「やあ、3000ジュエルを使ってガチャを引くかい?」
鏡助の問に「はい」と答えると、彼は部屋の奥に走っていき扉を開いた。
扉の向こうにはレース場があり、10人のキャラが次々とスタート地点から飛び出してくる。
ヤマノハヒトリ ☆
チャトランユリスキー ☆☆
『私はいつだって少女の味方よ』
スーパーブルマニアン ☆☆☆
『テメエの能力は俺様が上書きしてやんよ』
バイクノガイネンタロウ☆☆☆
モトサキスズハ☆
ショクブツツカイ☆☆
『私は貴方を許さない。だって私は許されなかった』
ヨイゾラアカネ☆☆☆
レッシャノオニ☆☆
『ヨガフレイム』
キーラカラス☆☆☆
モトサキスズハ☆☆
第一話『大丈夫です、これ書き終わるまではソシャゲ我慢しますから!』
1.スーパーブルマニアン
目的地へと向かうダンボール箱の中で、ブルマニアンは震えながら少し昔の事を思い出していた。
とある学校で起こった連続焼死事件、通称『鬼火事件』。何人もの学生が炎に包まれ亡くなり学校は廃校となった。現場の状況から犯人は魔人であると推察されたが、そこから一切の進展が無いまま未解決事件となった。
当時、その学校の前の交番で働いていた警察官は顔見知りの学生が何人も死んだ事を悲しみ、事件解決に何の貢献も出来なかった自分を恥じた。
その警察官は誓った。どんな犯罪者も捕まえるだけの力を得て、少女達を危険から遠ざける為に全力を尽くすと。そうして少女を悪人から守る囮捜査官ブルマニアンは誕生したのだ。
「そうよ、私は少女を犯罪者から守るブルマニアン。例え殺人鬼が相手でも、いいえ、そういう奴らから少女を守る為に私はいるのよ」
初心を思い出したブルマニアンは、震えを押さえながらダンボールの蓋を開けて顔を出し周囲を確認する。目的地に向かって低空飛行をしていたダンボールは減速を始めていた。
進行方向に見えるのは、驚いた顔の山乃端一人と友人。
「って、何で一人ちゃんの自宅じゃなくて本人の目の前に直行してるのよ!?」
ブルマニアンはダンボール箱に貼られた送り状を確認すると、住所を書くべき場所に山乃端一人の名前が書いてあった。
「ビリーさーん!」
ブルマニアンの同僚ビリーさんは日本語の読み書きが苦手な助っ人外国人だった。
また彼女達に恐怖を与えてしまった事を反省しつつ、ブルマニアンは気持ちを切り替えダンボール箱のから両足を出しブレーキを掛けてその場に停まると、両手を出し敬礼の様に横ピースをした。
「少女の味方ブルマニアン、配達されてただいま参上!この間の事件で危険に晒してごめんなさいね!」
「あ、いえ。気にしてませんので」
今のブルマニアンの姿はダンボールから頭と手足を出した不審者だが、普段の格好がアレな事が幸いし相対的な不審者感は低く、山乃端一人もブルマニアンの顔を見てこの前の婦警だと気付いて警戒を解いてくれた。
「謝罪のついでに報告があるわ!この間のユリスキーとは別に貴方達を狙っている魔人がいるらしいの!でも、心配ナッシング!このブルマニアンが居ればいつも少女はセーフティ!」
「そして、その刺客とは俺様の事よぉ!」
ドガーン!
