【本選メンバー表】
Lessare(D)
Grigliata(B)
Tagliare(C)
Friggere(E)
Stufare(A)
司会進行
『ヒヤシンス』
◆◆◆君の名は(まさか本名からもじったとかそんな安直なネーミングでもなかろう)
「ヒヤシンス」(日本名 風信子、飛信子)の原産地は地中海東部沿岸部であり、
ヨーロッパ大陸に伝播したのは16世紀前半頃とされ、初期にはイタリアで主に栽培がおこなわれていた種だ。
その花言葉は「スポーツ」「ゲーム」。
ベネティアマスクの奥で、その早咲きの華は目を輝かせる。
最後の扉より現れた羅武災故 首武は、想う。彼女の花の色を。
赤いヒヤシンスの花言葉は「嫉妬」。
白のヒヤシンスの花言葉は「控えめな愛らしさ」。 紫のヒヤシンスの花言葉は「悲しみ」。
その顔に。どのような彩りの華を咲かせるのだろうかと。
=========================
「改めまして。
本デスゲーム「La morte può ripagare」の司会進行を務めさせていただきます『ヒヤシンス』と申します。
参加者の皆様にはゲームを心より楽しんでいただけるよう誠心誠意尽くさせていただく所存ですのでよろしくお願いいたします。
さて、
本選では食事休憩を挟みまして
準々決勝。
(食事休憩)
準決勝
(ここらへんにウサギの絵が描いてある。)
決勝戦
という段取りで、より抜きのデスゲーム3選を用意させて頂いてます。」
TVの情報バラエティのようにボードを見せ、図解で説明してきた。
明らかなお手製であり、個人的マスコットだろうか「ガッツだぜ!」という吹き出しのついたうさぎちゃんのイラストが描き込んであった。
ヒアシンスはそこで一度言葉を切り、準々決勝のところに✖のシールを張り付ける。
「準々決勝では、予選を生き抜いていただいた皆様に
【チーズ争奪~トムとジェリーのように仲良く喧嘩しなゲーム】
平たく言うとNPCの鬼役を使った鬼ごっこを執り行って頂く予定でしたが、
規定条件を先に満たしてしまったので本選は、準決勝からの開始といたします。
理由は
グループTagliare(C)の浦戸臥王さまの死亡と―――。」
PPPPPPP
ここで予選の制限時間のタイムアップを知らせる音がホールに鳴り響く。
そして唯一開いていない扉が開き、
ドロリ。そこからほどよく煮込まれた人型の何かが数体ホールへと流れ込んできた。
「グループStufare(A)の皆さま全員の脱落の確定を持ちまして、参加チームを予定数まで絞るという準々決勝の条件を満たしてしまったためです。
本来そのまま、鬼ごっこを執り行ってもよいところですが
浦戸臥王さんの負傷状態と精神状態をかんがみると実戦でも同じ結果になっただろうと判断し、全員通過とさせていただきます。そして準々決勝であなた様たちのお相手をする予定でした
- シャドウ・オブ・キラーキラー
- シャドウ・オブ・ザ・ワールド
- シャドウ・オブ・フレイム(L)
- シャドウ・オブ・フレイム(R)—以上、4体。」
彼女の言葉と共に4体の【影】たちが中央の柱から湧き出てきた
おそらく何者かを擬した存在なのだろう。手に凶器と相応の狂気を携えている。
「「鬼役」の影の皆さんには、以降、お店の警備にあたって頂きます。
違反行為を見つければ地獄の果てまで追ってきますので、くれぐれも『食い逃げ』など不用意な試みなどないようお願いします。」
それらは パンと手を叩くと影たちは音もなく四方へと散った。そして
「——―って、郡青日和さん!?
何嬉しそうにキラキラちゃんに喧嘩吹っ掛けようとしているんですか!?
えっ、昔、殺し損ねた因縁の相手だから、影でいいから再戦させろ?抑えて!抑えて!
なぜか、参加者のひとりが軽い足取り(歩幅約3m)でスキップしながら影に殴り掛かりにいったのでその制止に追われることになった。
「はい。では一度席に戻って。ぜえぜえ。これ以上変なイレギュラー増やさないで下さい
勝ち残りましたら、一人と言わず全員と戦っていただいて結構ですから、今は抑えてください。」
まったくバトル好きにもほどがあります。一体、どこの蛮族の出なんですか…。ぼやく『ヒヤシンス』
これで、少なくともこの自称・デスゲーム司会者が参加者の顔と名前を一致させていることは分かった。
「———コホン。それでは次に移らせて頂きます。予定外に時間ができましたので、
お食事のご準備が整うまでの間、質疑応答の時間を設けさせて頂きます。
『チーム』ごとに1つだけ本デスゲームに関する質問に答えさせて頂きます。
各人、指名されましたら10秒以内に質問内容をまとめ、ご質問お願いいたします。」
ではまず、ワンマンチームの群青日和さんから、そういって最初に『軍神』を指名する。
彼のチームは実際に完全なワンマンではあるか『軍神』相手にぬけぬけと言い放つ当たり、
この少女も相当、ねじが外れている部類の人間のようだった。
群青日和は、椅子に腰を下ろすと口を開いた。
「そうだな。ゲームのほうはお前らの流儀に合わせて最後まで遊んでやる。
そしてクリアーしたら影だけでなく、お前らも一人残らずぶち殺す。そこらへん問題ないか?」
それは質問でも確認でもなかった。それは『軍神』による最終通告であった。
進行役は微笑んだ。
「ゲームの進行にご協力いただければ何も問題ありません。ご自由にお願いします。
なお、予選最短攻略に敬意を表し、群靑日和さんには現在1DP(デスゲーム・ポイント)贈呈されておりますことお伝えいたします。」
意趣返しとばかりにだされた後出し情報に、はぁ、デスゲームポイント? 先に言えよと群青日和の片眉が上がる。
「次は、「Lessare」の方でどなたか?」
有間真陽と丈太郎との間で視線が行きかったが、丈太郎のほうが譲る仕草を見せた。
真陽には優先して確認しなければいけない点が幾つかあった。中でも特に重要視すべきは――
「そうっすね。うちら参加者の名前と魔人能力、どうやって把握したんですか?
