「正不亭巡査部長、良いニュースと悪いニュースがあるが聞くかね?つーか聞け」

 色々知ってそうかつ、ほっとくと危険なイッチを警察署に連れて帰った翌日、ブルマニアンは課長から声を掛けられた。

「さあ、どっちから聞きたい?」
「こういう時って良いニュースから聞かないと話がわけわからなくなりますから、選択肢無いですよね」
「その通り。では良いニュースから話そう。山乃端一人の襲撃者は全員無力化した。正確には無力化できてないのもいるが、当面の脅威では無くなった」
「悪いニュースは?」
「もうすぐ転校生が来る。こいつ相手じゃ君は役に立たんからこの警察署で待機だ」

 課長の話を聞いたブルマニアンは、肩の荷が降りてホッと胸を撫で下ろした。しかし、それと同時にこのまま大人しく待っていて良いものなのかと疑問が湧き上がった。

【選択肢】
A:大人しく従う。
B:自分に出来る事が無いか尋ねる。

 ブルマニアンの脳内に選択肢が浮かび上がる。良いニュースと悪いニュースとは違い、ガチモンの重要さを感じる。

「えっと、私は…」

 本来ブルマニアンの性格や能力は殺し合いには向いていない。前回まで上手く行っていたのも課長が相性の良い相手の所に送り出したからだ。

(待って、何で課長はそこまで知ってるの!?)

 激しく今更ではあるが、ブルマニアンは課長の、そして自分の立ち位置の違和感に気付いた。ブルマニアンがこれまで出会った山乃端一人や協力者は皆「キョースケ」という存在に頼まれ守護者となったが、ブルマニアンは課長からの命令でそうなった。ブルマニアンが山乃端一人と会ってしまったからという理屈自体は納得なのだか、そもそも課長はいつ誰から山乃端一人の危機を聞いたのか。

「あ」

ブルマニアンは気付いた。

【選択肢】
A:大人しく従う。
B:自分に出来る事が無いか尋ねる。
C:さっき生じた疑問をぶつける。←決定

「課長って下の名前何でしたっけ?」
「キョースケだが?」

 ブルマニアンの中で『課長=キョースケ=上位世界の依頼人』という式が完成。それと同時にM字開脚で倒れ込み激しく失禁!

「まさか課長が上位存在、俗に言う転校生的なあれだったなんてェェ!今まで影で人使い荒いとか能力が頭おかしいとか愚痴言ってすみませんでしたァァァ!でも悪口の出処は遠藤で、私は無理やり言わされただけなんですゥゥゥ!」
「落ち着け。確かにキョースケだが、山乃端一人の守護者に声掛けしてた鏡助とは別人だ」
「良かった〜。あ、さっきの愚痴の件は忘れて下さい」
「まあ、別人と言っても分身みたいなもんだがな」
「悪いのは全部遠藤なんでしゅゅゅう!」

 でかい尻を支点にしてコマの様に回転して泣きじゃくるブルマニアン。課長はビリーを呼び、ブルマニアンの股間を掴んで停止させ説明をした。

 鏡助はこの世界と無数の並行世界を生み出し管理している存在だが、課長はその世界の一つに住む鏡助の代理人でしかない。鏡助が鳥山明本人だとしたら、課長はペンギン村在住の鳥山明なのである。

「で、その鏡助が最後の敵、転校生って訳だ。この世界の創造主に法律が通用するか?しないよな。だからお前は休んどけ」
「えっ、ちょっと待って下さい。鏡助が一人ちゃんを助ける為に各世界にメッセージを飛ばしたんですよね?」
「そうだ。そして奴は全ての山乃端一人及び彼女達を狙う連中を吸収し同化する事で目標を達成しようとしている。同じキョースケとして、俺が止めるしかねえだろ。ったく、何してくれてんだあいつは」

 簡単には信じられない話だった。山乃端一人を救う為に動いていたと思われてた人物が一番の悪党で、それが課長と同一存在だとかビックリするどころの話じゃない。

 課長の冗談か勘違いであって欲しいとブルマニアンは願った。しかし、その願いは第三者によって打ち砕かれる。

「課長さんの言っている事は本当ですよ。彼は鏡助と同じ顔をしていますし、私の嘘を見破る力も反応しない。それに、私の知る鏡助は山乃端一人の同化を実行してもおかしくない男でした」
「イッチさん!生きとったんかワレ!」

 解説王イッチ復活。叩いたら治った。しかし、イッチが課長の話を肯定したという事は、創造主がラスボスというのがガチだという事だ。やばい。

「私じゃ絶対勝てない相手なのはわかりましま。でも、それは課長も同じじゃないですか?」
「まあ、勝てんだろうな。山乃端一人と襲撃者を吸収し完成した奴、ヤマノハ鏡助とでも呼ぶべきそれには誰も勝てない」
「でも課長は戦いに行くのですよね?警察官では無く自分自身を止める者として。なら、私も少女の味方として共に戦います」

 そう言った直後、ビリーがブルマニアンをダンボールに押し込んだ。

「僅かの期間に成長したねえ、その言葉が聞きたかった!だが、俺には俺の、君には君の戦場がある」

 課長は『アイリ・ラボ』と書かれた郵送伝票をダンボールに貼り付け蹴り飛ばす。

「行ってこーい!」
「最初から休暇与える気無かっただろおおおお!」

 ドゴォ!

