『はあ………………あのね、天枷さんさあ』
『これ前も教えたよね? ていうか何回も教えてる。いい加減覚えられない?』
『うーん……できないのは仕方ないんだよ? 一回言われて覚えられないだけなら怒んないけどさ』
『でも天枷さん、メモも取んないでしょ? メモくらいとろうよ。覚える努力くらいは見せないと』
『……まあ、これはもう今回俺がやっとくから。そっちの書類でも整理しててくれる?』


『――あの、天枷さん』
『お客さん来てて、自分に対応できなそうだったら周りの人に声かけてください』
『とにかく、無視はダメだから』
『社会人なんだからそのくらいして。挨拶くらいできるでしょ。人間関係の基本だよ』


『ちょっと、天枷さん』
『これ何? もしかしてだけど、破れたところテープで止めてそのまま印刷したの?』
『いや……あのさ。もう一回印刷すればいいじゃん。こんな資料会議で使えると思う?』
『もう少しいろいろ考えて仕事してよ。ホチキスの向きも逆だし……とりあえず作り直して。会議は明日だし、今日中でいいから』


『あ~~~……天枷さん、ちょっといい?』
『うーんとね、あんまり言いたくないんだけど……仕事中にパソコンで関係ないサイト見るのやめよっか』
『天枷さんもお給料もらって仕事してるんだからさ、勤務時間中はまじめに仕事しよ?』
『言い訳はダメ。次から直せばいいから。ね?』


『天枷さんもう帰るの? ごめんね、その前にひとつだけ』
『最近さ、天枷さん帰るの少し早くない? 昨日とかさ、退勤の時間定時前だったんだよね』
『あー、パソコンの時間がずれてた? …………そっかそっか。じゃあ明日からはあそこの壁掛け時計見てよ。あっちは時間合ってるから』
『とにかく、ひとりだけ早く帰られると困るから……。次からは気をつけて』


『……あのねえ、天枷さん』
『ごめんなさいって言うけど、今月だけで遅刻何回目? 電車が遅延したとかなら仕方ないけど、天枷さんのはそうじゃないよね』
『毎回いろんな理由言ってくるけどさ、そんなに重なるもんじゃないでしょアクシデントって。悪いんだけど、バレてるからね』
『なんで遅刻しちゃうの? 朝起きれないの? それなら早く寝なよ。そしたら起きれるでしょ』
『……そんなに早いと眠れない? ……あのさあ、天枷さん。そのくらいの努力はしなきゃいけないようなことしてんだよ、君』
『本当にひどいんだからね、君の勤務態度。…………もういいよ、席に戻って。次からは遅刻しないでね』



◇◇



「はあ、はあ、はあ、はあ……!」

 うるさいうるさいうるさいうるさい!
 知らない知らない知らないもん!
 わたしだってがんばってるし! ちょっと人よりやる気が出ないだけ!
 それなのにそんなにひどいこと言わなくたっていいじゃん! 弱いものには優しくしろって教わらなかったの!?
 わたしは教わったよ! 学校でも教わったしお母さんにも教えてもらったもん!
 わたしは弱い! 地球で下から十番目くらいに入る自信がある! 人とお話できないのってそんなに悪いこと!?

 メモ取って聞いてほしかったら言ってよ! いや言ってたかもしれないけど聞いてなかったもん!
 お客さん無視してないし! わたしは対応できませんって目で伝えたし! ていうかわたしもお仕事あったもん!
 ちょっとツイッター見てただけじゃん! これやってって言われたらお仕事したよ!? 暇だったんだもん!
 たった数分早く帰って何がいけないの!? 持ってる仕事もなかったのに! 定時だと電車が一本遅いんだもん!
 遅刻はもうしょうがないじゃん! わたし朝起きれないんだもん! 毎日疲れてスト缶開けさせる職場にも問題があるんじゃない!?

 でもやばい! ほんとにやばい! 今日遅刻するのはほんとにやばい!
 だって課長に昨日めっちゃ怒られたばっかりだし! すっごい目で見られる自信がある!
 ていうかこれで遅れたらもうわたし会社入れない! 怒られるってわかって中に入るやつがどこにいる!?
 もう走るのつかれた! 息苦しい足重たい背中ちくちくする! なんでわたしこんなつらい思いしてるの!?
 昨日の夜はあんなにネトゲで無双したのに! 無双したあとで大好きなアニメの映画見てぼろぼろ泣いたのに!
 そのあとに泣きすぎてお酒入れちゃったからかな!? お酒入れちゃったからだね! 死にたい!
 おかげで今もちょっと頭がんがんする! 遅刻とか以前に普通に休みたい!
 でも病欠は先週使っちゃったし何より怒られた昨日の今日で病欠の電話するの怖すぎる! 無理! それができるやつはお客さん無視しない!

 ああもうこんなに本気で走ったのいつぶりだろう!
 運動は昔から大の苦手なのに! おかげでおなかもちょっとむっちりしてきちゃった! かなしい!
 ダイエットにしたってもっとサプリメントとか飲んでやりたい! 身体動かすストレスの方がギリ勝ってる!
 ていうかもう走れない! 肺から変な音がしてる! 穴空いてたらどうしよう!? 労災降りるかな!?

