◆道立俣野好太郎美術館所蔵
特別展
没後100年 俣野好太郎のまなざし
The eyes of Matano Koutarō: from The Matano Koutarō Museum, Hokkaidō
2022年1月28日(金)~ 4月3日(日)
January 28 (Friday), 2022 to April 3 (Sunday), 2022
誰も知らない俣野好太郎の世界へ
100点以上にのぼる俣野好太郎の作品を全て所蔵する道立俣野好太郎美術館。本展では、同館所蔵の貴重な作品群をお借りして、東京にて全作品を展示します。
代表作「作品No.50 飛ぶ貝殻たち」をはじめとする全ての作品が一度に全て揃い、さらに幻の遺作である「作品No.101 あの夏の日の赤い君」が世界ではじめて公開される稀有な機会となります。
画家の青春時代から晩年まで、はるかルーランから届けられた画家の『奇異なる世界』を、ぜひ多くのみなさまにご堪能いただけると幸いです。
俣野好太郎のこと――
俣野好太郎は1895年に、北海道石狩ルーラン16番地(現在の北海道石狩区厚田村)に生まれたことが知られています。早熟にして天才。奔放にして好色。その画風は多彩でありながら無二。17歳の時に両親の反対を押し切って上京。東京美術学校に入学。世間に初めて名が知られたのは、1915年、朱夏会の第1回展に、厳選を通って「作品No.3 或る農家の食卓」が入選したとき。さらに翌年の第2回展では「作品No.7 屋根の上を飛ぶ蝶」、「作品No.8 シャボン玉」ほか2点で朱夏会賞を首席受賞します。その後、彼のその自由の精神を反映するかのように、その画風も変幻自在に変化していきます。初期は岸田劉生の影響が強かったものの、この画家を唯一無二たらしめる『人物画の徹底した排除』という特徴は既に確立していました。
彼の作品群はこの『人物画の徹底した排除』と『全ての作品に通し番号をつける』という点において、圧倒的な魅力があると言えるでしょう。彼の絵の中の画面は全て物体がモチーフになっており、基本的に人物が描かれることはありません。その理由を知るものは誰もおらず、俣野自身も家族のだれにも明かすことはありませんでした。
その死までに100点以上の作品を残してきた俣野ですが、唯一人物画を描いたといわれるのが「作品No.101 あの夏の日の赤い君」です。普段、封に覆われている「赤い君」が世界で初めて東京にて衆目に晒されます。ぜひご来場いただき、その姿をご覧になってください。
(道立俣野好太郎美術館 館長 俣野巷説)
主な出品作品
「作品No.6 早朝の駅舎」1916年
「作品No.13 或る一家」1917年
「作品No.42 標本Ⅳ 割れたガラス、翼」1920年
「作品No.56 ストライプ」1920年
「作品No.71 麦わら帽子を被った自画像」1921年
「作品No.86 標本Ⅸ 帯と簪」1922年
「作品No.100 ナイフとブーケ」1922年
「作品No.101 あの夏の日の赤い君」1922年
開館時間
火~金 / 10:00~20:00
月土日祝 / 10:00~18:00
※入館は閉館30分前まで
Hours
[Tues. - Fri.] 10:00-20:00
[Mon., Sat., Sun., & national holidays] 10:00-18:00
Last admission is 30 minutes before closing.
Hours
[Tues. - Fri.] 10:00-20:00
[Mon., Sat., Sun., & national holidays] 10:00-18:00
Last admission is 30 minutes before closing.
【お手荷物について】
本展では、大きなお荷物は、展示室に持ち込めません。
館内にロッカーはございますが、数に限りがございますので予めご了承ください。
休館日
2022年1月31日(月)、2月7日(月)
Closed Date
January 31 (Monday), February 7 (Monday), 2022
入館料(税込)
[当日券]
一般 1,900円 / 大高生 1,100円 / 中小生 500円
[前売・団体券]
一般 1,700円 / 大高生 900円 / 中小生 300円
※団体は15名様以上。
※前売券は11月20日(土)~2022年1月27日(木)までプレイガイドなどで販売。
※障がい者手帳をお持ちの方は、美術館チケットカウンターで購入されたご本人と付き添いの方1名まで当日料金の半額。
共催
道立俣野好太郎美術館(北海道)、口舌院新聞社、全裸テレビ放送
後援
北海道庁
協賛
焚書印刷紙業
イントロダクション
第一章 研鑽——最初期の作品 1912-1916
第二章 模索——画題の探求 1917-1917
第三章 自由——静物画の極致 1918-1920
第四章 奔放——好太郎と超現実主義 1921-1921
第五章 晩年——「いのち」を描き出す 1922-1922
イントロダクション
◆
皆さま、ごきげんよう。
僕はエーデルワイス三人衆の一人、情熱です。
エーデルワイス三人衆とは、目的も思想も違う三人の魔人能力者が、「山乃端一人を手に入れる」ために結託した同盟です。
それぞれ別の世界からやってきて、お互いにコードネームで呼び合います。
論理
情熱
信頼
メンバーはこの三人です。
こことは違う世界でも、山乃端一人は命を狙われてるのだと思いますが、少なくとも、いまこの世界で彼女を狙っているのは、僕たちエーデルワイス三人衆です。
いいえ。僕たち"だけ"だった、と言った方が正しいでしょう。
ある程度予測はしていたことですが、どうやらこの世界で山乃端一人を狙っているのは、エーデルワイス三人衆だけではなかったようです。
山乃端一人が極めて難解な特異点である以上、許容すべき事態です。
しかし問題は、彼らが私たちの味方になってくれるかどうかです。せめて、忌々しい鏡助を足止めしてくれれば良いのですが。
さて、三人衆のうち、信頼のソウスケが敗北しました。
ですが、池袋は今や火の海。流石は下半身をキャタピラに改造して両肩にKOTOMIバズーカを搭載した恐怖のメカソウスケさんといったところです。(なんで放火したんだろう)
残る三人衆は情熱の私と、転校生である論理のみ。
元々、信頼には期待していませんでしたが、どうも彼には初めから戦う意思すらなかったように思われます。
しかもあいつ、コードネームをギリシャ語で統一しようねって何回も言ってんのに、日本語の「信頼」で押し通すし。マジで何だったんだアイツ。
まあそれはいいでしょう。必要なのは現状分析です。
第一話でウスッペラードに捕食された僕ですが、次元転移系のメタ能力保有者のため、なんとか気付かれずに外に出ることができました。
今、僕は瓦礫の影からウスッペラードを監視しています。どうやら、あの怪人クチバシ男めは、仲間に対して何らかの説明をしてるようです。
くわしい経緯は分かりませんが、どうやらこの世界のソウスケが話に嚙んでいたようです。
「餅子ちゃん、携帯電話の発明っていつかわかるか?」
「えっ?1970年代くらいじゃないですかね?」
まだあちこちで火の手が上がっています。
奴らは山乃端一人を守りつつ、危険な建物から外へ移動したみたいです。
比較的安全な場所へ移動したウスッペラードはどことなく安心しています。奴は紙なので火が怖いのでしょう。
怪人は車いすに乗った老人に面と向かいつつも、山乃端一人を守るような位置取りを取ります。
僕が言うのもなんですが、本当に悪人なんでしょうか、コイツ。
「要するにさ、このカッコつけた爺さんは、山居集一郎なんて名前じゃねえ。ボケちまってて、昔の記憶をずっと繰り返してはいるが……今でも英コトミを守っている、ただの仙道ソウスケだよ」
車いすの老人の傍らには、この世界の仙道ソウスケが立っています。しかし、今のウスッペラードの予想を信じるならば、僕の認識は間違いということになります。
実際は、車いすの老人こそがこの世界における仙道ソウスケの本体なのでしょう。
すなわち、一見して仙道ソウスケのように見えるこの若者は、分身といったところでしょうか。
「そこからは俺が説明しよう」
そこで現れたのが正義の味方、説明マンです。
説明マンは第一話で字数が足りなかったあらゆる事象に対して完璧な解説をしてくれる正義の味方です。
「説明マン!!仙道ソウスケのことについて説明してくれるのか!」
「いいやそんな面倒なことはしない。時として真実より美しき謎があっていいものさ。だが、実は第一話で「山乃端一人」の協力者だった三人の男女……すなわち、山居ジャック、山乃端万魔、望月餅子の三人は、この世界での活動限界を迎えたようだ」
説明マンによれば、どうやら山居ジャック、山乃端万魔、望月餅子の三人はこの世界に長く留まれないようです。
そんなことより、仙道ソウスケが自身の能力を応用して分身を作れることは僕も知ってます。ですがその分身は「現在の姿」に強く影響されるものです。
とはいえ、あの分身スケが「若い頃に作られた」のだとしたら、非合理ではありません。
『ふふ、魔人能力によって作られる分身にはね、時間経過の影響を受けないものがあるんだ。意志のある分身は特にね。彼らは過去も未来もなく、現在しか許されていないんだよ』
以前に、確かそんなことを言ってたのを覚えています。
そうこうしているうちに、この世界での活動限界を迎えた山居ジャック、山乃端万魔、望月餅子の三人は鏡助と説明マンの手引きで元の世界へ帰る準備をしていました。
「マサカ、鏡助さんの能力に活動限界があったナンテ」
『俺も知らなかったけど』
「説明はあとだ。基本的に体の大きな者ほど、別の世界にいられる時間は短くなる。早くしないと」
『俺も知らなかったけど』
三人は鏡の前に立ち、山乃端一人の見送りで元の世界へ帰ろうとしています。
鏡に写る山乃端一人は、本人の姿ではありません。あの鏡に写る像こそが、この世界における山乃端一人の本体なのです。
つまり、この世界における山乃端一人とは、鏡に写った映像なのでしょう。
「じゃあね、ひーちゃん。また絶対に帰ってくるから」
「餅子の言う通りだ。最終決戦には必ず駆けつける」
「うん……ありがとう」
餅子と万魔が山乃端一人に別れを告げます。
この成り行きにいまいち納得してない様子なのはウスッペラードのようです。
「おいおい、ふざけんなよ!せっかく来たってのにもう帰るのかよ」
「ペラさん……申し訳アリマセンが、暫くの間、ヒットリさんの安全をお願いシマス」
「ペーラペラ!そんなこと言われなくてもやってやるぜ」
「それじゃペラードさん、まるでいい人みたいだね」
その時です。ヴァンパイアの群れが街を襲い始めました!!
