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3.
藤岡とハルカが結ばれてから数週間が経った。とは言うものの、2人のやり取りに変化はあまりない。
以前と同じように藤岡が南家へ立ち寄るだけで、デートもロクにしていない。
せいぜいよく2人で買い物をするようになったぐらいだが、本人達はそれで満足している。
一応2人が付き合い始めたということは周りに広まっていったが、未だに実感を持っていない者は少なくない。
ハルカの妹達も例外ではなく、最初に聞かされた時など何の冗談だと思ったほどだ。
以前と同じように藤岡が南家へ立ち寄るだけで、デートもロクにしていない。
せいぜいよく2人で買い物をするようになったぐらいだが、本人達はそれで満足している。
一応2人が付き合い始めたということは周りに広まっていったが、未だに実感を持っていない者は少なくない。
ハルカの妹達も例外ではなく、最初に聞かされた時など何の冗談だと思ったほどだ。
ある日ハルカが買い物に出かけたのを確認すると、カナはチアキに話を持ち出した。
「なぁチアキ、お前はどう思う?」
「何がだ?」
「決まってるだろう、ハルカと藤岡についてだ!」
何が決まっているのかは知らないが、やけに落ち着いていない状態だった。
「…やれやれ、2人が付き合うことに何の問題があるんだ?
別に悪いことをしているわけでもないし、以前とそれ程変わらないじゃないか。」
「そうは言ってもだな、おまえは気にならないのか?」
「別に。」
そっけなく言うが、チアキも内心ではかなり気にはなっていた。本人達はそうと言っているが、2人のやり取りを見ると、あまりそのようには見えない。本当にそんな関係になったのかと疑問に思う。
少なからず慕っていた藤岡を、尊敬しているハルカに取られたなどと思いたくないという現実逃れかもしれない。
「う~ん、やっぱ恋人同士なら何かあってもいいと思うんだがなぁ。」
「本人達が納得しているんだから、いちいち茶々入れなくていいと思うよ。」
またロクなことを考えてなさそうな姉を見て、呆れかえる。
「…やはり、ここは私達の目が届かない所を見張るしかないな。」
「どういうことだ?」
「あの2人の様子が変わっていったのがいつ頃からかわかるか?」
「そうか! 藤岡がここに泊まった時!」
実際1回目の時は妙に余所余所しくなり、2回目の時に2人は付き合いだしたと言い出した。
ハルカが風邪を引いたのも藤岡が泊まった日の夕方頃だった。
「そうだ、つまりもう一度藤岡をここに泊めて、夜中に2人の様子を窺えばいいんだ。
2人きりになれば、奴らは必ずや普段とは違う行動、それこそおかしなことの1つや2つはするだろうさ。」
「そうは言っても、肝心の藤岡が…、あっ!」
「気づいたようだな、チアキ。そう、十中八九間もなく藤岡はここに来るだろう。
ハルカの買い物の荷物持ちとしてな、フフフ…。」
(コイツは…。)
普段はバカ野郎の代表格なのに、妙なところで頭が冴える姉に呆れるを通り越して感心してしまう。
しかし、2人には申し訳ないと思うものの、自分達の前では変化がない藤岡とハルカが2人きりになるとどうするのかは気になってしまう。
チアキがそのような葛藤と戦っていると、カナの予想通り、ハルカは藤岡を連れて帰ってきた。
「なぁチアキ、お前はどう思う?」
「何がだ?」
「決まってるだろう、ハルカと藤岡についてだ!」
何が決まっているのかは知らないが、やけに落ち着いていない状態だった。
「…やれやれ、2人が付き合うことに何の問題があるんだ?