 ブルマニアンを入れたダンボールは、無事に姫代学園の教室跡地に着陸。

「徳田愛莉さーん、お届け物でーす」

 UFOが飛び立った時のままのグチャグチャな教室、その中の空間が歪みアイリ・ラボの出入り口が出現すると、ラボの主が出てきてブルマニアンをビンタした。

「この変態女装者がー!」
「いったーい!」
「よし、ブルマニアンさんが性別偽ってた事への罰はこれで終了!後十回は殴りたいけど、嘘つきはお互い様だしな!そんじゃこれより、ヤマノハ鏡助対策を始めるぜ!」
「話が早ぁい!」

 愛莉は既に課長やイッチからブルマニアンの事や鏡助の真の目的を聞いていた様だ。手際よくブルマニアンを黒板の前に座らせると、説明を始めた。

「鏡助は転校生だ。しかも、山乃端一人を吸収してより高みの存在になろうとしてるんだぜ!しかし、弱点はある!それは奴が山乃端一人という存在が大好きだという点だぜ!」
「じゃあどうするの?まさか、敵より先に山乃端一人を殺害するとか?」
「バカ野郎!あたしのヒトリをそんな事はさせねー!だが、発想自体は近いんだぜ!今からこの作戦のキーマンを紹介するんだぜ。おーい、入ってこーい!」 

 愛莉がパンパンと手を叩くと、三人の女性がラボに入ってきた。

「山乃端一人三銃士を連れてきたぜ」
「山乃端一人三銃士!?」

 ラボに入ってきた三人の一人の内、二人はブルマニアンのよく知る一人だったが、残り一人は初めて見る一人だった。(ああ、ややこしい)

「右から順番に、あたしの親友姫代学園産ヒトリ、キーラさんやブルマニアンさんが知ってる希望崎産山乃端一人、そしてバイクから間一髪逃れた山乃端一人だぜ」
「は、はじめまして。私は山乃端一人、関西生まれ東京暮らしの十七歳です。学校ではチアリーディング部に所属していて、あっ、今はこんな情報要りませんよね。す、すみません」

 ブルマニアンと同じぐらいの体格の黒髪の少女が、ペコリと頭を下げた。

「愛莉ちゃん、この子は?」
「あたしもよく知らねーんだけど、イッチさんや課長さん曰く、どこかの世界で守護者が倒れこの子も敵にやられる所さんだった。それを何とか救ったって話」
「ふむふむ」
「だから、この子は鏡助も存在を確認し切れて無い山乃端一人だぜ。ブルマニアンはこの子のフリをして鏡助に吸収されて、自慢のチンチンで内側から破壊するんだぜ!」

 つまり、『山乃端一人の中に俺以外のチンチンが混じってるじゃないですかやだー!オカマリアリティショック!脳が破壊されるー!』作戦である。

「でもそれって…」

 ブルマニアンは顔を曇らせる。囮捜査官であるブルマニアンは、この手の作戦自体はできないことは無い。だが、この作戦を実行するという事は、即ち鏡助の目的をほぼ全部達成させるという事である。守護者は全滅し、山乃端一人もほぼ全員一度は吸収される。

「ブルマニアンさんの言いたい事はわかるぜ。だが、鏡助がいる限りヒトリのピンチは続く。あたしもヒトリ達も全員やるかやられるかの覚悟は出来てるんだぜ!」
「何よ、それ。私だけ残して勝手に話進めて」
「ラボと外じゃあ時間の流れが違うから、仕方ないんだぜ」
「いいわ、少女の味方ブルマニアンは山乃端一人として変態に食べられてあ・げ・る」

 こうしてブルマニアンの山乃端一人への変身が始まった。幸い、入れ替わる対象の山乃端一人はブルマニアンと背格好が近いし、このアイリ・ラボなら多少の見た目の差は埋める事が可能だ。

「んじゃ、とりま股間をペッタンコにするぜ!」
「ギニャー!」
「安心するんだぜ!チンチン残ってないと意味無いから一時的に埋没させるだけだぜ?」

 万力の様な機械で無理やりブルマニアンの股間が圧縮されていった。

「うわぁ…痛そう」

 入れ替わる予定の山乃端一人は、ブルマニアンが感じているだろう痛みを想像して、顔を背ける。

「他人の心配してる場合じゃないぜ!あっちがおめーになるから、おめーはブルマニアンにならなきゃならないだぜ!と、ゆーわけで股間出っ張らせる!」

 愛莉が掃除機を取り出し、入れ替わる予定の山乃端一人の股間にノズルを押し付けスイッチを入れる。

「ぴゃあああん!!!」

 三十分後、ブルマニアンの股間が平になり、山乃端一人の股間は腫れ上がった。 

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 ブルマニアンが入れ替わり作戦の為に肉体改造している頃、課長・ビリー・イッチの三人は決戦のバトルフィールドに転移していた。

 鏡助の居る時間の止まった世界。鏡助が許可を出さない限り誰も生きたままここに来る事は出来ない。それは課長も例外ではない。はずだった。

「やー、凄いねイッチさんの魔人能力は」
「私が行ったのはこの場所の『住所』を知る所までです」

 イッチの一画方でこの世界の呼ぶべき名を知り、課長の飛燕脚便でその場所へ辿り着く。両者の魔人能力が揃って初めて成し遂げられる芸当である。

「懐かしいな。俺とビリー君はここで生まれたんだ」
「イエス。デスガ、あの時はこんなに死体無かったデース」
「私か前にここに来た時よりも更に増えてますね」

 イッチの言う通り空間内は死体、正確には死ぬ直前の状態でこの場に転送され状態固定された死体もどきが大量に浮かんでいた。イッチと課長はその中から知り合いの姿を見つけ出す。