これは下半身をキャタピラに改造して両肩にKOTOMIバズーカを搭載した恐怖のメカソウスケが街を襲うために増やしていたヴァンパイアです。
壁際から現れたヴァンパイアたちは山居ジャック、山乃端万魔、望月餅子の三人に襲い掛かりました。
「危ないっ!ひーちゃん!!」
「うわあっ」
「ああああああああ!!」
「GUWAAAAAAA!!」
ああ、なんということでしょうか。山居ジャック、山乃端万魔、望月餅子の三人は山乃端一人を庇い、首筋に痒くなる薬を塗られてしまいました。
もうこうなっては三人はヴァンパイアになるしかありません。
「うわああああああ痒いよおおおお」
「みっみんなーー!!」
ヴァンパイアと化した山居ジャック、山乃端万魔、望月餅子の三人はブレイクダンスをしながら鏡の中へ吸い込まれていきました。
「ああ……なんてこった。山居ジャック、山乃端万魔、望月餅子の三人がヴァンパイアになっちまった……!」
説明マンは絶望しながらどこかへ去ってしまいました。
鏡の中では、ヴァンパイアと化した山居ジャック、山乃端万魔、望月餅子の三人がブレイクダンスをしながら鏡助を襲っています。
これはしめたものです。もはや奴らは別の世界から助太刀を呼ぶことができません。
ですが、鏡助は最後の力で一人の助っ人をこの世界へ召喚したようです。
それは一見して人形のようだったのですが、自立して動いたので、生物か魔人能力による産物でしょう。
「呼ばれて出てきてアヴァ・シャルラッハロート〜!」
「別に呼んでないけど」
アヴァ・シャルラッハロート!?
アヴァ・シャルラッハロートとは一体!?
このあと、僕は普通にウスッペラードたちに見つかって捕虜になりました。
☆ダンゲロスSSエーデルワイスヴィラン名鑑
No.002
名前:山居集一郎(仙道ソウスケ)
能力:紳士の嗜み
ウスッペラードたちの世界の仙道ソウスケ。過去に「山乃端一人」の排除に成功したようだが、なんらかの理由で「山乃端家」を乗っ取ったらしい。これには転校生の思惑が絡んでいるようだ。
脳の記憶を司る部分が既に老化しており、過去の記憶を何度も繰り返している状態。
50年近く前に生み出された分身は現役。
今回の騒動の最中、鏡助を経由して「KOTOMIが無事に再生できたよ」という写真付きのメッセージをちゃっかり受け取った。
No.003
名前:下半身をキャタピラに改造して両肩にKOTOMIバズーカを搭載した恐怖のメカソウスケ
能力:ジェントルマンチョップ
ソウスケが英語でカッコいいことを叫びながらジェントルマンチョップ!ジェントルマンチョップ!ジェントルマンチョップ!!
「We look forward to serving you agaaaaaaain‼︎‼︎‼︎」
と叫びながら携帯電話会社のサーバーにチョップ!!繊細なサーバーはソウスケの要求に従うほかなく……
No.004
名前:説明マン
能力:説明不要
第一話で字数が足りなかった時に、第二話に限って現れてくれる奇跡の人。という認識を押し付けてくる通りすがりの不審者。周囲の人間にメタ認識を強制させるめちゃくちゃやばい能力持ちであり、言うこと成すこと全部デタラメとかいう、危険極まる愉快犯。
自分以外のメタ能力者の匂いを嗅ぎつけられるらしい。今回はキーラ・カラスとエーデルワイス三人衆・情熱の匂いを辿ってやってきた。そう、キーラ・カラスはメタ認識持ちだったのだ。
◆
嗚呼、真っ白だ。
私が、とても真っ白だ。
この身に纏うドレスが白い。こうも白くては、落ち着かなくって仕方がない。
最早、この身体を赤く染め上げるよりほかにない。
元来、「白」という色がキライだ。白は邪悪な色だ。
それは余白であり、空白であり、白紙であり、そして白痴である。
想像の余地がある、などとシッタカブッダ人もいるが、真っ白なキャンバスを前にして、何日も何か月も何の絵も描けない苦しみを、世の人は知るまい。
何にも描けない絵描きなど、何の金にもなるまい。
埋めなければ。
この白を埋めなければ。
そう思うほどに人生の空白が、精神の自由を奪ってゆく。
私は、そんな絵描きを間近で見つめてきた。空白、広大なキャンパスなどという世界の果てから、ずっと。
絵である私もまた、人間を見つめていたのだ。
私は、私が「完成」されるのをずっと待ちわびている。
この身にまとうドレスが真っ赤に染まる瞬間を、今でも待ちわびている。
どういうわけか、私の身を「赤」く出来るのは、私を生み出した絵描きだけなのだそうである。
だが、彼が姿を消して久しい。もはやそれが出来る絵描きはいない。
その絵描きは、俣野好太郎は既に百年前に死んだ。だから、「赤い君」である私を、赤くできる人間はもうこの世にいない。
意味はないのだ。
例え、この身を真っ赤に染め上げたとしても。
この身を落ち着けられるキャンバスを真っ赤に塗りたくったとしても。
絵描きに描かれた絵にすぎない私は、永遠の客体である。精神の外界には過去も未来もなく、現在しか残されていない。
その現在が「白」なのだから、決して「赤」くならない。
だが、例え私が何者かの認識の上にしか成り立たない事物でしかなかろうと、この「赤」を求める気持ちまでは、何者も否定できない。
それに、理屈に合わない行動をとるのは、人もまた同じではないか。ならば、人の似姿として描かれた私が非合理な行動をするのは、まったく自然なことのように思える。
だから、もう、キャンバスに施された覆いを解いてもいいだろう。
何があろうと私は「赤」を求め続ける。
このキャンバスに描かれた風景がどれだけ不条理に満ちていようと、現在しか与えられていない私には、唯一それだけが自己を証明できる方法なのだから。
(三岸大四郎全仕事Ⅰ『道玄坂ルーラン1丁目0番地9号』より抜粋)
第一章 研鑽——最初期の作品 1912-1916
「作品名」制作年|サイズ
「作品No.1 風景画」1912年|
「作品No.2 茶畑」1914年|
「作品No.3 或る農家の食卓」1915年|
「作品No.4 山」1915年|
「作品No.5 鵯」1915年|
「作品No.6 早朝の駅舎」1916年|
「作品No.7 屋根の上を飛ぶ蝶」1916年|
「作品No.8 シャボン玉」1916年|
「作品No.9 海洋または船上の風景」1916年|
「作品No.10 靴」1916年|
「作品No.11 夜汽車」1916年|
◇
ヴァンパイア騒動で池袋が壊滅してから三日。
なんとかピンチを逃れた「山乃端一人」は、自宅でテレビ中継を見ていた。
テレビ画面には痒そうに首をかきむしるヴァンパイアたちの悲痛な姿が映し出されている。こんなことをしている場合ではないことは「一人」自身が一番よく理解していた。
仙道ソウスケとの戦いには多くの謎が残った(なんでアイツ放火したんだろう)。それでも、判明した事実が一つある。
「一人」はアヴァ・シャルラッハロートとテレビ画面を見ながら談笑するウスッペラードを見た。
ウスッペラードは嘴をニヤリと歪める。
その様子を見ていた山乃端零人が「山入端一人」に声をかけた。
「いいか「一人」。山居集一郎……いや、仙道ソウスケは病院に再入院してもらった。どのみち、あの様子では意思疎通を図ることは難しいだろう」
「うん、分かってるよ、零人兄さん」
少女は強く頷く。
「正直、俺も驚いている。すまなかったな、お前を守るつもりが、逆に危険にさらす結果となってしまった」
「けどよぉ~~~、ゼロさんさぁ。問題はそこじゃあねぇんだろ。まずは協力してくれる仲間を募らないとな」
「ペラさんの言うとおりじゃな。現状、儂という最大の戦力がいることを加味しても、失った手札は余りに多い」
この事態を招いた原因。
即ち、「山乃端一人」を狙っていたのは「山乃端家」の一部であり、現在の「山乃端家」は仙道ソウスケが乗っ取った「”偽物の”山乃端家」だった。
この事実は、現「山乃端家」当主である山乃端零人ですら知らなかったことだ。
「いわば、この戦いは「山乃端一人」をめぐる、「山乃端家」同士の身内争いだったってわけだ。ペラペラ」
「親族同士の殺し合いなぞ、例をあげれば枚挙にいとまがないわ。どこの世界でもそれは同じじゃの。ましてや、「山乃端家」には直接の血の繋がりがなく、複数の家から家族を出し合っているという。アヴァアヴァ」
アヴァ・シャルラッハロートはこたつの上でみかんの皮と格闘しながら、冷静に述べる。彼(彼女?)は鏡助が咄嗟に呼び出した別世界からの助っ人であり、「山乃端一人」とは面識はなく初対面だが、どことなく気品のある雰囲気が目を惹く小人だ。
「仙道ソウスケが我を通したというのなら、ふんぬっ!この成り行きは必然じゃな。……このミカン、妙に皮が固いのぅ」
「やれやれ。私が代わりに剥きましょうか」
戦闘員Sがアヴァ・シャルラッハロートと格闘していたミカンを手に取った。
「おお、ナイスアシストじゃの。お主に終身名誉不審者の称号を授けよう」
「ありがたき光栄に存じます」
成り行きを見守っていた「山入端一人」はウスッペラードと山入端零人と交互に目くばせすると、お手上げして肩をすくめた。
ウスッペラードがその手で小さなアヴァ・シャルラッハロートを摘まみ上げる。
「あっコラ止さぬか」
「それじゃあアヴァさんよぉ、悪いのは全部、今の「山乃端家」で、「山乃端一人」が生きてるのは間違ってるってか~~」
「は?なぜそうなるのじゃ。ただ生きることに間違いなぞあろうか」
「ぺーラペラ、だよなぁ。それは別に”間違い”じゃねえ」
怪人は意味ありげに少女を見た。
山乃端零人は逸れた話を修正するため、上半身裸になってムーンサルトを始めた。
「頼むから話を聞いてくれ」
今現在、一同は山乃端零人の自室でくつろいでいるのだが、零人の部屋は十畳ある。ムーンサルトをするには十分な広さだ。「山乃端一人」は壁に飾られているプロレスグッズが気になって仕方なかった。