別に悪いことをしているわけでもないし、以前とそれ程変わらないじゃないか。」
「そうは言ってもだな、おまえは気にならないのか?」
「別に。」
そっけなく言うが、チアキも内心ではかなり気にはなっていた。本人達はそうと言っているが、2人のやり取りを見ると、あまりそのようには見えない。本当にそんな関係になったのかと疑問に思う。
少なからず慕っていた藤岡を、尊敬しているハルカに取られたなどと思いたくないという現実逃れかもしれない。
「う~ん、やっぱ恋人同士なら何かあってもいいと思うんだがなぁ。」
「本人達が納得しているんだから、いちいち茶々入れなくていいと思うよ。」
またロクなことを考えてなさそうな姉を見て、呆れかえる。
「…やはり、ここは私達の目が届かない所を見張るしかないな。」
「どういうことだ?」
「あの2人の様子が変わっていったのがいつ頃からかわかるか?」
「そうか! 藤岡がここに泊まった時!」
実際1回目の時は妙に余所余所しくなり、2回目の時に2人は付き合いだしたと言い出した。
ハルカが風邪を引いたのも藤岡が泊まった日の夕方頃だった。
「そうだ、つまりもう一度藤岡をここに泊めて、夜中に2人の様子を窺えばいいんだ。
2人きりになれば、奴らは必ずや普段とは違う行動、それこそおかしなことの1つや2つはするだろうさ。」
「そうは言っても、肝心の藤岡が…、あっ!」
「気づいたようだな、チアキ。そう、十中八九間もなく藤岡はここに来るだろう。
ハルカの買い物の荷物持ちとしてな、フフフ…。」
(コイツは…。)
普段はバカ野郎の代表格なのに、妙なところで頭が冴える姉に呆れるを通り越して感心してしまう。
しかし、2人には申し訳ないと思うものの、自分達の前では変化がない藤岡とハルカが2人きりになるとどうするのかは気になってしまう。
チアキがそのような葛藤と戦っていると、カナの予想通り、ハルカは藤岡を連れて帰ってきた。
「え? 泊まっていってくれ? どうして?」
「え? えぇと、ほらあれだ! 1人でも多い方が賑やかになるだろ?」
「オレはいいんだけど…、大丈夫なんですか?」
「え? えぇと、ほらあれだ! 1人でも多い方が賑やかになるだろ?」
「オレはいいんだけど…、大丈夫なんですか?」
そんな怪しい理由で聞いてくれる藤岡のお人よし加減もどうにかならないものかと思ってしまう。
「そうね。せっかくカナがそう言ってくれてるんだし、泊まっていって? チアキもいいよね?」
「もちろんです、ハルカ姉さま。」
条件反射で答えてしまった。藤岡が泊まってくれること自体は嬉しいが、
カナの企みまでは口に出せず、罠にはめたような気持ちになり、少し罪悪感が出てきた。
「じゃあお言葉に甘えて、泊めてもらおうかな?」
「ああ、是非そうするがいいさ。」
2人は何も怪しむことはなく、カナの申し出を受けたのだった。
ハルカは久しぶりに藤岡が泊まることを素直に喜んでいる様子で、藤岡もそんなハルカを見て微笑んでいる。
仲良く会話をしている2人を見て、カナは計画が順調に進んでいることに密かに笑みを浮かべ、チアキは2人に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「そうね。せっかくカナがそう言ってくれてるんだし、泊まっていって? チアキもいいよね?」
「もちろんです、ハルカ姉さま。」
条件反射で答えてしまった。藤岡が泊まってくれること自体は嬉しいが、
カナの企みまでは口に出せず、罠にはめたような気持ちになり、少し罪悪感が出てきた。
「じゃあお言葉に甘えて、泊めてもらおうかな?」
「ああ、是非そうするがいいさ。」
2人は何も怪しむことはなく、カナの申し出を受けたのだった。
ハルカは久しぶりに藤岡が泊まることを素直に喜んでいる様子で、藤岡もそんなハルカを見て微笑んでいる。
仲良く会話をしている2人を見て、カナは計画が順調に進んでいることに密かに笑みを浮かべ、チアキは2人に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「さてハルカ、確かお前は藤岡と恋人同士だったよな?」
晩御飯を食べ終え、後片付けをした後、カナは唐突に尋ねてきた。
