おれが声を上げて泣いたのは、小4の頃のあの夜が最後だった。
給食のバナナを食べていたおれの姿を見てクラス中のみんなが大爆笑し、
担任がそれを咎めようとしたが、おれの姿を見て耐えられずに牛乳を大爆発させたこと。
それだけならいつものことだった。
その夜のニュース、生涯未婚率とやらが上昇を続けていて、
男はだいたい4人にひとりが結婚できないまま一生を終える、という話を聞いたことだ。
そのとき、クラスには16人の男がいた。"格付け"ができていた。
格が高いのは、スポーツのできるやつ、金持っててトレカやゲームを一杯持ってるヤツ、話の面白いヤツ。
そうでない、格が低い方から4分の1が、おそらく一生結婚できないのだと、そのニュースでおれは思った。
16人の、格の低い下から4分の1、4人。
一人目、小4なのに、未だにひらがなの書き取りもおぼつかないあいつ。本来は養護学級に通うべきだったはずの。
二人目、肥満児。食うこと以外何をするにも遅く、体育の授業ではいつも生暖かい拍手で迎えられていた。
三人目は、毎日同じ穴の空いた服を着ていて、汗臭い臭いを漂わせていた。登校するとたびたび生傷をつくっていた。
そして、四人目が、たぶんおれなのだ。その時から自分でも信じがたいほどサルに近い顔をしていた。
北京原人あたりに先祖還りしたような顔だった。
授業で当てられて完璧に答えても、間違えても、笑いが起きた。サルだから。
あるいは、体育や音楽の実技でも、成功しても失敗しても笑いに包まれた。
おれは嗤いの檻に囚われたサルだった。
生涯のパートナーはおろか、友人の一人さえも作れない孤独が一生続く事を、そのニュースで改めて突きつけられた気がした。
その夜、おれは声を上げて泣き――その後、涙を流すことはなくなった。
おれが泣こうが喚こうが、嗤いの種にするだけで、その感情を酌んでくれる人間など、
誰ひとりあらわれることなどないのだと悟ってしまったのだから。
結局おれは、ゆうべに親父が死んだ時も一滴も涙を流さなかった。
◆ ◆
おやじは優しさと弱さをはきちがえた、ばかな男だった。
おれが中学に進学するころのこと。おやじの不倫が原因ということで母親と妹と別れた。
おやじは今までも給料の半分以上を養育費として送り続けていた。
おれとおやじは、あの女たちとの面会を禁じられた。
おれもおやじも母親もB型で、おれやおやじと似つかない容姿の妹だけがAB型だったが、
おやじは疑いの声を挟もうともしなかったし、おれの口も塞いだ。
男ふたりの貧乏ぐらしとなったおれたち親子は公営住宅、いわゆる団地の、ひときわボロいところに引っ越した。
そしておやじはそこで民生委員という仕事を始めた。本来の地方公務員という仕事に加えて、である。
民生委員がどういう仕事かというと、地域の高齢者や障害者や母子家庭、
そういう困り事を抱えていそうな人々の様子を見たり、行政サービスの情報を提供をする仕事だ。
この仕事は基本的に無給だ。だから公務員との兼業ができる。
習い事を辞めて暇になったおれも、その仕事につきあわされた。
で、その民生委員という仕事がまた過酷だ。
東京23区の古い団地は高齢化が進み、ほぼ限界集落の様相を呈しているところもぽつぽつ出始めている。
おれたちが移り住んだところもそうだった。人が住む部屋は3分の2は独りぐらしの老人だった。
民生委員が世話しなければならないのは、その中でもひときわ問題を抱えた入居者だ。
問題の少ない入居者はだいたい、まだ自分でどうにか暮らせるか、親族が世話を焼いているかだからだ。
"問題"の内容は様々だ。
いずれ使うかもしれないと、なんでもかんでも溜め込んで、部屋をゴミ屋敷に変えるばあさん。
ボヤ騒ぎが起こったので掃除しようとすると、「カーーーーーッ」と威嚇してきた。
認知症――ボケが進んで、おれたちのことを孫や息子と間違え、会いに行くたびにるじいさん。
電話で"息子"に現金を運ぶように言われたので止めたら、お前のような息子をもった憶えはない、と罵られた。