「だめだ……死ぬ……ちょっとペース落とそう……会社なんかのためにしにたくない……」

 ぜぇぜぇ、ひぃひぃ。
 我ながら情けない音を立てながら足を引きずる。
 始業まではあと五分ってところ。全力で走ったらまだ間に合いそうだけど……、それをしたら本当に死にそうな気がする。
 というわけで今日も今日とて遅刻がほぼ確定してしまったわけで、いよいよクビとか窓際行きとかそんな未来が見えてきた。

 ほんと、なんでこんなことになっちゃったんだろう。
 昔は神童とか呼ばれてたのに。全国模試で一位とか取ったことあるのに。
 高校も大学もとんとん拍子だったし(友達は数えるほどしかいなかったけど)、失敗なんて一回もしたことなかったのに。
 会社に入って働くことになってからどんどんおかしくなっちゃった。
 だって学校にいた頃は人とお話とかしなくたってどうとでもなったんだもん。
 大学だって、入試の成績がよかったからか先生の方からあれこれ世話焼いてくれてたし。
 わたしのためにあれこれがんばってくれる子も近くにいたし……。
 会社で働くのってこんなにしんどくて、人間性が求められるものだなんて知らなかったんだもん!

 新卒で入った会社を三日でやめて、怒られるのが怖くて実家の電話も取れなくなって。
 それからずるずるずるずるダメになっちゃって。……いや最初の会社も連日遅刻してブチ切れられてたけど。
 大学の頃は飲めなかったお酒が友達になって、人と関わらない内職やアルバイトでお茶を濁す毎日。
 このままじゃいけない!って一念発起して入った会社も今やこのざま、ボロというボロで仁杜の風評はボロボロです。

「はあ……」

 しにた。
 いやしにたくないんだけど。
 なんか空から白馬の王子さまでも降ってこないかな。
 いや王子さまじゃなくてもいいけど、えっちで甘やかしてくれるお姉さんとかでもいいんだけど。
 それでも無理なら、そう、せめて……

「会社燃えてないかなあ…………」

 叶うはずもない願いごとを口にしながら。
 わたしは、遅刻確定の道のりをずるずる歩く。
 二日酔いと疲れと気の重さの三重苦。
 まるでおばけみたいな足取りで、夢にまで出てくる"嫌なこと"の象徴になった通勤ルートをずるずる、ずるずる。

 そうして最後の曲がり角を、死人みたいな顔で曲がって。
 ゆっくりと顔をあげて、通い慣れてしまった会社を見つめたら。



「――――――――――――えぇ………?」



 ――なんか。
 ――マジで会社が燃えていた。



◇◇ 



「あ、渡辺さん。おはようございます」
「おはようございまーす。眠たそうですね、板垣さん」

 給湯室。お茶を汲みにきたふたりの女性社員が、挨拶を交わす。
 ふたりは旧知の中であった。前の部署が同じで、今も顔を合わせるたびにこうして近況報告じみた世間話をする仲なのだ。

「眠いよー。昨日も残業やばくてさ、日付変わってようやく帰れた感じ」

 一流企業かと言われれば疑問符がつくが、それでも"それなり"にはいい企業である。
 その分と言ったら語弊があるが、部署によっては激務が嵩んで毎日のように残業をしている実情もあった。
 特にこの〈渡辺さん〉のようにある程度長く勤務している人間は、深夜まで平気で残らされることも多い。
 一応残業代は出るのだが、それでも堪えるものは堪える。眠そうにあくびをする〈渡辺さん〉に、〈板垣さん〉は同情したように声を出した。

「うえぇ。やっぱりそっちの部署キツいんですね~……あ、そういえばあの人。最近どうしてるんですか?」
「あの人って?」
「ほら、渡辺さんが前に飲み会で愚痴ってた人。なんでしたっけ、えぇと……」
「ああ、天枷さん?」
「あ、そうそうその人! こっちの部署にもたまに話流れてくるんですよー。とにかくめちゃくちゃ使えない人だって」
「うーん……あれは使えるとか使えないとかじゃないんだよねぇ……。
 なんていうんだろ……もっと根本的にこう、人間としてその……アレっていうか……」

 〈天枷さん〉の名前を出された〈渡辺さん〉は、苦虫を噛み潰したような顔をした。
 露骨な嫌な顔。それは、〈渡辺さん〉が〈天枷さん〉にどれだけのフラストレーションを溜めているかを静かに物語るものだった。

 〈天枷さん〉。――天枷仁杜(あまかせ・にいと)。
 彼女は、一言で言うならば"問題児"であった。
 信じられないようなミスをする。しかもそれを誤魔化そうともする。
 ミスが多いだけならまだしも日頃の勤務態度も終わり散らかしている。
 〈渡辺さん〉が見限るようになったきっかけが、先日の"来客無視事件"だった。
 訪ねてきたお客さんを無視してさっさとどこかへ行ってしまったのだ。言うまでもなく、社会人としては論外の行動である。

「遅刻癖もやばいんでしょ? 挙げ句会社にいる間も居眠りしたり、来客無視してどっか行っちゃったり」
「まあねえ……。一応T大出てるんだけどね、あの子」
「T大!? え、マジですか。それなのにそんなんなんだ……」
「勉強以外何もしてこなかったって感じだよ。目見て話せないし、注意しても絶対言い訳してくるし。
 私も最初は長い目で見ていこうと思ってたんだけど……いや~~、最近ちょっと限界感じてるかな。
 この前なんて結構強めに怒っちゃったし。たぶん今日も遅刻してくるんだろうなあ、課長の機嫌がまた悪くなっちゃう」
「うへぇ……。同情しちゃいます。私だったらもううんざりしちゃいそう」

