七番目の七不思議
七番目の七不思議の二人目から四人目
「ああまた会ったよね。あたしは七番目の七不思議の七人目。
今あんたと一緒にスカイツリーの中にいるの……なんてね?
スカイツリー登頂も七分目を越えたわけだけど、いくら夜だからと言って好きにしてもっといいんだろーねー。
さ、そこのバーカウンター前に腰掛けて? 夜景がどんどん灯って綺麗でしょ? ほぉら、みんなもいっしょにね?
で。結論から言ってしまえば、あたしは七不思議を集めるためにここにいるわけだけど……、ちょっと数が多すぎるんじゃないかな? 奮発したね、すごいね。
あたしとしてはこの塔のアルカナがあれば、普段なら絶対にあたしのところに来ないような人たちがやってきてくれるから、願ったり叶ったり、、、、あ、まだだね。
ふふふ、ああそうだ、なんであたしがスカイツリーの中にいることができるのか?
それは彼ら彼女らの話を聞けば嫌でもわかると思うよ。
時間も押してることだから、さっそく二人目にお出まし願おうか。
あ、そうそう、だんだんにぎやかになってくる夜景に合わせて
一献どうかな? 成年(ジェントルメン)」
二人目「戸村純和」
「大仰な紹介ありがとう。僕の名前は戸村純和、とあるろくでなしの探偵の助手をしていた者だ。
未成年(レディー)に頼むのもなんだが……ああ今のなしで、すまない。
サイドカーを。
恐怖を紛らわすにはちょうどいいから。
グレイハウンドではないのかって? はは……博識だねお嬢さん。なになに、今はバーテンダーだからお嬢さんはやめなって……うん、ごめんね。
それじゃあカクテルが出来上がるまでの時間は僕が潰すことにするね。
七番目の七不思議の二人目は、順番通り赤い靴公園の話をするとしようか。
・
・
・
赤い靴と言われてきみはなにを思い浮かぶかい?
有名な唄があるって、ああなるほど。野口雨情だね。
異人さんに連れられて~の悲しげなフレーズは印象に残るからね。
そういえば、アンデルセンの『赤い靴』の話も有名だよね。
みなしごだった少女カーレンは、教会に靴を履いていってしまったために天から呪いをかけられて踊り続ける羽目になる。
首切り役人に足を切り落としてもらって難を逃れるものの、いささか酷じゃないか?
ああ、駄目だよ。シェイカーに氷が……ああ、それが君の魔人能力かい?
違う? 仲間の力を借りてるって? なるほど、そうか、コピー能力だね。
早くみんなといっしょに飲みたいって? ははは、急くね。大丈夫、遠くないうちに皆来るよ。ああそれと、この紙袋はなんだって? エレファント・マンの真似事さ。
かっこいいだろう?
ああ、すまないね、話を続けようか。
少し話は飛ぶけれど、赤の次に来る色と言えばなんだと思う?
青、黒、それとも黄色……?
ああそうだね、青だというんだね。はは、ありがとう。
赤い紙青い紙、トイレから突き出してくる手の話は有名だ。
泣いた赤鬼と悪役を引き受けた青鬼の話だってある。
ハンカチ、船、舌、それにおなじみの半纏だって、赤の次は青が来ると決まっているね。
赤も青も単独で怪談の枕詞になることはままあるけれど、赤の次は青だと相場が決まっているんだ。ホームズとくればワトソンが次に来るようにね。
僕はこの辺の理屈を動脈血と静脈血の連想だと捉えているんだが、まぁいいや。
ああそうだ。赤い靴公園、果たしてどんなところだと思う?
しかも首吊り? 理想? 意味が分からない。
そう君は思うかもしれない。どうしてもタロットカードにある『吊られた男』との連想が働かなかったかと言えばウソになるだろうね。
重ねて言おう。僕は七番目の七不思議の二人目になってしまった、それだけを押さえてくれればいい。
だって、僕もいい大人だ。夜の公園を歩く経験はそう珍しいものではないのだから。
……少し歩こうか、外を見渡すといい。夜景もまだまださわりの頃合いだ。
子供めいた想像だけど、本当に
そうそう、もう一歩、二歩……、前に踏み出してごらん。
手すりが邪魔? 乗り越えてごらん。
はい、どうぞ。
……うん、もう進めなくなった。もし、そこのガラスを取っ払って前に進めたらどうだろうか?
