一人の少女の、罪と罰。



水の音がする。白く白く塗りつぶされる世界に、ただ水の音がする。

それは涙が垂れる水の音であり。

それは血があふれる水の音であり。

それは、海が落ちていく水の音であり。

それは、一人の男が腰を振る、水の音であった。

崩れていく世界、消えていく空、落ちていく海、崩れていく大地。

この世界はいま、明確に終わりを告げようとしていた。



それは遥か時の彼方。もう見ることもできぬ彼の地。すでに記録すらない世界。



それは、一人の少女の、罪と罰(エーデルワイス)(and ill I's)。


Dangerous SS and ill I's...

the Last episode 【Extreme...and ahead of the end I reach】

   ◆   ◆   ◆

(私は、何かの役に立てたのだろうか?)

怒号。銃声。肉が切り裂かれる音。頭が潰れて中身がぶちまけられる水音。
怒号。銃声。破裂音。カレーを作るのが上手だった彼女が泣き叫ぶ声が聞こえ、そして二度と聞こえなくなった。
怒号。銃声。破裂音。雷鳴。誰かが死に、誰かが殺されそして殺した。
怒号。銃声。段々音が小さくなってきた。
怒号。地獄の底から響き渡るような怨嗟の声。いつもカッコよかった彼のそんな声はあまり聞きたくなかった。その思いに応える様に、声はグシャリと何かが潰される音に掻き消えた。
無音。もう何も聞こえない。わたしは息を殺し身を潜めていた樽から這い出て、辺りを見渡した。
どうやら襲撃者はわたしの部屋まで入っていたらしい。辺りに首をどこかに無くした死体がいくつも転がっていた。
けど、わたしは生きている。きっとその死体の中心に立つ、彼女のおかげだろう。

逢合真星(あいあいますた)は考える。この旅路を考える。

あの忘れ得ぬ大厄災。『どこか遠くに飛ばされた大厄災。
あの時飛ばされた果てで対精子連合軍と呼ばれる人達に拾ってもらい幾星霜。
目的半ばで彼らは果て。逃げる途中で私もやられ。
タイム精子に異世界に飛ばされファイブヘッド精子の古傷を抱え、おっかなびっくり生きていく。

そして志半ばで潰えたはずの私は、恩を返すこともできずに今もまた誰かに助けてもらっている。

ファイと呼ばれる年端もゆかぬ少女を置いて、見捨てることもできずにこうやって亡霊として彼女のそばに。
あの子も、生きているならばこれ位の年だったろうか?

逢合真星(あいあいますた)は考える。この旅路を考える。
我が子と我が妻、逢合死星。

彼女たちはどうなったのだろうか――――彼は今でも、考えている。


それは遥か時の彼方。もう見ることもできぬ彼の地。すでに記録すらない世界。


それは、一人の少女の、罪と罰(エーデルワイス)(and ill I's)。



   ◆   ◆   ◆



止まない雪、明けない夜、終わらない冬
来たるべき春を食い止める、とても厳しい冬が来た。

これは物語の終わり。これは一人の少女の最後、これは、いつかイきつく先の果て。

「■■、■■!!」
「行って、来なさい!!」

母が言う/母は言う。

あなたのやりたいことをなしなさいと。

奇跡はある/奇跡はある。

例え今ここで/分かれることになろうとも。

――――いつかイきつく果ての先。

遥か時の彼方で。未だ見ることもできぬ彼の地で。未だに記録すらない世界で。

母娘(わたしたち)はまた出会うことが出来るのだから。

母が少女の名前を叫ぶ。母は少女の名前を叫ぶ。
あの日あの時あの瞬間に分かたれた。少女の名前を。ただ。叫ぶ。

少女の名前は逢合美星(あいあいびすた)

もう少女は、一人じゃない。


――――この先ダンゲロスオンライン、すでに命は札になし。


   ◆   ◆   ◆


―――思い返すは始まりのあの日。


「■■、人を殺す事は修羅の道だ。言うまでもないが、やってはいけない事だ」
「…」
「だが、自分の命や自分の大切にしている物事が他人によって侵されようとしている時、かつ相手の命を奪う事でしか解決法が無いならば…
 …その時は、殺す事を躊躇うな」
「…父さん」
「■■、確かに人を殺す事はその部分だけ見れば悪い事だろう。だが、裏を返して見れば、その人を殺した事によって、その人による被害を食い止めたと言えなくはないか?」
「でも、説得さえ続けていれば…!」
「殺されそうな身になってまで説得をするのか?」
「…」
「…人が皆対話によって争いが解決できるのなら、軍隊は必要ないだろう。しかし、現実、多くの国が軍隊を保有している。
 即ち、武力によってでしか解決できない問題もあるということだ。少なくとも、自分を守る為に武力を奮う事は、問題が無いと言えるのではないかと俺は思う。結果、人の命を奪う事になったとしても」
「…」

この血に染まった巡礼の旅路の始まりの、父の言葉を思い出す。

思い出す、思い出す。この遥かなる巡礼の転校(たびじ)の始まりを。
『私』が『わたし』になったあの時を思い出す。


(私は、何かの役に立てるのだろうか?)


柳煎餅に■■を助ける理由はない。でも、誰かを助けるというのは自らを繋ぎとめるよすがであり得るのだ。

「うん、守るよ。私のために。私ってば人切りじゃないし、殺人鬼でもないんだからね。だから通りすがりの人を善意で守れるよ、うん、守れるはず。」

これはエゴだ。■■を自分のために勝手に守って、勝手にかつての自分と重ねて、勝手に自己満足を得るダシにしようというのだから。
でも、守りたいのは事実なのだ。それが誰でもよかったのだとしても。人を守れるのだと信じたかった。

煎餅は歩き去ってゆく■■の背を見た。隙だらけの背中だ。煎餅がその気になれば瞬く間に5度は斬れるだろう。でもそれでいいのだ。

(昔の私も、あんなだったのかな)

もう思い出すことはできないのだけれど、そう思いたかったのだ。

「ねえ、■■?あなたには私のことが分からないのかもしれないけれどね――――」
「私はね、キミのことをずっとずっと覚えていたんだよ?」

出逢ったこともない筈の、ずっと前から知っていた筈の、一人と一人がここに出逢う。
理由はあったのだろう、因縁はあったのだろう、運命でもあったのだろう。
だが、そんなものとは関係なく。

