第二回戦風殺紅蓮地獄 安全院綾鷹


名前 性別 魔人能力
右手首の怨念 女性 右手首の怨念
安全院綾鷹 男性 禁止句域

採用する幕間SS

安全院・綾鷹の人間関係
(綾鷹はリーディングと2回戦で戦いたくない模様)
参考リンク:真野片菜
(『絶剣』)

本文

『冥界第2回戦 第2試合「風殺紅蓮地獄」』


【1】◆カタナ×ガタリ◆
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
               (”絶剣”真野片菜 )
―――――――――――――――――――――――――――――――――
†††

[回想] 2006年
[場所] 安全院電力*1内・武道場
[NEXT] 置き去りの過去
―道場 15:00―

「案の定こうなったか。」
連絡を受けた安全院・綾鷹が道場に顔を出したのは役員室を出て直ぐだった。
上司に断りを入れ、最速の到着。その間、5分も立っていなかったはずだが、
その僅かの間に道場にいた魔人警備員を含む門下生全員が綺麗にのされていた。
全員、川の字になって道場の端に並べられており、ご丁寧に一人づつ冷やした
タオルを頭に乗せられている。見事な手際だ。
(こりゃ場慣れしてやがる…絶対初犯じゃねぇな)

見ると内線を回してきた付き添い人は両手を合わせ、自分に対し『ごめんな
さいのポーズ』をとっている。こちらも悪い意味で場慣れしている様子だ。
そしてバケツを手に持った”犯人”はこちらに丁寧にお辞儀をする。
釣られて笑顔で挨拶を返した綾鷹は、だが、その腰に差している得物を見て
目を剥いた。
「…まさか、それでやったのか」
「はい武器の持込が禁止されていましたので、これが現在の愛刀です。」

定規だった。ミルキィなんとかといったかアニメのシールが貼ってある。
おもちゃにも等しいそのモノサシを構えて、お相手お願いしますとプロ達に
向けたのだ。笑っていられたのは最初の一人目のみ。いと憐れ、あとは全員
地獄にまっさかさまである。
「未熟故に未だ斬らずに人を倒せません。そこで古武道剣術の師範代であら
せられる。”活心剣”綾鷹殿の手ほどきを受けようかと今回の依頼を…」
「私のやっていたのは古武”術”だ。道とか今更、聞かれてもな。」
やや辟易しつつ、そう答える。綾鷹はどちらかというと、ラーメンを食べる時は
客の好きに食べて欲しい派だ。拘りを客に押しつけるような格式ばったやり方
は趣味ではなかった。が、ビシッと突きつけられる定規。

「いえ、ご謙遜を。全て総帥よりお聞きしております。よいですか。」

人の話を全く聞いていない。どか盛りの器!綾鷹はがっつりと肩を落とす。
どこまで本気なのか真面目なのかはたまた熱血なのかよく判らないお子様だ。
総一郎さんもとんでもないのよこしてきたな―と苦笑いしつつも、思い直す。

これくらい破天荒なほうが、案外気が合うかもしれない、なにより今自分が
欲しいのは剣の腕などではない。ただのーそう、ただの遊び相手だ。

「じゃ、活心剣習得のステップ1だ。」
左手で指を鳴らし少女の気をそらす。
きょとんとする少女。そして自ら手にあるものを見て、首をひねる。
いつの間にかするりとミルキなんとかの定規は別のものにすり変わっていた。
「これを使って、強敵に真っ向、チャレンジだ。」
「?…流石に”これ”は振るえません。用途が違います。」
うまんか棒コンポタージュ味。皆が大好きヤッターなオカシーだった。

「それを使って、私の娘と友達になってくれないか?ちょっと難しい年頃さん
で、実は俺も、とんとお手上げなんだわ。どうか”助けて欲しい”。」

少女は瞬きした後、こう答えた。
―喜んで。
後日、万物を断ち切る剣の使い手となる彼女が、とある少女と巡り合う…
それは、そのすぐ手前の話であった。


【2】弑&葬&沈 の教えて☆ドッキリティクチャー

―魔人墓場・制御ルーム―
「あっ、」
比良坂三兄弟の沈がその事実に気が付いたのは、第2回戦2試合目が始まって
しばらくのことだった。
「――あ、これ、ボク嵌められたかも…」
彼が唐突に発した台詞に何事かと顔を見合わせる兄弟達。弑が先を促す。