突如現れたバイクがブルマニアンを跳ね飛ばした。バイクは背後から、しかも亜音速で迫って来たので、受け身や回避はおろか、気付く事も出来ないままブルマニアンは上空へと飛んでいく。
「へっへっへ、まずはキルスコア1〜。さぁて次は本命のお前な!」
改造バイクに乗った女性は、フルフェイスメットの下で狂気に顔を歪ませながら笑った。彼女の名は本崎鈴葉。轢殺バイクの概念太郎に意識を乗っ取られ、それ以来山乃端一人と彼女を守る者を轢き殺しキルスコアを稼ぐ事しか頭に無い異常者となった哀れな存、要するに着ぐるみに乗っ取られたユリスキーと似たタイプかつ更に凶暴凶悪な奴だ。
鈴葉が次の標的を轢き殺す為にアクセルに手を掛けた時、ブルマニアンは空中を漂いながら己の死が迫っている事を感じていた。このまま落下したらミンチになって死ぬ。だが、ブルマニアンは自分でも信じられないぐらい冷静だった。
「あー、周りがゆっくりに見える。これが死に際の集中力って奴ね。つまり、このままだと私は死ぬ。でも、今日の私は運がいいわ。だって改造バイクに乗った珍走団が相手なんだもの!」
これが普通の暗殺者だったなら、銃刀法違反や殺人未遂ぐらいしか罪をカウント出来なかっただろう。だが、道路交通法は違反行為が細分化されている。つまり、それだけ罪状が刻めるという事だ。
「スピード違反!バイクの違法改造!バイク走行禁止の歩道への乗り上げ!一時停止無視!」
真下にいる鈴葉に向かって、生じた罪を叫ぶ。ブルマニアンのアホ毛が増えていき、その力が何倍にもなっていく。
「そして、私への殺人…じゃなくて殺人未遂!今の所、合計五犯!」
急激に増加した肉体強度と自然治癒力で死を乗り越えたブルマニアンは鈴葉と一人達の間に着地し、今まさに急加速しようとしていたバイクの前輪を踏みつけた。
「どんなバイクも、こうやって加速前を押さえつければ簡単に無力化出来るのよね」
そう言ってブルマニアンは己の股間に手を入れて手錠を取り出しバイクの前輪を固定した。
「うぉいゴラァ!何を邪魔してんだぁ!つーか、何で生きてんだテメェ!?」
「貴方が五つ罪を犯し、私のパワーが普段の六倍になったからよ!」
「いや、意味わかんねぇよ!」
「意味がわからなくて結構よ。さあ、貴方の戦闘手段は無くなったんだし大人しく観念しなさい」
「ちくしょおおおお!!!」
山乃端一人を狙う刺客、本崎鈴葉あっさり退場。ありがとうブルマニアン、これにて一回戦終了。
そうなるかと思った時、突然ブルマニアンの体が炎に包まれた。
「ギャーー!」
ダンボールを脱ぎ捨て、その場に転がり炎を消そうとするブルマニアンを一人も鈴葉も見ている事しか出来なかった。
「一人!逃げるよ!」
「またこのパターン!?」
そして、この状況にいち早く対応したのは一人の友人、キーラ・カラスだった。彼女は一人の手を取り、近くにあったトンネルへと駆け出す。
「待ちやがれコノヤロー!…チィッ、バイクは動かねえから置いてくしかねえか!」
逃げる二人を追い、鈴葉も徒歩でトンネルに向かう。
「ア…アツイ…」
後には燃え盛るブルマニアンだけが残された。
2.キーラカラス
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、待って、キーラ待って、速いよ!」
山乃端一人の手を引っ張ってトンネルを走り続けていたキーラだったが、非魔人の一人は一分もしない内にペースに着いていけずに息切れを起こし、足がもつれそうになっていた。
「あー、ゴメン。でも、一人のペースに合わせると絶対アイツらに追いつかれちゃうし、おんぶしよっか?」
「流石にそれはキーラに甘え過ぎかな。…そうだ!これ使えないかな?」
一人は半分焦げたダンボールを広げ、キーラに見せつけながら提案する。
「一人、これってブルマニアンさんが被ってたやつ?」
「逃げる時に咄嗟に持ってきちゃった。これをこうしてー」
一人はキーラにダンボールを被せ、自分もダンボールの中に入りキーラの腰にしがみついた。
「出来た!」
「何コレ!?」
「お馬さんごっこだよ!キーラが前足で私が後ろ足」
「あんた馬鹿でしょ」
