第一回戦鏡面破心地獄 安全院綾鷹
採用する幕間SS
なし
本文
『 冥界第一回戦 第9試合「鏡面破心地獄」』
(参加者一覧)
「クルマ星人」:自称宇宙人。魔人能力は『クルマ化ー 』。変身能力。魔人能力公開
「未知花」:サーカス団の少女。記憶喪失らしい。魔人能力は秘密★
「安全院綾鷹」:自称サラリーマン。記憶喪失らしい。固有の魔人能力は『禁止句域』
言霊によって、一つの行動を禁止する能力。魔人能力公開
【1】
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「大人は嘘をつく。
彼女との出会い、能力、言動、それを見れば彼女の生い立ちを想像するのは
そこまで難しいことではなかった。だからこそ、私は…
私は、彼女にこの一年でそのことを伝えきれただろうか」
(魔人サーカス団・団長)
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ここでも雨は降り続いていた。
―今はまだ小雨―
それは、絶え間なく降り注ぎ、まるで、亡者たちへと断続的にトラウマを見せる
この地獄を表しているかのようだった。
ここは鏡面破心地獄。
降り注ぐ雨と同じように想いが当たり弾け、心を切り裂く場。
ただ風景だけを見れば、だだ広い開けた草原が続くだけ、際立った印象は与えない。
草木がはげ、ところどころ土が露わになっている。遥か先には山々が、近く
には緩やかな丘や窪みが見える。
その道を一人の男が歩いていた。
より正確にいえばそこを歩く一人の男は今「白いセダンの車」に襲いかかられていた。
キキキツツツ!!!!!
猛スピードで突っ込んできた車をとっさに転がり、飛びよけ、男が見やると
最初の襲撃に失敗したソレは綺麗な弧を描き、Uターン、再びこちらに向かって来ている。
「やれやれ」
男は呟く。
雨の日に白いセダンに追い回される。確実にトラウマものの出来ごとだが、この地獄
固有の過去記憶のフラッシュバックとは関係がない。現在の出来事だ。
件の対戦相手の一人かもしれないが、悪夢の演出としてはなかなか凝っている。
それとも…都市伝説上のセダンが、彼「本人」だったというオチだろうか。
白い車体を目測を図る。先ほどよりスピートは、かなり落ちているが間合いはより近い。
男は不敵に笑った。
「久方のアクションだ…トチるなよ、綾鷹」
男は宙を舞った。
裂帛の気を発した後、絶妙のタイミングで蹴り足を突き出し、突っ込んでくるセダンの
ボンネットを踏みつける。
「『踏む・なッ』!」
バムッ
発声と鈍く聞き慣れない音のあと、耳障りなブレーキ音とタイヤが擦すれ合う音が響く。
『車転がし』
どのような角度、踏みこみで行えば為しうる業なのか、その一撃で車体は大きく揺れ
態勢を崩していた。同時に跳ね上がったボンネットはそのまま運転席の視界を塞ぐ。
セダンは突然の出来事に制御を失い、脇の藪にそのままのスピードで突っ込む。
対し男―安全院・綾鷹は反動を利用してそのまま離れた位置に着地する。
香港映画顔負けのスタントアクションを披露した綾鷹は、だが、顔をしかめた。
道を踏み外したセダンが途中、際どい片輪走行を行いつつも転倒せず、巧みな
ブレーキングとハンドル捌きで制御を取り戻すのをみたからだ。
車はアクセルを”踏みこみ”加速、そのまま走り去る。追えるスピードではない。
(ん、踏めたのか…ペダルを)
綾鷹は頭の中で素早く状況の整理を行う。
(術自体の手ごたえはあったが、セダンの運転席は無人。恐らくあのセダンは
「自称・クルマ星人」の魔人能力によるもので本人自身がクルマ化したと見て
間違いないだろう。あの三妖は嘘をついていなかったようだ。)
彼は件の三妖をほとんど信用していなかった。
彼の能力『禁止句域』はそれのみが決定打になることはまずない。
あくまで影響を与える結果は対象によるため、どのような影響がでるかは相手の個性
によるところが大きい。今回でいえば運転者と自動車本体という対象の違いにより
術の結果にかなりの齟齬が出来ている。常に不確定要素が付き纏うリスクの高い術
なのだ。逆にいえばそうである故、綾鷹の予測能力と対応能力は極めて高いモノと
なっているともいえるが…。
(つまり奴は今『踏めない』状態。通常だとアクセルとブレーキ踏めないことに
ドライバーが動揺、ハンドルを切ってしまい横転するのがパターンだが、その点に
影響はなかった。今の片輪走行は何かを”踏む”のを避けた動きがあるので…
むしろクルマ自体に影響が出ている…いや、何を”避けた”?)