君ははいというのだね。
そうだね、ここはスカイツリーだ。天望回廊は地上から約450メートル、東京で最も高い場所だから、どこにでも行ける気がしてしまう。
でもね、落ちるしかないんだよ。落ちたら死んでしまう。
そして、高空から落ちて死んだ犠牲者の血肉は大地に染み込んでいるのに知らずに僕たちはそれを踏みつけにしている。
それはきっと赤い靴だ。
だからね、きっとバランスを取らなきゃいけないんだ。
飛び降り自殺者が出た公園では必ず首吊り自殺者が出る。
これが赤い靴公園の正体だよ。どこだっていい、どこにだってあるかもしれない。
はは、怖い話だね。
逆さまが正位置だから、逆位置の首吊りの姿勢が後付けな『吊られた男』。何ともおあつらえ向きな話じゃないかな?
ああそうそう、ついこの間……あ、あの公園だ、見えるかな?
五歳と、十二歳の女の子が飛び降り自殺をしたとかでクレーターが出来てしまった、公園。恥ずかしい話だけどね、僕もつられてしまったようだ。
正直、喋りづらくてたまりはしないよ。別に自分の顔に自信があったわけではないんだけど、女性には見せられない面相になってしまって困ったね。
なに? 理想ってなんだって。
……そうだね。あの世が謎ばかりだということを身をもって実感したことかな?
何事も探偵やミステリーの手法だけで片づけられないことを幽霊になった僕が証明した。なるほど、ささやかな意趣返しだけど、どうかな?
『吊られた男』は『死神』を乗り越えて『節制』に辿り着いた。
それが僕の理想だったのだろう。そういうことにしておいてくれれば助かるよ。
ああそうそう、あの公園には揃いの『赤い靴』が落ちていたそうだけど、なぜか三人分だったそうだよ。
五歳、十二歳、とくれば次は何歳を疑うかな? ふふ、謎は残しておこうか、先生もきっと頭を悩ませていることだろうしね。
それでは、僕の話はここまでとしよう。
三人目は誰かな……?」
三人目「遊葉天虎」
「はい、どうもですよっと。私の名前は遊葉天虎と申しますよ。最近都内に上陸中のPMC『黒蟻』で働いてた花の十九歳! 三人目を仰せつかりましたぜ!
今はバーメイドさんに扮してお酒を出してやがる私ですが、本来私は未成年、お酒の味などわかりはしないのでこうして砂糖を舐める甘党だったりするわけです。
お酒を飲める輩のことを辛党といい、辛党でない人の事は甘党と言って甘いものを食べるわけですが、どうですか? お客さん、シナモンスティック。
咥えてみると案外しっくりしてみたから、行けるかもしれないですぜ?
おっと、遠慮しとく? ほーん、私のおごりだぜってのやってみたかったんですけどねー、ちぇー、現場は早々上手くいかないか。
ところで、戸村サン? でしたっけ、『サイドカー』出来上がりましたよ。
どうします? ストローなら……?
え? それは『サイドカー』じゃなくて『サイドミラー』だって?
へー、偶然ってあるんですねぇ、似たようなもんでしょ。ま、ぐぐいっと。
え、探偵への手向けにする? さすがに君に贈るようなキザは僕には似合わない?
へー、カクテルも奥が深いんすねー。
私は『ここが天国に一番近いからバーを開くんです』って『七人目』さんの言葉に乗っかっちゃてここでバーテンやらせてもらっちゃっていただいてるわけですが、アレなんすか? 天使の分け前とか悪魔の取り分って言い回し本当だったんですか?
……。
くぅ、アルコールも酔いも上に昇るからって、誰が上手いこと言えと。
……っと。
まぁ、そんなわけでお酒には不自由しない夜のスカイツリーなんだぜ。
お客さんは何を選ぶ? まぁ、私はカクテルブック片手に気負いなくやるだけだから、私が慌てふためいてのわちゃわちゃを楽しもうなんて不届き者にならん方がいいぜ。
どうよ? シェーカーの持ち方も堂に入ったもんっしょ。なんたって仲間の助けがあるからねぇ。こうやって様になってるところ見るだけで肴が進むんじゃないですか?
ちょーどムーディーな音楽も流れてきました。
当店自慢の歌姫さんも舞台裏で控えてますぜ。
え、カクテルはいいから話を聞きたい?
