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2.
今日もカナと藤岡が親しそうに話している。それに比べ、自分は藤岡とそれほど親しくなっていない。
そのような嘆きを持ちつつも、リコはいつも通り視線を藤岡に送り、2人の会話に耳を傾けていた。
しかし、今日のそれはいつもとは違い、リコに大きな衝撃を与えることとなる。
「藤岡、お前今日は部活なかったよな?」
「うん、ないけど、どうして?」
「いや、ハルカに伝言を頼まれたんだ。4時にスーパーでってさ。」
「うん、わかった、ありがとう。」
「全く、お前達ときたら買い物ばかりじゃないか。付き合ってるんなら、デートの1つでもしたらどうだい?」
「ははは、付き合いだしたばかりからね。」
(え? 付き合ってる!?)
2人の会話を聞いて動揺しつつも、自分の側を通りかかったクラスメートに尋ねることにした。
「ケイコ! どういうこと!?」
「キャァ!!」
友人ケイコのスカートの端を掴んで立ち止まらせ、今の会話について聞こうとする。
「ちょ、ちょっと、リコ! スカート掴まないでよ!」
スカートを掴まれたことを抗議するも、リコはおかまいなしに聞いてきた。
今までとは比べものにならないほど、必死な様子が伝わってくる。
「藤岡君、誰かと付き合ってるの!?」
「え!? えぇと…。」
ケイコは既にカナから藤岡に彼女ができたことを聞かされていた。
さすがに今回のことはケイコも言いづらいが、いずれ知ってしまうことだ。
仕方なく、自分がカナに聞かされたことを喋ることにした。
「…カナが言うには、藤岡君はカナのお姉さんと付き合うことになったそうなの。
まだデートもロクにしてないみたいなんだけど…。」
「そ、そんなことって…。」
それを聞いた途端、リコの手がケイコのスカートから力なく、離れていった。
落胆したリコを何とか慰めようとケイコが何かを言うが、それはリコの耳には届かなかった。
そのような嘆きを持ちつつも、リコはいつも通り視線を藤岡に送り、2人の会話に耳を傾けていた。
しかし、今日のそれはいつもとは違い、リコに大きな衝撃を与えることとなる。
「藤岡、お前今日は部活なかったよな?」
「うん、ないけど、どうして?」
「いや、ハルカに伝言を頼まれたんだ。4時にスーパーでってさ。」
「うん、わかった、ありがとう。」
「全く、お前達ときたら買い物ばかりじゃないか。付き合ってるんなら、デートの1つでもしたらどうだい?」
「ははは、付き合いだしたばかりからね。」
(え? 付き合ってる!?)
2人の会話を聞いて動揺しつつも、自分の側を通りかかったクラスメートに尋ねることにした。
「ケイコ! どういうこと!?」
「キャァ!!」
友人ケイコのスカートの端を掴んで立ち止まらせ、今の会話について聞こうとする。
「ちょ、ちょっと、リコ! スカート掴まないでよ!」
スカートを掴まれたことを抗議するも、リコはおかまいなしに聞いてきた。
今までとは比べものにならないほど、必死な様子が伝わってくる。
「藤岡君、誰かと付き合ってるの!?」
「え!? えぇと…。」
ケイコは既にカナから藤岡に彼女ができたことを聞かされていた。
さすがに今回のことはケイコも言いづらいが、いずれ知ってしまうことだ。
仕方なく、自分がカナに聞かされたことを喋ることにした。
「…カナが言うには、藤岡君はカナのお姉さんと付き合うことになったそうなの。
まだデートもロクにしてないみたいなんだけど…。」
「そ、そんなことって…。」
それを聞いた途端、リコの手がケイコのスカートから力なく、離れていった。
落胆したリコを何とか慰めようとケイコが何かを言うが、それはリコの耳には届かなかった。
(…藤岡君に、彼女ができた。)
学校が終わり、家へ帰る途中でもケイコが言っていたことが頭から離れなかった。
本人に直接確認を取ったわけではないし、実際に現場を見たわけではない。信じたくない気持ちが強かった。
(…そうだ、確かスーパーに4時って言ってたわよね?)
