NWの夏(4)
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そのネリが探しているKBNはというと、高山の上で大勢のそらとびわんわんたちとともにいた。
高い山の上にはまだすこし雪が残っていたが、それでも確かな夏の訪れは感じられる。山を覆っていた雪はほとんど姿を消し、常に緑の木々ではあるがこころなしか若葉が芽吹いているようにも見える。
遠く鳥の声が聞こえる。見上げれば彼らが少し羽ばたけば届くような距離で一羽の鳥が、求愛するかのように一回転した。それを見上げ犬たちはほう、とため息をつく。
彼らとて自然を愛する心はあるのだ。一呼吸おいて率直な感想が漏れた。
「うまそう」
率直すぎるというよりは野生に還りすぎである。
「焼き鳥ですな」
捕獲を前提に会話が始まる。
「ビールか」
「夏ですな」
「おう、俺の脳にも夏がきたぜ!」
ぐるぐると目を回しながら答える犬たち。
一応は土場の誇る犬部隊なのだが緊張感がない。こう見えても、高い山を飛び回り、急な天候の変化にも耐え切る。輸送部隊兼、移動用の搭乗兵器、なのだが。その普段の行動には、そのような重大な任務についているという気負いも緊張感のカケラもない。
彼らはつねに自由である。
多少、というかかなり性格的・倫理的に難がありそうな顔をしているのはご愛嬌だ。
多くの物資を背負って山岳地帯を回っていた。それももうすぐ終わるところだ。藩国の周囲にある山をファンブルからグリードにかけて移動する。距離もさることながら、高い山々が連なっているため足元もおぼつかなく、出発地点の近くでは雪崩の危険性がある場所まであった。それでも今朝ファンブルを出発した一行は、日が沈むずいぶん前にグリード目前にまで迫っていた。
「山の上は涼しいな」
「でも、あきてきたな」
基本的に小麦畑だらけだしな、と木々が芽吹いたとはいえ、普段とたいして代わり栄えのしない景色に愚痴をこぼしながら移動する。ほどなくして、山の上から海が見えた。
海が見えた時点でグリードとの距離は目と鼻の先ということである。犬たちはゴールが近いとあって喜び合った。山岳演習も終わりだからだ。犬が機動力に富むとはいえさすがに藩国の端から端への強行軍は疲れるものだった。
「よし、お前ら。明日は一日海で遊ぶぞ!」
隊長のKBNがそういうと、隊員たちがどっと湧いた。
「アオーン!!」「オレサマ サカナ マルカジリ!!」「マグロ捕獲ですね、わかります」「ここはあえて、クジラじゃね?」「クジラを踊り食いとな!」「俺らどんだけ化け物だよ」
というぐらいに各々が喜びを表した。しっぽももふもふの勢いである。ぐるぐると尻尾を回し、耳もぱたぱたと必要以上に動かしている。ただでさえ、危険なのにこの喜びようは、ますます目撃した人間にSANチェックが入りそうな雰囲気を醸し出しているが、気にしてはならない。彼らはそういう兵器である。
高い山の上にはまだすこし雪が残っていたが、それでも確かな夏の訪れは感じられる。山を覆っていた雪はほとんど姿を消し、常に緑の木々ではあるがこころなしか若葉が芽吹いているようにも見える。
遠く鳥の声が聞こえる。見上げれば彼らが少し羽ばたけば届くような距離で一羽の鳥が、求愛するかのように一回転した。それを見上げ犬たちはほう、とため息をつく。
彼らとて自然を愛する心はあるのだ。一呼吸おいて率直な感想が漏れた。
「うまそう」
率直すぎるというよりは野生に還りすぎである。
「焼き鳥ですな」
捕獲を前提に会話が始まる。
「ビールか」
「夏ですな」
「おう、俺の脳にも夏がきたぜ!」
ぐるぐると目を回しながら答える犬たち。
一応は土場の誇る犬部隊なのだが緊張感がない。こう見えても、高い山を飛び回り、急な天候の変化にも耐え切る。輸送部隊兼、移動用の搭乗兵器、なのだが。その普段の行動には、そのような重大な任務についているという気負いも緊張感のカケラもない。
彼らはつねに自由である。
多少、というかかなり性格的・倫理的に難がありそうな顔をしているのはご愛嬌だ。
多くの物資を背負って山岳地帯を回っていた。それももうすぐ終わるところだ。藩国の周囲にある山をファンブルからグリードにかけて移動する。距離もさることながら、高い山々が連なっているため足元もおぼつかなく、出発地点の近くでは雪崩の危険性がある場所まであった。それでも今朝ファンブルを出発した一行は、日が沈むずいぶん前にグリード目前にまで迫っていた。
