前回のあらすじ
ドデカイザーをコピーして生み出された新たなるジャマキナの刺客ダークドデカイザーに追い詰められたドデカイザー。
絶体絶命のピンチの中、博士が開発したパワーアップパーツが五台山カケルに届いた。
進化したドデカイザーの力はジャマキナの邪悪な野望を打ち砕いたのだ。
こうして新たな戦士グレイトドデカイザーが誕生したのだった!
「よっし完成!これでも食らえーっ!!」
徳田愛莉がアイリ・ラボで開発した薬品を巨大徳川家康に投げつけた。
薬品を呑み込んだ巨大徳川家康はみるみる縮んでいき、元のクラゲちゃんに戻っていった。
「あたしにかかればこんなもんよ」
愛莉が胸を張る。
「……よかった」
近くで様子を見ていた安池有紗はその姿を見て胸を撫で下ろし、安堵した。
姫代学園の寮に帰宅した有紗は愛莉に巨大徳川家康になったクラゲちゃんを元に戻してくれるように依頼した。
巨大徳川家康は戦力としてみれば申し分はないが、日常生活を送るには明らかに不便である。
クラゲちゃんが巨人族だというならそれでも問題ないかもしれないが、クラゲちゃんはあくまでも人間大のクラゲである。
元に戻せるなら戻したほうがいいだろうと思ったのだ。
「でも、あたしに依頼してくるなんて意外だったぜ。あたしだって自分の評判ぐらい把握してるしな」
天災マッドサイエンティスト、問題児として学園内でも有名な徳田愛莉である。
「まっ、実験もできたし、かまわねーけどさ」
「徳田さんならできると思ったから」
山乃端一人は例外としても、今もまだ人間は苦手なことは変わらない。
諏訪理絵に関しては自分を止めてくれたということで好感を持たないわけでもないのだが、
けれど、クラゲちゃんが巨大徳川家康になったのは自分のせいなのだ。
だから、天災マッドサイエンティストとして学園内で有名ではあるが、問題を解決してくれそうな愛莉に依頼することにした。
問題児ではあるが、
当然クラゲちゃん本人の同意はとっている。
もっとも、有紗の支持であるなら忠誠心の強いクラゲちゃんはなんでもOKを出しそうではあるのだが。
愛莉は彼女の依頼に二つ返事で快諾し、現在に至るというわけだ。
しばらく様子を見る必要はあるが、クラゲちゃんの様子を見る限り彼女に依頼をしたのは正解だったようだ。
人間という存在を見直してみてもよいのかもしれない。
「せっかくだし、お前も一本どうだ。こっちの蛍みたいにお尻が発光する薬とかお薦めだぜ」
愛莉が白衣のポケットから怪しげな薬品の入った試験管を取り出して有紗に薦めてくる。
「いえ、い、いいです」
「別に遠慮しなくてもいいぜ。いっぱいあるからな」
愛莉が白衣の中から次々と怪しげな薬品を取り出していく。
このままだと怪しげな実験の被験者にされてしまいそうだ。
やっぱりこの人は信用してはいけないのでは?