「鬼姫さん、今度は話しかけてくれないのですね。では、また後で」
「遠藤、これが終わったら俺の悪口広めたのがお前かどうかハッキリさせるからな」
「クリーピングビューティ、ルルハリル、シャルラッハロート、まさかこんな場所で会おうとは。ユー達がここに居るという事は、ミー達以外の生き残りは期待薄デース」

 物言わぬ知り合いに軽く挨拶し先に進むと、

「やあ」

 鏡助(ラスボス)が笑顔で出迎えた。

「イッチさん、本当に残念です。まさか、貴女が『死神』の側に立ち僕と戦うなんて」
「誰が死神だゴルァ!」

 生みの親から死神呼ばわりされた課長が吠える。

「死神には違いないだろう?君は世界の崩壊を食い止める為に、山乃端一人を最終的には殺そうとしていた」
「確かにそんな事も考えたよ。だが、山乃端一人を守る為に戦うあいつらを見て、そんなのはハッピーでもセーフティでも無いと知った。だから、お前も山乃端一人を吸収するなんて馬鹿な真似はやめないか?」
「もう遅い。既に君が担当する世界に匿っている者以外は吸収した。もうすぐ僕は究極の存在になるだろう。僕自身が山乃端一人であり山乃端一人を狙う強敵NPCでもある。これでもう彼女が死ぬ事は永遠に無い!」

 話が通じないと理解し、課長達は身構える。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「ハイ、それじゃあリハーサルやってみるんだぜ!」
「「はーい」」

 変装を完了したブルマニアンと三人目の山乃端一人(以下ヒトリCと呼ぶ事にする)は、あいきゅうごしゅうさんマン徳田愛莉監督の指導に従い鏡助が来た時の演技を始める。

「イッチさん達が鏡助と戦うが、転校生には流石に勝てねえ!だが、手傷を負わすのには成功した!冷静さを失った鏡助がここにやって来るだぜ!」
「ガオー、山乃端一人は食べちゃうぞー」
「ガオー、私は山乃端一人大好きおじさんだぞー」

 愛莉の友人のヒトリAとキーラの友人のヒトリBが、肩車してブルマニアン達の前に現れた。

「さあ、理性を失った鏡助が、生き残りの山乃端一人を吸収しに来たぜ!ブルマニアンは一人の前に立ち守ろうとする!よーいアクション!」

 愛莉の合図を受け、ブルマニアンが華麗に名乗りを上げる。

「待ちなさい!たとえ神であろうとも、少女の敵はノーサンキュー!少女の味方ブルマニアン、最後の戦いいざ参る!」
「カーット!」

 愛莉が演技を中断させて、ブルマニアンの頭をメガホンで叩く。

「違う違う違うそうじゃそうじゃない。ブルマニアンさんは今はヒトリCだろ!名乗りをするのはそっち!ブルマニアンさんに扮してるヒトリの方!」

 時間は有限だ。頑張れブルマニアン。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「そう簡単に僕を倒せるかな」

 イッチはペンナイフで鏡助を攻撃
 鏡助はATフィールドでペンナイフを防いだ

「このAda Tiku フィールドで君達の攻撃は防ぐぞ!」

 課長はピストルで鏡助を攻撃
 鏡助はATフィールドでピストルを防いた

「僕には比類なき中二力が身についた」

 ビリーはヘッドロックで鏡助を攻撃
 ミス

「強敵NPCの数々の技、君達で試してやろう!」

 イッチは鏡助の弱点を調べた
 鏡助の存在がめまぐるしく変化しており弱点を見つけられない

「きたぞ、きたぞ!」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「うがー!これが鏡助の最終形態じゃーい!」
「こうなったら、もう元に戻れんのじゃーい!」

 鏡助役を演じるヒトリA&Bがエビとカニの着ぐるみを被り現れた。実は、イッチ達を倒した後に襲撃してくるだろう鏡助がどんな姿をしているかは既に予想がついている。キーラが『ヤマノハ鏡助の設定ならwikiで見ました。なんか、ネオエクスデスとラヴォス足した様なの』と事前に教えてくれたのだ。ブルマニアンが出会った女性全員頭おかしい説。

 だが、まあそれはそれとして、予想が外れる場合もある。キーラも『いや、バスケットマン・ハルって誰ですか』って言ってたし。なので予想が外れた時の備えかつ、愛莉が作ったパワードスーツの試運転で鏡助役の二人はリハーサルの度に別の格好で登場している。

「よーし、それじゃあ次のシーン撮影するのぜ。3・2・1」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「では、そろそろ行くとするか!」

 鏡助は連続時計投げで全体を攻撃
 イッチに82ダメージ
 イッチは一時行動不能になった
 課長に79ダメージ
 課長は一時行動不能になった
 ビリーはダンボールで連続時計投げを防いた

「ボス達が動ける様になるまで、ミーが守りマース!」

 ビリーはダンボールを構えている
 バリアが味方を包んだ

「そんな物で僕の攻撃を止められるとでも?」

 鏡助はDX太陽剣でビリーを攻撃
 ビリーは炎に弱い
 ビリーに887のダメージ 
 ビリーは倒れた

「くそっ、ディフェンスに定評のあるビリー君が実質一撃かよ!イッチさん、動けるか?」
「もうちょいです」
「さあ、次は君達だ。残り二人、あまり時間は掛けたくないね」

 まだ動けないでいるイッチ達に鏡助が迫る。確実に仕留めようとする鏡助はイッチと課長に全集中していた。だから、背中がガラ空きだ。奇襲するなら今しかねえ!

「ぐわー!な、なんだ!僕の身体に何が起こった!」

 突如、鏡助の背中が赤と青の炎に包まれた!