そこ出来るだけ詳しく教えてほしいっす。」
この質問に司会進行はふたたび、にっこり笑った。
「いい質問ですね。有間真陽さんに2DP贈呈します。
情報はデスゲーム主催者の魔人能力により得ております。登録者のお名前、能力の大まかな傾向、魔人か非魔人か等がこちら側で把握している内容になります。」
(・・・案の定、魔人能力っすか)
ゲームを仕掛ける側からすれば参加者の魔人能力の把握は当然と言える。
半ばカマかけの結果ではあったが、有益な情報といえるだろう。
おそらく、この仕掛け自体も【特定個人】の魔人能力が主体となっているはずだ。
ならば【本体】を押さえ能力を解除することが出来るのなら、この死亡遊戯から脱出できるはずだ。
ただ鎌瀬居助の「一話限り」は魔人能力相手となると、効果が極端に薄くなることは経験上、分かっていたし、
浅田るいなの「四月の燐灰石」は画面越しでは発揮できない能力だ。
核心情報を聞き出す/鎌瀬の存在を忘れさせ不意をつくといった類の手は現状のままでは使えない。
『ヒヤシンス』はそれから10秒ほど笑顔で待機してから「Friggere」のほうに質問権を移した。
「それでは最後に、羅武災故さんとミロンさん、どちらか質問お願いします。」
手を挙げた人物は、身なりのよい如何にも上流階級といった風体の男性だった。
「先ほどから仰ってるDPとは何でしょうか?予選からここまで、説明されていない裏ルールが大分あるようですが。」
「うーん、事実上2つ質問を聞かれている気がしますが・・・まあいいでしょう。イケメン無罪です。
逆にお聞きしますが、羅武災故さんは『デスゲームポイント』にどのような意味があると考えられていらっしゃいますか?」
頷いた司会者に、質問を質問で返されることとなった男は、優雅に指で額をコンコンと叩くとかぶりを振って、こう答えた。
「ありきたりの回答で申し訳ないが、ゲームを有利に運ぶ特典などが考えられるかな。
またはクリアー時の賞金などに影響するなどが考えられる。」
回答を受け、進行役は慇懃に一礼する。
「残念、DP獲得ならずです。
DPは私個人が個人的に付けている評価点数で、単なる趣味です。意味はなく、デスゲームの進行自体にも、影響を及ぼすものではありません。
ルールに説明されていない部分があるかどうかに関しては…当然、存在いたしますとだけ。
予選での貴方方の行動も当然受容されうるべきものです。ポイントを贈呈しなかったのは、
なんというか個人的に趣味じゃないというか…見てて少しどん引いたから…と申し上げ致します。」
「ふむ。質問の仕方を間違えたようだ。我々のプレイがお気に触ったら申し訳ない―レディ。」
羅武災故の笑顔に司会者はどういたしましてと澄まして答える。
そのどこかそっけない態度に逆に質問者は司会者に好感を持ったようだ。
横の美女も頬を染め、見られたなら頑張って殺さなきゃと小声で呟いていた。ヤバイ、ロクな奴かいない。
「・・・い、以上。質問タイムを終わらせて頂きます。
中央に円卓をご用意しております。お食事お運び致しますのでお好きな席にお座りください。」
彼女が手をたたくと彼らを隔てていたアクリルスタンドが瞬時にその姿を消す。
そして、死体の前で蹲っていたプロシュート・タンジェロを豚を見るような冷たい目で見下すと、最後に撤去の指示を出した。
「——ああそこの従業員、それ、お客様でなくてもう只のゴミですから、早くかたずけてください。
扉から零れた煮込み料理の処理もお願いしますよ。一人でね。
そこの女性従業員の方は配膳のお手伝いお願いいたします。」
コベニはびくっと体を震わすと、どうしようと上司のほうに顔を向けた。我ながら情けない顔だと思う。
タンジェロはすくり立ち上がるとまっすぐ最後の扉をさす。そして行きなさいと促した。
―カーネ、栄光はお前と共にある。お客様を頼むぞーと。
口に出すこともなく。ただ、その想いは何故か、言葉でなく、心でホールの全員に伝わった。
ガラガラ。ガラガラ。
Cucina(0)の扉が開き、おそろいの制服と白い首輪の装飾を身につけた従業員たちの手で
用意された料理たちが運びこまれる。
その料理の総量は彼らが頼んだ注文の数より、明らかに多かった。
黙々と置かれる煮込み料理を見て、ようやく何かを察したのか、誰かが悲鳴を上げる。
死人に口なし。
注文した人間の数より『注文のほうが多い料理店』、なかなか最悪な題名回収の仕方だった。
いい加減、限界だったのだろう。
テーブルに並べられる、受け取り手なき料理を見て、特に煮込み料理から何かを連想して山乃端一人は口を押えた。
胃液が逆流する。胃からこみ上げるものを抑えれず、嘔吐する。
彼女に問題があるのではない、彼女以外のすべてが異常なのだ。もはや彼女以外の全員がこのデスゲームを受け入れ始めていた。
◆◆◆閑話休題
従業員のコベニ(カーネ)に案内されトイレに向かった山乃端一人と丈太郎が戻ってきたとき
テーブルの上の食事はあらかた平らげられていた。
郡青日和とその連れたちは平然と飲み食いを始めたばかりか、もったいねぇとばかり余った料理にも手を付け、それに舌鼓を打った。
真陽らも体力維持を考え、最低限の食事を口へと運ぶ。
羅武災故たちも優雅にナイフとフォークを操り、自身らが注文したチキンを解体し終わっていた。
一人はとても咽喉にモノを通すような状態でなかったが、それでも、るいなが確保してくれたミネラルウォーターをどうにか飲み込む。