"問題"は様々でも、たった一つ、絶対の共通点があった。孤独だ。
孤独なために、老いて衰えた人間性を指摘する者も、破綻した生活を正す者もいなかった。
おやじたち民生委員が最後の砦であり、それも穴だらけの水槽を素手でふさぎながら水を足すような虚しい営みだった。
途中でどんなに成功した人生を歩んだとしても、おれも最後にはこうなるのだ。
孤独を運命づけられたおれは。
極めつけの問題"児"がいた。
背中から肩、腕に掛けて派手な彫り物があった、小太りのじいさんだった。
シモの始末ができなくなり、部屋はいつも糞の臭いで満ちていた。
おむつをおれとおやじで二人で替えてやらねばならなかったが、そのトシにしてはありえないほど力が強く、
多少腕力におぼえのある二人がかりでもあざだらけ、クソまみれになることがしばしばだった。
押さえつけるときは、腹に響くようなドスの利いた声でわめき、肝が冷えた。
そのじいさんに、おやじは刺されて死んだ。
たまたま遅れてそのじいさんの部屋に着いたとき、おやじはすでに失血で事切れていた。
彫り物のじいさんは、警察に取り押さえられるまでおやじのつくった血溜まりに糞をこぼしながら、
腹に響く罵声をまきちらしていた。
おやじの葬儀は、お通夜や告別式などといった面倒で金のかかる儀式を省いた、最もシンプルなものにした。
おやじの死体の入った棺に花をあげ、火葬炉で焼くだけ。
坊主も神父も呼ばない。きっと、仏も神もおれたちを見ていない。
宗教なき、原始の葬儀。
遺体は万一の蘇生を考慮して、24時間は安置する必要があるという。
幸い火葬場に空きがあり、最速でおやじは荼毘に付されることとなった。
それら諸々のことが日付の変わる深夜に決まって、おれはようやく寝られる、と思った。
それだけだった。
◆ ◆
ざっく、ざっく、ざっく、ざっく。
おれは穴を掘る夢を見ていた。
握っているのは、木の柄に鋭い石をくくりつけただけの、ひどく原始的な槍だ。
灰色の硬い地面を槍で削り続けていると、案の定、木の柄が折れた。
柄が折れたので、石の穂先を握って固い地面に挑み、それもほどなくして割れた。
石を握っていた手の皮が痛い。革手袋のように固い皮膚の、手の皮が。
結局、穴はほどんど素手で掘ることとなった。
指の爪を何枚も剥がし、血まみれになるほどに一生懸命に掘ったのは人の入る大きさの穴。――墓穴だ。
穴に入れるのは、息子だ。我が息子だと、穴を掘っていた夢の主観の、おれが認識していた。
まだヒゲも生えていない、赤い髪の我が息子を、おれはそっと穴に横たえた。
手足を折りたたみ、女の胎の中にいたときと同じポーズにして、花を被せた。。
きれいな花を、この季節に咲くきれいな花を、見る限り摘んできて、土とともに被せた。
また女から出てきて、今度こそ大きく育つことができるように。このきれいな花で。
その切なる感情を言葉にするなら、それは祈り、というものだったのだろう。
叶わぬ祈りと知りながら、そうせざるを得なかった、"おれ"の祈りだ。
おれは、祈りが決して叶わないことを知っていた。
おれの息子を産んだ女は、すでに狩りで負った傷がもとで命を失っていた。
おれの他に、今まで生きてきたこの一帯にヒトの生きていた形跡は見つからなかった。
おれは、すでに季節が40回めぐるほど長く生きていて、老いていた。
何よりおれは、たった独りの力でこれからやってくる冬を生き残る保証はなかった。
雲にかすんで海へ沈んでゆく太陽に、"おれ"は叫んだ。
真っ暗に沈んでゆくような夜に吸い込まれて、叫びはどこへもゆかずに消えた。
◆ ◆
おやじの葬儀は何の問題もなく終わった。
葬儀屋と、おやじの職場の上司である初老の女しか来なかったから、問題は起こりようがなかった。
重油で1時間焼かれたおやじの骨の、一部を小さな箱に入れて渡されて、それで葬儀は終わりだった。
火葬場の敷地を出ると、俺を呼び止める声があった。
180cmはあろうかという筋肉質の長身を包む、一分の隙もないビジネススーツ。