「2試合目のマッチングしたのボクだけど、これの発案、たぶんボクじゃない…」
少し自信がなさそうに話す沈が指し示した対戦カードは

 戦場:賽の河原 戸次右近大夫統常 VS 肉皮リーディング

今、地獄で行われているこの大会、マッチングは抽選でもトーナメントでもなく、
見世物として面白いかどうかを基準に毎回、三兄弟が決めている。
そのことは既に参加者にも伝えてあるし、希望を伝えても必ずそれが通るとは
限らない。上記の組み合わせは、弑も葬もいいマッチングだと賛同し、割合
問題なく決まった内容であったのだが…

「参加者の一人が、天界の戦いの前後に『狼は鹿を強くする』の能力発動の際の
再現を繰り返し要求してきててね…他にも色々あったんだけど主にこの周りを…。
そんな訳でそこで起こってた「母子の対面」のシーンが後まで頭に残ってたんだ。
で、次の組み合わせ決める際に…ああ、これ対戦したら凄く面白いだろうなって」
「で2回戦、戸次VS肉皮、ナイスボードいっちゃえと組んじゃったと。」
確かに肉皮リーディングの対戦相手は『最愛の女性』がいるほうが望ましい。
条件が当て嵌まる相手を優先的に割り振るのはおかしなことではない。

「ということは、自分が戦いたくない相手を他人に擦りつけやがったのか…。
やり方が、姑息すぎてイカサマにすら取りづらい…。」
件の参加者の名は安全院綾鷹。
仮に問い詰めてもあの性格だ。平然とすっとぼけるに決まっている。
そして実際、マッチングを決めたのは三兄弟だ。これではイカサマともいえない。

「次。どうする?」
「どうするって?」
「風殺紅蓮地獄。安全院の希望通りの地獄が通ってる。戦いたくない相手を別の
対戦相手に誘導できる脳みそあって、自分に不利な地獄選ぶわけないじゃん。」

道理である。ペナルティなり嫌がらせなりするべきだろうかと問う葬。だが
最終的にNOの回答を出したのは弑だった。データに目を通してから首を横に振る。
「対戦相手は『怨念』か。にゐとの『再現』の件、誰からも抗議がなかったから、
こっちも放置してたんだけど、この様子だと『怨”霊”』に関しても…」
「カンズイテルカモネ~。」×2
「なら放置でいこう。ここは一つ、お手並み拝見だね。
どっちにしろ勝とうが負けようが連中に逃げ道など用意されていないし、同じ
ことさ。なら氷点下三十度のシベリアブリザードに勝る”あんぜんいん”地獄
とやら見せてもらうとしようよ。」

そしてその言を肯定するように安全院綾鷹は、次の試合、対戦相手を圧倒する。


【3】◆カタリ×ガタナ◆
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
            (”堕されしモノ”右手首の怨念)
―――――――――――――――――――――――――――――――――

シベリア並みだな。―いや少し温いか。*2

風殺紅蓮地獄。吹きすさぶ風が平らに置かれた岩場を蹂躙している。
その地獄に降り立った安全院綾鷹の姿は、最初に彼が酒場を現れたときと
同じコート姿であった。まず素早く周囲の気配の有無とコートの内の備品が
きちんんと存在しているかを確認する。

―皮グローブ良し。鞭良し。敵さんはまだ見受けられないっと…
―今のうちに準備しておくか。

たしか風速が1増すごとに体感温度は約1℃ずつ低くなるはずだ。
風が更に強まる恐れもある。対策は早いほうがいい。そう判断した綾鷹は
岩場の陰に身を寄せ、手を合わせると、息を大きく吸い、ゆっくりと吐く。
ついで脱力、腰、背、肩、手首、指の間接に至るまで、緊張をといてゆく。
古武術の真髄であり基礎と言うべきものに『脱力』がある。無駄を無くした
自然体の極地の状態。そのタイミングで彼は『禁止区域』を発動させる。

