第二回戦賽の河原 戸次右近太夫統常
採用する幕間SS
なし
本文
「もうすぐここは戦場となる・・。やつらが来るとのことだ。」
獄卒の長は静かに話し出した。
「1人はその武で天界を文字通り地獄にし、もう1人はあの蟻地獄を生き延びた。双方共に尋常にあらず。」
ゴクリ・・・100人はいる獄卒たちの唾を飲み込む音が聞こえる。
「この地は亡者どもの罪を量る聖地、ゆめゆめ荒らさせる訳にはいかん。」
長は少し間を空ける。
「先ほど、我らが主比良坂様より“香の物一切れ”を賜った。」
「“香の物一切れ”は“人斬れ”の意。我らでやつらを殲滅せよとの命だ。」
獄卒たちの熱気が長に伝わってくる。
「いざ、この聖地を守らん!!」
“ウオオオオオォオォオ・・・・!!!”
“おぅ!やったらんかい!!”
“殺せー!!魔人どもを殺せー!!”
咆哮・・それは、比良坂たちにも届いていた。
「「「ふふ・・上手くいったね。あいつらをその気にさせるのは簡単だ♪」」」
そう、賽の河原は比良坂たちの支配下にある。
二回戦第一試合、賽の河原では魔人たちの戦いを見るつもりはない。
獄卒たちによる一方的な殺戮・・・戸次や肉皮が無様に逃げ回る
その様子を楽しみにしているのだ。
だが・・・想定外の状況、それは比良坂たちにも存在した。
「お婆ちゃん・・・・上から大きな声がするよ?」
「・・・・・そうさねぇ」
「・・・お婆ちゃん」
「見に行くとかはダメよ。怖い鬼がいっぱいなんだから、今は見つからない様にじっとしているんだよ。」
「で、でも・・・」
「いいかい・・私たちは、戦えるほど強くはない・・良い子だからじっとおし」
───この子の安全を第一したいけど、隠し続けるのも限界かもしれないねぇ
───亡者から奪衣婆になったとたん、“生きてる孫”を見つけてしまうとは・・
───そして、魔人どもがこれから戦うというこの状況
───本当についてない
───ここいらで博打の覚悟をしないと・・・
奪衣婆、彼女の孫娘はいわゆる臨死で彷徨っている霊である。
賽の河原では特段珍しいものではない。
大抵は獄卒に見つかり亡者とされてしまうが、運良く生き返るものもある
非合法だが、意図的に生き返らせる方法もある
取引をして獄卒たちの承諾を得るか、見つからずに全てをやりきる
安全に孫の魂を現世に戻すため、その両方を模索していた
そんな時・・まさに、そんな時にである。状況としては最悪だ
「まったく・・・くたばり損ないどころか、くたばり”済”の婆には荷が重いことだよ。」
「孫の命を救うのも楽じゃないね。」
彼女にも決断のときは迫っていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「母上・・?」
目の前に母が立っていた。
「な、何故このようなところに・・・?」
戸次は喜びと驚きを合わせたような表情になっている
ちょろい・・ちょろすぎる
肉皮は笑うのを必死で抑えていた
この馬鹿は1回戦の他の試合を全く見ていなかった
余裕のつもりか何なのか知らないが、ずっと寝ていたのだ
確実に肉皮の試合も見ていないだろう
つまり、肉皮の能力をこいつは知らない
あとは隙を見て殺すだけ、なんて簡単な試合だろう
ついてる・・私もの凄くついています!!
神様ありがとう
微塵も信仰心などないくせに感謝する
ふと、戸次は足を止め、手で肉皮を制した
「母上、お下がりを・・。」
前方より一団が駆けてくる
獄卒たちだ。30人ほどいるだろう
「おぉ、恐ろしや・・統常や、殺してたもれ・・。」
獄卒と戦わせ続けるのも面白い
何これ、どんどん有利な展開に・・・あ、あれ?