ビシリと整えられたツーブロックヘア。
そして、あの攻撃的なアルカイックスマイル。4年前に見たきりで、それでも忘れられない顔。
あの女――俺の血縁上の母親が、離婚調停で連れてきた辣腕の弁護士。
おれのおやじの不倫の証拠を無からつかみ、おやじの給料の半分以上を養育費として支払う誓約を迫った男。
何の用だ、とおれがあの弁護士に警戒の意識を向けた瞬間である。
バチリ、とおれの体の中で、リレースイッチが動作する大げさな音が聞こえた気がして――おれの視界が切り替わった。
あの弁護士の目から、俺に向かう矢印が見える。
矢印には『侮蔑』『害意』『簒奪』などという言葉が付属している。
突然の変化に戸惑っていると、その弁護士は火葬場に似つかわしくない、
明朗、ハキハキとしたハリのある声で挨拶と哀悼の言葉をくれた。まるでヒーローを演じる声優のようだった。
そして、今は亡きおやじの退職金の過半も養育費として支払うこと、
母親と妹への面会禁止は今後永久に続くことを念押ししてきた。
おれが以前の調停の通りで構わない、と無関心な反応を返すと、
その瞬間に弁護士から俺へ向いていた矢印は完全に消滅して、そいつは颯爽とした足取りで外車に乗り込み、
火葬場を去っていった。
◆ ◆
団地に着いたおれを出迎えたのは、おやじを刺した入れ墨のじいさんだった。
実際のところ、出迎えようとしていたのかはわからない。
団地の構造上、おれの部屋に帰るにはあのじいさんの部屋の前を通る必要があるからだ。
たまたまそのじいさんが部屋の外にいたところに、おれが出くわしただけにすぎないかもしれない。
そもそもあのじいさんは今ごろ拘置所にいたはずだ。
拘置所でも手に負えずほっぽり出されたか。
――あるいは、おやじが死んで一晩の間に、じいさんが障害致死罪を犯していない世界に切り替わったか。
なぜそう思ったか? 一晩でおやじの血溜まりが消えるはずが――掃除して消してくれるやつがこの団地にはいないからだ。
葬式に向かうときに気づいておくべきだった。
おれに視えるのは、オムツ以外全裸の入れ墨じいさんの右手にある抜き身のドスと、
おれに向けられた極太の矢印だけだ。幼児の書いたような『ころす』という文字が添えられている。
理由はわからない、いや、きっと無いのだ。ただ、昔の習慣をくりかえしているだけなのだ。
組の鉄砲玉として戦い続け、奇跡的に老人となるまで生き残り、
ボケて敵味方の区別もつかなくなって捨てられたという、このじいさんに、人を刺す理由は。
入れ墨じいさんが吠え、腰だめにドスを構えて向かってきた。
全身を弾丸に、ドスを弾頭に。頭がイカれても肉体が動きを憶えている。くそったれが。
ドスをカバンで受ける。じいさんは体重を乗せて構わず押し込んでくる――後ろは下り階段だ。くそったれが。
踏ん張って、階段のフチで踏みとどまる。じいさんが飛びかかって蹴落としにくる。くそったれが。
無意味に大きな殺意(やじるし)はビタリと俺にロックされている。くそったれが。
おれの体は容赦なく後ろに傾ぐ。打ちっぱなしコンクリートの下り階段に。
落ちて頭打って死ぬか、入れ墨じいさんにトドメ刺されるか。くそっt――ぶつかった。背中に。何が。人だ。
人間が、俺の背中を押さえている。
赤いヒゲ面、同じ色の長い髪、蒼い瞳。着ているのは、毛皮か。
原始人のような風体。だが、その顔かたちは原人などと嗤われ続けたおれよりよほど"人間"に近い。
入れ墨じいさんの矢印が赤い男に向く。
ドスの切っ先は――俺のカバンから無理やり引き抜こうと力がかかり、バシリ、と乾いた音を響かせ、あっさりと折れた。
入れ墨じいさんのノドには、いつの間にか、木の棒が突き立っていた。
よく見るとそれは、先端に尖った石が結わえつけられている。石器時代の武器だ。
――おれは聖杯戦争というものに巻き込まれたらしい。
この石器時代ふうの男が、バーサーカーという、おれにあてがわれた戦力――サーヴァントというらしい。
