ラーメン野郎・有村 大樹(らーめんやろう・ありむら だいき)


『現世への執着』

店長として独立する。
絶対独立! 半年間で絶対独立!
援助金は200万! 夢を諦めるな!

キャラクター設定

ラーメン妖精・ミル彦の無敵背脂ラーメンの力により、ラーメン野郎として覚醒した。
「ラーメン魂」のアルバイトとして渋谷東口店に務めていたアルバイトの青年。
頭にタオルを巻き、黒いTシャツには「一期一杯」「魂不滅」の文字が大きく描かれている、屈強なラーメン野郎。

ラーメン属性は「魚介」「塩」の二種類を操る。
モンゴル岩塩を遣った「無敵ラーメン(戦)」「無敵ラーメン(姫)」を得意とし、渋谷ラーメン戦国時代では「鬼神」として恐れられていた。
特に高速湯切り「白虎落とし」によって調理時間を大幅短縮したラーメンは、
昼時の大量の客ごと瞬く間に渋谷109すら吹き飛ばしたことから、「ラーメン魂」の次期店長候補として恐れられていた。

目つきが悪く無愛想。頑固。
それは「ラーメン魂」の店長、ラーメン野郎・杉田巌を心からリスペクトしているからだ。

(念のため:ラーメン=魔法、野郎=少女と読み替えてください)

肉体能力について
 ・海外の派遣傭兵レベル
 ・格闘術は特にないが、ラーメン作りのノウハウはマスターしている

特殊能力『白虎落とし』

超高速の湯切り。
調理時間を大幅短縮し、激ウマ級ラーメンの高速起動を可能とする。
その起動時間は、およそ1秒を切る。

「魚介」「塩」属性は「切断」と「増殖」をつかさどり、これを組み合わせた多彩なラーメンが彼の持ち味である。
一撃の威力は「豚骨」や「味噌」に劣るが、その分、この二つの概念を組み合わせた臨機応変の戦闘術が持ち味である。

空間を切断しての瞬速移動、臓器を増殖させての防御などを可能とする。

(ふたたび念のため:ラーメン=魔法、激ウマ級=ドラグーン級、魚介=風、塩=大地とでも読み替えてください。)


プロローグSS

西暦201X年。
 世はまさに群雄割拠するラーメン戦国時代。
 だが、度重なるラーメン戦争で渋谷は荒廃し、数多くのラーメン野郎が散っていた。

 《天下一品》、《ラーメン次 郎》、《ラーメン青葉》、《餃子の王将》……。
 歴代屈指の名店も、日に日に勢力を増す食通たちの熾烈な侵攻に、なすすべもなく滅びた。

 そして現在。
 ラーメン野郎たちは、ついにラーメン野郎どもの聖地、渋谷からの撤退を余儀なくされていた――。

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「独立……」
 ラーメン野郎、有村大樹は、もはや無人となった店内でひとり、タオルを頭に巻く。

「絶対独立……!」
 黒いシャツの背中に、「一期一杯」の荒々しい書体。

「半年間で絶対独立……!」
 カウンターを越え、無人の店内を進む。
 店長は、同僚は、アルバイトたちは、無事に逃げることができただろうか。

「支援金二百万で絶対独立……!」
 いや、まだだ。もっと遠くまで逃さなければ。
 そのために、自分がこうして一人残ったのだから。

「溢れる情熱で絶対独立……!」
 有村は右拳を握った。
 体内厨房から、静かに沸騰するスープが溢れてくる。
 すでにその相貌は炎のようであった。
 いまこそ、店長に恩を返すときがきたことを、彼の体が知っていた。

『ぜ、ぜったい無理だミル~~~!』
 店の片隅で声がする。
 半透明の白いカツオのような生物が浮かび上がり、泣き出しそうな顔をしている。
 そうだ。
 この店に残ったのは、自分ひとりではなかった。

『お客さんたちが殺到してくるミルよ~。
 いくらダイキでも、ひとりじゃ捌ききれないミル~~~。
 アルバイトを呼んだ方がいいミル~』
 不利を訴える、この半透明の空飛ぶ魚の名を、ミル彦という。
 有村をラーメン野郎として覚醒させた、ラーメン妖精である。

 涙を流す魚。
 その滑稽な姿に、思わず有村の鋼鉄彫像のような頬が緩んだ。
「心配してくれるのか、ミル彦。珍しいな」
『当たり前ミル! ダイキがいなくなったら、誰がミル彦を養うミル~』
「ここを抜け出したら、区役所へ向かえ。生活保護を訴えろ。
<div> 運がよければ……新しいラーメン野郎と出会えるかもな」