戸次の雰囲気が変わっていた。
異様な・・得体の知れない殺気を肉皮に向けて放っている
「・・・・流石は母上。そのお覚悟、この統常感服仕りました。」
え?殺される?何で?意味不明
どこでどう母親を殺す流れになったのか全く分からない
やばい・・に、逃げなきゃ、こいつ・・いかれてる
突然の変化に戸惑う、足が震えて動かない
槍が、その穂先が首めがけて飛んできた
「ひ、ひぃいいいい!!」
得体の知れない恐怖で、腰が抜ける
間一髪、穂先は頭上を通り過ぎた
「偽者であったか・・。」
変身が解けてしまった
戸次が槍を構・・・・
“ボン・・ボワワワア”
煙が充満する。何も見えない
「さ、こっちだよ。早くおし。」
何者かに手を引っぱられ我に返った
とっさに転がり、槍から逃れる
その後、何者かに誘導されるまま走った
後ろは振り返らない、ただただ全力で疾走する
「チッ・・逃げおおせたか」
そんな声が後ろから聞こえた
考えろ、考えるんだ・・・生半可な策ではヤツには勝てない
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
戸次の興味は獄卒たちに移っていた
屈強な兵であることは見て取れる
それが30人近くも、非常に喜ばしい
ゆっくり槍を構えなおす
まだ、煙幕で上半身しか見えていない
“吶喊・・・!!”
戸次は無意識の内に地を蹴っていた
獄卒たちと槍をあわせ、体をぶつけ合う
かわるがわる襲い掛かる獄卒を突き刺し、払いのけ、殴り倒す
「こやつら・・・。」
強い、確かに強い、だがそれだけだ。それ以上のものは感じない
次第に戸次は圧倒していく
何かがおかしい、ないのだ、強さに見合った怖さが
「ひ、引けぇー!!」
獄卒の1人が叫ぶ
「退却?・・そうか、伏兵!」
獄卒たちは先駆け、某を誘い出すのが役目か
この場で倒しきる気概を感じなかったのも頷ける
他に策がある場合、死ぬ気で戦うのは難しい
面白い・・笑みがこぼれる
ならば追撃だ
「なっ・・・・。」
獄卒の長は絶句していた
こちらに誘導するべく放った先発隊の面々が次々に討ち取られていく
足が達者なものを選りすぐった精鋭たちだ
魔人ごときに追いつけるはずがない。充分訓練も積んでいた
が、それ以上に戸次の追撃が疾すぎるのだ。
これでは、このままでは、この場所に辿り着く頃には全滅しているだろう
背中を見せた獄卒たちは、格好の的であった
「く・・・、くそ。」
今回のような魔人同士の殺し合いの会場に、この賽の河原が選ばれることは度々ある
その都度、比良坂から魔人の殲滅を命じられてきた
何度も魔人を葬ってきた必勝の策、それが今打ち破られつつある
もうすでに半分は減っていた
一度背を向けた以上、先発隊は自力で体勢を立て直すのは不可能な状態だ
限界だった・・もうこれ以上、仲間を見殺しにはできない
一緒に酒を飲み、語らい、この聖地を守ってきた大切な部下たちなのだ
「皆のもの、これより突撃を敢行する。仲間を救えぇーーー!!!」
左右に控えた伏兵に号令をかける
約70名の獄卒が戸次に襲い掛かった
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
肉皮は宿所のような建物の中にいた。
「私に何か用?婆さん?」
奪衣婆と名乗る鬼に問いかける
助けてくれた礼は言わない
「あんたの方が話は通じそうだったのでね。」
「だから何の用か聞いているのよ。」
「焦りなさんな。こっちは見極めなきゃならないのだよ。あんたが信用できるか・・。」
信用?私を?馬鹿かこいつ・・。
「それじゃ、交渉は決裂だ。婆さんに付き合う暇はない。」
「ふぅ・・。分かった。取引が成立したら、あんたを手伝ってやる。」
「手伝う?婆さんが?」
「私は奪衣婆。三途の川の対岸へは何もかも持ち込み禁止さ。衣服とともに持ち物を全て奪う。それが私の仕事、能力だよ。」
「槍も?」
「あぁ、槍も。どうだい話を聞く気になったかい?聞く気になったら眼を見せな。」
目を見て人を信用するか・・・
ふふ・・、この婆さんはやはり甘い
人間いざとなれば目で人は騙せる
この婆さんを利用するだけ、利・・・!?