「―凍る・な―」
どくん。
言葉と共に心臓のポンプ音―鼓動が、より高く跳ねあがり、躍動を開始する。
全身の隅々に血がいきわたるのを感じる。これで体力の消耗は早くなるが、
寒さで末端が凍りついたり、壊死をおこしたりすることはなくなるはずだ。

安全院綾鷹の『禁止区域』の基本的な使い方は2種類。
一つは相手に対し「禁止行為」として制御(ブレーキ)を掛けるアバウトな使い方。
もう一つは自分自身に適度の強制(ギアス)をかけ機能を強化するものだ。

そのワードは「見落とすな」「トちるな」「当たるな」etc.etc.etc..各種に及ぶ。

制御は必ずしもマイナスではない。適度な制御は自身を「律」することに繋がり、
そこでもたらせられる効果は、関連した能力の底上げをすることに繋がる。
もっとも、これは幾度となく実戦と実験を繰り返し、弛まぬ努力を続けて初めて
成り立つことで、強化しすぎれば諸刃の剣にもなる。つまり…
有体にいうと、安全院・綾鷹という男は『百戦錬磨』な存在、といえるのだった。

――――――――――――――――――――――――――――――

同時に寒獄の地に降りた、もう一人の対戦相手。JKを模った怨霊
”右手首の怨念”は、吹き荒ぶ冷風に臆した風もなく周囲を見渡す。

こちらも服装はいつもより厚手、どこかの高校指定の冬服にマフラー。
この氷点下を遥かに超える地で、高校の冬服がどれほどの役に立つか甚だ
疑問ではあったが。ともかく、このイメージで固定したようだ。
どうも地獄は対象が抱く己のイメージによって体現の仕方に多少の差異が
発生するようだった。

JKはその辺りの機微は気にも留めず烈風にスカートをはためかせている。
―戦闘領域は半径1kmほど。
―倒すべき対象は気配を殺しているせいか、前と同様に探知出来ず。
―今、目測できる位置にもいない。

となればとるべき選択は一つのみ。JKは迷うことなく決断する。
「鬼無瀬時限流...」

鬼無瀬の業で、いるであろう鼠をあぶり出す。ただ、そう、それだけのことだ。
手に掛けた刀に彼女の
剣気が―
殺気が―充満する。
その立ち上る気は昇龍のごとく揺らめき、極寒に光の柱を立てた。

「四」

次の瞬間、彼女は敵の姿を正面に視認する。距離にして200mほど、一名が
こちらに向かって来ているが…。遅い。あれでは到底、到底、到底、到底、

「囲」

不毛の地に揺蕩う少女が嗤う。
―辿りつけない。
ああ、このツンドラめいた不毛の地に風に乗り、紅蓮の血を咲かす、
なんと鬼無瀬に相応しい絵ズラか!

「敷」
、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
嗚呼、本当に生きているのって素晴らしい!

「応!!」

ピシ。
どこかで嫌な音が響いた。
―?!


――――――――――――――――――――――――――――――

…応…

迫り来る危機に対して、綾鷹の反応は非常に早かった。
自らに当たる剣気を感じると同時に彼は身を乗り出し、地を滑るように走りだす。
目指す目標は怒髪天の勢いで立ち上る気の柱、その根元。
構えを深く深く、構えに構えたJK。

綾鷹の前屈みの姿勢は、スピードの上昇と共に重力に身を預けるよう低くより
低くなる。そう”地を滑るように”低く。

<―――――――――― 斬 ――――――――――― >

それ故に放たれた斬撃はその頭上、上を凪ぐように『水平』に斬り、飛び去った。
広範囲であるが故の横凪。彼は文字通り『死線』を掻い潜ったのだ。

(前回より軌道はかなり低かった。…剣速はかなり落ちているな。)
そう独りごちた綾鷹に、間髪いれず踊りかかる影。彼女は接近者を見逃さない。
寧ろ接近は僥倖とばかり、伸びやがった四肢が、新たな鬼無瀬を体現する。

