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 【天望の丘 # 2】


「はい、追放(キック)かんりょー。
 はーあ、残念。希彦さんのこと、結構好きだったのになぁ。
 イケメン無罪でとりあえず死刑はナシとして、でもスパブロはマストだよねぇ」

 開いた口が塞がらない、とはまさにこのことだろう。
 アンジェリカは、改めて目の前の女が如何に理屈の外側を生きているのかを垣間見た。

 香篤井希彦。
 サーヴァント共々、極めて油断のならない強敵だった筈だ。
 月を砕かねば都市の総てが滅ぶという状況で、迷いなく月側への肩入れを決めた陰陽師の主従。
 それを仁杜は、一時の不興で自分の世界から放り出してしまったというのか。
 粛清するにしてももう少し泳がせ、暴れさせていれば、より確実に自分達の邪魔立てが出来ただろうに――いや、そんなことよりも。

(待って。冗談でしょ?)

 当然のように行われた芸当に戦慄が止まらない。
 今まで考えもしなかった、考えないようにしていた事態。
 認識が甘かったのではなく、認識した上で、無いものと扱うしかなかった想像が顕在化した。

 ――天枷仁杜は、月の内界から自由に他人を追放できる。

 これ以上の最悪は存在すまい。
 そもそもイリスを"鍵"にしなければ、門扉を開かせることすら困難だった難攻不落の自閉城。
 女神の甘さに付け込んでやっとの思いで突入したというのに、それすらこの女は気分次第で無に帰せるのだ。

(そんなの、一体、どうすれば――)

 女神は、戦って勝つことに微塵も執着していない。
 これに誇りはなく、機嫌が悪くなったら追い出してそっぽを向くだけ。
 背を向け、目を閉じて、一切合切を遮断(ブロック)する。
 そうされてしまったならもう、砕月の夢は徒花のまま枯れ落ちて終いだ。
 目を見開いて絶望に震えるアンジェリカに、不心得者の追放を終えた仁杜はにへらと笑った。

「おまたせ。それでね、アンジェちゃんもやっぱりもう要らないかな」

 身体が動かない。
 見えざる手が、自分を握っているのが分かる。

「だけどちょっと気になるかも。だってね、神さまにあんな偉そうな口利けるってすごいよ」

 希彦は許されて、アンジェリカは許されない。
 意味不明、どう考えたって普通は逆。
 されどこの女神に一貫性を求めるなど愚の骨頂。
 顔がいいから。ムカつくから。それだけですべての人命は彼女の玩具に変わる。

 とはいえ露悪(グロ)の趣味がなかったのは幸いか。
 仁杜による処刑は、精々頭から押し潰してぺしゃんこで済むだろう。
 恐らく痛みもろくになく、一瞬で終わる。
 月に嫌われた小虫の末路としては、信じられないほど温情溢るるものだ。
 アンジェリカがどう足掻こうと、天若日子と引き離された彼女では何ひとつ出来やしない。
 確定する生死。しかし裁判長と処刑人を兼任するお姫さまは、散りゆく命の中身に興味を示していた。

「というわけで消しちゃう前に、少し覗かせてもらうね?」

 女神の指が、アンジェリカの額を貫く。
 痛みはない。出血もない。
 常識を超越した全能者の指が穿孔する。

 かつて、煌星満天の蓋越しの過去をも余さず覗いたように。
 天枷仁杜は幼気のままどこまでも無配慮に、少女のすべてを笑覧せんとして――


 ばちり。


「――――、ほぇ?」


 そんな、真冬の静電気のような音が響いた。



◇◇


 【静寂の山麓 # 3】


 真備が禹歩を踏む。
 空間を満たす、陰陽の術理法則。
 形を為した紫電が、炎熱が、氷冷が烈風が重力が、他の属性を邪魔しないまま己の形を保って殺到する。

 真備は凡そ万能と言っていい術師だ。
 故にその気になればこうして、攻性特化の布陣を形成することも当然出来る。
 即興で陣地を形成し、意のままに理を愚弄する理詰めの戦闘法。
 祓葉やスカディのような暴の究極が相手でないのなら、それが最適解であるなら、大人げも糞もない圧殺策を取ることに躊躇はない。

「ぅ、お、ぁ……!?」
「しゃ、喋っちゃだめ。舌を噛んじゃいますよ。死なない体でも痛いものは痛いんでしょう?」

 だが――
 ハリー・フーディーニは、不意の通り雨にでも降られたようにぱたぱたと、緊張感なくその渦中に身を投げた。

 すり抜ける。
 悉くをすり抜ける。
 稲妻も、火炎も、冷気も風も、重力でさえ彼女の身体を捉えられない。
 まるで実体のない透明人間だ。虚空に投射された立体映像(ホログラム)が闊歩するように、真備の術が無視されていく。

「塩気が利いとるのぉ。ならこいつはどうじゃ、えぇ――!?」

 ならばと、今度は搦め手。
 祓葉戦でも用いた、吉凶算定・六合禁圧。
 移動の自由を封じ込める縛法が、ハリーの移動経路をかき乱す。

 その上で引き続き、間断のない制圧射撃をけしかけていく。
 使える方位を絞られているのだから、必然相手は触覚を切られた虫のようにおろおろと逃げ惑うしかない。 
 実際、予測は当たっていた。ハリーの足が止まり、真備の方へ向かえなくなっている。
 形ある脅威なら避けることは可能でも、形なき、概念的な束縛ならば当然通じる。
 やはり狡猾、吉備真備。悠灯を抱えたまま陰陽師の掌に握り込まれた奇術師へ、一発の雷矢が迫って――

「――っ」

 直撃した。
 最高の結果だろうに、息を呑んだのはあろうことか真備。

「なんじゃお前――本当に芸人か」
「驚くことではないだろう。私(ぼく)の足で進めないのなら、貴方にエスコートして貰えばいい」

 彼は瞬時に理解したのだ。
 今、ハリー・フーディーニはわざと攻撃に当たったのだと。
 吹き飛ばされていく身体は、後続の射撃にも重ねて被弾。
 滑稽なダンスを踊りながら、あちらへこちらへと吹き飛ばされる奇術師の五体。

 しかしその身体から、一滴の血も流れていない。
 火傷も凍傷も、重力球へ触れたことによる挫滅も皆無。
 抱いた悠灯共々無傷のまま、ピンボールのように複雑怪奇な軌道を描いて、ハリーは封じられた筈の凶方へと移動していた。

 敵の攻撃を利用し、方位禁圧の縛法を破る超絶の曲芸。
 祓葉のように不死でもないのに、彼/彼女は被弾を恐れない。
 かと言って、別に特別な芸当を用いているわけでもなかった。

「わ、ワン。お前、なんで大丈夫なんだよ……?」
「えっとね、受け身を取ってるんです。触れた瞬間に身体を反らせば衝撃は殺せますし、熱とか電気とかからもある程度逃げられるんですよ」

 〈脱出王〉の系譜が標準装備している技能に、卓越した体捌きがある。
 弾丸を避ける。飽和攻撃を掻い潜る。但し初代の技は、第二以降のハリー達より三段は上を行く。
 これは熱や電気、そうした無形の危害からさえ逃れる術を体得していた。
 だから可能になる。敵の攻撃をあえて受け出口に近付くという無茶苦茶へ、理屈の筋道を通すことが出来る。

 姿形だけを見れば、千鳥足。
 なのに足取りは正確無比の最短経路。
 考えられる限り最速のスピードで、脱出の王が真備の檻を攻略している。

「やれやれ。自信を失くしそうじゃわい」

 ならばと紙兵八陣、自立駆動する八体の式神を呼び出した。
 しかし真備の口調は、投げやりさを隠そうともしていない。
 分かるからだ。こんなもの、この怪人には通じないと。

 実際、事はまたも予測通りに推移していった。
 紙兵の剣が、刺突が、全部空を切る。
 必要なものだけは喰らい、その上で無傷を保ち、また前へ。
 ツールを用いたゲーム攻略のような最適解の連打に、真備は自分の認識が正しかったことを識る。

 ――この男(おんな)は、陰陽師の天敵だ。

 二つの心と、二つの陰陽。
 繰り出すすべての秘術を息吸うように解析し、すり抜け、利用してのける本物の怪物。
 手が読めない。思考が読めない。ハリー・フーディーニという名前以外、何一つ理解をさせてくれない。

「おう、認めてやる。確かに大言壮語ではなかったようじゃな」

 しかし、まだ最後の防衛線は残っていた。
 それは真備自身。
 スカディを尻に敷いた格好のままで、彼は物見遊山を捨て去って、五体に清冽な魔力を横溢させる。

「気に入ったぞ、儂はお前を知り尽くしたい。
 まどろっこしいのはもうやめじゃ。直接触れ、読み解いてやろう」

 異聞の脱出王・山越風夏がその生前、二度に渡り露呈した弱点。
 彼らは確かに逃げの天才だが、超人的な肉体性能との正面戦闘は苦手としている。
 だから風夏は夜のノクト・サムスタンプに不覚を取ったし、神寂縁に対してはほぼ為す術なく蹂躙されるしかなかった。

 真備はこの僅かな時間で、早くもそんな攻略法に辿り着いたらしい。
 彼は"万能の人"。術だけでなく交渉、戦術……専科百般を地で行くオールラウンダー。
 ならば当然、逃げも隠れもせず、正面から叩き潰すやり方も心得ていた。
 もし数値化したのなら、真備の戦力はかの鬼人傭兵をさえ大きく上回っていただろう。

「男らしく語り合おうや、なァ――!」
「断る。戦闘(そちら)は私(ぼく)の領分ではない」

 されど。
 相手は王の中の王、脱出輪廻系譜の頂点に君臨する第一生。

「それに、既に脱出は完了している。
 荒事が望みであるのなら、沙汰は適任者に任せよう」

 真備が剥き出した闘志を、何の感慨もなく受け流した。

「ッ、ら、あぁあぁあッ!!」
「ぬ――」

 初代の腕の中から、飛び出したのは華村悠灯。
 彼/彼女の肩を踏み台に、真備の頭上を超えて背後に回らんとする。
 人狼の身体能力が可能にした大立ち回りは、しかし誰の目にも明らかな自殺行為だ。

「――血迷ったか!」
「まさか。彼女は第二生(ツー)が認めた共演者だぞ」

 真備もそう看做す。
 ただその想像を、無力"だった"少女は許さない。
 何故なら彼女は、腐っていくだけの自分へ温もりをくれた、相棒の肖像を今も心に抱いているから。

「ぼ、僕(わたし)達は、お世辞は言えないんですぅ……。
 なので、えへ、えへへ。老婆心ながら忠告しますけど、備えといた方がいいのではないでしょうか……」

 空に駆けた悠灯を、真備の展開していた術式が撃ち抜く。
 右腕が千切れ、胴体からも明らかに致死量だろう鮮血が噴き出した。
 誰の目にも明らかな、何の意外性もない結末。
 が――