だがそんなことを知ってなお、おれの頭は眼の前の入れ墨じいさんの――今や死体となったこいつをどうするか、
ということでいっぱいだった。
◆ ◆
結論からいうと、死体はどうとでもなる。
バーサーカーが俺の元に現れたとき、そういう知識が出現していた。
このバーサーカーは人間の死体を5人集めることで、バーサーカーのクローンを1人生み出すことができる。
年老いて壊れてしまった人々が、この団地には何人もいる。
誰からも愛されず、誰も愛することもできなくなってしまい、
周囲にマイナスの感情を撒きちらすしかできなくなった、孤独な多数が。
部屋に戻っても、ばかなおやじは死んだままだった。入れ墨のじいさんは捕まらずにいたのに。
だが、おやじの民生委員としての記録は残っていた。
この団地じゅうの、おやじの善意を無限に吸い取り、ガンマ線のように有害な感情を返す、
ブラックホールのような老人たちの記録だ。
このじいさんは息子に縁を切られて、怒鳴りつける相手がおらず困っている、
このばあさんは夫に先立たれ、遺してくれた財産も賭け事で食いつぶしてしまった。
絶望で沈もうとする老人たちをまとめて支えようとして、おれまで支える側に巻き込んで、
案の定支えきれなかった、おやじの思考は今でも理解できそうもない。
いつからか、おれはどうかしていたのだろう、他人事のように自分の行いを観ている。
今日、バーサーカーと協力して、4人の独居老人を殺した。入れ墨のじいさんに加えて、5人だ。
それらの死体を団地の屋上に運び、山と積み上げた。
桜舞う、夜の団地の屋上に。
バーサーカーが、風で舞い積もった花びらをかき集めている。おれも倣って花びらを集めた。
バーサーカーは、集まった花びらを死体の山の周りに円く並べた。
ひざまずいて、目を瞑った。
宗教なき、原始の葬儀。
死体の山から、ゴボゴボと異音が、沸騰するような異音が立つ。
死体が、死肉が、赤く泡立ち、突沸し、蒸発し、みるみるその体積を減じてゆく。
花びらの円の中に残ったのは、胎児のように身を横たえる、一人分。
バーサーカーと寸分たがわぬ姿の、テレビの再現映像で見た、ネアンデルタール人の再現標本の姿。
――現生人類(ホモ・サピエンス)の遺伝情報の中からネアンデルタール人のそれを取り出し、
彼らのクローンを生成する、幻想の力。
幻想なきゆえに滅びたとも云われるネアンデルタール人にあてがわれた、皮肉。
霊長と成り損なった彼らネアンデルタール人が、霊長の産物・聖杯に因って召喚されたのも皮肉なら、
彼らよりよほどサルに近い姿かたちの俺に彼らがあてがわれたのも、また皮肉なのだろう。
くそったれが。
◆ ◆
こうしておれたちは、誰にも目を掛けられぬ孤独な者たちを戦力へ変え続けている。
きたるべき戦争に備えて、だ。
といっても勝ち残る算段もなければ、聖杯に願う目的もない。
ゴミのように蹴散らされ、虫のように手足をもがれて辛苦を絡めて死ぬ――そんな最期を回避できるかさえ定かでない。
おれのサーヴァントは、弱い。
英霊の座、とやらに登録された存在にあって、ネアンデルタール人には、英雄がいない。
個体名さえない、ただ種族名で一緒くたにされただけのサーヴァントだ。
そして、おれも弱い。
生まれつきの腕力には多少恵まれている。
だが入れ墨じいさんと当たったときのように、玄人相手では手も足も出ない。
勝てば何でも願いが叶うという戦争だ、生まれたときから――あるいは生まれる前から、
この戦争に備えている連中がいるに違いない。
苦しまずに殺してもらえるなら、御の字だろう。
それでもおれはきたるべき戦争に備え続けている。
バーサーカーのクローンの材料として、年老いて壊れてしまった孤独な人間を、殺し続けている。
そのこと自体が、きっと、楽しいのだ。
誰からもプラスの感情を向けられず、誰にもプラスの感情を向けることのできない存在をこの世界から消して、
自分たちの戦力というプラスに変える行為で、少しだけ、胸のすく想いがするのだ。