次の死線は―上から

「鬼無瀬時限流中目録。毘伊弐重駆(びーにじゅうく)」

↓↓↓。↓↓↓。
天より撃ち落とされる雷がごとき迎撃の鉄槌は、対地用の鬼無瀬。
揮われた五尺の長干し『倶利瀬鈴』より発せられた衝撃が、地に這うもの全てを
叩きつぶさんとするかのように炸裂する、その一撃を受け、大きく穿れる氷面。

だが、この斬撃も対象は大きく横に飛びのくことで回避した。
―右に行ったか。
その姿を目で追う彼女の耳に、また。ピシリと。
異音が響く。

―?なんだ?
だが、訝しむ時間はない。
彼女の思考を妨げるように半身を捻り繰り出された綾鷹の鞭が、彼の手から怨霊
の身を目指し放たれたのだ。だがこれは斬撃を交わしてから振るわれた鞭打。
その一呼吸があればJKは十分な余力を持ってやり過ごすことが可能であった。
―透過。

彼女の身体は非実現化により鞭を回避する。だが、それは誤り。狙いは違ったのだ。
しなる鞭の先は彼女の身体を通過し、そこではなく
―なっ!?
『――・な』
腰に差したままであった二刀目『ニ刀路』に絡みつく。そしてそのまま、彼女の元
から半身ともいうべき、”それ”を持ち去った。

†††

「ッッッ―――!」
―迂闊。
透過できるのは彼女の身体のみ。手首から先にある刀は当然のこととして
所持する腰の太刀『ニ刀路』にまで、及んではいなかったのだ。
―迂闊ッ。
いや、そうであろうか。何故、自身の所持品に透過が適用されていないのか?
それが意味する不自然さに”彼女”は気づかない。いや気付けない。

そして綾鷹、彼は奪い取った刀を鞘ごと掴むと先ほどと同じ言葉を発する。
『カタル・な』と。
―ッ
―ッ
共に、とんと蹴り飛ぶ。一人は前に、一人は後方にと。

「―ッ、初伝「抜駆逐」」
鬼無瀬の神速の抜刀術。だが、一歩及ばない。
間合いは十分届く距離だったが、飛びのかれた分、一撃は僅か届かなかった。

無数の斬撃と化す残像は風に吹き飛ばされ消え、男は風に乗り大きく後退する。
―コイツ風の動きまで計算に入れて!!

『カタル・な』
そしてもう一度『ニ刀路』を握りしめたまま放たれる綾鷹の言霊。
彼はそのまま更に間合いをとる。

暫くの睨み合いが続く。
今の両者の距離は『禁止句域』の射程を大きく上回る。そして鬼無瀬からは、
極めて有利な間合い。仕掛けるのなら怨霊側であるは必然。だが!

「鬼無瀬時限流 印かかかかかかかかかかかかかか…」
「人の話を聞いてないな、私は『カタル・な』といった。聞こえなかったか?」
「?!」

言霊が怨念を縛り始めた。


†††

あとは、その繰り返しであった。
  • 刃靡
  • 雛菊刈り
  • 初伝「抜駆逐」
以下、全てが未発に終わる。そのほか奥義から禁忌技、はては本来は失伝した
モノまで業を繰り出そうとするが、そのたび、あの言葉が襲いかかっていき、
彼女に、

「鬼無瀬時…」
「『カタる・な』」
「く、はぅ。」
苦渋を強いる。貯めた剣気が放つに放てぬ。生殺し状態がただただ続いていた。
流石の彼女もこうもスンドメを繰り返させられては…女子高生の体が震える。
存在感は不明瞭にも関わらず、その肉体は豊満であった。
「『カタる・な』」
「くッ」

打たねばならぬ。
放たねばならぬ。
打てぬならば。 わが身は、何のために存在するのか。
私は、私は、私は…
「私は勝つ。私が誰だろうと、私は鬼無瀬…。」
「『カタる・な』」

