第一回戦天界 神無月狂輔
採用する幕間SS
なし
本文
あーあー、つまんねえの。死んでこのかた、ずっとここで過ごしてきたが天界はどうしてこんなにもつまらないのだろうか。
生前は目的の為には手段を選ばない傾向があったが、ここにはその目的がない。
ボンヤリしていても仕方がないので、近くにいたむさい男達と、白い髭に白髪頭で昔の中国の衣装っぽい服装をした、よぼよぼ爺さんを捕まえて一日中ずっと麻雀をしていた。
「俺は狂輔ってんだ。お前らは?」無言でやっても楽しくないので話しかけてみたところ、
「拙者は戸次右近大夫統常と申す。」っと右にいた奴が答えてくれた。
「べっき…何だって?ああ、いいや、ベッキーな、お前。っでお前は?」左の何だか危険そうな男にも聞く。
「ん?俺か、俺は天地信吾。…おい爺さん、早くしろよ、寝てんじゃねえよ。」
「狂輔殿、一度しか言わぬから心して聞け。武士の名は主君や親以外で諱で話してはならぬ。ましてや、主君でもない者に新たに名を賜ることなどあってはならぬことだ。故に拙者の名は戸次右近大夫統常であるが、戸次殿、又は右近大夫殿と呼んで貰いたい。」
―だったら、最初からそう言えよ。
心の中で愚痴り余計な争いは避ける。だが、空気がかなり重くなってしまった。
「んふぁあ?儂の名前は太公望じゃ。」爺さんが起きるまでの一瞬の間だけ。
―「戦い、殺しあえ。最後に残った者だけを現世に蘇らせてやろう」
「お久しぶりです。我が神よ。死んでも尚その御声を拝聴でき嬉しい限りです。」
丁寧なのか、上から目線なのか分からない呟きをしていたら、何と両隣のむさい男二人もその声に反応していた。
―っどういうことだ?神の声は俺以外に聞こえないのではなかったのか。でもまぁ、この世界にいるということはあいつ等も生前は神を信じ尽くしてきたという事だろう。
「なぁお前らも聞こえるのか、声が?」
「うぬ」
「ああ、ここに来る前にも一度聞いた。初めはまさか閻魔大王?それとも天国のほうの神様?とか思ったがな、なんか偉そうでちょっとムカついたから、お前を殺したいって言ったらなんか知らぬ間にここにいたって訳よ。」
―こいつ今、なんつった?神を、殺す?…フザケルナ、フザケるな、フザけるな、ふざけるなあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。
ー「おいおい少しは頭を冷やせ、直ぐにでも殺し合いは始まるさ。ココで敵意を見せると狙われる。此れはお前を生き返すための儀式だ。お前は生き返らなければならん。その為にできることをヤレ」
そう諭され、どうにか表情には出さなかった。
動揺を隠すように質問をする。
「なあ、お前ら生き返りたいのか?」
「いや、拙者は生に興味はない。肉体など、とうに捨てている。だが、ここで戦いこの地に名を轟かせ、母上や兄弟に拙者の強さを、勇ましさを、志を伝えねばならぬ。」
「はっ、かっこいいねぇ、お侍さんよぉ。ま、俺も別に生への執着はねぇよ。だが、たった今やることができた。先ずは謎の声の主をぶっ殺す。」
その場に緊張感が奔り誰も動けなくなった。
「儂はまだ、死んでおらんぞ。」っと爺さんの声を合図に麻雀台がひっくり返った。
統常と天地はその場から間隔を取る。
俺と爺さんは台を立て直し、牌を拾う。
その様子を見て二人は俺を目的の対象外としたようで、二人だけで戦い始めた。その光景を俺はただ見ていればよかった。
統常は力押しで唯々長い槍を振り回していた。小細工は無く、型にはまった武道の動き。