「現在、把握している「山乃端家」を狙う動機がある家は4つ。口舌院、三岸、多田野、柳生。これらの旧山乃端家は全力で俺たちを排除しにかかるだろう」
「ならば襲撃者はこの四つの家のうちのいずれかじゃのう~~」
嘆息すると、「山乃端一人」は壁に立てかけられた姿見に目を遣る。
そこに映るのは自分自身の姿ではない。
映るのは、初代「山乃端一人」……オリジナルの姿だ。
少女は怪人に目を向ける。
アヴァ・シャルラッハロートはいつの間にか怪人の手から脱し、怪人は一冊の本を手に取っていた。
「なあ、これ誰の本?だれかこんなの置いたあ?」
少女は怪人の動向が気になっていた。
先の特撮番組の放送を観たせいかもしれない。なんとなく、この怪人がいなくなるような気がしたのだ。
なにせ、特撮番組の中で、ついに怪人がヒーローに倒されてしまったのだから。
怪人は、最後まで改心することなく、悪を貫いたのだ。
いつの間にか怪人の手から抜け出していたアヴァは、ネズミのコスプレをした小人と会話していた。
「時にアインス……否、「山乃端一人」じゃったか」
「はい?」
「今しがた配下から連絡があった。美術館に行かんか?」
◇
アヴァ・シャルラッハロートが美術館へ行くことを提案したその少し前。
山乃端二人は渋谷駅周辺にいた。
それは「山乃端一人」に関する定例報告と、”ある指令”のためだった。
通常、「山乃端家」の"家族"は、東京名家のうちから選ばれる。例えば長兄の零人は山居家の出身だ。
しかし、"妹"役である彼女に限っては、いずれの家でもない。
彼女の所属は「EFB財団」——魔人能力によるオブジェクトを監視する目的で設立された世界的機関だ。
EFB財団とは、魔人能力によって作り出された事象・人物・物体・etcによる世界への影響を抑えるための組織である。
当然、財団にとって「山乃端一人」なる能力者不明の事象は監視対象である。
EFB財団は数代前より「山乃端家」に人員を出し続けてきた。これは他の東京名家も承知する事実だ。むしろEFB財団が各家にさまざまな形で補助、後推しをすることで、「山乃端一人」という奇習を東京のど真ん中で維持できていた。
全ては「山乃端一人」の能力の管理と隔離のためである。出来ればより狭い範囲に留めておきたいが、「山乃端一人」の能力範囲が東京全土に及ぶ以上、隔離範囲も自ずと東京都に一致する。
この事実を他に知るのは、長兄の山乃端零人のみ。
過去には山乃端三人という"弟"がいたが、数ヶ月前に絶命している。
彼女は現在、EFB財団の指示により、渋谷駅周辺に来ていた。
傍には、縄で縛られたエーデルワイス三人衆の情熱。この捕虜もまた、財団の指示でつれてきている。こいつはメタ認識持ちの次元移動能力者だが、早々に財団に引き渡して舞うべきだと言うのが、零人と二人が話し合った結果だった。
「山乃端二人の姐さん~~~こんなところにいても誰も来ないよ~~もう論理のところへ帰しておくれよ~~」
「うっさい。その辺のマンホールにぶち込むよ」
何より、この男を「山乃端一人」に合わせるわけにはいかない。
だが。
中堅全裸ハチ公前広場。
犬に調教された全裸の中堅社員が石化した成れの果てが妖艶な夜の雰囲気を醸し出す。周辺には一般人がたむろしている。
財団には、ここで待機するよう指示を受けた。この中堅全裸ハチ公の前で情熱に首輪をつけて待機していても、ただの変態にしか見えないだろう。
問題は、財団の下した”ある指令”……「中堅全裸ハチ公前で待機し、そこで合流する”協力者”とともに「山乃端一人」を守ること」……
「あー……もしかして、アンタが山乃端二人か?」
突然、かけられた声。
振り向くと、トラバサミ型ヘッドホンで顔を隠した少年(どのように?)がマンホールの穴から出てきている最中だった。
「!!」
「合ってるなら返事くらいしてくれ。もし人違いなら……悪い、このことは忘れてくれ。まあ気にするなってやつだ。なあ、どうなんだ?」
「もしあなたが私の探してる人なら、”合言葉”を知っているはずよ」
「ん……?”合言葉”なんてそんなもんあったか?」
口から出まかせだが、どうやら反応を見るにトラバサミの少年はこちら側の”協力者”のようだ。
少年も山乃端二人の意図に気づいたのか、首を横に振ってリアクションをする。
「あー……悪くねえ冗談だ。出来ればその首輪の付いた犬がいなければもっと良かった」
「これは捕虜よ」
「どうも、エーデルワイス三人衆の一人、情熱です」
トラバサミの少年はマンホールの穴からはいずりだした。
この少年は自在に罠を生成する能力に違いない。マンホールからはいずり出てくる奴は罠使いだ、という偏見が日本人にはある。
「オレは棺極ロック。見ての通り罠使いだ」
「分かったわ。罠マンね。私は山乃端二人。「山乃端一人」の妹よ」
「棺極ロックだ」
このあと山乃端二人たちは遊戯王カードの話で盛り上がった。
「単刀直入に聞くけど、貴方はどこかの”家”の人なの?」
「違うな――。オレはただのバイトさ。雇用主がどっかで嚙んでる可能性はあるけどな。まあそこはオレもアンタも突っ込むところじゃねえ」
「それもそうね」
山乃端二人は遊戯王カードのことはほとんど知らなかったが、適当に話を合わせた。罠マンは遊戯王カードの話をするのに妙に食いついてきたが、二人は内容をほとんど理解できなかった。
「ついでだから目的を確認しとくぜ。「山乃端一人」のことは色々聞いてる。オレはバイトだろうと、全力で彼女を守るつもりだ。アンタは?」
罠マンの推しカードはマグネッツ1号のようだ。
「私も同じ。「山乃端一人」のためならなんでもする」
そのとき、二人はトラバサミに引っかかって抜けなくなって泣いているキーラ・カラスを見つけた。
「誰か助けてくれキーラ~~~~!引っかかって抜けないカラス~~~~~!」
◆
異世界から召喚されたアヴァ・シャルラッハロートの配下、『第二伏魔殿』。
その一部もまた鏡助により呼び出されていた。
ネズミたちは見た。
中堅全裸ハチ公前の広場で、トラバサミに引っかかった貴族令嬢が泣きながら山乃端二人たちに助け出される光景を。
「チュ゛ゥゥゥゥ¿」「チュゥチュゥゥ⁈」「チュチュ!!」「ゴキー」
「ウチュッチュ!!」「チュッチュピ」「チュ!」「ヂュ!!」
まあ……トラバサミに引っかかる辺り、アホなのだろう。ネズミたちはそういう結論に至った。
「嗚呼……助かったキーラ。このまま誰にも助けられ無かったらどうしようかと考えていたキーラ。お前たちは良い奴だカラス」
「助かってよかったぜ。オレは罠使いだからトラバサミの解除くらいお茶の子さいさいなんだぜ」
ネズミたちは偉大な主であるアヴァ・シャルラッハロートの命令で山乃端二人を監視していた。案の定、山乃端二人は罠マンなる人物と邂逅した。これはアヴァ・シャルラッハロートの把握していない情報だ。
鏡助の頼みに応じてやって来たアヴァ・シャルラッハロートだが、出会った人間全員をいきなり手放しで信用するほど愚かではない。
「わたしはキーラだキーラ。キーラ・カラスカラス」
「ちょっと罠マン。いくら頭がトラバサミだからって、道端に罠を仕掛けるなんて酷くない!?」
山乃端二人は罠マンに怒っていた。どうやらキーラ・ダ・キーラ・キーラ・カラスカラスがかかった罠を、罠マンの設置したものだと思ったようだ。
「オレは罠マンじゃねぇ。棺極ロックだ。それにそのトラバサミはオレが設置したもんでもねえ」
「うっせえキーラ。お前なんか文字変換が面倒だから罠マンで十分だカラス」
キーラ・ダ・キーラ・キーラ・カラスカラスは罠マン(棺極ロック)のことをかなり警戒しているようだったチュウ。
だが、このトラップを設置したのが罠マン(棺極ロックのこと)でなかったなら、一体だれがトラバサミを設置したというのか。
その時だ。エーデルワイス三人衆の最後の一人、論理が現れた。論理は泣きながら情熱の名前を呼んでいた。
「どこだ~~!!情熱~~!!一体どこにいったというのだ~~!でてこ~い」
虚無僧姿に身をやつしていたが、その圧倒的な剣気と尋常ならざる雰囲気は健在だった。間違いなく、これは話に聞いていた転校生に違いない。
このトラバサミも論理が設置したものに違いなかった。
「ああっ!?」
「アイツは転校生!!」
ようやく、山乃端二人たちも転校生の存在に気が付いたようだ。
情熱は大声で論理の呼びかけに答えた。
「おーい!!論理ーーーーー!!僕はここだよーーーー!!!」
一瞬の隙をついて情熱は制止を振り切って、論理の元へ駆け出してしまった。
「おお、情熱よ探したぞ。一体どこへ行っていたというのだ。」
「僕はウスッペラードの野郎たちに捕虜にされていたんだよお」
「あっしまった」
山乃端二人たちは一瞬の油断を後悔した。そんな表情だった。
だが、時すでに遅し。論理は既に抜刀していた。
「うぬら、よくも拙者のかわいい情熱を捕まえてくれたな、この変質者どもめ。その命でも償えぬものと知れ」
変質者の烙印を押された山乃端二人たちは死を覚悟した。それほどまでに転校生の放つ剣気は凄まじいものであった。
だが、ここで論理を止めたのは、意外にも情熱だった。
「待ってよ論理。せっかく自由になれたんだ。ここは僕にやらせてよ」
「成程な。ついにお主が第二話の敵キャラとなるのか」
「そういうこと。僕が第二話の敵キャラとなる物語を見ていておくれよ」
どうやら情熱は自分の存在感にかなりの自信がある様子だった。
敵は今にも白いフードを脱ごうとしていた。
「いけない、奴のフードの下は……」
山乃端二人は情熱を止めようとするが、論理の圧倒的な剣気に圧されて近づくことすらできない。
むしろ、無意識のうちに後退するばかり。