「山の上は涼しいな」
「でも、あきてきたな」
基本的に小麦畑だらけだしな、と木々が芽吹いたとはいえ、普段とたいして代わり栄えのしない景色に愚痴をこぼしながら移動する。ほどなくして、山の上から海が見えた。
海が見えた時点でグリードとの距離は目と鼻の先ということである。犬たちはゴールが近いとあって喜び合った。山岳演習も終わりだからだ。犬が機動力に富むとはいえさすがに藩国の端から端への強行軍は疲れるものだった。
「よし、お前ら。明日は一日海で遊ぶぞ!」
隊長のKBNがそういうと、隊員たちがどっと湧いた。
「アオーン!!」「オレサマ サカナ マルカジリ!!」「マグロ捕獲ですね、わかります」「ここはあえて、クジラじゃね?」「クジラを踊り食いとな!」「俺らどんだけ化け物だよ」
というぐらいに各々が喜びを表した。しっぽももふもふの勢いである。ぐるぐると尻尾を回し、耳もぱたぱたと必要以上に動かしている。ただでさえ、危険なのにこの喜びようは、ますます目撃した人間にSANチェックが入りそうな雰囲気を醸し出しているが、気にしてはならない。彼らはそういう兵器である。
翌日、軍港の近くに作られた海水浴場に森覇とその婚約者がいた。
「あ、暑いな」
「そうですね」
照れた顔でお互いを見詰め合って、また視線を海に戻す。
色とりどりに咲いた水着の色も、なんだが現実味がない。家族連れやカップルだらけの砂浜も恋人たちにとっては貸切のようにさえ感じられる。
周囲の雑音などよりも、相手の声のほうが聞こえてくるというマジックのような展開が繰り広げられていた。
「…海って、はじめてみました」
ファンブルからやってきた婚約者は遠く広がる水平線を見ながらため息をつくように呟く。ファンブルは、背後に高い山と地平線が見える木すら生えない平原しかない土地である。
そもそも海周辺の開拓が始まったのはつい最近。海水浴が始まったのもここ数年のことだ。海を始めたみたと目を輝かせていう婚約者に森覇は改めて、つれて着てよかったと思った。
「星能(せいのう)」
「はい?」
「気に入ったのなら、また一緒に。今度は泳ぎに・・・」
「はい」
頬を染め、うつむき加減になる星能の横顔はひどく美しかった。夏の日差しに照らされてなお白く輝く肌。暑さでうっすらと汗をかいた姿すらいとおしい。
夏が終わるまでにちゃんとした水着買わないといけないなと思う。
「あ、暑いから、日陰に」
手をとってむりやり日陰に移動することしかできなかった。周囲を見渡せば、いくらか屋台のようなものも出ている。商魂たくましいというべきか、このあたりは、つい最近まで荒れ果てた土地だったはずなのに、観光客が来て、最初の休憩所ができたあと。雨後の筍のように次々と同じような屋台ができた。
それぞれの店は繁盛しているようである。
「氷」と書かれたところで見知った顔を見つけた。
「いや、だからミスティ…ミスティさん?」
「ブルーハワイ、それで許す…」
「うぃっす。ブルーハワイ2つください」
整備士とパイロットのカップルが、二人してブルーハワイを受け取っている。微笑ましい光景、なんだろうか。水着をしっかり着ているところをみると、これから軽く泳ぐのだろうか。
こういう場で知り合いを見つけるとなんとなく居心地が悪い。うーん、と悩んでいると、
つん、と腕を引っ張られた。みれば星能が心配そうに見ている。
「あ、いや知り合いが・・・」
「おんなのひと?」
不安そうに見上げてくる彼女に、しまった、と思った。水着の女性のほうに見とれていると思われたんだろうか。
「両方・・・俺が整備してる機体のパイロットと、整備の先輩」
「そう・・・」
どうしよう、と迷っていると同じ方向から騒ぐ声が聞こえた。
「せんせー、カキ氷たべたいです! 具体的には葡萄ソーダ練乳金時、略してぶソーれん」
「それ以上いうと、何かイロイロ問題が発生する気がする!」
「あい」
「いいぞ、もっとやれ」
「いいんかい!」
よく見れば、知り合いというか藩王がうろついている。いや、護衛ならいた、ゾロゾロと背後に犬のようなものがついてきている。今来たばかりなのだろう、回りの客はほとんど気づいていなかった。緊張感のかけらもない有名人の登場に、森覇たちの間にあった空気が一気に弛緩する。
「えーと、海はこの辺にしておいしい海鮮料理の店見つけたから一緒に行こうか」
「はい」