おれに明確な目的があって、それに向かった行動ができている、そのこと自体が、生まれて初めてのことなのだ。
万が一にもないことだが――もし、もしもおれが聖杯に願いを託すことがあるとすれば――。
きっとおれは、いま殺し続けているような哀れな状況に陥ってしまった老人を、
苦しまずにあの世に送るシステムを築きたい。そう、考え始めていた。
おれ自身が、そうなった時に苦しまずに済むように。
【クラス】
バーサーカー
【真名】
ネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)/Homo neanderthalensis @更新世
【属性】
混沌・中庸
【ステータス】
筋力C+ 耐久C+ 敏捷C 魔力E 幸運E 宝具A
【クラススキル】
狂化:D
理性と引き換えにパラメーターを上昇させるスキル。
このバーサーカーの場合、筋力と耐久の上昇と引き換えに発話能力を失っている。
思考力は正常である。
【保有スキル】
霊長の成り損ない:A
現在の地球の霊長である現生人類ホモ・サピエンスと道を違え、滅びた者のスキル。
バーサーカーは、現生人類ホモ・サピエンスの文明の恩恵を一切受けない代わりに、その文明に害されることもない。
このスキルの効果によって、バーサーカーに向けられた武器はネアンデルタール人の文明の到達点、
中期旧石器時代の器物と同等の効果しか発揮しなくなる。
バーサーカーに向けて振るわれた刃はいかなる業物であっても剥片石器並みの切れ味にしかならない。
銃火器はただの棒きれと化す。機械類は粗雑な石組み細工となる。
騎獣はいかなる訓練を受けていても野生に染まり、
既存の生物を合成した姿の幻獣の類は、バーサーカーに敵意を向けている限り合成前の生物に分解された姿となる。
魔術もまたホモ・サピエンスの文明の産物であることから、バーサーカーには効果を発揮しない。
デメリットとして、バーサーカーに道具を持たせても、中期石器時代の器物と同様の機能しか発揮しなくなる。
ホモ・サピエンスの築いた文明と創造を否定し、石器時代の殴り合いを強制するスキルである。
但し、各マスターの証として配られた懐中時計に効果はない。
また、以下の場合にこのスキルは無効化される。いずれも、ネアンデルタール人絶滅の原因となった説に由来する。
下記の他に絶滅の原因となった説があるなら、それに由来するものでもこのスキルを無効化できる。
・Bランク以上の神性、Bランク以上のカリスマを持つ者
(ネアンデルタール人は信仰を頂くことができなかったために共同体の大規模化ができず、
現生人類との生存競争に敗れて絶滅したという説がある)
・星の開拓者、星の航海者、文明作成など、文明の発展に関わるスキルを有する者
(ネアンデルタール人は石器等の文明の発展の遅れから現生人類との生存競争に敗れて絶滅したという説がある)
・自然災害に由来する攻撃
(ネアンデルタール人は気候変動などの自然災害がきっかけで絶滅したという説がある)
勇猛:C
威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化し、格闘ダメージを向上させる。
ネアンデルタール人は弓矢や投槍器といった飛び道具に頼らず、
石槍などによる白兵戦によって大型の獲物を狩ったとされる。
ゆえに、勇猛さはネアンデルタール人の最低要件なのである。
怪力:E
一時的に筋力を増幅させるスキル。
低ランクのため効果時間は短く、反動のダメージを受ける。
要は意図的な筋力のリミッター解除にすぎない。
ネアンデルタール人は、出土した骨格から現生人類に比べて筋肉質かつ屈強であったと考えられる。
自己回復(魔力):E
本来はアヴェンジャーのクラススキルである。
このランクでは後述の宝具による大量現界の魔力消費を軽減するにすぎない。
現生人類と同時期に生きたが、彼らとちがってネアンデルタール人は現代まで永らえることができなかった。
