注意!!
この物語には以下の要素が含まれます。

  • あるキャラについての独自解釈とキャラ崩壊
  • タロットカードの真実
  • エンドレスエイト的な何か
  • 爆破オチ少々

以上が平気な人はゆっくりしていってね!


【ROUND1】

アルカナ持ち同士は引かれ合う。理屈とか抜きにお互いがそうだと分かってしまう。それはいかなる手段でも隠蔽できない。願いを叶えるタロットカードの力は魔人の力を遥かに凌駕する。この大会を強制的に進行させる程の力があるのだ。
はい、ここテストに出るから覚えておくよーに。

そんな訳であいきゅうさんも倒すべき敵の存在に気付いてしまっていた。

「卑怯屋!まさかお前もアホカナ持ちだったとはぜ!?」

なんと、あいきゅうさんの宿敵にして支援者の卑怯屋こそが最初の敵として立ちはだかったのだ!作者もこれにはビックリだ!

「ひっひっひ、ばれたのなら仕方ない。あいきゅうさんとは決勝で戦いたいから黙っていたんですがね。今日これまでの因縁に決着するのも悪くない!」

卑怯屋とあいきゅうさんの因縁は、あいきゅうさんが小坊主になったばかりの頃まで遡る。
この町(東京)一の商人卑怯屋にはどうしても叶えたい夢があった。それは、謎の財閥に執事として仕え、胸の無い令嬢にこき使われる事である。だが、そう都合よく謎の財閥なんて存在しない。仮にそんな凄い財閥があったら卑怯屋はここまで商売上手くいっていない。

なので自らの手で謎の財閥を作る事にした。ペーパー会社ドコカノカンパニーを設立し、暗愚寺の和尚を代表、あいきゅうさんをその令嬢として勝手に設定。その事実が発覚するやいなや和尚に半殺しにされた上で裏金疑惑で社会的にも死にかけた。

その後、ドコカノカンパニーは即座に解散。卑怯屋の取り扱うあらゆる商品を七割引きで販売する契約で和解し今に至っている。だが、卑怯屋はまだ夢を諦めていなかった。そして、その夢にタロットは応えた!

「このセバス・スチュワードには夢がある!あいきゅうさんをお嬢様と呼び下僕になる為ならば、たとえあいきゅうさんが相手だろうと容赦はせん!」
「うるせえ!何がセバスだぜ!お前の本名芋洗坂団六だろうが!それに俺が死んだらその夢は叶わねえだぜ!後、和尚を巻き込むな!」
「ひっひっひ、それを何とかしてしまうのが私達の持つカードの力ですよ。ワシの様な大商人でも不可能な夢を道理を無視して叶えてしまう」

卑怯屋の主張はイマイチあいきゅうさんにはピンと来なかった。あいきゅうさんは腹減ったから水飴ツボから直飲みしたいという、別にタロットカード使わんでも叶うだろうという願いで参戦してしまっているイレギュラーな存在。なので、タロットカードが叶える願いにそこまで興味が湧かない。ただ一度アルカナを手にしたら戦いを強いられる強制力は彼も感じとっていた。

「卑怯屋の話はわからんぜけど、要は勝負するんだぜ?」
「そうです。では行きましょう決戦のバトルフィールドへ!」

そう言って卑怯屋は歩きだす。その後ろをあいきゅうさんがついていく。

テクテクテク

「なー、勝負ってどこでやるのぜ?」
「ひっひっひ、ワシが経営してる王将がこの近くにあります。そこの従業員用駐車場なら邪魔は入らないでしょう」

テクテクテク

「卑怯屋ストップ、スカートに雑草の種がくっついたから少し止まって欲しいんだぜ」
「ワシに取らせて下さい。執事の仕事です」
「自分で取るんだぜ!パンツ見るなぜ!」

テクテクテクちゅどーん

「見えてきましたよ。今さっき爆発したのがワシの経営するチャオズの王将です」
「ホントだ。見事に爆発してるんだぜ」
「…」「…」
「「何があった!!??」」

卑怯屋は急いで現場に向かう。危険だがこの爆発の理由がどこにあるのか経営者としてすぐさま調べなければならない。あいきゅうさんもとりあえず卑怯屋の後を追う。

「ハイリさーん!ハイリさーん!無事ですかー!いるなら返事してくださーい!」
「卑怯屋、ハイリって誰なんだぜ?」
「この王将の店長です。若いが優秀な子で、飲食物にニトロを混入するのが特技なんです」
「犯人そいつに決まってるぜ!って、ヒィィ!足元が死体まみれだぜ!」

かつて中華料理店チャオズの王将だったその場所には瓦礫に混ざり数多の人間の肉片が落ちていた。それらは男女や年齢や人数の判別が難しい程にバラバラになっており、そして爆発の影響だろうか、その表面は焼けていた。

「ふむ、おかしいですね」
「こんな状況おかしいに決まってるぜ!」
「それもそうなんですが、今日は閉店していて店内にはハイリさんしかいないはずなんですよ。このバラバラ死体はどこから来たのでしょう」
「なるほどわからんぜ。よーしこういう時こそとんちの時間だぜ!」

あいきゅうさんはバラバラ死体や瓦礫を避け、比較的綺麗な床で座禅を組むと両手で自分の頭を中指一本拳。

ボコ ボコ ボコ ちゅどーん

突如あいきゅうさんの座っていた場所で爆発音が響き、次の瞬間その場所には新たな肉片が発生していた。そして、肉片の中にはあいきゅうさんだったものが混じっており、彼が一瞬にして殺されたであろう事を卑怯屋は感じ取り震え上がる。