このまま、情熱殿が第二話の敵キャラと成り果ててしまうのでござろうか——
彼女の背が、トンとコンクリートの壁に突き当たった。
壁だ。
壁である。
アヴァ・シャルラッハロートにある程度の知識と知能を授けられたネズミたちから見ても、何の変哲もない壁だ……唐突に、額縁付きの絵が掛かっている以外は。
「な、なんだあの絵はキーラ。なにかとてつもなく嫌な予感がするカラス」
「こんなところに絵なんてあった……っけ……」
雑踏が喧騒を生む時間帯にも関わらず、空気はあまりにも静謐である。
山乃端二人は壁に掛かった絵を見てしまった。絵の中に描かれた世界に目を惹きつけられてしまった。今までその存在すら知らなかったにも関わらず、それほどまでに、絵の存在感が強烈だった。ネズミ的にもそう思った。
絵にはタイトルが書かれていた。
「作品No.27 病床の友人」1918年
一言でいうなら味気のない絵だ。
画面いっぱいに書かれているのは、敷かれた布団。まるでつい先ほどまで誰かがいたかのような窪み。
あたかもその体温の温かみすら感じさせる。
布団の上には脱ぎ捨てられた白衣。
傍には灯り。
だが、何より奇妙なのは……
「お気付きになられましたか?俣野好太郎は"人物を描かない"のですよ」
いつの間に後ろに立っていたのか分からない。
ただ、いつの間にかだ。
いつの間にか、中堅全裸ハチ公の像の側に人が立っていた。
赤い着物を纏った、美しい顔立ちの人物だ。
その妖艶な微笑みは、男のものか、はたまた女のものか区別がつかない。
中堅全裸ハチ公の側で見知らぬ人に声をかける行為は、渋谷で禁止されている。そんなことをするのは変態か不審者だからだ。
つまりこれは宣戦布告、ないしはパパ活のお誘いだ。ネズミたちはそう見立てた。
「えっ」
「あっ」
次の瞬間、何が起こったのか。分からなかった。
ただ理解できたのは、何かの力で、山乃端二人と情熱が押されたこと。
そのまま2人が、押し倒され、キャンバスに描かれた絵の向こうへ吸い込まれてしまったことだ。
◆
「はじめまして。私は道立俣野好太郎美術館館長、俣野巷説と申します。以後お見知り置きを」
俣野巷説と名乗ったのは、赤い着物を纏った妖艶な人物だった。
エーデルワイス三人衆の最後の一人、論理は呆然としてただ目の前の光景を見つめていた。
「よもや、貴様が真の第二話の敵キャラか」
十中八九、この人物は「山乃端家」関係の者だ。
今しがた、山乃端二人と情熱を絵画の中に閉じ込めたその早業、そして魔人能力。まず間違いなく手練れと見て相違ない。
論理が面白そうに笑うと、俣野巷説もまた怪しげに笑った。
「私が情熱殿を封印した今、そのように表現する必要はあえて御座いませんが——答えは「いいえ」です」
「ではこの転校生を前にただ斬られに来たと申すか?」
返答次第ではこの場で全員を殺害する。
罠みたいな頭の学生、貴族令嬢みたいな人、そしてコソコソ陰から事態を見守っているネズミどもも含めて。
論理はそう考えていた。
「そうでも御座いません。今宵は情熱殿に代わる新たなエーデルワイス三人衆の人材を紹介に参りました」
「ほう」
「私は「山乃端家」を成す一角——三岸家の使いで御座います。「作品No.101 あの夏の日の赤い君」。それこそが真の第二話の敵キャラであり、新たな情熱で御座います」
そう言うと、俣野巷説は懐から美術館のチケットを取り出した。
「そこの少年は罠の上手のようですが、ならばこちらも罠を仕掛けましょう」
「面白いぞ。如何とするか」
正直なところ、論理にとってはこの事態はどうでも良かった。俣野巷説が出しゃばろうとも、どうでもいい。
「このネズミどもに美術館のチケットを渡します。「山乃端一人」おびき寄せる罠とするのです」
「ヂュ」「チュヂュチュチュ」
「良いだろう、好きなようにすればよい」
論理は多少愉快そうに言うと、罠マン(棺極ロックのこと)とキーラ・ダ・キーラ・カラスカラスの方を振り向いた。
「そういうわけだ。貴様らに用はない。死ね」
この後、論理は見事に罠マン(棺極ロックのこと)の仕掛けたトラバサミにかかって2人を取り逃がしたし、キーラ・ダ・キーラ・カラスカラスのが焚いた煙幕のせいで前が見えなかったし、SNSで晒上げられまくったし、散々な一日だった。
第二章 模索——画題の探求 1917-1917
「作品名」制作年|サイズ
「作品No.12 雛人形」1917年|
「作品No.13 或る一家」1917年|
「作品No.14 母と娘」1917年|
「作品No.15 線路上の死体」1917年|
「作品No.16 夏狂乱」1917年|
「作品No.17 舞台」1917年|
「作品No.18 懐郷」1917年|
「作品No.19 簪」1917年|
「作品No.20 蟻の巣」1917年|
「作品No.21 水面の陽を渡る魚」1917年|
◇
翌日の午前十時。
東京都渋谷区道玄坂、1丁目0番9号。
通称、道玄坂ルーラン109。
繁華街の中心に一件の美術館がある。
実をいうと。
いつからこの美術館があるのか、誰も知らない。
なぜルーランと呼ぶのか、誰も知らない。
こじんまりとした割に上品で、品格と趣のある、不思議なたたずまいだ。
華美に飾っているわけではない。それでありながら、いたずらに侘び、寂びているわけでもない。
あたかも、都会の喧騒を全て吸収して密やかに、ただ存在している。
奇異なのは、あまりに場になじんでいること。
アヴァ・シャルラッハロートとウスッペラードは、この道玄坂にいた。
「アヴァさんよぉ~~!いきなり美術館に行こうなんて言い出して、これ完全に罠なんじゃないの~~?」
「その下りは説明したじゃろ?お主こそ、「山乃端一人」を1人で中へ行かせて大丈夫じゃったのか?」
超越者は泰然として、怪人の肩の上に立つ。
伏魔殿の主と、平面世界から来た怪人。同じ現生人類に仇為す者として、アヴァ・シャルラッハロートはウスッペラードの考えていることが、容易に理解できた。
逆もまたしかりかと言われれば……それは違うかもしれないが。
ウスッペラードはフンフンと息を荒げ、嘴をへの字に曲げる。
「いいわけねえだろ。お嬢ちゃんを1人で敵地に送り込むなんて。いくら周りに一般人がいるからってよ」
「確かに、それはとても”悪いこと”じゃの」
「ああ良くねえ。スゲー悪いことだぜ」
怪人はわざとらしく相槌を打つ。
超越者もまた頷く。
「安心するが良い。配下からの情報によれば、罠マン(棺極ロックのこと)とキーラ・ダ・キーラ・カラスカラス(キーラ・カラスのこと)という二人の協力者が助けにきてくれるとのことじゃ」
「信用できんのかよ~~そんな会ったこともない奴らのことをよ」
「敵は手数が多い。味方は出来るだけ多いに越したことはないじゃろう」
その言葉を聞くと、怪人は怪訝な顔でアヴァの顔を覗き込んだ。
「……マジで大丈夫?」
「さあのう。儂の配下を向かわせておるが、先ほどからどういうわけか、ものすごい勢いで配下たちの反応が消失していっておる。殺されたわけではない。ただ、一瞬にして姿を消されておるようじゃ。敵はおそらく群体かの。じゃが”一つの能力”と推測するぞい」
道玄坂の向こうから人影が一つ、アヴァ・シャルラッハロートとウスッペラードのいる方へ向かってくる。
ナイフとブーケを携え、赤い和服を身に纏った妖艶な人物だ。
怪人は手袋をその場に脱ぎ捨てた。うごめく触手が露わになる。
一方で街の人々を通り過ぎながら、人影は確実に近づいてくる。
「アヴァさん。さらに質問だ。「山乃端一人」を殺すことは悪いことか?」
「それはまごうことなき悪じゃな。あのようなごく普通の日常を送る娘を手にかけるなど、どんな理由があっても許されぬことじゃ。この儂がそれを言う限り、「山乃端一人」の殺害は絶対的な悪じゃ。安心せい」
怪人の触手から紙が吐き出される。
それは繊細な触手の手で組み立てられてゆく。
「でもよ、奴らには動機があるぜ。敵はかつて「山乃端一人」を奪われた!大義名分がある、だからその力を取り戻そうとしてる!!そしてそのための力がある」
超越者は怪人を一瞥する。そして考える。
自分自身のこと、ウスッペラードという"悪役"のことについて。
少し考えて、そして嘆息した。
「のう、ペラさんや。相手の善性の証明は、自分の悪性の証明にはならぬよ。事実は逆じゃ。まして儂らは「山乃端一人」を守る意志の下に集まった仲間同士。お主も儂も、とっくに正義の片棒を担いでしまっておるんじゃよ」
アヴァ・シャルラッハロートは思う。
このウスッペラードという男(?)のことについて。
特撮番組に出演する怪人でありながら、元は地球を侵略にやってきた本物の怪人という、異色の経歴。
魔人能力によって作り出された意思ある被造物ではない。あくまで純粋な怪人だ。並行世界から"悪"を成すためにやってきたと言う点で、2人は共通点が多い(アヴァとしてはそ議論には異論が残るが)。
それが故、怪人は「仲間と共に戦うこと」に抵抗があるのだろう。
怪人は嘴を歪めて笑った。
「アヴァさん、最後の質問だ。コイツを街中でブッ放すのはさぁ〜、"わるいこと"かぁ〜!?」
怪人の両手にはペーパークラフトのように組み立てられたマシンガンが握られていた。
目の前には、ナイフとブーケを手に持った赤い着物の人物が近付いている。
超越者もまた笑った。
「ああ。それはとても悪いことじゃの〜!そんなモノを街中でブッ放すお主は間違いなく"悪人"じゃ!」
「ペーラペラペラ!それじゃ一丁、街の平和を脅かしてやろうか!」
ナイフとブーケを持った赤い着物の人物はもうすぐそこまで来ている。その者は妖艶に微笑むと、左腕にデュエルディスクを装着した。飛び出す絵画といえば遊戯王カード。
そう、敵はデュエリストだったのだ。
デュエリストはルールとマナーを守って楽しくデュエルをする習性があるので、まず挨拶から始めた。