しょーがないなー。
それじゃあ話してあげちゃいましょう。
七番目の七不思議の三番目『人外神社の賽銭箱で薬指を切ると恋人が手に入る』を……。
と、その前に。
まー、大体今までの流れでわかってんでしょーが、私たち大体死んでんですよね。
そんな私たちに話聞いてやがるお客さんは何なんだって話ですけどね、あれ、なんですか? お酒にヤバいものが入ってんのか? それか、死んでる人たちと一緒に飲み食いしたら仲間にされちゃいけねーなーって警戒してやがんですか?
せーかい。いや、不正解かな?
仲間づくりにはいっしょに飲み食いするのが一番って理屈はわかるんですがね。
ただ、よそからやってきた人にはどうなんでしょう? よく漫画とかであるじゃないですか、寂れた宿場町でも貧しい農村でもどこでもいいですよ。
そこに腹を空かせた主人公が行き倒れて、一宿一飯の恩を返すために、野盗なりやくざなりのならず者をやっつけてくれる……、そんな読み切り漫画。アリアリですよねぇ!
ここで駆けつけ一杯を邪魔されたからってのもハードボイルドでいいんスけど、なんであれ人ってのはくだらないもののためにこそ、死力を尽くしてがんばれる生き物なのかもしれませんねぇ。
……お客さんは何のためにアルカナに願いを託したんですか?
ま、いっか。
その中でも『愛』だの『恋』だのの話も王道ですよねぇ。実際、くだらない理由から主人公がドンパチやらかす中でもヒロインはつきものときやがりますから。
そですね、ここショットバーらしいですから、いっちょ気分転換に射撃してみません? 安くしときますぜ? サービス価格、実弾一発千円でどうすか?
遠慮しとく? じゃ話を進めますね。
で、私ね。とあーる神社でなんと殺人蟹を退治したんすよ。
その激闘の記録については別に本題ではないので割愛しますけど、倒したとき光になって消えていったんでたぶんアイツもアルカナに選ばれたなんちゃらだったんでしょうねー。
で、激闘の末にそいつを倒してほっとしたのも束の間。
今度は季節外れの桜吹雪が散る散ると相成りやがる。
気付けば、空は月。境内は光を蓄える蛍のような薄ぼんやりとしたような、はっきりとしたような奇妙な光に包まれていたんですよ。
なら、その先を越えて水平線の先に……? と目をやると、夜の東京特有の深い、深い青い闇だけに包まれていて見通せないとくるんですよねぇ。
大都会東京の面影もしくは、輪郭だけがゆらゆらと揺れてる。
だけど、それだけだったり。
たぶんそれこそが『人外神社』から見ることができる外界の風景なんだろなぁ。
ただ、正直、息苦しくって……。
さっき倒したカニの付近からは瘴気みたいなのが湧き出していて、なんか嫌だし。
耐BC防備を持ってきてなかったのが悔やまれたねぇ、しょーみ。
それで防げたかは疑問として、一歩、二歩、進むたびに地面がぐわぐわ揺れる気がして、沈み込むような感覚を覚えたさぁ。
油絵の具の世界に迷い込んだみたいな、ヘンな感覚、頭も体も重くって、どこに進めばいいのかわからない、どこに進んでいるのかもわかんない。
そっちはカニの呪いだったのか、わかんないけど、いつか食い放題に行ってやる。
本来なら鳥居の方向に向かうべきだったんだろうが、私は拝殿の方にふらふらと歩いてった。
不思議なことにそういう体の動きを観察する心の働きははっきりしてんですよ。
あっ、そっち行っちゃいけないんだろうなー、でも行っちまえ! GO! みたいな。
で、立派な拝殿の前に辿り着きました。
桜吹雪はますますひどくなって、それこそ目を開けていられないくらいに。
唄が聞こえてきたのはその時だった。
いや、その声の調子と響きがあんまりにも良すぎて私が勘違いしたからかも。
身長150cmほどの、背中の中程まで届く桜色のロングヘアに白いワンピースを着た少女がいた。不思議と桜吹雪に巻き込まれずに、似た色なのに溶け込んではいかなかった。
賽銭箱の前になにか木の枝のようなものを積み上げて、バチンバチンとハサミでなにかを切り落とす音、ついでに『いっぽん』、『にほん』と、そだね、あんまり詳しくないけど更屋敷みたいな感じ、それよりは明るくてあどけなくて、なんか好きだったな。
あ、歌姫さん、そうそ、そんな感じだったよ……。いい声してますぜ。
あんまり楽しそうだったから、体のだるいのも忘れて思わず聞き入っていたよ。
『さんびゃくさんじゅうよんほん』、バチン!
