一人の少女の、罪と罰。
水の音がする。白く白く塗りつぶされる世界に、ただ水の音がする。
それは涙が垂れる水の音であり。
それは血があふれる水の音であり。
それは、海が落ちていく水の音であり。
それは、一人の男が腰を振る、水の音であった。
崩れていく世界、消えていく空、落ちていく海、崩れていく大地。
この世界はいま、明確に終わりを告げようとしていた。
それは遥か時の彼方。もう見ることもできぬ彼の地。すでに記録すらない世界。
それは、一人の少女の、罪と罰。
◆ ◆ ◆
宇宙にて。
宇宙的複数の横棒が備えられた櫓を回す者たちがいた。
彼らは無限の攻撃力によりその横棒を奴隷のごとく無限に押すことができ、
奴隷のごとく鞭を討たれても無限の防御力でそれに耐えることができた。
無限のフィジカルにより発生するその動力には無限の発電力を産み、
そこに無限に感電していく転校生たちが手を繋ぐことで無限に電力を供給していく。
これこそが転校生脅威のメカニズム。そして無限の力を宿し動く機動兵器こそ対精子転校軍最強最後の超兵器。
その名を『青・米・子』と言った。
「報告します!空が1、精子が9!空が1、精子が9です!!」
『観測』の異能を持った転校生が無限の肺活量にて『青・米・子』内に伝令をいきわたらせる。
無限の防御力を持った鼓膜を破りながらその内容を聞いた彼らは総じて無限の絶望の表情を浮かべていた。
眼前に広がる、精子の海原。
基本種たる精子だけでも押し潰されそうなその物量を前にたった一機で挑まなければならない様は風車に挑む老騎士のごとくであった。
それでもと、『青・米・子』より主砲が発射される。
無限の防御力を持った転校生を無限の攻撃力で撃ちだす転校生砲。
射出された先で異能を解放することでその威力は無限に増幅される、まさに最強の兵器である。
最強である――――兵器としては、であるが。
無限の防御力ごとジュラシック・精子はそれらの転校生砲を呑みほしてのける。
呪いのモロコシ精子のカースが異能を逆流させ転校生を爆散させる。
異能を吸い上げた精子ネードがカテゴリー3へと進化する。
あの精子群は進化する。『子行種』と呼ばれる脅威の進化を遂げた精子たち。
ソレらが人類が生みだした究極の一つともいえる転校生の無限をアッサリと蝕んでいく。
有限が、無限を物量で上回る。それは見るものに狂気を伝染させる一つの悪夢のようであった。
「駄目だ!・・・戦闘に使える異能持ちは全員看板に上がれ!」
「『楽園』を、封鎖せよ!!!」
「彼女が――――最後の一人なんだ!!」
『分身』の異能を持った転校生が組体操をすることで精子群に対する壁となる。
――――それもいつまで保つかは分からない。だが、それでも。
精子の群れより数名を逃がす時間稼ぎくらいには、なるだろう。
かくして多田野精子による精子災害より『楽園』を守るために最期の対精子転校軍は本土決戦へと向かう。
本土にいるこの世界に元々いる魔人たちは転校生である彼らと足並みそろえることは叶わないだろう。
彼らとは別の目的、ただ自分たちの世界を完成させるために動く転校生たちと彼らは敵対するしかないだろう。
何より、万全の状態でなお壊滅寸前まで追い込まれたあの精子災害に対抗する手段は彼らには存在しないのだ。
――――それでも、彼らは地球へ向う。山之端一人の元へ向う。
逃げ延びれたのは異能と呼べる異能は無い元弱小の魔人であり、頼みの転校生としての性能も最早この次元の戦場ではなんとも心もとない。
なにより地球へと移動する際の精子災害との戦闘ですでに彼らは満身創痍。
オクトパス・精子に腕を食いちぎられた少女はまだ目が覚めていない。
ファイブヘッド・精子に脳を貪られた青年はただ生命反応を示しているだけだ。
アトミック・精子の射精能に侵された少年は青白く発光して今にも塵になりそうな有り様で。
フランケン・精子の精子チェーンソーでバラバラに切断された老婆は這いずる事しかできやしない。
何よりもウィジャ・精子による霊的精子攻撃により全員名前に精子が入り込んでしまい、記憶にすら支障をきたしている。
自分たちの名前も、異能も、思い出も。精子交じりにしか思い出せない。
まさに満身創痍の集団であった。
――――それでも、彼らは地球へ向う。山之端一人の元へ向う。
何もかもを失おうとも、それだけは覚えている。
故郷を失う悲しさを、帰れない寂しさを、いつまでも覚えている。
逃げる彼らの前に空より1m弱の精子が飛来する。
未だカテゴリー外の弱小精子ではあるがやつらはすでに『楽園』へと侵入を開始しているのだ。
――――それでも、彼らは。
武器を握る。まだ、対抗できる。まだ、倒せる。まだ、勝てる。
いつまで対抗できる?
いつまで倒せる?
いつまで、勝つことができる?
――――それでも、なお
希望があると信じて、山之端一人の元に向かうのだ。
全ては『楽園』を守るために。
故郷を奪われる人を、これ以上増やさないために。
奇跡はある。異能を持つ我らには最後まで希望は残されている。
ああ、転校生が彼女を狙っている。彼女を守る魔人たちが居る。
我らも彼女を守るのだ。例え幾たび疎まれようとも、空より白い絶望が降ってこようとも。
希望があると信じて、山之端一人の元に向かうのだ。
ただ、それだけを道しるべにして。
われらはほしをさがすのだ――――
◆ ◆ ◆
無い筈の口で、多田野精子は幸せを願う。
無い筈の頭は、多田野精子は幸せを願う。
無い筈の足が、多田野精子は幸せを願う。
その果てにはきっと何もない。自己を肥大し続けた精子はすでに人間が孕める代物ではなくなっている。
災害と化した精子たちは本懐を遂げることはなく永遠に世界を埋め尽くしていくのだろう。
それはきっと、無数の世界で死んでいったあの子への弔いだ。
あの子が天の川 を見上げたときのほほえみを覚えている。
あの子と一緒に食べたホワイトシチューの味を覚えている。
あの子の誕生日には、絵をカいて送ろうと思ったっけ。
白いキャンパスに絵をかこう。
てもとには、白い絵の具しかないのだけれど。
どんなに塗りたくっても誰にも気が付かれないけれど。
白い白い絵を描こう。
そしてあのこにおくるんだ。
「は」ー、ち、「ゃん。」
「し、あわせに、オナり――――」
ないはずのくちで、ただのせいしはかのじょにうたう。
彼女に言いたいことはこういうことではないと、多田野精子は思った。
彼女に求めてることとは何かが違うと、多田野精子は思った。
彼女にシたいことはこれじゃないと、多田野精子は思った。
ないはずのあたまは、ただのせいしはかのじょをおもう。
だがすでに止められぬ。
己が基は着床であり、とどのつまり己はそれだけのための『生き物ですらないナニか』であるからには。
ないはずのあしが、ただのせいしは、かのじょにむかう。
希望があると信じて、山之端一人の元に向かうのだ。
ただ、それだけを道しるべにして。
われらはほしをさがすのだ――――
続く。