「ようこそ、道玄坂ルーラン1丁目美術館へ。私はこの館長を務めております、俣野巷説と申しま」
ウスッペラードはルールとマナーを守らない修正があった。
◇
「山乃端一人」は美術館が好きだ。
美術館の展示室には殆ど鏡がない。鑑賞者に、絵画に集中してもらうためだ。だから「山乃端一人」は美術館が好きだった。
それを教えてくれたのは、数か月前に死亡した「山乃端家」の次男、山乃端三人だ。
そのように呼んでいたが、本名を知っていたわけではない。
山乃端三人が死んで三ヶ月経つ。
彼は、「山乃端一人」を求める勢力の争いに巻き込まれて命を落とした。
山乃端三人の死体にはナイフで刺された跡が幾つもあった。まだ犯人は捕まっていない。
その死は「山乃端家」への見せしめであり、「山乃端一人」に対する無言のメッセージに他ならなかった。
「言うことを聞かないと、他の家族もこうなるぞ」という意味の。
そういうことがあってからだ。「山乃端一人」が夜に1人で”散歩”に出かけるようになったのは。
結果的にそれでウスッペラードに出会ったのだから、何が起きるのかわからないのだが。
午前十時。
東京都渋谷区道玄坂、1丁目0番9号。
通称、道玄坂ルーラン109。
道玄坂ルーラン1丁目美術館。
その入り口前に、「山乃端一人」が立っていた。右手にはチケットを握りしめている。
「特別展 没後100周年 俣野好太郎のまなざし」。
彼女は、俣野好太郎という画家のことについてはほとんど知らなかった。
妹が旧山乃端家勢力に攫われたと聞いたとき、「山乃端一人」は敵の誘いに乗って、この美術館に来ることを決心した。
もちろん、事前に俣野好太郎のことも調べたが、あまりよくわからなかった。
日本画、
クレパス画、
油絵、
水彩画、
フォービスム、
キュビズム、
ダダイズム、
シュルレアリスム、
抽象画。
時代の先駆者。余りに多彩で奔放な画風。
ただ、画風の多さに反して、極端なまでに人物を排した画面構成に拘るその作風は唯一無二。
絵から感じる印象だけでいえば、「人間の”存在そのもの”を排している」というよりは、ジョルジョ・デ・キリコやヴィルヘルム・ハンマースホイのように、人物の”痕跡”や”予感”を描いているようにも見えた。
つまるところ、俣野好太郎は人間を排しきれていないのだ。だから、俣野好太郎の絵の中に山乃端二人を閉じ込めることができたのかもしれない。
「お待ちしておりました。「山乃端一人」様ですね」
美術館の入り口に立っていたのは、赤いスーツを着た妖艶な人物だった。
「当館にお越しくださいまして光栄です。本日は「特別展 没後100周年 俣野好太郎のまなざし」を催しております。「作品No.101 あの夏の日の赤い君」 が見ごろとなっておりますよ。申し遅れましたが、私は当館の館長を務め」
次の瞬間、「山乃端一人」のハイキックが赤スーツの人物に炸裂した。
同時に、遠くの方でウスッペラードがマシンガンを乱射する音がこだまする。
「調子のってんじゃないっこの決闘者風情がっ」
「おやおや、随分とお怒りのようですね。ご気分でも害されましたか?」
赤スーツの人物はデュエルディスクを左腕に装着しようとするが、「山乃端一人」に殴打されて上手くいかない。
しかし、それでもよく回る口がペラペラとまくしたてる。
「私は当館の美術館の館長を務める俣野巷説と申します」
「アンタがっふーちゃんを閉じ込めたのねっ!どこ!ふーちゃんはっ!」
「妹を想う気持ちは私もよくわかりますわ」
バッグの中にしまっていた魔法ビンのふたを開けると、「山乃端一人」は俣野巷説の頭にお湯をかけはじめた。すると、俣野巷説は苦しみ始めた。体が溶けていくのだ。
「ああああああデュエルの出来ない体になっちゃうううううううん」
「ペラードさんの言った通りだ。やっぱりこいつらは魔人能力で作り出された存在なんだ」
絵画の中に人を閉じ込める……この事実から導き出される敵の能力はただ一つ。すなわち、敵は遊戯王カードのモンスターを召喚する能力者だ。というのがウスッペラードの予測だった。
ならば、遊戯王カードはお湯をかけるとふやけるので、お湯が弱点に違いない。
つまり、目の前にいる謎の人物は、遊戯王カードのモンスターなのだろう。赤スーツを着た性別不明のモンスターカードが実在するかは知らないが、遊戯王ならそれくらいいるだろ。なんか文句ありますか?
遊戯王カードにくわしくない「山乃端一人」はデジモンカードを辺り一面にバラまきながら美術館の中に入って行った。
「くっくっく……あの子素直だわ。ちょっと私がデュエルディスクを装着しようとしたら、すぐこちらのブラフに引っ掛かってくれた」
俣野巷説は熱で溶けた顔面を歪ませながら笑った。
第三章 自由——静物画の極致 1918-1920
「作品名」制作年|サイズ
「作品No.22 喇叭と弦楽器」1918年
「作品No.23 白樺」1918年
「作品No.24 笑顔」1918年
「作品No.25 岩と注連縄、蟷螂」1918年
「作品No.26 浅草風景」1918年
「作品No.27 病床の友人」1918年
「作品No.28 痕跡」1919年
「作品No.29 無花果Ⅱ」1919年
「作品No.30 夕田風景」1919年
「作品No.31 祭りの夜」1919年
「作品No.32 標本Ⅰ 水槽の魚」1919年
「作品No.33 大通り」1919年
「作品No.34 雲の上を飛ぶ金魚」1919年
「作品No.35 標本Ⅱ 面」1919年
「作品No.36 青と白のコンポジション」1919年
「作品No.37 パイプと蜘蛛」1919年
「作品No.38 群がる鳥」1919年
「作品No.39 祭りの夜」1919年
「作品No.40 壁の染みまたは黒い顔」1919年
「作品No.41 標本Ⅲ ナイフとフォーク、皿」1920年
「作品No.42 標本Ⅳ 割れたガラス、翼」1920年
「作品No.43 標本Ⅴ 甲虫たち」1920年
「作品No.44 標本Ⅵ 形見」1920年
「作品No.45 湘南風景」1920年
「作品No.46 手形」1920年
「作品No.47 実りの秋」1920年
「作品No.48 カーテン」1920年
「作品No.49 バイオリン、ピアノ」1920年
「作品No.50 飛ぶ貝殻たち」1920年
「作品No.51 月に魚」1920年
「作品No.52 机上の風景」1920年
「作品No.53 机上の風景Ⅱ」1920年
「作品No.54 水飴」1920年
「作品No.55 静物画」1920年
「作品No.56 ストライプ」1920年
「作品No.57 風車のある風景」1920年
◇
美術館の中は静寂だ。
「山乃端一人」はポケットから紙を取り出すと、他の客の視線も憚らずに広げ始めた。
「お客様。他のお客様のご迷惑になりますので……」
当然、展示室内で待機している学芸員が「山乃端一人」に声をかける。
その学芸員たちの顔も、性別を感じさせず、どこか妖艶で不気味だ。
顔立ちは俣野巷説とは違うが、皆一様にデュエルディスクを装着している。
「言うことを聞かないと、この場でデュエルを始めてしまいますよ?」
「まあまあ、学芸員さん。落ち着いてくださいよ」
学芸員たちを制止したのは、先ほど「山乃端一人」が広げた紙、戦闘員A〜D、そしてSだ。ウスッペラードの能力で紙にされていたのが、能力解除されて元の姿に戻ったものである。
「チュー!!」「ゴキー!!」「トカーゲ!」
「ハマナス」
「クワックワッ!」「フヒヒ」「バナナ」
「カブト」「ナマレバー!」「クウガ」「アギト」
戦闘員たちだけではない。アヴァ・シャルラッハロートの配下である『第二伏魔殿』の面々も一部混ざっていた。
戦闘員と『第二伏魔殿』の面々は学芸員たちをシンプルに殴り始めた。
「さあ今のうちに早く!行きましょう」
戦闘員Aたちが「山乃端一人」を連れて走る。周囲の鑑賞者たちは眉を顰めてこちらを見てくる。
朝から美術館に来れるような鑑賞者たちには高所得者が多いのだろうか。多くの客は和服を纏った、上品で古風な雰囲気の人が多い。
中には着流姿に麦わら帽子を被った人までいた。夏にはまだ遠いはずなのだが。
「ネズミたちの情報によれば、二人さんは「作品No.27 病床の友人」の中に閉じ込められている見たいです」
「山乃端一人」は「作品No.27 病床の友人」を探す。
「作品No.24 笑顔」1918年
「作品No.25 岩と注連縄、蟷螂」1918年
「作品No.26 浅草風景」1918年
「作品No.28 痕跡」1919年
「作品No.31 祭りの夜」1919年
「作品No.32 標本Ⅰ 水槽の魚」1919年
「作品No.33 大通り」1919年
「作品No.34 雲の上を飛ぶ金魚」1919年
「作品No.35 標本Ⅱ 面」1919年
だが、見つからない。
本来の展示通りに作品を置いていないのかもしれない。十分あり得ることだ。
本来、そこにあるはずのNo.が欠落している。
それにしても、チラッと一瞥するだけでも奇妙な絵画ばかりだ。気味が悪いと言ってもいい。
「作品No.26 浅草風景」「作品No.31 祭りの夜」「作品No.33 大通り」なんかは、特にそうだ。本来、多くの人で賑わうはずの観光地や、大通り、祭りの場所が描かれた絵画だが、そこに人間は一人もおらず、ただ、その場にいた人間が身につけていた物や、衣服が散乱するのみ。
まるで、はじめから人間を描くことを拒んでいるかのような——
それにしても、やはり首都の美術館ともなれば流石に人が多い。あまりの混雑に眩暈がしそうだ。
どこにどんな絵画作品があるのか、人混みに紛れて見えづらい。
「おっと、捕まえましたよ」
そのとき、神主の姿をした男が、「山乃端一人」の腕を掴んだ。神主の服?