既に4時は過ぎていたが、買い物をすると言っていたから、まだそこにいるだろう。
確認を取ろうとスーパーへと走り出した。
恋人と言ったら普通レストランに行ったり、2人でもっとオシャレな所へ行くものだ、それがスーパーなんて生活感溢れた場所に行くわけがない、だからただのお使いみたいなものだろうなどと苦しい言い訳を自分に言い聞かせた。
学校が終わり、家へ帰る途中でもケイコが言っていたことが頭から離れなかった。
本人に直接確認を取ったわけではないし、実際に現場を見たわけではない。信じたくない気持ちが強かった。
(…そうだ、確かスーパーに4時って言ってたわよね?)
既に4時は過ぎていたが、買い物をすると言っていたから、まだそこにいるだろう。
確認を取ろうとスーパーへと走り出した。
恋人と言ったら普通レストランに行ったり、2人でもっとオシャレな所へ行くものだ、それがスーパーなんて生活感溢れた場所に行くわけがない、だからただのお使いみたいなものだろうなどと苦しい言い訳を自分に言い聞かせた。
「……着いた。」
走ってきたため、呼吸が荒い。しかし、どんなに体は疲れていても、確認だけは取っておきたい。
急いでスーパーの中に入ろうとすると、藤岡が買い物袋を持って出てくるのを確認できた。
(あっ…。)
走ってきたため、呼吸が荒い。しかし、どんなに体は疲れていても、確認だけは取っておきたい。
急いでスーパーの中に入ろうとすると、藤岡が買い物袋を持って出てくるのを確認できた。
(あっ…。)
だが、出てきたのは藤岡だけではなかった。藤岡は女子高生と一緒だったのだ。
藤岡はその女子高生と腕を組んでいるわけどころか、手をつないでいるわけでもない。
しかし、2人の、特に藤岡の顔を見ただけで、自分の淡い期待は完全に裏切られたのがわかってしまった。
藤岡は今まで自分が見たことのない、藤岡と親しいカナにすら見せたことがないほどの眩しい笑顔でごく自然に女子高生と接している。その女子高生も同じように微笑んでいた。
「そんな…!」
この世の終わりであるかのような絶望感に包まれ、涙があふれ出てきた。
辛い現実を突きつけられ、リコは言葉を出せず、ただその光景を傍観することしかできなかった。
そんなリコのことなど知りもせず、2人はリコに背を向け、彼女とは反対の方向へと歩いていく。
追いかけたい衝動に駆られるが、藤岡が別の女と一緒に自分から離れていく悲しみに、足が動かなかった。
藤岡はその女子高生と腕を組んでいるわけどころか、手をつないでいるわけでもない。
しかし、2人の、特に藤岡の顔を見ただけで、自分の淡い期待は完全に裏切られたのがわかってしまった。
藤岡は今まで自分が見たことのない、藤岡と親しいカナにすら見せたことがないほどの眩しい笑顔でごく自然に女子高生と接している。その女子高生も同じように微笑んでいた。
「そんな…!」
この世の終わりであるかのような絶望感に包まれ、涙があふれ出てきた。
辛い現実を突きつけられ、リコは言葉を出せず、ただその光景を傍観することしかできなかった。
そんなリコのことなど知りもせず、2人はリコに背を向け、彼女とは反対の方向へと歩いていく。
追いかけたい衝動に駆られるが、藤岡が別の女と一緒に自分から離れていく悲しみに、足が動かなかった。
「……南ハルカ。」
横から男の声が聞こえてきた。声がした方を見ると、いつの間にか見知らぬ男が自分の横に立っていた。
しかも、その男も自分と同じように2人を見つめながら、涙を流している。
おそらく今の自分と同じ状況なのだろうと直感した。
だが、その男は自分とは違い、どういうわけか笑みを浮かべたのだ。