『ダイキ……』
 ミル彦は泣くのを止めた。
 それがふさわしいと思ったのだろう。

『ダイキは、本当に、大馬鹿野郎のラーメン狂いミル~~~~!』
「ありがとうよ」
 そして、有村は店の外へと一歩を踏み出す。
「お前に褒められるのは、はじめてだ」
 最初であり、最後になるだろう。そんな予感はあった。


…………………………………………………………………………………………

 有村が店の外へ踏み出すと、異形の影のとどろく咆哮が出迎えた。
『Suhhhhhhhhhhhhhh……GAhhhhhhhhh――――hhhhhhhhhhh!』
 それは、戦車ほどもある巨大な獣であった。

 白金色に輝く毛皮、巨大な胴体。
 四肢はアスファルトを踏みしめ、獰猛な鉤爪は路面に食い込んでいる。
 そして、頭部は狼のそれであった。
 神々しいまでの青い瞳孔が、凶暴な意志を孕んで有村を見下ろしている。

「フェンリル・ヤードか」
 有村は独りごちると、獣に対抗するかのごとく身を沈め、低い重心の戦闘態勢をとった。
 この構えが、有村の調理方法にもっとも適している。
「大物だな。だが――」
 関係はない。
 ラーメン野郎が、客を前にしてなすべきことはひとつだ。

『AhhhhhhhhhhGrrrrrrrrrHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!』
 巨狼、フェンリルが、邪悪な牙を剥いて咆哮をあげる。
「ああ――そう急ぐな。わかってるんだ……」
 有村もまた、渾身の咆哮でそれに応えた。

「……ィィィィ……ィィァラッスァァァッセェェェェェイイイィィィィッ!」
 それは『ラーメン魂』名物、《鬼の歓迎》であった。
 アルバイトは腹、いや、魂の底から声を出せるようになるまで、何時間、何日、何ヶ月でも、
 この歓迎の咆哮を繰り返し教え込まれる。

 有村にとって最短・最速・最大強度でラーメンの調理を行う、起動詠唱がこれだ。
 体内厨房に火がともり、高速で工程が流れる。
 沸騰(イグニ)――茹麺(ハルト)、定義(ベースド) 、深化(オプト)――展開(リリース)――――――。

 常人ならば5~6分はかかるであろうこの一連の調理工程を、
 有村の湯切り、『白虎落とし』はおよそ一秒で連結・完了させる。
「vopal.」
 短い詠唱。
 瞬時にスープがあふれ出し、有村の仮想麺と絡み合い、その右手に黄金色の輝きを出現させる。

 透き通った琥珀、朝焼けの金色、それを結晶化させたかのような刃であった。
 一振りの剣が、低く構えた有村の右手に出現していた。

 有村が得意とする『魚介』『塩』のスープは、いま、最高のテンションによって生み出され、
 かつてなく透きとおった、深遠なコクと輝きを宿している。
<div>「来い……!」
 つぶやく、有村に招かれるまでもない。
 フェンリルの巨体は、見た目よりもはるかに俊敏に動いた。アスファルトを砕き、まっすぐ有村へと跳ぶ。
 その鉤爪は、今日だけでもいったい何人のラーメン野郎の肉体を引き裂いたのか。
 そしてその青い獰猛な瞳は、何店舗の破滅を見届けたのだろうか――。
 そう考えたのは、束の間にも満たない。

『Grrrrrraaaaaaa――rrr!』
 瞬時に両者の距離が零になる。その直前、地面に触れるほど低く構えた有村の剣が、すい、と動いた。
 体内に溢れる湯気が、偽りの陽炎となってその姿を歪める。
 そして交錯。

 がっ、とフェンリルの鉤爪はアス ファルトを穿ち、破砕した。
 だがそこに有村の、黒いTシャツの影はない。
 ――「一期一杯」。
 その雄々しい文字が翻ったのは、フェンリルの頭上の虚空であった。

 空間切断。
 『魚介』が内包する『切断』の概念を最大限に定義拡大した、有村が最も得意とする一杯である。
 その一杯は空間を自由に切り刻み、距離の概念を無効化する――。

 有村は空間転移後の一瞬の酔いを強引に堪え、フェンリルの頭部に、左手を伸ばして、触れる。
 調理はほとんど同時に完了する。
「spitt.」
 世界の深部にささやくような詠唱は、即座に具象化した。

 ――――――ガッツリッ!
 それはおよそ、魚介系塩ラーメンとは思えぬほどの濃厚な味わいであった。
 生まれた不可視の衝撃は、抵抗の余地もないほど素早く、強く、フェンリルの頭部を大きく弾いた。