 勉強ができるのと、社会人として有能なのとはまったく話が違う。
 その点、〈天枷さん〉は前者だった。それだけの人間であった。
 人とコミュニケーションが取れない。社会人としての責任が持てない。
 周りに合わせることよりも自分を優先してしまう。自覚もないから、平気で周りを振り回せる。
 自己弁護だけは一人前で、この世のすべてを相手のせいにしてしまえる見下げるしかない他責思考の権化。

「まあ……近い内に辞めちゃうんじゃないかなあ。次はもう少しこう、ちゃんとした人が入ってくるのを祈るよ」

 こぽぽぽぽ、とケトルからカップにお湯を注ぎながら。
 疲れ果てた声色で言う、〈渡辺さん〉。
 〈板垣さん〉も、カップにインスタントコーヒーの粉を入れながらそれに相槌を打つ。 
 朝の職場の一幕。職場のストレスを密やかに共有する、どこにでもありふれた光景。
 そんな時のことであった。給湯室の扉が、きいいい、と音を立ててゆっくりと開いたのは。
 そして、その向こうから――"会社"という場所にはまるでそぐわない見た目の美男子が、当然のような顔で入室してきたのは。

「こんにちは」
「え……?」

 スーツを纏った、青年だった。
 年頃は二十代の前半、行っていても半ばに見える。
 頭髪は金髪で、派手でありながらしかし下品には見えない。
 さながら、ライオンの鬣を思わせる美しくも雄々しい色合いであった。
 そして顔立ちは、まるでホストクラブにでもいるような優男。より俗に言うならば、イケメン。
 線は細く、それでいて女々しさや弱々しさは微塵も感じさせない――"男"という生き物の、ひとつの理想形のような青年。

「ごめんなー。キミらにはさ、あんまり恨みとかないんだけど」
「あ、えっと……」

 誰もが、呑まれる。
 〈渡辺さん〉と〈板垣さん〉は、完全に言葉を失っていた。
 突然の出来事だから、ではない。
 目の前の男のあまりの壮麗さとそして存在感に、女として魅入られてしまっていたのだ。
 だからこそ、まるで媚びたような。
 飲み屋で自分たちに話しかけてきた男へ、探り探りの返事を返す時のような。
 そんな顔で、声色で。たどたどしく、さながら吃音症のようにはっきりとしない口調で言葉を紡ごうとして。
 いや、してしまって。だからこそ――いや、何をどうしたとしても。


「俺の舞台に必要なことだからさ。悪いが犠牲になってくれ、お姫さまのためにな」


 男が、奇術師の王たる巨人が。
 自分のために巻き起こすその〈手品〉を、止めることなどできるはずもなかった。
 両手を広げる。それはまさしく、マジックショーの開演を告げる所作。
 ふたりの哀れな女たち(ギャラリー)が男の美貌に見惚れ、この状況に理解が追い付かず戸惑っている間にも。
 既にお姫さまのためのマジックショー、ある神話の中からこぼれ落ちた嘲りのしずくは波紋を立てていた。

 ボイラーが火を噴く。
 異常な事態と高熱に歓声/悲鳴があがる。
 溢れ出した火が、巨大な腕の形を取り始める。
 室内の温度はこの時点で既に急速な上昇を遂げている。
 二本の腕が、這い出すようにして破けたボイラーの中から現れる。
 手は明らかに、普通の生命体の基準で語られるサイズを超えている。
 観客がくず折れる。既にその皮膚は焼け爛れ泡立ち始めている。
 ボイラー。張り裂けた断面から伸びた双腕が、生まれたひび割れをこじ開けて。

 中から。
 厚さにしても一メートルもないだろうそのちいさな隙間から。
 何かが、こちらを覗いている。

 巨人の貌だった。
 無機質で、されど無限大の情念を滲ませた形相がそこにあった。
 矮小な空間に押し込められていながら、それでいて天を衝く巨躯であるという矛盾が当然のように成立していることに疑問を抱くことは愚かだ。
 何故ならこれは奇術。マジック、なのだから。
 故にその所業に不可能は存在しない。
 あらゆる現実が、ショーの世界では随意にねじ曲げられる。

 巨人が、這い出して。
 そしてゆっくりと、立ち上がる。
 五階建ての会社のその一階。
 給湯室に佇む五十メートル台の巨人。
 矛盾した幻像を、しかし女たちは最後まで見届けることができなかった。
 巨人の放つ熱と炎を前に、既に彼女たちは全身を骨の髄まで炭に変えられて焼死していたからだ。

「あらら。つまんねえの」

 誑かし甲斐のねえ奴らだコト。
 つまらなそうに呟いて、奇術師は踵を返した。
 それに合わせたように、巨人の姿が肥大する。
 小さな部屋という名の箱に押し込められていた巨人が。
 今度は一転、矛盾を破棄して、元の規格(サイズ)を現実名義で取り戻す。

 人間を放つ熱気の余波だけで焼死させられる、太陽のような大熱源が。
 一切の矛盾なく、誤魔化しなく、それだけの規格を取り戻したのなら。
 その時起こる事象は、当然のように決まっている。
 ――炎の巨人が、窮屈な箱の中から立ち上がって。その全体像を、露わにするのだ。