奪衣婆が顔を近づけてくる
“ゾクリ・・・”
悪寒が走る
み、見られている。心の奥底まで・・・覗き込まれている
「年寄りをあんまり馬鹿にするものじゃないよ。」
淡々と奪衣婆は語る
何もかも見透かしているような言い方だ
背中が汗でびっしょりだった
戸次とは別の意味で恐怖を感じた
「あんたも碌な人間じゃないね・・だけど、心根までは腐ってない。ま、いいだろう、入っておいで。」
少女が姿を現す
酷く怯えているのが一目で分かった
この孫娘を現世へ戻してやりたいこと、それには協力者が必要なこと
奪衣婆は洗いざらい話した
「つまり、私にそれを手伝えと?」
「そう、実際には川岸で孫娘と隠れていて欲しい。」
現世に戻すためには、川底に穴を開けなきゃならない
岩を退かすだけでも結構時間がかかる作業だ
川のど真ん中、とても見えやすい場所だ
孫娘をそばに置いて作業するわけにはいかない
かといって、幼い娘を独り川岸に隠れさせておくのは不安が残る・・という訳だ。
「孫娘が無事現世に帰ったら、何でも協力しようじゃないか。獄卒らに話をつけてやってもいい。」
「分かった。協力しよう。」
話はまとまった。
「それはそうと、一つ願いを聞いてくれないか?」
奪衣婆が思い出したように言う
「あんた変身できるのだろ?」
そうかあの時、見ていたのか・・。
「ん?あぁ・・。」
「あの子に見せてやってくれ。こっちに来てから笑顔を見てなくてな。」
「減るものじゃない。頼む、あの子を喜ばせてやってくれ。」
奪衣婆は頭を下げた
チッ・・・心の中で舌打ちする
めんどくさいな
まぁ、だけど断るほどのことじゃない
肉皮はマントで体を包んだ
娘の最愛の女性、奪衣婆に変身する
「うわー、お婆ちゃんが2人も・・」
子供は単純だ。パッと表情が明るくなる
もっととせがまれ、今度は孫娘に・・
「今度は私だ!ありがとう、お姉ちゃん!!」
ニッコリ笑って感謝された
久しく感じたことのない無垢な笑顔、肉皮は対応に困ってしまった。
───クソ・・。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
策が破綻した獄卒たちには、もう作戦もクソもなかった
数に任せた力押し、これ以外選択できない状況に追い込まれたと言っていい
戸次に対し、中途半端な数で対抗する
これは無謀な選択である
策を破られたことで、戸次の土俵に乗ってしまった
戸次は先頭を走る獄卒に狙いを定めた
足を斬りおとし、転倒させる
突如として足元に障害物が出現した
後に続く獄卒たちは躓き、その体勢は崩壊する
それらを一つひとつ丁寧に突き殺していった
初撃で4~5人殺せば、敵は怯む
目に見えて、獄卒たちの士気が下がっていった
あとは戸次の独壇場である
多数との戦いは、相手の戦意を削ぐことが重要である
いったん削いでしまえば、烏合の衆へと成り下がる
20人ほど倒されたところで、長は腹を括った
これ以上やっても被害が大きくなるだけだ
大切な部下をこれ以上失うわけにはいかなかった
倒されたものたちに祈りを捧げると、獄卒たちに引けと合図を送る
そして、長自身は戸次の前に立ちはだかった
「長・・?」
「何をやってる早く逃げろ!今回の失敗の責はワシにある!殿は引き受けた。お前達は態勢を立て直せ!!」
「し、しかし・・」
戸惑う部下の獄卒たちを睨みつける
「殊勝な心がけよの。長殿・・」
抑揚のない声で戸次は呟き、長に襲い掛かった
「ぐ・・早く、ワシは長くもたん。」
辛うじて自らの武器で槍を受けている
「長、ご武運を・・。このご恩忘れません。」
部下たちは一礼をし、次々去っていった
───長の断末魔が賽の河原にこだましたのは、すぐ後のことである
そして、語るも無残な追撃戦が始まった
獄卒たちは散り散りになって逃げ惑い、戸次に討たれていく
