プロローグ『タロットカードの亡霊(鬼姫災禍)』

はてさて、先ずは何から話せば良いのだろうか。
俺は今、奇妙なタロットカードを所持している。
いや、所持していると言うよりは憑き纏われていると言う方が正しいだろう。
このタロット、『正義』を冠するカードはある日突然、俺のライダースジャケットに入っていた。
始めは、ツレ(x:キィ)が悪戯か何かしたのかと思い聴いてみた。
「キィ、俺のジャケットにタロットカード入れたか?」
するとツレはキョトンとした顔を浮かべ首を横に振った。
「(私、知らない)」
俺でしか聴き取れない、彼女特有のとても小さな声で否定した。
では、何時・何処で・誰がこのタロットを俺のジャケットに入れたのだろうか。
そんなカードをまじまじ眺めていると、何だか不意に絵柄の女が笑った様に見えて、背筋にゾクリと悪寒が走った。
「(気味が悪いなコイツ(カード)、焼却炉で燃やすか)」
そう思い、俺はツレを部屋に残し校舎裏までやって来た。
焼却炉の蓋を開けると、今まで使われて無かったのだろう、雑草や埃が溜まり水気を含んでカビの臭いが漂ってきた。
とてつもない臭気に顔を顰めつつ、俺は焼却炉に燃料を掛け火を付けた。
瞬く間に炉内は火の勢いを強くし、給気口から空気を取り入れながら炎は大きくなり、排気口から轟々と唸り声を上げた。
開いた炉蓋から煌々と明かりが漏れ、それを只々眺めていた俺は不意に過去の出来事や姫代学園に来た時の事、ツレとの出会いなどが脳裏を掠める。
「(俺が感傷に浸るなんてな、日和ったか?)」
焼却炉の火力も上がって来た様なので、俺は手にしていたタロットカードを中に放りこんだ。
カードに火が付き、パチパチと音を立てて燃え始めた。
俺はそれを確認し、
「(これで良い、あのカードは何かヤバい、これは俺の経験則から来る”勘”ってやつだが、あれに深入りしないのは正解かな)帰ってキィ抱いて寝るか・・・」
俺は欠伸しながら帰路に就いた。