そのことがただ、さびしいのだ。
【宝具】
『いちかけるご は いち(One over Five)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:1 最大捕捉:5n
現生人類であるホモ・サピエンスの遺伝情報には、ネアンデルタール人から移入したとされるものが含まれている。
その比率は現在では数パーセントであるのが定説だが、20~40パーセントが残存しているという主張の学者もいる。
このことに由来した宝具である。
腐敗していない現生人類(NPC)の死体を5人分の質量だけ集めて、弔いの儀式を行うことで、
1体分のバーサーカーのクローンを生成する。
5人に相当する質量であれば、5人以上からバラバラに集めてきても構わない。
また、5の倍数の人数分を集めてきて、まとめて生成することも可能。
クローンは最初に召喚したバーサーカーと全く同じ容姿、能力を有する。
また、最初に召喚したバーサーカーが倒れてもクローンがバーサーカーの代わりを果たす。
バーサーカーのクローンたちは魔力のもつ限り何体でも同時に現界させることができ、
霊体化してキープしておくこともできる。
『第零次世界大戦(World War Zero)』
ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:200 最大捕捉:-
スキル「霊長の成り損ない」の効果範囲を周囲一帯に拡大する、固有結界。
周囲のありとあらゆる現生人類の文明の産物を、旧石器時代の文明レベルまで劣化させる。
ただの石組みと化した地上・地下の都市構造物はひとたまりもなく崩落し、自動車は走行したまま分解し、
スマートフォンはただの石版と化す。各種魔術も効果を失う。
無効化の条件も、「霊長の成り損ない」と同様である。
【weapon】
ムスティエ型石器とも呼ばれる剥片石器。
これらをナイフのように扱ったり、木の枝などに結びつけて石槍としている。
同時期に活動していたホモ・サピエンスと違い、弓矢や投槍器のような飛び道具を使用していた形跡は発見されていない。
【人物背景】
かつてホモ・サピエンスと血を分け、彼らと同時期に活動していたホモ属の一種。
近年の研究成果により、ホモ・サピエンスと交配可能なほど生物学的に近い関係にあることがわかっている。
実際、現生人類の遺伝情報のうち数パーセントはネアンデルタール人から移入したものであるとされている。
脳容積は現生人類とほぼ同等、骨格から推定される発話能力についても
同時期のホモ・サピエンスと遜色がないといわれている。
また、ネアンデルタール人の遺したとされる洞窟壁画や埋葬跡も発見されており、
その知性や精神性もホモ・サピエンスに近しいものを有していたと考えられている。
絶滅した時期は4万年前というのが有力な説だが、2万4000年~2万8000年前のイベリア半島、
ジブラルタルでネアンデルタール人の使用していた石器と同様の特徴を持つ石器が発見されており、
その時期が絶滅時期であるという説もある。
彼らの絶滅の原因は上述のスキル説明のとおり、諸説あるがはっきりとしていない。
――あるいは、現生人類に血を遺して未だ生き残っている、ともいえる。
【身長・体重】
160cm/80kg
【外見・性格】
2024年現在一般的に見られる、ネアンデルタール人の成人男性の復元標本をベースとする。
赤い体毛に青い瞳、ずんぐりとした体型と太い手足が特徴的。
衣服は獣の骨でなめした毛皮である。
近年の研究成果による復元模型は現生人類のコーカソイドに近い顔かたちとなっており、
服装さえ整えれば現生人類と見分けがつかない、といわれている。
なお、上述の宝具でクローンを増やしても、個体差は生じない。
狂化の影響により発話することはできないが、思考は正常であり、マスターの言葉も理解する。
このバーサーカーとして現界した個体には、ジブラルタルで妻子を喪い、最後の独りとなった悲嘆が刻まれている。