「体が…くずれ…」

 それはまだもうちょい先である。残念ながら、これは鏡助の自滅ではない。

「体は崩れてない。よ、よーし、セーフセーフ!ならこれは誰かが僕を背後から攻撃したという事か。イッチさん達以外で、この時の止まった世界に来たのは誰でどうやって来たのかな?」

 鏡助が振り返ると、そこには四人の戦士がいた。

「時を止めるとか、そういうのは慣れ親しんでるっすから」

 有間真陽参戦!

「転校生ではありませんが、私もメタフィクションの世界に生きる者なのでこのくらいは」

 キーラ・カラス参戦!

「死体に紛れてチャンスを待ってたよ」

 宵空あかね参戦!

「時間指定便でここに送られたんだが、お前が敵って事でいいのか?」

 チャトラン・ユリスキー仮釈放!


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ストップ」

 お腹がすいたのでリハーサルを休憩し、食事しながら鏡助戦に参加したメンバーについて聞いていたブルマニアンは、場違いな名前を耳にし思わず待ったをかけた。

「愛莉ちゃん、鏡助に挑みに行ったメンバーもう一回順番に名前言って」
「さっきも言ったけど、ブルマニアンさんに縁のあるメンバーがほとんどだぜ。有間真陽っていう人だけは知らないんだったぜ?」
「ううん、その人は多分問題無いの。私が気になったのは最後の奴」
「チャトラン・ユリスキーだぜ?」

 間違いない、ブルマニアンが逮捕した百合に挟まれタイガーのユリスキーだ。ブルマニアンが戦いに巻き込まれる切っ掛けになったあの変質者だ。

「なんでアイツが!?」
「ヒトリの観測が目的な変態らしいからな。全てのヒトリを取り込もうとする鏡助の討伐には協力的だったんだぜ」
「それはそうだけど…一人ちゃんを狙った犯罪者を使うのはちょっと」
「大丈夫大丈夫。そもそも集まったメンバーは大体ヒトリが好きで犯罪を何かしらやってる連中なんだぜ。あたしもだけどな」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「ふざけんな!お前はこの戦場に居ちゃだめだろ!これラストバトルだぞ!」

 鏡助はユリスキーにぶち切れていた。

「え?俺が来たら駄目なんか?何で?」
「もっとこう、あるだろ!他のプレイヤーキャラと共闘とか!」
「それって、あんたが倒したんだろ?」
「ああそうだよ!作者が全キャラ出すの無理、ブルマニアンの関わった世界の設定だけでやると決めたから僕が全部倒してる設定なんだよ!」

 そういう事である。マジすんません。私はこの最終戦はこれまで共闘した相手の世界線までの設定で書いてます。全キャラチャレンジする作者さんはマジリスペクトします。

「でも、だからってプロローグの噛ませキャラをここで持ってくるか?おい死神ぃ!何でこんなんを僕と戦うキャラとして選出した!?」

 ユリスキーと話しても埒が明かないと思った鏡助は、彼を連れてきた課長を問い詰める。

「いや、だってさ、お前全PCの情報に加えて強敵NPCの力まで持ってるだろ?なら、プロローグの敵で殴ればいいかなって。それに、そのユリスキーの能力は今のお前にかなり刺さるぜ?」

 Q.PCも強敵NPCも対策してるボスを倒せますか?
 A.プロローグ魔人で殴る!

「タイガーバズーカ!タイガーショット!タイガーランページ!タイガーフット!」
「ウギャー!」

 ユリスキーのタイガー乱舞が鏡助にむっちゃ効いている!山乃端一人を含むレズカップルに挟まる為ならいくらでも強くなるユリスキーと、山乃端一人詰め合わせ福袋である鏡助。この組み合わせならそりゃあこうなる。

「く、くそっ停まれ!」

 鏡助は時計をぶつけてユリスキーの時間の停止を目論む。それは見事成功し、ユリスキーは動かなくなる。

「ホイっと、動かすっす」

 しかし、真陽がユリスキーに触れたらそれだけで時間停止が解除される。

「フヒヒ、俺復活!タイガーニー!タイガースープレックス!タイガー道場!タイガー魔法瓶!」
「グキャー!」
「鬼火置いときますね」
「追加ダメージグギャー!毎ターン継続でグギャー!」
「何でキリスト教の本を何度も出したんですか?」
「僕に聞くなグギャー!」

 鏡助は一方的にボコられていた。ATフィールドも既に破壊され、ダメージが蓄積されていく。キーラのキリスト教の本出しすぎ発言は課長にもダメージはあったが、全体としては勝利が確定しつつあった。

「待て!待って!何だこのパーティ!僕を倒すには時間停止対策とメタフィクション対策と山乃端一人特攻が必須なんだぞ!何で全部揃うの!」

 そんなん言われても、実際ブルマニアンルートでは鏡助攻略に必要なメンバーが揃うのだから仕方ない。

 そして、遂にその時はきた。

「体が…崩れる…」

 転校生をボコれる程のパワーに自身が耐えきれずユリスキーは爆発した。至近距離にいた鏡助は致命的ダメージを負い、人の姿を保てなくなった。

「やったっすね」
「いえ、これでようやく外殻を破壊しただけです」

 キャラデータに自信ネキなキーラが、戦いが終わって無い事を告げる。

「ヨクモヤッテクレタナ!オマエラゼンインコロス!」

 爆発の中心からラスボス集合体となった鏡助が現れ、課長とイッチは絶望の表情を浮かべる。もちろん演技である。

「うわー!第一形態すら強かったのに、ユリスキーととビリー君抜きでは絶対勝てないぞー(棒)」
「まずいですねー、帰りのダンボールの行き先が姫代学園に設定してあるから私達が負けたら直接乗り込まれますー(棒)」