「え? うん、そうだけど、それがどうかした?」
「なら別に藤岡と一緒の部屋でも構わないな? 恋人同士なんだから。」
「(! ちょっとカナ! こっちに来なさい!)」
ハルカは顔を赤くし、カナの腕を掴み、チアキから離れた場所へ移動した。
「(チアキがいるんだから、教育上まずいでしょ! 若い男女が1つの部屋で一緒に寝るのは!)」
「(その辺は心配いらん。チアキは男女で行うおかしなことに関しては無知だからね。)」
「(ちょ、ちょっと!!)」
既にそういう関係を持っているものの、妹に指摘されるとやはり恥ずかしいものがある。
しかし、カナがどこまでわかっていて言っているかはわからなかった。
「どうかしましたか? ハルカ姉さま。」
チアキが何をもめているのか、不思議そうに聞いてきたのに対し、焦ってしまう。
「(…そうね、変に拘っても不信に思われそうだし。)」
「(よし、決まりだな!)」
チアキに妙な疑問を持たれても困るので、ハルカは自然に振舞えるように仕方なしにカナの提案を呑んだ。
だが、やはり以前のような小細工なしに藤岡と堂々と同じ部屋で眠れることは嬉しかった。
晩御飯を食べ終え、後片付けをした後、カナは唐突に尋ねてきた。
「え? うん、そうだけど、それがどうかした?」
「なら別に藤岡と一緒の部屋でも構わないな? 恋人同士なんだから。」
「(! ちょっとカナ! こっちに来なさい!)」
ハルカは顔を赤くし、カナの腕を掴み、チアキから離れた場所へ移動した。
「(チアキがいるんだから、教育上まずいでしょ! 若い男女が1つの部屋で一緒に寝るのは!)」
「(その辺は心配いらん。チアキは男女で行うおかしなことに関しては無知だからね。)」
「(ちょ、ちょっと!!)」
既にそういう関係を持っているものの、妹に指摘されるとやはり恥ずかしいものがある。
しかし、カナがどこまでわかっていて言っているかはわからなかった。
「どうかしましたか? ハルカ姉さま。」
チアキが何をもめているのか、不思議そうに聞いてきたのに対し、焦ってしまう。
「(…そうね、変に拘っても不信に思われそうだし。)」
「(よし、決まりだな!)」
チアキに妙な疑問を持たれても困るので、ハルカは自然に振舞えるように仕方なしにカナの提案を呑んだ。
だが、やはり以前のような小細工なしに藤岡と堂々と同じ部屋で眠れることは嬉しかった。
それから時間が経ち、就寝時間についたというのに、チアキは全く眠くならなかった。
カナと同じように、藤岡とハルカのことが気になっていたため、目が冴える。
結局カナを止めることができなかったが、せめて自分だけは覗き見る真似はしまいと誓い、寝ようとする。
(いや、カナを止めなかったのは正解かもな。カナに確認させつつ、私はそんなことしなくて済むし。)
自分でもよくここまで邪なことを考えられるものだとおかしくなる。
それから、カナの暴走は上手く使えるんじゃないか、やはり自分の目で確認したいなど色々考え込んでしまい、普段ならとっくに眠っている時間でも眠れなかった。
カナと同じように、藤岡とハルカのことが気になっていたため、目が冴える。
結局カナを止めることができなかったが、せめて自分だけは覗き見る真似はしまいと誓い、寝ようとする。
(いや、カナを止めなかったのは正解かもな。カナに確認させつつ、私はそんなことしなくて済むし。)
自分でもよくここまで邪なことを考えられるものだとおかしくなる。
それから、カナの暴走は上手く使えるんじゃないか、やはり自分の目で確認したいなど色々考え込んでしまい、普段ならとっくに眠っている時間でも眠れなかった。
『当たり前だ! ハルカ姉さまが私たちを裏切ったりするもんか!』
ハルカが風邪を引いていた時に藤岡に言った言葉を思い出す。
あの時は藤岡に本当に元気付けられたものだ。
プールで溺れかけた時に助けてくれたこともあったし、優しいだけでなく、頼りにもなる藤岡にチアキは惹かれていた。
ハルカがそんな藤岡を自分から奪うわけがない、だからあれは何かの冗談だ、現に2人はそんな素振りを見せていないじゃないかと何度も自分の都合の良いように考えようとしていた。
しかし、結局はハルカと藤岡のことが気になってしまい、2人がいる部屋の様子を見に行くことにしたのだった。