あの犬の集団を見ると、これからここでロクでもないことが起こる気がする。ホープではないが、森覇はとっさにそう未来予知をして逃げることにしたのであった。
そして、その判断は限りなく正しかったことになる。
「あ、暑いな」
「そうですね」
照れた顔でお互いを見詰め合って、また視線を海に戻す。
色とりどりに咲いた水着の色も、なんだが現実味がない。家族連れやカップルだらけの砂浜も恋人たちにとっては貸切のようにさえ感じられる。
周囲の雑音などよりも、相手の声のほうが聞こえてくるというマジックのような展開が繰り広げられていた。
「…海って、はじめてみました」
ファンブルからやってきた婚約者は遠く広がる水平線を見ながらため息をつくように呟く。ファンブルは、背後に高い山と地平線が見える木すら生えない平原しかない土地である。
そもそも海周辺の開拓が始まったのはつい最近。海水浴が始まったのもここ数年のことだ。海を始めたみたと目を輝かせていう婚約者に森覇は改めて、つれて着てよかったと思った。
「星能(せいのう)」
「はい?」
「気に入ったのなら、また一緒に。今度は泳ぎに・・・」
「はい」
頬を染め、うつむき加減になる星能の横顔はひどく美しかった。夏の日差しに照らされてなお白く輝く肌。暑さでうっすらと汗をかいた姿すらいとおしい。
夏が終わるまでにちゃんとした水着買わないといけないなと思う。
「あ、暑いから、日陰に」
手をとってむりやり日陰に移動することしかできなかった。周囲を見渡せば、いくらか屋台のようなものも出ている。商魂たくましいというべきか、このあたりは、つい最近まで荒れ果てた土地だったはずなのに、観光客が来て、最初の休憩所ができたあと。雨後の筍のように次々と同じような屋台ができた。
それぞれの店は繁盛しているようである。
「氷」と書かれたところで見知った顔を見つけた。
「いや、だからミスティ…ミスティさん?」
「ブルーハワイ、それで許す…」
「うぃっす。ブルーハワイ2つください」
整備士とパイロットのカップルが、二人してブルーハワイを受け取っている。微笑ましい光景、なんだろうか。水着をしっかり着ているところをみると、これから軽く泳ぐのだろうか。
こういう場で知り合いを見つけるとなんとなく居心地が悪い。うーん、と悩んでいると、
つん、と腕を引っ張られた。みれば星能が心配そうに見ている。
「あ、いや知り合いが・・・」
「おんなのひと?」
不安そうに見上げてくる彼女に、しまった、と思った。水着の女性のほうに見とれていると思われたんだろうか。
「両方・・・俺が整備してる機体のパイロットと、整備の先輩」
「そう・・・」
どうしよう、と迷っていると同じ方向から騒ぐ声が聞こえた。
「せんせー、カキ氷たべたいです! 具体的には葡萄ソーダ練乳金時、略してぶソーれん」
「それ以上いうと、何かイロイロ問題が発生する気がする!」
「あい」
「いいぞ、もっとやれ」
「いいんかい!」
よく見れば、知り合いというか藩王がうろついている。いや、護衛ならいた、ゾロゾロと背後に犬のようなものがついてきている。今来たばかりなのだろう、回りの客はほとんど気づいていなかった。緊張感のかけらもない有名人の登場に、森覇たちの間にあった空気が一気に弛緩する。
「えーと、海はこの辺にしておいしい海鮮料理の店見つけたから一緒に行こうか」
「はい」
あの犬の集団を見ると、これからここでロクでもないことが起こる気がする。ホープではないが、森覇はとっさにそう未来予知をして逃げることにしたのであった。
そして、その判断は限りなく正しかったことになる。
チュアスとミスティは、砂浜に並んで座っていた。カキ氷はとっくに食べ終えていたが、どうにも海に戻る気がせず、少し離れたところで海水浴を楽しむ人を眺めている。
お互い言葉はなかった。一緒にすごしているのが気恥ずかしいような、それでいて幸せな沈黙が続く。心地いいが、しかしここから先に進まなければ、とチュアスは意を決して口を開く。
「なぁ・・・」
その瞬間、砂浜から悲鳴があがった。
「!?」
思わず身構える。敵襲など危険があれば召集がかかるはずだ。ミスティもいつの間にか整備士の顔に戻っていた。結局二人とも似たもの同士なのかもしれない。
「・・・・ごめん」
「いいの。私も同じこと考えてるから」