賽の河原は獄卒たちの死体であふれ、三途の川は赤く染まっていた
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ここじゃよ・・。」
奪衣婆が川底を指す
「ここら辺りの岩を退かせば、現世へと通じる穴がある。」
「それって、私が飛び込んでも・・?」
「ダメだね。臨死状態の霊じゃないと通り抜けることはできない。完全に死んでいるあんたは跳ね返されるだけさ。」
「あんた達は、あそこの岩の下に隠れていな。以前、穴を掘っておいた。」
大きめの岩を指し示した
しばらくはここで娘と待機だ
娘を勇気づけつつ、穴の中に入る
奪衣婆は岩を退かす作業に入った
“ザッ・・ザッ・・ザッ・・”
足音が聞こえる・・・が、奪衣婆が気付く様子がない
穴を掘る作業に一生懸命だ
少しだけ顔を出し、確認する
最悪だ・・ヤツがきた
そこには返り血で真っ赤に染まった戸次が立っていた
奪衣婆が戸次に気付く、しかし、もう遅い
既に戸次は跳躍している
間一髪、初撃をよけた
一瞬、こちらを見て笑顔を見せると、奪衣婆は逆方向に逃げ出した
もう、戸次はいない
新たな獲物を探しにいったと思われる
奪衣婆の死体は逃げた先で見つかった
孫娘からヤツを遠ざけるための緊急処置だったのだろう
少女は奪衣婆に覆いかぶさり泣いている
婆さんが死んだ今、取引はもう成立しない
娘を守る義理は既にない
私だって生き返らなきゃならないのだ
ヤツに・・あの化け物に勝つ方法を考えなきゃならない
可哀想だが、仕方ない
どうしようもないことなのだ
そう、自分に言い聞かせる
娘に背を向け、立ち去ろうとする
一歩、また、一歩と前に進む
心の中がズシリと重い
「お姉ちゃん・・・。」
「・・・・・。」
無視しろ・・無視しなきゃ・・ダメだ
クソ・・・何だこのモヤモヤは・・・
「グスン・・・ありがとう。」
チクショウ・・・チクショウ・・・チクショウ・・・
泣いている私の肩に手が置かれる
この感触を私は知っている、ガサガサしているけど温かい手
振り向くとやっぱり大好きなお婆ちゃんが・・
「しっかりおし、いつまでも泣いてるんじゃないよ。」
でも・・でも・・お婆ちゃんはもう
「お前にはまだ希望がある。諦めるんじゃないよ。お前は・・・」
お婆ちゃんがお姉ちゃんに変わっていく
「小娘、お前は私が救ってやる!!だから、もう・・・泣くな。」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
戸次は獄卒たちの残党狩りを継続していた
そこには10人ほどの獄卒、戦意はほぼ消失している
肉皮は比較的大きな岩の上によじ登る
手には奪衣婆の宿所からパクってきた煙幕弾
「やめな!!」
戸次が振り返る
「ほう、貴殿か・・。ふ・・・、良き面構えに候。」
歯を食いしばり、覚悟を決めた眼光、戸次好みの顔がそこにはあった。
「あんた達、奪衣婆の宿所だ!!」
複数の煙幕弾を投げる
戸次の視界が確保される頃には、誰もいなくなっていた。
「これで全部かい?」
落ち着き払った表情で肉皮は言った
奪衣婆の宿所には20人ほどの獄卒たちが集まっている
「あぁ、そうだ。だが、あんた・・。」
「おっと、それ以上言うのはなしよ。」
そう、誰もが分かっている
協力するしか、戸次を倒す手立てはないことを
「あんたら獄卒の目的は、あの戸次と私を殺すこと・・。そうだね?」
獄卒たちは頷く
「私が挽回する機会を、目的を達成する機会を与えてやる。だから、私の指揮下に入りなさい。」
一同、驚きの表情を浮かべる。魔人の指揮下なんて聞いたことがない
肉皮はそれを気にせず、淡々と作戦内容を説明した
戦いに関しては戸次の方が、一枚も二枚も上手だ
複雑な計略を立てても、覆されてしまうだろう
だから、一瞬で方をつける
獄卒たちの顔が紅潮していくのが分かった