 理性があった頃の鏡助なら、それが罠であると簡単に見抜けただろう。しかし今の鏡助は罠にかかる。もしかしたら罠には気づいていたかも知れないが、山乃端一人を全部手にしたいという欲求がダダ漏れな今は止まる事を許さない。

「ヤマノハヒトリヲ…ワガテニィ!」

 見た目と人格が崩壊しているが、そのパワーはさつきの比ではない。彼を倒せる者は存在せず、挑戦者達は歯向かう気も失いこれまでのお返しとばかりに蹂躙された。

「ま、最低限の仕事はできたかな。正不亭、愛莉ちゃん、皆、後頼んだぞ」

 ダンボールに乗り込む鏡助を見つつ、課長は力尽き、そして空間のルールに従い生と死の間で停止した。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「来たぜ。打ち合わせ通りにやるぜおめーら」

 空間の歪みを感じた愛莉がヒトリトリオとブルマニアンに声を掛ける。ブルマニアンは既に学生服で、ヒトリCはブルマニアンの格好だ。

 いつもは少女達の前に立ち守ろうとするブルマニアンだが、今回はヒトリABと一緒にヒトリCの後ろで震える演技をする。

「ミツケタゾ、ヤマノハヒトリ!!」

 ダンボールに無理やり下半身を詰め込んだ鏡助が校舎に出現する。

「一人ちゃん達は私が守る!少女の味方ブルマニアンがね!さあ、私が食い止めるから、一人ちゃん達は愛莉ちゃんの後に続いて離れて!」
「わ、わかりました!きゃあん!こんな時に転んじゃった!」
「大丈夫?一人ちゃん今そっちに行くから!」

 ヒトリCに変装したブルマニアンは練習通り鏡助の近くで転び悲鳴をあげる。ブルマニアンに変装したヒトリCが助けに行くが、本当に助けに行くと意味無いので、鏡助の到着に間に合わない程度の早足で向かう。後は鏡助がブルマニアンを取り込めばオカマリアリティショックで脳破壊して勝利できる。

 だが、鏡助はブルマニアンには目もくれず、ブルマニアンの姿をしたヒトリCを丸呑みにした。

「ウソ、何で?おいこら鏡助!私を食べなさい!ほーら、美味しそうな山乃端一人がここにいるわよ!」

 必死に尻を振り誘うが、鏡助はブルマニアンには目もくれず残り二人の山乃端一人へと視線を移す。

「アトハ、オマエラダケダ…グオオオ!」

 突如苦しみだす鏡助。ブルマニアンは身代わりになれなかった。でも、鏡助は本物を食べて苦しんでいる。訳がわからないでいるブルマニアンの下に愛莉がやって来て説明する。

「安心するんだぜ。作戦は成功したんだぜ」
「ええっ?でも…」
「黙っていてごめんねだぜ。実はアレはヒトリじゃなかったのぜ。この作戦は、ブルマニアンさんとあの偽のヒトリのどちらが吸収されても良かったんだぜ」


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 話はブルマニアンが愛莉に再会する前に遡る。
 アイリ・ラボの中にはラボの主愛莉と二人の山乃端一人の他に、鏡助戦メンバーが勢ぞろいしていた。

「なるほど、あんたらが鏡助を弱らせてからブルマニアンさんをヒトリに変装させて食わせる。でもさ、何でそのブルマニアンさんを作戦会議に呼ばないんだぜ?」
「それは、これがあの人の物語だからです」

 愛莉の持つ当然の疑問に対してキーラが答える。

「これはブルマニアンさんの視点で進む物語。だから、創造主である鏡助はブルマニアンさんの視点を通じて私達の作戦に気付く可能性がある」
「そうです、私もそれ言おうと思ってました」

 キーラの言葉にイッチが追随するが、それは無視して愛莉は質問を続ける。

「ブルマニアンさんには偽物はブルマニアンさんだけと言って、実際にはもう一つ偽物を用意する。そこまではわかったぜ。しかし、ブルマニアンさん食ったらヒトリのハーレムにチンチンが混ざって鏡助が死ぬけど、もう片方の偽物にはそんな力あるのか?」
「あるっす。その子の力を取り込めば鏡助はほぼ間違いなく自滅するっす」

 今度は真陽が答える。

「おい、そいつって、まさか」
「お察しの通りっす。谷中皆、かつて私達の共通の敵で今はかわいい仲間な彼女っす」

 谷中皆。並行世界ご当地山乃端一人親友枠だった彼女は色々あって怪物化し、その後色々あって人前に出られる状態で安定している。しかし、魔人能力そのものが無くなった訳では無い。故に彼女は鏡助を倒す猛毒になり得る。

「既に本人の許可は得てるし、作戦も伝えてあるっす。今、ラボの外で待機してるっすけど」
「あ、ああ。入室許可するんだぜ」
「んじゃ、イッチさん、彼女を呼んできて欲しいっす」

 数分後、イッチに連れられラボに入ってきた皆は、怪物でも妖精でもなく、かといって山乃端一人がよく知る人物でもなかった。

「み、みなさんお久しぶりです。その節は大変ご迷惑をおかけしました」
「えーと、谷中皆なのぜ?」
「あっ、これ変装甩の全身スーツです。真陽さんが作戦の為に用意してくれました」

