力消費(中)、魔術の出力向上中、複数の打撲傷(処置済)、右腕欠損、、存在昇華、恋
[令呪]:残り二画
[装備]:『胎息木腕(右腕分のみ。古いもの)』
[道具]:、蛇杖堂邸で回収した幾らかの道具
[所持金]:莫大。少なくとも生活に困ることはない
[思考・状況]
基本方針:聖杯を取り、祓葉を我が物とする
0:神寂縁を中心とする抗争に介入する。目指す結末は関わった全員の共倒れ。
1:神寂縁に協力しつつ、奴が"追われる者達"と相討つように仕向けたい。そのために、蛇の計算を崩す不確定要素を蒐集する。
2:琴峯ナシロとそのサーヴァント(ベルゼブブ)を利用。特にベルゼブブの可能性には期待している。
3:煌星満天の能力の成長に期待。うまく行けば蛇杖堂寂句や神寂祓葉を出し抜ける可能性がある。
4:満天の悪魔化の詳細が分からない以上、急成長を促すのは危険と判断。まっとうなやり方でサポートするのが今は一番利口、か。
5:とはいえそれも満天が完成するまでだ。見通しが立ったなら、詐欺師野郎(ファウスト)はもう要らねえ。
6:何か違和感がある。何かを見落としている。
7:〈脱出王〉の危険度を格上げ。早急に排除しなければならない敵と認定。
8:祓葉。お前にも、まだ先があるんだろう?
9:渋谷の神は現状他人に任せる。アレは多分俺と相性が悪い。
10:アサシン(ベルゼブブ)の話が本当ならば――。
11:毒が自分を殺す前に、聖杯を取る。
[備考]
※東京中に使い魔を放っている他、一般人を契約魔術と暗示で無意識の協力者として独自の情報ネットワークを形成しています。
※東京中のテレビ局のトップ陣を支配下に置いています。主に報道関係を支配しつつあります。
※煌星満天&ファウストの主従と協力体制を築き、ロミオを貸し出しました。
※蛇杖堂寂句から赤坂亜切・楪依里朱について彼が知る限りの情報を受け取りました。
※神寂縁から雪村鉄志、琴峯ナシロ、高乃河二、赤坂亜切の現在の動向について連絡を受けました。
※蛇杖堂邸で高乃家の礼装『胎息木腕』を回収しました。これが高乃河二の装備している物と同じ性能かどうかはおまかせします。
※山越風夏のサーヴァントの真名が「ハリー・フーディーニ」であろうことをうっすら察しました。
※ファウストから蝗害調査のデータファイルを受け取りました。中身は確認済みです。
※琴峯ナシロと契約を交わしました。
・高乃河二を救命する対価として、琴峯ナシロとサーヴァントの身柄を預かる。
・両者の指揮命令権もノクト・サムスタンプが持つものとする。
※月の御遣いと契約を交わしました。これにより、蛇腔及びFWが維持されている限り、ノクトは結界内の月勢力から攻撃を受けません。
※アサシン(ベルゼブブ)の指揮権を一部移譲されています。但しベルゼブブはノクトの契約を無視しているため、常に有効かは不明です。
※ギルタブリル/天蠍アンタレスの『英雄よ天に昇れ(アステリズム・メーカー)』を注入されました。
強化の代償に抑止の排斥を受けるようになりましたが、具体的にどの程度強化されたのかは後続の書き手にお任せします。
【バーサーカー(ロミオ)】
[状態]:恋、全身にダメージ(極大)、霊核破損、複数の刺傷痕、行動に一切の支障なし
[装備]:無銘・レイピア
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:ジュリエット! 嗚呼、ジュリエット!!
0:嗚呼、またしても僕の腕の下から刃が友に突き刺さった!
1:友を助けねば。
2:神寂縁は僕とジュリエットの世界に存在してはならない汚物。後に、然るべく駆除する。
[備考]
現在、煌星満天を『ジュリエット』として認識しています。
ファウストと契約を結んでいます。
【アサシン(ベルゼブブ/Tachinidae)】
[状態]:スキルによる容姿変化、疲労(大)、全身にダメージ(大)、脇腹に刀傷、各所に弾丸の擦り傷、霊基の成長?
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:聖杯を手に入れ本物の蝿王様になる!
0:ナシロさん。わたしは、あなたのために戦います。
1:神寂縁を殺す。たとえ、どれだけ手を血に染めようとも。
2:ざまぁないですね、ノクト・サムスタンプさん。
[備考]
※渋谷区の公園に残された飛蝗の死骸にスキル(産卵行動)及び宝具(Lord of the Flies)を行使しました。
少数ですが眷属を作り出すことに成功しています。
※代々木公園での戦闘で眷属はほぼ全滅しました。今残っているのは離脱用に残しておいた一体だけです。
※"蠅の王"の力の片鱗を引き出しました。どの程度操れるのか、今後どのような影響を齎すのかは不明です。
→渋谷の変貌を感じ取り、説明できない懐かしさを抱いています。
※蛇腔内のNPCを狩り、眷属を爆発的に増殖させています。現在百体前後。
※ノクト・サムスタンプの契約の影響を受けていません。これが彼女のいかなる性質によるものかは不明です。
※神寂縁の体内に存在する4423の魂、そのひとつに産卵しています。体外脱出のタイミングは彼女の任意。
※ランサー(エパメイノンダス)のアドバイスを参考に、命中精度の弱点をほぼ克服したようです。
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最終更新:2026年09月14日 01:14