眠りを誘う歌声と、それを破る硬い音。その繰り返しにいい加減私の心も慣れてしまったか、うつらうつらとし始めたころだった。
最後の一本を切り終えた彼女、くるぅりと私の方に振り返ると「あなたはだれ?」といった、私もなぜか「あなたはだれ」と聞き返してしまった。
「さくらみやこです」と言ったきれーな彼女は私の屍の下にやってくると、抱きかかえて賽銭箱に立てかけた。
そして、私の屍の手を取ると。
『さんびゃくさんじゅうごほん』、バチン!
『さんびゃくさんじゅうろっぽん』、バチン!
右手と左手、両手の、切られた薬指は賽銭箱に消えてった。
見れば、桜宮子のそばにうず高く積まれた木の枝のようなものは、人間の手。
枯れ果てたようにくろずんで節くれだっていたけれど、確かに死体のそれだった。
『さくらみやこ』はそこまでして欲しい恋人がいるのだろうか?
それとも、忌々しい人との縁を断ち切りたいのだろうか?
私にはわかんないな……。
ん、そんなわけで私の話はこんなとこだぜ?
だから、私の薬指は今両方なくって血がダラダラこぼれて仕方がないんだよね。
どうですか? カクテルの配合に血が混じってるのとかご存じない? 『ブラッディ』なんちゃらとかって結構ありそうなものですけど、
鉄の味がするってウリにはなりませんよね、私の夢が叶う日は来るんでしょうか……?」
四人目「はだあれ?」
「三人目の話が終わったわけだけど、四人目はまだ来ていないみたいね。
あたし以外の六人が揃わないと『七番目の七不思議の七人目』は語れない。すべてを語らなければ、七番目の七不思議は終われない。
終わらなければ続いていくだけ、この無意味で虚ろな日常を。
それはとても悲しいことだけど。
それはとても虚しいことだけど。
だけど、それでもそれを望む人はいる。
呪われた校舎から、スカイツリーへと。河岸は変わった。続きはどこかな?
込清三千彦、あんたはどう思う?」
「ういっす、『七人目』さんにご指名いただき光栄っす。
俺は込清三千彦、『四人目』じゃねぇすけど、解釈次第じゃなれるのかな?
まぁいいや、まずは最低限の自己紹介をしとかないと話は進まないよね。
ヘンなアングラ掲示板で怪しい人たちが書き込みしてたから、『七人目ちゃん』とお付き合い願ったんすけど、まぁその辺のフラれ具合はまた別の機会にしときましょうか。
修理屋、何でも屋、っていってりゃ聞こえはいいよね、なんでもござれ。
星座はおとめ座、血の色はB型、選ばれたアルカナは『女教皇』、夢は『世界中の人たちと話がしたい』、そんな辻清三千彦、二十五歳でっす!
『ナインティーン』ってカクテルはあるみたいですけど、『トゥエンティファイブ』ってのはないんですかね。
ま、いっか。
順番通りなら『七不思議の四人目』は『全て知らない人にはこれだけはまだ教えられない』を話さないといけないんでしょうけど、なんなんすかね? コレ。
話しようがないじゃないですか? だから今ここに来てる俺にも語りようがないんですよね、どうしたものかなぁ。
・
・
・
あ、誰かの足音が聞こえてきましたね。
四人目かもしれませんよ」
「そうだね、込清。きっと次に来るのが『四人目』でしょうね。
ついでに言えば、四人目は選べるのかもしれない。
どういうことかって? 選べるなら選べばいい。選べないなら聞き流していけばいい。
それだけのことなのだから。なんだったら、誰しもが四人目かもしれないし、誰も四人目ではないのかもしれないのだから!」
Q.四人目は誰だと思いますか?