「ホアー!」

あいきゅうさんの肉片が光となって消えたと同時に、卑怯屋は奇声を上げ走り出す。今の現象は間違いなく魔人能力。まだ攻撃手段は不明だが、座って目を閉じていたあいきゅうさんが狙われたのだとしたらじっとしているのはマズい。あいきゅうさんは死んだ。ハイリも多分やられたのだろう。次は自分の番だ。

「ホアー!ホアー!」

狙いをつけられない様にカエルみたいにピョンピョン飛び跳ねて逃げ続ける。

ちゅどーん

すぐ後ろで爆発音。肉片が卑怯屋の背中にぶつかり、衝撃で卑怯屋は地面に転がる。

ちゅどーん

「ぷぎゅ」

今度は直撃。上からの圧力で卑怯屋の体が潰された。間違いなく致命傷。後数秒の命だとこれまでのが経験でわかってしまう。卑怯屋はその数秒の余命で眼球を動かし敵を探す。

居た。

ひび割れたガスマスクと焦げた白衣を身に着けた大男が物陰から現れ、片足を引きずりながらこちらに向かってくる。こいつが犯人で間違いない。

「貴様の顔と技は覚えたぞ…ひっひっひ、次は…こうは…い…か」


少々迷走中…
(画面右下、腕相撲で格闘王に挑む女ファイター)


【ROUND2】

アルカナ持ち同士は引かれ合う。理屈とか抜きにお互いがそうだと分かってしまう。それはいかなる手段でも隠蔽できない。願いを叶えるタロットカードの力は魔人の力を遥かに凌駕する。この大会を強制的に進行させる程の力があるのだ。
はい、ここテストに出るから覚えておくよーに。

そんな訳であいきゅうさんも倒すべき敵の存在に気付いてしまっていた。

「卑怯屋!まさかお前もアホカナ持ちだったとはぜ!?」

そう、あいきゅうさんの宿敵にして支援者の卑怯屋こそが最初の敵として立ちはだかったのだ!

「ひっひっひ、ばれたのなら仕方ない。では行きましょう決戦のバトルフィールドへ!」

そう言い卑怯屋は早足でチャオズの王将に向かう。前回と同じ様にのんびりしてたらあの男によりハイリが殺され、自分達も各個撃破されるからだ。

そう。卑怯屋はこれから起こる事を知っていた。卑怯屋の魔人能力は自らの行動に致命的ミスがあった時、その時間を三回やり直し三回目の結果を正史とするという作者の負担半端ねえ代物なのだ。もしこいつがスカイツリーに乱入してたらプレイヤーキャラは交通事故で全滅してただろう。

要するに先程の【ROUND1】やこの【ROUND2】そして次に行なわれる【ROUND3】の勝敗は大会の勝ち上がりに何の影響も無く、最後の【FINALROUND】で生き残っていた奴が先に進めるのだ。そして、卑怯屋だけが以前の記憶を引き継ぎ失敗を回避する為の行動ができる。ずるい。

うん、読者諸君の言いたい事はわかる。何でその能力持ってて財閥関連で致命的にやらかしてんだって話だが、その答えは『三回リトライしてようやくあの程度の致命傷に収まった』が正解だ。元々の世界線では問答無用で和尚に撲殺され、その後のリトライ一回目は逮捕エンド、二回目は破産してマグロ漁船行きだった。

それでは卑怯屋の能力と本作の仕様の説明も終わったので本編を再開しよう。

チャオズの王将の店長ハイリは本名を大生背理といい、とても裏切りを起こしそうな名前をしているが卑怯屋と共闘関係にあった。

彼女の願いは偉大な人物のメイドとなり、自分の能力を恐れ封印しようとした一族を見返す事。卑怯屋が、『私の願いは謎の巨大財閥の執事だから、願いが実現する際はハイリさんをそこのメイドにしてあげますよ』と言ったらあっさり共闘関係を結ぶ事ができた。
実際優勝してみないとそんな願いの叶え方が可能かはわからないが、そこはこの町一番の商人の卑怯屋。口先で上手くごまかした。

そんな訳でハイリがアルカナ持ちである事を電話で知った卑怯屋は、お互いが序盤は戦わない様にする為に店内に引きこもる事を命じ、ハイリはそれを忠実に守っていたのだが、その契約は卑怯屋自身によって破られた。

「ホアー!ハイリさんまだ無事ですかー!」

強敵に追い詰められ、今まさに自爆を覚悟していた所に卑怯屋があいきゅうさんと共に駆けつけたのだ。

「ボス!出会ったら戦わないといけないのに何でくるんですかぁ!でも助かりました!」
「部下の危機にはいち早く駆けつける。それがこの町一番の商人です」
「で、ボスの連れて来たその子は?」
「魔法少女あいきゅうさんなんだぜ」
「ボスがいつも言ってた子ね!カワイイ!」

ハイリの無事を確認した卑怯屋は店内の状況を確認する。
店の天井は穴だらけ、床にはバラバラ死体が転がり見るも無残な状況だった。だが、店の形が残ってるだけ前回よりはマシであり、何よりハイリがまだ生きていた。そして、ハイリから数メートル離れた所にガスマスクの大男が立っており、卑怯屋達の様子を伺っている。