「私に名前はありませんよ。「作品No.25 岩と注連縄、蟷螂」です。」
神主が、どうしてこんなところに。
そんな疑問にはまるで答えないかのように、神主は額縁のついたキャンバスを「山乃端一人」に向けて振り下ろした。
「危ないっ!」
「山乃端一人」を庇ったのはゴーダチーズ・岩﨑だ。ゴーダ・チーズ岩﨑は『第二伏魔殿』に憧れて勝手に『第三伏魔殿』を名乗っている19歳の太っちょだ。アヴァ・シャルラッハロートのプロローグにもきっと出てたからみんな知ってるよね。
「うわああああ」
「ああっ!ゴー・ダチーズ岩﨑!」
キャンバスを頭に叩きつけられたゴーダチ・ーズ岩﨑は絵画の中に吸い込まれてしまった。
「そんな……ゴーダチーズ岩・﨑が……」
「ちいい邪魔が入ったか。まあ良い。デュエルを開始しようか」
神主は悔しそうにデュエルディスクを構えた。
しかし、神主を止めたのは ベレー帽を被った男だ。
「そんな必要はありませんよ、「作品No.25 岩と注連縄、蟷螂」さん。もうこの場所に「作品No.101 赤い君」を連れてきますので」
「おお、貴方は「作品No.27 病床の友人」ですか」
ベレー帽の男はデュエルディスクを装着していた。
「いかにも。ああ……あなた方にもご紹介させていただきましょう「山乃端一人」さん。私の名前は「作品No.27 病床の友人」……一般的には三岸大四郎で通っております。東京名家「三岸家」の現当主であり、画家でもあり、文筆家でもあるんですよ、私は」
「貴方は……」
三岸大四郎と名乗った男の背後から、美術館の鑑賞者たちがワラワラと現れる。
その連なりはあまりに規則だって、まるで一つの絵画作品のようだ。
群衆たちは神輿を担いでいた。
「なんで美術館に神輿が……」
ワッショイ、ワッショイ。
静かな館内に、男たちの祭囃子がこだまするぜ。
ワッショイ、ワッショイ。
神輿の上にはさ、ヴェールに包まれた比較的大きめの絵画作品が展示されていたんだな、これが。
「ワッショイ……」
思わず「山乃端一人」は呟いてしまった。何故美術館に神主がいるのか。何故美術館にワッショイがワッショイなのか。その答えがワッショイワッショイようやく分かったワッショイのだ。
考えてみれば、こんなモンスターは遊戯王カードにはいないではないか。
「ワッショイ……」
「どうやら気付くのが遅すぎましたね。デュエルディスクを着けているのがイコール我々だとでも思ってましたか?見事に引っかかってしまいましたね」
三岸大四郎の言う通りだ。
そう、きっと敵の能力は「ワッショイワッショイと叫びながら祭囃子を奏でる」能力に違いない……
「まさか……貴方の能力は」
「私の能力ではありませんよ。俣野好太郎の能力です。我々はね」
この男もまた祭囃子で召喚されたお祭り野郎なのだろう。神輿の上に、俣野巷説が立っている。
正確には、俣野巷説が何人もいる。3、4人はいるだろう。
俣野巷説たちは神輿に掲げられた作品のヴェールを剥ぎ取りはじめた。
「もうお分かりでしょう。ここにいる美術館の全員が俣野好太郎によって描かれた絵画作品。俣野は描いた作品から人物を出し入れする魔人能力者だったのですよ」
「えっ……」
「えっ……」
根本的に何か食い違いがお互いにあったような気がしたが、二人とも空気を読むことにした。
「俣野好太郎は静物画家ではない。人物画家だったのですよ。ただ、そこに描かれた人物たちはすっかり絵の外に出て行ってしまったのですがね」
作品のヴェールが剥ぎ取られた。
そこに描かれていたのは、白いドレスを纏った女性。
その顔は、俣野巷説ではない。
三岸大四郎でもなかった。
そこに描かれていたのは、「山乃端一人」が鏡を見るたび、常に見る顔。
「山乃端一人」のオリジナルがそこには描かれていた。
「なんで……「山乃端一人」がここに」
「情熱のためですよ」
その時、館の壁がBAKUHATSUした。
外から巨大なトラバサミがGEKITOTSUしたのだ。
「何者だっ!」
巨大なトラバサミから出てきたのは、この場の誰よりも真っ直ぐ美しい、貴族令嬢のような見た目をした少女だった。
「キーラ・カラス」
「誰」
第四章 奔放——好太郎と超現実主義 1921-1921
「作品名」制作年|サイズ
「作品No.58 花畑」1921年|
「作品No.59 麦わら帽子」1921年|
「作品No.60 孤独な夢の中で見た風景」1921年|
「作品No.61 碁盤と蝶の羽」1921年|
「作品No.62 鯛に真珠の静物画」1921年|
「作品No.63 黒猫の置物」1921年|
「作品No.64 赤い瀬戸物の静物画」1921年|
「作品No.65 薬瓶」1921年|
「作品No.66 婦人像」1921年|
「作品No.67 舶来品の静物画」1921年|
「作品No.68 水瓶に金魚」1921年|
「作品No.69 花火」1921年|
「作品No.70 果物の静物画」1921年|
「作品No.71 麦わら帽子を被った自画像」1921年|
「作品No.72 再び或る一家」1921年|
「作品No.73 水玉」1921年|
「作品No.74 野菜の静物画」1921年|
「作品No.75 異国情緒」1921年|
「作品No.76 北風と太陽の寓意」1921年|
「作品No.77 尾道風景」1921年|
「作品No.78 因島風景」1921年|
「作品No.79 瀬戸内海風景」1921年|
「作品No.80 坂の上の教会」1921年|
「作品No.81 無題」1921年|
「作品No.82 標本Ⅶ 車輪と虫、蝋燭」1921年|
◇
山乃端零人はダンブルモートとプロレスをしながら美術館内を突き進んでいた。
「三岸家のことについて調べたッ!その結果!!恐るべきことが判明した!!100年前の三岸家当主は三岸大四郎。俣野好太郎の学生時代からの友人であり、同じ画家を志した人物でもある!!」
「君たち、ここは危ないからさがってなさい!」
山乃端零人は警備員に止められていた。
「だが、記録によれば1918年、三岸大四郎は病死しているはずなんだっ!つまり!!それ以降の三岸大四郎は俣野好太郎の能力で作られた複製!!」
「危ないから!中は危ないから!」
警備員は意外と強かった。
「それどころかっ!三岸家当主の顔写真はッ!当代に至るまで変化していない!!しかも三岸家は当主以外の人物までッ!殆ど変化していないッ!」
「君ぃ!」
「まさかっ!三岸家の人間はっ!全てが!遊戯王カードのモンスターだとでもいうのかーーーーッ!!」
「君ぃ、遊戯王カードはしかるべき場所でやりなさい!!」
◆
妻も子供もいる身の上だが、また新しく恋をした。
その人は鏡の中にいて、会うことができない。
彼女は現実に存在しない。だが、絵画の中に描かれた存在ではなく、その人は確かに存在している。
ただ、鏡の中にしか映らないだけだ。
私は、どうしてもその人に会いたい。「山乃端一人」に。
だから、彼女を絵に描くことにした。
あの夏の日に彼女がいたらどれほど良かったろう。
私の代では成せないかもしれない。
それでも、やることに意味がある。
彼女は自由であるべきだ。
彼女の姿を現実に作ろう。私の能力なら、彼女とそっくりの姿を現実に作り出せる。
彼女に肉体を与えよう。私の描いた彼女の姿を、次の「山乃端一人」にしよう。
ただ、私も普通の人だ。倫理観もあるし、私の自由のために周りを巻き込むことは申し訳ないと思う。
だから、私の死後100年経ってからやることにしよう。
100年先のことなど誰も知らない。100年前のことを誰も知らないように。
人間には現在しか残されていない。
ただ、私はその現在を、彼女に与えたいだけだ。
(三岸大四郎全仕事Ⅱ『俣野の代弁』より抜粋)
◇
道玄坂ルーラン一丁目美術館前。
ウスッペラードとアヴァ・シャルラッハロートは、襲いくる群衆たちと格闘していた。
「コイツら、銃弾が効きやがらねえ」
「やはり人外の類か、魔人能力による被造物のようじゃの!」
群衆全てが敵だと気付いたのは、俣野巷説をハチの巣にした直後のこと。
その俣野巷説も、どれほどダメージを負っても、人間ではない動きで迫ってくる。
群衆もまた同じだ。
そもそもが人間の身体構造ではないのだろう。間接があり得ない方向に曲がるし、自身の肉体ダメージを無視した攻撃ができるから、当然、その力は常人のそれを遥かに上回る。
加えて、この圧倒的な数。まるで観光客でごった返した浅草風景のよう。