「舐め、ンなァァッ!」

 悠灯の体内で時を刻むオルフィレウスの歯車が、最終型永久機関が、少女の亡びを破却する。

 強制的な生命続行。
 科学理論が齎す不死現象。
 これによって、予定調和の結末は蹴り飛ばされた。

 千切れた右手を残る左手で握り締め、真下に向けて投擲する。
 サーヴァントに物理攻撃は通じない。
 今更語るまでもない道理だが、それに胡座を掻けるほど、現在の真備に余裕はなかった。

「――すっごく怒ってますよ、そのひと」

 真備が"彼女"を尻で敷いている理由は、侮辱でも諧謔でもない。
 そうでもしていなければ抑え込めないからという、実に切迫した理由の産物だ。
 余裕綽々を装ってはいたが、吉備真備はずっと薄氷の上にいた。
 言うなれば表面張力で維持された水面。ほんの僅かでもきっかけがあれば崩れてしまう、非常に不安定な均衡(バランス)。

 真備の肩に、悠灯の投げた腕がぶつかった。
 起こったことはそれだけ。何の痛痒もない、悪あがき以下の干渉。
 しかしそのミクロン以下の影響が――決壊を引き起こす。

「よう。言ったよな、次は覚悟しておけって」

 声が聞こえた瞬間。
 吉備真備は、真下から炸裂した衝撃に吹き飛ばされた。

「ご……ッ、が、ははァ……!!」

 喀血しながら零れる呵々の声。
 一撃で内臓が二、三は潰れた。
 しかしこれで済んだだけでも御の字とすべきだろう。

 悠灯の行動によって、真備の拘束術が揺らいだ。
 そよ風に煽られた程度のズレだが、その好機を怒れる狩人は逃さない。
 不敬な術師の狼藉を、鉄拳制裁で以ってぶち抜いた。
 真備が全身へ施していた霊的防護さえ粉砕し、遂に陰陽師の君臨に終止符を打つ。

「こんなにナメられたのは久しぶりだよ。気分も体調も頗る悪い。多少残虐な締め方になっちまうが、まさか文句は言うまいね?」

 即ち――女神スカディ、檻の中から脱出す。
 この舞台はハリー・フーディーニが、怒り狂う猛獣を解き放つ演目だったのだ。
 難易度は極限。されど初代の彼/彼女にしてみれば欠伸も漏れるイージーモード。

 狂笑を湛えて立ち上がったスカディは得物のスキー板を構えて、宙を舞う真備を追った。
 完全に逆転した攻守と優劣。
 真備もこれは堪らんと、ありったけの攻撃術式を展開して射出するが……

「……まあ、そりゃ無理か。見誤ったのぉ、酷い貧乏籤を引かされちまった――」

 全身を毒に冒された手負いの身でありながら、だからどうしたと北欧の女神は暴を揮う。
 老陰陽師が放った怨敵撃滅の流星雨を、スカディの一閃が鎧袖一触に消し飛ばした。

 その偉業を誇るでもなく、今度は大上段に振りかぶり。
 そこからの、全力全霊の振り下ろしが炸裂する。
 真備の展開した障壁は、一度はそれを破格の強度で受け止めたものの。
 拮抗は一瞬――すぐに蜘蛛の巣を思わす罅が走り、次の瞬間には音を立てて砕け散り、そして。

「しゃら臭ェんだよ、小僧がァ――!」

 壁の残滓ごと、真備を地に叩き落とす。
 断末魔の声すらかき消す轟音が、彼が何を怒らせてしまったのか克明に物語っていた。

 大の字で手足を投げ出して、血溜まりを広げながら天を仰ぐ老陰陽師。
 癒しの術の心得はあるが、それが許される状況でないことは明々白々。
 詰みだ。月世界をかき乱した賢人は天敵に出遭い、翻弄され、自分が怒らせた荒神によって地を嘗める因果応報の結末を迎えた。

「……く、ははは。見事。見事じゃ、こうも気持ちよくブチのめされると恨み言すら出て来んわ」

 なのに真備は苦悶の相など浮かべず、爽やかさすら感じられる微笑を溢して。

「希彦に感謝せにゃならんのォ。アレがやらかしたのが原因とはいえ、貴重な体験が出来たわい。それに、面倒な野郎が居ることも知れたしの」

 そんな独り言を呟きながら――主に遅れて、その存在を薄らがせ始めた。

「手荒に扱って悪かったな、正真(まこと)の女神様よ。
 まあ二発ほど殴らせてやったんじゃ、これで手打ちということにしといてくれや」
「何だい、相変わらず肝心なところで拍子抜けさせる男だねェ。男らしく最後まで抗おうって気はないのかい?」
「こちとらそういう青いノリは卒業しとんのよ。あんたが同じ手を二度食ってくれるってんなら別じゃがな」

 香篤井希彦は、月女神の怒りを買って堕落の夢界を退去させられた。
 であれば真備も同時に弾き出されるのが道理。
 なのにそうならず、此処まで夢界にのさばれていた理由は――戦いの傍ら、どうにかして存在を維持せんと足掻いていたからに他ならない。

 とはいえ所詮は悪足掻き。
 もし何もなくとも、稼げた時間は十分にも満たなかっただろう。
 完成した恒星を相手にそれだけの延命が可能な時点で驚嘆に値するが、それ以上に不可解な点がひとつ。

 希彦が消えた段階で、もう月内界での暗躍は約束された負け戦。
 如何に真備が神域の大術師だとしても、十分足らずで出来ることなど何もない。
 なら足掻くだけ無駄だし、現に彼は希彦なき地平にしがみついた結果、満身創痍に追い込まれてしまった。
 この男らしくもない不合理だ。端的に言って酩酊を疑うような大悪手を、此処まで真備は連発している。

「なら、もう一つだ」

 ――では、何のために?
 吉備真備が手を誤るなど有り得ない。
 彼はいつだとて、彼だけの未来図を視ている。

「アンタ、本当はどんな悪だくみしてんだい」
「決まっとるじゃろ。勝利、それだけよ」
「そいつは、アギリに煽り倒されてたあの坊っちゃんの、かい?」
「さぁな。敵方にそこまで明かしてやる義理はないのォ」

 吉備真備は香篤井希彦の従者である。
 実際の関係性はどうあれ、真備もその形式を崩す素振りは今のところ見せていない。
 だが以前天若日子も同じ質問を投げたように、彼は明らかに希彦とは違う目的のため行動している素振りがあった。

 月との戦いも、狂人達の妄執も。
 或いは恒星を巡る物語さえも、何かの前座のように捉えているような。
 自分を嵌めた辣腕よりも、スカディは彼の其処を恐ろしいと感じていた。

「とはいえ、この負けは儂としてもなかなか手痛かった。それに免じて、ヒントくらいはくれてやろうか――」

 真備が、月より放逐されていく。
 サーヴァントの消滅に似た、金色の粒子に包まれながら。

「――オルフィレウスを侮るな。あの餓鬼は、お前らが思っとるより悪どいぞ」
「ありがとよ。じゃあ用済みだ」

 放たれた意味深な、金言と呼ぶには漠然すぎる一言。
 聞き終えるなり、スカディが消えゆく老人へイチイの矢を射った。
 今の真備にこれを防ぐ術はない。只でさえ満身創痍のところに直撃すれば、今度こそ霊基が弾け飛ぶだろう。

 必滅の狩矢が奔り、真備の胸に叩き込まれる。
 ……いや、一瞬遅かった。
 血が飛沫くことはなく、まるで最初から此処に存在しなかったかのように、陰陽師の気配が消失する。
 スカディの口から鳴った舌打ちの音が、報いを与え損ねたことを物語っていた。

「どうにも虫の好かない爺様だ。まんまと時間を稼がれちまったね」

 とはいえ紙一重。
 彼女の言う通り、最後に交わした問答の時間がなければ結末は違っていただろう。
 真備がこれを読んでやっていたかは定かでないが、そうだとしても誰も疑問には思うまい。
 結果こそ主従揃っての敗走だが、この男なら何をしても可怪しくないと思わせる、そういう凄味が彼にはあった。

「ま、それはさておき礼を言わなくちゃな。
 ありがとよ、おかげでアタシもスッキリ出来た。まさかあの手品っ子に助けられるとはねぇ」
「あ、あの……ちょっと違います。僕(わたし)はもう風夏ちゃんの手を離れているので……感謝するなら、悠灯ちゃんにした方がいいかなぁって」
「ん? 何だ、そうなのかい? ははは、そいつは面白いじゃないか。憎まれっ子世に憚るも限度があるってことかね」

 ともあれ、ひとまずは一件落着と言っていいだろう。
 スカディを救出しつつ厄介な吉備真備を打ち負かせたのだ、紛うことなき大金星である。

「この戦争が終わったら、猫かジジイに会わせてくれよ。連中には借りがあってね」
「あうぅ……え、えとえと、当社そういうサービスはやってないっていうか……」
「あぁ? ハッキリしない奴だねぇ。会わせるのかい? 会わせないのかい? 英霊ならしゃんとしなよ、みっともない」
「ひぃん……! ゆ、悠灯ちゃんっ、助けてくださいぃ……!!」

 いかつめの巨女に詰め寄られ、ひんひん泣きながら助け舟を求める初代ハリー。
 しかし肩やら頭やら掴もうと伸びてくる手はしっかり回避しており、こんなでもちゃんと〈脱出王〉なことが窺える。
 女性人格のハリーと、男性人格のフーディーニを共存させた陰陽共存の大手品師。
 その実力は身を以て理解したが、それにしたってこのびーびーうるさい性格はどうにかならないものなのか。
 再生中の右手をぐー、ぱー、と試運転しながら、悠灯はもう一度深い溜め息を吐き出した。

「あー、その辺にしといてやってくれ。ナインには後で会わせてやるから」

 のん気に漫才などしている場合ではない。
 やることは山積みどころか現在進行形で五里霧中。
 薊美や満天達がどうなっているかも不明な状況だ。一刻も早く誰かしらと合流し、正確な現状を理解する必要がある。

「アーチャー……、……アンジェさんちのじゃない方のアーチャー。早速で悪いんだが、ちょっと訊かせてくれ」
「スカディで構わないよ。何せもうバレバレだからねぇ、あー恥ずかしい」
「……じゃあスカディ。アンタ、今何処に誰が居るか、大まかでいいから分かったりするか?」

 悠灯は、スカディという女神のことをまったく知らない。
 よって彼女を頼ったのは完全にたまたまだったのだが、偶然にもこれが最善手だった。

「大体なら見当は付けられるよ。流石に地上の時ほど正確とは行かないが、魔力持ちの気配ってのは分かりやすいからな」
「本当か? だったら案内を頼む。クソ王子は放っといてもどうにかするだろうし、できればマンテンかアンジェさんがいい」
「あいよ、やってやろう。お嬢ちゃん達には恩があるからね。このけったいな世界にいる間くらいは、無条件に力を貸したげるさ」