「ヒロインのピンチに駆けつける主人、そして新たなヒロインですか。絵になるなあ。あっ、何だかこの状況って僕が凄く悪者みたいですね」

3対1になったというのに、ガスマスクの男は余裕たっぷりだった。見た目も能力も物騒の極みなのに、卑怯屋の予想に反して穏やかな口調だった。逆に怖い。

「あ、申し遅れました。店長さんには名乗りましたけどもう一回自己紹介しますね。僕は鳥越九。今は無職ですが以前は医者をしてました。皆さんと同じアルカナ持ちです」
「い、医者が無関係なお客さんや店員をバラバラに切り裂いたのぜ!?狂ってるんだぜ!」

鳥越の自己紹介に対してあいきゅうさんが恐怖に震えながらツッコミを入れる。どうやら、あいきゅうさんは床に転がる肉片を客や店員の死体だと勘違いしている様だ。まあ、何も知識が無い人間がこの状況を見たらそう思うのも無理はない。鳥越の魔人能力について答えを得ている卑怯屋はあいきゅうさんの間違いを訂正してあげる事にした。

「違いますよあいきゅうさん。この状況を作ったのは彼ですが、この死体は魔人能力で上空から降らせたものです」
「それもちょっと違います」

卑怯屋のアンサーは鳥越にやんわりと否定されてしまった。自信満々に説明したのに間違っていた卑怯屋は顔を真っ赤にした。そんな卑怯屋を無視して鳥越は自らの口で能力の説明をする。

「これは神様が僕に与えてくれたチャンスなんです。僕には娘が一人いましてね」

事故で死んだ娘マユミを生きた状態で天から降らせているという能力原理(説明が終わるまでに鳥越の娘ラブエビソードが三度挟まれたが文字数の関係上省略)を説明し終わると、あいきゅうさんはSAN値ピンチになって泣いた。泣いてオシッコ漏らした。既に答えの一部を聞いていたハイリは耐えた。卑怯屋のSAN値はとっくに0だったのでノーダメ。

「うわーん、バラバラ殺人鬼よりずっと怖いんだぜ。こんな奴につきあってられないぜ。でも、アホカナのせいで逃げられないんだぜ」
「あいきゅうさん、こういう時こそとんちモードでは?」
「そうだったぜ!俺にはそれがあるんだぜ!」

とんちモードに入ろうとするあいきゅうさんを見て卑怯屋はミスに気付いた。前回はこうやっているスキに攻撃されて死んでしまったではないか。

「ホアー!」

卑怯屋は攻撃に巻き込まれないよいにバックステップであいきゅうさんと距離を取る。

ボコ ボコ ボコ ピキーン

「今の俺は怖いものしらずだぜ!」
「あれ?」

卑怯屋の予想に反して鳥越の攻撃は来なかった。なんだか前回の不意打ちしてきた彼とイメージが一致しない。なので駄目元で鳥越本人に聞いてみる事にした。卑怯屋にとってこの戦いはまだ情報収集の段階なのだから。

「ひっひっひ、鳥越先生は紳士ですなあ。ワシならさっきのスキに攻撃してましたよ」
「ご心配無く。今はまだ狙いをつけるのが難しいと思っただけで」
「何をゴチャゴチャ言ってるんだぜ!お前キモいからさっさと願いを叶えてオサラバしてもらうぜ!!」

卑怯屋と鳥越の会話を遮りあいきゅうさんが駆ける。
さっきまでの恐怖も吹っ飛び、足元の血溜まりも気にせず一直線に鳥越へと向かう。

「お前をあの世へ送るぜ!そうすれば、娘と会えるんだぜ!くらえ、マスパー!」

マッハでスパーンと叩く。略してマスパ。今まで数多の卑怯屋とのとんち勝負を制してきた、あいきゅうさんの得意技である。あいきゅうさん自身は音速を突破できないが、捨て身で振り回す武器のスイングスピードは音速を超える。そう、バトル漫画でよく言われるアレだ。


無知の先端は音速を超える!!!


「いい踏み込みをしている、でもまだ若いかな」
「何ぃ!何で当たらんぜ?」

あいきゅうさんのマスパは鳥越は届かなかった。彼は巨体のイメージに反した最小限の動きで回避していく。

「そこは食らっておく所さんなんだぜ!お前さっきの話だと推定四十代のただの医者の癖に、ウチの和尚並のフットワークじねえか!!」
「そうよそうよ!私のニトロ真拳も涼しい顔で避けやがって!自主トレしかしてないオッサンの癖に!」

あいきゅうさんに加えハイリもここぞとばかりに文句を言う。どうやら卑怯屋達が到着するまでの間、ハイリは己の肉体とニトロを組み合わせた体術で挑んで通用しなかった様だ。

「言われてみればおかしな話ですね。確かに僕は多少体格がよく、自衛の為に護身術を学んだ程度です。さらに言っと、獄中にずっといた分衰えている。だが、それで君達の攻撃に対応できる」

あいきゅうさんとハイリが感じた理不尽は鳥越自身にも疑問を与えた。あいきゅうさんの猛攻をヒラリヒラリと避け続けながら考えを巡らす。

「魔人であるのは皆さんも同じ。僕の能力はマユミに関する事だけだから動きには影響しない。にも関わらず、今が全盛期だと思えるぐらいに動けるのは…神様のおかげかな。きっとそうだ」
「なんじゃそりゃあ、まじざけんなぜ!」

