第一回戦虫花地獄 花咲雷鳴


名前 性別 魔人能力
巨大アメーバのキョスェ 無性 アメーバ・ブロブ
花咲雷鳴 男性 地獄の沙汰もLOVE and PEACE
不破原拒 男性 超科学的改造術

採用する幕間SS

花咲雷鳴の闘い・1
(花咲雷鳴が初恋の人にして最初に殺した相手、佐倉光素と地獄で再会)
花咲雷鳴の闘い・2
(比良坂兄弟につけとどけをして、大会中、光素が好き勝手やる許可を貰う)
花咲雷鳴の闘い・補足
(雷鳴が、奇跡を起こす魔人であり攻撃力14の光素に蹴飛ばされる)

本文

「僕は、自分に自信がなかったんです。好きな女の子が出来ても、遠くから眺めてばかり。
 決心をして、女の子に告白しようとしても、緊張のあまり手が滑ってレイプして……。
 でも、そんな僕でも、この神社に通うようになって、素敵な恋人が見つかりました!
 今ではその子と結婚をして、幸せな毎日を過ごしています!
 気弱な触手だった僕が、こんな素敵な日々を手に入れられるなんて、本当に感動です!」

――触手でも、純愛できる。

恋愛成就・縁結び・奇跡をお望みの方は、お近くのゆめさき神社まで。

「最大の奇跡は、僕達ふたりの関係……そのものだよ、ね」





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この番組は、希望崎学園報道部と、

ゆめさき神社
カーマラ

ご覧のスポンサーの提供で、お送り致します。



さあ!いよいよ始まりました!地獄を舞台に魔人達が仁義無き能力バトルを繰り広げる、
冥界無情トーナメント!果たして優勝の栄冠を、そして現世への蘇生権を得るのは誰か!
魔人能力ファン、格闘ファン、そこに生まれる人間ドラマのファン、誰もが目の離せない
ビッグイベント!多くのギャラリーの注目の中、華々しく開幕です!

今回はトーナメント第一回戦の内のひとつ、地獄の13番地、
虫花地獄での試合の模様を中継したいと思います!
実況は希望崎学園報道部より参りました佐倉光素が担当します!本日は宜しくお願いします!



それでは試合開始までの間に、今回の戦場である虫花地獄の紹介をして参りましょう。



虫花地獄――

戦闘領域は半径1kmの円形で、その内部は鮮やかな花々が咲き誇る花園です。
ご覧下さい。バラに始まりツツジ、レンギョウ、ユキヤナギ……色とりどりの花々。
足元に目を向ければスミレや菜の花、スズランにオニユリ、ヒガンバナ。
目線を上げれば梅や桜の木々に、見事なコブシや藤の花……下草から大樹に至るまで、
あらゆる花が一同に会しているここは、遠目に見れば天国かと見紛うばかりの美しさ!

しかし!無情にもここは地獄!美しいばかりではいられないのです!
彩なす花に近づいてみましょう……これは!ツツジの葉は毒虫の繭で白く覆われ、
桜の枝からは毛虫が雨と降り注ぐ!可憐なスミレの陰をクモやムカデが蠢き這いずり、
レンギョウの葉を裏返せばそこはおぞましくも芥子粒の如き小虫の楽園!
嘆き空を仰げば花々の隙間から覗くそこには黒く渦巻く不穏な影――イナゴの大群!

花に埋もれ、そこここで悶える亡者達に目を移せば、その肌に纏わりつく芋虫、アリの群!
何日も掛けて体の肉を啄ばまれ、最後には内臓までも穴を空けられ、全身を虫の巣とされる!
あ!あちらに倒れ伏す亡者は!虚ろに開けられた口から多足類がうぞうぞと這い出す!
あちらの亡者からは腹からイトミミズの様な塊が零れ出し、そちらでは眼底から溢れる油虫!

