この先ダンゲロスオンライン、すでに命は札になし。
◆立体駐車場 3F◆
少々草臥れたスーツ。
すすけた革靴。
整髪料の匂い。
サメは、愛車たるビッツ(有名メーカーが作成した四輪で走る自動車の車種名。ここでは空を飛ばないものを指す)を探していた。
アルコールこそ入っていなかったが気分は良かった。
今日は同窓会の帰りだったのだ。
「よお。」
――――五台山?
そこに、先ほど別れた友人がいた。
五台山カケル、41歳。この前彼の小学校30浪記念のパーティーを一緒にした友人だ。
健やかなる時も、病める時も。彼と飲む酒はいつも旨い。そういう間柄だ。
サメとロボ。
両方ともカタカナで二文字と言う組み合わせ
お分かりの通り二人は同郷の幼馴染なのだ。
五台山カケルはすごい奴だ。サメはそう思っている。
彼はロボに青春をかけているのだ。
ロボに乗るために小学生を留年し続けている。
自分はそこまで部活に入れ込むことは出来なかった。
部活に、青春をかけることはできなかったのだ。
―――才能は、あったと思う。
青く丸刈りでザラザラだった丸刈りだったサメ肌を思い出す。
皆で声をかけながら、ガムシャラに浜辺を走りカップルを食べ散らかしていた青春時代。
血肉を食べ散らかしてクタクタになり、皆で夕日を背に腹を空かせて家路についていたあの頃。
―――才能は、あったと思う。
それでもあの時サメが部活をやめたのは、家庭の影響だった。
父親がサメハンターに食われて以降、母は女手一つでサメを支えてくれた。
日に日にやつれていく母に心が折れた。
ただ、それだけの話だったのだ。
あのままプロのメカキメラダブルヘッド魔人シャーク2として生きていたらどうだったか。
辞めると決めていた大会で、最後に戦ったのはメカキメラダブルヘッド魔人シャーク2の本場中国からの特待生だった。
人生をかけていたあの目。気圧されていたというとそうではなかった。
―――才能は、あったと思う。
ただ、あの時。自分の中でメカキメラダブルヘッド魔人シャーク2になにかしらの区切りがついた。
あれはそう言う出来事だったのだ。あの時競り合ったあの特待生はどうしているのだろうか。
昔の話だ。
そう物思いにふけっていると。
「―――――なあ。」
横でコ―ヒーを飲んでいたおさななじみが
「ちょっと、付き合わね?」
そういって、横の水族館を指差した。
◆ショッピングモール 入口前◆
山が三対あつまった。
一 四一四
そのバストは豊満であった。
諏訪梨絵
そのバストは通常であった。
浅葱和泉
そのバストは平坦であった。
山が三対集まれば、そう、起きるのは。
(爆発音)
女子会であった。
三人寄ればかしましきは世の必然。
理由はあったのだろう、因縁はあったのだろう、運命でもあったのだろう。
そういったものがまぜこぜになって、今。
血で血を洗う決戦が起きる。
影と女中とテロリスト。共に裏に潜む類の存在であり、性質が非常に似通っていた。
似通っている分、それは。
「メイドは家の中の生物。影は日を避ける庇があればこそ。」
「野外プレイを好む『タフ・ガイ』の相手は辛かったかもしれないわね、おぼこちゃんたち?」
破壊力の差が如実に表れる戦況となっていた。
影は爆発に灼かれ動きを制限され。
女中は爆風にそのスカートを煽られ動きを制限され。
道行く人ごみが無くなり周囲が荒野のごとく化す頃にはお互いの状況は明白に分かれるほどに。
一(にのまえ)とは古来より伝わるエリートの家系だ。
生まれついて異能を得ることを前提に人生を敷く。
目覚める異能に指向性を与え。異能に合わせた人生を作る。
それは『伝統』と呼ばれる何代にも重ねられた人体実験にもにた経験則。
目覚めた異能は一族に『恩恵』を与え、与えられた恩恵は『異能』をより強固にする。
血よりも濃い絆よりも更に濃い血の絆。
異能のエリートとはそういうものなのだ。
「強い、強い、強い。こんなにも、強い。それなのに・・・」
「くそったれですわよね。何をそんなに脅えていたのか?」
「そこまでしてエリートになって、一家は何がしたかったのか?」
「自由にやればいいんですわ自由に・・・自由に・・・」
鬼に追われる童女のごとく、何かに脅えるように異能を輩出し続けた。
―――才能は、あったと思う。
それでも今こうしているのは、家庭の影響だった。
父親が己の異能に食われて以降、母は女手一つで私を支えてくれた。
何かに脅えるように、己が異能に食われないように大切に育ててくれた。
そんな、日に日にやつれていく母に心が折れた。
自由になりたいと思った。ただ、それだけの話だ。
影に縛られるのも、家に縛られるのもまっぴらごめんだった。
理由はあったのだろう、因縁はあったのだろう、運命でもあったのだろう。
だが、そんなものとは関係なく。
目の前の二人の女はどうしようもなく一 四一四の癪に触っているのだ。
人ごみが少なくなる。異能の弾がなくなる。そうすれば彼女が彼女たちに持っていた破壊力と言うアドバンテージは消えうせる。
だが、それがなんだというのだ?
