【爆笑】キタ【面白】
■キャラクター名:【爆笑】キタ【面白】
■ヨミ:キタ
■性別:男
■武器:身ひとつ(ユーモア無限大)
特殊能力『登録者爆増計画(バズラナイトイヤー)』
自身の管理するyoutubeチャンネル”爆笑面白チャンネル”の登録者を力に変る能力
腕力や瞬発力、記憶力や会話力、人間力や性的魅力、スベリ力や不可抗力など、どんな力でも構わないが、その力は面白動画のためにしか発揮できない。
動画投稿をし始めて一年程、登録者数が増えず創意工夫していた頃に開花した能力。
しかしチャンネル登録者数はさほど増えていないようだ。
※力に変えられた登録者は全生命力を失い、死にます。
設定
北 鶴太。
37歳独身男性。動画投稿者、笑いの実行犯、本場大阪の笑人。収入ゼロ。
2009年から動画投稿サイトYoutubeにて、爆笑面白チャンネルとして活動。
「日常に笑いを」をモットーに、愉快で楽しい動画を投稿している。
投稿頻度は、クオリティ確保のため、だいたい月1。
最も再生された動画は「【みんなで大爆笑!!38】スパゲティ、目からすすってみた!!!!!!w」。再生回数4707回。
山乃端一人を殺す理由
山乃端一人を殺すとバズるから。
情報元はGoogle。そう信じている。
プロローグSS『ある光』
友達が、友達だと思っていたのに、HIKAKINGさんを馬鹿にして、ついケンカになって、もうこんなんじゃ、全然、なんにもよくない。ママが塾のためのスマホ、ひと月1GBでっていうスマホを、図書館に行ってWIFIするのも、もう顔向けできなくって、家に帰るのも、そういうんじゃないから、ふらふらしてたらもっと小さい頃に遊んだ公園で、そこにいて、ゆらゆらしている。スマホを見る。そろそろ夜。曇りマークと雪のマーク。ぶるぶる震えてきたけれど、充電の残りはまだある。youtubeで検索。「HIKAKING 嫌い」。悪いおっさんが、汚い顔をして並んでいる。アイツとおんなじだ。顔。いったい何で楽しくないのに、平気なんだろう。サムネだけでも、もうこの人たちは人間なんかじゃなくなって、生きているふりをしているだけで、心ってものがないんだと思う。歩いたり食べたり、喋ることをしていても、全然、意味がない。僕の人生にも、HIKAKINGさんの人生にも、こういう人たちはまったくいてもいなくてもいいんだと思う。バカなんだから。youtubeを汚している。HIKAKINGさんを侮辱している。こういうものを見てはいけないのだけれど、今日はおかしくなってしまって、アイツが言ったムカつく言葉が、たぶん、youtubeは人間を写す鏡だから、アイツの検索履歴には、汚い顔のおっさんのサムネがずらりとならんで、それで、あんなことを言ったんだと思う。去年にも、春にも夏にも、昨日にも、あんなことを言う素振りなんて、まったくなかったのに。たぶんうっかり手が滑ってタップしたんだと思う。間違って偶然見てしまった動画で、悪い影響を受けてしまって、自分を神か何かと勘違いして、どう考えたってありえないのに、HIKAKINGさんに上から目線で、普通じゃないのに、間違えてるのに自信満々で、あんなことを言ったんだと思う。バカだ。液晶の光が目に痛くなってくる。目をゴシゴシやる。発光を下げる。すっかり暗い。充電も赤くなってる。僕は汚い顔をおっさんのサムネの中で、最も汚く、最もつまらなそうなものをタップする。これを見て、明日言ってやろう。「他の奴らのほうがつまんない。HIKAKINGさんは面白い」って。
『どぅワドゥワドゥワドゥワ、ドゥわわわーん。爆笑!面白!キタのおおおおお笑いチャンネル。どんどんぱふぱふー……ということで、えー、面白い! 今日も面白い! 面白いキタが、来た、ということで、えー、ね! 面白い! ということで、今日は、いや今日も、今日も。今日も! ですね。なにせ私ええ、、面白い! ことをね、もー、毎日毎日、考えてばっかりで、あたまんなかもう爆発寸前! もう面白い! えー、そういうことで、私、困ってます。たすけてください。面白すぎて、腹、捩れております。えー、ねっ! だからね、えー、どこまで話したかな、えー、うん。えー、あのー、私のオモシロ企画、第38弾でございます。38。みーや、38、みーやーで、38回、みなさまに爆笑を、お届け……したかと思います。お届け……しました。お届けしました! ええ、わたくし爆笑をみなさまにお届けしました! 38回。38回の笑い、そして感動。だから私の、えー、動画ー、38本の動画がこのように全国、世界中にね、アメリカの人も笑ってくれております。たぶんアメリカの人も笑っております。I laugh. yhea.hay, thenkyou.WAHAHA! はい。お笑いいただけたかと思います。ええ。人によってはこれが初笑いかもしれませんね。ええ。新年一発目の動画ですから、ええ。えー、うん。あー。ん? 37か。あー37か。これまで出した動画は37、今回が38。38。みーや、ね。38回。38回目の笑いをねー、ええ。企画を。私の企画を。企画力。常人の十倍はありますから。あたまんなか、もう爆発寸前! ね。たすけてください。前置きはこれくらいにして、38回目、みーや、38回目の企画は、こちら、こちらですね。下の方ちょっと写ってたんで、このスパゲッティもね、みなさまと同じよう気持ちでしょうね。ハヨシローって。はい、はいすみません。ね! こっちのペースでやらせてもらうんで。えー、今日はスパゲッティ、茹でます! 茹でるだけじゃあ普通の面白くもなんともない……? OKOKシッダンシッダンぷりーず。もちろん、ただ茹でるだけじゃああああありません。あー、いちおー、茹でるのは普通に茹でます。普通に茹でてー、それで、ね。その次。いい感じのスパゲティをね、ここ、わかるかな、歌舞伎じゃないよ、ここ、目頭からちゅるる、ちゅるるんとね、スパゲッティ、啜っちゃいます! 題して、爆笑面白企画第38団! 目からスパゲッティ啜ってみた〜!! はい。では、えー……、……茹でてきま〜す』