『彼女』は、この日この時この瞬間の為に、この遥かなる巡礼の転校(たびじ)を続けてきたのだ。

「さあ!!行くよ―――相馬、珠樹(・・・・・・)!!!」

『彼女』が■■の名前を叫ぶ。『彼女』は■■の名前を叫ぶ。
あの日あの時あの瞬間に分かたれた。■■の名前を。ただ。叫ぶ。

『彼女』の名前は■■■■■。

もう『彼女』は、一人じゃない。

それは、一人の少女の、罪と罰(エーデルワイス)(and ill I's)。


   ◆   ◆   ◆


「お待ひなひゃい!」


鏡介が複数世界に跨がる山乃端一人の力を取り込んだ姿に、声を掛ける。


「ひひゃりある所に影がありゅ、悪が動けばモグモグ正義も動く。ハフッハフ、ごちそうさま」
「530円です」
「誰が呼んだかブルマニアン、会計終わってただいま参上!私が来たからには今日も現場はセーフティー!」

出逢ったこともない筈の、ずっと前から知っていた筈の、一人と一人がここに出逢う。
理由はあったのだろう、因縁はあったのだろう、運命でもあったのだろう。
だが、そんなものとは関係なく。

『彼女』は、この日この時この瞬間の為に、この遥かなる巡礼の転校(たびじ)を続けてきたのだ。
――――だが、そんなものとは関係なく。


いつものようにいつものごとく、『彼女』はそれを始めたのだ。


「いくわよ!」

 ブルマニアンはブルマの中に手を入れて股間を弄ると硬い棒がボロンと現れた。そう、警察官の必須アイテム警棒だ。

「さあ、貴方の罪を数えるわ!器物損壊!傷害!女子高生へのつきまとい(・・・・・・・・・・・・)!」

 ブルマニアンが警棒を構えユリスキーの罪状を一つ言う度に彼女のアホ毛が一本また一本と立っていく。

「そして最後に公務執行妨害!合計四犯の罪、その重みを知りなさい!」

 ブルマニアンのアホ毛がカウントした罪の数だけ増え、一本から五本になった!


彼はヤマノハ因子と融合したことで肉体にヤマノハ紋様が浮き上がっている。
【虚堂懸鏡(きょどうけんきょう)】を自身の筋肉に適用することで圧倒的な膂力を実現している。
そのため、攻撃を加えるほど筋肉が膨張しムキムキになっていく。
丁寧口調もだんだん崩れ、「グフフ……」や「ケェーーー!」などのよく分からない叫び方をするようになる。


そんな、彼に。彼女は。


「さあ!!行くよ―――ヤマノハ、鏡介(・・・・・・・・)!!!」

『彼女』が■■の名前を叫ぶ。『彼女』は■■の名前を叫ぶ。
あの日あの時あの瞬間に分かたれた。■■の名前を。ただ。叫ぶ。

『彼女』の名前は■■■■■。

もう『彼女』は、一人じゃない。

それは、一人の少女の、罪と罰(エーデルワイス)(and ill I's)。


   ◆   ◆   ◆


自他境界線、それはわたしがわたしであること。あなたがあなたであるということ。
それが揺らぐということ。それは愛する人の肉を喰らうと言うこと、
人の肉を食するということ(カニバリズム)のひとつの解釈として愛する人と、強い人と一緒にありたいという願望だという。

肉と肉が融け合って、ふたりが独りになれたらねと、手と手をつないだ命がいた。
今では“バケモノ”がいる。

月光に照らしだされた熟熟とする肉の色は、血抜きも為されなかったためか赤黒い。
あまりにも巨大な影に、肉腫から突き出された腕のひとつひとつに掬い上げられてしまう程度の量だったけれど、それは実に美味しそうだった。
一匹の蠅が肉の塊に止まった。膨大な方でなく、ちっぽけな方に。

そこで。

「美味しそうなものを食べているね。シャンテクレールも気にしているよ」

出逢ったこともない筈の、ずっと前から知っていた筈の、一人と一人がここに出逢う。

目覚まし時計がけたたましい。ニワトリを詰め込んでおけばいいかと思った。
目覚めに、王子様のキスなんていらない。
私たちは生きている。


――――いずれ、彼らは地球へ向う。山之端一人の元へ向う。


その中でもイレギュラーは存在する。
『これ』もそう。チル・コールド・ウィンターと同じ、転校生の中でも異質で異形なる存在。
『同じ世界の山乃端一人』を求めるわけでもなしにここに来たひとでなし(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)


そんな存在に相対する者は。そんな代物に逢いたいとする物は。


「『私』は……他人に迷惑をかけることを愉快に思っている……」


やはり、とびっきりのイレギュラーであるものなのだ。

本当ならば子供相手ではとても満足できない。
加減は難しいし、やりすぎるようなことがあれば厳しい目で見られて二度と近付けなくなるかもしれない。

理想とするのは攻撃の意志や敵意を込もらない遊びの延長のような迷惑の掛け合いで、特別な相手であるとか、特別な機会であるとかを、一々気にしないで許し合う世界。

しかしこの世には弱者と強者、加害者と被害者のような線引きがあり、その図式が残った状態のまま迷惑をかけあった所で、蹂躪かルサンチマンにしかならない。

だからまずは困っている人、弱者側の境遇にある人、被害者になってしまっている人達を救う。
善行には喜びを感じなくても、理想に近づいていると感じるだけで、それがどれだけ小さな一歩でも喜びは感じられるのだ。

つまり。
ここにいる彼女たちは迷惑をかけても愉快ではない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)


故にこの邂逅はイレギュラー。


すでに『絵stsぢ』は一人ではない故に。一人である理由がすでにない故に。
この『楽園』で特にすることもなく、こうして退屈を紛らわしているのだ。


「ついでだ、退屈しのぎに語らないかい。肉塊にして肉海にして肉界である姉妹達よ。」


『絵stsぢ』は他人でなければ興奮しない。『絵stsぢ』は他人にしか迷惑を掛けれない。
故に『絵stsぢ』はここに退屈しか見出さない。
まあ、他人じゃないのだから、少しは手を貸してはやるが(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)
それだけだ。『絵stsぢ』は一人に優しくはしない。