「馬だけど鹿じゃないわよ。理論上は現状これが一番私に負担が少ないかつ速く走れるはず。しかも、私の足以外はダンボールに隠れて見えないから敵が私を見失うかも」
そんな訳あるか!そう思いながらも試しにちょっとだけ走る事にした。
「イチニ、イチニ、あ、意外と速いわコレ。一人、しんどく無い?」
「イチニ、イチニ、手を引っ張られてる時よりは楽かな。所で、さっき『アイツらに追いつかれる』って言ったよね?」
「うん、あの場にはヤバイやつが二人いたバイクに乗ってたキチガイ女はどう見てもバイクで轢き逃げにする事に特化した魔人だったし、ブルマニアンが燃えた時に彼女も驚いていた」
「ブルマニアンさんがやられたのって」
「私じゃないし、バイクの奴でもない」
「だよね」
ブルマニアンを燃やしたのはバイクの女では無い。勿論、キーラでも無い。第三者がブルマニアンを攻撃したと考えられる。
「ねえキーラ、私達逃げて良かったのかな」
「私達が逃げる事で敵の狙いがこっちに来れば、ブルマニアンさんが結果的に助かるかもしれない。ま、それは私達のピンチでもあるけど、とにかく今は逃げ続けましょう」
「わかった」
ブルマニアンを置いて逃げた事には多少の後悔はあるが、本人曰く普通の六倍強いらしいし、炎に焼かれても案外無事かもしれない。そんな希望的観測で不安を消し去りながら少女達は一体となり、トンネルをひたすら走り続けた。
3.ヨイゾラアカネ
「やばっ、誤爆しちゃったかも」
提供された情報に従い、あかねが次の敵の居場所とされるトンネルに到着してから数分、まだかなーとトンネル内で待っていると、入り口の方で戦闘が始まっていた。
山乃端一人とその仲間をぶっ殺すというキチガイじみた声と、彼女を守らんとするヒーローの声を聞き慌ててトンネルの外へ出ると、ライダースーツの女とダンボールを着た女が対峙していた。
そして、あかねはダンボール女の方を敵認定し火球を放った。だが、キチガイはライダースーツの方だった。一人とその友人キーラがこっちに来たので慌ててトンネルの壁に隠れやり過ごした。あのまま鉢合わせていたら、鬼火を投げつけた自分は多分敵認定されていたから。その後、キチガイがトンネルに入ったのを確認してから、あかねはこれからどうしようか考えた。
「一人さんを追いかけて助けたいけど、私の足しゃ追いつけないし、味方だと信じて貰えないかもだよね。うーん、そうだ!」
あかねはブルマニアンの火を急いで消すと、ブルマの中を弄り鍵を探した。
「このお姉さん、下半身に手を突っ込んで手錠出してたよね。なら履いてるブルマの中に手錠の鍵もあるはず」
グニュグニュグニュ
「これは拳銃?こっちは手帳?もしかして、このお姉さん魔人警察?なら変態な見た目も納得だし、一人さんの味方だった可能性も高いよね。やっぱり倒す相手間違ったかも。ごめんなさい、一人さんは私が助けるから安らかに眠って下さい。さてと、鍵はどこかな」
ブルマニアンの下半身は妙に柔らかかったり硬かったりする部分があったが、幽霊のあかねはその違和感に気付く事なく探索を続け、遂に目当ての手錠の鍵を見つけた。
「よし、これであのバイクが動かせる。でも今気付いた、私バイク乗れないから意味ないじゃん!」
あかねは乗り物に乗せて貰っての移動は出来るが、乗り物の運転手にはなれない。念動力ではバイクの運転の様な複雑かつ繊細な操作の継続は無理なのだ。
「私はバイクを動かせないダダッダー!幽霊だから無免許だからダダッダー!」
「ううん…うるさいわねえ」
「え?」
あかねが頭を抱えていると、死んだと思ったブルマニアンが起き上がり、目がバッチリ合った。
「うわあああ!廃校のオバケー!」
廃校の制服姿かつ半透明のあかねを見たブルマニアンは過去のトラウマを呼び起こされ失禁!補正下着の股間部分に装着していた尿漏れパッドのおかげで辛うじて地面を濡らす事は免れたが、アソコはビショビショだ!
「うわあああ!タフネスがオバケー!」
普通の魔人なら死んでもおかしくない時間鬼火で焼かれてたのに、割とピンピンしてるブルマニアンを見てあかねは失禁のポーズ!彼女に実体があったら絶対に漏らしていた!