 そう言って皆は腕の皮をつまんで引っ張って見せた。

「ブルマニアンさんとこの谷中さん、二重の罠で仕留めます。そして、念を入れて用意したいものがあります。時計です」

 再度キーラが説明を始める。

「時計って、全てのヒトリが持ってるあれだぜ?」
「ええ、この時計は山乃端一人を示すマーキング。なので、この時計と一人を切り離せば襲われる事もなくなる」
「その試みはあたしも何度もやったんだぜ。でも天災なあたしでもそれは出来なかったぜ」
「しかし、偽物の時計を作り偽物に持たせる事は可能です。ここにいる全員が力を合わせれば、追い詰められた鏡助を騙せる程度の物は作れるはずです」

 こうして、彼らは偽物の時計作りを始めた。
 各人の役割は以下の通り。

 愛莉:総指揮、タイムキーパー
 イッチ:時計の構造把握、図面作成
 課長:出撃準備、図面完成後イッチを連れて警察署へ
 ビリー:ラボ外で見張り、課長及びイッチと警察署へ
 キーラ:引き続き情報収集
 皆:山乃端一人になる為の演技練習
 ヒトリーズ:雑用
 真陽:偽時計にそれっぽい力を付与
 あかね:時計の外部デザイン
 ユリスキー:地上の星熱唱

 その後、時計は完成し皆が身に付けた。鏡助は時計を持たないブルマニアンを偽物と識別はできたが、皆の正体までは気付けず作戦は見事成功したのだった。

 鏡助の内部に入った皆は衣服も人工皮も脱ぎ捨て、自分の本来の姿と力を鏡助に示し
(省略されました。続きが読みたい方は脳内でワッフルワッフルと呟いて下さい)

「正義執行(ジャスティス)!」

 グッとガッツポーズする愛莉の背後で鏡助が爆発した。様々な年齢の山乃端一人が空中に飛び出し、直後辺りが光に包まれた。

「うおっ、まぶし!…ここは一体?」

 光が収まると、ブルマニアンの周囲の空間が一変していた。さっきまで横に居た愛莉も半壊した姫代学園も存在せず、代わりに無数の死体が転がっていた。

「ヒイー!何よこの場所!」

 読者の皆様はここが時の止まった世界である事を既にご存知だが、ブルマニアンはそんなん知らんのでこうなる。

「イヤー!遠藤!それから変な怪人みたいなのが数人!後、形容しがたいものの死体が!愛莉ちゃーん!一人ちゃーん!いたら返事してー!」
「おーい、正不亭巡査部長。こっちこっち」

 少し離れた所から課長の声が聞こえた。そちらへ向かうと、上半身だけになった上に半透明になった課長が手を振っていた。

「課長!どこですかここ!何があってそうなったんですか!」
「落ち着け。あんまり時間が無いから単刀直入に言うぞ。ここは鏡助の自宅兼作業所みたいなもんだ。神である鏡助が死に、全ての世界がリセットされた。後は新たな神が山乃端一人が死なない世界を創造するだけだ。頑張れよ」
「はい?」
「だ~か~ら~、君が鏡助に代わって平和な世界作るの」

 突然の神様指名。ブルマニアンは数秒フリーズした後、首をブンブンと振り拒否した。

「突然神様やれとか言われても無理です!」
「突然じゃないんだなこれが。俺言ったよね?山乃端一人を救ってからも仕事は続くって。お前もその時やるって言ったじゃん」

 確かにトンネルでの戦いの後、そんな会話をした気はする。

「でも、あの時の会話は警察としての仕事の話だったじゃないですか!私は課長の命令には従いましたが、神様の代理人と契約した覚えは無いですよ、やだー!…ハッ、このパターンは!」

 そろそろビリーが自分の背後に現れるタイミングと思ったブルマニアンは、慌てて振り返る。予想通りビリーはすぐ後ろにいた。

「フフフ、成長したデースね、セーフティー」
「やっぱりいた!ビリーさん、また私をダンボールに押し込む気だったんでしょ!」
「ノー、今回はこれを私にきたのデース」

 ビリーは一冊の本をブルマニアンに手渡した。本の表紙には『完全創世マニュアル』と書いてある。

「では、ミーはこれにてサラバ」

 本を受け取ると、ビリーは満足気な表情でサムズアップしスーッと消えていった。

「準備万端だったって訳ですか。しかし課長、なんで私なんです?自分で言っちゃいますけど、神とかの器じゃないですよ。私はヘタレな小市民なんです。愛莉ちゃんやイッチさんやキーラちゃんの方がよっぽど神っぽいですよ?」
「確かにあの子らは神に必要な創造力や視点を持っている。だが、闘争心が無駄に高いから駄目だ。ヘタレなお前さんだからいいんだ」

 話している間、課長の体がどんどん透明になっていく。本体である鏡助が死んだ為、彼も長くはないのだろう。

「課長、体が!」
「心配すんな、話が終わるまでは保つ。だから聞け。そもそもこの世界は、鏡助が魔人能力を持った連中の争いを観測する為に生み出された。山乃端一人が死ぬのは、魔人の争いの切っ掛けの為だ。なら、どうすれば良い?」
「魔人が発生しない世界を作る、ですか?」
「そうだ。魔人の存在しない世界なら山乃端一人はハルマゲドンで死ぬ事も無い。彼女だけじゃない、キーラ・カラスも宵空あかねも前の世界よりはマシな人生を送れるはずだ。やってくれるか?」
「わかり…ました」

 ブルマニアンが返事をすると、課長は完全に消滅した。後に残されたのはブルマニアンと無数の死体と一冊の本。

「やるしかないわよね。帰る手段も無さそうだし」

 そして、46億年が経過した。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆

「いっけなーい!掃除で遅くなっちゃった!皆、怒ってないかな?」

 私山乃端一人!姫崎高校二年生!今日は学校が終わったら友達とプリクラ撮りに行く約束してたのに、宿題を忘れたせいで放課後一人で掃除させられていたのだ。うおおおー!プリクラ屋までダッシュ!