次の言葉が出るまでに要した時間は5秒。
(不確定だが近辺に潜伏している可能性がある…サーカス団所属、名は自称・未知花。)
そして彼は己に課した補正を解除し、次の行動を補強するために新たな強制(ギアス)を
自分自身に課す。禁止される句域は―
「見落とす・な」
自身に小声でそう呟くと彼は探索モードに移行した。
そして、それを見やる一対の眼。
†††
―少しだけ雨足が強く、遠方で雷鳴の音が鳴り響いた。―
―落雷はこれより5分後―
(…今のはちょっとアブなかったの)
”サーカス団の少女”未知花は伏せたまま、遠ざかる車のエンジン音を聞いていた。
対戦相手の一人、安全院綾鷹を捕捉し観察を開始し始めていた彼女だったが、運悪く
綾鷹が受け流したセダンという『流れ弾』の進路上にいたのだ。
たまたまセダンの片輪が浮き上がってきたので『これは地面に張り付いていた自分の
上3cmを通過する』と判断して悠長に通り過ぎるタイヤを眺めていられたが、
”危うく”轢き殺されるところだった。
(また悪い癖がでちゃったの。ダンチョーにも散々注意されてたのに)
出生不明にしてサーカスの軽業師―そして恐るべき潜在能力を秘めた少女は、独りごちる。
「鏡面破心地獄」最後の参加者”CROWN MAKE”の未知花である。
反射神経の優れた彼女にして見れば突っ込んでくる車を避けること訳はなかったはず
だが先ほど綾鷹が車体を蹴り飛ばしたアクションに見惚れていたため、気を逃した。
観察といえば聞こえはいいが、一度興味を持つとを最後まで見てしまい手元が留守に
なっていたわけで常時戦場の地獄で緊張感のないこの上ない話だ。もとっとも
そこに続く次の言葉を聞いてそのことを失笑し続けれる者はいない。
(…面白いモーションだったの。機会があれば『今度やってみよう』と思うの)
軽く。"もう"同じことが出来ると続ける。
そしてそれは偽りではない。高い学習能力と潜在能力。それが未知花と名付けられた
少女の本質を示していた。彼女が今身を隠すために使っている魔人能力
『CROWN MAKE』にしても、その適性に併せ”作成された”といってよかったのだから。
(…追尾なの)
綾鷹はセダンのタイヤ跡を追うようだ。そのまま彼の風下に廻り尾行を開始する。
現在の彼女は魔人能力『CROWN MAKE』の色彩迷彩で周りとほぼ完全に同化している。
油断しなければ気取られることはない。
尾行せずとも隙を見て死角から忍び寄りぐさりとやればいいわけだが、実はまだ
彼女は内心対象を「殺す」行為に迷いをもっていた。それが尾行と言う中途半端な
行動を誘因しているわけだが本人はその自身の心の動きにまだ無自覚であった。
TTTTTTTTTTTTTTTTT~♪
その瀬戸際にいる対象が呑気にも口笛を陽気に吹き始めた。
英語で歌を口ヅサミ始めた。その有様に未知花は足を泥に滑らせる。
(…緊張感ゼロ。いちいち面白いおじさんなの。)
自分を差し置いて呆れる未知花。この曲は彼女も知っている曲だ。サーカスのショ―の際、
よく掛っていた曲、確か曲は「Dont-Worry-Be-Happy」。
やがてタイヤの跡を追っていた綾鷹の足が止まる。しゃがみ込んで何やら地面を観察してる。
彼女も慌て『CROWN MAKE』を使い彼の観察しているものを覗きこむように右に倣えで
把握する。凹凸を見るにどうもヒトの足跡のようだ。
タイヤの跡がそこで途切れクッキリと靴跡が残っている。
(…スニーカーぽい?)