 空気の局所的『増殖』による、狭域指向性衝撃波である。
 有村はそれを、かつてないほどの集中力で放ったのである。
 有村の掌から、青白い火花と、湯気が立ち上った。

『Ghhh――Fooooo――!』
 フェンリルは苦悶のうめき声をあげ、たたらを踏んだ。
 右の目が潰れ、鮮血を吹き出す。
 江戸時代から連綿と続く、単純だが、深淵なる魚介系塩ラーメンの威力。
 視界をふさいだ一瞬を逃すこともない。

「独立……!」
 有村の体が空中でひねられる。
 回転し、その黄金剣の切っ先が、フェンリルの首筋に滑り込む。
 有村の肺から、雄叫びが漏れる。

「絶・対・独・立! する! 俺は!」
 空間を切断する刃に、音はない。

「ラーメン魂の! 有村大樹、店長候補だ!」
 が、空間の分断に空気と血が巻き込まれ、ズズズズズズバッ、と豪快なすすり音のみが響いた。

 あとには、両断されたフェンリルの巨大な首だけが残り――、
 胴体とともに、路上に崩れ落ちた。

「フー……」
 路上に降り立った有村は、いつもの癖で時計を見た。渋谷スクランブル交差点の大時計。
 アル バイト終了までは、まだ3時間以上もある。

 そして、その峻厳な瞳は、スクランブル交差点をわたってさらに押し寄せてくる、
 何十、何百、何千というフェンリルの群れを、揺るぎもせずに見据えていた。
 それはさながら白銀色の津波であった。

『AhhhhhhhhhhGrrrrrrrrrHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!』
 咆哮の合唱が、絶望的な荘厳さで響き渡る。
 渋谷が震える――ラーメン野郎なき、無人の渋谷に。
 有村は首を振った。

「やれやれ……まったく」
『まったく、ダイキは大馬鹿野郎ミル~』
 傍らから、声が響く。
 半透明のカツオがそこに浮かんでいた。
「ミル彦」
 有村は、 笑い出す己を抑えきれなかった。

「いたのか? お前も大馬鹿ラーメン野郎だな」
『そんなこと、ミル彦がいちばん知ってるミル~。
 ラーメン好きならダイキにも負けないミルよ~』
「いいだろう」
 有村大樹は、群れをなして襲来する、フェンリルを前に低く構えた。
 迎え撃つ。その意志が、獣のような微笑みにうかがえる。

「店長たちが、もっと遠く離れるまで――一分一秒でも長く」
 調理起動。体内厨房活性。湯切り連結開始。
 沸騰(イグニ)――茹麺(ハルト)、定義(ベースド)、深化(オプト)――展開(リリース)――――――。

「やってやろう。この! 次期店長候補の!  有村大樹が!」
 みしみしと音がする。
 仮想麺の『増殖』。体内厨房を『切断』し、工程の強引なショートカット。
 それは、己の肉体に行使する、細胞レベルでの『増殖』と『切断』。
 まさにそのラーメンは、人体改造にほかならない。

 全身が赤く染まり、筋肉が震えて硬質化していく。
 異形の姿に変わっていく大樹に、ミル彦は感嘆の声をあげた。

『ミ、ミル~~~~?
 ダイキ、それはダイキの新作オリジナルラーメンなのミル~~~?』
「まだ……未完成で、店長に見せられたもんじゃあ……ないが」
 有村の背後の空気が、過剰な熱をあげて歪み、そこに黄金色の光を生じる。
 剣だ。
 有村の手中にあるものと同じ、黄金の剣が何本も製麺され、背後に浮かび上がってゆく。

 それはまさに、有村の背に生えた、巨大な翼のようだった。
「戦国ラーメン、鳳凰……! たっぷり味わわせてやるぜ……!」
 ずっ、と、鋭く麺をすすりこむように、大樹の足が一歩前へ出る。
 異形化はとまらず、アスファルトに落とす彼の影は急激に変化する。

「独、立……!」
 有村は、恐れもなく、フェンリルの群れに対峙していた。

「絶対、独立……!」
 その言葉こそが、勇気をくれる。
 それも、無限の。

「絶、対、独、立」
 こうして死の軍勢の中へ、有村は躊 躇なく踏み出していった。


(おわり)
(※「ラーメン」という単語を、「魔法」という単語に一括置換しても構いません。)

MPおよびGKスタンス

キャラ 能力 SS ボーナス 増減 仕様
2 1 3 6 ゆとり


最終更新:2012年05月29日 22:16