日刊DANGEROUS!!
『東ブロック最有力優勝候補『闇の王と骨の従者』徹底解明!! ミステリアスなその素顔に迫る!!』
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日刊DANGEROUS!!ライター TORAKICHI
2021/6/5 17:00
皆さん心の準備はOKですか? 総合エンターティメントサービス『C3ステーション』で現在配信中の【イグニッション・ユニオン】、熱い戦いが繰り広げられる今大会もいよいよ大詰め、6/7(月)には3回戦が行われる予定となっております! まだ全部追い切れていないよという人もこの機会に視聴してみるのはいかがでしょう!
TORAKICHIによる2回戦総評記事はこちら!
『闇の王と骨の従者』の魅力って?
3回戦まで勝ち残ったコンビは皆猛者揃い。テクニカルな戦いで魅せる『ぱりなリサーチ事務所』、物議をかもす戦法で試合の度にファンとアンチを増やし続ける『AGAIN』、目立った実績が無いにもかかわらず二度のジャイアントキリングを達成した『ダフトパンク!!』。
そして編集部一押しの最有力優勝候補、『闇の王と骨の従者』です!
その魅力は何と言っても『ロサ・ネグラの魔眼』による多彩な技の数々! 見えないオーラを放ち、人間を骸骨騎士にして操り、果てには空間ごと消し飛ばす。本当に単一の魔人能力かと疑うほどの強力さであり、底が見えません。実力は参加者の中でも随一です!
『闇の王』こと村崎揚羽選手は超武闘派で有名な村崎組の二代目組長であり、その実力には納得しかありません。大会前インタビューでは村崎組の改革と健全化を掲げていましたが、大会での活躍から村崎組に依頼の受け付けを問い合わせる団体が続出! 実現する日は近いでしょう!
今回は特別企画としてこれまでの試合映像から今も尚ヴェールに包まれている『ロサ・ネクラの魔眼』がどんな魔人能力なのか、編集部総出で検証を行いました。すると驚くべき真実が!? 記事の後半で紹介しますのでお楽しみに!
独占インタビュー! ガートルード・ビアリストックがその強さを語る!
1回戦で『闇の王と骨の従者』相手に激戦を繰り広げた『アップダウンコネクション・フロムロンドン』のガートルード・ビアリストック選手。今回編集部は彼女からお話を聞くことが出来ました!
『彼らは強かったよ。大層な言動と能力の割に凄くテクニシャンで、慎重かつ最後まで隙の無い立ち回り。自信はあったんだがあれは完敗だ』
『だが後々試合を見返した時、私は思ったんだ。あの能力は見た目通りに受け取って良いものなのか? とね』
『最後の敗因は「次元の扉」とやらによって生まれた隙を突かれたことだ』
『まぁツクモの可愛い顔が見られたから私的にはとても満足だったんだが、あの「次元の扉」が未だに引っかかる』
『肉体の消失? そう言うには優し過ぎる代物だったよ。闇の王は相手への配慮も欠かさないらしい』
『私からはここまでにしておこう。彼らには勝って欲しいんだ。高い食事の代金、支払って貰わないといけないからね』
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イグニッション・ユニオン3回戦 2日前 村崎大亜別邸
「嘘だろおいおいおい……!!」
村崎大亜別邸に殆ど悲鳴に近い叫びが響く。村崎揚羽が握りしめているのは彼のスマートフォンだ。
「『闇の王と骨の従者』の特集記事が5件!? しかも記事の一つがバズってDuitterでトレンド入り……。最悪だ……」
うなだれて頭を抱える揚羽を横目に見ているのは椿だ。テーブルに頬杖をついて、やや訝かしんだ様子で口を開く。
「それの何が悪いのさ? 私達が注目を集めることは改革のための必須事項でしょ? 鷹岡社長にもあんな啖呵を切ってたのに」
「あ~~違う、そういうことじゃないんだ。ツバキの言うとおり『闇の王と骨の従者』が話題になって支持を受けること自体は大歓迎。問題はその内容っていうか」
そう言って揚羽は画面を椿に向けて見せる。そして、椿も納得したように頷いた。
……そして、揚羽のように彼女も頭を抱えて唸り始める。
「やっと言ってることの意味が分かった……。コイツはマズいわ」
「ああ、注目を集めているのは俺達の『魔人能力』なんだ。多少予想してたとはいえ、この流れは正直辛い」
画面に映し出された記事には影響されたのか「『ロサ・ネグラの魔眼』大解明!」「『ロサ・ネグラの魔眼』の正体は?」といった見出しがいくつも躍っていた。
『ロサ・ネグラの魔眼』は村崎揚羽と刃山椿のハッタリと演出によって成立しているものである。
見えないオーラを放ち、人間を骸骨騎士にして操り、果てには空間ごと消し飛ばす。そんな多彩な技の数々は、全て「透明化」と「キューブ」による偽装に過ぎない。
“闇の王”村崎揚羽を絶対強者として世間に印象付け、村崎組の改革を成し遂げるためには最後までこの偽装を貫かなければならないのだ。
故に、注目の方向が『闇の王その人』ではなく詳細を明かしていない『ロサ・ネグラの魔眼』に行くことは二人にとって大きな痛手である。他参加者に『闇の王と骨の従者』への疑念を与えてしまうことも都合が悪い。頭が切れる相手しか残っていないために尚更だ。