丈太郎が有真の横の席に座る。
「——話していくがよいじゃろか?」
丈太郎は、彼女でなく今も後ろにいる、彼らに随伴してくれた店員に確認の声をかけた。
カーネ(コベニ)は、丈太郎さんにお任せしますと頭を下げた。
群青日和の耳に入ることを考慮しつつ、丈太郎は口を開く。
「料理を運んできた従業員たち、みな首にわっかついとったじゃろ。あれで主催者側からの指示を受け取るらしい。
で、指示に従わないと爆破すると脅かされいるそうじゃ。」
首輪には真陽も気が付いていた。
確かに小紅の首にあるものと同じデサインの首輪が現れた従業員全員の首にはめられていた。
ただ、一人。あのチーフのみ例外的にそれが見当たらなかった。
「責任感が強いのを逆手に取られちょるらしい。
仲間を人質に取られるほうがキツイちゅータイプというとこじゃ。そこを上手くつかれとる。」
なるほど人質か…と納得した。自己犠牲に走るタイプには効果的な手段だ。
聞くと他の全員に伝えられていた”参加者からの悪意ある攻撃を跳ね貸す”という特性も彼には伝えられていなかったらしい。
店員の少女をみると丈太郎をはさんで群青日和たちから隠れるように立っていた。
真陽は事前に彼女がなぜそのことを参加者に伝えなかったかを察した。
郡青日和とその取り巻き達の前でこの件に触れるのは自分たちにとって危険と判断したのだ。
彼らの性質だと、じゃどうなるか試しにぶん殴ってみよう、2、3人、人質吹っ飛ばして見せてくれとか云い出しかねないと。
あきらかな保身行為ではある。それにより犠牲者も出た。ただ、自分たちにとっては『幸運』だったともいえた。
その沈黙がなければ、彼女らの到着前に鎌瀬が実験台に使われて死んでいた可能性があったからだ。
「こちらは名刺交換したぐらいっす。成果はほぼなし」
「うむ。」
真陽は丈太郎にそういい『彼』から受け取った名刺を差し出す
名刺には羅武災故 首武と書かれていた。それを裏返すと≪同盟提案。詳細はメールで≫と書いてあった。
丈太郎は頷いてそのまま返す。
「この状況じゃきしかたないじゃろ。わしは腹芸は苦手じゃ。交渉事は任せる。」
丈太郎は、頭の中で今まで得た情報を自分なりに整理する。
先ほどの質疑応答で群青日和が、他チームへ事実上の宣戦布告を行ったため、
残りのチームに、組んでこれに抗しようという流れができたようだ。
この時点で丈太郎は丈太郎なりのやり方でおおまかにこのデスゲームの核心を掴んでいた。
だが、
(まずいのう、もし、予想通りの『仕様』だとすると、わしでは、こん主催者相手に手も足もだせん。)
ロジックを理解したが故に同時にとんでもない爆弾をも抱えることになってしまっていた。
このままいけば遠からず、その爆弾は白日の下に晒されることになるだろう。
山乃端一人を見やる。そしてそれは彼女との蜜時の終わり、離別をも意味していた。
◆◆◆準決勝開始
運命のブザーが、ふたたび鳴る。
~うぃん~
ふたたび画像が空中に浮かび、進行役である『ヒヤシンス』が参加者たちに中央の円卓から離れるよう促した。
全員が離れると床がパクリと割れ、準決勝の舞台装置が床下から、せり上がってくる。
「本戦「準決勝」。勝負内容は――
2名VS2名の
【死亡遊戯『レジバトル・タッグマッチ・サドンデス』】
予定していた準々決勝と同じく『チーム戦』となり、1チーム全員の脱落をもって終了。
決勝戦へと移行いたします。ターン数は最大8ターン。」
それまでに決着がつかなかったらどうなるかの補足はなかった。
指示された台の上には2台のレジが3mほどの距離をもって向かい合っており、その背後には
TVショーのようなけばけばしい電球装飾が施された「EAST」と「WEST」の表示看板が立てかけられていた。
「各チームは上限2名でゲーム参加者を選出し、ランダムでEAST・WASTのどちらかのレジカウンターに所属していただきます。
その際、同チームは必ずEAST・WASTの所属が同じとなり、別々に配置されることはありません。
そして、参加者は各1名レジ前に立ち、ご自身の所持金から専用レジに入金して頂きます。
金額の少ないほうは「防御側」となり、多いほうが「攻撃側」として対戦相手を攻撃する権利を得ます。」
さらに入金金額が同じ場合はどちらも「攻撃側」となり、同時に攻撃し合うことになると付け加えた。
攻撃側は
範囲内から武器を選んで防御側に一度だけ攻撃を仕掛けることが可能。
武器貸し出しの最低金額は100円から
入金金額がそれ以下の場合、素手での攻撃となる。
防御側は
回避行動以外の『防御』を行う。防具貸し出しの最低金額は100円から
回避した場合、その場で『失格』となる。これを誰かが一人死亡するまで繰り返す。
―――――――――――――――――――――――――――
例えばレジ累計1万円お支払いいただけますと、お客様には銃弾数1のトカレフTT-33の貸出のサービスが提供されます。
その言葉に応えるようにレジ台の下の箱があく、ヒアシンスの指示により、事前にレジ前に立っていたカーネ(コベニ)が
転がり出てきた銃を拾うと、へっぴり腰で何もない前方に向け銃を発射し、へたり込んだ。
「——ピッ」
――――――――――――――――――――――――
(アイテム表)
攻撃側 防御側
100~9999円 ??? 100~9999円???
1万円「トカレフTT-33」 1万円 ???
3~99万円 ??? 3~20万円???
100万円 ???