あの時は藤岡に本当に元気付けられたものだ。
プールで溺れかけた時に助けてくれたこともあったし、優しいだけでなく、頼りにもなる藤岡にチアキは惹かれていた。
ハルカがそんな藤岡を自分から奪うわけがない、だからあれは何かの冗談だ、現に2人はそんな素振りを見せていないじゃないかと何度も自分の都合の良いように考えようとしていた。
しかし、結局はハルカと藤岡のことが気になってしまい、2人がいる部屋の様子を見に行くことにしたのだった。
ハルカの部屋の前にたどり着いたが、カナの姿が見当たらなかった。
しかし、今のチアキにとってはどうでもいいことなので、気にせずドアに近づく。
ドアは閉まっているが、何やら物音が聞こえる。それはベッドが軋むような音で、思いのほか激しい。
何がなんだかわからないチアキは、物音を立てないようにドアを開け、部屋を覗き見た。
しかし、今のチアキにとってはどうでもいいことなので、気にせずドアに近づく。
ドアは閉まっているが、何やら物音が聞こえる。それはベッドが軋むような音で、思いのほか激しい。
何がなんだかわからないチアキは、物音を立てないようにドアを開け、部屋を覗き見た。
その先には藤岡を上に裸で抱きしめ合っている2人の姿があった。
ただくっついているだけではなく、激しく腰を振っていて、顔も2人とも興奮しているのか、頬を赤くしている。
普段の穏やかな2人からは想像もできない動き、表情だった。
(何だ? 何だ、…これは。)
2人の行為にただ唖然と見ているしかなかった。
何故裸で腰を振っているのかまでは理解できなかったものの、その光景には何か嫌なものを感じた。
「…藤岡君! ……私、…そろそろ!」
ハルカは息を乱しながらも何かを訴える。何がそろそろなのかは理解できない。
「……オレも、すぐに!」
ハルカの言葉を合図にしたかのように、藤岡はより一層激しく腰を振り始めた。
それに合わせるかのようにハルカも動きを激しくする。
「―――!!」
突然ハルカが背中を反らせ、今まで自分が聞いたこともない声を出したのにチアキは驚いた。
藤岡もハルカから腰を離し、何かをハルカの体めがけて飛ばした。それは胸やお腹を白く染め上げようとする。
(何だ、あれは? おしっこじゃないよな?)
混乱しているチアキをよそに2人は行為を終えていた。
行為を終えても呼吸は荒いままで、2人は体制を変えずに呼吸を落ち着かせようとしている。
いや、余韻に浸っているというのだろうか。
(どういうことなんだ? 一体2人は何を…。)
呆気に取られている間に2人は既に別の行動をしようとしていた。
2人は微笑みながら見つめ合い、お互いの顔を近づけていく。
(!! や、やめ…。)
悲痛な叫びも声にならない。衝撃的な光景を次々と見せられたが、一番見たくないものを目にしてしまった。
やはり藤岡とハルカはそういう関係になっていたのだ。チアキの中で絶望が大きくなる。
(……嘘だ。ハルカ姉さまが、藤岡と…。)
あまりの絶望に体制を崩したことでドアにぶつかり、大きな音を立ててしまった。
ドアはわずかに開いていたので、チアキがよりかかったことにより、大きく開き、チアキはハルカの部屋に入ってしまう形になった。
ただくっついているだけではなく、激しく腰を振っていて、顔も2人とも興奮しているのか、頬を赤くしている。
普段の穏やかな2人からは想像もできない動き、表情だった。
(何だ? 何だ、…これは。)
2人の行為にただ唖然と見ているしかなかった。
何故裸で腰を振っているのかまでは理解できなかったものの、その光景には何か嫌なものを感じた。
「…藤岡君! ……私、…そろそろ!」
ハルカは息を乱しながらも何かを訴える。何がそろそろなのかは理解できない。
「……オレも、すぐに!」
ハルカの言葉を合図にしたかのように、藤岡はより一層激しく腰を振り始めた。
それに合わせるかのようにハルカも動きを激しくする。
「―――!!」
突然ハルカが背中を反らせ、今まで自分が聞いたこともない声を出したのにチアキは驚いた。
藤岡もハルカから腰を離し、何かをハルカの体めがけて飛ばした。それは胸やお腹を白く染め上げようとする。
(何だ、あれは? おしっこじゃないよな?)