「喜ばなくてはいけないな、……お前がそんな笑顔ができるようになったんだからな。」
リコはその男の発言に驚いた。男は自分と同じように見たくない現実を目にしたはずだ。
それなのにそんな言葉を口にした男に思わず訊いてしまった。
「…どうしてですか?」
声をかけられたことで、男もリコに気づいたようで、顔をリコの方に向けた。
「あなたはあの女の人が好きだったんじゃないんですか?」
「…そうだな、オレは南ハルカにバレー部のマネージャーになってもらい、このオレの汗を拭いてもらいたかった。」
言っていることはよくわからないが、とにかく自分が感じた通り、あの女子高生に惚れていたことは確かだ。
「それならどうしてですか!? どうしてあなたはそうして笑っていられるんですか!?」
「簡単なことだ、オレは南ハルカのことが好きだからだ。」
その男の言葉に呆気に取られる。ならば、尚のこと笑っていられるわけがないし、そもそも答えになっていない。
「好きならどうして…。」
「好きだからこそ、オレは南ハルカに幸せになってもらいたい。」
「!!」
リコは男の言葉に思わず体が振るえあがった。男は言葉を続ける。
「勿論オレ自身が幸せにしたいという気持ちはあった。しかし、見ただろう? あの2人の様子を。
あれを壊そうとしたら、南ハルカは悲しむだろう。悲しむ南ハルカの姿なんてオレは見たくない。」
男は少し切なそうな顔をして空を見上げた。
「…だから、オレは南ハルカを笑顔で送れたんだ。」
目を瞑り、悟ったように言う。
だが、それには全く邪なものは感じられず、むしろ相手のことをちゃんと思っているからこその発言だと思えた。
リコの目にはこの男が何か輝いているようにも見えた。しかし、
(何でこの人、上着をはだけさせてるんだろう…。)
わけのわからない露出がその輝きを台無しにしていた。
横から男の声が聞こえてきた。声がした方を見ると、いつの間にか見知らぬ男が自分の横に立っていた。
しかも、その男も自分と同じように2人を見つめながら、涙を流している。
おそらく今の自分と同じ状況なのだろうと直感した。
だが、その男は自分とは違い、どういうわけか笑みを浮かべたのだ。
「喜ばなくてはいけないな、……お前がそんな笑顔ができるようになったんだからな。」
リコはその男の発言に驚いた。男は自分と同じように見たくない現実を目にしたはずだ。
それなのにそんな言葉を口にした男に思わず訊いてしまった。
「…どうしてですか?」
声をかけられたことで、男もリコに気づいたようで、顔をリコの方に向けた。
「あなたはあの女の人が好きだったんじゃないんですか?」
「…そうだな、オレは南ハルカにバレー部のマネージャーになってもらい、このオレの汗を拭いてもらいたかった。」
言っていることはよくわからないが、とにかく自分が感じた通り、あの女子高生に惚れていたことは確かだ。
「それならどうしてですか!? どうしてあなたはそうして笑っていられるんですか!?」
「簡単なことだ、オレは南ハルカのことが好きだからだ。」
その男の言葉に呆気に取られる。ならば、尚のこと笑っていられるわけがないし、そもそも答えになっていない。
「好きならどうして…。」
「好きだからこそ、オレは南ハルカに幸せになってもらいたい。」
「!!」
リコは男の言葉に思わず体が振るえあがった。男は言葉を続ける。
「勿論オレ自身が幸せにしたいという気持ちはあった。しかし、見ただろう? あの2人の様子を。
あれを壊そうとしたら、南ハルカは悲しむだろう。悲しむ南ハルカの姿なんてオレは見たくない。」
男は少し切なそうな顔をして空を見上げた。
「…だから、オレは南ハルカを笑顔で送れたんだ。」
目を瞑り、悟ったように言う。