アヴァ・シャルラッハロートの配下を人知れず排除したのも、神出鬼没な行動も、単純にその統率された数の力によるものか。
「何よりオレの能力が効かねえ。こんなことは初めてだ」
「初めてかの?」
二人がこれほどまでに苦戦している理由。
それは、ウスッペラードの能力を無効化する、被造物たちの特性だった。
ウスッペラードが取り込んだものは、全て紙になる。能力である以上これは絶対。
だが、敵は元々が紙の上に描かれた絵画だ。
元が紙なら、いくら紙にしたところで意味がない。
ましてや敵は、絵画の中を自在に出入りできるようなのだ。いくら紙にしても、勝手に外に出てきてしまう。
「なんとかコイツらを一網打尽にする方法はないものかのう」
「オレと特性が近いなら……火か、水か。だがそれより、そろそろあの美術館の中に行かねえとな」
その時、二人が見たのは、巨大なトラバサミが美術館の壁にGEKITOTSUする光景だった。
「なんだあの巨大なトラバサミは」
「アレはきっと、事前に聞いていた罠マン(棺極ロックのこと)とキーラ・ダ・キーラ・キーラ・カラスカラス(キーラ・カラスのこと)じゃ」
巨大なトラバサミから、一人の男が地上に降り立った。
それはトラバサミ型のヘッドホンを被った学生服の少年だった。
「お前は……罠マン!(棺極ロックのこと)!」
「棺極ロックだ」
罠マンの上空を何台ものドローンが通過する。
単純に物量での勝負なら、罠マンの能力で押し切れる。
「無駄ですよ。我々はキャンバスの上に描かれた絵画。閉じ込められた時間の顕現。我々を無力化するにはもっと物理的な力が必要」
全身がハチの巣になった俣野巷説が嬉しそうに笑う。
その体当たりを、怪人は避けきれない。
「グっ」
「ペラいの!」
「オホホホホ、人員、統率はこちらが上。どう足掻いてもあなたたちはジリ貧よ」
まるでゾンビの群れを相手にしているようだ、とウスッペラードは考える。
「なあ、おい。そこの嘴マスク。なんかこいつらの弱点はないのか」
罠マンが怪人に話しかける。
怪人は逡巡する。この少年に答えるべきか否か。
答えるのは簡単だ。だが、問題はそこではない。
「火か?」
「ペラいの、聞かれておるぞ」
「……」
問題は、この善意の協力者の質問に答えてしまうことで、自分自身が決定的に”悪人”ではなくなってしまう恐怖があったからだ。
それは恐怖だった。
「分かるわ。分かるわ貴方のキモチ。怖いのよね?」
ウスッペラードの体に俣野巷説が纏わりつく。
それに続くように、浅草の群衆が、大通りの群衆が次々と纏わりつく。
次々と、次々と、単純な物量。
美術館のどこかにいる「赤い君」も、本質的にはこの有象無象の一つでしかないだろう。
「自分の存在をかけて戦っているつもりなのに」「その方法が手探りで何も見えなくて」
「まるで目隠しされているみたいに」「実際は真反対の方向に進んでいる」
「進んだと思ったら下がっていて」「いつもそれの繰り返し」「私たちには現在しかない」
「今だって何のために戦っているのだか」
「わかる、わかるわ」「私たちもなのよ」
「だけどこの身に余る情熱がそれを許してくれないの」「だってそれしか教えられてこなかったから」
「私たちには現在しかない」
「そう」「現在しかないのよ」
◇
三岸家が「山乃端一人」の本体を得ることが目的ならば。
あるいは話し合いで解決出来る問題なのかもしれない。
「赤い君」を間近で見た「山乃端一人」が思ったのは、そういう予感だった。
目の前の女性は白い。
否、未完成のままだ。
少年とも見分けがつかない、十代の少女があたかもウェディングドレスのような純白を身に纏っている。
それは、純粋に。作家の秘めつつも顕れ出でたる情熱そのもののようで……ただただ気持ちが悪かった。
「白い……」
「お気をつけてくださいよ、「山乃端一人」。愚妹は未完成品であるがゆえに他の作品と違って知性に欠ける。うっかり殺されてしまいかねませんよ」
なぜ、作家が作品の形を変えてしまうなどという、自身の作品を否定してしまいかねないような、このように醜怪極まる能力に目覚めたのか。「赤い君」を前にしてよく分かった。
俣野好太郎は、自分の趣味が世間に知られることを恐れたのだ。
ならば、反対に作品の中に人物を閉じ込められたのもまた情熱の為した業か。
「まあそれでも三岸家としては一向に構わないわけですが」
「白い、白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い白い赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く赤く染まらなければ!」
「危ないカラスっ」
キーラ・カラスが鞄の本を投げつける。
それは炎となって、「赤い君」を包んだ。
だが、「赤い君」は人ではないがゆえに、炎にはひるまない。
絵画として火は天敵だが、根本的に大事な感情が欠けている。
だから、止まらない。
「名前負けだわ!嗚呼、名前負けだわ!このままじゃあいけないの。私は赤く染まらないと!!染まらないとどこへもいけない!!いけないの!!」
「赤い君」は体に火をまとったまま、三岸大四郎へと飛びついた。
「えっ」
「駄目なの!!ああ、これじゃ全然赤くないじゃない!!私は赤く……コイツには血のいってきさえ流れてないというの!?情熱に欠く兄御ね!!」
「おやおや……手当たり次第というわけか。せっかくお前を次の「山乃端一人」にしてやろうと100年も手を尽くしてきたというのに、愚妹が」
「そんなこと!頼んだ覚えはないわ!」
良くわからないが、兄妹げんかのようだ。火をまとった「赤い君」が三岸大四郎と取っ組み合いをしている。
他の絵画たちは、火を恐れて近づくことができない。
「私はただ赤く染まりたいだけなの!!兄御はどうしてそれがわからないの!?」
「私だって、こんなことは俣野好太郎に頼まれたことだから……」
「そんなだからだめなのよ!兄御の馬鹿!」
その時、「山乃端一人」は火だるまで取っ組み合う二人に緑色のペンキをぶっかけた。
(これもウスッペラードに紙にしてもらって持ち運んでいたものだ。)
「緑色おおおおおおおおおおおお」
「良かった、これでもう二度と赤く染まることはないわね」
緑色のペンキに気分を害した「赤い君」は、なおも業火に包まれながら、額縁へと近づいてゆく。
「駄目よ……緑色なんかじゃ。私はアカなの。共産党カラーなの。これじゃ駄目……はやく額縁の中へ戻って汚れを落とさないと……」
ズリズリと這うように、「赤い君」は額縁の中へすっかり戻ってしまった。
話し合いの余地はもうこれでなくなったが、「山乃端一人」はそれでいいと考えた。
「さあ、じゃあキーラさん。改めてだけど、ここにいる三岸家の連中、全員燃やし尽くすのを手伝ってくださる?」
「当たり前だキーラ。そのために来たカラス」
◇
どこで何を間違ったのか、ウスッペラードには分からない。
ただ、自分のファンは殺せなかった。それだけだ。
それは今でもそうだ。むしろ時間がたつほどに強い思いになっていく。
「山乃端一人」を守りたいという思いが。
今現在でも、彼女は危機に陥っているのかもしれない。
助けに行かない選択肢はない。
「けどまあいいか!オレは薄っぺらなウスッペラードだ!!!!ペーラペラペラ!!!」
ウスッペラードは口からヤギを吐き出した。
その数、ざっと50頭ほど(ヤギは群れないとパニックになってあばれるため)。口から白い濁流が怒涛のように次々と出てくるわ出てくるわ。
ウスッペラードたちを取り巻いていたはずの絵画の群衆たちも、パニックになって逃げまどいはじめる。
「やっやぎだぁあああああああああああ!!!」
「なんでこんなところにヤギが!!」「ひいいいいいいい!!!!」
「いやああああああああ」
ウスッペラードにとっても、核爆弾のスイッチを押したような気分だ。
最凶最悪の猛獣、ヤギ。彼らの主食は……紙だ!!ウスッペラードと絵画たちはただヤギに食われるしかない!!!!
「お前らが悪いんだぜ~~~~オレは最期までこんな猛獣つかう気はなかったからな~~~~こうなれば諸共にヤギの餌だぜ~~~~~~!!やっぱヤダぁぁぁぁぁぁ」
「メェェェェェェ」「メェェェェェェ」「メェェェェェェ」「メェェェェェェ」「メェェェェェェ」「ヒツジィィィ」「メェェェェェェ」
ヤギが、ヤギが俣野好太郎の描いた絵画たちを食い散らかしながら、ウスッペラードに迫る!哀れウスッペラードは弱肉強食の掟に従うのか!!!