「
四人目「マリアライト・レオマ」
「こんばんわ。今日この場にお招きいただきましてありがとうございます。
私の名前はマリアライト・レオマ、とあるNPO法人で働いております。
私が話すのは五人目の七不思議、少し順番をずらして夢で見た赤駅の話を――
してはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならないしてはならない
夢で見た赤駅の話をしてはならない
はい。というわけなんです。
本当の意味で夢で見た赤駅の話が出来るのは五人目の方の手番にお譲りすると思いますが、赤駅の恐ろしさについては少しでもお伝え出来たと思います。
ええと、私が思いますに、青い釣り人の方は怒らせない方が絶対にいいのですね。
きっと、生まれてくることが出来なくなりますから。先ほど話に挙げました九頭竜さんのように……。
それと、特に薬指は庇ってください。
あ、三人目の遊葉さんでしたね、どうしたのですか? さほどに震えて、ええ、すみません……そうでしたね、傷口を見せたくはないと。
開かれるのは本意ではないとそうおっしゃられるのですね、いいですよ。
どうか私の手を握ってください、あなたの傷は私が引き受けますから。手をつなぎましょう、ふふふふ……」
」
四人目「我道蘭」
「よお! こんばんわ! 私の名前は我道蘭、都内で喧嘩屋をやっている二十七歳だ。
今日は怖い話……? 七不思議か、の話役を頼まれてここに来たんだが……、なんだろうなぁ、イマイチ釈然としないのは気のせいか。
まぁいいや。本業からすれば張り合いが無いのは確かだが、頼まれた仕事を投げ出すのも癪だ。話させてもらおうかな。
突然だが、今地球は宇宙人に狙われている! らしいぜ。
って言われてもイマイチ釈然としないのも確かだよ。
なんでも今地球はアルクトゥールス星人に狙われているらしい……。
正確に言えば、その星系の住人を中心とした多星間移民団の連中に、らしいが……。
連中は百万隻の移民船を兼ねた宇宙戦艦を用意して今か今かと押し寄せるXデーを待ち望んでいるらしい。
正直、その宇宙人のひとりに……っていうかあんたいい加減逃げた方がいいよ。
カウントダウンははじまってんだから。
なんでこんなことになんだろ? 疑問は尽きない。
素直に切った張ったの話になってれば話は早かったんだけど、正直話を聞いてしまったのが運の尽きだね。だから早く逃げなって。
首を取り外して断面図を見せてくれるって一発芸を見せてくれるとか、そこで焦げてる地下格闘界の帝王「九頭竜次郎」を見せてくれるとか、証拠がなけりゃ鼻で笑って終わりだっただろうさ。
絶対必中・問答無用で即死の光線銃ねぇ……。
その辺は理不尽というか不条理というか、正直ツッコむ気力も失せたんだが、だから話に乗っかってんだよなあ、頭がむず痒いよ、実際のところ。
なんだろうな、ジャンルが違うというか。
テーマパークの着ぐるみの中身が内臓だった! とかいう悪趣味で興ざめな都市伝説だよな、そこんところは。
は? 例の黒いネズミが増殖してるのも宇宙人のせい? わかったわかった。
これ以上、あたしの美学に干渉されるのはいくら何でもごめんというもので、どうかよろしく頼むぜ。
……はぁ。噴射音が聞こえる、これで私たちも宇宙飛行士を兼業出来る。
まさかスカイツリーがこの日のために建造された星間弾道ミサイルで、五万トンの反物質(霊的物質)を搭載しているから木星から冥王星間の太陽系惑星を丸々ぶっ飛ばして地球を守る破壊力を持っているなんてね。
星の陰に身を隠している九万七千隻の第一陣を潰すことで地球侵略を断念させる。
スカイツリー建造の出資者である東武鉄道とそれに手を貸した日本全国の悪霊たちには感謝しないとね、また楽しく喧嘩ができる未来を地球に残せるんだから。
問題はなんであたしがこの起爆スイッチを押す係を任命されたかだけど……。
きっとこのアルカナの戦いでこのアイドルさんの待ち受けるスカイツリーに指名してしまったからだよな。
正直、意味が分からないけど、九頭竜と相打ちなんて決着を見せられちゃったら……な。
私の旅もここまでか、人生最期に見る光景が木星の渦とは洒落てるとは思うけ――」
(ナレーション)
その日、広大な宇宙の片隅で小さな惑星たちがそっと消えていった。
その陰に隠れていた豆粒のような舟たち、そしてそこに未来と希望を託したあまたの者たちもまた、宇宙の塵に成り果てたとしても……。
そこにはまた違った夢と未来を託していった者たちの希望がぶつかった結果だと知るものはきっといないのだろう。
ただ、私たちはこの話が七番目の七不思議の四人目の語る話として受け継がれていくのを待つのみである……。
―完―
」
四人目「ラナン・C・グロキシニア」
「やぁ、みんなのアイドル『ラナン・C・グロキシニア』さ。私のことを『四人目』に選んでくれるとは恐悦至極の至り。
これもバックグラウンドでミュージックを奏でてきた甲斐があったというものだね。
いやいや、何を言うんだ君。
この『七番目の七不思議』は最近死んだ霊たちの中では話題で持ちきりでね。
席次を取ろうと盛大な抽選会になっているのさ。生前は幾万のファンたちを熱狂させた私が、そういった催しごとに一喜一憂するとはこれも業なのかもしれない。
だけど、今は素直に喜ぶとしよう。
何より死後の世界が実在し、『宇宙人』である私もその一員になれるという事実の前ではそれこそ些末なことだからね。
なになに? 聞き捨てならないことを聞いた?