―――――――――――――――――――――――――
(ルール補足)
1:入金金額は東西別に累計され、それに応じリースできる武器防具が増えていきます。
2:入金毎にレジに立つ人間は交代して頂きますが入金勝利者のみ継続しレジに立ち続けること可能です。
3:先攻後攻どちらがどちらの席に座るかは『自由』です。
4:レジ入金は魔人能力によりカード利用可能となっています。
クレジットは一度の利用限界額までご使用いただけます。
―――――――――――――――――――――――
1ターン目は5分後に開始いたします。
初回のみ、こちらでゲーム参加者の指名をさせていただきます。
以降は申請のみ承り、質問はお受けしません。
以上です。ご健闘を期待します。by『ヒヤシンス』
―――――――――――――――――――――
真陽は説明を受けた内容を反芻し、高速で思考を回転させた。
8ターン経過=8人死亡ということだが、ゲームの本質はいかに資金を集中させ、相手の主力を殺すかが要と思えた。
一見すると武力全振り(B)チームいかにも財力のありそうな(E)チームが有利そうだが
魔人能力の存在がある。おそらく主催者側としては自分や空渡の能力が勘定に入っている。
上手く使えば1-2回は相手の手札を無効化出来たり、逆に不意を突いたりできるはずだ。
例えば、武器がナイフであっても瞬間加速時速200kmで急所の首を掻っ切れば相手を即死させることができるし
武器次第だが、丈太郎の能力で武器を召喚して無効化することもできる。
歪ではあるが、陣営事バランス配慮された三つ巴のつくりになっているのだろう。
るいなと自分あわせカード限度額まで引っ張って40万円。
学生の二人はあまり期待できない。
Eチームとの連携。可能であれば100万円の武器を郡青日和にぶち込みたい。可能なのか?
そして別チームの鎌瀬への対応をどうするのか。
初回がヒヤシンスの指名制なのが痛い。
現状、考えうる最悪の組み合わせは―――
――――――――――――――――――
たぶん有間さんはそんな感じで考えているでしょうね(くすくす)
でも、それは全くの見当違い。
そもそもオッズで言ったら、今回のデスゲーム、群青日和チームの1に対し他が10以上のワンサイドゲームなんですよ。
それくらい群青日和さんの実力は飛び抜けてしまっている。
あそこまで突出した存在はデスゲーム主催者としても困るですが、エントリーしてしまった以上、排除することもできない。
今回のゲームも、速攻でレジをカンストさせて「100万円カンスト兵器」を
群青日和に直撃させれば『殺し得る』という設定にさせていただきました。
折角、削るチャンスを与えているのだから今ヤラないと詰みますよ。
そこら辺、羅武災故さんは弁えていらっしゃる、ただ有間さんは覚悟不十分の御様子。ふむふむ
――となると最初の組み合わせは…
―――――――――――――――――
とか考えているんだろうなーコイツラ。考え方が優等生すぎて、読みやす過ぎる。
まあ、初手はオレの指名は間違いないだろう。
さてと問題は 出てくる3人のうち、誰を殺すかだが・・・
―――――――――――――――――
羅武災故はミルーナに指示メールを出した後、
真陽宛てに送る用のメール文を何パターンか作成する。
また財布アプリを利用し、所持金管理の計算式を用意していった。
意図が読み切れない以上、運営による選出予想に思考をさくのは不毛。
今、何より求められているのはとっさの対応力だろう。
―――――――――――――――――
5分後『ヒヤシンス』により、1ターン開始の告知がされる。
準決勝「死亡遊戯『R・T・S』」 1回戦目
先ほどお伝えしたように初回のみ、こちらでメンバーを指名させて頂きます。
東サイド
羅武災故さん
群青日和さん
西サイド
浅田るいなさん
そして山ノ端一人さん
以上のメンバーでお願いします。
浅田るいなは蒼ざめ
山乃端一人は膝の震えを隠せなかった。
誰か一人死ぬ。
そして誰もが己の思惑で動きだす。
このゲーム、ダンゲロス。生命の保証なし。
◆◆◆現実と虚構のはざまで
限りなく最悪の組み合わせだった。
この組み合わせでは群青日和を殺すことができない。
どころか、羅武災故が敵側にいる以上、非戦闘員の二人のどちらかが対象の相手を殺害しなければならないのだ。
ピンポーン
呼び出しのイヤホンが鳴った
ピンポーン
場違いにもほどがあるコールだったが、『ヒヤシンス』は、何故か、これを無視できず、
「何でしょうかお客様。質問はお受付できませんとお伝えましたが」
と呼び出し先である空渡丈太郎に声をかけた。相手は静かにこう告げた。
「『申請』ならOKなんじゃろ。
『チーム』の参加者と入れ替えたい。わしと山乃端一人の交代を申請する。」
司会進行は、沈黙し、『回答』を確認するため質問を発する。
「『交代』ができるとする根拠を教えていただいてもよろしいでしょうか?」
「おまんらがいったことじゃ。チームは【運命共同体】 じゃと、
ならどんな状況からでも代われるようしていても不思議あるまい。むしろ、そうなるを望んどったんじゃろうが」
その言葉をゆっくり吟味するように味わった後、『ヒヤシンス』はこう答えた。
「空渡さんに10DP贈呈致します。ええ、交代は何回でもOKです。」
声にならないどよめきが会場に起こった。
丈太郎は呆然とする一人に上着を投げ渡すと真陽の横を通る。
「こっから先はわしは『はじこ』を守ることを一番に優先する。
悪いが、あとは自力でこの”ですげーむ”の攻略手段を見つけてくれ。わしの言えるのはギリギリここまでじゃ。」
そう言い残すとひな壇に上がり、WESTのレジの前に居座った。
全ての前提がひっくり返ったな。
羅武災故は冷静な目で事態を俯瞰する。
なるほど、元々、1チームであった自分たちには関係ない事柄だった故に軽視していたが、
『チーム』の前提が違ったのだ。
そしてこのゲームで『軍神』を殺せる目はほぼなくなったと言えるだろう。
なにせ、彼女の発言で脱落するチームはほぼ確定したのだから。
真陽宛てのメールを消すと、彼は新たな注意点をミルーナに伝えた。
――――――――――――――――――――――
そしらぬ顔を装いつつ内心、ヒヤシンスは狂喜していた。
『グループは振り分け、チームは運命共同体。』
そう最初に自分が宣言した通り、それが今回のデスゲームの肝なのだ。
本選は『 最初に登録した「チーム」毎での生き残り戦』が基本的な枠組みになる。
現在残っているチームは3チームではない。計4チームだ。
予選前に行われた「注文別の振り分け」は一種のフェイク。
予選で違う『グループ』に所属したとしても味方は存在する。
これを誤解し、他所のグループにいるメンバーを切り捨てたり裏切ったりで
『チーム』メイトを削っていってたり、信頼関係を壊していっていたりすると
後で取り返しのつかない大惨事といった展開になったりする。
逆もある。
定番のお決まり台詞「そいつは親友なんだ。俺が代わりに殺される!助けてくれ」とか
『宣言』しちゃったりすると同じチームであれば交代可能となる。
理由は『運命共同体』だから。その悲喜こもごもの人間模様が美しいのだ。
丈太郎さんはこのからくりにいち早く気づき、山乃端さんを守るため交代宣言を行った。
見事です。貴女は素晴らしい.