「お題は、そう――――『私達』の、終わりについて。」

『絵stsぢ』の名前は端間一画。
最早『絵stsぢ』は、一人じゃない。


――――それは、一人の少女の、罪と罰(エーデルワイス)(and ill I's)。


   ◆   ◆   ◆


さあさあ聴いてくれたまえ。
これより語り始めるは、無数の正義の物語。

だが、正義とは、はて、なんだろう。
ある者の正義は、ある者の不正義。
ある集団の悪は、ある集団の善。

この世界は、『最強』を名乗る■■と、孤高を走る一人の物語。
この世界の山乃端 一人を救うとは、■■が、■■としてなお■■を貫くこと。

これが、私の東京をつむぐ、一つのかけら。
だが、それでは足りない。

より多くの線を収束させ、鏡面を向き合わせ、無限の破片を繋ぎ合わせ、そして初めて、望むべき曼荼羅が描きあがる。
そうして初めて、天恍の星をも越えて輝く、その先の景色を浮かび上がらせる。

少なくとも私はそれを信じている。


例えるならば、そう。それは夜空を駆ける美しき流れ星。


希望があると信じて、山之端一人の元に向かうのだ。
全ては『楽園』を守るために。
故郷を奪われる人を、これ以上増やさないために。

奇跡はある。異能を持つ我らには最後まで希望は残されている。
我らも彼女を守るのだ。例え幾たび疎まれようとも、空より白い絶望が降ってこようとも。

希望があると信じて、山之端一人の元に向かうのだ。
ただ、それだけを道しるべにして。
われらはほしをさがすのだ。

そして。

そのイきつく果ての先で。

きっと我らは。

あなたたちは。


「――――でっけぇおつきさま、だねえ。」


彼女は幸せになったのだ。幸せに生き、悔いなく生き、その生涯を流れ星のごとく駆けてきた。
不満はない。満ちぬものなどそこにはなく、■■は笑って生きて、逝ったのだ。

故に彼女はここに来た。■■に不幸は許さぬと。全ての■■に幸あれと。

(私も、何かの役に立ってやるさ。)

望月 餅子は、ここに来たのだ。

「さあ、『最強』のお出ましだ!!」
「幸せに、オナり――――山乃端、一人!!」

『彼女』の名前は■■■■■。

もう『彼女』は、一人じゃない。

それは、一人の少女の、罪と罰(エーデルワイス)(and ill I's)。


   ◆   ◆   ◆


私たちは、無敵だ。無敵の二人だった。
牛若りんはそう思っている。牛若りんはそう信じている。
彼女と一緒に駆けた青春こそが、何よりの『無敵』だったのだと。

虐められていた彼女の手を取り、世界を駆けた。
健やかなる時も、病める時も、いつも二人だった。

山乃端一人はすごい奴だ。牛若りんはそう思っている。
親友と呼ぶには少し距離が離れている。仲間と呼ぶには目指す先はバラバラだ。恋人と呼ぶにはしていることは違うように思う。
ただ、この関係は心地よい。彼女と駆ける世界はとても楽しい。

彼女にも、そう思っていてくれたら。牛若りんはそう思っている。

虐められていた山乃端一人をかばったから殺されたが、そんなことはどうでもいい(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

そんなことはどうでもよかったのだ。私たちは無敵だった。だから。
目の前で泣く幽霊の少女に対し、牛若りんは。

「そんなに気に病むことじゃないんだよ・・・・私は、確かにあの時幸せだったんだから。」
「私たちは確かに、あの時無敵だったんだから。」

かなしいことなんて、なにひとつなかつたんだと。
その少女を抱きしめた。

幽霊になろうとも、無敵の防御力が阻もうとも。
この異能は触れ合うことが出来る。この異能は当たり判定が分かる。

今この日この時この瞬間の為に生み出された、世界一愛しい異能たち。
お互いに出逢った時の為に生まれた、世界一愛しい異能たち。

茜色の宵空の下で、二人はずっと一緒だった。
ずつとずつといっしょにいた。

『彼女たち』の名前は■■■■■。

もう『彼女たち』は、一人じゃない。

それは、一人の少女の、罪と罰(エーデルワイス)(and ill I's)。


   ◆   ◆   ◆


これは偽りの物語、
そして、少しだけズレたボタンたちの掛け違いの物語。

けれど確かに「純愛の物語」だったのだと、私は今でもそう信じている。


『謎掛』と呼ばれた転校生がいた。
未来探偵紅蠍と呼ばれた転校生がいた。


その二人にを縛る糸があった。
糸の使い手は空渡丈太郎。

「―――あの時の「俺」はどうしようものう子供じゃった。」

小さくて
無力で
ただ意地っ張りだった。

「だが、ちったあマジな顔に成れた、そがいな気はしんさんな。」

「ふむ、単なる手違いではないな。明確な意図をもって私を『ハメた』存在がいる―――真犯人は、君だね?」
「空渡丈太郎―――いや、■■■■■と言った方がいいのかな?」

そんな彼女に名探偵とトリックスターは語りかける。推理の時間であるかのように。

「認めよう、完敗だ。いや、完勝だ、と言った方が正しいのかな?」
「何もさせない、何も分からない、何もできずともその前に『勝利条件』だけ問答無用で達成させられてはどうしようもないね。」

その傍に立つのは美しい銀髪を肩口まで伸ばした、絶世の美姫。
その傍に立つのは豪奢なドレスを着た、性別不明の美人。

「その二人が鬼札か。僕達をこの物語から追い出すために『認識』から除外した上で別行動を取ったんだな?」
「誰も認識してくれないのなら影響を及ぼすこともできない・・・その上で。」
「ああ、その上で僕らの勝利条件まで達成されちゃったら(・・・・・・・・・・・・・・)これ以上何をする意味もないや。」

認識を狂わせる異能を持った魔人ならぬ魔神が二柱。

『タイトロープ・ダンディ』で全てを手繰り寄せることができる『俺』だけがこの別次元の認識外と組んで打破しうる。
望月餅子と同じ、アイツに頼まれた■■■■■としてやれやれ、何とか役割は果たせたって所だろう。

「さあ、いくぞわれら。」

空渡丈太郎は聞き取りづらい言葉で転校生の二人に促す。

『謎掛』も未来探偵紅蠍も、何を促されてるのか分からないと言った風情で首を捻っている。彼女の行動が謎である(わからない)

「こっちも目当てにゃあもう出会えた。後は時間まで閑なだけじゃけぇな、暇をつぶすでぇ」
「旨いポークカレー屋があるそうでの、財郷はかり嬢ちゃんはもうそっちにいっとる。」
「断らんやろ?何せわれらの為にここまでになった奴ら一人と一人やぞ(・・・・・・・・・・・・・・・・)?」