何ということでしょう!生理的嫌悪をもよおすこの光景!まさに地獄!
苦手な人にとっては針山地獄や血の池地獄の陰惨な様子よりも、
こちらの方がずっと恐ろしく映っている事でしょう!

お食事中の方がいらっしゃいましたら本当にすみません!



さて、そんな紛う事なき地獄、虫花地獄。そこで本日闘うは三名の魔人能力者。
いずれ劣らぬ曲者揃い。戦場の紹介に続きまして、選手達の紹介に参りましょう。



まず紹介するのは巨大アメーバのキョスェ選手。

この選手は名前の通り、人間大を上回るサイズのアメーバです。
普段は人型のようですね。

魔人能力は驚異的速度で繁殖・捕食を繰り返すという能力。
アメーバの力を強化したものですね。
キョスェ選手の注目は何と言ってもそのアメーバとしての地力!
ばらばらにされても平気な体力に、接触即吸収という準即死系の攻撃力!
他の選手達はどうやってこの牙城を突き崩すというのか、或は突き崩すこと叶わないのか!

ただしキョスェ選手はアメーバなだけに、現在の状況、大会のルール等を把握しているか
少々怪しいのが問題点と言えるでしょうか。
試合内容が楽しみです。


次に紹介するのは花咲雷鳴選手。

この選手は高い身体能力を備えた、戦闘型魔人です。
魔人能力は対戦相手の能力をコピーするというもの。

また、投擲武器として鉄板を四枚所持していますので、迂闊に近づくのは失策です。
ただし、すぐに誰かに一目惚れするような、精神面の幼さ、未熟さがあるだけに、
そこへつけこまれ、策によって勝負に負ける、そんな結果が待っているかもしれません。
運動能力、戦闘能力では三選手中一番でしょうから、その下地をどの様に能力で活かすか、
対戦相手の能力を応用する発想と、能力切替のタイミング、この二点に注目です!


最後に紹介するのは不破原拒選手。

応用力に優れた能力を備えた教師にして研究者である選手です。

接触した相手を思い通りに改造する魔人能力を持っていますが、
片や接触即吸収のアメーバ。片や同じ能力を使える上に不破原選手より身体能力に優れた敵。
相性の良くない相手との戦いと言えそうです。

しかし!不破原選手は研究者!三選手中随一の頭脳があります!
所持品の実験道具共々、どのような頭の冴えを見せてくれるのか、期待しましょう!



以上で今回の戦いの戦場、参加選手についての紹介を終えたいと思います。



それではお待たせしました。
いよいよ冥界無情トーナメント第一回戦、虫花地獄の戦いの始まりです!
果たしてどのような戦いが見られるのか!勝ち残るのは誰か!注目の一戦はCMの後で!





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「死者が蘇るところを、そんなに見たいのかい?」

「血沸き肉踊る、禍々しい戦いが見たいのかい?」

太陽の光に疲れ、闇へと溶ける同胞達へ。
闇の眷属、不死者が出迎える、夜の祭典。
ヴァンパイアコスプレオカマバー、カーマラ。

「そんなアンタ達には、おねーさんがサービスしてあ・げ・る」





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さあさあ!本当に長らくお待たせしました!CMも終わり、いよいよ試合の始まりです!
まずは三選手がそれぞれ戦場のどこかに転送され、
そこでそれぞれの選手が霊体から実体化したその瞬間、開戦です!

あ!今!各選手が戦場へと転送されました!
そして続けて霊体から実体へと姿が変わり――虫花地獄第一回戦、スタートです!



まず映像は開幕の立ち振る舞いが注目の不破原選手の元へ!
ああっと!不破原選手、いきなりその場に伏せた!
これはやはり花咲選手の鉄板投擲奇襲を警戒してのことか!

――いや!おお!

ただ伏せただけではない!突如白衣を突き破り、全身からトゲのような鱗を生やしたぁっ!?
これは試合開始早々、不破原選手の能力『超科学的改造術』が炸裂だぁーっ!
自分の身体を改造し、刃の鎧を纏ったような全身!爬虫類のようなフォルム!
これは皮膚の硬化か!はたまた骨を操り外骨格としたか!その傾斜は弾丸をも弾きそうだ!