医者らしからぬ非科学的な結論を呟く鳥越に、あいきゅうさんの怒りが有頂天。さらに踏み込み攻め続ける。

ちゅどーん

あいきゅうさんが箒を振り上げた瞬間、そこにマユミは落ちた。

「あいきゅうさーん!」
「カワイコちゃーん!」
「よし、まず一人」

卑怯屋とハイリの悲鳴。鳥越は小さくガッツポーズ。鳥越はただ逃げ回っていた訳ではなかった。あいきゅうさんに確実にマユミを当て、自身はマユミによるダメージを受けず、後に控える卑怯屋達にも対応しやすい絶好の位置関係まで誘導していたのだ。

「これで後二人」

ちゅどーん

卑怯屋達の真上にある天井が崩れ、その直後マユミの肉片が落ちてきた。天井に当たる事で速度が無くなった肉片は容易に回避できたが、これ以上時間を掛けると天井が完全になくなり二人の不利となっていく。

「ハイリさん、こうなったら二人で左右から飛びかかりましょう。元より私達はどちらかしかこの戦いを生還できないならこうするしかない」

卑怯屋はマユミの下敷きになったあいきゅうさんの方を一瞬見た後、ハイリの尻を撫でながら提案する。

「わかりましたボス。派手に行きましょう」

これは決して分の悪い賭けでは無い。鳥越の能力が一人娘との再会を目的とするのなら、一度に落とせるマユミは一人までのはず。片方がやられている間にもう一人が接近すれば勝機はある。

「せーの!」

ハイリは鳥越から見て右の壁際を行き、卑怯屋は左側の壁際…ではなく直進し、あいきゅうさんが倒れている場所へと向かう!さっきの打ち合わせと違う!

「マユミ・フォーエ、えっ?えっ?」

鳥越は何か大技を使おうとしていた雰囲気だったが、予想外の動きに驚き思わずマユミキャンセル。気にせず二人まとめて倒せるそれをブッパしてたら勝ててたのだか、彼の不測の事態を恐れる慎重な性格がここでは裏目に出た。

「ひっひっひ、ここを選ぶのだけはありえない、そう相手が思う場所だからこそ狙われない!そしてぇ、ワシの目的はコイツよ!」

卑怯屋はマユミに潰された後ヒクリとも動かないあいきゅうさんを抱き上げる。そう、あいきゅうさんはまだその場に残っている。光になって消えてない以上はまだ生きている。そしで生きていて意識さえあればあいきゅうさんはまた戦える。

「ふむふむ、やはりショックで気絶しているだけですな」
「マユミの直撃を受けて無事だというのですか!?」

今まで余裕たっぷりだった鳥越が初めて大きく動揺する。

「振り上げた箒が盾になっていたんでしょうな。この子の箒は特別でしてね。さあ、蘇るのだこのニトログリセリンでーっ!」

いつの間にか卑怯屋の手にはハイリ愛用のニトロの容器があった。尻を撫でながら一つ拝借していたのである。ニトロを口に注がれたあいきゅうさんは、ニトロが持つ強心作用により目覚める!

「美味しい水飴なんだぜー!!」

目覚めたと思ったらあいきゅうさんは光になって消えた。あいきゅうさんの願いは水飴をツボから直飲みする事。そして、あいきゅうさんは水飴の定義をよく分かってなかった。甘くてゲル状でハチミツでさないものなら大体水飴だと思っていた。ニトロには多少の甘みと粘性がある為、あいきゅうさんは水飴と認識し光になったのだ。

静寂。
突然のあいきゅうさんの死、それもこんな死に方を見せられては誰もがフリーズする。アルカナ持ちなら尚更だ。『お前の願いそれでいいのか』という何とも言えない思いが残された三人の頭を支配し、何も考えられない。が、そんな静寂も永遠ではない。

「マユミ・フォーエバー!」
「もう自爆するっきゃねえ!」

ちゅどーん

ほぼ同時に正気に戻った二人が勝負を決するべく切り札らしきものを放ち、店内は熱と衝撃に包まれる。

そんな中、卑怯屋は何も出来なかった。自らの手であいきゅうさんにトドメを刺してしまった彼はそのショックから立ち直れないまま炎に包まれた。鳥越とハイリ、どちらが勝ったのかはわからないが卑怯屋が勝てなかった事だけは確かだ。

「完敗か、だが勝ち筋は見えた。次こそはー!」


少々迷走中…
(画面右下、紙相撲で格闘王に挑む女ファイター)

【ROUND3】

アルカナ持ち同士は引かれ合う。理屈とか抜きにお互いがそうだと分かってしまう。それはいかなる手段でも隠蔽できない。願いを叶えるタロットカードの力は魔人の力を遥かに凌駕する。この大会を強制的に進行させる程の力があるのだ。
はい、ここテストに出るから覚えておくよーに。

そんな訳であいきゅうさんも倒すべき敵の存在に気付いてしまっていた。

「卑怯屋!」
「私と戦いたいならついてきなさい、決戦のバトルフィールドへ!ホアー!」

卑怯屋はフライングクロスチョップで近くのタクシーに乗り込み運転手に行き先を告げる。

「運ちゃん、ここから一番近い王将!後ろに居る魔法少女がギリギリ追いかけられる速度で!」
「こらー!卑怯屋待つのぜー!」

ボコ ボコ ボコ ピキーン

あいきゅうさんがとんちモードになって追いかけて来るのを確認しながら、卑怯屋が車内で作戦を考えていた頃、チャオズの王将ではもうすぐ戦いが始まろうとしていた。

「さて、どうしようかな」

閉店中の王将にアルカナ持ちが居ると感じた鳥越は、外からマユミ連打してノーリスクで勝利するのも考えたが、彼には殺し合いの経験が不足している。思い返すと鳥越は殺害数こそ凄まじいが、まともな殺し合いをした相手は桜島ぐらいだ。ここで自分の客観的な強さと大会出場者の強さを確認しておかないと、先の戦いで苦労するかもしれない。