鬼無瀬流だからと告げようとしたが、どうしても次に続く言葉が出ない。
ぱくぱくとJKの亡霊の口が泳ぐ。
語れない。口惜しい。語れない。悔しい。カタレナイ、鬼無瀬の雄姿を、武勇を
、、、、、、、、、、、
何故私は云えない。

「鬼無瀬を『騙る・な』といったのだ。もう自分でも気が付いているだろう。」
男の宣告は彼女にとっては死に等しく。甘く、黒く、残酷に響く。
「お前は…」

少女は膝をつく。  、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、
「私は……私たちは唯、鬼無瀬の剣士になりたかっただけなのに、それだけ
でよかったのに、その望みすら奪うのか…」

お前はただの人形だ。そう告げられた、
それは二振りの刀によって造られた偽りの偶像。その哀しい慟哭であった。


【4】◆カタリ×ガタナ◆
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「騙る・な」
        (安全院・綾鷹)
―――――――――――――――――――――――――――――――――

日本刀。それは選ばれし者のみが振るう、職人の魂の結晶。
ある者は活人の華を咲かせ、ある者は殺人の闇を咲かせる。鬼無瀬時限流。
常にその歴史と共にあった二刀の刀。
その名を『ニ刀路』と『倶利瀬鈴』 といった…。

綾鷹はその二刀によって造られた理想の剣士像(JK豊満)の慟哭を、冷静に
何かを推し量るかのように見つめていた。
最初に彼が引っ掛かったのは比良坂三兄弟が行った『選手説明』だ。

  • とある剣士より切り落とされた手首と感情が”怨念”により自我を持った者。
  • 空くまで切り落とされた部分を”核に誕生”したため
  • 能力により作られたかりそめの体は不安定。

これは一見、『右手首の持主”の”怨念』の暴走によって造られたとも読めるが
綾鷹はあらゆる意味で、比良坂三兄弟のことに信を置いていない。
ここにある種の詐術めいた臭いを感じとっていた。その説明では怨霊が少々
強すぎる。恐らく裏があると…。
この奥義や禁じ手までを易々使いこなす『本物以上の』殺戮の道化人形が
果たして誰によって作られたものなのか、また本体がJKか真偽を確かめる
必要もあった。あの惨劇*3を再び繰り返すわけにもいかなかったからだ。

そして彼は鬼無瀬の剣士の手首と感情に盗り憑いた怨念の正体に辿りつく。

それは地の底に堕ちてまで鬼無瀬時限流を最強に押し上げ誇示せんとする二振り
の魔剣が妄執。「所有品」こそが彼女「右手首の怨念」の本体であったのだ。

「一撃虐殺虐殺虐殺虐殺虐殺…が鬼無瀬時限流の理。
滅殺…滅殺滅殺滅殺滅殺滅虐殺殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺…」

『倶利瀬鈴』を杖代わりに起き上ったJKはもはや綾鷹をみていなかった。
遠く虚空を見つめ、見えざる何かに対し呪詛を吐き続ける。恐らく、元の
鬼無瀬の剣士を完膚無きなきまでに叩きつぶし、敗北せしめた『何か』に。

やれやれと男は今まで握りしめ、今まで直接言霊を投げかけていた三尺の
太刀にこう語りかける。
「確かに銘はニ刀路だったか。お前達が生み出したものの結果がこれだ。
                                                • どう、あるべきだ。」

「滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅虐殺殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺殺滅殺滅殺
滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺
滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅虐殺殺滅殺滅殺滅殺」

不意に呪岨を繰り返すJKの首がガガガと不自然に彼のほうに向く。

「滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅虐殺殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺介錯殺滅滅殺滅殺
殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅
殺滅殺滅殺願います滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅虐殺殺
滅殺滅殺滅最後殺滅殺滅殺滅殺滅殺虐殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺滅殺として滅殺…」

彼のその時の表情は―苦笑だったと思う。
「承知した。こいよ。鬼無瀬時限流。」
男は刀を抜き、下段に構える
その声に空を睨み呟き続けていた呪詛がピタリとやんだ。彼が言霊の働きを止めたのだ。