【聖杯への願い】
地球に、我々ネアンデルタール人の繁栄を。
【マスターへの態度】
父を喪ったという境遇に対して思うところはあるが、聖杯を獲得することの方が優先度は高い。
より強力なマスターが野良になっているなら、乗り換えも選択肢に入る。
【名前】
覚明ゲンジ(原児)/Genji Kakumei
【性別】男性
【年齢】16
【属性】秩序・中庸
【外見・性格】
北京原人のような容姿をしており、幼少時は彼の一挙手一投足に囀るような笑い声が遠巻きに渦巻いていた。
絶え間なく浴びせられた周囲からの嘲笑の声は、彼の人格形成に大きな影を落とした。
彼は極度の人間不信となり、感情を表に出すこともめったになくなった。
高校生となった現在、露骨に容姿を嗤われることは流石になくなったが、ここ数年、彼が人前で笑顔を示したことはない。
軽い離人症の傾向があり、自分の行いさえどこか他人事のように感じている節がある。
この聖杯戦争によって芽生えた異能は彼の人間不信を癒やすと期待できるものだったが、
巡り合わせの悪さから却って悪化させることとなっている。
【身長・体重】
155cm/70kg
脚が短く、腕と胴が長く、毛深い。体脂肪率10%以下の筋肉質。
天性の筋力に恵まれており、たとえば握力は両手とも100kgある。
【魔術回路・特性】
質:C 量:D
特性:<矢印>
【魔術・異能】
特性:<矢印>
視認している人物が何かに対して向けている感情・意識を、矢印と簡単な言葉で視覚化することができる能力。
要はその場にいる人物たちの相関図を即席で作ることができる能力である。
向ける感情が大きいほど、矢印は太くなる。
任意でオン・オフが可能かつ、対象を絞ることもできる。魔力等の消耗はきわめて小さい。
自分自身と、自分自身の従えるサーヴァントの発するものだけは視覚化することができない。
基本的に矢印の始点・終点の両方を視認していないと能力は発動しないが、
強力な感情の場合は、始点あるいは終点だけを視認していても矢印が視えることがある。
情報戦での有用性は大きいが、対サーヴァントの戦闘速度では無意味といっていい。
【備考・設定】
12歳の頃に両親の離婚を経験する。
その原因は父親の不貞であるとされるが、実際に不貞を働いていたのは母親の方で、
ゲンジの妹(当時6歳)は彼や父とはまったく似つかない容姿をしていた。
敏腕の弁護士に完璧にやり込められた父は、母親と別れた妹に毎月の収入の半分以上を養育費として払うはめになっている。
また、ゲンジと父ともども母と妹との面会は完全に禁じられている。
小学生の頃、ゲンジは柔道に励んでいた。
講師によればこのまま努力を続ければ日本代表も夢ではない、という素質を有していたという。
しかし、父の離婚に伴う経済的事情により、中学以降は柔道を諦めており、
父の民生委員としての仕事につきあわされていた。
ゲンジの父方の家系は岐阜県の山中で、占い師・あるいは祈祷師のような仕事をしていた。
あやかしの血を引く者として、人の心を読み当てることができたという。
近代化によってその生業は途絶し、ゲンジや、彼の亡き父も過去の生業を知る機会はなかったが、
今回の聖杯戦争で彼に芽生えた異能という形で、先祖の異能は限定的に再現された。
ゲンジはあるアイドルの密かなファンである。
あくまで密かに推しているため、ライブや握手会等イベントに参加することはなく、
少ない小遣いからグッズやCDを購入するのみであった。
異能に目覚めてからのある日、ゲンジと同じアイドルの推しを公言しているクラスメイトに
ゲンジが隠し持ち歩いていたグッズをぐうぜん目撃された結果、
そのクラスメイトの彼女への感情は『激推し』→『嫌悪』に変化している。
そのことをゲンジは深く悔やんでいる。おれの好意は呪いでしかないのか、と。
【聖杯への願い】
大前提として、勝ち残れる可能性があると思っていない。
それでももし勝ち残ることができたなら、人類に新たな寿命のシステムを実装させたいと考えている。