 狩猟の女神であるスカディは、その方面に特化した千里眼スキルを持つ。
 月海の中では大分機能が損なわれているものの、それでも得難い役目を果たす筈だ。

 伊原薊美は自分の助けなど必要としないだろうし、となると問題は満天とアンジェリカ。
 特に前者は悠灯自身危うい兆候を目撃しており、不安定な状況に置くのは憚られた。
 よって当座の目的地は決まる。やや私情が混ざっていないでもなかったが、悠灯(じぶん)の大局観などこんなものだと開き直った。

(――あの、悠灯ちゃん。ありがとう)
(うわびっくりした。いきなり頭の中に話しかけんなよ、耳慣れない声だからびっくりしたわ)
(ひぃぅっ。ご、ごめんなさい……。僕(わたし)、昔っから対人コミュニケーションはからっきしで……。うぅ、できればずっとフーディーニが出ててほしいんだけどなぁ……)

 さあ、そうと決まれば善は急げ。
 早速出発だと意気込みかけたところで、初代の片割れがおどおど口調の念話を送ってくる。

(知らないけどよ、お前ももうちょっと自分に自信持ったらいいんじゃねえのか。
 あんな凄ぇ戦いが出来んだから、ドンと胸張ったって誰も文句言わねえだろ)
(そ、そんな恐れ多い……。僕(わたし)なんてホント、そんな大したものじゃないですから……。
 凄いのはフーディーニの方で、僕(わたし)はただの安全弁なんですよ。
 あの人ったらお姉ちゃんの気も知らないで、隙あらばいろんなものから脱出したがるんです。今だって悠灯ちゃんとの契約からどう逃げたものか考えてますし――)
(おいおい待て待て待て。さらっととんでもないこと言ったなお前?)

 自虐のついでに行われた爆弾発言で、悠灯はツーが何故あれほど釘を刺してきたのかを知る。
 初代ハリー・フーディーニは、後の〈脱出王〉達より格段に手の付けられない脱出衝動を飼っている。
 そこには敵味方の垣根さえなく、主従契約という大前提みたいなモノすら、抜け出しの対象と捉えてしまうのだ。

 初代の棺は切り札であり、使い方を誤れば共演者でも死に追いやる諸刃の剣。
 今回は状況が状況だから仕方なかったが、可能ならみだりに切るべきでないカードらしい。
 思わずゾッとしてしまう悠灯。事が済んだらやはりツーのことは二、三発ぶん殴ろうと決めた。

(で、でもでもっ。僕(わたし)が目を光らせてますから!
 僕(わたし)ってこんなだけど、だからこそ自分を褒めてくれる人のことは好きなんです。
 悠灯ちゃんと仲良しな僕(わたし)でいられるように頑張るので、えへ、だから何卒末永くごひいきに……)
(……信用ならねぇ~~~……)
(ひどいっ!?)

 やはり前途は変わらず多難である。そのことだけは分かった。
 なんとも頼りない泣き虫女だが、初代の危険性を教えてくれたのはありがたい。
 とりあえず戦況が落ち着くまでは、適度に距離を取りつつ付き合っていくのが賢明だろうと自分を納得させる。

(ま、相方に伝えといてくれよ。
 脱出芸に飢えてるんなら、早くこのクソッタレな聖杯戦争(まち)からアタシ達を逃がしてみせろや、ってな)

 うじうじしていても始まらない。今は少しでも前に進まなければ。
 諸々の懸念を振り切った悠灯が、皮肉を込めて投げた言葉。


(うーん……。逃がしたところで、もうどうにも……)


 これに返された煮え切らない言葉の意味を、狼の少女はまだ知らない。


◇◇


 【月光夢幻神界・渋谷 #1】


「は、ぁ……ッ、く、そ……!」

 しくじった。
 最高の計画を、つまらない失策で台無しにしてしまった。

 香篤井希彦はかつてない敗北感を胸に、月城の外、渋谷の路地裏で崩折れていた。
 気分は勿論最悪だが、そうでなくとも身体がズタボロで立ち上がることすらままならない。
 白黒の魔女の逆鱗に触れ、あらん限りの暴力に曝された彼の身体は、数刻前に処置した雪村鉄志の容態より酷い有様だ。

 何せ、魔力が載った鉄拳で数十秒の間殴られ続けたのである。
 頭部を損傷しなかったのだけは幸運だったものの、逆に言えばそれだけ。
 意識を保つのもそろそろ限界だろう。視界は眩み、吐くものもないのに胃が裏返るような悪感が襲ってくる。

 名刀・トバルカイン喪失。
 月の戦局に関与する資格も、同じく喪失。
 希彦も先に追放されたホムンクルスと同様、月に孔がある可能性には思い当たっていたが、この容態では再度の入城など自殺行為だ。
 高い授業料を払わされた。アスファルトへ叩き付けた拳は血塗れで、彼の口惜しさを暗喩している。

「よもや、あれほどとは思いませんでした……。ええ、認めましょう。やはり〈はじまり〉の先輩方は、伊達ではないと……ッ」

 完膚なきまでの敗北。
 思い出すだけでも異形化した自我が粟立つ。
 狂おしいほど腹立たしくて、今にも蟀谷の血管が切れそうだ。

「だが、次です……次こそは、僕が――必ず、総てを思うままに――」

 それでも希彦は腐らない。折れない。目覚めた狂気(こころ)は、立ち止まるということを知らない。

 確かに手痛い黒星だったが、得たものはあった。
 死力を尽くして敗れるという、かつてない挫折の味。
 そして月から持ち帰ることに成功した、ウートガルザ・ロキの心臓の欠片。
 天枷仁杜が存命の内は使えば何が起こるか分かったものではないが、その死後でなら今度こそ炉心としての運用も可能だろう。

 よって彼は誓う。
 自分はまだ、こんなところでは終わらないと。
 次の戦局でこそは、必ずや己の貪欲を心ゆくまで魅せてやるのだと。
 世界に、極星に向けて断じながら、事切れるように意識を手放した。
 その目の前に立ち、苦笑で以って見下ろすのは――希彦同様、相当な重傷を負わされた陰陽師の老人。

「ま、いい経験になったじゃろ。お前にとっても、儂にとってもな」

 吉備真備の敗北は、希彦が招いたものだ。
 もしイリスが彼に敗れていたならば、月内界の戦端はより複雑な混沌へ怪奇していったことだろう。
 しかしそうはならなかった。ひとえに、最新の狂人の未熟さ故に。

 だがそんな失態を、真備は笑いこそすれど嗤わない。
 彼は知っているからだ。人が育つ上で、悔しさ以上の栄養は無いことを。
 希彦は強くなるだろう。身も心も、狂気も実力も、この敗走を糧に一層肥え太らせる筈。
 そして己は、その隣で狂星の隣人を演じ続ける――聖杯に与えられた、従者(サーヴァント)という役割に則って。

「若い者は土に塗れて転がって、泣いて怒って立派になるもんよ。
 お前も、砕月の小娘共も、みぃんな同じじゃ。
 儂ら老いぼれがいつまでもふんぞり返ってたんじゃ意味がねえ。
 負けで終わった物語を、成長しないまま繰り返して何になるって話よの」

 されど。
 やはりこの男が見据える勝利のビジョンは、余人が、狂人が、星々が描くよりも更に先だ。
 恐らく現在、吉備真備以上に未来を見ている役者は居ない。
 もし例外があるとすればそれは、物語を綴った存在。
 綺羅びやかなバッドエンドで終幕した台本へ無粋にも続きを書き足して、今も来たる大団円の筋書きを編み続ける、天井桟敷の黒幕を除いて他にない。

「必ず勝つと決めたなら、完璧にやらなきゃお笑い草よ。精々驕っとけや、オルフィレウス。こちとら手前の吠え面だけが楽しみなんじゃからな――」

 気絶した希彦を背負って、自身も重体であるにも関わらず、口笛を吹きながら去っていく老陰陽師。
 善でもなく、悪でもなく。
 その彼岸を歩みながら、誰にも真意を気取らせない。今日も今日とて、真備は世界を満喫していた。


◇◇


 【無限の草原 # 3】


 降る。降る。降る。降る。
 神が降る。神の夢が降る。
 命を奪う、愛の礫が降り注ぐ。

「く――ぁ、ああぁあああッ――!!」

 もう随分前から、まともな思考というものをしていない。
 というかその余裕がない、多少強くなったと言っても私なんかこんなものだ。
 今を生き延びるだけで精一杯。降りかかる火の粉を払うために脳の全リソースを使って、ほとんど直感と本能頼みでどうにかこうにか命を繋ぐ。

 ウートガルザ・ロキと彼の乗騎、ガグンラーズとかいう馬鹿みたいな巨大ロボットは未だ健在。
 相変わらずこっちの攻撃はアーチャーのを含めても一発たりとてまともに通らないし、戦況を一言で形容するなら"蹂躙"だろう。
 それでも負けじと心を保ち、怖がりながら怖がらない、その矛盾を罷り通らせて爆弾を放つ。
 お兄ちゃんが授け、私が共有した"夢との向き合い方"は、確実に私達の生存時間を延長していた。

「焼■尽■せ焦■界――ムス■ル■イム・レー■ャ■ン」

 ロキの魔法が、今度は炎の地獄を編み上げる。
 砂漠の砂嵐をすべて火に置換したような、生物の跋扈を許さない灼熱の暴風域が出現する。
 さっきは氷の世界だった。それを必死の思いで耐え抜いた矢先の大火力に、投げ出したくならないと言えば嘘になるけど。

「邪、魔、だぁ――――ッ!」

 私は生きたい。
 生きて、輝きたい!
 あの子の許まで、羽ばたきたい!