「鬼火事件の時は何も出来ずにすみませんでしたー!必ず犯人は見つけます!でも、今は山乃端一人という女の子を助けたいのでそちら優先させて下さいー!」
「誤爆で邪魔して本当にすみませんでしたー!後でどんな罰も受けますが、山乃端一人さんを救いたいから、どうかまだ払わないでー!」
「「え?『山乃端一人を助けたい?』じゃあ私達味方だ!!」」
お互いがお互いに恐怖し、相手の話も聞かず土下座謝罪を繰り返す両者。しかし、山乃端一人を助けたいという主張が共通している事に気づき、二人は無事共闘への道を歩む事が出来た。
「え、えーと私は一人さんに生前救われた幽霊、あかねです」
「私は少女の味方、囮捜査官のブルマニアンよ。これ以上の自己紹介は一人ちゃん達に追いついてからね!貴方には私にトドメ刺すチャンスがあったのに、それをしなかった。だから、取り敢えず味方と見ておくわ」
ブルマニアンはバイクにまたがり、後部にあかねが乗ったのを確認後にアクセルをゆっくり回す。
「ブルマニアンさん、私が言えた事じゃないけど、警察官が他人のバイクに勝手に乗っていいのかな?」
「これは緊急避難よ!刑事ドラマでよくある、通行人の自転車や携帯を借りるやつよ!よし、バイクも問題無く動くし適切に急いでレッツらゴー♡」
「あ、ブルマニアンさん待って!私、トンネルの入口に武器を置きっぱなしだったの」
そう言いあかねはバイクから一旦降り、トンネルの壁に隠れる時に手放していた鉄棒付きランタンを回収しに行く。だが、そこにランタンは無かった。
「誰よ!私のランタン持っていったの!あれ作るの凄く大変だったのに!」
4.モトサキスズハ
「ウキョー!待ちやがれコノヤロー!」
拾った鉄棒付きランタンを頭上でブンブン振り回しながら鈴葉はトンネルを走る。徒歩で。
「手頃な武器が落ちてたのはラッキーだったが、バイクがねえと調子でねえなあ。つーか、あのブルマ頑丈過ぎんだろ!俺様は即死能力者だぞ!ムキー!」
本人はまだ気付いてないが鈴葉は即死能力者ではない。彼女の意識を支配している概念太郎は確かにバイクで必ず殺す能力者だった。しかし、それには『遅刻した者のみ』という制約がつく。現在の能力は『普通に考えて人が死ぬスピードで走るバイクとその衝撃に耐えられるライダースーツとヘルメットを召喚し、ドライビングテクニックも身につく』といったものになっている。制約消してオプション増やしたら効果が下がる。ダンゲロスの基本である。
「あー、クソっ!バイクに乗ってたら、もうとっくに山乃端一人に追いついてるのによー!バイクバイクバイクバイク!」
ブォンブォン
「ちくしょー!バイクの事考えてたら幻聴まで聞こえてきたぜ!」
ブォンブォン遅刻者は殺すブォン
「幻聴じゃねえ!俺様のバイクのエンジン音だ!俺様だったバイクのエンジン音だ!バイクだった俺様のエンジン音じゃねえか!」
鈴葉が振り返ると、そこには改造バイクにまたがり時速100キロ前後で迫るブルマニアンとブルマニアンの背中に引っ付いているあかねが居た。
「そこの通り魔!止まりなさい!」
「ランタン返せー」
「ざけんな!俺様のバイクを耐えて踏んで止めてロックして挙句の果てにはパクって白バイぐらいの速度で上品に走らせやがって!」
正に踏んだり蹴っだりな鈴葉。だが、悪い事が重なると良いことも一つぐらいあるものだ。鈴葉の前方に、お馬さんごっこしている一人とカラスが見えてきた。
「見つけたぜぇ!ぶっ殺してやる!いや、先にバイク取り返すかぁ?どーすっかなあ」
「させないわよ!貴方はこのブルマニアンが正義執行しちゃうんだからね!」
「ランタン返せー」
「げぇーっ、敵が追いついてきた。一人、頑張って!」
こうして、四人の魔人による山乃端一人を巡る攻防がトンネル内で始まったのだった。
【エーデルワイス杯 コンクリート3500m 右】
さあ、間もなく始まるエーデルワイス杯。果たしてこのレースに勝利し山乃端一人のヒーローとなるのは誰なのか。まずは、各魔人の紹介です。
『1.スーパーブルマニアン 差し 不調
スピードCスタミナAパワーA根性E賢さD』
1番スーパーブルマニアン、二番人気です。
レース前の怪我が不安材料ですが、ペースをつかめば十分一着を狙えるポテンシャルを持っています。
『2.キーラカラス 逃げ 絶好調
スピードCスタミナCパワーC根性B賢さS』
2番キーラカラス、四番人気です。他の魔人と比べ抜けた能力はありませんが、安定感のある走りで好位置をキープすれば勝ち筋が見えてきます。
『3.ヨイゾラアカネ 追込 普通
スピードDスタミナSパワーE根性SS賢さA』
3番ヨイゾラアカネ、三番人気です。脚質と距離は合っています。後半からの伸びに期待したいですね。
『4.モトサキスズハ 轢き 絶不調
スピードSSスタミナBパワーB根性B賢さG』
注目の一番人気は4番モトサキスズハ。他魔人からのマークが厳しく調子も上がりませんが、一度乗ってしまえば独壇場でしょう。
さあ、各魔人次々とトンネルイン。間もなくスタートです。…始まりました!