だが、それには全く邪なものは感じられず、むしろ相手のことをちゃんと思っているからこその発言だと思えた。
リコの目にはこの男が何か輝いているようにも見えた。しかし、
(何でこの人、上着をはだけさせてるんだろう…。)
わけのわからない露出がその輝きを台無しにしていた。
「その、何と言うか、ありがとうございました。」
とにかく男のおかげで考え方を改めることができた。何者かは知らないが、この男の言葉は一生忘れないだろう。
リコがお辞儀して頭を下げると、男は髪をかきあげ、無駄に汗を撒き散らした後、微笑んで去って行った。
男を見送り、その姿が見えなくなると、自分も帰宅するのであった。
とにかく男のおかげで考え方を改めることができた。何者かは知らないが、この男の言葉は一生忘れないだろう。
リコがお辞儀して頭を下げると、男は髪をかきあげ、無駄に汗を撒き散らした後、微笑んで去って行った。
男を見送り、その姿が見えなくなると、自分も帰宅するのであった。
自分の家へ向かう途中、川の側で座り込んでいる少年がいた。その少年は見るからに落ち込んでいる。
先程のわけのわからない男のおかげで少し元気が出てきたリコは、少年のことを気にする余裕ができていた。
また、落ち込み方がさっきまでの自分と似ていたため、放っておくことができなかった。
「……ハルカさん。」
近づいて話し掛けようとすると、少年はため息をつきながら呟いた。
変な男が話していた女子高生と同じ名前だったので、もしやと思った。
「どうしたの? そのハルカって人にふられちゃったの?」
話し掛けると少年は勢いよくリコの方を振り向いた。驚きを隠せない様子だ。
「ど、どうして、わかったんですか!?」
「…さっきの私と同じように落ち込んでたからかな。」
リコの返答を聞くと、少年は驚いた様子を見せた。
「…お姉さんもふられちゃったんですか?」
「少し違うわね…。私、告白すらしてないから…。」
再び驚いたためか、少年の体はわずかに震えた。そして、顔を俯けた。
「…オレも告白しませんでした。」
「そう…。」
「けど、それは南がオレを家に上がらせてくれなかったせいでもあったんです。
…オレだってちゃんと家に上がらせてくれさえすれば、ハルカさんに告白ぐらいできたんだ。」
俯いた状態で胸の内にある思いを吐き捨てるように言い出した。
「女装なんてせずにちゃんと男として話ができた、そうすれば、こんなことにはならなかったのに…。」
胸の内を開けてからは溢れ出る涙を手で拭いながら、ただ黙って泣きじゃくっていた。
「…ダメよ、そんな顔しちゃ。」
リコは優しく話し掛けた。少年は不思議な顔をしてリコの方に顔を向けた。
その顔は涙と鼻水で濡れていて、赤く染まっていた。
「君はそのハルカって人が好きなんでしょ?」
少年はコクンと頷く。もうロクに声を出せないのだろう。
「幸せになってもらいたいでしょ?」
再び頷く。何故そんな当然のことを聞くのかと言わんばかりに。
「じゃあそんな顔してちゃダメよ。そんな顔見たらハルカって人が困っちゃうわよ。」
リコはハンカチを取り出し、少年の涙を拭き取る。
「好きだったのなら、その人が幸せになるのを笑顔でお祝いしなくちゃ。
そりゃあ、相手が自分に越したことはないんだけど…。」
先程スーパーで見た藤岡とハルカの顔を思い浮かべながら、少年に言う。
「そのハルカって人が選んだ男の人なら大丈夫、きっといい人に決まってるわ。
だから、ちゃんと幸せになってくれるわよ。それならいいじゃない、ね?」
少年はリコのハンカチを奪うと、あろうことかそのハンカチで鼻をかんだ。
先程のわけのわからない男のおかげで少し元気が出てきたリコは、少年のことを気にする余裕ができていた。