ただ、ここで宣言した以上。他のチームの皆さんもその仕組みに気づく。
ゆえに貴方は今後他のチームから狙い打たれ続けることになる。後がなくなりましたね。さて、策はあるのでしょうか
―――――――――――――――――――――――
ピンポーン。ほどなくして2つ目の呼び出し音が鳴った。
「鎌瀬居助。浅田るいなとの交代を申請する。」
「どうぞ。いってらっしゃいませ」
手を挙げた鎌瀬が、『ヒヤシンス』に申請を行う。
これで本当の『チーム』の割振りが確定した。
正しいチーム分けは
(・有間 真陽と浅田るいな、鎌瀬居助)
(・郡青 部下3名)
(・空渡丈太郎 山乃端一人)
(・羅武災故 首武 ミルーナ・ミロン)
の4チーム。この認識が正しいものになる。準決勝は各チーム一人づつの四つ巴戦。
どこかのチームが息絶えるまで行われるサドンデスマッチなのだ。
そして同じ配置の人間からの攻撃も警戒しなければならない。それは禁止事項に入っていないのだがら。
「嬢ちゃんはともかく、お前まで出てくるのは予想外だったな。」
当然のように東側のレジの前に陣取った郡青日和が二人に声をかける。
完全に心を折った相手がこうも短期間で自分の前に立てるようになるとは…掛け値なしに計算外の出来事であった。
鎌瀬が、呆れたようにそして自身を奮い立たせるように見栄を切る。
「大将、そこは男の純情を計算しといてくれよ。ここで立たなきゃ男じゃねぇ」
軍神は笑った。
「こいつはまいった。『殺し文句』を先に言われちまった。」
東側。男はコインを指ではね上げてみせると、彼らの目の前に提示した。
『10円玉』だった。
「初回の入金金額だ。好きに判断しな。」
西側。すぅーと息を吸った少女が、静かに息を吐く。『覚悟』を決めた人間の目をしていた。
「奇遇じゃの。わしも同じ金額じゃ。」
同金額の際のルールはお互いに攻撃。しかも数値が100円未満の場合は『素手』での攻撃のみ
===いきなり勝負に出た。だが、あまりに無謀===彼ら二人以外、誰もがそう思った。
カウンター狙い。だろうなと群青日和は判断した。
この一見無謀な同時攻撃の選択は一つの正解ではあるといえる。
素手同士なら、同時に攻撃を行うためにお互いのリーチが届く範囲から始まる。
つまり空渡丈太郎は今回に限り群青日和の懐に潜り込む必要がない。小回りの分、むしろ有利に働く。
そして丈太郎単体のパワーで彼の鋼鉄以上に鍛えた身体を突き破れなくとも
『郡青日和自身の力』を上乗せすれば、話は別だ。
さらにミルーナの魔人能力があれば、郡青日和の首の向きを変えられる。
攻撃を不発にさせた上でボディブローが無防備な腹に突き刺されば一撃で倒せなくても、重傷に近い打撃を与えることは可能であった。
そうなれば集中砲火の風向きは丈太郎側でなく、群青日和のチームへと向く。大きく流れは変わるだろう。
理論上は。
ただし、現実はそうはいかない。
群青日和はもし視線の向きを変えられたら、勢いのままに羅武災故首武に拳を向かせるつもりであった。
羅武災故は察知している。故に余計なリスクを冒さない。現状なら「確実に消えてくれるチームを発生させる」選択を取るはずだ。
「それでは1ターン目お値段☆HOW MUCH。」
ヒヤシンスの掛け声とともに初回の入金金額が明らかになる。
――曲げるような奴じゃないわな。
同金額を提示した相手を見やる。
右ストレートでぶっとばす右ストレートでぶっとばす右ストレートでぶっとばす右ストレートでぶっとばす右ストレートでぶっとばす右ストレートでぶっとばす右ストレートでぶっとばす
――いい集中ぶりだ。
ただ、それでも及ばない。コイツの本当のピークはまだまだ先だ。それが『軍神』の見立てだった。
残念だ。あと5年ありゃ。その後になら、なしとげていたかもしれんのに――『神殺し』を。
結論を言えば、その殴り合いは順当な形で決着がついた。
強いほうが勝った。それだけだ。
例え、いかな小細工を施そうが
両者の間の圧倒的なまでの開きを埋めるようなものではない。
あらゆる小細工は意味をなさなかった。
その惨状に
全員が言葉を失っていた
山乃端一人は膝から崩れ落ち、床に伏し、
涙を零す
現実の涙は酷くにがく、苦しいものだ。
自分はどこか心の片隅でおさななじみの帰還を信じていた…そんな甘い幻想が今、完全に砕かれた。
結局、奇跡は起きずじまいだったのだ。
彼女の幼馴染は戻らなかった。弾き飛ばされ、壁にぶつかり二目とも見れない血肉と化したまま
帰らなかったのだ。
私は一体、何にすがっていたのだろう。何をみていたのだろう。
other sees the mad,and she only the stars.