混乱しているチアキをよそに2人は行為を終えていた。
行為を終えても呼吸は荒いままで、2人は体制を変えずに呼吸を落ち着かせようとしている。
いや、余韻に浸っているというのだろうか。
(どういうことなんだ? 一体2人は何を…。)
呆気に取られている間に2人は既に別の行動をしようとしていた。
2人は微笑みながら見つめ合い、お互いの顔を近づけていく。
(!! や、やめ…。)
悲痛な叫びも声にならない。衝撃的な光景を次々と見せられたが、一番見たくないものを目にしてしまった。
やはり藤岡とハルカはそういう関係になっていたのだ。チアキの中で絶望が大きくなる。
(……嘘だ。ハルカ姉さまが、藤岡と…。)
あまりの絶望に体制を崩したことでドアにぶつかり、大きな音を立ててしまった。
ドアはわずかに開いていたので、チアキがよりかかったことにより、大きく開き、チアキはハルカの部屋に入ってしまう形になった。
「チアキちゃん?」
2人は一斉にドアの方を向いた。ハルカに至っては驚きのあまりなのか、声すら出していない。
チアキは藤岡の声で我に帰ったものの、何て言えばいいかわからない。
「あ…。」
2人の視線を浴びてしまい、言いたいことを上手く言葉として表せない。
ハルカに藤岡を奪われた、いや、藤岡にハルカを奪われたとも言い換えることもできるのか。
とにかく、こうしてあってほしくない現実を突きつけられているのは確かである。
しかし、大好きな2人を憎めるわけがなく、ただ悲しみで涙が溢れていた。
「ハルカ姉さまぁ…、藤岡ぁ…。」
2人の名を呼んでも、より悲しみが増すばかり。それに比例して涙の量も増えていく。
藤岡は泣きじゃくるチアキをただ見ることしかできなかった。
「…ごめんね、チアキ。」
体を起こし、体に着いたものをティッシュで拭き取ると、ハルカがチアキに歩み寄ってきた。
チアキは逃げ出すことを考えるが、足が言うことを聞いてくれない。
「そんな、…謝らないでください。」
謝られると余計に惨めな思いになるから、止してほしかった。
しかし、ハルカは立ち止まることなくチアキに近づき、その体を引き寄せ、抱きしめた。
「!!」
抱きしめられても引き離す所か、ロクに抵抗する気も起きない。
チアキは例え裏切られたとしても、この姉のことが好きで、嫌いになれないのだ。
「うっ……、うっ…。」
抵抗することなく、抱きしめられたまま、ハルカの胸で泣き崩れるのだった。
2人は一斉にドアの方を向いた。ハルカに至っては驚きのあまりなのか、声すら出していない。
チアキは藤岡の声で我に帰ったものの、何て言えばいいかわからない。
「あ…。」
2人の視線を浴びてしまい、言いたいことを上手く言葉として表せない。
ハルカに藤岡を奪われた、いや、藤岡にハルカを奪われたとも言い換えることもできるのか。
とにかく、こうしてあってほしくない現実を突きつけられているのは確かである。
しかし、大好きな2人を憎めるわけがなく、ただ悲しみで涙が溢れていた。
「ハルカ姉さまぁ…、藤岡ぁ…。」
2人の名を呼んでも、より悲しみが増すばかり。それに比例して涙の量も増えていく。
藤岡は泣きじゃくるチアキをただ見ることしかできなかった。
「…ごめんね、チアキ。」
体を起こし、体に着いたものをティッシュで拭き取ると、ハルカがチアキに歩み寄ってきた。
チアキは逃げ出すことを考えるが、足が言うことを聞いてくれない。
「そんな、…謝らないでください。」
謝られると余計に惨めな思いになるから、止してほしかった。
しかし、ハルカは立ち止まることなくチアキに近づき、その体を引き寄せ、抱きしめた。
「!!」
抱きしめられても引き離す所か、ロクに抵抗する気も起きない。
チアキは例え裏切られたとしても、この姉のことが好きで、嫌いになれないのだ。
「うっ……、うっ…。」
抵抗することなく、抱きしめられたまま、ハルカの胸で泣き崩れるのだった。
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