僕は昨日気の迷いで観た動画を、あいつに見せてやった。心底つまらなそうだったから、作戦成功だと思っていたら、突如笑いだした。あっけにとられるとはこのこと。笑いどころなんて何ひとつもなかったのに、笑ったのだから。本当にすっかり様変わりしてしてしまったんだ。10秒前に戻して、改めて見る。自分の動画が38本目であることをことさら強調するシーンだ。何も面白いところはない。噛んでばかりだし何が言いたいのかもよく分からない。分かっても大した意味はない。HIKAKINGさんならカットしているはずだ。存在すべきではないのに……なぜ笑える? よくないのに。はてなまーくいっぱいの僕に、あいつは昨日みたく小馬鹿にして言う。「つまらなすぎて面白い」。つまらなすぎて面白い。リフレインする。こいつは昨日、HIKAKINGさんつまらないなどと言っておきながら、本当につまらない動画を、つまらないから面白いと言うのか。こいつの頭の中が分からない。ぐるぐるぐるぐる、めまいしそうなほど、空に向かって落ちているような、どうしようもない浮遊感が、どんどん激しくなる。昨日見たくこいつを殴ってしまえたらどんなに楽だろう。指ひとつ動かせない。きもちわるい。目の前が真っ暗になって倒れたのだと思う。なにも見えないけれど、たぶん怪我はしてない、倒れる前に抱きしめられた感触があったから。あたたかく、光り輝いている。目を閉じているのに、その感触は煌めいている。どこまでも照らす。誰が僕の体を支えているのか、体はよくわかっているが、目には、瞼の裏には、光が――光そのものを統べる王――HIKAKINGさんが16:9いっぱいに広がっていた。
『茹でてきました〜。はい、茹でてきました。スパゲッティ、湯、塩。ね。ほらみて、ぷにぷにしてる。ね。ぷにぷに……ぷにぷにぷにぷにぃ! いい感じの茹で具合…となっております。いい塩梅、いい塩加減。どこをとっても完璧です。一流のシェフ、そう呼ばれることも、あるかもしれんな。あるな。料理の才、完全に目覚めさせていただきました。星3つです。ただまあ私は生粋のコメディアンですので、そこはご承知ください。えー。私。料理、できます。面白い上に料理もできる、なのに独り身で、ええ、……………優良物件です。はい。ええ。無料人間です。youtubeもスパチャー、スパーチャが始まればねえ私もええ、ええ、ええ、……笑いを皆様にお届けする、ええ、ユーモアある男です。笑顔の絶えない家庭。よき夫。非の打ち所が、ありません。脛くらいか。っはは。ええ。……えー。それでは早速、スパチャ解禁を祈願して、スパゲティ、目から啜ってみたいと思います。ええ。実はそういう、あっこれ最後に言おうと思っていましたが、実は今回の企画は、スパチャ祈願動画なんです。これ最後に言おうと思ったんだけど。最後に言おうと思ったけれど今言いました。スーパーチャットが始まればねえ、皆様の声援が、私の元に、ええ、私の活動を支えることになるでしょう!あなたの善意が。そうすれば私もねえこんな……、ええ、やっぱり大事ですよねえ、親孝行って……』
光ははやいが、限りがある。闇は動かずただそこにあるだけだが、きっと光よりもはやい。僕は光を一瞬で失うとショックをうけたみたく心臓が強くうち体がびっくりする。つめたい空気。ガヤガヤは賑やか、けれど遠く、学校の中でふしぎな静かさに包まれている。保健室だ。僕はよく体調をわるくする。今回は、とようやく思い出した。ふとももに重みがある。あいつが椅子に座ったまま、うつぶせでだらしなくもたれかかっている。どうやら僕を運んで、これ幸いにサボっていたようだ。あいつのそばに、僕が紹介したつまらないyoutuberの動画が。目からスパゲティをすすってさえ面白いところは何一つないのだけれど……。
「本当に気に入ったのかよ。馬鹿だな。つまらないっつってんのに」
つまらないのに面白いだなんて歪んでる。まったくソリが合わない。
だから正面からぶつかれる。
だけど倒れていれば支え、安全な場所まで運んでくれる。
趣味が合わなくても喧嘩しても僕達は親友だ。
僕は笑って、あいつをゆする。
あいつは重力のまま崩れ落ちた。
髪がはらはらと抜け落ち、
顔はミイラのように渇き、
腕は枯れ枝のように細い。
ミイラ。
すべての生命力がうばわれたような親友の姿に言葉がない。
ピコン。
聞き慣れた音。
登録チャンネルの新規動画をお知らせする通知音。
親友の死を笑うかのようにむなしく鳴り響いた。
最終更新:2022年02月06日 21:10