綾鷹を見ると何か悪態をついている。『CROWN MAKE』は視覚に頼らず領域内を垣間
見れる(SCAN)でき、探知方法として極めて有能な能力ではあるのだが、音声を
拾うことはできない。しかも、この雨の中、雨音に紛れ聞きとり辛い。
だが足が止まったのはチャンスだ。
死角から近づき少しづつ距離を縮める。少しでも不審なところがあったり、動作+禁止の
言葉を使うようなら容赦なくジャグリングナイフを彼の背に放つつもりだった。
司会進行の説明によれば彼の能力『禁止句域』は5mの距離があれば効果はほぼ無くなる
代物らしい。近寄らなければ『心配ない』能力のはずだ。
「これは…」
ザザ…雨音に紛れているが、
「単独だと手に余るな。恐らく未知花という少女も彼には勝てない」
ザザ…声質が明瞭なのか独り言もハッキリ聞こえる。
「これはもう手を組んで倒すしか、私には手はなさそうだ」
意外な発言に思わず瞬きする
(手を組みたい?私と?ということ?)
未知花は首をかしげる
「TTTTTT~Dont-Worry~♪Dont-Worry-Be-Happy~」
また歌を歌い始めた。さっきと同じ曲だ。心配は・ない。
ただ、今度はいつの間にかこちらをむいて
「どうだい、手を組まないかね。一時休戦だ。未知花ちゃん、悪い話ではないだろ」
話しかけてきた。
(…アレなんで位置バレてるの、
風下死角でいったから?足跡?自分のを目印にして?
(っていうか招き寄 せられた。ナイフは…どうしよう
でも手を組みたいっていってるから…心配いらない?よね。
問題ないよね、
殺したくないし。そもそもアレ、私、何心配してた んだっけ?)
Dont-Worry-Be-Happy ♪
Dont-Worry~
Dont-Worry~
DONTWORRY
DONTWORRY
DONT+WORRY。禁止+動作。
少女は己の心の動きに、戸惑っている。元来、素直な優しい性格なのだろう。
綾鷹は効果が少女に綺麗に及んでいることを確認すると。口調も変えず、全く
悪びれた様子もなくより強制力の高い言葉に切り替える。より少女をより陥れるために
「手を組もう。そして今からいう私の話―『疑う・な』」
その時、最悪のタイミングで
―地獄に雷鳴が木霊した。―
†††
[回想]2012年
[場所]プロジェクトAA
[NEXT]運命の始まりの場所
そう、その日は豪雨だった。雷鳴が鳴り響く嵐の日。
黒髪長髪の少女が、こちらに挨拶する。
「どうも。貴方の娘です。」
私が答える。
「やあ。父様だよ」
少女が続ける。ああ、あれは私の娘だ。
「…残念ながら0111が起きました…チェックメイトです。
我々は0011に対して責任が…安全院家頭首として…0111…0101…0…1110…」
ノイズが酷い。
…ここでも奪われた記憶は奪われたまま…蘇ることははないのだろう…
そう、これは嘗てあった紛れもない過去(トラウマ)封じ、奪い、殺し合いの前哨。
お互いたった一人しかいない親子同士での、どちらかが死ぬ運命の戦い。
其のあと、俺は最愛の娘に、最愛の娘を…
を…
を…
を……
雷鳴は、地獄にいる者に最大の悪夢を魅せる。男は雷に打たれたように茫然と
立ち竦み、膝をつく。
戦慄き、哀しみ、慟哭、そして慈しみ全てが綯い交ぜとなり、白い幻影を見やる。
「娘よ。…それでも俺は…父さんはお前を…世界で一番、愛している…」
そして、それを伺う一対の耳。
「…お父さん?」
【2】
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「カーカーカーカーカーカカカーカカッツツツ!!!」
(クルマ星人)
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同時刻。クルマ星人、
彼はTシャツにジーンズ。人型に戻った状態で両肘を地面につけ芋虫の
ように泥の中を這いまわっていた
落雷が轟き、雷鳴は彼にも死に際の悪夢を見せていたが、軽く無視した。
過去のトラウマはただ前世の出来ごとが映っているようなものであった!