身体強化されていない、最大の隙である戦闘開始直後を全力の防御に費やした不破原選手!
そのまま周囲の様子を窺い……ゆっくりと立ち上がる!
刺々しい鱗に覆われたその姿はさながら茨に潜むリザードマン!

「山場は乗り切れましたカ……後はあのコピー能力者。
 彼が私と同等にこの素晴らしい能力を扱い切る事が無ければ私の勝ちは決まり。
 つまり、私の勝ちは揺るがないということですねえ……」

おおっと不破原選手、ここで早速の勝利宣言!
油断無く周囲に警戒しつつも、手持ちのバッグから実験道具を取り出し、
周囲に群がる虫達を次々と改造していく!
ああ!傍らに倒れていた瀕死の亡者も触手に捕まり、改造の餌食に!

「それにしても……試合が終われば全て元通りというのも有難い実験の機会だネ。
 私の身体も思う存分改造出来る……アァ、地獄での耐久力テストもしなければネェ」

着々と手駒を増やしつつ、不破原選手、ここでなんとメスを取り出し――
自分の左手薬指を切り落としたぁーっ!?

「アァ……ウン、なるほどねえ……色々試せそうだネ」

傷口を眺めながら満足そうに笑うその姿!改造した見た目と相まって、悪鬼の如しです!
一体その危険な頭脳で何を思い、この試合の行く末に何を見てるのか!
試合開始早々の能力大判振舞いとあわせ、期待に胸が膨らみます!



――――――



場面は変わって、今度はキョスェ選手の様子を見てみましょう。
こちらは……おお、のっぺりとした人型の体躯をざわざわと蠕動させつつ、
周囲を窺うようにゆっくりと前……前?とにかく一方向へと進んでいます。

群がる虫達をこちらも次々と飲み込み、消化し、徐々に体積を増やしている様子。
キョスェ選手の能力『アメーバ・ブロブ』も絶好調のようですね。
既にその体高は3mに迫らんとしているでしょうか。

ヒガンバナに紅く燃える花畑の中を、透明な巨人が音も無く歩を進めております。



――――――



そして最後、花咲選手の様子ですが……ああー、はい、
戦場に転送されてから大の字に倒れたまま、ぴくりとも動いていません。
まあ、ですよね。私が試合開始直前に蹴っ飛ばしましたからね。

ええと、私の蹴りの威力は20段階評価で言えばおよそ14。
花咲選手の防御力、体力を合わせた耐久力はおよそ15。
蹴りを喰らった今では残った体力は精々1。瀕死ですものね。そりゃあ動けませんよね。
若干、首が明後日の方向を向いていますしね。

まあ、自分の能力で殺した相手とばったり地獄で出会ったのが、そしてその相手が
霊体を蹴っ飛ばすような奇跡を起こせる能力者だったのが運の尽きだと思って諦めて下さい。
今大会、部外者の介入は反則ではないですからね。

ああ、大量の虫がさっそく花咲選手にたかっています。
いずれ骨まで齧られるのでしょうか。地獄は厳しい世界ですね。



――――――



上空から眺めれば、遠く霞む地平線まで色彩の絨毯が続く虫花地獄。
どこか桃色に色付いた空を、羽虫の大群が黒雲となって過ぎっています。

或は戦闘準備を整え、或は体力を蓄え、また或は試合前のアクシデントで瀕死となり、
三者三様、別々の場所で事を遂行し、今はまだ激突も無く穏やかな戦場です。

果たしてこの静寂を最初に破るのは誰なのか!
何処で最初の激突が起こるのか!
この平穏が、嵐の前の静けさに思えてなりません!

魔人同士の戦いは大概一瞬で決着がつくもの!
余所見した次の瞬間には誰かの首が落ちている!そんな戦い!
戦場から決して目は離せません!