ある一定の年齢以上に達していて、プラスの感情を誰かに渡すことも受け取ることができなくなった時に
天寿を迎えるシステムである。
【サーヴァントへの態度】
到底勝ち残れるようなサーヴァントではないと踏んでいる。
それでもマスターである自分を守り従ってくれている点だけは幸運に感じている。
自分に付き従うような強大な存在を召喚したとしても、真っ先に自分が殺されるというのが、ゲンジの考えである。
おれは、あいつを、見た。
いつ、どこで、という記憶はすっぽりと抜け落ちてしまっている。
あまりに"あいつ"の様子が異常だったからだ。
白くて長い髪の女子高生が、頭のアホ毛を揺らしながら一人でにこやかにスキップしていた。
何がそんなに楽しそうなのかと、彼女を視界に入れて、<矢印>を起動した。
巨大な、あまりにも巨大な矢印が、何本も彼女に狙いを定めていた。
その矢印の太さは、スキップする彼女の身長を遥かに超えていた。2m以上は、ある。
ありえない、とそのときおれは思った。
常人の精神力で出すことのできる太さの矢印ではないからだ。
普通の人間が、本気で殺す、という感情で矢印を向けたとき矢印の太さが、マンガ雑誌の縦の長さくらいだ。
入れ墨じいさんに襲われた時がそうだった。
2mなどという太さの矢印を出せば、それが殺意であれば、今すぐ飛び掛からずにはいられないほどだろう。
恋慕であれば、今すぐ服を脱いで飛び掛からずにはいられないほどだろう。
そんな太さの矢印を向けられれば、おれのような常人なら恐怖で発狂している。
矢印に付属する文字の内容は読めない。恐ろしくて、読む、という行為に挑めなかった。
あの女子高生はそのクソデカ矢印の存在を知ってか知らずか、平然とニコニコしていた。
フィルターを切り替える。あいつに向かう矢印を消し、あいつから伸びる矢印を表示。
『楽しみ』
ありえない。あの女子高生は、クソデカ矢印の主に対して、そういう感情を返しているだけだった。
全員の矢印に気づいて返している訳ではないようだが、
ともかくあいつがクソデカ矢印に返しているのは、新作ゲームを買った時や、
テーマパークにでも向かう子供が発するような『楽しみ』という感情にすぎなかった。
おれの視界外からクソデカ矢印を向けて、それでも虎視眈々と機を伺うことのできるような連中。
天才として生まれ、英傑として育ったような、そんな精神力をもった連中だ。
あいつに矢印を向けるやつらは。
そいつらに向かって楽しみ、とは、いよいよもってイカれている。
ブラックホール。本物だ、老いて壊れたジジババと並べて形容するのはもったいない、
本物のブラックホールが現れた。銀河ひとつをまとめて引き付けぶん回す、超巨大ブラックホール。
おそらくこの聖杯戦争の中心に限りなく近い位置に、あいつがいる。
あるいは、あいつが聖杯戦争と無関係な人物だとしても、あいつに向かって聖杯が無理やり引きずり寄せられる。
いまあいつを襲えば、聖杯を獲れる――おれにはとても無理だ。
あいつにクソデカ矢印を向ける連中に、粉々にされる。あいつに指いっぽん触れられないままに。
それはきっと、さびしい。
それでもここが、おれの優勝の最大のチャンスだった。いまや背中を向けて去ってゆく、最大のチャンス。
おれはそれを、あえて見逃した。おれが優勝して叶える願いはきっと、大して重要なことではない。
今ここで、このくそったれな遊戯舞台から退場してしまうことが、たまらなくさびしかったのだ。
あいつと正面きって向かい合って、おれにも『楽しい』という感情を向けてほしいのだ。
そういう感情を、おれはついぞ受け取ることができずにいたのだから。
ああ、おれは、ずっと、さびしかったのだ。
――おれのおやじも、さびしかったのだろうか。
【マスターの追加情報】
1ヶ月の予選期間のいずれかで、
神寂祓葉を目撃しています。
場所・状況は後続の書き手に任せます。
最終更新:2024年07月19日 21:42