そう言われると『謎掛』も未来探偵紅蠍も、何も言えない。
謎を謎ごと認識させないことで謎のまま対抗する異能(クリーピングビューティ)。
ミステリーの登場人物から逃れるために別の人物像を着せる異能(シュテルクスト・カメラート)。

こちらにまた出会うために(・・・・・・・・・・・・・・)。其れだけの為に対抗して異能に目覚めた上に転校生としての異能強度を上回る為に魔神にまでなった二名だ。
執念と妄念の桁が違う・・・さすがに、分が悪かった。

「たまにはこがいなのもええじゃろ?『一人も残らず幸せになって皆幸せに暮らしました』」
「めでたしめでたし、言うわけや。」

ぱぁん!!と名探偵の背中を叩き。神と転校生のコンビ二組はカレー屋に向かう。

「――――ちったぁあの人みたいなでっかい奴になれたかのお、俺も?」

思い出すのは、始まりのあの日。
伝説の大番長『邪賢王ヒロシマ』の、空のように大きい背中をいつまでも覚えている。

空渡丈太郎は空を見上げる。
白く白く割れる、空を見上げている。

――――あれはきっと、無数の世界で死んでいった■■■■■への弔いだ。
いつの日か天の川(ミルキーウェイ) を見上げたときのはにかみを覚えている。
いつの日か一緒に食べたホワイトシチューの味を覚えている。
いつの日か誕生日には、絵をカいて送ろうと思ったっけ。

だが、それでも。
分かたれた私たちの運命を再びこの手に手繰り寄せることができたのだ。
ならば、ああ、それならば。
きっと、いつか。いつの日にか――――

『俺』の名前は■■■■■。

もう『俺』は、一人じゃない。

それは、一人の少女の、罪と罰(エーデルワイス)(and ill I's)。


   ◆   ◆   ◆


私は願う。
山乃端万魔という人間について。
鏡写しに作られた命。一人ならざる一万の魔人。
自身の生を歩み始めた彼女が白い希望となることを。

私は祈る。
山乃端一人という人間について。
数多の世界で手折られた命。無数に連なる世界において一つの運命を背負う魔人。
定命はいつか尽きるのだとしても、その別れの日がどうか、人として当然に重ねた年月の先にあることを。

そして。

そのイきつく果ての先で。

きっと我らは。

あなたたちは。


―――少女の名前は■■■■■。

もう『彼女』は、一人じゃない。

それは、一人の少女の、罪と罰(エーデルワイス)(and ill I's)。


   ◆   ◆   ◆


――――東西南北京都 東西南北京は今滅亡の危機に瀕していた。


あらゆる並行世界の東京の可能性を現実のモノとする能力。
世界のテクスチャを上書きし、東京という都市そのものを塗り替える。

天使と悪魔が跋扈する、神都・東京。
数多の殺人鬼に溢れる、夜都・東京。
ネオン輝く未来都市、機都・東京。
怪異と心霊が蔓延る、霊都・東京。
滅びゆく世界に残された最後の都市、終都・東京。

ありとあらゆる可能性が集う、無限にして夢幻の都市。それが、東京という都市なのだ。

その東京が今、文化侵略を受けている。
東西南北京都と化した東京は最早東京に非ず。

鹿と大仏が跋扈する。
数多の生八つ橋が溢れる。
大文字輝く未来都市。
湯葉と鱧が蔓延り――――
『週刊 世界の危機』を内部に孕まされ二段階連続進化をした東西南北・京都と化してしまったのだ。

そう、いわゆる一つの叙述トリックである。

「・・・・ッ何故だ!!?何故こうまで完全に対策を立てられた!?」
「ここに俺が転校してきはるなど分からんやろ!俺の異能など知る由もない筈やわ!」
「あんさんは、いったい――――」

すでに言葉に京都弁が混じり始めている。東京都東京―――いや、東西南北京都 東西南北京は最早その魔人能力を失いつつある。
だが、それ以上に。

「『卵が先か、鶏が先か』。聞いたことはあるだろう。この問いについてはどう考える?・・・って聞かれたことがあったんだよな。」
「あの時は卵が先だと思ってたんだが・・・今じゃ、鶏が先だ。」
「そう、思うよ。」

「あんさんは一体・・・誰、なんや?」

目の前の少女を自分は知っているという感覚が痛烈に東京を痛罵していた。

「おかしなことを聞くね?私が誰彼なのかは君はよおくしつているはずだよ。」
「この日この時この瞬間の為に、君はここまで転校(たび)してきたんだろう?」

手が、差し伸べられる。手を、差し伸べられる。

「おめでとう。君の願いはようやくかなう。」

頬をつたうものは、あなたのものかわたしのものか。

誰彼(たそがれ)の むらさきいろの ゆうやけで きみにであえた 時ぞいとしむ

■乃■万魔は、ようやく、本懐を遂げたのだ。


   ◆   ◆   ◆


性別も年齢も定かではない、名前も姿もないはずの転校生。
バックボーンはただ一言、「山乃端一人が死ななければ生まれない魔人」
無数の戦いと分岐を生み出す山乃端一人の死は、同じ数の出会いと奇跡を生み出した。
その運命が、新たな誰かの命を生み出すこともあった。
ネームレス・リボーンはその誰かのうちの一魔人、一転校生である。

「随分と真面目なことだ。お前に非など何一つ無いだろうに」

本来ごく当たり前に転校生として活動していた彼あるいは彼女は、
「なぜか一斉に死ななくなった多次元世界の山乃端一人」のあおりを受け、生まれなかった命として存在が再編された。
アイデンティティは崩壊し、肉体は消え去り。
しかし転校生であったがゆえに完全に”なかったこと”にはならず。

――それがネームレス・リボーンを最強にした。

彼あるいは彼女はまだ生まれていない命である。まだ生まれていないのだから、死なない、傷つかない。
定義さえ行われていないのだから、無限の可能性がある。
強弱という土台にすら乗れないはずの命は、最強の刺客として山乃端一人の前に降り立った。

「分かっています。でも、こうでもしないと命の重さを忘れちゃいそうで」

彼あるいは彼女は、もはや自分自身を取り戻せない。消えたものは戻らない。
ゆえに、ネームレス・リボーンの望みはただ一つ。

「ハハハハ! そうかそうか!」
影の中より悪魔が笑う。
「ちょっと! 何がおかしいんですかジョン・ドゥ!」

山乃端一人しか生き残れないというのなら、『自分が山乃端一人になってやる』。
つまるところは成り代わり。山乃端一人を殺し、その死体を媒介に自身を山乃端一人として再誕させることが目的――。