――――――



――ああっと!
ついに膠着状態から試合に動きが!

こちらは綺麗な下草に匂い立つバラの茂みが垣根を作る、バラ園の中!花咲選手の転送地点!
倒れる花咲選手の元へと這い寄る巨大な影!キョスェ選手だ!
たっぷりと体力を蓄えたキョスェ選手が今!花咲選手を射程に捉えたか!

今、虫花地獄の試合が始まって初めて!選手同士の邂逅となりました!

のっそりと花咲選手の方へ進むキョスェ選手、
道を塞ぐバラの茂みがバキバキと音を立ててその身体に飲み込まれていきます!
近づいてくるキョスェ選手の巨体が威圧感を増し――いやこれは!先程よりも遥かに大きい!
キョスェ選手、さらに巨大化している!既に体高は5mを超えているのではないでしょうか!

おお!そしてキョスェ選手、巨大で長い腕をゆっくりと、花咲選手の方へと伸ばす!
花咲選手を対戦相手、或は獲物と認識したのでしょうか!

おっと、花咲選手が薄っすらと目を開きました!
顔面を這っていたムカデが慌てて顔から這い降りていきました!

眼前のキョスェ選手を認めたか、花咲選手。
その虚ろな瞳に透明なキョスェ選手の腕を見て、何を考える!
ファーストコンタクトからものの1分も経っていませんが、早速一名脱落か!

――いや!これは!

ここで突如として背の高いバラの茂みから、無数の弾丸が飛び出した!
そしてキョスェ選手の腕を遮るように、幾発も地面に着弾する!
そこに着弾したものは――弾丸ではない!虫です!
身体から石や金属片を生やした異形の虫達が、銃弾の如き速度で飛来したのです!

この様な攻撃手段を用いるのは、この戦場に一人しかいない!

不意に茂みから飛び出す黒い影!
不破原選手……ではないっ!腕に大きな丸太を生やした亡者だ!
いや!一人だけではない!更に腕が刃物の様に尖った亡者も飛び出してきた!

二人の亡者が……倒れ伏す花咲選手へと飛び掛る!

花咲選手は……あ、さっき飛来した虫を喰らっていますね。
メスを生やした虫や注射針を生やした虫が身体に突き立っています。
やはり毒でも仕込まれていたのでしょうか、刺さっている場所がどす黒く腫れていますね。

おっと!そんな事を言っている間に亡者達が花咲選手の頭を砕く!胸を貫く!

「ヨシヨシ……念の為に場外まで放り出して来なさい」

そしてここでついに不破原選手がバラの陰から姿を現す!
相変わらず肉体強化によってトゲトゲしいフォルム!
その様は最早教師や研究者というよりも、黒光りする重厚な鎧を纏った凶悪な怪人!

あっと、そしてここで改造され実験動物となった亡者達が、
不破原選手の指示を受けて花咲選手の残骸を運んでいきます。
花咲選手、これにて戦線離脱!



――――――



「さて、これでお待ちかねの実験の時間だねえ」

一対一になったところで不破原選手、嬉しそうにキョスェ選手へと向き直りました!
そして――おおっと!そして!

「……く、くふふふ、ははははははははははははは!」

高笑いだーっ!実に愉快そうに笑っています!

「いいですネェ!巨大アメーバですか!どの様な変異を経てそうなったのか、実に興味深い!
 時間を掛けてじっくりと研究できないのが本当に惜しいですヨ」

不破原選手、饒舌に語っています!
巨大アメーバという生命の神秘を前に研究者の血が騒ぐのか!

おお、そしてただ喋っているだけではありません!
キョスェ選手の周囲を改造虫達が旋回し、茂みの陰から改造亡者達がぞろぞろと姿を現す!
不破原選手、既に万全の準備を整えてきたということでしょうか。これは物量作戦か!?