有紗は思った。
宵空あかねとの再会は一人にとっても、歓迎するべき出来事だった。
宵空あかねの死は山乃端一人の心に深く影を落としていた。
とりわけ親しかったわけでもないが、「いつかまた会いましょう」と言って別れた相手が翌日に死んでいたというのだから当然の事だろう。
まして学校は謎の人体発火事件で廃校になったのだ。
一人はあの時、いじめを止められていればと悔やむ気持ちをずっと持っていたのだ。
だから、あかねは命を奪ってきた自分が一人と再会してもいいものか気にしていたようだが、
人体発火事件の犯人があかねらしいという事には驚いていたようだが、いじめのことを考えたら仕方ないことだと受け入れたらしい。。
あかねは委員長を探しに行くといってどこかへ立ち去ってしまったが、一人がピンチになったら駆けつけてくれるつもりと言っていた。
心強い味方になってくれるだろう。
翌日。
私はいつものようにベッドで目を覚ました。
ベッドの前面の壁に貼りだされた山乃端さんのポスターが目に入る。
以前、二人で一緒に撮った写真を引き伸ばして作ったものだ。
やっぱり美人だな、山乃端さん。うっかりと見惚れてしまいそうになる。
山乃端さんには迷惑をかけてしまった。
疑心暗鬼になってあんなことをしたのに、私をまだ友人だといってくれた。
見捨てられても仕方がないのに。
本当にいい人だ。私の天使。素敵。今すぐ結婚したい。
いや、それはひとまず置いておいて。
私はもう少しで自分が大切だったものを自分で壊してしまうところだった。
確かにあの声がなければ、山乃端さんを殺そうとしなかったかもしれない。
けれど誘惑に乗ったのは私の意思なのだ。
そのことを諏訪さんに箒で思いっきり殴られて説教された。
あれでも山乃端さんの友人だからと手加減をしてくれたらしい。
諏訪さんには感謝するべきだろう。
諏訪さんと山乃端さんは強い信頼関係で結ばれていて、二人の関係に嫉妬してしまう。
そんな資格は私にはないのだろうけど。
覆水盆に返らず。
もうやってしまったことは後悔してもどうにもならない。
罪が消えるなんていうこともない。
「山乃端さんを守らないと」
彼女の命を狙ってしまった私が今更信用されないかもしれない。
それでも彼女を守りたいのだ。
「あっ有紗ちゃん待った?」
「いえ、今来たところです」
山乃端一人は待ち合わせ場所の銅像の前で立っていた安池有紗に手を振る。
実際のところ、有紗は約束の一時間前には待ち合わせ場所にもう着いていたが、そのことはおくびにも出さない。
近所のショッピングモールに一緒に行く約束をしたのだ。
「諏訪さんもお久しぶりです」
ちなみに一人の傍らには理絵がついている。
一人を殺そうと襲撃した有紗と二人きりにするわけにはいかなかったからだ。
それに有紗の能力は死体が必要という制約がある。
いざという時に、彼女一人で一人を守りきれるかもわからない。
だから、理絵も一人に同行することにした。
道中、『棺極ロック』というVtuberの話をしたり、。
有紗と一人は最初に訪れた服屋で服を選んでいた。
理絵は大体メイド服で過ごしているため、市販の服にはほとんど縁がないのだが、かつてはお嬢様だった一人はファッションに興味を持っていた。
その後、ゲームセンターや園芸店などいろいろ回ったあとの事だった。
人通りが少し少ない道に差し掛かった時、理絵が有紗に声をかけた。
「有紗、先ほどからつけられてますね」
有紗が理絵が指摘する方向を見ると、マスクをつけた明らかに挙動不審な少女がいた。
全くこちらに尾行を気付かれていないつもりのようだが、どう見ても怪しい。
山乃端一人を狙った刺客だろうか。
とりあえず声かけるべきか。
その時だった
「ヤギュヤギュ」
「ヤギュー!」
とりあえず雑に殺してもあとくされなさそうなので、柳煎餅本人を出すつもりがないのに濫用する予定の自動生成柳生軍団だ。
自動生成柳生が存在するということはこの世界にも柳煎餅は存在するということではある。
柳煎餅よ お前は今……どこで戦ってる……。
「ヤギュヤギュ」
次々と飛び掛かってくる自動生成柳生軍団。
