かちゃ、かちゃかちゃかちゃ。
香ばしいパンの香りがする。
香ばしいコーヒーの香りがする。
香ばしいウインナーの香りがする。
シャキ、シャキシャキシャキ。
レタスがちぎれる音。
トマトが切れる音。
キュウリを刻む音。
かたん。
――――朝食の、音。
福院・メトディオスは用意した其れを、机に座った人物へと用意していた。
「待たせてしまったかな?簡単なものだが―――まあ、いただこうか。」
穏やかなほほえみを。その声にはやすらぎを。ひだりてにはぬくもりを。
コーヒーからは、しあわせなかおりがした。
【警告】危険ですので表示しているページを速やかに閉じて、これ以上ページを閲覧しないで注意してください。
「――――ここも全滅か。」
ビル街。その一角。『ホテル・うっふんアマクダリ』内にて。
全ての部屋全ての人間が『液体』に変わっているのを福院・メトディオスは確認した。
「血の海だな。手口が毎回違う――――どんな魔人能力なのだ?」
「それともただの性癖か?」
まだ乾いてはいない。腐臭もしない。新鮮な血と臓物の香りが辺り一面に広がっていた。
頭痛がする。
『隠者』より『法王』へ。経験を携えた権能は法王に忠告する。
『魔術師』より『法王』へ。機会を携えた権能は法王に進言する。
『月』より『法王』へ。不可知を真実に変える権能が法王に光臨する。
『節制』より『法王』へ。調和を望む権能が法王に冀求する。
この場に存在するタロットは『6枚』。その存在を『法王』に伝える。
それは本来ありえない横紙破り。愚者の祭典に在り得べかざるイレギュラー。
タロットたちが、プレイヤーに助けを求めている。
このままでは愚者の祭典が致命的なことになると、メトディオスに叫びをあげているのだ。
【警告】この情報は役に立ちましたか?
タロットカードの示す暗示とは
0.愚者
I.魔術師
II.女教皇
III.女帝
IV.皇帝
V.教皇
VI.恋人
VII.戦車
VIII.力
IX.隠者
X.運命の輪
XI.正義
ここまでは人の権能であり。
XIII.死神
XIV.節制
XV.悪魔
XVI.塔
XVII.星
XVIII.月
XIX.太陽
XX.審判
XXI.世界
ここまでが神の権能となる。
では、その中央に位置する人でなしにして神でなしは。
XII.吊るされた男
の暗示を受けたあの男は。
この愚者の祭典で唯一『吊るされた男』とされたイレギュラーが示された暗示とは。
『吊るされた男』より『法王』へ。
試練の冠する人でもない神でもないイレギュラーが法王へと懇願する。
た す け て く れ と。
救われる。掬われる。巣食われる。
我々は、このまま『普通】にすくわれる――――
【警告】そうか!お前もとうとう年貢の納め時か!結婚式には呼べよ!何があったって駆けつけてやるさ!
かの著名な魔人研究者である赤ら顔 或中(あからがお あるちゅう)はこう語る。
「魔人に必要なのは『出来て当然と言う意志』である」と。
切っ掛けがどのようなものであれ、『想い』『動き』『呼応する』ことで魔人能力は発生する。
即ちそれは、この世に存在する全ての魔人能力が今だ成長中であることを示している。
たとえどんな能力でも。
【警告】何で『変わってやろう』と思ったんだ?
『私』は、それを解析することとした。
幸いなことに、時間ならば無限にある。
犠牲者がいる限り、永遠に巻き戻り続ける。
――――だって、仕方がないだろう?
こんな能力、どうしろっていうんだ。
すでに10人以上巻き込まれている。
こいつはどうにかしてここで止めないといけないんだ。
【警告】あいつらはお前に酷いことをした。そりゃもう二度と背が伸びない位酷いことをだ。
『足跡化』の原因は把握できた。あれは最も平均的なサンプルが足だからだ。
人の顔も、腕も、指も、胸も、腿も、膝も、『普通』を選択するにはあまりにも多岐に渡る。
脳も、心臓も、脊椎も、肺腑も、血管も、皮膚も、脂肪も、日常で見るにはあまりにも特殊すぎる。
一番個人差が少なく、ありふれた普通として紛れることができるイメージが『足跡』であり、その為にあれは――――
――――ここまでで少なくとも30人の死亡を確認した。
【警告】踏み潰してやろうっていうなら分かる。お前にはあいつらをうらむ資格があるからな。
『足跡』は能力の対象にしか影響を及ぼさないことを確認。
他の死体に触れさせても、生物に触れさせても、同じ種族にふれさせても足跡は影響を及ぼさない。
また、『足跡』が追いつく前に対象を殺害しても触れれば発動するようだ。
――――ここまでで少なくとも90人の死亡を確認した。
【警告】だがお前はそうは考えなかった。それどころか『可哀想だな』と思ったんだ。
対象の『一部』を足跡に投げつけてみる。『足跡』は一部にも反応を示し消滅させていく。
その際に零れる内容物にも反応する。能力発動時の対象及び対象の所有物と認識しているものに追跡が発動するようだ。
能力発動前に『欠損』していた部位に『足跡』は反応を見せることはなかった。
――――ここまでで少なくとも140人の死亡を確認した。
【警告】何処の世界にそんな馬鹿がいるんだ?今まさに殺されそうだっていうんだぜ?
