何をBGMに回して何をキー音にするかはBMS制作で行う重要な選択の一つです。
全ての構成音をキー音にするか、必要最小限だけ切って残りを全てキー音にするか、様々な選択肢がありえます。

このページではBGMにする音の選定基準をいくつか分析します。




全部キー音にする

 BGMを使わないというのは立派な選択の一つです。差分作成の幅を考えると全ての音をキー音化したほうがいいようにも思えますが、果たしてそれは最善の選択でしょうか。全ての音を切る欠点はいくつもあります。
定義数が膨大になる
BGMを使わない最大の弊害がこれです。曲の構成にもよりますが、複雑なベロシティや多くの音色を使う場合、全てキー音にしようとすると容易に定義数が不足します。BGM化はこれを防ぐ手段でもあるのです。
音切りの手間
そもそも全部をキー音にしようとする人が音切りの手間を問題にするとは思いませんが、一応挙げておきます。BGMの利用は、不要な音を切る手間を省くことにも繋がります。
音質の劣化
理由は詳述しませんが、全てを1本のWAVにまとめたほうが確実に音質的に有利です。虎の威を借るわけではありませんが、とある著名な(元)BMS作家も同様のことをいっていました。ここではBMSにマスタリングはできないと書きましたが、BGMは例外的に可能です。複数の音をまとめたBGMであれば、その後にキー音が乗るという違いはあれど、基本的に完全な楽曲とそう違いません。全てをキー音にするということは、その余地を完全になくす、ということにほかなりません。
音配置の煩雑化
全てをキー音にするということは、同時にいくつもの音声を鳴らすことを意味します。当然BMSエディタで見たBGMレーンのノート数も膨大になるでしょう。問題はそのノートが必要なのかという点です。奥のほうでひっそりと鳴っているパッド、低域を補助するためだけに存在するサインベース、同梱譜面で叩かせるつもりのないバッキング。果たしてそれらは本当にキー音である必要があるのでしょうか。

 もちろん欠点だけではありません。同じフレーズの繰り返しや一定の音を使い回すなどのミニマルな楽曲や、そもそも同時になる音がそう多くない楽曲においては、全てをキー音にしたほうが有効な場合もあります。
ファイルサイズの節約
同じ音の使い回しが多い曲の場合、譜面に使わない音をBGMにすると、かえってファイルサイズが肥大化する可能性があります。
演奏感の向上
全ての構成音をキー音にすると、実質的にそのBMSはサンプラーのように働くことになります。構成音のほとんど全てをキー音として譜面に入れることができれば、あなたはまさにリアルタイムで演奏するBMSを実現できるでしょう。
BMS作曲の可能性
作った曲をBMSにするのではなくBMSエディターによって曲を作るという発想です。これも前述のように、BMSEなどのエディターを純粋なサンプラーとして活用するものです。ものによってはDAWでシーケンスを配置するより楽に作れるかもしれません。

要するに、この後に書くことについてもまったく同様ですが、曲に合ったBGMの選び方があるということです。何も考えずに全て切る、またはほとんど切らないといった選択をするのではなく、どうするのがその曲にとって最善であるか、というのを考えたほうが作品がよくなると思います。



叩かせないパートをBGMにする

 多くのBMS作者はこのパターンを取るでしょう。次の項目との差別化のために、ここではキー音には残響を含める場合を取り扱います。つまりこのパターンでは、叩かせるパートはキー音に、叩かせないパートはBGMに回すという方式を取ります。何を以って「叩かせないパート」とするかはあなたのセンスに委ねられます。
前項に倣ってまず欠点を羅列していきましょう。
ファイルサイズの肥大化
これは避けられません。ディレイやリバーブといった残響は一般に原音(ドライ成分)よりはるかに長く、そのぶんだけWAVファイルサイズは大きくなります。昨今ではハードディスクの大容量化やインターネット回線の強化によって大きなBMSのダウンロードにも支障は出にくくなっていますが、WAVだけで数百MBもあるようなら改善の余地がありそうです。
差分の幅の狭化
音切りを行った者(普通は作曲者)は、BMSの譜面上で叩かせる音を明確に設定し、そうでない音を全てBGMにしてしまうため、差分を作ろうとした人からすると、「この音を叩きたいのに切られていなくて惜しい」という状況が有り得ます。はじめから差分作成の余地を考えないか、差分作成を見越して叩けそうな音は全て切っておく手もあります。