そして放たれる、新たな「禁止句域」。

「―『想い残す・な』―


-そして立ち合いが始まる。-










「鬼無瀬時限流・禁忌・誅生死漠断―」

「活心流・ニ刀路プラス白蘭”」




魔剣 VS 魔剣…それは刹那の交差。片方に血風が舞った。
まるで風に斬り裂かれたように幾つもの裂傷に包まれたのは綾鷹。噴き出した血は
瞬時に凍り傷口を塞ぐ。
「くくく」
そして偽りの鬼無瀬の剣士は哂う。ピシリピシリと崩れる音を聴きながら…。
両者の手にある五尺と三尺、二つの刀身は今や粉々に砕け散っていた。
割れたかけらは宛らダイヤモンドダストのように儚く強く煌めき、吹き荒ぶ大地
の風に運ばれ、いずこかに消えていく。

「ふふふ、ふふふ」
カラリと刀身のない刀が、地に堕ちる。
そしてゆらりと怨霊は嗤う、笑いながら、その輪郭をぼやかし消えていった。
生涯、一度たりとも地に伏すことなく。



◆弑&葬&沈の教えて☆ドッキリティチャーまたは『4月に降る雪』◆
―魔人墓場・制御ルーム―
「『低温脆性』。」
「ぐぐったら*4出てきた。刀の弱点。-20度超えると原子レベルで変換してガラス状になっちゃうんだって」
「構造上、折れないよう身を厚くすれば厚くするほど脆くなる。魔人用の刀でもせいぜい-30度くらいが限界。折れず曲がれずを標榜していても砕け散るはアリという実に魔人能力ぽいオチだね。」
「そりゃさあ、どんな地獄でも耐えきれるよう身体強化したけどさ。」
「本質は替えようがないじゃん。弱点は弱点だよ。」
「刀だけでなく鉋とかの刃もイカレるのかね。一番怖いのは安全院がこの刀の特性、弱点を戦いでなく、相手の真偽の見極めに主に利用したってことかな」
「直ぐに砕け散れば普通の刀、”耐え続ければ”怨念の本体。」
「その上で射程外からの能力使用で二刀が、単独で成り立っているか一対でリンクしている存在かどうかを確認。あとは精神的に揺さぶりに揺さぶって」
「自爆着火オン。最後は見事な舐めプで勝利。本当にいい性格してるわ。このおっさん。」

†††
―病室。―
これは一人の少女の話。

検査入院の為、一晩泊った翌日の朝、ふと、彼女が窓を見やると、そこから
風にのってキラキラと光る何かが舞い込んできた。
「粉雪?」
4月に粉雪もないかな。きっと塵か何かが反射しているのだろう。
ただ、少女は不思議と氷の結晶を思わせる雰囲気を纏った何かを感じていた。

「ん?」
そこでふと気づく
昨日まであった自分の右手首の違和感、重みが消え去っている。

―もう一度、初心に返って頑張ってみようかな。

春のやわらかな日差しが彼女を照らす。
それは地獄の妄執とは関係ない、切り離された一人の少女の物語。

====================================
(第二回戦『風殺紅蓮地獄』対戦結果)

鬼無瀬『倶利瀬鈴』:最後迄、殺人刀としてその生涯を全う。
鬼無瀬『ニ刀路』:最後は活人剣としてその生涯を全う。

鬼無瀬時限流師範代ひらめ:健やかに現世で生存。一輪の華を咲かす。
安全院綾鷹:弑から舐めプ疑惑を受ける。準決勝進出。


(注釈)
*1:ちなみにキャッチは「いつもアンゼン貴方の隣にはいよる電力、安全院電力♪」
*2:シベリアは時季により零下30度を超える。移住区域での最高記録はオイミャコン地方の零下73度。
*3:詳細不明。文脈上『ミルキレディー最終回の悲劇』のことだと思われる。
*4:ジード=シャスキー先生を皆でぐーるぐーる殴って情報を吐き出させるの意。検索機能のことではない


最終更新:2012年07月25日 21:49