「太陽を超えて耀け、炎の剣(ロプトル・レーギャルン)……ってのは、まあちょっと言い過ぎか」

 結果として、〈お姫さま〉を囚えていた社会の牢獄はこうして火事になった。
 立ち上がった巨人の体躯が、一階から最上階までを余すところなく粉々に粉砕して。
 その上で身体から放たれる炎熱が、ひとり・ひとつの例外もなく一切の焼却を果たす。
 すべてはわがままでか弱い〈お姫さま〉のため。
 奇術師の王は、神さえ誑かす嘲笑のトリックスターは、挨拶代わりにさっそくひとつの爪痕を刻んだのだ。


 そうして。
 時間軸は、現在へと戻る。
 疲れ果てた〈お姫さま〉。
 彼女の認識する現在へと、進む。



◇◇



「初めまして、お姫さま。いや、マスター? それとも演者(アクター)? お好みなのでいいよ」

 燃え盛る会社を、呆然と眺める仁杜の前に。
 ひとりの男が、芝居がかった調子で姿を現した。

「俺はキャスターのサーヴァントだ。
 真名は〈ロキ〉。君の願いを受け取って現界した」
「……、……」
「おいおい、どうしたんだいそんな顔して。
 喜びなよ。手始めにさっそくひとつ願いを叶えてやったんだぜ。
 最高のハッピーを提供してあげられたと自負してるんだが、お気に召さなかったかい?」

 百人が見れば百人が美形と認めるような、優美でよくできた顔立ち。
 それでいてこの軽薄な言動だから、黒スーツ姿なのも手伝ってホストか何かのようにも見える。
 しかし決定的に違う点が、ひとつ。
 彼らは理想の王子さまを演じて笑うが、これにはそもそも演じる気さえないということ。
 へらり、と浮かべたその笑みに含まれている感情は"嘲笑"以外には何もない。
 人の弱さ、脆さ。そんな何かもっともらしいものを嘲っているのではなく。
 もっと純粋に――自分の行動で一杯食わされた、相手の動揺と間抜け面をこそ嘲笑っているのだ。

 故に彼は、〈ロキ〉は生粋の悪童。
 生粋の奇術師、最悪のトリックスター。
 全能の大神でさえ持て余す、北欧の悪意そのもの。
 高尚でないからこそ何より読めぬ、単に"性格が悪すぎる"が故の完全性をこのサーヴァントは有していた。

「……あなたが、やったの? 会社――」
「だからそう言ってんじゃん。全部俺がやったよ、君のために。
 君が望んだからちゃんと叶えてやった。なるだけ多くの人間が犠牲になる形で、手抜かりなくね。
 あれ、もしかして不満だったかい? "誰も死なずに、嫌な場所だけ燃えてほしい"とかそんな感じだった?
 だったらごめんよ、うっかりしてた! "次からは"気をつけるから、今回は目を瞑ってくれ!!」

 紛れもない、とある分野においての最強種でありながら。
 そして同時に、この上ないほどの不良物件。
 何故ならこれは、演者に寄り添うつもりなどかけらもない。
 常に自分。我欲を満たして嗤うため、常にそのために彼の手技は弄される。
 哀れな〈お姫さま〉は、悪意にあふれた最悪の〈王子さま〉を引き当ててしまった。
 ぺたり、と地面に尻もちをついて。
 呆けたような顔で〈ロキ〉を見つめるその顔は、まさに間抜けの一言に尽きる。

 ああ、だからこそ。
 奇術師の王に誤算があったとすれば。
 それは――



「…………………………あ゛り゛か゛と゛ぉ゛~゛~゛~゛~゛~゛~゛!!!!!」



 彼が引き当てた〈お姫さま〉もまた。
 おそらく考えられる限り、最悪と言っていい人間だったことであろう。

「ほんっっっっとにありがとう゛ぅ゛……! また遅刻して怒られるところだったぁ……!
 履歴書に書けない情報また増えちゃうところだったよぅ……! うぅううぅ゛……! よかったぁあぁぁ……!!」

 〈王子さま〉の足に縋り付いて、子どもみたいにえぐえぐと泣いて。
 〈お姫さま〉は、涙と鼻水でぐっちゃぐちゃの顔で感謝を伝えていた。
 まるでそう、何か命の恩人にでもするみたいな。
 もしくは生き別れたきょうだいにでもするみたいに、文字通り全身全霊で感謝を伝えてくる彼女の姿を見下ろして。

「…………、…………んん?」

 〈王子さま〉――〈ロキ〉は、首を傾げた。
 あれ? 何か間違ったか……? とでも言うような顔だ。
 およそ彼が、この性悪奇術師が浮かべるべくもない表情だった。

(あっれ~……? 俺、割と大勢ブチ殺したよな……?
 何気ない日常の愚痴を誇大解釈して、最悪の形で願いを叶えてやるっていう――割とやられたくないことしてやったつもりなんだけど……?)