「難しいとこだけど、うん、アルカナ持ちというのがどの程度か知っておきたい」

鳥越は不測を恐れる。彼は今後の不測を避ける為、向かい合っての勝負を経験する事にした。

「すみません、今は閉店中で」
「アルカナ一つください」
「チイッ!」

呼び鈴を押し現れたメイド姿の店員に注文すると、舌打ちをして店の奥へ逃げる様に走り去る。鳥越はゆっくりとその後を追う。鳥越が店の中央辺りまで来た時、メイド服の女性は小さなツボを持って戻って来た。

「お客様、アルカナはお売りできませんが、売られた喧嘩は買わせて頂きます」
「はい、今日はよろしくお願いします。あ、僕の名前鳥越九です」
「これはご丁寧にどうも、私は店長のハイリですっオラー!」

挨拶と同時にハイリが殴りかかる。遅い、そして遠いと鳥越は感じた。桜島が凄かったのか、ハイリが未熟なのかはわからないが、こんなモーションの大きいパンチなら簡単に回避できる。そう思っていると、ハイリの腕が光を放ち…、

ちゅどーん

ハイリの右肘辺りが爆発し、パンチが加速する。これがハイリの得意技ニトロ真拳!予め自身の関節に塗り込んだニトロを爆発させる事で攻撃の速さと軌道を変化させる!

「ととと、危なかった。ああ驚いた」
「何であのタイミングで避けんのよっ!」

残念、ハイリの奇襲は失敗に終わった。常に不測の事態を警戒している鳥越はハイリが当たらないモーションでパンチを放ったのを見て、当てる手段があると予測し爆発でパンチが加速する前から後退していたのだ。

「だったらこれはどーよっ!?」

ちゅどーん

ハイリは今度は踵を爆発させ高速の回し蹴りを放つ。しかし、これも当たらない。既に種が割れてしまった手品はもう通用しない。

「ムキー!こいつぅー!」
「うん、いいですね。ありがとうございます。おかげで僕がどの程度できるのか理解できてきましま。じゃあそろそろ僕からも行きますね」

鳥越はハイリから距離を取り視線を上に向ける。

「屋内だと天井が邪魔だなあ。でも壊せばいいか」

マユミを落として天井を破壊していこうとしたその時だった。

「ホアー!」

入り口から老人が奇声と共に飛び込んで来た。タクシーでここまで最速で来た卑怯屋だ。

「よし、間に合いましたな。私の店は無事」
「卑怯屋、待つんぜ…やっと追いついたぜ…ガク」

遅れて汗だくのあいきゅうさんが入って来て倒れる。坂道を含む数分の道を全力疾走したあいきゅうさんは既にガス欠状態。完全に目が死んでいる。

「何ですか貴方達は」
「ひっひっひ、ワシはセバス・スチュワード。人呼んで卑怯屋。この王将のオーナーをしているものでございます。そこの店長とは同盟しとりまして、本来なら決勝まで距離を取って戦わない様にしてたんです。ですが逃亡中の特級魔人鳥越さん、貴方を確実に葬る為に罠を張ったと言うわけです」
「まいったなあ、僕はずっとマークされていたのか。気づけませんでした」

嘘である。先の戦いで鳥越自身から得た情報とタクシーで移動中にグーグルって知った事を語っているに過ぎない。だが、鳥越から見れば卑怯屋は全てを見通す大物である。そう思わせる事さえできれば成功。

「ハイリさん、そいつは攻撃を見切るのは得意ですが、人間を空から投下する攻撃以外の戦闘手段を持っていません。密着し続けて時間を稼いで下さい!」
「わ、わかりましたボス!」

卑怯屋はさらに知識の差でたたみかける。まだ見せてない能力や弱点まで晒され、もう鳥越はどうすればいいのかわからなくなってきた。

迫るハイリ、何かをしようとキッチンに消える卑怯屋。鳥越は必死に考える。通常のマユミでは一旦天井を壊さないと相手に直撃させられない。十二歳のマユミを今落とすと自分も巻き込まれる。店内での勝負は失敗だった。次に活かせる経験は得られたがここで終わっては意味がない。