 胸に描く憧憬が、交わした誓いが、夢を恐れない不朽の意志力を爆発させる。
 間違いなく最高の出力で弾けた爆発に、名前を付ける余裕もやはりないけれど。

「キャスター! 大丈夫……!?」
「ええ、何とか。それより煌星さん、進捗は」
「……まだ。でも、必ずなんとかするから、もう少しだけ頑張って……!」

 邪魔だ、と吠えた気持ちに偽りはない。
 こんな贋物の炎なんかに足止めされている暇はないのだ。
 私にはやらなきゃいけないことがある。託された使命が、引き受けてしまった仕事がある。

 ――ウートガルザ・ロキの病巣を見抜く。

 私みたいな人間は意外と、たとえ無理難題でも、やるべきことを明確に示された方が頑張れるもので。
 文字通り死ぬ気で夢の釣瓶撃ちに食い下がりながら、目を皿にして違和感を探し続けていた。

 どんな些細なものでも構わない。
 私の知るロキと、今のロキの、その違いを見つけ出せれば状況は変わる。
 人使い荒いしデフォで無配慮だし、事あるごとにいい性格してんなこいつ……と思わされるけど、キャスターの頭脳は天下一品だ。
 その彼が言うなら、絶対に意味はあるんだ。飛んでくる夢を疑い、今そこにいる現実の彼を信じる。誰がなんと言おうと、私はそう決めた。

(……、でも。正直、ちっともわからない)

 だからって、意気込みだけですんなり成果を出せるほど現実は甘くない。
 士気を下げてもいけないから口にするのは堪えたけど、進捗なんて惨憺たるものだ。

(――強い。怖い。死ぬほどムカつく煽りカスの癖に顔だけはむちゃくちゃ良くって、にーとさんへの愛情だけは本物で)

 目に見えるすべて。
 耳で聴くすべて。
 身体で味わうすべてが、同じにしか思えない。

「この■市のす■てが彼女の■る夢だ。
 ■■俺は、■れを■久に守る■であ■たい」

 譫言のように零れる愛の言葉も、聞いてて嫉妬しそうになるほど情熱的。
 こんなに想われてるにーとさんは果報者だなぁと、そう感じずにいられないくらい。
 これが彼女の記憶を参考に再現された残響なら、あの人はどれだけ深く愛されていたんだろう。

「にーとちゃん――――」

 だから、思ってしまう。
 ぜんぜん好きな相手なんかじゃないのに。
 そもそも嫌なことをされた記憶しかないのに。
 彼が愛にだけは真摯な男だったと分かってしまうから、ついつい要らない感傷を抱かされる。

「ど■だい――――■っこいい■ろ!」
「やめて……」

 やめてよ。
 こんなの見たくない。
 こんなの、間違ってる。
 敵なら気持ちよく倒されてよ。
 なんでこっちが、こんな――

「あなたの大事な人を、自分で汚してどうするの……っ」

 ――やるせない気持ちにならなきゃいけないの。

 私は、知った口を叩けるほどにーとさんと付き合いが長いわけじゃない。
 だとしても分かる。あの人はやっぱり、どこかで壊れてしまったんだ。
 幸せな時間が終わってしまったことを、どうしても受け入れたくなくて。
 だから目を閉じ、耳を塞いで、思い出だけを信じてる。

 でも傍から見ればそれは、自分で自分の宝物を汚してしまうような痛ましい光景。
 私なんかにあれこれ言われたら、きっとにーとさんもロキも、お呼びじゃないわって怒ってくるんだろうけど。
 このしあわせな悪夢と向き合う上で、その感性だけは失っちゃいけない気がした。

「大体あんたもあんただよ、ロキ! 人に散々偉そうなこと言っといて、あんたが一番みっともないじゃんか!!」

 爆撃――爆撃――絶やすな、立ち向かい続けろ!
 無駄でも、何も通じなくても、これを切らしたら私は終わってしまう。
 キャスターが無茶を要求してくるのはいつものこと。心底ムカつくけども、応えられなくなったら待つのは身の丈に合ったバッドエンドだ。

「私を石ころ呼ばわりした癖に、いつまで使い古しの雑魚敵みたいなことやってんだ!!」

 答えなんか返ってこないと分かってる。
 それでも、それでも!

「おまえ――それでも男かぁッ!!」

 しかと見ろ、見て、見て、暴いてみせろ!
 敵と自分自身、その両方に怒りを燃やして大爆発を引き起こす。
 身を焼く炎の激痛は無視。いや、それさえ燃料に変えて後続を用立てる。
 そうやって涙ぐましく生存圏を捻出する私の遥か頭上で、もうひとりの役者が戦っていた。

「そら、言われているぞ。
 私は貴様を知らないが、小娘にこうまで言われて、返す言葉の一つもないのか!」

 アンジェさんのアーチャーは、ガグンラーズの頭上で、ロキに接近戦を挑んでいる。
 だけどそれも、戦果で言うなら私のとそう大差ない。
 息を切らし、髪を振り乱し、汗に塗れながら戦っているのに――当の奇術師は涼しい顔で無傷を保つだけ。

「雑■が。誰に■嘩を売■てや■る」
「問いに問いで返すか。いいだろう、答えてやる。神気取りの白痴に対して、だ!」

 こんなにも活路の見えない戦いが、果たして他にあるだろうか。
 正直今すぐにでも助太刀したい気持ちでいっぱいだけど、出来ない。

「あまり見くびるなよ。たかが夢、少女の自慰。そんなモノに劣るほど、私の神威は甘くないぞ……!!」

 だってアーチャーの奮闘こそ、私達にとってのレッドライン。
 最前線でロキの気を引いてる彼が敗れれば、正真正銘、全力全開のウートガルザ・ロキがこちらを襲うのだ。
 そうなったらもう答えを探るどころじゃない。
 私達は全滅して、砕月同盟は崩壊し、にーとさんの優しい月光(はめつ)が都市の総てを覆うだろう。

 矢が荒ぶ。霧を穿つだけに終わると知りながら、アーチャーは立派に役目をこなし続けている。
 申し訳なくて消えてしまいたくなったが、それを言葉にするほどの侮辱はないと分かっているからどうにか押し殺した。

「キャスター……っ、どう……!?」
「準備は整っています。後は貴女のタイミングで、いつでも」
「なら今すぐ行くよ。とびっきり眩しく可愛く美しく、彩って、プロデューサー……!!」

 ――簡易契約!

 響く声、それが合図になる。
 月面に広がる草原、そこを埋め尽くす輝きの雨霰。
 反響と閃光が、目の前の"無敵"に負けない"最強"を演出する。

 幻術が紡ぐ天国、地獄、魑魅魍魎。
 その中で溜めに溜めたキャスターの全力が、私のための舞台を造ってくれた。
 ならば条件達成の成否など、改めて確認するまでもない。
 光の滝が、月を照らす。女神を涜す悪魔の極光が、奇跡みたいな流星雨を降らす!

「『微笑む爆弾・星の瀑(キラキラ・ボシ・ナイアガラ)』――――!!!」

 私という星を、月の神秘に押し付ける。
 それに足るだけの、最高最大の大瀑布が爆ぜた。
 帯になって降り注ぐ、光の滝。
 私の感情は言うまでもなくさっきからずっと最高潮、そこにキャスターの演出も付加されて、轟く威力はどんなに厳しく見ても幹線道路でやった時の倍を超える。

 ロキを、ガグンラーズを。
 夢のすべてを押し流して、焼き尽くすつもりで放った最大出力。
 されど。されど。

「――それで?」

 敵は、最強にして無敵。
 月の女神が、にーとさんが、そう信じて疑わない男の写像。

「この■度で俺に敵■と、に■と■ゃんを奪え■と、本■で思っ■んの■?」

 ……改めて理解する。
 そも、これに挑もうとする発想自体が滑稽。どうしようもないほどズレている。
 だって此処は、天枷仁杜という女性(おんなのこ)が紡いだ夢の世界なのだから。
 そこで最強を任ぜられた男が負ける道理なんて、何がどうあったってありはしないのだ。
 故に、私の全力全開を受けてさえ無傷を保つ奇術師とその乗騎という悪夢も――至極正しい。

 ロキくん。ロキくん。
 わたしの最強、わたしの特別。
 あなたは負けない、あなたは死なない。
 あなたは強いんだもの、わたしだけの王子さまなんだもの。
 さあさ、そんな雑魚敵なんてやっつけちゃえ。
 いつまでもいつまでも、わたしの傍でずぅっと微笑んでいてね――神さまの声が聞こえてくるようだ。
 そしてこの世界では、それこそが他の何よりも優先されて、最も正しい秩序になる。

「笑っ■よ。俺、君の■こに■れ■んだぜ」

 私は、見た。
 地に落ちる、アーチャーの姿を。

「ほら。■っ■り、笑■た方が■愛いよ」
「ぐ……っ、おのれ……!」

 均衡が崩れる。
 地に伏したアーチャーはそれでも立ち上がろうとしていたが、ガグンラーズの眼球(メインカメラ)が熱線を噴射した。
 空中で分岐し、無数の光条に姿を変え、逃げ場を塞ぎながら詰ませにかかる。

 いや、違う。
 塞いでいるのは逃げ場じゃない、彼が仕事を果たす余地だ。
 吹けば飛ぶような私達に極力ロキの害意を向けさせないため、前線で注意を惹き続ける囮役。
 その躍動を抑え込むことで作戦を破綻させ、此処までどうにか成立していた鬩ぎ合いを崩壊させる。

「マンテン、キャスター! 退き時だ、私に構わず逃げろ!!」

 ……ああ、やっぱりこの人はいい人だ。
 アンジェさんが信用するのも分かる。
 私も今までいろんなサーヴァントを見てきたけれど、こんなに気持ちよく誠実な人はそう居ない。

 だから、死なせたくないと思ってしまう。
 私は結局、間に合わなくて。
 作戦が崩壊してしまった以上、無駄に足掻いたって屍が増えるだけなのに。

(何か……なにか、ないの……!?)

 どう考えてもアーチャーの言う通り、踵を返して逃げ出すべきなのに――その判断が遅れた。
 グズのくせに往生際が悪い私だから、最悪のタイミングでノロマをしてしまった。
 その致命的な判断ミスが、当たり前のように終わりを運んでくる。

「無様だ■、贋■の星」

 ロキの嘲笑が、響いて。
 金色の死神が、機剣一閃の構えを取った。

 アーチャーは間に合わない。
 迎撃しようにも、横溢している力の桁が違う。
 私の目にすら分かってしまう。
 夢は夢。さりとてこれは、現実を侵食する悪夢なのだ。
 ある程度は根性でどうにか出来ても、超えてはならない一線というものがある。
 今から繰り出される攻撃は間違いなく、そこのラインをぶっちぎった一撃だ。


「雑■■分際で、俺達に挑■うなんて考■るか■そうな■のさ」

 ――雑魚の分際で、俺達に挑もうなんて考えるからそうなるのさ。

「に■と■ゃんに愛■れて■るこの■が、テ■ェら屑星■遅れ■■るわけ■えだ■うが」

 ――にーとちゃんに愛されているこの俺が、テメェら屑星に遅れを取るわけねえだろうが。

「俺■真■は、■キ。ウー■ガ■ザ・ロ■」

 ――俺の真名は、ロキ。ウートガルザ・ロキ。


「――天枷仁杜に誰より愛された、空前絶後、最強無敵のサーヴァントだ」


 高らかな宣誓と共に、黄金の機神が颶風と化す。
 避けられないし防げない。
 令呪での退避も間に合わず、キャスターがどんな仕掛けを用意していたとしても間に合わない。

 最強の名に偽りなしとよく分かる。
 きっとこの都市の誰一人、天枷仁杜のウートガルザ・ロキに敵いはすまい。
 それほどまでにこれは強くて、敵なしで、憎たらしいほど格好良くて。

 私は彼の謳う愛の踏み台として、砕け散るしかない。
 それは私にとって、本当に恐ろしいことなのに。

「――――あ」

 今度こそ取り返しの付かない状況に追い込まれているのに、そこでようやく、私は答えを見つけた。

(待って。だったら、おかしい。そうだったら、おかしいんだ)

 ウートガルザ・ロキは、天枷仁杜を愛していて。
 その上で彼は、自分が天枷仁杜に最も愛されていると豪語する。
 もしそうなら、おかしなことがひとつあった。

 月の光に包まれる前、此処に聳え立っていた高級ホテル。
 お姫さまのお城に、私は一度招かれている。
 そこで見た光景は、今にして思うと不合理極まりない。

(じゃあなんでこの人は、高天さんを生かしてたの?)