誰もが今目の前で起こったことを処理できず、言葉を失う中、
有間 真陽ひとりだけが高速で頭を動かし続けていた。
彼女も丈太郎に『希望を託された』という立場がなければ
ただ呆然と目の前の事態を眺めていただけだろう。
けれど
かんがえろかんがえろかんがえろ
かんがえろかんがえろかんがえろ。
私はあの子に『託された』のだ。
ゲーム自体の攻略法を見つけてくれ、及ぼせる者すべてを救ってくれと
かんがえろかんがえろかんがえろ
かんがえろかんがえろかんがえろ
――次も出る。問題ないな。
その確認に、ひぃと司会者の悲鳴があがる。
かんがえろかんがえろかんがえろ
準決勝は事実上の終了を終えていた
後は消耗戦。その時、だれが死ぬかの繰り返しだ
攻略法を考えろ。
でないと
でないと
私達は空渡丈太郎に縊り殺される。
◆◆◆最初に、そういったはずだ。誤魔化しがあると
その戦いに勝者はいなかった。
「うちのチームは次もワシが出るき。残りのターン全てじゃ。問題ないな。」
「…問題ありません。」
進行役から確認とると、彼女はひどく疲れたように山乃端一人の横に座った。
二人は抱擁も、視線すら交わすこともなく、黙して座り込む。
浅田るいなは今、自分の横に勇気づけるように寄り添っていてくれる。
鎌瀬居助 がさりげなく丈太郎たちとの間に立ってくれる。
すべて彼女が解決策を見出してくれると賭けて――いや信頼してだ。
だが、結局『解答』は出なかった。
デスゲームのロジックも判った。首謀者の目星もついている。
けれど攻略するための手管がなかった。
ある意味、それが有間真陽という人間の限界だった。
彼女は無自覚ながら、自身の運の良さに本質的に依存しているところがある。
魔人能力も才覚も今の安定した生活も全て彼女の運のよさによってもたらされたものなのだ。
魔人能力も友達を助けようと川に飛び込んだ時、助けれるようなものが、極めてタイミングよく二つ続けて発動した結果のものだ。
本来、魔人能力の出来は運不運が常に付きまとうものだから、彼女はとてつもない当たりを引いたといえた。
有間真陽の頭の働きは速く鋭い。
今井商事の期待として将来を期待されているほど、有能で明晰だ。
ただ、それは 運よく今まで積み重ねていた彼女の生活と、巡り合った環境が運よく合致した結果にしかすぎない。
無論、努力も才能もあった、けれど本質的なところで幸運に一番に頼っているため、
常人離れした洞察力であるとかいざというときの爆発力などは有していなかった。
有間真陽は人好きのする人格者だ。
裏社会ぎりぎりの位置にいながら、ひとの役にたちたいなどと宣い、しかも
それを有言実行で常に実践し続けてきた。それ自体は賞賛すべきことだろう。
今も社長に運よく拾われ、目をかけられ、適材適所で自身の才覚を発揮して、運よく「そういうことがいえる人間」で居続けられていた。
本来、彼女のような薄暗い場所を歩いているはずの人間が絶対、味合うはずの己の無力さ、世の中の理不尽さとは無縁にいた。
彼女の周りはなんだかんだと言って、いつもハッピーエンドだった。
そして有間真陽はマンマ―ニだった。
真の巨悪の接近を感じとれば、尻尾を巻いて逃げ出し、
仲間かそうでないかを無意識に切り分ける。自分の周りの人たちを最優先として、それ以外に不幸を押し付ける。
インターホンが鳴った。
有間真陽はその程度の『運』頼みの人間だ。
―参加者の追加をお知らせします―
―「Friggere(E)」
そう、
盲目の占い師が、その存在を感知しただけで彼女といれば光の道が開けると喝さいを叫ぶほどの
常にぎりぎりの綱渡りを演じる空渡丈太郎が、可能性を信じ、一途の希望を託すほどの
そして
最強の運気を操り、絶対の幸運を誇る今井商事の社長――今井総が
「こいつなら将来、俺の後継がせてもいいか?」と思える”程度”の運気の持ち主。
―参加者名
―入々夢美奈。
「みんな!!
”ガム”極めろぉぉぉぉぉ!」
今井商事の”若き希望”は、そう叫ぶと同時にガムを舌の上に乗せた。
そして
異常を察知し、近場の公園から乗り込んできた今井商事4課、入々夢美奈。
眠気をがまんにがまんを重ねた、その最凶の魔人能力「眠り姫症候群」の効果により、その場にいる全員がたちまちのうちに昏睡した。
”いつも何故か睡眠抵抗に運よく成功している”今井商事の3人を除いて。
有間真陽にとって最善は考えることではない。起こりうる幸運に即座に対応できるように備えるのがベストなのだ。
デスゲームをぶち壊すのに突出した才気も暴力も、必要ない。ただただ
絶対の【幸運】が最も最も最も
最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も
恐ろしい。
――――――――――――――――――――――――
ヒヤシンスは目を覚ますと
「アナタが、拘束された段階で動いていた連中は逃げ出しました。」
「今残っているのはあなた一人です。そして開催中のデスゲームは解けていない。状況はご理解いただけましたか」
という通告を今井商事社員2名から受けた。
中村小紅(仮名)ことヒヤシンスは記憶をたどり、その明晰な頭脳であの時、何があったか理解する。
無差別に周囲を昏睡状態に陥れる魔人能力者が「デスゲーム開催中の飲食店」に入店してきたのだ。
想定外も想定外の無茶苦茶な出来事ではあるが、今自分が手錠で拘束されているということのほうがどちらかといえば重要だろう。つまりは自分が主催者側の人間だと悟られていたことになる。
「ハイ私が首謀者。本物のヒヤシンスです。
まあ、彼女らが逃げ出すのは妥当なところでしょう。彼女らは私の指示に嫌々従った―ということですから」