「ここに居るのはまずいですね。あの老人が戻ってくるまでに店の外に」
「それはさせないんだぜ!」

入り口近くで倒れていたあいきゅうさんが起き上がり鳥越の道を塞ぐ。押せばまた倒れそうなぐらいヘロヘロだが邪魔な事には変わりはない。

「状況はさっぱりだか、お前何か悪そうな見た目だし、卑怯屋が何か策完成させるまでは通さねえ」

入り口は塞がれた。裏口は遠い。窓は鳥越の巨体ではガラスを破っても通れない。鳥越の足が完全に止まった時、卑怯屋がバケツを持って戻って来た。

「あいきゅうさん!このバケツの中身を飲んでください!」

あいきゅうさんは投げられたバケツを中身をこぼさない様にキャッチする。液体がみっちり詰まったそれは甘い匂いがした。

「これは何だぜ?」
「水です。十リットルありますがそのままでは飲み辛いでしょうから果糖を四キロ混ぜました」
「ありがてえ!ゴキユゴキユ」

十四キロの砂糖水。
それはあいきゅうさんの全身に活力を与える。

「美味しい水飴なんだぜー!」

あいきゅうさんは光になって消えた。水飴の定義を理解していないあいきゅうさんにとって、これは水飴だった。

「消っッッ滅っッッ!あいきゅうさん消滅ッ!あいきゅうさん消滅ッ!あいきゅうさん消滅ッ!」

光になって消えたあいきゅうさん。キッチンナイフを振り回しあいきゅうさん消滅を連呼して踊る卑怯屋。

「なんぞこれ」
「なんぞこれ」

鳥越もハイリも立ち尽くすのみだった。命を賭けた願いがそれでいいのかという思いに支配され戦いどころではない。

「消っッッ滅っッッ!あいきゅうさん消滅ッ!」

二人はまだ動けない。

「消滅ッ!あいきゅうさん消滅!お前らも消滅!」

卑怯屋が踊りながら近づいてきて、キッチンナイフで喉を切り裂かれるまで二人はフリーズしていた。

「なんぞこれ」
「なんぞこれ」

全てが訳わかんねぇまま、二人は倒れ光になった。ここに勝敗は決した。この度勝負を制したのは卑怯屋。

「ひっひっひ、前回の戦いであいきゅうさんが消滅した時全員思考停止してましたからなあ。もっと劇的に演出すればワシだけが動けるエンペラー執事タイムが作れると思ったら予想以上の結果だわい。ホアー!アルカナがワシの中に満ち一体化していくぞい」

この場にある全てのアルカナが卑怯屋の体内に取り込まれるが、それは一時の事。時間は巻き戻りアルカナはまた分割される。真の勝者が決まるのはこの次だ。

少々迷走中…
(画面右下、60分耐久ジャンピングコマネチスクワットで格闘王に挑む女ファイター)


【FINALROUND】

よーしお前ら教科書しまえー。今から本番するけど先生の話ちゃんと聞いてたら絶対理解できる内容だからなー。

「勝った!一回戦完!」

卑怯屋は余裕かましていた。前回無傷かつ店も最小の被害で済んでいる。後はさっきと同じ行動をするだけだ。

「卑怯屋!」

まずはこのあいきゅうさんの問いかけを無視してタクシーに乗り込む。

「ホアー!」

前回と変わらぬフライングクロスチョップ乗り込み。だが、飛んだ先にタクシーは無く、卑怯屋は地面にスライディングするはめになる。

「ホアー!?何故タクシーがない?」

立ち上がり辺りを見回すと数メートル先にタクシーがあった。その後部席にはあいきゅうさん。

「運ちゃん、ここから一番近い王将まで。後ろからジジイが追っかけてくるから構わずぶっちぎぢて欲しいんだぜ」
「がってん!」

卑怯屋を残してタクシーは決戦のバトルフィールドに行ってしまった。「勝った!一回戦完!」と口に出したのがまずかったかなーと思いながら卑怯屋は王将に走る。

この時まだ卑怯屋は気が付いていなかった。まだ決戦のバトルフィールドがどこなのか教えてないのに、あいきゅうさんが王将に向かったという事が示す意味を。

「ハアハア、この距離を走るのはジジイにはきつい!だが、早くあいきゅうさんに追いついて流れを修正せねば!」

卑怯屋の策にはあいきゅうさんの存在が不可欠。あいきゅうさんが一人で王将に乗り込んでしまっては、きっとすぐに鳥越にやられてしまう。下手したらハイリからも敵認定されてるかもしれない。

「待っとれよあいきゅうさん。ワシが行くまで無茶はしてくれるな!」

勝利への道を途絶えさせない為、老骨に無知打って走り続けようやく到着。幸いまだ店は無事。卑怯屋はあいきゅうさんがまだ生きてる事を祈りつつ扉を開けた。

「あいきゅうさん!ハイリさん!二人共無事ですかな!」
「遅いんだぜ。卑怯屋が来るのが遅いからもうチャーハン食っちまったんだぜ」
「皆ボス待ちだったんですよ。もー!」
「もしかして走ってきたんですか?別のタクシー使えば良かったのに。あ、ハイリさんライスおかわり」

ありえない光景が広がっていた。これまで殺しあっていた三人が仲良くゴハン食べてる。王将においては自然な光景だが、本来の歴史からはありえない光景。
というか、全員ループの記憶持ってるっぽい。

「な、な、何が起こっておる」 
「俺が説明するんだぜ」

◇ ◆ ◇

宇宙の様な水中の様な謎の空間にチンチンがプカプカ漂っていた。

「ここはどこなんだぜ。俺はなんでチンチンだけなんだぜ」
『聞こえるか、あいきゅうさんよ』

チンチンの頭の中に直接声が響いた。

『ここは謎の空間、我は力のアルカナの半分、今はこうして再生しつつあるお前に語りかけておる』
「ぜ?俺は水飴飲んで敗退したから再生されないはずなんだぜ?」
『これは大会ルールによる再生ではない。セバスの能力による巻き戻しだ』

力のアルカナはチンチンに卑怯屋の巻き戻し能力について説明した。その能力の反則ぶりに、最初はアルカナの話を信じられなかったチンチンだったが、卑怯屋みたいなアホが町一番の商人になれたのは何故かと考えると納得がいった。