 にーとさんを独占したいロキにしてみれば、あの人は明確に邪魔な存在だった筈だ。
 キャスター曰く優秀な凡人。その癖してリーダーシップを発揮し、にーとさんをも叱りつけられる"親友"。
 大して遊び甲斐もない彼女を生かし続け、目を瞑り続けるだなんて、私の見てきたこいつの人物像と一致しない。

 意外と友達想いらしいにーとさんのことだ。
 高天さんがいなくなったら悲しむ、というのもあるだろう。実際彼女が亡くなったことで、にーとさんは壊れてしまったんだから。
 でもそんなの、口が上手くて自由自在に夢を見せられるロキならどうとでも出来た筈だ。
 適当に排除して、それらしい経緯を考えて、ボロが出ないように幻術で舗装すれば……最愛の人を騙すなんて造作もなかったんじゃないのか。
 けれどウートガルザ・ロキは、話に聞く限り最後までそれをしなかった。


 "おまえ――それでも男かぁッ!!"


 私はさっき、激情のままにそう吠えたけれど。
 今なら分かる。きっと、あれが答えだったんだ。

(そっか……そうなんだ。
 "この"ウートガルザ・ロキに欠けているものは、何よりもそこなんだ)

 心からにーとさんに恋していた彼は、だからこそお姫さまのもうひとつの"大切"を蹴落とせなかった。
 だってそれをしたら男として負けだから。
 自分の力で彼女の一番にならなかったら意味がない、そんなちっぽけな意地が脳裏に浮かぶ。

 色恋の経験なんてない私がこれに辿り着けた理由はきっと、ある意味似た者同士だからだろう。
 口にするのも恥ずかしいけど、気持ちは分かる。
 仮に天梨を超えたいと豪語する別なライバルが現れたとして、そして私にそれを排除できる力があったとして。
 私はうんうん悩みはするだろうが、たぶんその力を使わずに張り合うことを選ぶ。
 理由も同じだ。それをしたら、負けだから。
 大切な誰かのために頑張りたい想いが強ければ強いほど、格好や面子を気にしたがるのが、懸想する側の心理ってもんだから。

(このウートガルザ・ロキは――高天さんのことを、覚えていない)

 以上の仮説が正しいのなら、ロキのさっきの科白はあまりにも不自然だ。
 意地っ張りでええかっこしいな王子さまは、憎っくき恋敵を差し置いて、自分こそが一番だなんてデカい声で喚いたりしない!

 ようやく見つけた、無敵の陥穽。
 悪夢を終わらせるための活路。
 でも、辿り着くのがあまりに遅すぎた。

 ――諦める?
 ――諦めるんだ?
 ――諦めよう?

 神の機剣が迫ってくる。
 私という悪魔を一太刀でねじ伏せる、断頭刃が落ちてくる。
 不可避の破滅を、ノロマな私はただ見上げることしか出来なくて。
 奇跡を使い果たしてしまった煌星満天は呆然と、今際の際の視界にて――



「ンだよ、もう諦めちまうのか? 似合わねえなぁ、それでも俺が惚れたアイドルかよ」



 ――奇跡でも何でもない、自分で積み上げてきた頑張りが。
 ――不敵な発破と共に、迫る死を受け止める光景を見た。



◇◇


 【不毛の沼地 # 4】


 香篤井希彦は退けた。
 彼から回収した名刀を片手に、楪依里朱は小休止も挟まず歩き出す。

「……ったく、世話の焼ける。この貸しはでかいからね」

 希彦のように、この剣を自分のモノにしようという気はなかった。
 いざ触れてみると、確かに不気味なほど取り回しがいいことが伝わってくる。
 純粋な神秘だけで色彩の秘術を悉く両断してのけた業物だ。
 懐にしまっておけばさぞ心強いだろうが――これの素体になった英霊は命を奪うことに極限特化した、稀代の殺人鬼。

 彼女の遺志が宿る剣を盗んで使うなど、イリスに言わせれば正気の沙汰ではない。
 いつ切っ先が翻ってこちらの喉笛を突くかも分からないのだ。
 まして自分は彼女から、全身を寸刻みにして殺してやりたいほど恨まれている筈。
 よって変な色気は出さず、素直に元の持ち主のところへ届けてやることにした。

 目指すのは伊原薊美との合流、そして名刀トバルカインの返却。
 そこから先は現状未定だ。策を練るなら自分より薊美の方が適役だろうし、そのくらいは働いて貰わねば困る。

「セイバーは敗けた。不穏分子は排除した。これでもう、妙な横槍が入ることはない」

 残るは本命、月女神・天枷仁杜。
 紆余曲折はあったが、歪んだ軌道は修正出来た。
 砕月の行進はまだ終わっていない。

 あれが癇癪を起こし続けるなら、辛抱強く付き合って光明を探そう。
 鍵は持っている。ならばきっと、いつかは届く筈だ。
 天枷仁杜は、神の資格を得ただけの子どもだから。
 あんな大人げない全能者がいて堪るかと、確固たる闘志を再点火して。

「――――はあ」

 イリスは、おもむろに足を止めた。

「何。行きたいの?」

 ギチギチ、ギチギチと。
 羽が、脚が、触覚が擦れ合う音を聞く。
 それは飼い主であり、相棒である彼女への"おねだり"だ。
 普段なら冷たく無視するところだが、しかし今は、あながち的外れな要求とも言えなかった。

 ……右手の刻印は、もう残り一画。
 正真正銘、これが最後の切り札だ。
 今解放して仁杜戦まで維持するとして、一体どれだけの魔力を持っていかれることやら。思わず嘆息したのも致し方ないことであろう。

「まあ、そうね。味噌っかすとはいえ、にーとの対抗馬に今潰れられても困る、か」

 世界が溶け落ち、再構成される前。
 天枷仁杜は、幻想のウートガルザ・ロキを喚び出した。

 今も恐らく、誰かがアレの相手をさせられている。
 そして"こいつら"が騒ぎ出したということは、その不運な誰かは煌星満天なのだろう。
 苦渋の決断が必要だった。ロキは正真正銘の規格外、恒星資格者の伸び代を加味しても手に余ることは請け合いである。
 満天の脱落は砕月戦線の命運を左右しかねない。イリスは決断し、最後の令呪に意思を込めた。

「いいよ、行かせてあげる。だけどその代わり、絶対に勝ちなさい。たかが幻に負けて帰ってきたら、今度こそ承知しないからね」

 すぅ、と、息を吸い込んで。



「――――令呪を以って命ずる。総軍を結集し、煌星満天を救けなさい、シストセルカ・グレガリア」



◇◇


 【無限の草原 # 4】


「――"Baby you light up my world like nobody else.(お前が俺の音楽観をブチ壊したのさ)"
 ――"The way that you flip your hair gets me overwhelmed(お前が髪をかきあげるだけで、俺はイっちまいそうだ)"
 ――"But when you smile at the ground it ain`t hard to tell(だけどお前がショボくれて笑ってたら、今度は言っちまいたくなるぜ)"」

 陽気なパワー・ポップを口ずさみながら。
 ホームランバッターのように、金属バットで巨大な機剣を受け止めて。
 そいつは、私の前に立っていた。

「――"You don`t know,oh oh(お前は分かってねえ)"
 ――"You don`t know you`er beautiful(テメェのイカしたリリックを愛してやれよ、ってな)"」
「な、んで……」

 ツナギ姿の怪人が、からからと笑って私に振り返る。
 此処に居る筈のない助っ人の登場は、だけどやっぱり奇跡なんかじゃないのだ。

「そんな不思議なコトかね。落ち目の時に駆けつけてこそ、真のファンってもんだろ?」

 私の音楽を聴いて、ファンになったと言ってくれた"彼ら"。
 善い奴なんかじゃ絶対ないし、あまりにも多くの悲劇を生み出してきた巨悪の群れ。
 私自身、彼らのせいで深く傷ついた被害者の声を聞いている。
 不謹慎だと頭じゃ分かってて、でも熱いものが込み上げてくるのを止められない。

「それに俺も、あの野郎には借りがあるンだわ。
 前の時は不完全燃焼で終わっちまったからな――キッチリ白黒付けられて、おまけに推しのアーティストと共演も出来る。こんな最高の機会、みすみす逃して堪るかよ」

 神をも恐れぬ佇まいが、黒い嵐を這い出させる。
 蟲だ。人を喰い、世界を喰う、都市最悪の厄災が夢の世界に氾濫する。
 好敵手との決着のために。そして、私というアイドルを助けるために。

「さっさと立てよ。この期に及んでぐずぐずとヘタれてたら、今度こそ骨も残さず食っちまうぜ」
「へ、ヘタれてないし……! でも、うー……助けてくれたのは、ありがと……」
「なぁに、礼には及ばねえ。さっきも言ったがな、こいつは俺らにとって願ってもねえ見せ場なのさ」

 奏でられる演奏は、暴食の羽音。
 千、万、億、思い付く単位じゃ到底足りない飛蝗達、その総てが今は私の味方で。
 足腰に力を入れ、鞭を打ち、拳を握って立ち上がる。
 そのまま一歩、前に出た。それに合わせて私の背中に、巨大な翼が形成されていく。

 悪魔に相応しい、厄災の翼。
 アイドルと共演するには、ちょっと獰猛すぎるギタリストだけども。
 いざ一緒にステージに立ってみると、こんな頼もしい相棒はいなかった。

「――さて、と。一応テメェにも、改めて啖呵を切っとくか」

 ロキは私達のことを、変わらず嘲りながら見つめている。
 恐ろしい、だけど哀しい貌だ。
 悪意の底に隠した一握の誇りを失くしてしまった、ガランドウの王子さま。

 改めて、理解する。
 これを倒さなければ、私達の声が届くことはない。
 夢見る月のお姫さまに、こっちを向かせることすら叶わないと。
 分かったからこそ、私は虫螻の王さまと並んで立つのだ。


「〈蝗害〉が来たぞ、俺達が来たぞ、夢を終わらす悪魔が来たぞ!
 守ってみせろよロキ野郎。喧嘩の続きだ、陽気に行こうぜ!!
 GIIIIII――GGGGGGGGAAAAAAAA――HHHHHHHHHHHHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」


 蟲の翼をはためかせ、私は彼らと共に翔ぶ。
 目指すは天空、黄金を駆る夢幻の王。
 そうだったモノ。ケチが付いた最強なんて、今はちっとも怖くない!