「お待たせー!」
「うん、遅い!今日のアイス代は一人が奢りで」
「朱桃だって今来た所でしょ」
「キーラもさっきまで居なかったから言う権利は無いんだぜ!」
「あ、あのー、愛莉さんも三分前に私と一緒に来たとこでしたよね」

 なんだ、全員遅刻していたのか。

「ははーん、さては全員宿題忘れたな?」
「「「「ばれた!!!!」」」」

 私達は全員同学年だけど、クラスはバラバラである。昨年希望崎と合併して生徒数が五倍以上になり、二年生進級と同時に別クラスになってしまった。だけど幸いにも私達の付き合いはまだ続いている。

「まー、遅刻の件はこのぐらいにしてプリクラ撮ろう!」

 私達はプリクラ屋に入り、台の前でポーズを取る。五人だと流石に狭い。だけど、なんとか画面に全員の顔を入れてピース。

「せーの、正義執行(ジャスティス)!」

 パシャリとな。無事にプリクラ撮影完了。

「すみません、一人さん。さっきの掛け声は何ですか?」

 プリクラを撮った後、あかねちゃんが質問してきた。

「ああ、こないだの集まりにあかねちゃんは来てなかったから知らないのか。その時からプリクラ撮影にはこの掛け声を使ってるんだ」
「どうしてですか?」
「何となく」

 そう、何となくジャスティスである。頭にピーンと来たのだ。私以外の全員がその掛け声は変と言ってたけど、最終的にはいいんじゃね?となった。この話を聞いたあかねちゃんも同じ様な反応をしてから納得に至った。

 その後、私達はアイスを食べ(割り勘だ)、卒業後の夢を語り合った。

「私は警察か消防士か自衛官かな」
「貴女はいつも正義の味方になりたいって言ってたからね。私は帰国して小説家になるつもりだよ」
「アタシは無論、国立大学の理工学部だぜ!自称じゃなく本物の科学者になってやる!」
「私は工芸教室の先生から弟子にならないか誘われてるので、そこに就職しようと思います」

 皆自分の夢を熱く語っている。いやー、青春だなあ。

「ちょっと、あんたさっきから聞いてばかりじゃない」
「ごめん朱桃。私も言うね。えー、私山乃端一人は時計屋さんになりたいでーす」

 私の実家には大小様々な時計がある。私が現在身に付けている時計も家にあった内の一つだ。だけど、この時計も含め、全ての時計がある時突然動かなくなってしまった。それ以来、私は時計というものに対しより強く関心を抱く様になり、時計に関わる仕事に就き、いずれは実家にある時計をまた以前の様に動かしたいと考えるに至ったのだ。

「以上です!」

 私が自分の進路について語ると、大きな拍手がアイス屋の中に響いた。

「海外の部品や文献が必要ならいつでも言ってよ」
「ありがとう」

 私はキーラの手をガッシリと握った。

「技術的な事は任せろー!」
「ありがとう」

 私は愛莉とハイタッチした。

「見た目の修理なら手伝えると思います」
「ありがとう」

 私はあかねちゃんと肩を抱き合った。

「え、えーと、時計を壊した奴を見つけて殴る!」
「無理すんな」

 私は朱桃の頭をハリセンで叩いた。

「何だか、今日がお別れの日みたいな雰囲気になっちゃったね」

 卒業まではまだ時間はあるし、卒業しても一生会えないわけじゃない。でも、私が時計の話をしてから何だか変な空気になってしまった。

 もちろん、これは気の所為。私達の付き合いはこれからも続いていく。でも、今日はそろそろ帰る時間だ。

「じゃ、また明日ね」

 駅で四人と別れ電車に乗る。ふと、窓の外を見ると線路沿いに以前は存在しなかった看板が立っていた。

 多分、撮り鉄の人が線路に近づき過ぎない様に設置された看板なんだろう。だけど、私には関係無いはずのその看板を見ていると何故か懐かしい気持ちが込み上げてきた。


『この先DANGEROUS(デンジャラス)命の保証無し!!』

 電車から降り帰宅すると、自宅の前に見知らぬ少女がいた。

「一人ちゃんだよね?小学校で一緒だった」
「え、もしかして皆ちゃん!」
「そうだよ。谷中皆だよ。見た目は結構変わったけど」

 私の小学校時代の親友谷中皆は、病気でずっと海外の病院を転々としていた。それがここにいるって事は病気は治ったんだろうか。


「先日手術が終わって日本に帰ってきたんだ。一人ちゃんに会いたくて、すっ飛んできちゃった」
「へー、良かったじゃん!体はもう何ともないの?」
「それは大丈夫。ホラホラ」

 皆は私の前で元気にジャンプしたりブリッジしたりしている。

「おいコラ、元気なのはわかったから、人の家の前でパンツ見えそうな動きすんな」
「だってすっごい久しぶりの再会だよ!46億年ぶりだもん」
「小学校卒業以来だから、せいぜい四年ぶりでしょ。まあいいや。ウチ上がっていく?今両親留守なんだ」
「えー、いいの?」

 私は山乃端一人、高校二年生。ちょっと変わった友達が多いだけのどこにでもいる一般人だ。






















 ワッフルパワーがマックスになりましたので、これより特典映像を上映します。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「はーっ、はーっ、はーっ、どうだまいったかコノヤロウ!所詮お前は魔人、転校生である僕には勝てないんだよ!」