「やはり面白いなお前は! 安心しろ。この俺がいる限り、誰一人として傷つけさせはせんよ、我が花嫁」
「また花嫁って……。ですから私は……ってひゃっ!」
「そこまでだ」

いや、いや。
話はもっと単純だ。

生まれたい。生きたい。死にたくない。

以上の原始的な欲求が、ネームレス・リボーンの動機である。
少々時間軸と因果律が前後するが、行われるのは至極単純。古来からの伝統行事。

――これは生存競争だ。一人の生存とThe Oneの生誕は相反する。


「俺は欲しいものは必ず手に入れる。」


救済を目指す者へ。
あなたは、The Oneしか救えない。


「まずはお前を狙うあらゆる敵を、元凶たる『転校生』を、この俺が全て打ち砕く。考えるのはそれからでも遅くはあるまい?」


救済を目指す者へ。
あなたは、The Oneしか救えない。


「まあ打ち砕くことは出来なかったようだがね。」
「そう、私は強欲でね――――なあに私は大公爵だ。」
我が花嫁の忘れ形見の一つや二つ(・・・・・・・・・・・・・・)、食わせていける甲斐性はあるのさ。」


――――救う必要もない。
あなたは、もう。
少女を十分に救った後なのだから。

「さあこれから忙しくなるぞ胎児の隠者よ!お前には沢山聞かせてやりたいことがある!」
「そう、まずは我が花嫁が如何にお前を愛していたかを聞かせてやらないとな!」
「ここまで散々転校(にげ)られたのだ、覚悟しろよ!」
「お前にはジョン・ドゥが花嫁―――あの少女よりもさらにさらに幸福になる義務がある!」

―――少女の名前は■■■■■。

もう『彼女』は、一人じゃない。

それは、一人の少女の、罪と罰(エーデルワイス)(and ill I's)。


   ◆   ◆   ◆


4歳の時に両親が亡くなった。

天涯孤独になった私の前に現れたのは、年上の女の子だった。
どこかの国のお姫様のような、ふわりとした長い髪だった。

「あなた、とても気に入ったわ」
「お姉ちゃん、だあれ?」

どんな顔だったか、今でもハッキリ思い出せる。

「大丈夫よ。もうすぐ新しい家族が出来るわ。そこで幸せに暮らせる。きっと、とても素敵な人たちよ」

そいつは微笑んだ。一体なにが面白かったのか、今になってもわからない。

「私は「山乃端一人」。あなたには16歳の誕生日まで、私になってもらうわ」
「ちょっと良くわからない」
「この銀時計をあげる。だけど約束して。きっと幸せになるって」

少し考えた。
両親のいない私は、あまり幸せじゃなかったからだ。
でも、今が幸せじゃなくても、新しい家族をくれるというのなら、いつか「幸せ」になれるんじゃないかと思った。

「じゃあその銀時計をもらってあげる」

それ以来、私は「山乃端一人」になった。





「山乃端一人」は「山乃端一人」として扱われる
「山乃端一人」は「山乃端一人」と名乗る
「山乃端一人」は銀時計を持つ
「山乃端一人」は学校に通う
「山乃端一人」は家によって守られる
「山乃端一人」は東京の外に出てはいけない
「山乃端一人」から半日以上目を離してはいけない

それは「山乃端一人」を背負う者が抱える制約だった。

「私は「山乃端一人」ですが、そもそも「山乃端一人」というのは個人名ではないんです」
「えー……つまりお嬢ちゃんの本名は「山乃端一人」じゃない……?本名は別にあるってことか?」

 怪人の質問に、少女は首肯する。
 本当に、この怪人は薄っぺらな態度と無責任な発言に反して、他人の話だけは意外としっかり聞いているようだ、と少女は感心した。

「はい。私は4歳のときに「山乃端一人」の役目を継ぎました。より正確に言うなら、魔人能力「山乃端一人」の被対象者になったんです」
「"役"ってことか?お嬢ちゃんは「山乃端一人」の役を演じている……?」

少女は頷き、「山乃端一人」は呪いである、と続ける。
その正体は魔人能力だ。
「山乃端一人」が死亡したとき、その周辺を相争わせる。

「かつて過去に「山乃端一人」という少女が実在したことは確かなようです。この能力がそのオリジナルのものか、はたまた他の誰かの能力かはわかりませんが……。おそらく能力者自身は既に死亡してると考えられています。が、「山乃端一人」が死ねば周囲で戦いが起こることは、これまで山乃端家が経験的に証明してきた事実です」


――――ああ、しっているさ(・・・・・・・・)


チャラリと、自分が持っている銀時計(・・・・・・・・・・)を、悪になりたい怪人は握りしめる。
軽薄な表情で目の前の少女と会話をする。軽薄な態度で目の前の少女と会話をする。軽薄に、軽薄に、軽薄に。

「でもな、■■■■■。」
「本当は違うんだ――――」

長い銀髪に鋭い切れ目。狐の獣人のような耳と尾が特徴的な男が、怪人の下で倒れ伏していた。
簡素かつ使い古された着物はすでに雑巾と代わりのない有り様で。
異能も、頼るつもりもなかった無限のはずの防御力も何一つ役に立たず。
まるで何もかもが対策されていたかのように(・・・・・・・・・・・・・・・)、全ての手札を紙くずにされたのだ。

「これは、目印なんだ。」
「山乃端一人として殺される運命にあった者に、先回りして渡された目印(ポインター)。」
もう一度、サイコロを振り直すために(・・・・・・・・・・・・)

「31人だっけか。コイツは俺みたいな奴が対応してやらないとな――――ペラ。」
「アンタラはまあ、迎えにくる奴がいないロクでもない人生を送ったんだろうけど・・・」
「案外よ、ロクが出るまで何度もやり直せるみたいだぜ、人生ってのはよ――――ペラ。」

軽薄な怪人は後始末をしながら空を見上げる。
黄昏時の夜空には、出来の悪いお月様が浮かんでいた。
まあるくゆがんだ、かみきれのようなおつきさまが。
怪人は、故郷を思いだした。
最早変えることもできぬ、紙切れのように薄れていく思い出を。
久しぶりに噛みしめた。