彼は既に狂気に冒されており、単に映像としてしか見ていなかった!
そうクルマ星人はクルマ星人なのだ!
彼はそう呟きつつも幾学的な模様を地面に描き続けている。
「くるませいじんは…走った!っけど、崖の手前でブレーキを踏んだ。
飛べなかったッ。それを見てA=CAR=ギはいったっ。
死ねば助かるのに、だからクルマ星人は死んだけど助かった。
だから だから、車とギャンブルはずっとトモダチだぉ…」
いや、かなり気にしているらしい。しかも深く追求しないほうが幸せな
類の前世のような気配がする。ともあれ
「イア・カー!イア・カー!」
準備が整ったのか彼は描き切った模様の中央に立ち、天空を仰ぎ見る。
コウソクの白いセダン作戦は失敗に終わった。次なる作戦を行う為
指令をもらうため、本星との通信が不可欠であったのだ。
「偉大なる空より黄色い救急車が眠りから醒め降り立つのデスとろん!
イアイア・カー!
イアイア・カー!
カー・オブ・ザ・イアー!
96光年おお96年光年より先より、おおおおおおおお、新たなる指令が」
ぴかーーん
お空いっぱいに浮かんだ偉大なる指導者(完全に幻覚)は彼にこう囁いた。
『―私にいい考えがある―』
その後、クルマ星人による2回目の襲撃
「コンボイトレーナ」作戦は当然のように失敗した。
【3】
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「疑う・な」
(安全院綾鷹)
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―再び、小雨―
タンッ タンッ タンッ
リズミカルな音を弾かせつつ、川を横切る石切りのように地をかける少女。
その時速は優に時速40kmを超えていた。
彼女は走る。
今や、彼女は本来あるべき己の姿、完全暗殺者(パーフェクト・アサシン)として
の才を露わとし、そして己がものとして完全に使いこなしていた。
稲妻は彼女の全てを爆し、過去の幻影は彼女に全てを晒したのだ。
そして彼女は走る。その全てを使い、たった一つのことを為すために。
「…の為…
おとうさんの為…、私は…する
私は…今の私は安全院・未知花だ!なの」
†††
その彼女に追い縋るのはキャタピラ音、そして凄まじいばかりの威圧感だった。
まるで暴走族の集団が立てるほどの轟音を独りで轟かせ、迫る死の影の名は
”Leopard 2”
全長 10.93 m
全幅 3.74 m
全高 3.03 m
重量 59.7 t
最高速度 72 km/h ドイツが誇る20世紀最強の戦車であった。
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
LOCK
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!CAR~!