浅田るいなの魔人能力を意識して慎重に言葉を作る。
同時にあの子たち、ちゃんと自分の指示に従ってくれたかと安堵もする。残っていてもらっては困るのだ。
今回のデスゲーム『同好会後輩たちへの引継ぎ』も兼ねている。
2年の曽野石嗣子に司会役を任せていたが、きちんと己の役割を理解し、徹してくれたようだ。
これなら部の存続は安泰だ。次期部長の任、きっちりやり遂げてほしい。
「さてと。賞品などは出ませんが、一応振り返り行っていきましょうか。
一番最初にデスゲームの全貌に気が付かれたのは恐らく空渡さんでしたよね。一体どこで私の正体に気づかれました」
るいなの魔人能力を知りながら能力影響下にのこのこでてくるはずがないというのは有間真陽の思い込みでしかない。
そのような常識的判断は意味をなさない。何故なら、デスゲームを開催するような人間は全員、異常者だからだ。
連れの一人は完全に眠りいっていた。丈太郎はそれに寄り添いながら眠そうな眼をこすり答える。
「デスゲームはようわからん。ただお前ら、店のあの男の心を的確に折りにいってじゃろ。」
「というと」
「参加者にちょっかいをかけるのは分かる。
けどゲーム進行に従事している人間にああいう嫌がらせを繰り返すのは、ゲーム上必要な行為か?」
「・・・必要ないですね。」
確かにゲーム以外の面、感情的な部分の処理がおろそかになっていたかもしれない。
実際は、彼女の後輩の義憤が大半だが、自分もそれを見てスカッと爽快、こぼれる笑みが止められないZEをしてたので同罪ではある。ギルティ。
「どうすればそいつが一番追い込めれるかよくわかっとるやり口やった。
そんなもん相手を観察した程度ではでてこん、できるのは同じ釜くったもん同士じゃ。
この場所での発動が偶然じゃなきぃ、狙いとして一番あるのは『見立て』契約じゃ」
今井商事社員にとってみればそれに真っ先に思い至らなかったのは紅顔の至りだった。
飲食業での食い逃げは窃盗ではなく詐欺罪にあたる。食事の提供は売買ではなくサービスに当たるためだ。
つまり、お客と店側は最初に提供者と受給者という相互承認のもと『サービスの契約』を結ぶのだ。
彼らは自分たちで参加人数を書き、サービス対象を選択し注文をした。
ならばサービスを受け、代金を支払うことは当然の行為だった。
契約が形式とはいえ完全に同意が取られてしまっている以上、能力発動時の強制力は通常の数十倍にも及ぶ
一連の流れを完了させなければ『外に出る』ことができない。
どういう法則で動いているかに着目すれば正しい「答え」はおのずと出るはずだったが
ヒヤシンスは人質をちらつかせるなど様々なミスリードを駆使し、そこに至らせなかった。
(さて、この局面、どう切り抜けますか…)
4体の影たちはいまだ有効だ。スタッフである自分は参加者からの敵対攻撃を受けつけない。
そこでふと疑問が浮かんだ。では自身を拘束する手錠は誰が、嵌めたのだろう。
空渡丈太郎ではない。『契約』はまだ有効だ。
彼女はゲームの進行を妨げる行為があれば止めに入らないといけない約束事に縛られているはずだ。
「ところで、貴方が決めたゲームのルールでお聞きしたいことがあるのですが」
浅田るいなが、こちらに肩を回し、やさしい口調で質問を投げかけてきた。
「貴方が決めた取り決めで『敵意のないスタッフの攻撃』を防げますか?」
NONONONONONO
彼女の能力で嘘をつくことはできない。沈黙は雄弁に自らの真実を語っていた。
運営者から情報を引き出そうとする行為、状況を有利に進めようとする行為は別に妨害行為ではない。
実際に空渡丈太郎は”見て見ぬふり”を決め込んでいる。
「それと貴方の能力は死亡非解除ですか?」
そこで彼女はある可能性に思い至り、ヒヤシンスは顔を引きつらせた。
NONONONONNO
質問はいつの間にか尋問に代わっていた。
そしてゆらりと立ち上がる人影を見、自身の致命的な失策に気が付いた。
(しまった。さっさと殺しておけば)
「おお、カーネよ。カーネカネカーネよぉぉぉぉ」
るいなは、その人好きのするロリッコスマイルでにっこり笑って道を開ける。
空渡丈太郎は”見て見ぬふり”を決め込んでいる。
スタッフ同士のいざこざややり取りは彼女の関知するところではないからだ…。
「アナタは私が見込んだ通りの存在だったわ。あなたの中には最高のサービスをお客様に提供しようという。黄金の精神があった。『栄光』はアナタと共にある。」
そういって彼女の顔を両手で挟む。
「聞きなさい。まだこちらには人質が―――ピッ」
「BAR!」
左頬を【強く触られた】。
「いや、だから―――」
「BAR!」「ピッ」
今度は右頬を【強く触られた】。
タンジェロ一族は人の話を聞かない。プロシュート姉貴は完全にラインを超えていた。
まるでアニマニズムの憑依したようにぐらりぐらりと体を左右に揺らし、焦点の定まらない目でここでない何かを見ていた。そして人類は思い出す、支配される恐怖を――Seid ihr das Essen? Nein,wir sind der Jager!
「でもねぇ、でも場所は選ばなきゃ。ダメなのよ。こんなところでこんなことやられたら、やられたら
うちのお店困っちゃう。」
「BARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBAR!BARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBAR!」
――ひょっとして、これって能力解除するまで『強く触るのをやめない』ですか?