襲い来る自動生成柳生軍団を箒で撃退する理絵。
その時だった。
山乃端一人が薄井ミクに捕まってしまった。
自動生成柳生軍団は一人一人は脅威ではないのだが、数が多すぎた。
このまま、山乃端一人は殺されてしまうのだろうか。
その時、薄井ミクの脳裏に浮かび上がった「山乃端一人」との楽しかった記憶。
幼馴染だった「山乃端一人」の姿が目の前の少女の姿と重なり合った。
「だめ……やっぱり一人は殺せない」
ミクは涙を流しながら、殺そうとした手を止める。
ミクの目の前にいる山乃端一人が彼女が知っている山乃端一人とは平行世界の別人であるということは理解している。
だから、ミクの世界に山乃端一人を存在させるために山乃端一人を殺そうとしたのだ。
だが、この世界で一人を観察しているうちに、一人を殺害しようという決意がだんだん鈍ってきた。
幼馴染だった一人との楽しかった思い出を思い出してしまい、一人を殺すのがつらくなってきたのだ。
自分を殺そうとしたミクの様子がおかしいことに気付いた一人はミクにそのことを問いただした。
ミクは感情を吐き出すように自分のこれまでのことを告白する。
「貴方、名前は?」
「……薄井ミク……です」
ミクが一人に名乗った。
自動生成柳生をいなしながら、傍目でその様子を見ていた有紗はこの娘、自分とキャラが被っているのでは?と思った。
山乃端一人を殺そうとしてたし、山乃端一人の事大好きだし。
人間たちが殺しあっている。
恋人が。上司と部下が。
その場にいた、全ての人々が。
そのような悪夢のような世界が実現してしまうのが薄井ミクの魔人能力『ナイト・イン・ナイトメア』だ。
ミクの「山乃端一人」に対しての感情に連動し自動発動し、マイナスイメージを持つこと。
薄井ミクは一人に危害を加えるつもりはない。
たとえそうだとしても、彼女が脅威であるということに変わりはない。
何かの拍子に「山乃端一人」にマイナスの感情を持った時、ウイルスが広まってしまうからだ。
余りに危険すぎる。
能力を確認した理絵は宵空あかねを呼んでいた。
宵空あかねは人間ではない。
だから、人間を対象にしたウイルスの影響も当然受けない。
というより、身体のない幽霊にウイルスが感染するか自体が怪しいだろう。
浅葱和泉も人間ではないのだが、理絵はそのことを把握していなかったのでこの場には呼んでいない。
精子といいよく考えたら共闘した相手全員人外だな。
「どうにかならないの?」
一人が理絵に問いかけた。
「ウイルスの件が解決しないとどうにも」
このままお引き取り願うしかない。
「徳田さんなら……」
有紗がつぶやいた。
有紗は徳田愛莉の姿を思い浮かべた。
彼女は姫代学園の問題児ではあったが、天才であることに疑いはない。
巨大化し、徳川家康化したクラゲちゃんも元に戻したのだ。
彼女なら何とかしてくれるはずだ。
「徳田さん?」
「姫代学園の先輩です。外見は私より年下にしか見えませんが」
有紗は徳田愛莉について説明する。
全員、姫代学園に向かうことにした
途中、襲い掛かってくる自動生成柳生軍団。
ミクのウイルスに関係なく襲ってくる集団だが、撃退した。
姫代学園にたどり着いた。
「おっ有紗か。どうしたんだ。実験に協力してくるんなら歓迎するぜ」
「違います。実は」
有紗が事情を説明する。
「なるほどなそれであたしのところに来たってわけか。」
有紗の話を聞いて愛莉が得心する。
「よし任せろ」
愛莉が【アイリ・ラボ】の中に入った。
ラボのなかで愛莉は悪戦苦闘するがここで省略する。
そしてしばらく時間がたった後――
「できたぜワクチン」
愛莉がラボから現れた。彼女の手にはワクチンが握られている。
徳田愛莉の力でウイルスのワクチンが誕生した。
後はこれを世界中に広めるだけだ。
このあと愛莉が開発した凄い発明により、世界中にナイト・イン・ナイトメアウイルスに対するワクチンがばらまかれた。
最早ナイト・イン・ナイトメアウイルスはこの世界の脅威ではないだろう。
薄井ミクの騒動から数日後。
諏訪理絵は鏡の世界で鏡助と会っていた。
「貴方に聞きたいことがあります」
「どのようなご用件でしょう」