先頭に立ったのは2番キーラカラス、山乃端一人と一体化して逃げを狙います。バイクを無くしたモトサキスズハがランタンを振り回しながらこれに続く。少し離れてこちらはバイクの力を引き出しきれない1番スーパーブルマニアン。最後尾ではヨイゾラアカネが様子を伺う。さあ、間もなく最初のカーブに突入です。
「イチニ!イチニ!イチニ!一人、もうすぐカーブだから曲がるわよ!」
「私前見えないんだけど、曲がるってどっち?キャー!バランスがー!」
開幕スタートダッシュを決めたキーラカラス、第一コーナーで派手に転んだぁ〜!ダンボールが破れて前後でバラバラになった!
「わぁー!と、止まらないー!」
「一人ー!」
ダンボールがソリの役目を果たしゴールまで滑っていく山乃端一人!あり得ないスピードで消えていった!ダンボールに残留していた課長の魔人能力が暴発したのでしょうか?
「トンネルの奥まで行っちゃったわね…、なら、私がここで敵を食い止める。『完全HIPHOPマニュアル』」
「ケッ、俺様の第一目標は山乃端一人よ!バイクがありゃあ纏めて轢き殺してやるんだが、今は相手をしてられねえ」
キーラカラス、後方を振り返り分厚い本をコストに炎を放ち敵を迎え撃つ。しかし、モトサキスズハはそれをあざ笑うかの様にジャンプし、トンネル内のライトに鉄棒を引っ掛けターザンの様に上空を移動しキーラカラスを飛び越えていった!
「キヒャー!一足先に山乃端一人をぶっ殺せしだぜー!おめーらは後な!」
モトサキスズハ、華麗な立体機動で先頭に立った。キーラカラス慌ててそれを追う。そこにスーパーブルマニアンとヨイゾラアカネ、後続が追いついた!
「ブルマニアンさん、無事だったんですね!」
「貴方も元気そうね。一人ちゃんとバイク女は?」
「この先です。追いかけないと」
「ねえ、この人は一人さんのお友達なの?じゃあバイクの後ろ乗ってよ。私はショートカットするから」
ヨイゾラアカネが壁に入りコースから消えた!そして、スーパーブルマニアンの後ろにはキーラカラスが乗り込んだ!さあ、状況が大きく動いたぞ!
「ブルマニアンさん、さっきの子は?何か透けてたし、壁の中に入っていつたんだけど」
「私もよくわからないけど、一人ちゃんを助けたいと言ってたわ。でも、彼女が何者か考えるのは後にしましょ」
レースはいよいよ後半戦、先頭だったキーラカラスは後方に沈み、ヨイゾラアカネと入れ替わる様にスーパーブルマニアンの背中にしがみつく。そのヨイゾラアカネはコースアウトし行方不明。そして、二番手以下に大差をつけて現在先頭は大本命モトサキスズハ。バイクが使えなくとも、問題無かったのか!?
「行くぜイクぜ逝くぜぇ!このままトンネルを飛び回り、山乃端一人にぶっこむぜぇ!ハァハァ、何だぁ?急に身体に力が入らなくなってきたぜ」
「ライトの傍に居たからだよ。このトンネル内のいくつがを私の鬼火にしておいたんだ」
「うわああー!お化けー!」
モトサキスズハ突然の失速!ヨイゾラアカネがコースに戻ってきた!この勝負わからなくなってきたぞ!