YESYESYES
「BARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBAR!」
入々夢美奈はそのラッシュを背景にあくび交じりに「テイクアウト用のチキンどうなったんだろ、店内で食べてけないかな」などとぼんやり考えていた。
「BAR!BAR!BARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBAR!」
鎌瀬居助は俺、結構体張ったのにな。NPCにいいところ取られすぎじゃねといいたげな顔をする。忘れているようなので言っておくが君もNPCだ。
「BARBARBARBARBARBARBAR!BARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBAR!」
やがて全員の携帯に同時に着信音が鳴り、能力解除が発生したことを告げる。
有間真陽は、鬼のようにたまった会社関係のメール着信を確認し顔をしかめ、
浅田るいなは、デスゲーム主催者たちの身元を洗うため、調査部に連絡し確認を取り始める。
「BARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBARBAR‼!GAN☆BAR!!」
そして最後の渾身の【強く触る】一撃で店の入り口から転げ落ちていくデスゲーム主催者を確認すると
今井商事3課、有間真陽は手を挙げ全員を召集した
「Allineamento!」
他の社員たちは流れるような動きで一列に並ぶ。
そして、笑顔絶やさず、引きつりながら、あくびまじりに、と四者四様ながらも一糸乱れぬ動きを彼らは披露した。
「「「「 Da noi ancora! Le attendiamo!」」」」
◆◆◆「注文の多い料理店」エピローグ
~生存戦略。帳が落ち、そして幕が上がる~
【逢魔ヶ時】それは、夕方の薄暗くなる昼と夜の移り変わる時刻を指す。
この国では黄昏どきには異界との扉が開くと古く、それはある一側面の事実をさしていた。
夕暮れ、学ラン少女が、セーラ服の少女を背中に背負い、ひとり帰路を歩く。
その背中で涙にくれていた少女がぼそりと呟いた
「…うそつき」
と。
―――――――――――――――――――――
ここに貴女がいないのが寂しいのじゃなくて
ここに貴女がいないと思ってしまうことが―――淋しい。
―――――――――――――――――――――
丈太郎の両目から涙が転げ落ちた。
すまんのう
すまんのう、『はじこ』かんにんじゃ。
”彼”の憧れである邪険王ヒロシマ、真の漢であれば、こんな涙など流さなかったかもしれない。
けれども、それもしかたがないことかもしれない…この世界であれば。
何故なら、この世界には、あの偉大な大番長は存在していない人物なのだから。
それが「この世界」と「”彼”がいた世界」を分ける大きな分岐点の一つ。
自分はあの人に助けられて命を救われ、いま立っている。
だが、それがもしあの人のいない世界で起こったのなら、どうなっていただろう。一人はその時の出来事を今はっきりと思い出したのだ。
もう彼女の代替品である自分がいえることなど、何一つなかった。
二人が互いに思い合うその気持ちも願いも同じものだった。けれど決して交わることはなかった。
それは、まるで掛け違いのボタンのように
そんな二人の、ただ、影だけが互いに寄り添いあっていた。
――――――――――――――
- 負けないこと
- 投げ出さないこと
- 逃げ出さないこと
- 守りぬくこと。
――――――――――――――
涙にくれてもいいよ。それを忘れなければ。
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同刻。逢魔が刻、別世界。
夕暮れ、赤陽に赤く染まる路地を一人の女性が、歩いていた。
彼女を追うものはいない。
彼女に気づくものもいない。ただ血で舗装された地に塗られた道を悠然と歩く。
けれども、何某の異常を感じ、女は足を止めた。
いや、逆だ。何も異常がない。なくては困る。そうでなくては幕があがらぬ。
なぜ、ここに誰もいない。どういうことだ。
彼女の持つアーティファクト『献身的な新聞社』は毎日午前・午後の四時になると紙面が更新され、新しい情報が掲載される。
所有者の望む情報を、情報提供者が存在しうる限り掲載し続ける。ただし、情報発信者がその情報を伝えたいと思わなければ成立しない。
彼女の持つスマートホン『アットウィキダンゲロス』は、更新されたダンゲロスWIKIの情報を観覧できることができる。
逆に言えば、更新されるまでは何が起こっているか把握することはできない。彼女は今この回の内容を知ることはできない。
その両者の特異性を踏まえれば、わずかなタイムラグである。けれど、いま確実に情報のエアポットに入っているといえた。
そして知ったころには…。
つまり――
察するところ―――
「まさか、たばかられたのか?この僕が――。」
真紅の影が、糸を引くような、けれど艶やかな笑いを浮かべる。
「犠牲は必要だ。それは最初から分かっていたことだ。しかし、これは――ひどく面白くなってきたぞ。」
『正義』をつかさどる。そして東京で繰り広げられたすべての戦いの
最後の幕が上がる。
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どんぶりにある最期の一滴までのみ干すと、男は器をおいた。
その顔には往来のお不動様のような怒りの相があった。
「”ラーメン屋のあんちゃん”。お前がこれを仕組んだのか。また酷くエゲツない真似しやがったな。」
「そうだね、組み立てたのはボクだ。でも、これは彼自身の選択でもある。過酷なる道行を行くことを。けれど彼にはそうすべき理由があったんだ。」
男の明らかな怒気にも動じることなく、白帽子の言葉は春の風のように舞っていた。
その一方、同じく箸をおいたブルマニアンは自分の勘が、完全に正しかったことを理解した。
路上で起きた殺人事件の被害者「綺羅野堂了アルパ」。
彼は元々、連続婦女暴行殺人の疑いがあり、マークされていた人物だった。
今回も状況から見て、彼が女性を襲い、そして返り討ちにあった結果だろうとは推測されていた。
その点、聞き取り調査に駆り出されたブルマニアンも調査筋も見解は一致していた。ただ、一点だけ。
ある一点に関してだけ、彼を知る全ての関係者が異口同音にこれはおかしいと反証していたことがあった。
「一撃だって?アイツはダンプカーにひかれたって平然と起き上がってくるような奴なんだぞ。
そのアルパが、地面に叩きつけられた程度でくたばるなんて『絶対に』ありえない」と。
不可能なのだ。
そう、直接的攻撃に限り無限の攻撃力を発揮する存在でもない限り。
もし、それを可能とするのならば…
ブルマニアンの思考を読み取ったように、白帽子がささやいた。
「そう、空渡丈太郎は『転校生』だ。物語の最初からね。」
これは純愛の物語である。
ボタン掛け違いの物語でもある。
そして、嘘が付けない『転校生』たちが織りなす「偽りの物語」である。