「何、私は戸次より後に死ねばいい。あんた達こそ遅れるんじゃないよ。」
獄卒たちに戦意が戻ってくる
希望を示され、汚名を返上する機会を得られた
それだけで元気が、勇気が湧いてくる
肉皮は獄卒たちの変化を感じ取り、付け加えた
「あー、一つ条件がある。簡単なことさ。」
部屋にあの娘が入ってくる
「この小娘を現世に戻してやってくれ。全てが終わってからでいい。」
違法行為だが、そんなことを言っていられる状況ではない
獄卒たちは了解した。するしかなかった
「約束だぞ。」
肉皮は念を押す
「分かっている。」
比較的リーダー格の獄卒が真剣な顔で頷いた
嘘を言っている顔ではない
あとは決行あるのみだ
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
───私が持てるモノ全てを絞り出しても戸次のようになれないのは分かっている・・・
───彼は黄金であり、私は石に過ぎないのだから・・・・どこまで行っても私は凡人のまま
───だから、全力でメッキを貼る・・・・全力で黄金のフリをして自分自身を騙すんだ
───いけ・・私は出来る!!
振り向くと、そこには母親が立っていた
戦国の世に相応しい気性を持つ女性だが、体格は小柄な母親が
「また、貴殿か・・。」
少し呆れ気味に呟く
「・・・。」
返答はない
目の前の母親はペンを構え、襲い掛かってきた
戸次は余裕をもって応戦する
心臓に狙いを定め、一突きに
穂先が肉体に届く直前、肉皮は変身を解除した
槍は肉皮の腹部を貫く
戸次の母親に比べれば、肉皮の身体はかなり大きい
つまり、直前で変身を解除すれば急所は外れる
肉皮は槍の柄を掴む
これを放さなければ、勝ちだ
「あんた達!や・・・れ・・!!」
「む・・・」
戸次の背後から獄卒たちが襲い掛かる
手に持つのは、刀、槍、斧・・
様々な武器が戸次の頭部、胸部、首に突き刺さった
戸次の身体から一瞬力が抜ける
そして、カウントダウンが始まった
─── 壱拾(じゅう) ───
「か、勝った・・。げふ・・。」
肉皮は戸次の能力を知らない
前回の試合を分析してもよく分からなかったのだ
そのため、今まで戸次の能力というものを無視していた
吐血しながらも、勝利を確信している
その右手は槍を放し、動き出す
そして肉皮の身体をまさぐり始めた
「な、何なの?これ・・?」
肉皮の顔は恐怖に引きつる
─── 捌(はち) ───
右手は肉皮の胸部を掴むと、その肉をむしりとり
肋骨を強引に取り除く
「が・・・はっ・・・・」
肉皮は血を流しすぎた
反抗する体力は残っていない
─── 肆(よん) ───
右手は露出した心の臓を握る
肉皮は敗北を悟る
最後の力を振り絞り、叫ぶ
「あん・・・た達・・・や・・グフ・・・・・そく・・を、ま・・・れ・・・」
獄卒たちは肉皮に頭を垂れる
その顔は涙に濡れていた
─── 貮(に) ───
獄卒たちの様子を眺めると
肉皮は少し満足げに・・・絶命した
─── 零(ぜろ) ───
戸次の身体も崩れ落ちる
これにて、二回戦第一試合 賽の河原の試合は
戸次右近大夫統常の勝利で幕を閉じた
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
獄卒たちは約束を守った
少女は無事現世に返され両親と幸せな人生を送っている
お婆ちゃんと不思議なお姉ちゃんへのお祈りは、今も欠かさず毎日行っている
大切な、とても大切な恩人だ
───そして、賽の河原
新しい獄卒長の強い推薦により、賽の河原では新たな奪衣婆が選出されることとなった
彼女は黒髪ボブカット、服は着ておらず、下着の上から羽織ったマントが風にたなびく
前代未聞、ニューハーフの奪衣婆であったという
(おしまい)
最終更新:2012年07月18日 23:49