大人気アイドルは宇宙人? ああそうさ、話をわかりやすくするために手っ取り早く話してしまうと地球は現在進行形で侵略されているのさ。
今や一千万都民の十分の一、百万人単位で宇宙人が地球人に成り代わっていると思うよ。
まぁ、良かったんじゃないかな。実のところ、さっき私と相打ちになった九頭竜さんなんかも無自覚の宇宙人ってやつだったし……。
えっ? お前は地球侵略を目論む敵性宇宙人なのかって。
断じて違う! って素直にそういいたかったんだけどね。実をいうと疲れてしまった。
天文単位の距離を物ともせず押し寄せてくる数千数万雲霞の如くの軍勢を君ならどうしたい。ちぎっては投げちぎって投げで戦うの?
それこそ徒労だよ。無駄の極み。
だけどね……、死後の世界が地球人も宇宙人も万宇宙共通の概念ならどうだろう?
生死の境目が問題にならないのなら、別に地球人が現世で蹂躙されようと問題ないとは思わないかい? あの世で私が愛した歌い、踊り、感動と幻想を共有する芸能という文化さえ残ればいいのだから。
と、私の話はここまで、え、自分はまだ生きているんだから不安に思わせることを言うな。そんなの開き直りに過ぎないって? ずいぶんしつこいな君も。
まぁ、私もあの世にはたいして慣れていない身だ。本星の意図を外れたとはいえ研究を進め、シンパを集め、この世界についての理解を深めなければいけないからね。
死んだからと言って休んでいる暇はないのだ。
その上で君にひとつアドバイスを贈るとしたら……。
安心したまえ、地球人もまた宇宙人なのだから。
ん? そんなありきたりなこと言われたも安心できない? いやはや、面白いな君。
別に私は広大な宇宙の片隅に浮かんでいる地球という星の住人だから広義で見て地味たちは宇宙人だという言葉遊びをしているわけではないんだよ。
単に君たちのルーツが宇宙にあるから、そう言っているんだ。
たとえとして……そうだ、君はある種の蟲が変態するにあたって、連続性はあると思うかい? 菜の葉を貪る芋虫と、蜜を吸う蝶。
一度さなぎの中で芋虫という生き物を形成していた各種構造体をどろどろのジュース状に溶かして蝶という向けた再構築を行う。
現時点での地球生物学で記憶の連続性は見られるという所見も述べられているけれど、事実ふたつの生き物が全くの別種だと言われればそうと思うのかもしれない。
要はそういうことさ。
地球人という生き物は意外と個体差が大きい。成長の過程につれて、丸々別の生き物に成り変わってしまうような因子は確かに打ち込まれているのさ。
楊貴妃、クレオパトラ、小野小町……難しいとは思うが、DNAを比較検討の上で調べてみるといい。
面白い結果が得られると思うよ。
容姿、身体能力、なんでもいい。人とは思えない麒麟児の影にはきっと宇宙人がいる。
よって大丈夫さ。
私のように秀でた者が珍しくなくなって、単に平均値、中央値が上がるだけだから。
地球人という文化を誇りたまえ。
君だってそう思うから怪談の収集なんてことをしているのだろう?
さ、私の話は終わりだ。早く五人目を連れてきてくれると助かる」
」
そして「五人目」に続く……
「四人目の話は終わったみたいね。
じゃあ五人目を探しに行きましょうか。
正直、三人分四人分の話を聞かされた気もするけれど、あんたはどう思う?
……ん、いっか、ここで答えは期待してないの……、ないったらないの。
どーせ、最後にはすべてわかるんだからさ……。
さよなら、スカイツリー。もうくる日は来ないかもだけど」