今までの負傷で動きが鈍る彼女たちに彼女は迫る。打ち、払い、そして、掌。
一 四一四の異能は対象の人数が増えれば増えるほど威力が下がる制限がかかっている。
異能としてはよくある制限である。
それは、つまり。
「―――とらえましたわ」
異能の名家たる一族が見逃さない弱点であった。
対象の人数が増えれば増えるほど威力が下がる制限がかかっている。
異能としてはよくある制限である。
それは、つまり。
能力の対象が0人だったならば?
女中の、通常なバストに掌を。
瞬間、世界が破裂した。
◆水族館内 バッティングセンター◆
一振りすれば、悲鳴が聞こえる。
二振りすれば、命乞いが聞こえる。
三振りすれば、静かになる。
そう、ここはバッティングセンター。
サメはここで久しぶりにカップルの虐殺を行っていた。
時速900kmで撃ちだされるカップルたちを真芯を捉えて食べ散らかしていく。
久しぶりに頬を伝う血肉を拭う。そう言えばこんなに血を流すのはいつぶりだっただろうか?
横ではおさななじみも悪の手先を粉砕していく。
まだ現役の彼は自分のそれよりも少々早い速度に設定してあり、粉砕の勢いもこちらよりも派手だ。
それが、少し癪に触っていた。
五台山カケルはすごい奴だ。サメはそう思っている。
親友と呼ぶには少し距離が離れている。仲間と呼ぶには目指す先はバラバラだ。恋人と呼ぶにはしていることは違うように思う。
ただ、この関係は心地よい。彼と飲む酒はいつも旨い。
彼にも、そう思っていてくれたら。サメはそう思っている。
いつしか、バッティングセンターに用意されていたカップルも、悪の手先も全て殺し尽くしてしまったようだ。
仕方がないと次は山之端一人でも打とうかと二人で山之端一人供給所にコインを入れにいくと――――
◆ショッピングモール 入口前◆
メイドは家の中の生物である。逆説、家の中でなければメイドの性能は半減する。
ならばメイドは野外では無力な生物であるのか?
応えは、否である。
女中は佇んでいた。
何処までも、悠然と、雄々しくその場で佇んでいた。
両の足より構え。地面にしかと吸着し、佇んでいた。
家だ。己の体を家に見立てて――――
メイドは家の中の生物である。逆説、家の中でなければメイドの性能は半減する。
ならばメイドは野外では無力な生物であるのか?