また、落ち込み方がさっきまでの自分と似ていたため、放っておくことができなかった。
「……ハルカさん。」
近づいて話し掛けようとすると、少年はため息をつきながら呟いた。
変な男が話していた女子高生と同じ名前だったので、もしやと思った。
「どうしたの? そのハルカって人にふられちゃったの?」
話し掛けると少年は勢いよくリコの方を振り向いた。驚きを隠せない様子だ。
「ど、どうして、わかったんですか!?」
「…さっきの私と同じように落ち込んでたからかな。」
リコの返答を聞くと、少年は驚いた様子を見せた。
「…お姉さんもふられちゃったんですか?」
「少し違うわね…。私、告白すらしてないから…。」
再び驚いたためか、少年の体はわずかに震えた。そして、顔を俯けた。
「…オレも告白しませんでした。」
「そう…。」
「けど、それは南がオレを家に上がらせてくれなかったせいでもあったんです。
…オレだってちゃんと家に上がらせてくれさえすれば、ハルカさんに告白ぐらいできたんだ。」
俯いた状態で胸の内にある思いを吐き捨てるように言い出した。
「女装なんてせずにちゃんと男として話ができた、そうすれば、こんなことにはならなかったのに…。」
胸の内を開けてからは溢れ出る涙を手で拭いながら、ただ黙って泣きじゃくっていた。
「…ダメよ、そんな顔しちゃ。」
リコは優しく話し掛けた。少年は不思議な顔をしてリコの方に顔を向けた。
その顔は涙と鼻水で濡れていて、赤く染まっていた。
「君はそのハルカって人が好きなんでしょ?」
少年はコクンと頷く。もうロクに声を出せないのだろう。
「幸せになってもらいたいでしょ?」
再び頷く。何故そんな当然のことを聞くのかと言わんばかりに。
「じゃあそんな顔してちゃダメよ。そんな顔見たらハルカって人が困っちゃうわよ。」
リコはハンカチを取り出し、少年の涙を拭き取る。
「好きだったのなら、その人が幸せになるのを笑顔でお祝いしなくちゃ。
そりゃあ、相手が自分に越したことはないんだけど…。」
先程スーパーで見た藤岡とハルカの顔を思い浮かべながら、少年に言う。
「そのハルカって人が選んだ男の人なら大丈夫、きっといい人に決まってるわ。
だから、ちゃんと幸せになってくれるわよ。それならいいじゃない、ね?」
少年はリコのハンカチを奪うと、あろうことかそのハンカチで鼻をかんだ。
(あ!)
「…そうですよね、ハルカさんが幸せなら、オレも嬉しいです。」
元気が出てきたのか、もう涙も鼻水も流していなかった。
晴れ晴れとした少年の表情とは対照的に、リコの表情は少し引きつっている。
「ありがとうお姉さん。オレ、明日ハルカさんにお祝いしてきます! それじゃ!」
満面の笑みを浮かべたまま、少年は走り去って行った。
(あぁもう! ハンカチ台無しにしてくれちゃって…。)
鼻水が付いた部分が表面にならないようにハンカチをたたみ、しまいこんだ。
最初はハンカチを汚されて少し気が滅入ってしまったが、少年の元気な姿を見送っている内に、些細なことと思えるようになり、自分と同じ思いをした者を立ち直らせたことを嬉しく思った。
自分の恋は失恋と言う形で終わったが、その恋が今の自分へと導いてくれたのだ。
決して無駄なことではない、むしろいい経験であったと喜び、帰宅するのであった。
「…そうですよね、ハルカさんが幸せなら、オレも嬉しいです。」
元気が出てきたのか、もう涙も鼻水も流していなかった。
晴れ晴れとした少年の表情とは対照的に、リコの表情は少し引きつっている。
「ありがとうお姉さん。オレ、明日ハルカさんにお祝いしてきます! それじゃ!」