遠くを見ると海岸で水しぶきが上がっていた。なにか、巨大なものが登場するようなBGMすら聞こえてくる気がする。海がひときわ大きく波打ち、水柱があがった。それも何度も、繰り返し連続で上がる。左右から規則的に上がっていくようだった。
巨大な白い犬が一匹のようなものと目が合った。ふよふよと浮かんでいる。
「・・・・・」
「ちわ」
のんきな声が聞こえて、一気に肩の力が抜ける。声は間違いなくファンブルにいたときに一緒に組んだことのある知り合いの犬オペレータであった。
「そらとび、わんわん?」
実際に見たことないが、最近の主力兵士になるらしいときいた。プロトタイプを見たときは、「なにこれ化け物?」だったが、実際見てみるとどうみても化け物である。
「未来からやってきました、犬怪獣です。気軽にチレゴンとお呼びください。ちなみにチレゴンの発音はピョンヤンと同じアクセントの位置です。」
「うそつけ!」
思わずツッコミをいれてしまう。
「ばれたか。でも、海水浴にきただけで大騒ぎってひどくね?」
海の上ではそらとびわんわんたちが、何度か編隊飛行を繰り返している。アクロバット飛行というのだろうか、回転したり、海からサカナを拾い上げたりしている。
そういうことをするから大騒ぎになるんじゃないのか、と突っ込みたいのぐっとこらえる。突っ込みだすときりがないからだ。
「じゃあ、遊んでくるわ!」
「もうちょっと自重しろ、お前ら」
「だが断る!」
犬怪獣たち―あえてそういわせてもらいたい―は海水浴客など知らんという顔をして楽しんでいる。客たちも、最初は驚いたが、次にはどうでもよくなったらしい。薄情な連中だ。
しかも逆に子供は逆に大喜びである。
夏の思い出にと記念撮影を頼んでいる家族まで出ている始末だった。
「…」
「そういうオチの国よね、ウチって」
ミスティのかすれた声が海辺にむなしく響いた。
お互い言葉はなかった。一緒にすごしているのが気恥ずかしいような、それでいて幸せな沈黙が続く。心地いいが、しかしここから先に進まなければ、とチュアスは意を決して口を開く。
「なぁ・・・」
その瞬間、砂浜から悲鳴があがった。
「!?」
思わず身構える。敵襲など危険があれば召集がかかるはずだ。ミスティもいつの間にか整備士の顔に戻っていた。結局二人とも似たもの同士なのかもしれない。
「・・・・ごめん」
「いいの。私も同じこと考えてるから」
遠くを見ると海岸で水しぶきが上がっていた。なにか、巨大なものが登場するようなBGMすら聞こえてくる気がする。海がひときわ大きく波打ち、水柱があがった。それも何度も、繰り返し連続で上がる。左右から規則的に上がっていくようだった。
巨大な白い犬が一匹のようなものと目が合った。ふよふよと浮かんでいる。
「・・・・・」
「ちわ」
のんきな声が聞こえて、一気に肩の力が抜ける。声は間違いなくファンブルにいたときに一緒に組んだことのある知り合いの犬オペレータであった。
「そらとび、わんわん?」
実際に見たことないが、最近の主力兵士になるらしいときいた。プロトタイプを見たときは、「なにこれ化け物?」だったが、実際見てみるとどうみても化け物である。
「未来からやってきました、犬怪獣です。気軽にチレゴンとお呼びください。ちなみにチレゴンの発音はピョンヤンと同じアクセントの位置です。」
「うそつけ!」
思わずツッコミをいれてしまう。
「ばれたか。でも、海水浴にきただけで大騒ぎってひどくね?」
海の上ではそらとびわんわんたちが、何度か編隊飛行を繰り返している。アクロバット飛行というのだろうか、回転したり、海からサカナを拾い上げたりしている。
そういうことをするから大騒ぎになるんじゃないのか、と突っ込みたいのぐっとこらえる。突っ込みだすときりがないからだ。
「じゃあ、遊んでくるわ!」
「もうちょっと自重しろ、お前ら」
「だが断る!」
犬怪獣たち―あえてそういわせてもらいたい―は海水浴客など知らんという顔をして楽しんでいる。客たちも、最初は驚いたが、次にはどうでもよくなったらしい。薄情な連中だ。
しかも逆に子供は逆に大喜びである。
夏の思い出にと記念撮影を頼んでいる家族まで出ている始末だった。
「…」
「そういうオチの国よね、ウチって」
ミスティのかすれた声が海辺にむなしく響いた。
犬だらけの海水浴はこの後数日、ワクテカ周辺の調査からもどってきた裏王がストップをかけるまで続き、その後もそらとびわんこショーと呼ばれショービジネスの世界で生き残ることになったという。