「さぁ、一緒に魅せッぞ。Are you ready?」
「ッ、OK――!」

 ステージの名は、〈黙示録(アポカリプス)〉。
 夢を滅ぼす、黒馬に跨った妖星の悪魔。
 天梨みたく綺麗に出来ないのなら、いっそどこまでも私らしく、暗く烈しく喧しく。

 この輝きで今度こそ、おまえを魅了してやる。


「――――勝負だ、ウートガルザ・ロキ!!」



◇◇


 【天望の丘 # 3】


 その時起こったことは、それほど大仰なものではない。
 アンジェリカの中に眠る未知の力が起動したとか、実は彼女も資格持ちだったとか、そんな飛躍した話ではなく。
 言うなればそれこそ、静電気が走ったようなもの。
 アンジェリカ・アルロニカという少女には、ひとつの仕掛けが施されている。

「え、なに、いまの……?」

 彼女の母、〈雷光〉オリヴィア・アルロニカ。
 時計の器、〈人柱〉ジュリン・ウェルブレイシス・スタール。
 彼女達が共同制作した、雷炎の時間制御。一度きりの終点観測装置。

 何も知らず少女の秘境を暴いた仁杜は、その配線に触れてしまった。
 精密機器の中へ無造作に手を突っ込めば、場合によってはショートもしよう。
 事実そうなった。ぱちりと一発、火花が散った。起こったことはそれだけだ。
 しかしそんなつまらないアクシデントが、全能の女神を怯ませる。

 痛みはない。それは彼女がしあわせに生きる上で不要な概念だからだ。
 けれども手応え自体は感じるし、予想だにしないことが起これば驚きもする。
 そして自分の全能にこれでもかと胡座を掻いた今の仁杜は、元の気質も相俟って、こうした事態にとても弱くなっていた。

「っ……!」

 咄嗟に飛び退くアンジェリカ。
 希彦の例を見るに、遠隔でも月界追放は可能な筈。

「……、ぅーー……」

 なのにそれをせず、得体の知れない虫の様子を窺うような目を向けていることが何よりの証拠だろう。
 まさしく奇跡のような偶然で、雷光の継嗣はどうにか命を拾った。
 となればやるべきことは一つ。もう迷ってはいられない、踵を返し一目散に駆け出した。

「あ、待っ――」
「待たない!」

 もしも捕まってしまったらそこまでだ。
 潔く諦めるしかないだろう。
 アンジェリカなりに腹を括ったが、此処で次なる幸運が彼女を利する。

「…………あれ? セイバーちゃん?」

 どこまでも鈍感で、無頓着。
 怠惰の極みである仁杜は、その異変を遅れて知覚した。

 セイバー・トバルカインの気配がどこにもない。
 いや、感じることには感じるのだが、注意しないと分からないほど微弱になっている。
 これもまた彼女にとっては不明な事態で、不安そうに眉を下げさせた。

 せっかく再契約したのに、どこ行っちゃったんだろう。
 ん? 待って、再契約? あの子はことちゃんのサーヴァントなのに、どうしてわたしと繋がってるんだっけ?
 気付きに次ぐ気付き。理外の連鎖が、アンジェリカを追う決断を遠ざける。
 考えても、靄がかかったみたいに頭の中がぼやぼやしてよく分からない。

 ぽふんとベッドに腰を下ろし、腕組みして唸ること十秒ほど。
 ふと顔を上げればもう、アンジェリカの姿は視界の彼方まで遠ざかっていた。

「ぁー……ぅー……、……はぁ。まあいいや」

 一瞬迷ったものの、面倒なのでやめることにした。
 希彦のようにライン超えの狼藉を働かれたわけでもないし、次見かけた時に気分次第で追い出せばいいやと楽観する。

 中断したのはトバルカインについての思考もだ。
 分からないことをあれこれ考えるのは無駄なこと。
 カインの気まぐれはいつものことだし、その内ひょっこり帰ってくるだろう。
 そう結論付けて寝台の上で丸まると、よっこらしょ、と毛布をかけた。

「なんかいっぱいお話して疲れちゃったや……、……Zzzzz…………」

 天望の丘で、月の女神は寝息を立てる。
 彼女は知らない。
 自分が今度こそ本当の意味で、独りぼっちになってしまったことを。

 知らないまま、気付かないまま、都合の悪いことは何一つ見ないまま。
 姫は孤独に微睡み続ける。
 幻のしあわせに囲まれたその胸の中は、褪せることのない夕焼け色で満たされていた。


◇◇


 【千里の砂浜 # 1】


 ――そして。

「そっか。そんなことになってたんだ」

 ウートガルザ・ロキとなど、比べるべくもない。
 それどころか月の御使いや、仁杜が戯れに喚び出す北欧神獣達にさえ遠く及ばない。
 無害に等しい惰弱な幻は、カスターから事の経緯を聞いて穏やかに頷いた。

 高天小都音。
 破滅の未来、γの終末の引き金になった女。
 その手に令呪の刻印はなく、トバルカインもついでに再現されている――なんてこともない。

 真の意味での、無力。
 だが、だからこそ不可解だった。
 薊美は未だ人事不省状態、よって彼女の相棒として、カスターがその役目を代行する。

「……君は、本当に何も知らないのか?」
「うん、多分ね。思い出そうとしても肝心な部分は何も出てこないし、そういうモノとして作られてるんじゃないかな」

 元々、凡愚にしてはやけに優秀な女だと思っていたが、これにはさしもの将軍も感嘆を禁じ得ない。
 本当の自分は既に死んでいて、今此処にいるのは神となった仁杜が見る夢幻のようなもの。
 こんな悲惨な真実を告げられ、何故にこうも平静でいられるのか。
 平時なら天晴と柏手の一つも打っただろうが、今はそれが無気味に映る。

「筋が通らない。仮にニートのお嬢さんが君を造り出したとして、何故この場に留まろうとする?」
「それは……」
「君の言動は、この世界に相応しくないように思える」

 高天小都音は天枷仁杜にとって、絶対に失いたくない大切な友人だった。
 その再現体を造ること自体は理解できる。
 が、もしそれをするのなら、彼女の居場所は仁杜の傍でなければおかしい。セイバーも斃れた今、長居する必要はあるまい。

 月世界は姫の心象。ならばそこに産まれる幻は、例外なく姫の守り人であると考えられる。
 しかし"この"高天小都音には、どうもそうした献身性を感じない。
 そもそも酔夢を是とする月姫の理では、現実を学んで受け入れるなど異端の思想だろう。
 カスターが不可解がるのも無理からぬことだった。薊美でも、きっと同じ疑念をぶつけたに違いない。

「……自分で言うのはちょっと恥ずかしいんだけどね。私は、にーとちゃんにとって特別だから」

 率直な問いに、小都音は照れたように頬を掻きながら答える。

「あの子を叱れるのってさ、私だけなんだよ」
「それが……そんなものが、理由だと?」
「多分、ね。違ったら恥ずかしすぎてもっかい死んじゃうけど」

 あまりにも荒唐無稽、お花畑と言ってもいい回答だ。
 カスターは反射的に眉を顰めたが。

(いや――案外あるのか、そういうことも。
 特別な友人だからこそ、どうしても曲げられなかった、なんてことが)

 これまでに見聞きしてきた情報を基に考えると、カチリとピースが噛み合ってしまう。
 小都音は、仁杜の特別。無二の親友。
 天枷仁杜は清々しいまでのクズでダメ人間だが、友人に対しては意外と真摯。

 そんな彼女は無意識下で、小都音の内面を歪めることを拒絶した。
 いつも口うるさく自分を叱る、叱ってくれる彼女を、都合のいい人形にすることだけはどうしても出来なかった。
 それが真実だというなら、確かに筋は通る。女神本人が認識しているかはさておいて。

「ねえ。貴方達、にーとちゃんに会いに行くんだよね」

 問題は、"だから何だ"ということなのだが――。
 思索するカスターの耳朶を、今度はまた小都音の問いが叩いた。

「ああ、そうなるだろうな。当座は令嬢の目覚めを待たねばならないが」
「私も、一緒に連れて行ってくれないかな」
「――何?」

 薊美はまだ、目覚めない。
 カスターでは無理でも、彼女ならこの偶然が持つ破格の価値を理解出来たことだろう。

 何故なら伊原薊美は、月のお姫さまに灼かれかけていた人間だ。
 仁杜に触れ、仁杜を浴び、自己を変革するほどの怒りに目覚めた。
 だから薊美は、天枷仁杜を超えたいと狂おしく渇望するようになり――妄執とは愛情の裏返し。
 茨の王子は、堕落の女神の精神性を深く識っている。

 女神の心を鎖す錠前は、ひとつではなかった。
 そこを見誤ったから、楪依里朱は失敗した。
 鍵は複数要る。そして薊美らは今、本来ならどうやっても手の届かない深層に秘蔵されていた秘鑰を手に入れたのだ。


「たぶん、私は……そのために創り出されたユメだから」



◇◇



【月光夢幻神界〈渋谷〉・『月姫真体・堕落恒星』内界 再構成地平・中央・"天望の丘"/二日目・午前】

【天枷仁杜】
[状態]:〈スターゲイザー〉、自己記憶操作済み、〈ウートガルザ・ロキ〉および〈高天小都音〉分離独立行動中、ふかふかおねんね
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:セラフ=アレス改め、アルテミット・ガグンラーズ
[所持金]:もう意味がない。
[思考・状況]
基本方針:さあ、しあわせな夢を見よう。
0:Zzzz……。
1:都市の制圧。聖杯の獲得。全部叶えようね。
2:薊美ちゃんのことは残念だけど、もういいや。バイバイ。
3:満天ちゃんには同情している。いつでも声をかけてよ、救けてあげる。
4:わたしを倒すなんて、できるわけがないのにね?
5:希彦さんきらーい。もう絶対入れてあげないんだから。
[備考]
※祓葉との対話を通じて、資格者としての性質が向上しました。
※恒星真体・スターゲイザーⅠとして覚醒しました。根源の渦への接続が再開されます。
※煌星満天のすべてを読み解きました。

※スターゲイザーとしての力が強まり、幻術のウートガルザ・ロキおよび高天小都音を創出するに至りました。
 いずれも『現実を騙す幻術』のさらに上位、『術者すら騙す幻術』の産物です。
 現在それらはそれぞれに彼女から独立して行動しており、彼女自身の認識においても傍にはいません。