―――『■■』の名前は■■■■■。

もう『■■』は、一人じゃない。

それは、一人の『■■』の、罪と罰(エーデルワイス)(and ill I's)。


   ◆   ◆   ◆


それは、傷つけたものの時間を止める能力。

ハッピーさんに傷つけられたものは、それがピッタリ収まるサイズの箱に閉じ込められる。
その箱の中では時間の流れが止まり、半永久的に状態が保たれる。
鉄は錆びず、食物は腐らず、インクは色褪せない。

誰よりもやさしい異能。


駆ける、駆ける。黄昏色の夜空を、星が駆ける。
白く割れた空を、空を駆ける。

「子供の頃にな、読んだことがあるんだよ。あんたの本。」

猛る炎の聖剣を用いてエスカルゴ王国を統治し、伝承の中で数々の英雄譚を遺した女王と、その臣下の騎士達の物語を綴った書物『エスカルゴ王列史』
そこで語られる伝説の女王にして英雄、エウロペア・エスカルゴ陛下———
———ではない、これは存在するはずのない何か。

2020年、京都祇園祭にて限界した女王から産み落とされた存在を許されない影法師。

影法師は、夜空を駆けるその星を眺めていた。

「ここにいるあんたはそれとは別の物であったと言いたいんだろう・・・それでもな。」
「『あの子』がこの本(あんた)に救われてたことは、変えようもない事実なんだ。」

山之端一人。
数多の世界で死につづけ、数多の世界を渡り続けた一人の少女。

――――始めは、ただ本を読んでいた。

白い白い病室の中。

閉じた狭い世界の中。

抜け落ちる自分の髪。

色鮮やかな本の世界。

外ではない、世界。

ただそれだけだった。ただそれだけだったのだ。
『どこか遠くに行く異能』という、生まれながらにしての転校生となることを宿命づけられた少女の人生は、そこから産まれたのだ。

そして少女は、今。

ただ生きるためだけに保護されるために居たせまいせまい『箱』の中から、今。

「あの子はこれから、ハッピーにやっていける。」
「だから死んだ後を弔ってやる必要はない。」
「悲しむ必要なんて、もうどこにもないんだ。」

影法師は、夜空を駆けるその星を眺めていた。
ずつとずつと眺めていた。

―――あの子の名前は■■■■■。

もうあの子は、一人じゃない。

それは、一人の■■の、罪と罰(エーデルワイス)(and ill I's)。


   ◆   ◆   ◆


千手橋 拳平は驚愕する。
目の前の始めて見るはずの少女に見覚えがあることに驚愕する。

「酷い、とも言えないのかしらね。私は姿がない影法師だからね。」
「でも、こうすれば分かるんじゃない?」

少女はからかう様な懇願するようないわく言い難い表情で千手橋 拳平の手を取り。
己の輪郭を、ついとなでさせた。

「覚えているかしら?思い出せるかしら?」
「あなたが■■■■■であった時。あなたが死んだ時。あなたが転校した時のことを。」
「まあ、ゆっくりでいいのよ?これから時間はいくらでもあるのだから。」
「・・・まずはいっしょにカレーでも食べに行きましょうか?」

そういって浅葱和泉はからかう様な懇願するようないわく言い難い表情で少年の手を取り。
己の輪郭を、つよくつよく自覚した。

―――キミの名前は■■■■■。

もうキミは、一人じゃない。

それは、一人の■■の、罪と罰(エーデルワイス)(and ill I's)。


   ◆   ◆   ◆


「つまりはだ、ややっこしく見えるけどことは単純なんだ。」

白衣を着た少女が、白板を叩きながら講義をしている。

白スーツを着た男。マッシュルームヘアの男子高校生。東西南北京都。線香の煙を漂わせた女子校生。天意マン。レティクルをかけた女子校生。あと天意マン。
全員(天意マン以外)が神妙な顔をしていた。

よくわからないメンツであった。

「『どこか遠くに行く異能』、名前も付けられなかったふわっふわなこれが起こしたのがこの一連の『山乃端一人災害』の原因だ。」
「山乃端一人は死ぬ。必ず死ぬ。どんな世界でもどんな場所でもどんなに遠い所でも必ず殺される。」
「死ぬ原因の方は分からない。分からないと言うかありすぎて特定できないと言った方が正しいかな。」
「理由はあるんだろう、因縁もあるんだろう、運命とでも言えるんだろう。」
「だが、そんなものとは関係なく。」

「『どこか遠くで死んでいく山乃端一人』をたすけるために、過去から未来から異世界から。」

「『どこか遠くから来る奴がいた』」

「山乃端一人のままだと必ず死ぬから山乃端一人じゃないガワと役割を用意して、『着せ替える』。」
「そいつが元々そういうことをしてきた奴だからな。他にも異能に目覚めた山乃端一人が何人か協力してくれたのもでかかった。」
「そうやって集めて集めて元山乃端一人の群れはでかくなっていってるわけだな・・・全ての山乃端一人の非業の死を助けるために。」

白スーツを着た男。マッシュルームヘアの男子高校生。東西南北京都。線香の煙を漂わせた女子校生。天意マン。レティクルをかけた女子校生。あと天意マン。
全員(天意マン以外)が神妙な顔をしていた。

「転校生の襲撃は事前準備をして迎撃するか元山乃端一人が自分を追っかけて転校までしてきた奴にとりなしに行けば大体が解決する。」
「特定の山乃端一人を追いかけてきたわけじゃない奴でも善性の奴ならこうやって説明すれば『私達』と敵対する理由もなくなるだろ?」

「――――ただ、なあ。」

白スーツを着たエーデルワイス。マッシュルームヘアの鍵掛 錠。東西南北京都。線香の煙を漂わせたクラ谷 雲霞。天意マン。レティクルをかけた久松氷柱。あと天意マン。
全員(天意マン以外)が神妙な顔をしていた。

「そうやって救われた山乃端一人の中に、厄介な奴がいる。」
「過去に未来に移動して干渉できるこちらよりさらに上の手筋を打ってくる奴がいる。」
「救われることをハナから望んでいない、他人に迷惑をかけるのが生きがいみたいなそんな奴がいる。」
「どんなに複雑なことでも理解できる――――『どんな困難だろうと解決法を見出せる異能』を持った、諦めと底意地の悪さの権化みたいな奴だ。」