 彼は、間違いなく超弩級の性悪である。
 人の嫌がることと、人の呆けた顔が大好きの悪党である。
 自分が愉しむためなら、彼はなんだって躊躇わない。
 その行動に、およそブレーキというものは存在しない。
 だから今回もこうした。
 人の心の弱さを虫眼鏡で拡大して、ありもしない意味を付け足した上で叶えてやった。の、だが。

「会社っ……燃えたぁ……! 課長っ……死んだぁ……! もう行かなくていい……! やったぁ……!!」

 彼女もまた、超弩級の社会不適合者である。
 自分が楽をするためになら、いくらでも人を振り回せる最悪女。
 〈お姫さま〉は、ほんとうに会社に行きたくなかったのだ。
 彼女にとってそれはほんとうに、どんな形ででもいいから叶ってほしい願いごとだったのだ。
 そしたら会社が燃えた。燃やした張本人も、なんか出てきた。
 だから大喜びしながら感謝を伝えている。彼女の中では、筋の通った行動だった。

「あとでマックとかおごるね……ぐすっ、エナドリも付けちゃうし……アマギフとかも、お望みだったらっ……!」
「……えぇっと……」

 ――〈ロキ〉、生まれて初めての困惑である。
 誑かした相手が激怒したことも泣き喚いたことも山ほどあるが、感涙して抱きつかれた試しは一度もなかった。
 なんだこいつ。こいつ、マジで現代の人間か?
 現代の人間って、もっとこういろいろ脆っちいメンタルしてると思ってたんだけど……。
 そんな困惑を胸に、奇術師の王は口を開く。
 疑問符を頭の中に山ほど浮かべながら、なんとか絞り出した言葉は。

「君、名前は……?」

 とりあえず名前を聞いてみる、という。
 皮肉にも――およそあらゆる人付き合いで、たぶん基本となるだろう一言だった。

天枷仁杜……。あ、親しい人は〈にーとちゃん〉って呼ぶよ……!」

 女の名前は、天枷仁杜
 通称〈にーとちゃん〉。
 親しみで呼ぶ人三割、蔑称で呼ぶ人七割。

 ――社会不適合者界の、妖怪である。



◇◇



 悪童の王が、剣を振るう。
 大気を切り裂いて、魔術の障壁をこじ開けて。
 哄笑しながら暴れ狂うそのもう片手には、あろうことか長大なヤドリギの枝が握られていた。
 巨人が投擲するたび、それは矢に変わって敵対者に襲い掛かる。
 乱雑に投げただけであるのに、敵の所在をホーミングして突っ込む理不尽な命中精度。
 〈ミストルティン〉。これが神話にそう綴られるヤドリギの矢であることは明白だった。

「おのれ、が……! 〈ロキ〉、貴様ァッ……!」

 これがどれほどのろくでなしであるのかなど、生前から知っている。
 北欧の地に名高き、いや悪名高きトリックスター。
 全能の大神の義理の兄弟にして、神であると同時に神敵たる霜の巨人の血を引く悪童。
 〈ロキ〉。詭弁、策略、愚弄、そしてあまたの戦果を常に恣にしてきた男。

 生前から忌まわしいとは思っていた。
 だがまさか、このような異境の地で相見えることになるとまでは思わなんだ。
 男の――英霊の顔に貼り付いているのは、隠しきれない苛立ちと憤怒。

「相変わらずの独活の大木だなぁオイ! 捕まえてみなよ、"鬼さんこちら、手のなる方へ"だ!」
「ッッ……! 侮るなよ、塵が!」

 憤激のままに解放される、宝具。
 空を切り裂いて迸る、槍の一撃が〈ミストルティン〉を弾き返す。
 その上で尚も勢いは死なず、嘲笑う悪童の王を射止めんと奔る。
 愚弄の報いはその血で贖わせる。必ずや。
 そんな矜持と、それ故の怒り。二種の感情が高度な技術に裏打ちされて轟く光景は、まさしく神話の具現だった。

 やるね、と〈ロキ〉が嗤う。
 これでは不足と判断したのだろう。
 握っていた剣をひょいと、まるでゴミでも捨てるかのように放ってしまった。

「ヤキが回ったか!」
「いいや、まさか。
 ヤキが回ったとすれば、うーん。君の方なんじゃない?」

 何を言って――
 言い返そうとして。
 北欧の槍兵は、言葉を失った。
 絶句したのだ。そうせざるを得ない光景が、視界の先にいる〈ロキ〉のその背後に、顕現していたから。

「……なんだ、それは……」

 炎の巨人が立っていた。
 無数の槍を携えた、戦乙女の群れが飛んでいた。
 空を埋め尽くすほどに巨大な、神々の帆船が飛んでいた。
 その上で〈ロキ〉の十指、すべての間にヤドリギの枝が挟まれている。
 悪童の王は無法にして無体。
 だが、それでも。

「その顔が見たかった」

 こんなことが、現実にあり得るはずがない。
 此処は聖杯戦争。そして己もあちらもサーヴァント。
 零落した存在なのだ。神たるロキなど、一体どれほどの弱体化(デバフ)を受けているのか想像もできない。
 いや、そもそも。仮にこの悪童が、何らかの手段で弱体化を経ずにこの場に立っているのだとしてもだ。

 巨人(スルト)を飼い慣らし。
 戦乙女(ワルキューレ)を侍らせ。
 神々の帆船(スキーズブラズニル)を我が物にするなど。

 そんなこと――如何にこれが〈ロキ〉だったとしても、不可能ではないのか。


「――そうか」


 悟る。
 すべては遅いと、理解しながら。
 歯を噛み締め、奥歯を砕きながら。
 槍の英霊は仇敵に――いや、その皮を被った〈それ〉に。
 血さえ吐き出す勢いで、最大の憤激を込めて吠えた。