応えは、否である。
家が無ければ、建てればよい。
例えどれほど肉体を傷つけられようと。どれほど負傷があろうとも。
ボロを着てても、心は屋敷。
屋敷に入り込んだ異能を認識する。
体内の異能を的確に片づけていく。掃除し。まとめて。しかるべきところに。
それこそがメイドの能力たれば。
掃除し。まとめて。しかるべきところに。のしをつけて。お返しする。
女中が、豊満なバストに掌をあてる。
「―――とらえましたわ」
異能が逆流する。爆絶が牙を剥く。
一 四一四という名の爆絶が牙を剥いて笑っている。
それは異能のエリートだからこそ、異能を十全に扱えるからこそ扱える一合。
異能を逆に利用されることを前提をした返し技という、異能を前提とした技術体系
それが。
芸術とも言える技術が、血のにじむ修練で得たはずの技術体系が。
夜をこめて
鳥の空音は 謀るとも
よに逢坂の 関は許さじ
まるで影がさすように胡乱に溶けて行った
この一度のために重ねてきた修練が灰燼と帰す。
屋敷に入り込んだ影が、女中の手によって、のしをつけて、お渡しされたのだ。
世に鬼は一人に非ず。
遊びは鬼追いだけではなく。
影鬼と言う、ものもあるのだ。
瞬間、世界が破裂した。
◆西暦1026年 日本◆
皆さまにも御存じのとおり。
日本にはかつて、『精子王 ナゴン』と呼ばれる偉人がいた。
『精子王 ナゴン』。誰もが知る偉大なる言語マスター。
其れは『英語』に匹敵する日本古来の伝統ある『古語』を操る平安時代のトップランカー。
『春はあけぼの二の打ちいらず』とまで言われ百人一首とまで呼ばれた古語使い達の頂点に立っていたグランドマスターだ。
その体躯はか細く。
体は傷に塗れ。
縫い痕が無惨なものであり。
時折滲む血を隠すために十二単を纏っていたことは余りにも有名である。
(私は、何かの役に立てたのだろうか?)
精子王 ナゴンは一人思う。
あの時、『子行種』から逃れようとしたとき。
タイム・精子の時空間干渉能力で千切に飛ばされていった仲間たち。
未だ精子の脅威なしの時代に飛ばされ、その時に至ることも叶わず、日々絶望を喰んで過ごしていた。
――――それでも、彼らは地球へ向う。山之端一人の元へ向う。
何もかもを失おうとも、それだけは覚えている。
故郷を失う悲しさを、帰れない寂しさを、いつまでも覚えている。
精子チェーンソーに刻まれた己の傷跡をなぞる。
いくら転校生の無限の防御力とはいえこれほど負傷している状態では命を長らえることは難しい。
人間50年。執念で堪えはしたが・・・最早あと数日も持たないだろう。
――――それでも、彼らは。
武器を握る。まだ、対抗できる。まだ、倒せる。まだ、勝てる。
いつまで対抗できる?
いつまで倒せる?
いつまで、勝つことができる?
己が伝えられるだけの技術は、この土地に撒いてきた。
この世界の『古語』の技術体系は最早数千年は先の域に達している。
それがあの精子群に対しどれほどの役に立つのかは分からない。
浅葱色の単衣を来た女中が、私の汗をぬぐっている。
少々人とは交わりにくい異能を持ち、物の怪と扱われていた女中。
異能を育み成長させる技術体系とともに、歴史の影で埋もれてきた彼女のような者達を助けてきた。
全ては、来たる日の為に。
撒いた種の全てが芽吹くとは限らない。別の道を歩む種もあるだろう。それらがこちらに襲い掛かるとも限らない。
――――それでも、なお
希望があると信じて、山之端一人の元に向かうのだ。
全ては『楽園』を守るために。
故郷を奪われる人を、これ以上増やさないために。
奇跡はある。異能を持つ我らには最後まで希望は残されている。
ああ、転校生が彼女を狙っている。彼女を守る魔人たちが居る。
我らも彼女を守るのだ。例え幾たび疎まれようとも、空より白い絶望が降ってこようとも。
希望があると信じて、山之端一人の元に向かうのだ。
ただ、それだけを道しるべにして。
われらはほしをさがすのだ――――
そして。
そのイきつく果ての先で。
きっと我らは。
あなたたちは。
「■さ■、い■■・・・」