それを天地は、とてもじゃないが目では追えない速さでその攻撃を全て避け、間合いに入り重い打撃を与え続けた。
このまま終わるのかと思った矢先に事態は急変した。
統常が間合いに入ってくる天地を吹き飛ばしたのだ。
「天地殿とかいったか?お主の動きは見切ったぞ。確かにお主の動きは速く、攻撃はかなり重い。
だが、何故か攻撃を避けるのは素早いが、逆に攻撃をする側になると嘘のように遅くなる。その理由はおそらく、お主の能力は肉体強化なのであろう。しかし、どうやら一度に複数の強化は無理なようでござるな。」
―流石武道をやっているだけのことはある。あっという間に相手の能力を暴き出した。
「ゴフッ、グッ、ガハッ、っく、だから何だってンだよ。俺はこんなことだってできるんだぜ!」と言うなり走り始め、何と、分裂し始めた。
「なっ分身の術か!!だが、拙者はそんなまやかしに騙されるような小さい器ではないわ!!」
と分身の一人槍で刺した。
「くっ、あっぶねぇ」辛うじて避けた天地はそれでも尚、余裕を崩さない。
「面白れぇやってやろうじゃんぇか。」今更本気を出し始める。
だが、気合とは裏腹に、彼が執った行動とは統常に背を向け逃げ出しただけだった。
「かっこ悪。」思わず呟いてしまった。
統常は彼を追って走り出す。俺も戦況を読むべく後を追う。何故か爺も後を追う。
どこまで行くのか飽きもせずに走り続け、辿り着いたのは森の中。
「俺の力は森の中でこそ力を発揮できる。だが、お前はその逆だろう?」
「拙者を甘く見ないで方が良いぞ。」
「はっ、こんな森の中でそんな長いモノをどうやって振り回す気だ?」
「できないと思うのでござるか?では、御見せ仕る。」
木屑と枯葉が舞う中何が遭ったかを知った。
「なんて馬鹿力なんだ。森ごと槍で薙ぎ払うなんて!!!」
「っく、すっごいジャン、ベッキーちゃん。僕ほどではないけど。」
呑気に話している天地に統常が追撃する。
「武士を愚弄するとは許さぬ!!」再び森に轟音が鳴り響く。
ゴミが風で流された時、既に決着は着いてる様に見えた。天地が真っ二つになった訳ではない。
統常の首が天地によって顔面が吹き飛ばされていた。
そのまま血をまき散らせながら体は倒れた。
「楽しかったぜベッキーちゃん。」死体に背を向けカッコつけ、背後で起き上がった統常に切り付けられた。
が、それすら避けた。不意打ちで尚且つ背後からの攻撃を。
「うひょ~、どこまで化けモンなんだ此奴。顔もないのにしっかり俺を切り付けるなんてよ~。」首から上のない体は攻撃を繰り出し続けるが、全て避けられ十秒ほどで動かなくなった。
「さて、難敵がいなくなったところで雑魚でも苛めるか―。」
この戦いは一人になるまで続く。よって、どんなに弱くてもその対象外にはならない。
―それに、どのみち神を殺すとかヌカシタ彼奴は俺がこの手で殺すつもりだったがな。
俺の手持ちのものはバット、ボール、麻雀牌、尖った気の破片と、ここでは武器として使えそうにない。
見つかる前に森から離れ、風の無い、見晴らしの良い草原を戦場にすることにした。
辺りの雑草を手当たり次第細かくちぎって山にし、それを十メートル間隔で六か所ほど作った。その後麻雀牌も適当に置き、後は天地が来るのを待つだけとなり、空を眺めていた。
―天界にも空ってあるんだなぁ。
「ここにいたのか、探したぞ、狂・輔・君。」そこにやっと天地が来た。
「遅かったじゃねぇか」
「待っててくれたのかよ、嬉しいね。ところで、これからボコられる気持ちはどうよ?」
「何言ってんの?これから、お前を俺が殺してやるんだから、そんな暇ぇよ。」