~~翌日~~



「・・・・・・んぁ?!」
変な声を出して俺は飛び起きた、辺りを見れば自室、傍らにはツレ。
これはここ最近の日常、決して変わる事の無い日常、だけど、この違和感は何だ?
頭が上手く働かない、思考が纏まらない、何か大事な事を忘れてる。
そんなパニック状態の俺にキィが目を覚ました。
「(ん・・・、どうしたの殺人(あやと)?)」
ジッと俺の目を見つめ、心配そうな顔をするキィに少し冷静さを取り戻す。
「い、いや、何でも・・・」
”何でも無い”と言いだす前に、この違和感が何なのかが解った。
「なぁ、俺って昨日何時に帰って来た?」
「(えっ?)」
「何時に帰って来た!!?」
そうだ、俺は何時部屋に戻った?
確か俺は、カードを焼却炉で燃やして帰路に就いて、それから、それから・・・。
「(昨日は、焼却炉に行くって言ってから1時間も経たないで戻って来たじゃない)」
俺は眩暈を覚えた。
「(そうか、この違和感はそう言う事だったんだ・・・)」
焼却炉の帰りから俺の記憶は空白なんだ、それなのに俺は確り(しっかり)と一人で帰って来てキィを抱いてたんだ。
「な、なぁ、キィ・・・」
「(?)」
「昨日って、何回ヤッたんだ俺達?」
そんな俺の質問に、普段は無表情なキィも少し恥じらう様子で「(5回)」と答えた。
「(昨日はいつもより強引で激しかった、何回も・・・ィった(照))」
そう付け加え話すツレ。
「(いやいや、可笑しいだろ俺!!そんなんだったら絶対覚えてるだろ俺!!)」
ヤバい、絶対ヤバい!!
この状況、絶対誰かの魔人能力の影響だろう!!
でなければ・・・・・・。
「(凄く、嫌な予感がする)」
俺はベッドから起き上がり、椅子に掛けてたライダースジャケットに着替えた。
「(出かけるの?)」
キィがベッドから起き上がろうとしたから制止して、
「ちょっと(バイクで)走ってくる、すぐ帰る」と言って部屋を出た。
部屋を出た時に感じる、ジャケットの違和感、ポケットの中に感じるカード状の代物。
俺の心臓が跳ね上がる。
「(おいおいおいおい!!このポケットの奴って・・・)」
俺は恐る恐ると胸ポケットの”中身”を取り出すと絶句した。
手にはあの”タロットカード”が有るじゃないか!!
「(ふざけんなよ・・・)」
何だよ、俺は今悪夢を見てるのか?
ダメだ、このままだと絶対に何か悪い事が起きる。
何か確信めいた気持ちに動かされ、カードをポケットに戻しバイクを走らせた。
「(こいつを何処か遠くに捨てよう!!)」
学園を飛び出し兎に角バイクを走らせた、かなり走らせ後少しで東京を出ようかと言う時に、急な激しい頭痛に襲われ、俺は慌ててバイクを停めた。
「(畜生!!何だこの頭痛は、急に激しくなったぞ?!)」
すると何処からか俺に呼び掛ける”声”が聞こえた。
「誰だ!!」
俺は叫んだ。
「俺を呼んるのは誰だ!?何処にいる!!?」
周りの歩行者は訝しげに俺を横目で通るが、俺は続けて叫んだ。
「俺に何かしただろう?!元に戻せ!!」
すると”声”はハッキリとした声で話し掛けた。
「私はあんただよ鬼姫殺人(おにひめあやと)、いや違うな、正確に言えばあんたが捜してる鬼姫災禍(おにひめさいか)だよ」
声の主は自分を”鬼姫災禍(おにひめさいか)”と名乗った、俺はその名を一度たりとも忘れた事は無い。
「てめぇが誰だか知らねぇけど、その名を使って俺にちょっかい出して・・・、生きて帰れると思うなよ?」
先ほどとは違い、俺は周囲へこれ見よがしに殺意を放つ。
すると”声の主”はケタケタと笑いながら俺に話し始める。
「お~怖い怖いw」
「・・・・・・チッ」
本当、癪に障るな。
「てめぇが本物(オリジナル)って証拠は有るのかよ」
「ん~・・・、証拠ね~・・・、ちょいとカードを出してみ?」
「タロットか?」
「そ」
俺はポケットのカードを出した。
「・・・・・・途中からだが何となく予想はしてたさ」
そう、”声の主“はこの”タロットカード”だったのだ。
今朝からだ、やけに胸騒ぎがして気持ちが悪かった。
空白の記憶やらツレとのやり取り、そして決定打が昨夜、焼却炉で燃えたはずのこの”タロット[正義]”が何事も無かった様に俺のポケットに入ってた事。
これだけピースが揃ってたら、幾らニブい奴でも勘づくと思う。
「・・・・・・あんま驚かないんだね?」
「いや、驚いてはいる、驚いてるが正直な話してめぇが鬼姫災禍(オリジナル)かどうかが問題なんだよ!!」
「あ~・・・、問題はそこなのね(苦笑)」
「あっ?!何が可笑しい!!俺は、俺達は・・・・・・」
「十束学園」
「!?」
俺を作った秘密組織、十束学園をこいつは何故知ってるのか、一瞬頭が真っ白になった。
「そこで造られたんだろ、あんた」
「なんでお前が知ってるんだよ!!」
「あんたが何番目か知らないけどさ、私がこんなカードになる前に来たんだよ、君の姉妹さ」
「てめぇ、俺の姉妹をどうしたぁ!!」
「・・・・・・殺した」
殺した、殺した?誰を?何を?俺の姉妹を殺した?誰が?こいつ(自称オリジナル)が?
「・・・・・・へっ?殺した?」
「仕方なかったんだよ、じゃないと私が殺されてた」
「・・・あ、ああ・・・・・・」
身体が震えだす、頭の中で思い出したくもない記憶がフラッシュバックを起こす、心臓が爆ぜる様に跳ね、眼球は有象無象を無視し視界がチカチカする。
ヤバい、ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!
自我が保てない!!
能力が暴発する!!
「・・・・・・はぁ~~~、仕方ないね」
突然カードが光始める、光は大きく輝きながら、やがて人の形を成していく。
「今回は貸しだよ」
光の中、目の前に俺と同じ姿の女が・・・。
そこで俺の意識は途切れた。