「あなたは、あなた、タチは。」
「し、あわせに、オナり――――」
その日、一人の偉人が死んだ。
彼女の最後を看取った女中は、浅黄色の単衣をその場に残し和泉国へと流れたと言われている。
むかしむかしのおはなしである。
◆水族館内 バッティングセンター◆
それは、一人の少女の、罪と罰。
なんかちょっといい雰囲気だったサメとロボ。
そんなサメとロボ、二つの残骸が散らばっている場所で、一人の少女が立っていた。
山之端一人。
数多の世界で死につづけ、数多の世界を渡り続けた一人の少女。
――――始めは、ただ本を読んでいた。
白い白い病室の中。
閉じた狭い世界の中。
抜け落ちる自分の髪。
色鮮やかな本の世界。
外ではない、世界。
ただそれだけだった。ただそれだけだったのだ。
『どこか遠くに行く異能』という、生まれながらにしての転校生となることを宿命づけられた少女の人生は、そこから産まれたのだ。
何も分からずに彷徨い続け。
死ねば終わりと言うわけでもなく。
生きるのに不都合な記憶や肉体は削げ落ちて。
ただ、どこかどこかへと渡り続ける、転校生。
彼女は、願っているだけなのだ。
いつかの病室のどこかの本で、憧れていた。
ほしを目指して、狭い狭い世界を、せまつくるしそうにわたつている。
彼女は、恋がしたいのだ。
本にあったような、本来ならば許されるはずの、当たり前の恋が来てほしい。
処女のままでは死ねないと。山之端一人は歩いている。
無限の防御力を持った処女膜が王子様を求め叫んでいる。
無限の攻撃力を持った恋愛脳が王子様を求め叫んでいる。
積極的に、あるいは消極的に。
燃えるように恋をして、いつかいつか自分はきっとやってやるのだ。そう―――
少女は望む。
◆ショッピングモール 入口前◆
頭蓋が砕けたJKを見下ろし、家政婦は佇んでいた。
空を見上げている。
「なにが起きているのかは分かりません。家政婦に推しはかれるものではないのでしょう」
白く割れていく、あの空を。
「それでも――――私は、あの人の家政婦ですから」
何かが溢れ出しそうな、白い白いあの空を。
そこは友人と言ってほしいんだけど?と影から揶揄う様な少女の声が響いてきた。
先ほど顔を合わせたばかりだが一度屋敷にあげた仲だ。
彼女の性質が主人に害するものではないとは分かっているし、彼女の知己でもあるのだろう。
ならばメイドとして自分から言うことは何もなかった。
今、何かが始まったのだろう。今から何かが終わるのだろう。
山之端一人は、そんな何かに致命的に関わってしまっているのだろう。
理由はあったのだろう、因縁はあったのだろう、運命でもあったのだろう。
たかが彼女のいちメイドでしかない自分は、そのお話に関わることすらおこがましい木端でしかないのだろう。
だが、そんなものとは関係なく。
「あの人と、約束しましたからね。」
家政婦は噂が好きである
なら私もご一緒しなきゃね、と影が囁きかけてくる。
そして噂には影があるものなのだ。
まずはご主人さまを迎えに行こう。
いつも目をはなすとフラフラフラフラほっつき歩いて気が気じゃないご主人さまを。
あぶなっかしくてほっとけない、妹のようなご主人様を。
あんな割れた空のことなんかとっとと片づけて、山之端一人の元に向かうのだ。
ただ、それだけを道しるべにして。
そして、いつか。いつの日か。
いつかいつか自分は主人にきっとやってやるのだ。そう―――
少女は望む。
◆ ◆ ◆
少女たちは望む。そう―――
「いつか友達と、コイバナを」
一人だけでは誰にも出来ない、甘く切ないお話を。
皆さまにも御存じのとおり。
女は、コイバナが大好きなのだ。
◆ ◆ ◆
さて。
ここまで見てきた君たちにはお分かりだとは思う。
そう、これは恋の物語だ。
蝶のように死ぬ乙女の物語。
蜂のように死ぬ乙女の物語。
命短し恋する乙女の物語。
そう、お察しの通り。
この話は、彼女が。
世界を滅ぼす、大魔王になるお話だ。
―――――世界は三つで出来ている。男と女とあと何か
dangerous online 『color color color』
続く