しかし、それでもキョスェ選手は巨大アメーバ!
迂闊に亡者達に攻めさせても吸収され、巨大化を助けるばかりでしょう!
先程の改造虫による不意打ちも、対して効き目があったようには見受けられません!

「やはり循環器のないアメーバに毒は効果が薄いですネ。
 その形状をどれだけ維持できるものか、次に行ってみましょうカ」

さあここで不破原選手、何事かを亡者達に指示し始めました!
キョスェ選手は、群がる亡者達を捕らえ、消化し、更なる巨大化を計っています!

おや、何やらゴロゴロと大きな物音が響いてきました。
不破原選手の秘策か、一体何を出してきて――え?ええっ!?

「ヒヒヒヒヒ、相撲の時間ですヨ」

大量の亡者達に牽引されて姿を現したのは――えっと、これは――何やら巨大な塊が……
あ、塊が震えだしました!ギチギチと乾いた駆動音と共に立ち上がり……
きょ、巨人!?キョスェ選手よりも更に大きい!
なんとなんと!この虫花地獄に!突如として巨大な人型生物が登場しました!

「そこらじゅうにいた亡者達と、亡者達を使って伐採して集めた木材を合成して作った、
 巨大合成生物ですヨ。知能は目の前の相手を殴る程度のことしか出来ないものですけどネ。
 巨大生物の運動実験は相手が居なくてサンプルに困っていてねえ……助かりますヨ」

まさかまさかの展開です!
薄桃色に染まる地獄の空の下!漂う羽虫の黒雲の下!
地獄の花園に立ち上がる、二つの巨大な影!
不破原選手操る改造巨大合成生物VS巨大アメーバ!

「ハッケヨーイ……ヒヒッ……ノコッタァーーーッ!!!」

突然の怪獣大決戦の幕開けです!



――――――



巻き起こるつむじ風が木々の枝を揺らし、花吹雪を散らす!
唸る豪腕の周囲で羽虫達が渦を巻いて吹き飛んでいく!
梅や桜の木々をへし折り、藤棚を踏み潰し、
華霞の中から頭を覗かせる巨人達がぶつかり合う!

おお!合成生物の右ストレート!キョスェ選手の一部が飛沫と砕ける!
そのままキョスェ選手が合成生物の腕を取り込む!
素早く腕を引いた合成生物ですが、腕が一回り細く削られている!

チョップ!砕ける!
伸びるアメーバの腕!削られる身体!

震える木々!
揺れる大地!

巨大生物同士の凄まじいぶつかり合いの足元で、
不破原選手はどっしりと構えています!

「いい按配ですネェ」

むしろ楽しそうです!
戦いも実験と言い切る不破原選手にとって、この時間は研究の一環ということなのでしょう。
だがしかし!そんな悠長に構えていていいのでしょうか!

激しく戦う巨大生物の二者ですが、均衡が保たれているとは言い難い!
徐々に、しかし確実に合成生物の身体は削られ、逆にキョスェ選手は大きくなっています!
ああ!気付けば一回り大きかったはずの合成生物とキョスェ選手が、既に同じ大きさに!
そろそろ何か手を打たなければならないのではないでしょうか!

「サテ、そろそろデータは十分でしょうカ」

おおっと!不破原選手、ついに動くか!

「それでは実験はこの程度にして、終わりにしましょうネェ」

おお!空へと飛び上がる不破原選手!その背中には翼が生える!
魔人の筋力を持ってすれば、翼さえ生やせれば空を飛べる!
何ということでしょう!渦巻く黒雲を背景に、空を飛ぶ不破原選手の姿!
禍々しいその見た目は地獄へ降り立った悪魔のようです!

伸びるキョスェ選手の腕をかわす不破原選手!
ああっ!ここで合成生物がキョスェ選手へと組み付き、動きを封じた!
時間を稼ぐ作戦か!