『全くもって忌々しい能力だ。この大会は我らアルカナが再び集う事を目的としたもの。それなのに奴の能力のせいで、せっかく合流したアルカナが何度もバラバラにされるのだぞ』
「気持ちはわかるけど運営はフェアにやるべきと思うぜ?あんたが俺に卑怯屋の能力と過去三回にあった事を教えるのは間違っているぜ」
『それについては問題ない。三回目にセバスが勝利した時、敗者のアルカナが奴の中で一つになり、その後に巻き戻しが発生した』
「ぜ?」
『あのタイミングでは我は間違いなくセバスだった。そして、お前は我と一心同体。セバスがセバスの能力を理解してなーにが悪いー!』

超強引。だがこの大会を開催したアルカナ達を怒らせた卑怯屋が大体全部悪い。

『では行けあいきゅうさん!既に医者とメイドにも他のアルカナが話を通しているはずた!』

巨大な渦が発生し、チンチンを引きずり込んでいく。気がつくとそこは元の世界で、チンチンはアルカナか貼り付いた状態であいきゅうさんの股間に存在していた。

◇ ◆ ◇

「…という感じでこれまでの事が全部わかったんだぜ」
「アルカナから真相を聞かされた僕達はこうして食事しながらお互いの情報を確認しました」
「ごめんねボス。でも先に騙し討ちしたのはそっちだから」

この後卑怯屋は必死に抵抗したが、足腰フラフラで頭の中グチャグチャで三人に勝てるわけないだろ!な状況になりあっけなく死んだ。害悪は遂に去ったのだ。

「ざんねん!ワシの挑戦は終わってしまった!」

少々思考中…
(画面右下、格闘王との激闘を終え一人カラオケの女ファイター)

「で、これからどうします?私としちゃ、もう鳥越さんと戦いたくないから願いを叶える方向で考えたいんですけど」

ハイリが提案すると、鳥越は少し考え込む。

「うーん、確かに三度の死闘を経たハイリさんには奇妙な友情すら感じます。だが、タロットカード以外にマユミを生き返らせる方法があるのでしょうか」

やはり戦うしかないのか。二人がそう思ったその時、思わぬ所からアイデアが飛び出した。この場で一番そういう事に役に立たないと思われていたあいきゅうさんだ。

「なー、鳥越センセーの願いはマユミちゃんを生き返らせる事って言うけど、復活そのものは既に達成してるぜ?」
「はい。ですか今のマユミとは対話すら不可能なのが難点です。今のマユミは落下後に必ず死んでしまう。何らがの手段で受け止めたり落下速度を落としてもその瞬間死んでしまうんです」
「なんだ、それならセンセーがマユミちゃんに合わせてやればいいんじゃないか」

落下するマユミを何とかするのではなく、鳥越の方をマユミに合わせる。鳥越もハイリもその言葉の意味がわからなかった。

「すみません、僕がマユミに合わせるとは一体どうすれば?」
「センセー医者のくせにわかんねーのぜ?それはなー…」

あいきゅうさんが出した答え。それはあまりに常識外れで、だからこそ根がインテリな鳥越は今まで思いつかなかった発想だった。

「はっきり言って無茶苦茶です。しかし、やってみる価値はありそうだ」
「その方法なら私の能力が役に立つかも。だから私も賛成ー!」
「決まりだな。始めようぜ」

こうして鳥越の願いを叶える為に三人は再び力を合わせる事になった。

ちゅどーん
ちゅどーん
ちゅどーん

「よし、だいぶデータが集まってきた。もう少しでマユミがどのぐらいの高さから落ちてるのかわかりそうです」

まずは鳥越がひたすらマユミを地面に落とし、クレーターのサイズの平均値からマユミが落ちてくる高さを算出する。

「ハイッ、ニトロシューマイ20個お待ちー!まだまだ作るよー」

鳥越がデータを集めている間、ハイリはニトロがたっぷり入ったシューマイを作り続ける。

「ハイリさん、マユミの落下開始地点が大体判明しました。この高さなら、あいきゅうさんくんとハイリさんの力を借りれば行けそうです」
「こっちもシューマイは全部焼けたわよ!」
「俺もいつでも行けるぜ!」

三者準備は整った。

「それじゃあ始めようか。まずは僕のお尻に可能なだけのシューマイを詰め込む」
「鳥越先生ストップ。娘と話に行くのにそれはどうかと思うんだけど」

ハイリにガスマスクを指摘され、鳥越は慌ててそれを外す。

「へー、先生そんな顔してたんだ。このマスクどうします?」
「それはハイリさんが持っておいて下さい。僕の願いが叶ったらもう必要ありませんからね。では改めて、さあハイリさん僕の尻にシューマイを詰め込んでくださいっ!ありったけを!!」

言われるがままハイリはニトロ入りシューマイを一個ずつ鳥越のアナルに詰め込んでいく。少しでも手元が狂えば即爆発、注ぐ女の実力を見せ所だ。

「ふうっ、無事に全部のシューマイを入れ終わったわ。じゃああいきゅうさん、次は君の番」

ボコ ボコ ボコ ピキーン

「しゃあっ、やったるぜ!」

あいきゅうさんがいつもの様にとんちモードに変身し、否、これは今までのとんちモードではない。

あいきゅうさんの魔人能力『とんちこそパワー』は普段使用してない眠らせている力を一気に絞り出すという効果。そして、力のアルカナとの対話を経てあいきゅうさんは己に対する認識を改めていた。

「力のアホカナよ!おめーと俺が一心同体ってんなら
俺が絞り出せるパワーはまだまだこんなもんじゃねえはずだぜ!」

魔人能力は己の思い込みを世界に反映させる力だ。あいきゅうさんの思い込みに変化が生じれば能力は強くも弱くもなる。

「俺には他の参加者と違ってロクな願いがねえ!その願いでさえ、もうニ回も叶えちまったぜ!俺がここにいる理由はアホカナに戦えって命令されてるからだ!だったら俺はアホカナに従ってやる!だからアホカナ、お前が俺自身であり俺よりずっとスゲーなら!」