「ランタン返してもらうね」
「ちくしょう!バイクさえあれば!バイクさえあれば!そうだ、あのバイクは元々俺様の能力で出したモノだから、一度解除して再発動すればバイク戻ってくるんじゃね?」
モトサキスズハ遂に気付いた!そうです!彼女の魔人能力は手元にバイクを召喚するものだから、再発動すればバイクを奪われようが前輪が手錠でロックされようが関係ありません!
「ヒャア!そーとわかりゃあ早速解除ぉ!」
「くっ!何言ってるかわからないけどピンチかも」
「かーらーの、キジルシマック」
「キャー!頑張って急加速したら突然バイクが消えたー!」
「えっ?」
何という事でしょう!モトサキスズハが能力を解除した瞬間、スーパーブルマニアンは追いつこうとしてアクセル全開!結果、M字開脚のスーパーブルマニアンが超スピードでモトサキスズハの顔面に激突だー!
「わっぷ!何だこりゃ!痛え!重え!臭え!」
「イヤーン、グリグリしたゃらめぇ。オシッコ漏れちゃう」
ヘルメットを失った生身の顔面にスーパーブルマニアンの股間が押し付けられる!モトサキスズハ、必死に脱出しようとするが、その度にブルマから尿が染み出してきて呼吸もままならない!
「ウがが…こんな負け方は嫌だ…俺様は」
「ブルマニアンさんごめーん!背中お借りします!」
「ゲビャー!もう1名様追加ー!?」
バイクの後部に乗っていたキーラカラスも飛んできました!スーパーブルマニアンの女性にしては大きな背中に胸を押し付ける様にしがみつく!モトサキスズハは更に脱出が困難になった!
「やぁん、キーラちゃんのオッパイやわらかい。だ、ダメ、感じちゃう。オマタに挟んで隠していたアレがオッキしちゃう。私は少女の味方なのにぃ!」
「アバーッ!!もうこの身体に居るのは限界だー!」
おおっと、モトサキスズハの口からエクトプラズムが飛び出しバイクの形になって逃亡し始めた!どうやら、あれがモトサキスズハを支配していたバイクの概念太郎の様です。
「ケヒャケヒャ、こうなったら山乃端一人を乗っ取って自殺してやるぜ!」
概念太郎必死で逃げますがその足はおそーい!精神体へのダメージが深刻な様です。スーパーブルマニアンとの接触時に色々ナニかあったのでしょうか。
「逃さない…」
スーパーブルマニアンも立ち上がり走り出すがこちらもおそーい!股間を押さえて苦しそうだ!
「うう、頭がクラクラする」
キーラカラスもおそーい!普通にダメージと疲労が蓄積されてるのでしょう。
「しまった、トンネル内の鬼火多すぎたかも」
ヨイゾラアカネもおそーい!魔人能力を使いすぎてのスタミナ切れを起こしている!レース終盤、トンネル出口まで残り400 メートル。全員ヘロヘロの泥仕合に突入しました。
「「「まーてー」」」
「またねえー」
魔人三名、力を振り絞り概念太郎を倒そうとするが、一歩及びません。キーラカラスはコミカライズ作品二冊を燃やしましたが、どちらも打ち切りだった為火力不足。スーパーブルマニアンはアホ毛が一本に戻ってます。モトサキスズハは無力化済み、概念太郎は概念なので法律で裁けません。ヨイゾラアカネも概念に対しては鬼火が効き辛い。
「ハアッハアッハアッ、トンネルの出口に人影が見えてきたぜぇ、遂に追いついたぜ山乃端一人!当初の予定は大幅に狂ったが俺様の勝ちだ!」
「クマー」
「あ、あれ?山乃端一人にしてはやけにでかい。それに毛深いぜ」
「クママー」
出口に現れたのは山乃端一人ではありません。クマです!一体どから現れたのかー!?
「テディくん、そいつやっちゃって」
モトサキスズハだ!気絶から復帰したモトサキスズハがいつの間にか追いつき、氷の様に冷たい目で概念太郎を睨みつけているぞ!洗脳を経て魔人能力が覚醒進化したのかー!地元動物園人気のヒグマ、テディくんを完全に支配下に置いています!