「嗅覚が無いのが残念でしたねえ……アナタの周囲、
 亡者達がしっかりと精製油をまいてくれましたヨ。
 動物も植物も油分はよく含んでいますからネ。油は手に入りやすイ」

これは……これは!
旋回していた虫達に徘徊していた亡者達!巨大生物の戦いの下で準備を整えていた!

「私の貴重な脳細胞に送る大切な血流を少なくするなんて、世界の損失ですからネェ、
 煙草なぞ吸いませんが、何かと実験に火気は付き物ですからネ」

そして上空の不破原選手の手にはライター!
ああ!ここで周囲を飛ぶ羽虫達を腕を増やして次々に掴み……火を灯す!
そして!投げ落とす!
羽虫をあたかも火矢に変え!黒雲の中から燃え盛る地獄の雨が降る!

おおお!燃え上がった!一気に燃え上がりました!
透明な巨人が火に包まれる!そして合成生物もまた!凄い勢いで燃え上がる!
これは初めから!合成生物もまた燃料だったということか!
天をも焦がさんという火柱と、轟々たる黒煙が立ち昇る!

腕を伸ばし業火の中でもがくキョスェ選手!
しかし、伸ばした腕から火に焼かれ、縮れ、崩れ往く!
その巨体が炎に呑まれ、消えていく!

これはもう、不破原選手の勝利が確定か!

――ああーっ!?いや!
あれはどうした!?上空の不破原選手が!?

「アガッ!?」

血を吐いたーーーっ!?
不破原選手に何が起こった!?まさか遠距離からの狙撃か!?
しかし今この戦場に遠距離攻撃が可能な存在など――おおっと、
不破原選手、飛行が続けられなくなったか、再び地面へと降り立ちました。そして――

「……アアァー、なるほどなるほど。予想以上だ。素晴らしイ。
 私の先入観を砕く生命力とは恐れ入ったネ」

不敵に笑い、なんと!胸を切り開いた!?そこから零れ落ちる……あれは肺!?
なんと!自分の臓器を摘出したのか!?

「咄嗟に替わりの肺を作るなんて貴重な体験だネェ……、
 しかし、どうやら手遅れですカ。アナタ、大したものですヨ」

目の前で炎上し、既に人間大まで焼け縮れたキョスェ選手に、不破原選手が言葉をかける!
これは一体何が起こっているのか!?

「地獄では耐久力が向上……なるほど、
 10μmですカ?アメーバサイズに分割されても自我を保つなんて、素晴らしイ。
 戦闘中の飛沫……知らずにアナタの一部を吸い込んで、最初に肺を、
 気付いた頃には循環器を廻って全身を食い荒らされるなんて……
 アナタは見事な生物兵器ですヨ」

なんということでしょう!
突然の不破原選手の吐血の正体は、キョスェ選手の見えざる遠距離攻撃だった!

「流石の私も体内の至るところにいるアメーバを改造するのは難しイ。
 ここまでのようですねえ……」

おお、これは不破原選手の降参宣言か――いや!
不破原選手、突如として左手を前に差し出し――その手から何かが射出された!
一直線に伸びた何かが燃えるキョスェ選手の身体を貫き、彼方へと飛んでいきました!
今のは一体!?

「そこの実況さん」

はい?私ですか?

「ここで授業の時間です。
 人間の血管は一本に繋げるとどれ位の長さになるでしょう?」

ええと、確か10万kmでしたか。どこかで勉強した記憶がありますが。

「正解です。では、この戦場の広さは?」

半径1kmの円形ですから面積は……

「それだけで結構ですよ。半径1kmの円。つまり端から端まででも最大2km。
 血管の長さの5万分の1ですから、指一本分の血管を真っ直ぐ伸ばせば――」

どこからでも場外へ届きますね。
……え、まさか?

「私の指一本、血管を物理で扱う細くて軽い棒のイメージで真っ直ぐに伸ばしました。
 ま、実際には少々頑丈になって真っ直ぐ伸びるだけですけれどねえ。
 見ての通り、キョスェ選手は身体のどこでも等価に戦力を保持していますカラ?
 今頃、私の指先に付着したキョスェ選手の身体は場外ですから、
 相撲で言えば、身体は土俵に残していても足が場外に出た、というところですカ」

な、なるほど。
え、じゃあもしかして最初からいつでも勝てたんですか?