満面の笑みを浮かべたまま、少年は走り去って行った。
(あぁもう! ハンカチ台無しにしてくれちゃって…。)
鼻水が付いた部分が表面にならないようにハンカチをたたみ、しまいこんだ。
最初はハンカチを汚されて少し気が滅入ってしまったが、少年の元気な姿を見送っている内に、些細なことと思えるようになり、自分と同じ思いをした者を立ち直らせたことを嬉しく思った。
自分の恋は失恋と言う形で終わったが、その恋が今の自分へと導いてくれたのだ。
決して無駄なことではない、むしろいい経験であったと喜び、帰宅するのであった。
翌日、失恋から立ち直ったマコトは元気よく登校した。
「おはよう!」
「おはよう、マコト。良かったよ、元気を取り戻したみたいで。」
マコトの挨拶にシュウイチも返事をする。
昨日までのマコトは元気がなく、シュウイチを始めとした友人達の何人かは気にかけていた。
数日前、内田と吉野がチアキから藤岡とハルカが付き合っていることを聞かされた際に、それがマコトの耳にも入ってしまったのがいけなかった。
マコトはすぐにチアキに寄り、そのことを問いただそうとしたが、逆に怒鳴りつけられてからはずっと落ち込んだままだったのだ。
だから、シュウイチは今日の友人の元気な様子を見て、ほっとできた。
「(内田、今日ハルカさんの所へ行くから、協力してくれ。)」
シュウイチへの挨拶をすませた後、マコトは内田に近寄って小声で話し掛けた。
「(うん、いいけど、マコトくん、もう大丈夫なの?)」
「(ああ! ハルカさんに笑顔でお祝いしなくちゃな!)」
何故かは知らないが、マコトが立ち直った様子を見て、内田はほっとした。
しかし、内田はマコト以上にチアキのことが心配だった。
今は普段通りに吉野と何か喋っているが、先日マコトに怒鳴りつけた時は教室にいる全員を黙らせたほどだ。
怒鳴ること自体が珍しいが、大抵は冷たくあしらうだけのマコト相手に怒鳴ったのだ。内心穏やかなわけがない。
あれほど気に入っていた藤岡が他の女、ましてや自分の姉と付き合いだしたというのに、チアキが平気でいられるとは思えなかった。
「おはよう!」
「おはよう、マコト。良かったよ、元気を取り戻したみたいで。」
マコトの挨拶にシュウイチも返事をする。
昨日までのマコトは元気がなく、シュウイチを始めとした友人達の何人かは気にかけていた。
数日前、内田と吉野がチアキから藤岡とハルカが付き合っていることを聞かされた際に、それがマコトの耳にも入ってしまったのがいけなかった。
マコトはすぐにチアキに寄り、そのことを問いただそうとしたが、逆に怒鳴りつけられてからはずっと落ち込んだままだったのだ。
だから、シュウイチは今日の友人の元気な様子を見て、ほっとできた。
「(内田、今日ハルカさんの所へ行くから、協力してくれ。)」
シュウイチへの挨拶をすませた後、マコトは内田に近寄って小声で話し掛けた。
「(うん、いいけど、マコトくん、もう大丈夫なの?)」
「(ああ! ハルカさんに笑顔でお祝いしなくちゃな!)」
何故かは知らないが、マコトが立ち直った様子を見て、内田はほっとした。
しかし、内田はマコト以上にチアキのことが心配だった。
今は普段通りに吉野と何か喋っているが、先日マコトに怒鳴りつけた時は教室にいる全員を黙らせたほどだ。
怒鳴ること自体が珍しいが、大抵は冷たくあしらうだけのマコト相手に怒鳴ったのだ。内心穏やかなわけがない。
あれほど気に入っていた藤岡が他の女、ましてや自分の姉と付き合いだしたというのに、チアキが平気でいられるとは思えなかった。
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