※契約していたセイバー(トバルカイン)を失いました。
 いまのところ、サーヴァントを喪失したマスターへのペナルティの類は、発動する気配もないようです。

※楪依里朱から告げられた、ショッキングな真実を、綺麗さっぱり忘却しました。
 無理を通してでも夢を見続けるつもりのようです。


【アンジェリカ・アルロニカ】
[状態]:魔力消費(中)、疲労(小)、頭痛(大)
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:ヒーローのお面(ピンク)
[所持金]:家にはそれなりの金額があった。それなりの貯金もあるようだ。時計塔の魔術師だしね。
[思考・状況]
基本方針:勝ち残る。
0:言いたいことは言ってやった。今は逃げて、このことを伝えないと。
1:未来を変える。私は、神を生ませない。
2:神寂祓葉に複雑な感情。
3:蛇杖堂寂句には二度と会いたくない。
4:あー……きっつい、これ……。
5:満天のプロデューサー(ファウスト)に警戒心。こいつは絶対ロクでなしだ。
[備考]
※ホムンクルス36号から、前回の聖杯戦争のマスターの情報(神寂祓葉を除く)を手に入れました。
※蛇杖堂寂句の手術を受けました。
※神寂祓葉が"こう"なる前について少しだけ聞きました。
※アルロニカ家の魔術刻印と共鳴することで、世界の始点と終点の一部を観測しました。
※行き先はお任せしますが、天望の丘に居たため、シャッフルされた面々の大まかな座標を把握しているかもしれません。



※『月姫真体・堕落恒星』内界が組み替えられました。
 いまはすべてが一続きのだだっ広い自然空間の中に、それぞれ離れて人々が配置されているようです。
 その全てを、中央の"天望の丘"からは観察できます。

※"天望の丘"の最も見晴らしの良い位置に、巨大なベッドが配置されました。
 適当に軽食や飲み物も用意されています。
 仁杜は現在睡眠中。



【月光夢幻神界〈渋谷〉・『月姫真体・堕落恒星』内界 再構成地平・東方・"無限の草原"/二日目・午前】

【煌星満天】
[状態]:疲労(大)、精神疲労(小)、断片的な記憶の回復、気分高揚気味、炎上に対するむかむか、左肩負傷、〈蝗害〉で構成された翼を背中に戴いている
[令呪]:残り三画
[装備]:『微笑む爆弾』
[道具]:なし
[所持金]:数千円(貯金もカツカツ)
[思考・状況]
基本方針:トップアイドルになる
0:――勝負だ、ウートガルザ・ロキ!
1:魅了するしかない。ファウストも、ロミオも、ノクトも、この世界の全員も。
2:輪堂天梨を救う。
3:……絶対、負けないから、天梨。
4:天枷仁杜には苦手意識。でも、きれいだった。
5:私、なんで忘れてたんだろ?
6:好き勝手言うなよ、私達の何を知ってるんだ。
7:――――私は、何(だれ)?
8:ばいばい、光点お兄ちゃん。それと……、……ありがと。
[備考]
 聖杯戦争が二回目であることを知りました。
 ノクトの見立てでは、例のオーディション大暴れ動画の時に比べてだいぶ能力の向上が見られるようです。
※輪堂天梨との対決を通じて能力が向上しています(程度は後続に委ねます)。
 ・『微笑む爆弾・星の花(キラキラ・ボシ・スターマイン)』
 拡散と誘爆を繰り返し、地上に満天の星空を咲かせる対軍宝具。
 性質上、群体からなる敵に対してはきわめて凶悪な効果を発揮する。
 現在の満天では魔力の関係上、一発撃つのが限度。ただし今後の成長次第では……?
 ・現状でも他の能力が芽生えているか、それともこれから芽生えていくかは後続に委ねます。 
※輪堂天梨と個人間の同盟を結びました。対談イベントについては後続に委ねます。
※過去について少し気付きを得ました。詳細は後続に委ねます。
※満天の記憶には、次兄・暮昏光点によって"蓋"がされています。
※蓋が少しズレました。

【プリテンダー(ゲオルク・ファウスト/メフィストフェレス)】
[状態]:疲労(大)、右腕損壊(概ね回復)、及びそれによる失血(同じく概ね回復)
[装備]:名刺
[道具]:眼鏡、スキル『エレメンタル』で製造した元素塊
[所持金]:莫大。運営資金は潤沢
[思考・状況]
基本方針:煌星満天をトップアイドルにする
0:渋谷の神(推定:天枷仁杜)を退かし、かの街でライブを行わせる。
1:状況はなお引き続き最悪。だが――
2:輪堂天梨との同盟を維持しつつ、満天の"ラスボス"のままで居させたい。
3:ノクトとの協力関係を利用する。が、ライブの実施が現実的になったなら切り捨てを視野に入れる。
4:時間が無い。満天のプロデュース計画を早めなければならない。
5:天梨に纏わり付いている復讐者は……厄介だな。
6:高天小都音とは個人的にパイプを持っておく。
7:アンジェリカ・アルロニカは油断ならないが――
[備考]
 ロミオと契約を結んでいます。
 ノクト・サムスタンプと協力体制を結び、ロミオを借り受けました。
 聖杯戦争が二回目であること、また"カムサビフツハ"の存在を知りました。
 高天小都音経由で、〈はじまりの六人〉及び神寂祓葉の情報を知りました。


【アーチャー(天若日子)】
[状態]:疲労(大)、全身にダメージ(大)
[装備]:弓矢
[道具]: ヒーローのお面
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:アンジェに付き従う。
1:託すしかないのか、あの厄災と満天に。
2:神寂祓葉――難儀な生き物だな、あれは。
3:星神(天津甕星)とは次に会ったら受けて立つ。私には、その責任がある。
[備考]
※アサシン(継代のハサン)が2回目の参戦であることを知りました。

※再構成地平中央の天望の丘に、アンジェリカ・アルロニカと天枷仁杜がいるのを確認しました。


【ライダー(シストセルカ・グレガリア)】
[状態]:総軍展開、やる気爆裂、弱体化を数の暴力で跳ね除けている
[装備]:バット(バッタ製)
[道具]:
[所持金]:百万円くらい。遊び人なので、結構持ってる。
[思考・状況]
基本方針:好き放題。金に食事に女に暴力!
0:最高の見せ場だ。腹ァいっぱいかっ喰らおうかァ!!
1:祓葉にはいずれ借りを返したいが、まあ今は無理だわな。
2:煌星満天、いいなァ~。
[備考]
※イリスに令呪で命令させ、寒さに耐性を持った個体を大量生産することに成功しました。
 今後誕生するサバクトビバッタは、高確率で同様の耐性を有して生まれてきます。
※総軍を結集させました。再度散らすまで、戦闘時の魔力消費が大きく増加します。
※『月光夢幻神界』の堕落の法による影響をきわめて強く受けるようです。
 かなりの弱体化を被っており、戦闘能力は甘く見て平時の一割程度。
 →総軍展開により強引に押し破っています。どの程度実力を発揮できるかはお任せします。

※ウートガルザ・ロキの再現体は、高天小都音に対する記憶のすべて、或いは何処かが欠落しています。


【月光夢幻神界〈渋谷〉・『月姫真体・堕落恒星』内界 再構成地平・西方・"不毛の沼地"/二日目・午前】

【楪依里朱】
[状態]:疲労(大)、全身に斬傷(いずれも深くはない)、魔力消費(中/色間魔術により回復中/総軍展開により消費増加)、強烈な自己嫌悪、未練
[令呪]:喪失
[装備]:名刀トバルカイン
[道具]:
[所持金]:数十万円
[思考・状況]
基本方針:優勝する。そして……?
0:薊美に剣を届ける。
1:薊美に対しては微妙な気持ち。間違いなく敵なのだが、なんというか――。
2:月の決戦が片付き次第祓葉に挑む。これ以上、長々と寄り道をするつもりはない。
3:希彦のことを正式に自分達と同格の存在と認定。次に会ったら殺す。
[備考]
※天枷仁杜(〈NEETY GIRL〉)とネットゲームを介して繋がっています。
 必要があればトークアプリを通じて連絡を取ることが出来るでしょう。
※蛇杖堂記念病院での一連の戦闘についてライダー(シストセルカ)から聞きました。
※今の〈脱出王〉が女性であることを把握しました。
※香篤井希彦を〈はじまり〉と同等の狂人であることを認めました。

※名刀トバルカインを香篤井希彦から回収しました。A++相当の神秘を宿し、ただひたすらに強いだけの、使い手を選ばない剣です。


【月光夢幻神界〈渋谷〉・『月姫真体・堕落恒星』内界 再構成地平・北方・"静寂の山麓"/二日目・午前】

【アーチャー(スカディ)】
[状態]:右腕が刀傷でズタボロ(行動に支障なし)、複数の裂傷、霊核にヒビ、蛇の毒の毒矢(特攻対象)
[装備]:イチイの大弓、スキー板。
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:狩りを楽しむ。
0:月女神の討伐に力添えする。アギリもアレは気に入らないみたいだし、丁度いいだろ。
1:借りは返す。当分はお利口に協力してやろうか。
2:向こうのゴタゴタが済んだらランサー(ルー)を再び狙う。逃がさないよ、色男。
3:日中はある程度力を抑え、夜間に本格的な狩りを実行する。
4:マキナはかわいいね。生きて再会できたら、また話そうじゃないか。
5:ランサー(アンタレス)を獲る。一皮剥けたようだしね、食べ頃だろ。
6:キャスター(シッティング・ブル)は一度見逃す。ただし次は必ず狩る。
7:面白いことをやるヤツがいるもんだ。懐かしい匂いだが、同郷のナニカかな?
8:爺様(真備)は次は確殺。地の果てまででも追い回す。
[備考]
※ランサー(ギルタブリル/天蠍アンタレス)の宝具を受けました。
 強引に取り除きましたが、どの程度効いたかと彼女の真名に気付いたかどうかはおまかせします。

※自分のスキルである蛇の毒の矢を、自分自身で受けました。毒は霊核にまで達しています。


【華村悠灯】
[状態]:人狼化。心臓喪失。永久機関・生死流転(同化完了)、生への渇望、右腕再生中(次の話には治ってると思われます)、ライダー(ハリー・フーディーニ)と再契約
[令呪]:喪失
[装備]:精霊の指輪(シッティング・ブルの呪術器具)、『時計じかけの方舟機構(Perpetuial motion Machine-Mark-Ⅲ(ver:3.3333333333333...))』
[道具]:なし
[所持金]:ささやか。現金はあまりない。
[思考・状況]
基本方針:大人になる。
0:生きる。好きなように、赴くままに。
1:満天かアンジェさんの救援に向かう。
2:取り急ぎ、ナイン達と行動を共にする。山越のことは変わらず信用してないが、その目的は利用したい。
3:……ありがとな、キャスター。
4:狩魔さん、ゲンジ――死んじまったのか。
5:あの刺青野郎ってば最悪!!
6:ナイン……お前さ、その……かわいいな……耳とか触っても良――いや待て何言ってんだアタシは!(うがーっ)
7:天枷仁杜は気に入らない。……だけど、カワイソウだ。
8:伊原、薊美――。
9:初代(ワン)に関しては常に警戒。あんまり信用しすぎない。あとびーびーうるさい。
[備考]
神寂縁(高浜総合病院院長 高浜公示)、および蛇杖堂寂句は、それぞれある程度彼女の情報を得ているようです。