「貴様、ウートガルズの――!!」
「おっと悪いね。ネタバレにはまだ早い」


 瞬間、世界が白光に満たされる。
 神話の白光、滅びの具現。
 神々の黄昏(ラグナロク)もかくやの大破壊が吹き荒れた。
 だというのに、何故世界は無事でいるのか。
 東京の街並みは吹き飛ぶこともなく、聖杯戦争は継続されているのか。
 その答えは、既に再三語られている。

 〈ロキ〉は、奇術師だからだ。
 彼の手技はすべてが手品、まやかしの産物。
 大神オーディンを騙し、悪童の王を打ち負かし、デンマークの王を憤死させた北欧最高の大嘘吐き。

 ウートガルズの王。
 煙る霞の巨人王。
 〈ウートガルザ・ロキ〉。


 ――――その幻術は、理解(わか)ったところで破れない。



◇◇



「ロキく~~~~ん!!! おっかえりぃ~~~~!!!」
「にーとちゃ~~~~ん!! たっだいま~~~~!!!」

 なんだか同郷らしかった英霊を適当に処理して、すっかり住み慣れたマンションの一室で再会を祝し合う。
 ぱたぱたと駆けてくる小柄な成人女性は、顔いっぱいに信頼と親愛を載せていて。
 そして驚くべきことにウートガルザ・ロキも、嘘偽りない笑顔でそれと対面した。

「今日のぶんはもう終わったの?」
「ああ。いつも通り、面白くもなんともない作業ゲーだったけど」
「そっかあ。うーん、わたしはロキくんにあんまり危ない目にあってほしくないし、その方がいいんだけど……」
「俺も圧勝の方がいいよ? けどさ、そろそろ長くおちょくれる遊び相手も欲しいわけ。にーとちゃんはそういうのじゃないしねー」
「えへへー」

 ――ウートガルザ・ロキの能力はひとつである。
 〈幻術〉。世界そのものを騙し、たぶらかし、現実ではあり得ない事象を顕現させる神をも凌駕する至高の御業。
 かの大魔術師が駆使する大幻術(グランド・イリュージョン)とは異なり精神への干渉は不得手とするが、その分戦闘に使うならこちらが勝る。
 巨人スルトの顕現。ミストルティンの釣瓶撃ち、スキーズブラズニルの召喚、それら神秘すべての総攻撃。
 いずれも、可能である。何故ならこれはただの幻、手品なのだ。
 本物を用意してくるのならいざ知らず、たかだか子供騙しの虚言八丁ならば。
 サーヴァントという零落した身であろうとも、ウートガルズの王にとっては造作もないことだった。

 しかし。
 そんな彼も、決して無敵ではない。
 そもそも彼とこの聖杯戦争という舞台は、根本からして相性が悪すぎるのだ。

(俺とマスターは常に同じ現実を共有する。つまり一心同体。夢を見てるのが俺だけじゃ、俺も思うままの夢は描けない)

 サーヴァントである以上、マスターの存在は不可欠。
 あるいは悪童の〈ロキ〉ならば、単独行動スキルなり何なりでその問題も解決できるのかもしれないが、彼の場合はそうではない。
 マスターに縛られているが故、常に見つめる現実の真実味まで共有してしまう。
 ウートガルザ・ロキがどれほど夢を見ていても。
 それを従えるマスターが夢のない現実を見てしまっていたら、都合のいい夢に耽溺できる精神を有していなかったら、その"夢のなさ"がサーヴァントであるウートガルザ・ロキにまで毒素として流れ込んでしまうのである。

 そして聖杯戦争の舞台となる土地は、大体の場合が現代。神代が終わり、神秘が影に隠れた"夢のない"時代。
 故に当然、そこを生きている人間も悲しいくらいに夢がない。
 誰もが現実と折り合いをつけてなあなあに生きているから、北欧最強の幻術が正しく効果を発揮してくれない。

 たかが幻、たかが奇術師。
 神の御業と見紛う奇跡も、タネが割れてたらそれはただの子供騙しだ。
 レーギャルンの剣は、格下ひとり殺せず。
 スキーズブラズニルも、ただの蜃気楼に成り果てるだろう。

 だからサーヴァントとして招かれるウートガルザ・ロキは、弱いのである。
 独りよがりな嘲笑者は、決して相棒を得られない。
 ふたりでひとりの環境では、三文役者にしかなり得ない。
 その筈だった。
 けれど。

「あのさ~」
「なぁに~」
「やっぱにーとちゃん最高だわ。運命の人っているんだね、俺この歳になって初めて知ったよ」
「ほわわわっ! そ、それほどでも……あるかも~……? ふへ、うへへへっ」


 ――天枷仁杜は、決して現実を見ない。


 彼女は超弩級の社会不適合者。
 現実の中で夢を見て、今日も元気にとろとろ生きてるダメ人間。
 だから仁杜は、〈にーとちゃん〉は、ウートガルザ・ロキに最高の夢を供給し続けることができる。
 魔力面は持って生まれた才能で補って、相性面は奇術王が拍手喝采するほどに最高。
 令和5年、東京。生きた時代も地域もまるで異なる異境異界の地で、とうとう巡り合った運命のパートナーだった。