「ほんと、世話の掛かる妹だな(呆)」



~~その頃~~



「(・・・・・・遅い)」
殺人に置いてかれ、彼女の部屋で一人寂しくしてるキィ。
「(・・・・・・昨日の殺人、やっぱ変だ)」
昨夜、殺人が戻って来てからの事を思い返す。
「(何か、話し方が普段と違った)」
普段は他人に素っ気無い殺人だが、キィの事は何かと気遣っているようで二人の時は優しい様だ。
「(まず殺人は私を”ちゃん”付けで呼ばないし、自分の事を”私”とは言わない)」
キィも違和感は感じていた、だが確証も無かった。
「(それにしても、・・・・・・昨日は凄かったなぁ~*1)」
そして昨晩の情事を思い出し一人照れる彼女。
「(そう言えば)」
ここでキィはある事を思い出し、自身が抱える違和感が何なのかを理解する。
「(殺人は私に「”妹(こいつ=あやと)”が世話になってるね」って言ったんだ!!)」
彼女は急な胸騒ぎに襲われた。
この胸騒ぎが何なのかは解らないが、彼女は居ても立っても居られなくなり部屋を飛び出した。
「(何か事件に巻き込まれたんじゃないよね殺人?)」
そこに玄関のドアを開けて”何か”が現れた。
現れたそれは彼女を確認すると”にたぁ~”っと口角を上げ笑顔になる。
そして一言、「見~つけた」と漏らす。
「(・・・・・・殺人?)」
彼女は突然の来訪者を凝視する、その相手は自分のよく知る恋人なのだが、何かが違う。
見た目は殺人で声も一緒、だけど、何かが違う。
彼女の中で危険信号が点り、脳内に警報音が鳴り響く。
『こいつは危険だ!!こいつは敵だ!!』と本能が報せる。
「(貴方、誰?)」
そう述べてジリジリと後退するキィ、相手にバレないよう背中に武器を精製する。
「誰って酷いなぁ~、君の大好きな殺人だよぉ~~?(笑)」
「(違う、確かに貴方は殺人と一緒かもしれない、だけど、”中身”が違う!!)」
「えぇ~~~中身~~~?中身ってなに?(笑)」
そう言って”何か”は身に着けてる衣類を開け、剥き出しの内臓を見せ付けた。
「(何こいつ)」
彼女の背中を冷汗が流れる。
「中身ってどれ~~?(笑)」
”何か”はゲラゲラと下品に笑いキィへ近付いて来る。
「(それ以上近寄らないで、・・・・・・来たら殺すわ)」
こう見えて彼女は姫代学園が誇る人工強化型魔人、”転校生”なのだ。
彼女は自身のトランスフォーム能力で全身を兵器化し威嚇をする。
「・・・・・・はぁ~~~~やっぱダメかぁ~~~、見た目一緒だったから上手く行くと思ってたんだけどなぁ~~~何でかなぁ~~~~~~?」
”何か”はわざとらしく、さも大げさな態度を見せた。
「(貴女は誰?殺人が言ってた”ナンバーズ(姉妹)”なの?)」
「ナンバーズ(姉妹?)」
その一言に相手は苛立った様に声を荒げた。
「あんな出来損ない共と一緒にしないで欲しいね~~~~~~殺すよ?」
先ほどの飄々とした雰囲気は消え、底無しの殺意を彼女に向けた。
その瞬間、キィは理解した。
「(私、今日死ぬんだ)」
決して彼女が弱いのではない、それ以上に”何か”は未知の怪物なのだ。
「本当は楽に殺してやろうかと思ったんだけどさぁ~~~、”ナンバーズ”の名前出されちゃうとさぁ~~~~~~・・・・・・・・・楽に死ねないよ?キィちゃん♡」
ゆっくりとだが着実に追い詰められる、背後を取られたら即死、目をつぶっても離しても即死、隙を見せれば即死。
彼女は唯々殺されるだけの時間を何とか先延ばしにしてるだけだった。
それでも・・・・・・・・・。
「(諦めない!)」
彼女は希望を捨てなかった。
「(私に殺人兵器としてでなく、一人の”人間”として扱ってくれた殺人と、私はーーーーー)一緒に居たい!!」
そう彼女は有りっ丈の声で叫んだ。
すると開きっ放しの玄関から大型バイクが突っ込んで、”何か”を轢いて行った。