照準を定めた主砲の120 mm 滑腔砲が火を吹く。
砲撃と着弾により少女の姿をしたモノが細切れに千切れ、野に消える。
だが”Leopard 2”クルマ星人はそれを見届けることなく、
ターゲットの熱探知を引き続き行う。今のはダミーだと判っていたからだ。
彼女は上着に自分の姿をコピーし投げ捨て、目晦ましとして使ったのだが
その「空蝉の術」は残念ながら通用しなかった。戦車には熱探知の仕組み
が組みこまれており、『CROWN MAKE』単体による色彩迷彩を行っても
今や戦車である彼には通用せずどこまでも追跡してくる。
セダンの時は中途半端な熱感知自動システムが備わったため彼女を「踏まず」
に「避ける」結果になったのだが、その機能は今、能動的に働いていたのだ。
だが、上着を棄て半裸となった彼女もまた目的地に辿りついていた。
地を蹴り、驚くべき運動脳能力で10m近く一足で飛ぶと着地、片手をぐるり
と地に突きさし、反動で向き直る。
スゥ。
今の彼女は迷わない、そして何者にも怯まない。例え『最強』が相手でも。
「レオパルド2」は戦車の名門ドイツが生んだ名戦車である!
総重量は62トンと重めだが、機動力は高い!
攻撃力、防御力、機動力のバランスが良く、世界最高の戦車と誉れ高い!
また台形のハンドルを操作して、自動車のように運転できる!
ブレーキペダルはかなり大きめで、自動車と同じ位置にある!
何もかもが自動車感覚だ!
”自動車感覚”だから「レオパルド2」は自動車だ!
クルマ星人は自らの勝利を確信していた。そして高らかに(心の中で)宣言し、
前進を続ける。
そしてそのまま未知花が跳躍し飛び越え『CROWN MAKE』が施され表面を
偽装した窪み、綾鷹と未知花が共同で作成した天然の落とし穴に突っ込んだ。
(……調子乗りすぎなの)
ツッコミしつつも油断なくナイフを構える未知花。
「陥没」。それは過去大戦で先輩筋のタイガー戦車達が陥ってきたトラウマ。
超重量であるが故の欠落。繰り返されてきた歴史。…だが。
―Carcarcar
―CARCARCARCAR!
(―――――ッ)
普通に乗り上がって来た。
レオパルド2のエンジンは船舶用エンジンで、48リットルV12で1500馬力!
トルクは自動車15台分!
その機動力は、軽やかに尽きる。多少の凹凸があっても、ジープのように
ジャンプしつつ、疾走する! とても、戦車とは思えないほどに!
凄いぞレオパルド2!
だからレオパルド2は自動車だ!!
そうクルマ星人は哄笑する。船舶用のエンジンを積んでいることはとりあえず無視して。
†††
未知花にとってその投擲が最後のチャンスとなった。
砲身の中身を狙ったナイフが砲弾を直撃し、誘爆させればあるいは…
だが現実は非常だ。
「最強」の砲撃により、彼女の身体は今度こそ宙を舞った。
(…でも、これで)
地に伏す際、彼女は確かにかすかに笑った。
―カーカーカーカーカーカカカーカカッツツ!!!
「笑うんじゃねぇよ」
―CAR~?
声はクルマ星人の上から聞こえた。
少し怒りが混じった声にクルマ星人が訝しげな声を上げる。声の主は彼の頭上、
頭の上にいた。安全院綾鷹だ。
はたして彼はいつ車上に乗り得たのか? 今回の場合、答えは明白だ。
先ほどの落とし穴騒動の際、そのタイミングしかありえない。
姿自体を”CROWN MAKE”で化粧を施すことで隠し、全身に泥を塗ることで熱感知
センサーも誤魔化した。その上で陥没付近で彼を待ちうけ飛び乗ったのだ。
安全院綾鷹は両手を車体に付け宣言する。
「直触りは。よーく効くぜ。
!!!!『かかる・な』!!!!」
プスンプスン…プスン。
プスッ
その言霊の効果は今までにない静寂をもたらした。
†††
あれほどドドドと轟き、自己主張していた「レオパルド2」のエンジンが
停止していた。それ故の静寂。
だが最大の効果はエンジンではなく、別の中身のほう魔人の精神のほうに現れていた。
エンジンがかからない。
かからない。
「―CARCARA|CARらない―――かかれ―――かかれーーーーーーークソッ」