 時の止まった世界では三つ巴の争いが起こっていた。一つはこの世界の主である鏡助、一つは制御不能の多田野精子。そして、両者の戦いに巻き込まれた多くの魔人。

 戦いの末に立っていたのは鏡助。しかし、敗北者達の戦いは無駄では無かった。鏡助はこの戦いで切り札のいくつかを失い、戦いを見届けた者達は鏡助に挑む事を決意した。

 そして、精子の思いもまた新たな淫魔人へと受け継がれたのだ。

「あ~暇パオね〜」

 印度ペニ蔵は牢屋の中でゴロゴロしていた。愛莉との戦いの後逮捕された彼は余罪がバレて魔人甩の刑務所に移送されたのだが、山乃端一人絡みの事件多発により刑務所の機能はマヒしていた。人員が足りない中で下手に犯罪魔人に手を出すとリスクが大きいので、こうして牢屋の中で放置されていたのだ。

 そんな暇人魔人ペニ蔵の脳内に話しかけてくる者がいた。

『そこのゴロゴロしてる淫魔人、私の声が聞こえますか?』
「ん?僕にテレパシーしてるのは、どこの魔人さんですか?」
『私は精子、山乃端一人を救う為にこの世界の根源へイキ、元凶たる男とヤッタ末に中折れしたモノです』
「取り敢えず君が凄い変態で大変なのは伝わったよ」
『私は最後の力を使い新たな淫魔人に望みを託す事にしましたが、鏡助はこの世界の殆どの淫魔人との繋がりをシャットダウンしました。このメッセージを聞いている貴方は恐らく鏡助からマークされてないモブでしょう。しかし、もう貴方しかネタが無いのです。頼みましたよ』

 好き勝手に言いたい事言って精子の声は途絶えた。

「パオー。なんか知らないけど、凄く馬鹿にされた気がするなあ。だから、その鏡助っての倒しにいこうかな。本来僕は山乃端一人を殺す側だったけど、暗殺依頼はもう期限切れだしね」

 どうせここに居ても死刑か終身刑の身。鏡助とかいうのを殴りに行く目標を得たペニ蔵は、まずは脱獄をする事にした。

「うおおおお!進撃の射力鈍行列車(ノーピーク)!」

 ペニ蔵の足元に生臭いシミが広がっていく。チンチンから大量に射精し続けていた。そして、シミが広がっていくにつれてペニ蔵の全身が皺だらけになりどんどん萎んでいく。

 ペニ蔵の能力は勃起力により全身を肥大化させインド象になるというものだが、これは彼の能力の半分でしかない。もう半分はこうして大量射精する事で全身を萎えさせ小さくなる事だ。

「レッツゴー下水道」

 ウンコサイズにまで縮んだペニ蔵は牢屋内のトイレから排水管を通り脱獄。山乃端一人が居るだろう姫代学園の敷地内へ向かう。

「あ」
「あ」

 敷地内のマンホールから顔を出した時、人工皮を着ようとしていた少女と目が合った。物陰で変装しようとしていた谷中皆である。

 変装準備中の皆は全裸だった。
 脱獄時に服を置いてきたペニ蔵も全裸だった。

「ノーズフェンシングー!」
「ギャー!」

 一流の暗殺者であるペニ蔵は、皆が何か叫ぶより先にチンチンで頭部を殴り気絶させた。

「皆さん、着替え終わりましたかー?ってペニ蔵!」
「あ、雇い主パオ」

 ペニ蔵が反射的に皆をkOしてしまった直後、イッチが駆けつけ顔を青ざめさせた。

「何であんたがこんな所に、いえ、分かりますよ。脱獄して彼女と鉢合わせたんですね」
「相変わらずの名探偵だなあ」
「あー!もう!彼女はこれからの作戦の要なのに!いや、待てよ。コイツでも成立するか。おい、ペニ蔵!今からお前山乃端一人な!」
「パオ?」

 よくわからないままに変装用ゴムスーツを着せられて、ペニ蔵はアイリ・ラボへと連れて行かれた。

 そして、偽物の時計を手渡され山乃端一人のフリをした谷中皆のフリをした印度ペニ蔵は、作戦通り鏡助に吸収され…。

「正義執行(ジャスティス)!」


 Q.PCも強敵NPCも把握してる転校生の倒し方は?
 A.プロローグ魔人で殴るって言ってんだろ!

 鏡助は山乃端一人だと思って取り込んた少女が中年男性だと知り死んだ。神の死により世界は消滅し、課長から新たな神に指名されたブルマニアンは46億年かけて魔人の居ない世界を作り上げた。

 新しい世界では、人々は前の世界の記憶は持たず、山乃端一人の周囲には可能な限り彼女の友人が再配置された。

 だが、ブルマニアンは一つミスを犯した。

「一人ちゃんと二人っきり〜、ムププ、どうしょっかな〜?一人ちゃんが死んだら、またこの世界に魔人が生まれるのかな〜?」

 山乃端一人宅にお呼ばれした谷中皆、いや、『谷中皆として神が認識した人物』はトイレを借りると言って一人から離れると不気味な事を口にした。

 鏡助にトドメを刺した特典だろうか、この人物は前の世界の状態を引き継いでいた。

「まあ、今はこの状況を楽しもうかな。パオ~ン、一人ちゃんの使ってるトイレ萌〜」

 少女(?)は便器の上で器用にブリッジしながら腰を振り続けた。
最終更新:2022年04月23日 20:18