「イギギ、ぎ。ギハ。ギハギハギハハハハハ・・・イキュアハアアアアア!!!」

バズ、バズバスバジュン!!

殺していた、殺していた、殺していた、殺していた。

男は殺していた。
三千殺界 膝栗毛(さんぜんさっかい ひざくりげ)は殺していた。
己に迫る脅威を殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺していた。

彼の異能は『殺し殺せば殺すとき(スリーアウト・チェンジ)』
己の行動すべてが『殺す』方法に変わる。
指で撫でれば指殺し。水を浴びせれば水殺し。命をかければ生殺し。
我に殺せぬものなど世にはなく、命は全て世に儚く。そんな異能だ。

故に殺す。故に殺す。故に殺す。

しかし

ぺたり。ぺたり。ぺたり。

『ぺ』た『た』た『た』た『た』た・・・・『ぺたん』

殺されようとも殺されようとも殺されようとも殺されようとも
止まらない止まらない止まらない止まらない止まらない

『足跡』は止まらない。黒いような赤いような漆黒(まっか)な足跡が膝栗毛を追跡する。
『足跡』に触れればどうなるかは分からない。
だがどうなるかはわからなくともどうせロクでもないことになるのだろうということだけは分かる。

バズ、バズバスバジュン!!

故に殺す。故に殺す。故に殺す。

異能すら殺す己の異能が通じない。
いや、通じぬ理由は分かっているのだ。

先ほど殺した冴えない男。映えもしない堪えもせず、敢えなく己が異能で殺した男。

その男から殖えた異能。殺された異能であるが故に。異能を更に殺すことは己にはできなかった。

ぺたり。ぺたり。ぺたり。

だが諦めぬ。三千殺界 膝栗毛の辞書に殺す以外の文字はないが故にして。
只逃げ惑うだけではなく、只殺し間よう為だけに彼は逃げる。

『ぺ』た『た』た『た』た『た』た・・・・『ぺたん』

直接の異能では殺せない。ならば殺せるようにするだけだ。
殺すことに最適化された己と異能とその本能が最適解を求め走る。
殺し殺せば殺すとき。その為が故にひた走るのだ。

ぺたり。ぺたり。ぺたり。

足跡の速度は歩くほど。だが決して楽観は出来ぬ。この足跡は殖えている。
一歩歩けば一つ殖え。二つが更にまた一歩。そうして一歩一歩己の存在圏を倍々ゲームで削り取っている。

『ぺ』た『た』た『た』た『た』た・・・・『ぺたん』

故におそらく。チャンスはおそらくただ一度。そこで活路を拓けねばおそらく『追いつかれる』

「ギ、ギヒ。」

迫る死を前に、笑みがこぼれる。

「ヒヒヒヒ、ヒ。アハハアア」

死を避ける為に、笑みがこぼれる。

「ギヒャハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

死を殺すために、生殺すために膝栗毛は己の命を己の策にBETする――――!!

「ハア。ア――――――――――――『ぶっ殺した』」

そして辿り着いた。ここは全てが始まった場所。
殺され足跡を産み出した冴えない男の遺骸がある場所。

そこで膝栗毛は遺骸に触れる。

足跡を産み出す異能があるのであればその異能を殺すために。
『殺す殺せば殺すとき(スリーアウト・チェンジ)』はあらゆる殺し方を与える異能だ。
すでに死んでいるものですら、その弱点を暴き出して社会的に殺すことすら不可能ではないだろう。

殺す(奥へ)。殺す殺す(更に奥へ)。殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す(もっと、もっともっともっともっと奥へ――――)

「ギ、ギヒ。」

迫る死を前に、笑みがこぼれる。

「ヒヒヒヒ、ヒ。アハハアア」

死を避ける為に、笑みがこぼれる。

「ギヒャハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

こぼれた笑みは何だったのか。足跡の異能の真実を見たがためか。

「何だこりゃあ・・・?殺した時点ですで詰んでいたってことか、よ?」

すでに足跡は彼の周囲を万遍なく覆っている。
目に映るのは漆黒(あか)か真紅(くろ)しか存在せず。

いや、きっとおそらくは。
この現象が発動してから彼の瞳の中で、すでに己は足跡に『追いつかれていたのか』

「なんつー悪趣味な異能だ・・・同情するぜ、名前も知らねー冴えない誰かさんよ。」

その異能の本質を知った男は力を抜き。

「あーあ」

ため息とともに、足跡に呑みこまれた。

ぺたり。ぺたり。ぺたり。

『ぺ』た『た』た『た』た『た』た・・・・『ぺたん』

暗転。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「―――――――――ハッ!?」

そして男は目が覚める。逢合 明日多は目が覚める。

「あ。あああああ。あああああああああああああああああああああ・・・」

何度何十度何百度行おうとおこなわれようと慣れることはないこの覚醒。
そこに残るは自分が殺された感触と――――自分が殺した感触。、

血に塗れて起き上がった眼前には。
血に塗れて殺されている三千殺界 膝栗毛が、転がっていた。

彼の異能は彼の死と彼の殺を交換する取引の異能。
『彼を殺したもの』を『彼に殺されたもの』に変換する順逆一視の絶対能力。

その異能の名は、箸も殺せるお年頃(ボーン・デット・マン”シオン”)と言った。

「ああああああああああああああああああひゃはひゃはやひゃひゃっはははあげらげらげらげらげら・・・ひゃああ!!!」

男は逃げる。逢合 明日多は地を逃げる。
狂ったように笑いながら狂えぬ己を呪いながら地を駆ける。無様に爪たて野を駆けまわる。

ぺたり。ぺたり。ぺたり。

時間を捻じ曲げ摂理を超えてまで生きようとするこの異能を抱えて生きるにはこの男は普通過ぎる。
どこまでもいつまでもいつまでたっても殺すことにも殺されることにも慣れずに精神をすり減らし続ける様はあまりにも向いていない。

いや、あるいは。

このどこまでもいつまでもいつまでたっても命に追いつめられ極限まで追い込まれ続けても尚決して狂う事もなくすり減り続けるこの精神こそが。
この異能(じごく)にふさわしいとでもいうのであろうか。

ぺたり。ぺたり。ぺたり。

狂ったような狂えぬ男の笑い声がどこかのいつかで谺する。

今まで殺してきたなにがしかと今まで殺されてきたなにがしかが交差する。
死するときの感触はおぞましきものであり、彼の魔人能力は究極そこから逃げ出したいだけの代物だ。
――――だと言うのに逃れられない。いや、むしろ何度も何度も味わう羽目になっている分悪化しているとさえ言えるだろう。
何処かに逃れる場所がないかと求めるように男は走る。走る。走る。

ぺたり。ぺたり。ぺたり。

彼はいつか救われるのか救われないのか。それとももう救えないのか。

それはまだ、誰にも分からない。

ぺたり。ぺたり。ぺたり。

『ぺ』た『た』た『た』た『た』た・・・・『ぺたん』

暗転。
最終更新:2020年09月28日 16:51