「大口叩くじゃねえか、少しは手加減してくれよっ!」言い終わると同時に高速で走り、殴りかかって来るが全て紙一重で躱した。と、その時突然天地が目の前で転んだ。その隙は見逃さず、
「おっ丁度良い所に頭が来た。」フルスイングで頭をバットで殴り飛ばした。
「ぺっ、やるじゃねえか。今のは効いたぜ。」
血を吐き、歯をごっそりなくし、発音が聞き取りにくいがたぶんそのように言っている。
一発で立っていられるだけでやっとの状態になった様だが追撃は打てない。
下手に近寄ると殺される。あの戦いを見て此奴の性格や戦い方は大体分かった。
後はやり様によっては此奴を殺せる。
「かっこ悪く麻雀牌に躓いて転んだだけのクセに偉そうに言うんじゃぇよ。」
「くそ、こんなんで俺の走りを止めたと思うなよ、こんなの避ければいいだけだ。」
今度は確かに転ばなかった。だが、近づく前に体中を切り刻まれた。雑草の壁によって。
「驚いたか?お前の速さってのは、かなり強力な武器だ。だが、それと同じ様にお前にとっても致命的なモノにも成り得るんだぜ?例えば今俺がやったように雑草をばら撒けば体はいとも簡単に切り刻まれる。よく覚えときな。」
「さっきからいわせておけば、いい気になりやがって、俺をこんなものだと思うなよ。俺の武器は速さだけじゃねぇ。ロケット砲の直撃にも無傷で耐え、対魔人用隔壁を片腕で吹き飛ばすほどの誰にも負けねぇ肉体こそが俺の力!!俺の攻撃が一発入ればてめぇごときに苦労はしねぇ。」
血だらけの体で俺の体を砕こうと殴りかかって来るが、全て避けきるのは容易かった
「その一発が入らないから、こうしてお前が歯を食い縛ってんだろう?ああそうか、歯,無いんだっけ。それに、頑丈な体ってのも、常に固い訳じゃないんだろ。少なくとも高速で走ってる内は。」
「舐めやがって、舐めやがって、ナメヤガッテエエェェェェェェェェェェェェェェェェェぇぇ」
今度は統常に破られたばかりの分身の術で対抗するつもりのようだ。
―分身なんぞ俺には効かない。俺は目に見えなくとも感じることはできる。
猛スピードで突っ込んでくる天地に先ほどと同じ様に雑草の壁を作り出す
「何度も同じ手が通じると思うなよ、そんな、草の壁を潜り抜けるのなんか屁でもねぇんだよ。」
天地が俺を殴ったのと、天地の顔が麻雀牌に当たって弾け飛ぶのはほぼ同時だった。
グチャ、
「あーあーだから、速さは危険だって教えてやったのによー。それに、俺は特殊能力の打撃技って効かないんだよね。」
「見事な策じゃった。手持ちの物を使い分けるその戦い方気に入った。面白いものを見せて貰ったお礼に此れをやろう。これは宝貝と言ってな、それはそれは有り難い物なんぢゃ。大切に使うのじゃぞ。ああ、ちなみにその宝貝の名は打神弁と言ってな、儂がまだ若い頃に使っていたものじゃよ。使い方は簡単じゃよ。これで敵を叩くだけじゃ。何とも地味で使い勝手が悪いがの、威力はなかなかのものじゃよ。では、儂は仕事があるのでな。これでお別れじゃ。幸運を祈るぞ。」口を挟まさせずに打神弁を握らせると直ぐに馬っぽい乗り物に乗ってどこかに飛んで行ってしまった。
―神よ、俺の戦いを見て下さいましたか?あなたを殺そうとした者は俺が代わりに殺しておきました。あいつ、口ほどにもない奴でした。でも最後の最後はあなたに助けられてしまいましたね。私の事を情けないと奴だと思っていることでしょう。次はもっと上手く戦えるよう努力します。
―「そうだ、お前は、私に選ばれた人間だ。こんな所でくたばるのは私が許さぬ気を引き締めよ。」
最終更新:2012年06月07日 00:38