あいきゅうさんのスカートの中が明るくなる。チンチンに貼り付いたアルカナがあいきゅうさんの呼びかけに応えるかの様に光り輝いていた。

「うおおおお!超マスパー!!!」

ちゅどーん

箒が見えなくなる程の超スピードのアッパースイングが鳥越のアゴに当たり、彼を真上に吹っ飛ばす。

「まずは第一段階クリアだぜ!」
「今よ!鳥越先生!きばれー!」

アゴの痛みに耐えながら鳥越は力み、アナルからシューマイが一つまた一つプリッと飛び出す。

ちゅどーん
ちゅどーん

ニトロ入りのシューマイは尻からひり出されると同時に爆発し、鳥越の身体をさらに上へと押し上げる。

五十メートル、百メートル、千メートル。
そして遂に彼は辿り着いた。愛する娘が落下し始める高度へと。

「ごめんねマユミ。ずいぶんと待たせて。父さんは今日ようやく生きたマユミに会う方法を見つけたよ」

頭の中にマユミを思い浮かべると、目線の少し上にマユミが現れた。

ちゅどーん

シューマイを一個爆発させて高さを調整しマユミの横に並ぶ。マユミの驚いた顔が目に入った。

そして、そのまま二人は同時に同速度で落下した。落下が始まってもマユミの顔が目の前にあるのを見て鳥越は成功を確信した。

作戦名『シューマイロケッティア〜そして医者は空へ』。マユミが落ちる開始点まで鳥越を打ち上げれば、落下中の相対速度はゼロ。二人とも同じ車に乗ってる様なものだから思う存分会話が可能。

あいきゅうさんのアイデア、ハイリの技術、鳥越本人の頭脳、ついでに言えば、卑怯屋が結んだ縁。四人の協力により一人の愚者とその娘の救済は成功した。

「あばばばばばばばば」
「あばばばばばばばば」

感動の再会を果たした親子は落下しながら語り合う。風圧が強すぎて互いに何を言っているのかさっぱりだか、そこは親子。伝えたい事は大体伝わってくる。

何度も落下死させられて苦しかった。

その際に沢山の人が巻き込まれて死んで辛かった。

落下中は別に笑って無く、風圧で口角が強制的に上がっていただけ。

要するに鳥越はメチャメチャ怒られた。その言葉の一つ一つが鳥越を狂気から解放し、罪の意識を芽生えさせ人間へと戻していく。

「あ、ば、ば」

そして、あらゆる罵倒の末、その最後に愛してくれた事への感謝を聞いた時、鳥越の身体は光に包まれた。

「どうやら成功したみたいなんだぜ。センセーのアホカナが解き放たれたのを感じるんだぜ」
「そうだね」
「後は俺とメイドさんで一騎打ちか。よし、ジャンケンしよーぜ」
「その必要はないよ、私ももうすぐ消えるみたいだし」

鳥越の後を追う様にハイリの身体も消え始めていた。あいきゅうさんには何が何だかわからない。

「おいメイドさん!勝手に消えんなだぜ!最初はグー!」
「私の願いってさ、ローマ法王みたいな偉大人に仕える事だったんだよね。ボスは酷い奴だったけど、君が私が給仕するに値するお嬢様だと言ってたのは嘘じゃなかった」

ハイリはあいきゅうさんに食事を振る舞い、さらには彼の提案した鳥越救済の作戦に力を貸している。あいきゅうさんが鳥越を救う奇跡を見せた事でハイリの願いは叶ったのだ。

「あの人の願いをあんな風に叶えるなんて、君に力を貸せてよかったわ。これならご先祖様にあの世で自慢できそう。じゃあね、カワイコちゃん。頑張って」

言いたい事言ってスッキリした顔でハイリは消えた。残されたあいきゅうさんは困った顔をして呟く。

「腹減っだんだぜ。消える前にもう一回メシ作って欲しかったんだぜ」

あいきゅうさんは先程のフルスイング一回だけで空腹になっていた。そんなあいきゅうさんの身体を飲食物ではなく、新たなアルカナが満たしていく。

卑怯屋とハイリが持っていた『皇帝』と『女帝』が左右の胸を隠し、鳥越の『死神』は喉に貼り付ける。

「いい感じに女装の完成度が上がったんだぜ。ぜっ?アホカナが増えた途端にどんどん腹減っていくぜ!?」

今のあいきゅうさんは、アルカナの力をとんちモードで引き出せると認識している。実際、力のアルカナに呼びかけてパワーアップに成功したが、多くの力を引き出すという事は多くのエネルギーを消耗する事。アルカナが増えた事で消耗がさらに加速したのだ。

「し、死ぬー。息するだけでひもじい!これはいつもの腹ペコと桁違いだぜ!」

命の危機を感じたあいきゅうさんはとんちモードを解除して無人のキッチンに飛び込む。何かないかと冷蔵庫を開けると、いつか見たニトロの容器があった。

「これは確か美味しい水飴のツボなんだぜ!でも直飲みすると死ぬからコップに移してから飲むんだぜ!」

あいきゅうさんはニトログリセリンをコップに移し替えようとしたが、空腹で手が震えてこぼした。

「あっ」

ちゅどーん
最終更新:2020年10月18日 19:53