「現に何人かの元山乃端一人が胡乱な状態でデタラメに転校して暴れまわってる状態を確認している。方法は分からんがどうにかしたんだろうよ。」
「そして今回。意図的にこの地球には山乃端一人も元山乃端一人も大量に掻き集められている。」
「ここはその『どこか遠くに行く異能』を持った奴のターニングポイントとも言える時間で場所だ。」
「だからそいつは全力でおちょくりにいくつもりなんだろうよ、他人に迷惑をかけるのが生きがいの奴だからな。」
山乃端一人も元山乃端一人も他人じゃないが。山『之』端一人はあいつにとっては他人で、生きがいなんだ。(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「『一画方』は恐ろしい異能だが、やり方はある――――何もさせずにワナにハメ倒す。」
「お前がウチの切り札だ、頼むぜ、鍵掛 錠?」

白衣を着た徳田愛莉が不敵に笑う。

白スーツを着たエーデルワイス。マッシュルームヘアの鍵掛 錠。東西南北京都。線香の煙を漂わせたクラ谷 雲霞。天意マン。レティクルをかけた久松氷柱。あと天意マン。
全員(天意マン以外)が、神妙な顔をしていた。

―――私たちの名前は■■■■■。

だが私たちは、もう。

これは、一人の■■の、罪と罰(エーデルワイス)(and ill I's)。


   ◆   ◆   ◆


(私は、何かの役に立てたのだろうか?)

金椎加古は思い出す。思い出すことができないことを思い出す。
思い出せない、始まりのあの日。

タイム・精子に飛ばされたあの日を思い出せない。
オクトパス・精子に腕を食いちぎられたあの日を思い出せない。

悲劇的なことがあったはずなのに、思い出すことが出来はしない。

金椎加古は思い出す。思い出すことができないことを思い出す。
ない両腕をひらひらふるう振りをして、思い出せないことを思い出す。

思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。

私はこの『楽園』で何をするべきだったのか。何をして生きるのか。

思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。

彼女の焦燥が彼女の焦りが彼女の異能を加速させる。
それは彼女の感情を共感させる異能。
青・米・子(ブルース・ド・ライブモンスター)』内にて観測手だった転校生の傍に立ち、伝達の役目を持っていた異能。
感動!!君も泣け。そう呼ばれた異能。

思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。

思い出せないから制御が効かない。
『言葉にして語る』ことが条件だったはずの異能は『言葉を思い出せない』状況になったことでその軛から解放される。
腕もない故にジェスチャーも出来ない。伝える術を持たないことで異能の矛先はどこにも向かうことなく拡散していく。
害意も悪意もなくただ焦燥だけが撒き散らされていく。転校生の無限の攻撃力で無限に異能が拡散され続けていく。

思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。
思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。
思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。
思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。思い出せ。

黄昏色の夜空の下、誰にも知られぬ片隅で。ひとりぼつちでくるつていく。

――――おつきさまだけが、その狂気をやさしく見下ろしていた。

感動!!君も泣け。そう呼ばれた異能。
すでに泣く者はどこにもいない。

―――私の名前は■■■■■。

だが私は、もう。

これは、一人の少女の、罪と罰(エーデルワイス)(and ill I's)。


   ◆   ◆   ◆


「やあ、超越者たち。」


東京タワーの展望台にて、端間一画は待っていた。

山之端一人に救われるまでもなく死を、滅亡を乗り越えた山乃端一人とでも言うもの達。
山乃端一人である限り死は免れ得ない。ならば。死んだ後蘇るほどの超越者になりさえすれば。

一度目の死とその後のカタストロフを耐えうるほどの手段があれば山乃端一人は死を免れ得る。
あるいは『どこか遠くに行く』。あるいは宇宙そのものを乗り越える。あるいは転校する。
その後のカタストロフは避けることは出来なくとも、それ以降を生きて行くことは可能なのだ。

例外はある。
それは『どこか遠くに行った』逢合 死星であったり。
宇宙そのものに対抗しうるルルハリルであったり。
転校できる、瑞浪 星羅であったりした。

そして『絶対★魔法書ビブリオヘキサ』三国屋 碧沙

そして『天壌無窮の愛』蔦木愛美

そして『終わりと始まりの一歩』加賀見京介

そして『天上天下唯が独占』星空 唯

そして『開花宣言』小華和 琴葉

そして『異魔人蠢く魔宮の扉《アナザーディメンショナルフォルト》』大洲 戒醒

――――転校生として現れた、限定的でありながらも全能に近い、概念に干渉しうる転校生たち。
まぎれもなくこの世界における最大戦力がここに集結する。

端間一画。
何も物理的な干渉ができない、一魔人のために。

「ああ、もう。みんな。」
「そんなに『してやられた』みたいな顔をしなくてもいいじゃないか。」

少しでも対応を間違えれば端間一画は次の瞬間原子も残さず消えうせるだろう。
だが、端間一画は間違えない。『一画方』は間違えない。

決して誤ることもなく最大効率で目の前の他人に迷惑をかけている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

「君たちは山乃端一人が欲しいんだろう?いいとも、欲しいのならばもっていくといい。」

端間一画は間違えない。『一画方』は間違えない。
手に持つワイングラスの中の血肉を揺らしながら、全力で他人に迷惑をかけている。

「有間真陽に瑞浪星羅。私と同じ元山乃端一人でありながら山之端一人の手助けを拒んだ同志たち。」
「裸繰埜鵺岬晒に裸繰埜矢岬弓。転校生でありながら山乃端一人を別に欲しがらない変わり者たち。」
「彼女たちの協力の元、山乃端一人の半数はこちらの手の中だ。」
「いやあ便利だね、『超速直線運動』に『視肉プロップマン&少女アポトーシス』。」
「あれだけ大量の肉塊、どうしたもんかと思ったけどこんなワイングラスで持ち運べるくらいのサイズに保管できちゃったよ。」
「瑞浪星羅の異能封じがあれば暴走する心配もない、なんとかギリギリ間に合ったというところか。」

私もそんな異能の方がよかったなあ、と端間一画はうそぶいた。
そんなものなしにこの場を支配している魔人が、そううそぶいた。

「――――おっと爆発音。薄井ミクくんかな?」
「彼女の無差別攻撃は厄介だったろう?しかも周囲には妙な感情を掻きたてる正体不明のジャミング攻撃まであると来た。まあそのジャミング攻撃は私の手引きだけど。」
「思いつきにしては自慢のシナジーだったよ、気体操作ができるキーラ・カラスにあのジャミングの中でも連携が取れる山居ジャックは必ず彼女の支援に回る。」
「体を家に見立てることによる体内操作が出来る諏訪梨絵くん。彼女だけがあのウィルスにもジャミングにも抵抗できるからねえ。」
「全能に近いのも厄介だね。ABC兵器や精神操作に対しては小回りが利きにくい。」