「仕事も済んだしゲームでもやろっか。俺なんか簡単に食うもの作るからさ、にーとちゃんはソフト立ち上げといてよ」
「うん! 何にする? シージ、APEX、ヴァロ、あっ最近買ったのだと鉄拳とかスト5もあるけど!」
「FPSがいいな。俺が画面越しにだまくらかすから、ふたりでチーターボコり散らそうよ」
「それ最高~~~! ストゼロも出しちゃおうね、えへへへへへ……」

 運命は平等に微笑む。
 それが善人であろうと、悪人であろうと。

 これもまた、ひとつの運命。
 会社が燃え、晴れてまた幸せなニートになった女と。
 神すら騙して手玉に取った、北欧最高の奇術王。
 彼らにとっては最高で、それ以外端役(モブ)にとっては最悪の聖杯戦争が、街の片隅でとろんとろんと幕を開けていた。


【クラス】
 キャスター

【真名】
 ウートガルザ・ロキ@北欧神話

【性別】
 男性

【属性】
 混沌・悪

【ステータス】
 筋力C++ 耐久D 敏捷D 魔力A+ 幸運B 宝具EX

【クラススキル】
陣地作成:C++
 陣地の形成力自体は並だが、神さえ騙す幻術で規格外の迷宮を作り上げる。

道具作成:C++
 道具の形成力自体は並だが、神さえ騙す幻術であらゆる武装を創造する。

【保有スキル】
トリックスター:EX
 EXランク。純粋な強弱では測れない、万象を"たぶらかす"愉快犯。
 悪童の王をすら嵌めた奇術師、ウートガルズの王。
 精神干渉の影響を常に受けず、令呪を含めたあらゆる強制力に対し無類の抵抗力を得る。令呪にさえ行動を縛られない。
 またその性質上、王や神を始めとした"支配者"の特性を持つサーヴァントに対しては相性がいい。

巨人外殻:A
 巨人種の肉体を構成する強靭な外殻。
 きわめて特殊な組成を有しており、攻撃的エネルギーを吸収して魔力へと変換する。
 吸収限界を上回る攻撃(一定ランク以上の通常攻撃や宝具攻撃など)については魔力変換できず、そのままダメージを受けることになる。

幻術:A+
 人を惑わす幻術。世界そのものを誑かすことに限りなく特化している。
 後述の宝具と一体化したスキルであり、彼の幻術は気付きを得たところでそれだけで突破することはできない。

怪力:-(A相当)
 一時的に筋力を上昇させる。
 使用することで一時的に筋力を増幅させる。一定時間筋力のランクが一つ上がり、持続時間はランクによる。
 ウートガルザ・ロキは奇術師であり、よって基本的にこのスキルに頼ることはないため自己封印している。

【宝具】
『踊れ躍れ万物万象、虚仮生す巨人の掌で(ウートガルザ・ロキ)』
ランク:EX 種別:対界宝具 レンジ:1~100 最大捕捉:限度なし
 雷神(トール)を踊らせ、悪童王(ロキ)を笑い者にし、デンマークの王を憤死させた最高幻術。
 世界そのものをたぶらかし、物理的干渉力を伴った幻という矛盾を実現させる。
 騙しているのは個人ではなく世界そのものであるため、幻術だと気付いたところで突破口となり得ない。
 神殺しや生命特攻などの本来幻が持ち得るはずのない性質も、世界に対しそう認識させることで限りなく現実に近い事象と化し再現される。
 トールはおろか、同じトリックスター族であるロキをも騙した逸話から、こと北欧神話に由来するサーヴァントは彼から聞くか、他の誰かから伝聞で正体を聞くかしない限り絶対に彼を『ウートガルザ・ロキ』であると判断することができない。
 魔術師フランソワ・プレラーティの宝具に類似するが、あくまで奇術師であるウートガルザ・ロキは直接的な精神干渉を好まず、不得手とする。
擬似的な全能にも等しい権能であるがこれでも制約が存在し、それは大きく分けて二つ。

 ひとつ、『幻術による攻撃で受ける被ダメージは物理耐久ではなく、精神の耐久度で計算される』。
 ウートガルザ・ロキの幻術は知っていたところで騙されるが、幻として受けるのとそれを知らずに受けるのとではダメージの大きさが異なる。
 知らなければ神でも完敗するが、知っていれば精神(こころ)の強さ次第では人間でさえミョルニルの一撃を持ち堪え得る。
 要するにマジックショーをそれが手品と知った上で見るか、知らずに見るかという話。とはいえウートガルザ・ロキは奇術師の王、誑かしの極み。
 その幻術を正面切って看破することは、仮に相手が全能の大神であろうと極めて困難である。

 そしてふたつ、『要石であるマスターが正常であればあるほど、ウートガルザ・ロキの幻術は大幅に弱体化する』。
 マスターとウートガルザ・ロキは同じ現実を共有する。だからこそ、マスターが目の前の現実を信じられない正常な人間であった場合、彼の幻もそれに引きずられて破壊力が減衰してしまう。
 神代が終わり、神秘の薄れた現代を生きる人間は誰もが皆大なり小なり冷めており、そのためサーヴァントとして召喚されたウートガルザ・ロキはこの制約に大きく引っ張られて何もせずとも弱体化する。