 見ての通りこの方式のデメリットはあまり目立ちません。前者は現在の環境ではあまり気にされず(筆者はBMSのサイズは大きくならないほうがいいと思いますが)、後者も作曲者が意図した譜面以外を作らせる気がないなら問題になりません。ではメリットはどうでしょうか。
定義数の節約
この方式が絶対的に優れている理由です。全ての音をキー音にする場合、WAV定義数が圧迫され、場合によっては足りなくなるおそれもあります。一部のパートのBGM化はこれを未然に防ぐ効果があります。それでも定義が足りなくなるかもしれませんが、そのときは重要度の低いパートをBGMに回してしまいましょう。
意図の明確化
これはさっき挙げた「差分の幅の狭化」とは真逆の観点です。音を切る時点で、曲と譜面のコンセプトを明確にすることによって、後に譜面を作るときの混乱がありません。あなたが譜面を誰かに外注する場合、切る音を厳選することで、あなたが意図したとおりの譜面になりやすくなるでしょう。

この方式は非常に有用ですが、どの音を叩かせてどの音を叩かせないかという選択が重要であり、この選択を誤れば、どんなに曲が良くてもBMSとしては良くなりません。不安なら全て切ってしまってもいいし、よけいな手間はかかりますが全部切って譜面上に配置したあと、使わなかった音を改めてBGMにまとめるという手段もあります。



残響をBGMにする

 特定のパートをBGMにするだけではなく、叩かせるメインのパートのディレイやリバーブをもBGMに入れてしまうパターンです。全ての音をキー音にした上で残響のみをBGMにする場合と、叩かせるパートの残響を叩かせないパートの全体と共にBGMにする場合とが考えられます。
筆者がBMSを作る場合ほとんどこの方式を取ります。まずはどのような欠点があるか挙げていきます。
演奏感の劣化
原音と残響を分けるということは、ノートをタイミング通りに叩こうが叩くまいが残響だけは所定のタイミングで鳴ることを意味します。「叩かなくてもエコーが響く」という奇妙な状態になってしまうのです。これが直ちに演奏感の喪失に繋がるとは限りませんが、違和感を生じさせる原因には十分なりえます。

このデメリットは演奏感を求めるBMSにとって大きいように感じますが、逆にいえばそれ以外にこの方式だけに目立つ欠点というものはありません。次に利点を見てみましょう。
ファイルサイズの節約
これが最も大きな効果ですね。前述のとおり残響部分は原音よりはるかに長く、それをキー音に含めるとファイルサイズが大きくなりますが、その残響をBGMに回してしまえばキー音側は絶対的に短い音になります。音切りの際に残響が次の音に入ってしまうおそれもありませんし、音量調整などの一括操作も比較的短い時間で行うことができます。
音の混濁の回避
残響の長い音を複数同時に鳴らすと、残響どうしが干渉して音が濁る場合があります。あるいは多重定義されていない音が連続で鳴らされると残響も途中で切られるため、響きが不自然になる可能性もあります。残響をまとめてBGMにしておくなら、混濁などの問題を事前に処理しておけるし、同じ音が連続で鳴るときに多重定義を行う必要も減ります。これはこの方式を取る大きな理由になります。

残響以外を全て切る場合の利点と欠点は全部キー音にする場合の利点と欠点も含みますし、叩かせないパートと共に残響をBGMにする場合は叩かせないパートをBGMにする場合の利点と欠点も含みます。
この方式を使うか否かの判断基準は演奏感喪失の可能性を大きいと取るか、サイズ節約や音質劣化回避の可能性を大きいと取るか、といったところでしょうか。


最終更新:2020年11月11日 22:43