『巻き戻し』が発生する為記録することが困難になりつつある。
流石に3ケタを超えたあたりから記憶では曖昧だ・・・何かに書き込むにしても巻き戻ってしまうのでは意味がない。
――――ここまでで少なくとも180人の死亡を確認した。
【警告】どう考えたって一番可哀想なのはお前じゃないか。
記録できる媒体を発見した。
『巻き戻し』が発生しても元に戻らない媒体。それは
対象の肉体であり、つまり、観察前に対象の血と皮LKJHG
――――ここまでで少なくとも270人の死亡を確認した。
【警告】なんで、そんな
観察を開始する。
お題は何にしようか。前回は■■■だったから今回は捻りを加えてもう少し・・・
――――ここまでで少なくとも590人の死亡を確認した。
【警告】今から殺す自分を見るあいつらの顔が、とても不幸せそうに見えたからだ、なんて。
999人の死亡を確認した。次は記念すべき大台に乗る。
――――さあどうやって殺そうか?
【警告】不幸せそうだから変わってやりたいだなんて、思っちまったんだ。
何でだっけ?
【ああ、そうかい】そういうことかい。
私はなんでこんなことをしてるんだっけ?
【警告】意味なんてないんだな。
最近、女性の姿がちらつく。
どこかで見た顔だ。
【警告】産まれて初めて見たものがそれで、そう思っちまっただけなん『ぺた』だな。
こちらを見て怒っているような泣いているような左右非対称な奇妙な顔をしている。
読唇術は修めていたはずなのだが不思議なことにナンテイッテルノカわからない。
ただ、ひどく。
あの女性の心臓を抉りたくて仕方がなくなる。
【だったらしょうがねえ】しょ『ぺた』うがねえ『ぺたぺた』か。
しょうがなかったんだ。
やり直したいと思ってしまったんだ。決めて歩いてしまったんだ。
だったら歩くしかないじゃないか。この愚者の旅路を。
今更、今更だ。
【『ぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺたぺた』】
――――今更なんだ。
【『 』】
漆黒(あか)い足跡が見える。親の顔よりも見た血に染まる足跡が。
【警告】
タロットの力を使えば、能力の成長を促せば、どこかにあるはずの弱点を見つければ
それとそれとそれと
――――えーと、何考えてたんだっけ?
【警告】
そう言えば最近、視界をちらついていた女性の姿を見ていない。
ナンダッタンダロウ。
【警告】
巻き戻しはやめない。歩み続けることだけはやめたくない。
胸の十字が叫んでいる。自殺は許されない。折れることは許されない。
許されない、ゆるされない、赦されない、ゆるされない。
でも、誰に?
【警告】
誰に?
【――自分は、選択を、誤った】
じつと、こちらをみつめている瞳がある。
【青年は願う】
冴えない男の死んだような瞳。どこかこちらを可哀想に見ている殺されるだけの弱者の瞳。
【選択のやり直しを】
その、瞳が。
【今度こそ】
狂気に染まる事なくいたって普通に。『変わってやりたい』と、こちらを憐れんでいた。
【家族との団欒を】
そして私はその瞳にうつる家族の像に手を伸ばす。
【ああ、でも】
家族ってなんだっけ?
【ぐちゃっ】
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【警告】危険ですので表示しているページを速やかに閉じて、これ以上ページを閲覧しないで注意してください。
かちゃ、かちゃかちゃかちゃ。
香ばしいパンの香りがする。
香ばしいコーヒーの香りがする。
香ばしいウインナーの香りがする。
シャキ、シャキシャキシャキ。
レタスがちぎれる音。
トマトが切れる音。
キュウリを刻む音。
かたん。
――――朝食の、音。
福院・メトディオスは用意した其れを、机に座った人物へと用意していた。
「待たせてしまったかな?簡単なものだが―――まあ、いただこうか。」
穏やかなほほえみを。その声にはやすらぎを。ひだりてにはぬくもりを。
コーヒーからは、しあわせなかおりがした。
しあわせなかおりがした。
しあわせな、かおりが――――
【ぺた】