端間一画は間違えない。『一画方』は間違えない。
手に持つワイングラスの中の血肉を揺らしながら、全力で他人に迷惑をかけている。

「小回りが利きにくいから――――こうなっちゃった山乃端一人たちを僕から奪い取る手段が思いつかない。そうだろう?」

――――転校生として現れた、限定的でありながらも全能に近い、概念に干渉しうる転校生たち。
まぎれもなくこの世界における最大戦力がここに集結する。

端間一画。
何も物理的な干渉ができない、一魔人のために。

全力で、手玉に取られているのだ。

「全く、愛が足りないよ君たちは。これだけ雁首揃えて淫魔人の一人もいやしない。」
「精神操作ができる魔人が用意できれば結果が違ったかもだね――――まあ、鬼姫殺人は僕が真っ先に確保してたんだけどさ。」

笑い声もあげず笑顔のままで、端間一画はくすくすと口で言っている。
笑えもしないのに笑い声を真似ている。そっちの方が彼らがイラッとするからだと分かっているからだ。

「さて、僕は逃げるよ。」
「君たちよりも小回りが利くのがそろそろやってくるからね、賢しさで立ち回るのにも限度がある。」
彼女たちを助けてほしければ、彼らと協力をしてくるんだね(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。」

端間一画は間違えない。『一画方』は間違えない。
手に持つワイングラスの中の血肉を揺らしながら、全力で他人に迷惑をかけている。

「このまま全ての山乃端一人が救われてしまえばめでたしめでたし?冗談じゃないよ。」

端間一画は間違えない。『一画方』は間違えない。
山之端一人を発端とした一連の災害。その爪痕は過去に未来に異世界にさんざっぱら散らばっている。
最速で全て救ったところで、それが消えてなくなるわけでは決してないのだ。

だから迷惑をかける。だから逃げ回る。
逃げ回った先に被害が見えればこいつらはそれを助けざるを得ない。
最短しか見えてない彼らを上手くおちょくり誘導して、よりよい未来に修正する。

端間一画は間違えない。『一画方』は間違えない。
手に持つワイングラスの中の血肉を揺らしながら、全力で他人に迷惑をかけるのだ。
まあまだ救われてない山乃端一人たちにはいずれ助かるまでこのままだが。そこは我慢をしてもらおう。なあに私も山乃端一人だ。

私を救う?ごめんだね。お前らが私に救われろ(・・・・・・・・・)

「じゃあね目標ばかりで横道もみない童貞処女ども!!私を追うこの長い冒険の旅で人間的に成長しろ!」
「次に会うときは恋人でも連れてきてるんだね!ばーかばーか!!!」

端間一画は間違えない。『一画方』は間違えない。
手に持つワイングラスの中の血肉を揺らしながら、全力で他人に迷惑をかけている。

彼女を追う彼らたちが、彼女がちょっかいをかける気も無くすほど平和になるまでは。
『一画方』は、間違えない。

彼らの旅はまだ、続く。


   ◆   ◆   ◆


何か調子っぱずれな歌を口ずさむ声が聞こえる。
声の方向からはカレーのかぐわしい香りが香り。
何やらにぎわいでいるようだ。

「めでたしめでたし――――でいいのかね、これは?」

月光・S・ピエロと呼ばれている男はカレーを作りながら横の女に話しかけた。
上機嫌でカレーを作っていた主(42歳独身彼氏なし・空を飛ばないものを指す)は答える。

光あれ、と。

「意味わかんねえよ。」

山乃端一人災害のおりに秋葉原で拾ったのだが間違いだったろうか?
まあ目途がついた打ち上げに混ぜてやってもバチはあたるまいか。

今回の事件で得られたものが無いと言えば嘘になる。
全てとは言わないがあの場にいた山乃端一人は全て助かったと言えるのだ。
後はまだ見つかってない・・・いや、見つけることもできなかった山乃端一人を確保して逃げたあの端間一画を追うだけ。

このまま終わっていれば彼女たちを助けるということを思いつくこともなく私たちはそれぞれの世界に戻ることになっただろう。

「――――ああ、そんなことはさせねえさ。」
「山乃端一人。お前は私が、私が決めた死に方で死なせる。それ以外は許さない」

『孫に囲まれながら老衰で死ね』

それが、月光・S・ピエロが山乃端一人に指定した『殺し方』なのだから。


   ◆   ◆   ◆


――――逢合美星は地球へ向う。山之端一人の元へ向う。


何もかもを失おうとも、それだけは覚えている。
故郷を失う悲しさを、帰れない寂しさを、いつまでも覚えている。


――――逢合美星は。


武器を握る。まだ、対抗できる。まだ、倒せる。まだ、勝てる。

いつまで対抗できる?
いつまで倒せる?
いつまで、勝つことができる?


――――逢合美星は、なお


希望があると信じて、山乃端一人の元に向かうのだ。
全ては『楽園』を守るために。
故郷を奪われる人を、これ以上増やさないために。


奇跡はある。異能を持つ我らには最後まで希望は残されている。
ああ、転校生が彼女を狙っている。彼女を守る魔人たちが居る。
我らも彼女を守るのだ。例え幾たび疎まれようとも、空より白い絶望が降ってこようとも。

希望があると信じて、山乃端一人の元に向かうのだ。
ただ、それだけを道しるべにして。
われらはほしをさがすのだ――――


それは地獄に生まれ地獄で祈る山乃端一人に届ける願い星。


逢い巡り合い巡る彼女たちに贈る一筋の美しい願い星。


『どこか遠くに行く異能』


それは山の端で一人、ひざを抱えて泣いていた赤ん坊に与えられた異能。
幸福を願い幸福に逢いにいくために願われた異能。
呪われた過去も呪われた未来も払うために、夜空を切り裂き輝く祈り。

明日に多くの幸あれと、美しき星に願う異能。

赤子に与えられた異能の名前は地獄で逢おうぜ(アスタ ラ ビスタ)

もう彼女は、一人じゃない。

もう彼らは、一人じゃない。



































そして。

そのイきつく果ての先で。

きっと我らは。

あなたたちは。

「■■■■・・・」
「あなたは、あなた、タチは。」


「し、あわせに、オナり――――」


物語は、続く。


Dangerous SS and ill I's...

the Last episode 【Extreme...and ahead of the end I reach】

Happy end
最終更新:2022年04月23日 20:19