 ……だが、今回のマスターは現代屈指の超弩級社会不適合者にしてダメ人間。
 都合のいい幻に耽溺することなら超一流のにーとちゃんは、ウートガルザ・ロキという素敵な大親友を常に全肯定している。
 北欧のろくでなしと現代のろくでなしが起こした奇跡の共鳴。今回の聖杯戦争における彼は、考えられる限り最大のパフォーマンスを発揮可能。
 魔力面でも普通のマスターであれば彼の要求量に耐えられず枯れ果てている。

【設定・備考】
 北欧神話に登場する巨人の王。ヨトゥンヘイムはウートガルズの城に棲まう、北欧最悪の幻術使い。
 生まれたその瞬間から天才だった彼は、もしルーンを真っ当に極めたならばアースガルドの神族達の中でさえ群を抜くだろう才能を有していた。
 しかしウートガルザ・ロキは天才であると同時に、生まれながらの性悪でもあった。
 人を騙すこと、誑かすこと、そして騙されている相手の間抜け面を見る快感に取り憑かれ、すべての才能をかなぐり捨てて幻術の研鑽に邁進。
 最終的にウートガルズの王となったウートガルザ・ロキはトールを騙し、ロキを笑い者にし、完膚なきまでにおちょくって悠々彼らの前から立ち去り勝ち逃げを果たした。

 種族としては巨人であるが、『必死こいてる感出すぎ。性に合わない』という理由で基本は人間大のサイズを取る。
 とはいえ所詮ただのこだわりでしかないので、その気になれば巨人としての姿になることも可能。封印している怪力もいつでも解放できる。
 だが、巨人の力を開帳することは彼にとって敗北宣言に等しい。
 ウートガルザ・ロキはあくまで奇術師。術をかなぐり捨てて殴りかかるなど無粋も無粋。彼が王として持つ、唯一のプライドである。

【外見・性格】
 金髪に黒いスーツを着た、ホスト風の優男。傍目には現代人にしか見えない。
 性格は悪童の名に恥じぬろくでなし。挑発的で軽薄、そして自分勝手。
 にーとちゃんにはとっても優しい。

【身長・体重】
 175cm・65kg

【聖杯への願い】
 面白ければ何でもよし。使い道は考え中。
 イェーイにーとちゃん最高~~! プリン食べる? \食べる~!/

【マスターへの態度】
 相性最高、生前から今まで見たことのない超弩級社会不適合者。
 どうせ夢のないヤツに使役されるんだろうなぁ、と内心萎えてたロキくん(嘘は言ってない)もこれには満面の笑み。
 聖杯戦争のモチベーションも爆上がりしている。運命の人っているんだなあ。


マスター
【名前】天枷仁杜/Amakase Niito
【性別】女性
【年齢】24
【属性】中立・中庸
【外見・性格】
 黒髪ロング。童顔で低身長なので、高校生はおろか中学生に間違われることもしばしばある。
 だぼだぼのパーカーを常に着用しており、下はよれよれのデニムパンツ。もらいもの。
 コミュ障ダメ人間。兎にも角にも要領が悪い、意志が弱い。自分を甘やかす天才。
 誰も彼もどうでもいいくせに自分に優しい人にはとことん依存するタイプ。逆に言えばそこ以外、天枷仁杜は自分の形で完成されている。
【身長・体重】
 148cm/48kg
【魔術回路・特性】
 質:D 量:A++
 編成は異常。実際の魔術はほぼ使えない。
 偶然が見出した、究極の原石。
【魔術・異能】
 あるとすれば軽い肉体強化くらい。
 二日酔い対策に重宝しているらしい。
【備考・設定】
 時に親しみ、時に嘲笑を込めて〈にーとちゃん〉と呼ばれる。
 たまたま勉強ができたので大学まではとんとん拍子で入り、それなりに周りに目をかけられていたので卒業もなんとかできた。
 しかし社会に出てから学力ではごまかせない要領の悪さと元の人間性で盛大にすっ転ぶ。
 新卒で入った会社を三日でぶっちし、気まずくて実家からの電話も取れず、あまり人と関わらなくていいバイトで生計を立てていた。
 このままじゃいけない! 三十超えたらどうしよう!と思って一念発起、学歴パワーで就職を果たすがやっぱり無理なものは無理だった。
 入社一月で目の上のたんこぶになり、会社燃えろ~会社燃えろ~と祈ってたら本当に会社が燃えた――というのがここまでの経緯。
 〈古びた懐中時計〉についてはその辺のゴミ捨て場で拾った。メルカリで売ろ~!って思ってたらしい。
 好きなものはストロングでゼロなあいつとお寿司。YouTubeの実況者グループ。ゲーム。嫌いなものは会社と税金。
 ……マスターとしての才能は最高級。ウートガルザのろくでなしを使役して顔色ひとつ変えない程度には才能がある。
【聖杯への願い】
 一生涯不労所得! 5000兆円欲しい!!
【サーヴァントへの態度】
 ロキくん~~~~~~!!!!!!!(最大級の親愛)
 会社燃やしてくれたしなんか夢も叶えてくれそうだし超ハッピー! スパダリとはまさにこのことかな!?
 やるぞ! 聖杯戦争!!

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最終更新:2024年07月26日 03:47