華村悠灯の肉体は、普通の意味では既に死亡しています。
ただし土壇場で己の真の魔術の才能に目覚めたことで、自分の魂を死体に留め、死体を動かしている状態です。
魔力消費の影響をある程度無視できるようです。ただしあくまで誤魔化しているだけなので、度が過ぎると多分死にます。

華村家の魔術は『死狼魔術』です。

永久機関への適応を完了しました。
『時計じかけの方舟機構(Perpetuial motion Machine-Mark-Ⅲ(ver:3.3333333333333...))』には自我を無限時計文明の基準に合うよう矯正する機能が搭載されています。
試作品なので働きはまだ限定的ですが、悠灯の意思が弱まれば侵食が進行するでしょう。
また永久機関の影響で、サーヴァント不在のペナルティを無視できます。

ライダー(ハリー・フーディーニ)と再契約を結びました。


【ライダー(ハリー・フーディーニ)】
[状態]:第一生(ワン)、令呪『悠灯と仲良くね。悲しませたりしちゃダメだよ』、華村悠灯と再契約
 一生→健康
 二生→健康
 三生→健康
 五生→健康
 九生→疲労(小)
[装備]:九つの棺
[道具]:
[所持金]:潤沢(ハリーのものはハリーのもの、そうでしょう?)
[思考・状況]
基本方針:白紙化。山越風夏の死亡で何もかも前提が変わってしまった。
0:悠灯ちゃんはいい子。守ってあげないと…… / 有意な経験だった。もう一度封じられる前に、さて、次は何を学ぼうか。
1:そうか、死んじゃったか、マスターで狂人の方の〈脱出王〉は。
2:神寂祓葉は凄まじい。……なるほど、彼女(ぼく)がああなるわけだ。
3:これは面白い。さあ、君は星になれるかな?
[備考]
準備の時間さえあれば、人払いの結界と同等の効果を、魔力を一切使わずに発揮できます。

華村悠灯と再契約を結びました。

宝具『棺からの脱出』を使って第一生のハリー・フーディーニと入れ替わりました。

初代(第一生)のハリー・フーディーニ:
生前の名は「ハリー・フーディーニ」
リーゼロッテの解脱後、最初に生を受けた始祖のハリー。
両性具有者で、女性人格の『ハリー』と男性人格の『フーディーニ』が常に共存している。
歴代最高の技術を持つが、その分脱出への狂いっぷりも随一。特に『フーディーニ』の人格は、気が向けば主人との契約からも抜け出したがる。

第二生のハリー・フーディーニ:
生前の名は「山越風奇(やまごえ・ふうき)」
一度目の聖杯戦争に"参加しなかった"山越風夏の前世。
"脱出"の起源覚醒者。魔術的な能力を持たぬ代わりに、超抜の技巧と体幹を備える。

第三生のハリー・フーディーニ:
生前の名は「蛇杖堂寂尊(じゃじょうどう・じゃくそん)」、かの蛇杖堂寂句の2人で1人前の「共同後継者の片割れ」です。
蛇杖堂寂句の医術と体術を継いでおり、治癒魔術や治療薬の知識もありますが、治癒魔術の実践はできません。
寂句に自尊心をズタズタにされており、己の能力を過小評価する傾向がありますが、外科医としての腕と格闘術は超一級です。

第五生のハリー・フーディーニ:
神聖アーリア主義第三帝国陸軍所属。第四次世界大戦を生き延びて大往生した老人。
スラッグ弾専用のショットガンを使う。戦闘能力が高い。
ヴァルハラの神々に追われている妄想を常に抱いており話が通じない。


【月光夢幻神界〈渋谷〉・『月姫真体・堕落恒星』内界 再構成地平・南方・"千里の砂浜"/二日目・午前】

【伊原薊美】
[状態]:魔力消費(極大)、疲労(極大)、魅了(自己核星)、意識朦朧、事実上の行動不能状態
[令呪]:残り二画
[装備]:
[道具]:騎兵隊の六連装拳銃、『災禍なる太陽が如き剣(レーヴァテイン)』
[所持金]:学生としてはかなりの余裕がある
[思考・状況]
基本方針:全てを踏み潰してでも、生き残る。
0:……あの剣は、どこに。
1:私は何にだって成れる、成ってやる、たとえカミサマにだって。
2:殺す。絶対に。どんな手を使ってでも。
3:太陽は孤高が嫌いなんだろうか。だとしたら、よくわからない。
4:最後に首を獲るのは私。でも、そのためには準備が必要みたいだ。
[備考]
※自らの異能を活かすヒントをカスターから授かりました。
→上記ヒントに加え、神寂祓葉と天枷仁杜、二種の光の影響によって、魅了魔術が進化しました。

『魅了魔術:他者彩明・碧の行軍』
 周囲に強烈な攻勢魅了を施し、敵対者には拘束等のデバフ、同盟者には士気高揚等のバフを振りまく。

『魅了魔術:自己核星・茨の戴冠』
 己自身に深い魅了を施し、記憶した魔術や身体技術の模倣を実行する。
 降ろした魔術、身体技術の再現度は薊美の魔術回路との相性や身体的限界によって大きく異なる。
 ただし、この自己魅了の本質は単なる模倣・劣化コピーではなく。
 取得した無数の『演技』が、薊美の独自解釈や組み合わせによって、彼女だけの武器に変質する点にある。

※ウートガルザ・ロキから幻術による再現宝具を授かりました。
 ・『災禍なる太陽が如き剣(レーヴァテイン)』
 対神、対生命特攻。巨人の武具であり、神の武具であり、破滅の招来そのものである神造兵装――の、再現品。
 ロキの幻術で生み出された武器であるため、薊美が夢を見ている限り彼女のための神殺剣として機能を果たす。
 逆に薊美が現実を見れば見るほど弱体化し、夢見ることを忘れた瞬間にカタチを失い霧散する午睡の夢。
 セキュリティとして術者であるロキ、そして彼の愛しの月である天枷仁杜に対して使おうとすると内蔵された魔術と呪いが担い手を速やかに殺害する仕組みが誂われている。
 サイズや重量は薊美の体躯でも扱える程度に調整されている様子。
 →ロキの消滅により、仁杜に対し使用できない呪いが消えているようです。

※トバルカインの剣技と鍛冶の技を、深いレベルでラーニングしました。
 ただし、トバルカインとの対決時には、トバルカイン側からの魔力付与もあったため、それがない状態での再現性は不明です。

※英霊トバルカインの遺言で、名刀トバルカインを託されました。
 ただし、魔術的な強制力などを一切伴わない、ただの口約束に過ぎません。

【ライダー(ジョージ・アームストロング・カスター)】
[状態]:疲労(中)、心臓にダメージ(中)、左鎖骨切断、複数の裂傷と刀傷、魅了
[装備]:華美な六連装拳銃、業物のサーベル(トバルカインからもらった。とっても気に入っている)
[道具]:派手なサーベル、ライフル、軍馬(呼べばすぐに来る)
[所持金]:マスターから幾らか貰っている(淑女に金銭面で依存するのは恥ずべきことだが、文化的生活のためには仕方のないことだと開き直っている)
[思考・状況]
基本方針:勝利の栄光を我が手に。
0:令嬢を、守らねば。
1:この『幻』をお嬢さんの許に連れて行く――うぅむ。
2:神へ挑まねば、我々の道は拓かれない。
[備考]
※魔力さえあれば予備の武器や軍馬は呼び出せるようです。
※シッティング・ブルの存在を確信しました。

※エパメイノンダスから以下の情報を得ました。
 ①『赤坂亜切』『蛇杖堂寂句』『ホムンクルス36号』『ノクト・サムスタンプ』並びに<一回目>に関する情報。
 ②神寂祓葉のサーヴァントの真名『オルフィレウス』。
 ③キャスター(ウートガルザ・ロキ)の宝具が幻術であること、及びその対処法。
※神寂祓葉、オルフィレウスが聖杯戦争の果てに“何らかの進化/変革”を起こす可能性に思い至りました。
※“この世界の神”が未完成である可能性を推測しました。
※令呪および、伊原薊美の魅了魔術によって霊基が強化されました。


※再構成地平南方の千里の砂浜に、高天小都音の再現体が出現し、カスターおよび伊原薊美に接触しました。
 ロキの再現体と異なり、十全な知性を備えているようです。
 高天小都音は、自身が本当の高天小都音ではなく、再現体でしかないことに勘づきました。


【月光夢幻神界〈渋谷〉・『月姫真体・堕落恒星』近辺/二日目・午前】

【香篤井希彦】
[状態]:〈恋慕〉、気絶、全身にダメージ(極大)、蝗害の毒素、右顔面に火傷痕
[令呪]:喪失
[装備]:黄金の林檎の欠片
[道具]:式神、符、など戦闘可能な一通りの備え
[所持金]:現金で数十万円。潤沢。
[思考・状況]
基本方針:総てを手に入れる。
0:全部やろう。僕は、もう妥協しない。
1:次だ。次はもっと上手くやる。
[備考]
※神寂祓葉との戦闘で一度死亡し、真備の秘術によって蘇生されました。
※黄金の林檎の欠片を入手しました。希彦は『現実を騙す幻術』の習得の鍵になると踏んでいます。
 実際の効果については、後続の書き手にお任せします。
 →絶大な力を秘めていますが、天枷仁杜が生存している間は真価を発揮できないようです。
  名刀はイリスに奪われましたが、この林檎の欠片は今も希彦が所持しています。


【キャスター(吉備真備)】
[状態]:全身にダメージ(大)、魔力消費(中)
[装備]:
[道具]:『真・刃辛内伝金烏玉兎集』
[所持金]:希彦に任せている。必要だったらお使いに出すか金をせびるのでOK。
[思考・状況]
基本方針:知識を蓄えつつ、優勝目指してのらりくらり。
0:首尾は上々。どいつもこいつもいい具合に育っとるなぁ。
1:希彦の選択に思うところはあるが、魂から望んだことなら止めはすまい。その上で面白可笑しく愉しむまでよ。
2:カドモスの陣地は対黒幕用の拠点として有用。王様の懐に期待するしかないのう。
3:〈ニシキヘビ〉なる存在への興味。ともすれば非道い難物が出てきそうじゃ、楽しみ楽しみ。
[備考]
※〈恒星の資格者〉とは、冠位英霊の代替品として招かれた存在なのではないかという仮説を立てました。
※まがい物の生活続命の法を用い、香篤井希彦を蘇生させました。
 契約のパスが繋がっていることでどうにか出来たウルトラCなので、恐らく再現性はありません。


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最終更新:2026年10月05日 01:25