「あー……ストップ!!ストップじゃヤギ!!ほれ」
ヤギはすんでのところでアヴァ・シャルラッハロートに止められた。
アヴァ・シャルラッハロートとしては、聞き分けがいいぶん、ヤギは比較的扱いやすい部類だ。
「ヤギどもよ。そこにおるのは我が盟友ぞ。この儂自らの頼みじゃから、頼むからこの盟友だけは食わんでやってくれ」
「ヤギー」「メェェェェェェ」
このあと、ヤギたちは罠マン(棺極ロックのこと)が瞬間的に生成したヤギ誘導装置(ヤギは仲間のフェロモンを追ってついて行く習性がある)で無事にウスッペラードの口の中へ帰還した。
絵画たちの大半はヤギに食われ、残党も罠マン(棺極ロックのこと)が瞬間的に生成したビーム爆撃機付きのドローンで焼き殺された。
「罠マン強すぎない?」
「だから棺極ロックだって」
別の世界の棺極ロックはこんなの目じゃないくらいの激やば生物を撃退できるくらいなんだからしょうがない。
「さて、さっさと美術館の中へ入るとするか。いまごろ「山乃端一人」もピンチかもしれん」
「なあ、それだけどよ……」
ウスッペラードは少しバツが悪そうに、アヴァ・シャルラッハロートと罠マン(棺極ロックのこと)に声をかける。
「なんじゃい。さっさと言えい」
「アヴァマン、そして罠マン。オレは「山乃端一人」を助けてやりたい。だから頼む。助けてくれ」
「アヴァ・シャルラッハロートじゃ」
「棺極ロックだってば」
◆
山乃端一人たちは大ピンチだった。
キーラ・カラスがなんか急に「燃やせる本がもうない」とか言い出したのだ。
「ごめんなのだキーラ。ここに来るまでに結構使っちゃったカラス」
「いやあ、仕方ないよそれは」
キーラはどうも文字媒体を炎にして燃やせるらしい。だが、ここは美術館。
燃やせる本などないのだ。
「ふふふ、一時はどうなることかと思ましたけど、どうやら赤く染めるのに不都合はないみたいね」
絵画から再出現した「赤い君」が嬉しそうに言った。しかも先ほど受けたダメージまで全回復していた。今は元気に他の絵画たちとわっしょいわっしょいしている。
「うう……こんなの反則キーラ……」
「なにか……燃やせる本は」
鞄の中を漁った「山乃端一人」は一枚の手紙があることに思い至った。
これならば、キーラの能力であるいは。
だが、その手紙は「山乃端一人」が、ある特撮番組に出演する怪人にあてた手紙の下書きだ。本文はすでに送ってしまったが、下書きの方は肌身離さず持ち歩いている。
「キーラさん……」
「待たせたな!!」
その時、三つの紙飛行機が天井を飛来した。
紙飛行機はウスッペラード、アヴァ・シャルラッハロート、そして罠マンに変形した。
「罠マン!」
「もういいよそれで」
「ウスッペラードさん!」
「無事かよ~~大ピンチみてえだなぁ」
「アヴァも来たぞい」
ウスッペラードは辺りを見回すと、焼け焦げになって自身のキャンバスへ戻ろうとする最中の三岸大四郎を見つけた。
その視線の先には、「作品No.27 病床の友人」1918年の絵画。
その絵の中には、山乃端二人と情熱が確かに生魚を食わされながらベッドに縛り付けられている。
「じゃあちょっと行ってくるわ」
「えっちょちょ」
「山乃端一人」の制止も聞かずウスッペラードは絵画の中へ飛び込む。
「ええ……」
それから5秒くらい経過しただろうか。
いきなり「ポン」という軽快な音がしたかと思うと、山乃端二人と情熱、ウスッペラードが絵画の中から飛び出した。
「ええええええ!!?」
「ああ、やっぱなー。こうだよなー」
ウスッペラードは情熱を窓から放り投げると、ぐったりしている山乃端二人を「山乃端一人」に預けた。
「ちょ、ちょっとペラードさん!!何が起きたんですか!?」
「えー……説明めんどい同じタイプのスタンド的な?」
奥行きの存在しない平面宇宙の出身であるウスッペラードは本来「二次元を三次元にする」能力者である。
それがなぜか、三次元では能力が「三次元を二次元にする」能力として機能する。
つまり、完全な平面である絵画世界では、ウスッペラードは絵画に取り込まれた人間を元に戻すことができるのだ。
「こっ殺せええ!!こうなれば最早殺すのみ!!やつらを血祭りに」
ウスッペラードは絵画たちを無視して、口から一冊の本を取り出した。
「キーラ・カラス!!お前だろ?おれにこの妙な本を送り付けたのは!!」
「えっ知らんカラス……」
「えっ」
本のタイトルは「炎の画家 三岸節子」
「だけど、その本なら、ここにいる全員倒せる気がするカラス!」
「よし!任せた!!」
それは、一人の画家の人生をつづった本である。
自身も画家でありながら、好色だった夫、三岸好太郎。
三岸節子と三岸好太郎。
二人とも実在する人物だ。
嘘で塗り固められた情熱を供養するのに、この情念ほど適した本はあるまい。
それは、メタ認知を持つ上位世界のキーラ・カラスがウスッペラードに送り付けた、プレゼントだった。
その炎は、一瞬にして俣野好太郎という偽りの全てを焼き尽くした。
☆ダンゲロスSSエーデルワイスヴィラン名鑑
No.005
名前:俣野好太郎
「作品No.1 風景画」1912年
「作品No.2 茶畑」1914年
「作品No.3 或る農家の食卓」1915年
「作品No.4 山」1915年
「作品No.5 鵯」1915年
「作品No.6 早朝の駅舎」1916年
「作品No.7 屋根の上を飛ぶ蝶」1916年
「作品No.8 シャボン玉」1916年
「作品No.9 海洋または船上の風景」1916年
「作品No.10 靴」1916年
「作品No.11 夜汽車」1916年
「作品No.12 雛人形」1917年
「作品No.13 或る一家」1917年
「作品No.14 母と娘」1917年
「作品No.15 線路上の死体」1917年
「作品No.16 夏狂乱」1917年
「作品No.17 舞台」1917年
「作品No.18 懐郷」1917年
「作品No.19 簪」1917年
「作品No.20 蟻の巣」1917年
「作品No.21 水面の陽を渡る魚」1917年
「作品No.22 喇叭と弦楽器」1918年
「作品No.23 白樺」1918年
「作品No.24 笑顔」1918年
「作品No.25 岩と注連縄、蟷螂」1918年
「作品No.26 浅草風景」1918年
「作品No.27 病床の友人」1918年
「作品No.28 痕跡」1919年
「作品No.29 無花果Ⅱ」1919年
「作品No.30 夕田風景」1919年
「作品No.31 祭りの夜」1919年
「作品No.32 標本Ⅰ 水槽の魚」1919年
「作品No.33 大通り」1919年
「作品No.34 雲の上を飛ぶ金魚」1919年
「作品No.35 標本Ⅱ 面」1919年
「作品No.36 青と白のコンポジション」1919年
「作品No.37 パイプと蜘蛛」1919年
「作品No.38 群がる鳥」1919年
「作品No.39 祭りの夜」1919年
「作品No.40 壁の染みまたは黒い顔」1919年
「作品No.41 標本Ⅲ ナイフとフォーク、皿」1920年
「作品No.42 標本Ⅳ 割れたガラス、翼」1920年
「作品No.43 標本Ⅴ 甲虫たち」1920年
「作品No.44 標本Ⅵ 形見」1920年
「作品No.45 湘南風景」1920年
「作品No.46 手形」1920年
「作品No.47 実りの秋」1920年
「作品No.48 カーテン」1920年
「作品No.49 バイオリン、ピアノ」1920年
「作品No.50 飛ぶ貝殻たち」1920年
「作品No.51 月に魚」1920年
「作品No.52 机上の風景」1920年
「作品No.53 机上の風景Ⅱ」1920年
「作品No.54 水飴」1920年
「作品No.55 静物画」1920年
「作品No.56 ストライプ」1920年
「作品No.57 風車のある風景」1920年
「作品No.58 花畑」1921年
「作品No.59 麦わら帽子」1921年
「作品No.60 孤独な夢の中で見た風景」1921年
「作品No.61 碁盤と蝶の羽」1921年
「作品No.62 鯛に真珠の静物画」1921年
「作品No.63 黒猫の置物」1921年
「作品No.64 赤い瀬戸物の静物画」1921年
「作品No.65 薬瓶」1921年
「作品No.66 婦人像」1921年
「作品No.67 舶来品の静物画」1921年
「作品No.68 水瓶に金魚」1921年
「作品No.69 花火」1921年
「作品No.70 果物の静物画」1921年
「作品No.71 麦わら帽子を被った自画像」1921年
「作品No.72 再び或る一家」1921年
「作品No.73 水玉」1921年
「作品No.74 野菜の静物画」1921年
「作品No.75 異国情緒」1921年
「作品No.76 北風と太陽の寓意」1921年
「作品No.77 尾道風景」1921年
「作品No.78 因島風景」1921年
「作品No.79 瀬戸内海風景」1921年
「作品No.80 坂の上の教会」1921年
「作品No.81 無題」1921年
「作品No.82 標本Ⅶ 車輪と虫、蝋燭」1921年
「作品No.83 画家のアトリエ」1922年
「作品No.84 行灯」1922年
「作品No.85 標本Ⅷ ロザリオ」1922年
「作品No.86 標本Ⅸ 帯と簪」1922年
「作品No.87 鞠と簪」1922年
「作品No.88 祝福」1922年
「作品No.89 曲がり角」1922年
「作品No.90 家」1922年
「作品No.91 楽譜」1922年
「作品No.92 時計草」1922年
「作品No.93 無花果」1922年
「作品No.94 標本Ⅹ 蝶と夏の花」1922年
「作品No.95 椅子」1922年
「作品No.96 春の山」1922年
「作品No.97 冬の海」1922年
「作品No.98 秋の装い」1922年
「作品No.99 仮面」1922年
「作品No.100 ナイフとブーケ」1922年
「作品No.101 あの夏の日の赤い君」1922年
第五章 晩年——「いのち」を描き出す 1922-1922
「作品名」制作年|サイズ
「作品No.83 画家のアトリエ」1922年
「作品No.84 行灯」1922年
「作品No.85 標本Ⅷ ロザリオ」1922年
「作品No.86 標本Ⅸ 帯と簪」1922年
「作品No.87 鞠と簪」1922年
「作品No.88 祝福」1922年
「作品No.89 曲がり角」1922年
「作品No.90 家」1922年
「作品No.91 楽譜」1922年
「作品No.92 時計草」1922年
「作品No.93 無花果」1922年
「作品No.94 標本Ⅹ 蝶と夏の花」1922年
「作品No.95 椅子」1922年
「作品No.96 春の山」1922年
「作品No.97 冬の海」1922年
「作品No.98 秋の装い」1922年
「作品No.99 仮面」1922年
「作品No.100 ナイフとブーケ」1922年
「作品No.101 あの夏の日の赤い君」1922年
◇
画家の俣野好太郎と聞けば、知っている人はすぐにある二人の画家を思い浮かべるだろう。
否、あらゆる情報が飽和したこの不条理な社会では、当人が情報を知っている必要すらない。「俣野好太郎」の文字列を、PCの検索画面に向かって入力すればいいだけだ。ただそれだけで、「俣野好太郎」という画家の謎に満ちた正体が明らかになる。
嗚呼、なんてつまらないネタバラシなのだろう。
週刊少年ジャンプの感想が早朝にTwitterのライン上を流れるのと同じように、現在という時間軸にはもはや謎は残される余地がなく、したがって人々は過去か未来に目を向けるしかない。
「つまりね、一人。俣野好太郎という名前は、葛飾写楽や横山栖鳳なんて言っているのと同じなの。トーべ・シュルツなんてのもいいと思う」
「じゃあ、藤子・F・不二雄Aなんてのもどうかなぁ……ねぇ、キーラ?」
「それを言うなら藤子不二雄が正しいわ」
結論から言ってしまえば、渋谷という戦場には殺人鬼なんていない。そもそも俣野好太郎なんて画家がいないのだから。描くべき画家がいなければ、描かれる絵もまた存在しない。
「だけどウスッペラードはこれで正義の味方になってしまったわね」
「どうかしら。本人的には、悪役であることをまだあきらめていないのかもよ」
上位世界でメタ会話をするキーラ・カラスと山入端一人。
だが、その陰では……
ウスッペラードたちの世界に、100体の胡乱柳生と、1億体の精子が迫っていた!!!
最終話へ続く!!!!