「キョスェ選手が地獄に落ちてしまったら、実験のチャンスも無くなりますからネ。
 実験の機会を逃す手はないでしょう?……ひひひひひははははは!」

なんということでしょう!不破原選手、最初からキョスェ選手を詰んでいた!

「はははは……はは……はぁー……
 この実験の成果は蘇ってから形にするとしましょウ……有意義な時間でしタ」

燃えさしのように崩れたキョスェ選手の上へと倒れ込むように、不破原選手、ダウーン!
その身体を消えずにいた火が包み、焼いていく!

最後は怒涛の展開となりましたが、これにて虫花地獄に残った選手はゼロ!



試合終了です!!!



穏やかな試合開始から、急転直下、息もつかせぬせめぎあいとなった試合でした!
試合の結果の方ですが、ええと、不破原選手がキョスェ選手を場外に出して勝利……

おや?ええっ!?

こちら、虫花地獄の試合場、場外との境界線ですが、なんと!
不破原選手が打ち出した指先が、桜の木の幹に突き刺さり止まっている!
障害物の有無を確認しなかったのでしょうか、不破原選手らしからぬミス!

ということは、現状、試合場で戦闘可能な選手は存在しないことになりますね。
キョスェ選手もこんな散り散りでは回復まで時間が掛かるでしょう。

と、いうことで――冥界無情トーナメント第一回戦、虫花地獄の戦いは!
不破原選手、キョスェ選手ダブルノックダウンによる引き分けです!!!
両選手と、早々に退場した花咲選手も含め、
熱戦を見せてくれた三選手に惜しみない拍手を送り、
本日はこの辺でお別れしたいと思います!

皆様、ありがとうございました!!!



この番組は、希望崎学園報道部と、

ゆめさき神社
カーマラ

ご覧のスポンサーの提供で、お送り致しました。





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――――

――





「おや、この桜の木、誰かと思えば花咲君でしたか」

さくらこうそさん……君に言われて、相手が何を考えているか、知りたいと思ったんだ。
そうしたら――

「なるほど、キョスェさんの能力をコピーしてアメーバ状になり、毒や致命傷を避けたと。
 それで花咲君を運んでいた改造亡者をこの場所で消化して、
 そこから不破原さんの能力を吸収、桜の木になったという訳ですね」

キョスェさんの心を覗いたら、好きな人に会いたいって、凄くキラキラしていて……
思わず助けたいって……そうしたら、君の名前が思い浮かんだからかな。
こんな姿になっちゃった。

「飛んできたキョスェさんを受け止めた、と。相変わらずの惚れっぽさですね」

あはは……本当にね。

「でも、ほら。花咲君が受け止めたちっちゃなキョスェさん、
 ぷるぷるして、花咲君にお礼を言ってますよ。ああ、まわりをくるくると回って……」

はは……良かった。
綺麗な一枝……はい、プレゼントするよ。――コピー版『超科学的改造術』



――――――



「「「いや、トーナメントだから引き分けは困るんですけど!?」」」
「「「どうしましょうか。全員、現状戦闘不能ですけど」」」
「「「……試合前に実況さんからもらった爆弾もなかってお菓子、美味しかったし」」」
「「「花咲選手の使った能力は実況さんのものでしたっけ」」」
「「「MAP内で最後に能力を使ったのも花咲選手だし」」」
「「「再戦も細かく考えるのも面倒だから、花咲選手の勝ちでいいですよねー!」」」
「「「お菓子美味しかったし」」」



勝者、花咲雷鳴。
勝因、つけとどけの爆弾もなかと実務を取り仕切る比良坂兄弟の幼さからくる悪意。


最終更新:2012年06月23日 20:51