「転校生は自分の世界を作ることができるといいましたね」
「そうだね」
「そのために別の世界から報酬として人材を集めていると」
転校生は報酬として自分がほしい人間を自分の世界に持ち帰れる。
薄井ミクもそのためにこの世界に来たのだ。
「ならばこの世界にもこの世界を作った転校生がいるはずです」
「つまりこの世界は貴方の作った世界なのでは?いろいろな世界を渡り歩いて多忙というのも、つまりはこの世界に一人を守るための人材を集めいたのでは?」
「そうですね。貴女の想像通りです」
鏡助は彼女の言葉を肯定した。
「この世界は確かに私の世界です」
「他の世界から人材を集めました。宵空あかね、浅葱和泉、柳煎餅、徳田愛莉、遠藤ハピィetc。貴女がよく知る方も、貴女が全く知らない方もいます」
「そして私もということですか」
「いえ。貴女は違います。貴女はこの世界に最初から存在していました。そして」
それは理絵には意外な回答だった。
当然、自分も山乃端一人を守るために集められた存在の一人だと思っていたからだ。
「貴女は山乃端一人を狙う脅威ではありませんでしたが、世界に対する脅威ではありました」
「脅威?」
「貴女の魔人能力は山乃端一人のためならどこまで強くなれる。それこそ世界を滅ぼすほどに」
「貴女は山乃端一人を失い、世界を恨んだ。そして貴女は一人ですべてを敵に回し世界を滅ぼした。世界を滅ぼすことを山乃端一人のためだとそう結論付けて。
それがこの世界で繰り返されてきたハルマゲドンと呼ばれる戦いです」
山乃端一人を失った薄井ミクが世界を滅ぼしたように、この世界では理絵がそうしたのだ。
「私は山乃端一人を守りたかった。そして、諏訪理絵。貴方が世界を滅ぼすのを止めたかった。ですが、何度世界を作り直しても貴方が世界を滅ぼす、その結末は変わりませんでした」
鏡助が懐かしむように言った。
「ですが、今回世界は守られました。おそらくもう山乃端さんを襲う人間は現れないでしょう。これからの貴方の健闘を祈ります」
次の瞬間、理絵は元の世界に返され、鏡助は去っていった。
止まない雨がないように、降り積もる雪は溶け、冬もいつか終わりが来る。
あれから時は過ぎ、四月になった。
暖かな春の日差しの中、桜が咲き乱れる。
綺麗な桜吹雪が舞い散る中、少女の頬を柔らかな風が撫でる。
あれから山乃端一人は誰かに襲われることもなく、平和に日常を過ごしていた。
鏡助とはあれから一度も会っていない。
もう二度と会うこともないような気もするが、どこの鏡からまたひょっこりと顔を出しそうでもある。
あの日々も今ではなんだか懐かしい気もする。
もう一度過ごしたいかと問われれば、当然お断りするのだが。
その日は天気予報では快晴になっていたので、みんなで集まって公園でお花見をすることにした。
鮮やかな桜並木が名物の自然豊かな公園である。
気合を入れて身支度をしていたら、家を出るのが少し遅くなってしまった。
銀時計で確認したら、待ち合わせの時間を過ぎていたのだから、
当然理絵と一人が最後だった。もうみんな集まっていた。
遠くからもはっきり認識できるほど薄井ミクが発光している。徳田愛莉が何か飲ませたのだろう。
内気なミクは特に拒絶することもなく飲んだようだ。
「山乃端さーん。こっちです」
「りえー、はやくはやく」
オレンジジュースのペットボトルを片手に安池有紗がこちらに手を振る。
暗黒巨大化クラゲちゃんが彼女の側で一緒に触手で手招きする。
「ふふふ。重訳出勤だね。主役は遅れてやってくるって事かな。ヒトリちゃん」
「実際この集まりは山乃端さんが中心だしね」
浅葱和泉が妖しげに笑い、宵空あかねと談笑している。
みんな楽しそうだ。
ずっと取り戻したかった日常が二人を待っていた。
「行きましょう、一人」
「ええ」
二人は喧騒の中へ飛び込んでいく。
のどかな春の陽は彼女達の新しい日々の明るい未来を指し示していた。
こうして長き冬の物語は終わった。
だが、これで終わりではない。
なぜなら彼女たちの人生はまだ始まったばかりなのだから!!
fin ご愛読ありがとうございました!