エンジンが止まったからと言って戦車の機能が全て停止するわけではない。
まだ十分動けるし、善戦は十分できた。だが、クルマ星人は戦車からの変身を解くと、
地面に二の足をつける選択をする。
「そ、そうだ電気自動車なら…」
エンジンは関係ない、そう言いかけた。次の瞬間、シャツにジーンズ…人型と
なった彼に腕が巻きつき、チョークスリーパーが極まる。
一瞬で頸動脈を絞められたクルマ星人の意識が遠のく。
「…エンジンがかからなければ焦るよな。スゲー焦る。誰だってそうさ。
そして一度、車から離れる。俺もよくする。
あと乗り換えするときは一度、車外に出る。『人間』だったら誰だって”そう”する。」
彼の能力『禁止句域』はそれのみが決定打になることはない。
あくまで影響を与える結果は対象によるため、どのような影響がでるかは対象による。
「俺はどちらでもよかった。出てきてくれさえすれば。お前は――――きっちり、人間だったよ。」
そうクルマ星人に告げると綾鷹は身体を傾け地面に倒れ込み、容赦なく彼の首の骨を
へし折った。
それが大会髄一の火力を持つ『レオパルド2』もといクルマ星人敗退の瞬間だった。
【4】
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「私は自分が何者かを、知っている」
(未知花)
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(勝ったみたいなの、ね…)
綾鷹の勝利を確認すると未知花は投擲の為、振りあげ維持していた腕とナイフを
地に落とす。もし、クルマ星人が人型でなく小型モーター型のおもちゃカーに
変身し逃走しようとすれば彼女のナイフがそれを貫いていただろう。
どちらにしろ、クルマ星人に勝ちの目はなかったといえる。
そして、こちらにも死神の足音が近づいてきた。
焦点のぼやけた眼で自分の身体を見ると先ほどの砲撃の影響で腹部がやられている。
耐久性には乏しい自分には多分致命傷の一撃だろう。
ただ、不思議と恐怖はなかった。
歩いてきた死神はやさしく彼女の頭をなでる。未知花は生前の恩人のことを思い出していた。
(私は、あれだけ一緒にいてダンチョーのいうこと信じてなかった。
過去の自分に囚われるず、君は成りたい自分を見つけて、それ目指して歩いて
いけばいい…なんて、そんなの過去を知ってる人間の言い草だって
ただ、眼の前で、あんな顔で娘さんの名前呼ばれ、あんな表情されたら放っておける
わけがないの。この二人の間にある『何か』を助けなきゃって、そう素直に思えた。
それで私は自分を知った。
私はどういう人間になりたかったのかを。
”私”は”あの日のダンチョーのように””困り果ててる人に””手を差し伸べれる”
ような、”そんな人間”になりたかった”んだ。
答えは最初から目の前にあったのにそれに自分は気づかなかった。
死ぬ前に気づいていればとは思うけど…うん
あ、最後に一言くらいはいえるかな。
自分には親と呼べるようなモノがいるかどうか甚だ、怪しい。
だから偽の父親になってもらったのは、私の我儘。騙してごめんね、だから、お父さん…
「…会えるといいね…」
その言葉が届いたのか、優しく彼女を抱えていた死神の腕がぴくりと震える。
(可笑しいな…何でそんな…顔するのかな…。それさっき娘さん用に見せた顔じゃない。
可笑しな…お父さん…ほんと…おか…)
浮き上がり、はじけた。それは彼女がSCANした最後の一抹の泡。
…
…
…。
†††
―そして雨は晴れることはなく、降り注ぐ。晴れ間という幻想を旅人に抱かせながら―
男はまた歩き始めた。胸に一輪の花を翳して
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(第一回戦『鏡面破心地獄』対戦結果)
「くるま星人」:頚椎骨折。狂ってはいるものの「人」として死亡。
「 未知花 」:自らの求める【答え】を得、「人」として死亡。
「安全院綾鷹」:また独り取り残される。⇒「二回戦進出」
最終更新:2012年06月13日 01:25