「クマー!」
「キヒャー!タンマタンマタンマ!俺様が悪かった!テディベアを操る能力がカスとか言ってごめん!イヤー!排気口攻めないでぇー!壊れちゃうー!」
これは酷い!クマのテディくんによる公開バイクファツクショーだ!ドラゴンカーセックスという言葉がありますが、それは正しい。車両には獣姦が特攻なのです。
「クマー!クマー!クマー!」
「アヒ!俺様壊れりゅ!キルできると信じて送り出した俺様が誰もキルできずにポッと出のNPCにキルされゆ!アー!逝くぅー!」
概念太郎爆発四散、今ここに勝負は決しました。一着4番モトサキスズハ、二着3番ヨイゾラアカネ、三着2番キーラカラス、4着一番スーパーブルマニアンとなりました。
「正義執行(ジャスティス)!」
勝利の勝ち名乗りをビシっと決めたモトサキスズハ、その後、他の魔人と一緒にトンネルの向こうから来た警察に保護されるまでの間シャイニングスターに合わせて踊っていました。山乃端一人は一足先に警察に保護されて無事な様です。良かったですね。それでは次回のレースでまた会いましょう。
悪夢の様な戦いの翌日、新しい体操服に着替えたブルマニアンはまたもや課長に呼び出されていた。
「おう、ご苦労さん。初めての殺し合いはどうだったよ?」
「最悪です。オシッコは漏らすし、誰が味方か分からないし、普段の囮捜査の何倍も怖かったです」
「だが、山乃端一人は守り切った。お前は今回しくじった部分もあったが、山乃端一人が無事なのはお前が傷を負ったからだ。怪我の具合はどうだ?」
「戦えるぐらいには回復してますよ」
「じゃ、後二回ぐらいよろしく」
よろしくされてしまったブルマニアン。だが、そうなる気はしていたので驚きは少なかった。
「了解。でも何故私だけなんです?今なら課長も参加できると思いますというか手伝え下さい」
「俺だってサボってる訳じゃないさ。トンネルを出た山乃端一人を保護したり、テディくんを動物園に返したり、お前以外の山乃端一人のツレ、あのタバコ吸ってるガキや幽霊やバイクに乗っ取られてた女から話聞いたりしたの俺よ?」
課長曰く、キーラもあかねも過去に何かしら大きな事件に関わっていた様だが、今は山乃端一人を守る戦力として働いてくれるので黙認するとの事だ。
「確かに、あの二人は私よりもずっと戦い慣れていた感じはあります」
「そう、あのガキ達は相当やべえんだよ。今は山乃端一人を襲う連中という共通の敵がいるから味方にカウントできるが、その後は…わかるだろ?」
ブルマニアンは課長の言わんとする事を理解しツバを飲み込んだ。
「はっきり言って俺はガキ共に嫌われている。いや、嫌われてやった。その分お前が優しくしてやれば効果抜群だ」
「信頼を勝ち取りコントロールしろと言うわけですか?」
「そうだ。頼むぞ少女の味方。俺達の仕事は山乃端一人を守りきって終わるもんじゃない。全ての敵が消えた後、ガキ達が抵抗せずに俺達に従うならそれに越したことはない。だが、そうならなかったらまた面倒になる」
ブルマニアンは課長の言葉に従い頷いた。山乃端一人を守る為に共闘した少女達を裏切る事になるかもしれないが、少女達に罪を犯させない事もまたブルマニアンの使命なのだ。
「わかりました!少女の味方ブルマニアンはあらゆる悪から少女を遠ざけます!」
「よし、了承したな」
後方の扉が開き屈強な黒人が入って来る。昨日と同じパターンだが、今度は覚悟を決めて大人しくダンボールに運ばれる。
「山乃端一人を警察で保護はできん。一箇所に留まると襲撃者全員の的になるからな。だから、お前が守ってやれ。既に山乃端一人と今回の件に関わったガキも別のダンボールに詰め込んである」
「はい、わかりました。よし、今度は宛先間違ってない」
「現場についたら山乃端一人と一緒に移動し続けろ。そして、彼女や他の守護者の信頼を勝ち取れ」
ドゴォ!
課長くんの飛燕脚便!
ブルマニアンくんぶっ飛ばされた〜!
次回『山乃端一人とブルマニアン、レズ!』絶対見てくれよな!