~~現在~~



「待たせたねキィちゃん、もう大丈夫だよ!!」
キィは突然の出来事に混乱した、それはそうだ、今し方殺人と同じ顔の”何か”に殺され掛けたのに、今度は本人がバイクに乗って現れたのだから。
「(え?え?あ、あやと・・・・・・なの?)」
「あーーーその反応だと、薄々気付いてるみたいだね」
「(じゃあ、貴女は”誰”なの?)」
「ん~~~~~~~、説明すると長くなるんだよね(苦笑)」
そんなやり取りを余所に、バイクに吹き飛ばされた”何か”はさも何事も無かった様子でこちらへやって来る。
「あーあーあーあー、人様を轢いておいて無視はよくないよなぁーーーー」
「何が人様だよバケモノ野郎、私の姿形で何好き勝手してんだ・・・ぁん?!」
殺人(?)は”何か”に怒気を向け凄んで見せた、相手もイラついた顔で突っかかって来た。
そこへキィが殺人(?)に尋ねる。
「(貴方の事は後回しにする、それより・・・・・・)」
「あいつの事だろ?察しの良い君なら、もう検討は付いたんじゃない?」
「(殺人の知らないナンバーズって所かな?)」
「当たらずも遠からずって所かな、奴は”こいつ(あやと)”のシリーズから産まれた副産物さ」
「反吐」が出ると睨み付けた。
「ね~~~ね~~~、そろそろ始めないかなーーーーーー殺し合い?」
「あんたに言われなくてもおっ始めるさ」
「(ちょっ!!)」
彼女、キィが制止するのを尻目に”同じ顔”の2人は防御完全無視のフルスイングを放つ。
すると、”バキィ”と渇いた音が響いた。
「い!いっっっっっってぇーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!(涙)」
殺人(?)と”何か”の拳が激しく衝突し、その際に殺人(?)の拳がブッ壊れたのだ。
「(殺人は弱いのよ(汗))」
「はぃ~~~~~~~?!」
「きゃははははははははは(笑)」
俺の拳を砕けたのを見て、俺とそっくりな顔したあいつは大笑いしていた。
「これはとんだ傑作ね!!あの”鬼姫シリーズ”がこんなんじゃ、遅かれ早かれ廃棄されてたのよ(笑)」
「そう言う事はあまり言わない方が良いと思うけどね(苦笑)、あんた(てめぇ)今・・・・・・地雷踏んだよ(ぞ)?」
「!?」
先ほどとは明らかに違う俺の雰囲気を察し、一旦後退する”何か”。
そう、俺はバイクを走らせた先で俺は過去のトラウマを思い出し能力を暴発させ掛け、タロットカードの亡霊(鬼姫災禍)に身体を乗っ取られ今迄気絶してたんだ。
だが、さっきの衝撃と拳の痛みで叩き起こされ、さらには死んだ”ナンバーズ(姉妹)”を侮辱され怒りのメーターは振り切っている。
「”こいつ(オリジナル)”に身体乗っ取られたってだけでもキレそうなのに死んだ姉妹まで侮辱された日にゃあ我慢できねぇーな・・・・・・」
「ひっ!」
「(これって・・・)」
「今からてめぇに見せるのは混じりっ気のない純度100%、正真正銘の”人間の悪意”と”地獄”って奴をよ!!」



ーーーそして発動するーーー『T・B』



辺りが真っ白に染まり、どのくらい経過したか?
少しずつ視界が晴れていく 。
「ヒィーーーーー!!」
完全に視界が戻ると、さっきまで俺達を襲ってた複製品は恐怖に引き攣った顔を浮かべ、全身を戦慄かせていた。
「助けて!!死にたくない!!!ヒィ~~~~~~~」
複製品は恐怖で白く染まった髪を振り乱し泣き叫んでいた。
ここで視界を取り戻したキィが近寄り尋ねる。
「(彼女(複製品)、どうしちゃったの?)」
「もう・・・・・・、こいつは戦えないよ」
「(戦えない?)」
「俺(私)達の記憶をそいつの頭に上乗せした、だからこいつは終いだ」
鬼姫殺人と鬼姫災禍、二人の記憶。
常人なら精神崩壊を起こし発狂死するほどのトラウマを複製品は喰らってしまったのだ。
「・・・・・・お前(複製品)も被害者なんだな、殺さないでやるからどっか行け」
「!!」
複製品は縺れる脚で何度も転びながら走り去っていった。
遠退いてく敗者の背中を殺人は眺めていた、その瞳は何処か悲しみを秘めた憂いに満ちていた。
キィはそんな殺人の傍により、静かに手を握っていた。
「(・・・・・・大丈夫だよ、殺人)」
「・・・・・・ん」
殺人は強く握り返し、言葉少なに返事をした。
「(ねぇ、今の殺人はどっちの殺人なの?)」
「さぁーな(ね)・・・・・・、俺(私)にも解らないよ」


こうして俺はタロットカードの亡霊(鬼姫災禍)に憑りつかれる形で事件に巻き込まれてしまった。
まさか、こんな形でオリジナルと邂逅するとは想わなかった、今回の件で俺とオリジナルは協力関係を築くが、必ずケジメは付けると約束し、新たな戦場へと赴く俺であった。
最終更新:2020年09月28日 00:20

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