「こんなところでさぁ~~~!! 村崎組はずっとメディア戦略に無頓着だったから何とか出来そうなコネも無いし……」
「う~む、そんなまどろっこしい真似をする必要が無かったからのう。敵対勢力ぶちのせばブン屋が勝手に聞きつけて記事作っとったしなぁ。本当にすまん」
「仕方ねぇよ親父。俺もその辺りは分かってたから、さ……」
居合わせていた村崎大亜の言葉に揚羽は更に肩を落とした。画面に目を向ければ、記事に反応して『ロサ・ネグラの魔眼』への考察コメントが多数流れていくのが見えた。幸い真実に近づいている者はいない。しかし、訝かしむ者は一定数現れるだろう。
「どうにも作為的なものを感じるんだよな……。「AGAIN」の情報操作? 仙道ソウスケならこの程度やってのけてもおかしくない。でも、流れ自体にそこまで違和感は無い……。これだけで見破られるとも到底思えないし、自然発生か? いや、それにしては……」
揚羽の眉間に皺が寄っていくのを見た椿は、両手を鳴らし、揚羽の意識を引き戻す。
「はいはい、この話はおしまい。どうしようもないこと考えても仕方ないでしょ。さっさと切り替えなさい」
「……そうだな! 悪い、やっぱツバキがいてくれなきゃダメだな」
そう言って屈託の無い笑みを浮かべる揚羽を見て、椿は顔を赤くする。そしてツンと顔を逸らした。
「……そりゃどーも」
「ま~たいちゃついてるんデスかお二人さん」
音も無く現れたのは村崎組序列三位、下衆山根津太郎。驚いて体が跳ねたかと思うと、下衆山をギッと睨み付ける椿。向けられた視線を下衆山はひょろりと受け流すとそのまま口を開く。
「キヒ! 持ってきましたよ坊ちゃん~。『ダフトパンク!!』と交戦したっていう組員の証言とスクラップ場の監視カメラ映像!」
下衆山は手際よく資料を並べていく。村崎組の3次団体である『黒沼会』。東京の郊外を本拠地とし、村崎組の威光を盾に強盗などの犯罪行為を繰り返していたと聞いている。村崎組健全化のためには暴走する下部組織の統率は必須であり、揚羽も気にするところだった。だが、今回それが意外な形で繋がったのだ。
「若い魔人二人に組員が全滅させられたっていう報告は受けてたんデスが、坊ちゃんの言う通り探ったら見事にビンゴしましてねぇ~! かなり情報は集まったと思いますよぉ~!」
「ありがとうございます下衆山さん! 本当に大会が始まってからずっと手伝って貰っちゃって……」
「キヒヒ! あっしは坊ちゃんの作る新しい村崎組が楽しみで仕方ないだけでさぁ! そんなことより分析、始めちまいましょう!」
テーブルには更なる資料の山が積み上げられる。コマ送りで繰り返し流されるダフトパンクの試合映像。『闇の王と骨の従者』陣営は、今日に至るまで入念な分析と考察を行い続けていた。
「漆原トウマ。18歳高校生。メジャーリーガー漆原アキの弟であり、獲物も金属バット」「映像見た感じだと格闘技経験者では無いと思う。だけどかなり動けるから油断は禁物かな」
「魔人能力は『トップをねらえ!!』。指定したポイントに物体を引き寄せる能力」
「指定方法は血判。不意打ちの銃撃にも対応していたらしいから恐らく任意発動じゃなくてオンオフ切り替えるタイプ。ディック・ロングの蛇腹剣には発動してないし、手元から離れてる物体限定?」
「ツバキ、キューブはどうなる?」
「分からない。そこは実際試してみないと。引き寄せられる前提で考えた方が良いかも」
「うーん、かなり相性悪い相手だな……。今回は白兵戦主体で組み立てるか」
資料に載っている顔写真を確認する。気怠げな目が印象に残る少年。純粋な強さでは劣れど、それを機転や策で補おうとするタイプだ。だが、『ぱりなリサーチ事務所』や『AGAIN』のような搦め手のプロではない。どちらの試合でも対戦相手に正面から立ち向かっており、準決勝に残った4組の中では最も素直な戦闘スタイルの相手だろう。だからといって油断出来る相手などではないが。
「次、時雨ナミタ。18歳無職。黒沼会元構成員、時雨ハルヒコの息子。こっちは漆原トウマと違って近接戦闘は殆ど出来ない。基本的にサポートに徹してるけど、わりと躊躇無く突っ込んでくるから警戒は必須」
「魔人能力は『涙を飲んで生きる』。水に濡れた物体をスライム化させる能力。2回戦で触れた後に水をぶっかけてスライム化してたから、正確には濡れたらスライム化する『性質』を与える能力かな」
「水をばらまいて地面のスライム化、ペットボトルを有刺鉄線詰め込んで爆弾代わり、濡れた相手に触れれば一発で無力化。果てには限定的な不死身!? うお~~~!! 本当に面倒臭ぇ!!」
「いちいち唸るなっ!! ったく……」
揚羽に呆れつつ、椿は資料の文章に目を通す。そこである一文に目が止まり、声を上げた。
「ねぇ、この『時雨ナミタが3m超の巨人になった』っていうのは?」
「ああ、それは組員達の証言デスね。ダム湖に落ちたかと思ったら、巨人になって出てきて蹂躙されたとか何とか」
「だけど、1回戦と2回戦では殆ど見せてない……。強いて言うなら1回戦の最後の方にくらい? 使えばかなり戦力差を補えたはずなのに使わなかった理由は?」
「仮説としては『隠し玉として温存している』『かなり使い勝手が悪い』。俺は後者だと思う」
「その心は?」
「ダム湖に落ちてって言ってたろ? 多分巨人化のためには大量の水が必要なんだ。そして、今までダフトパンクが戦った場所にそんな量を確保出来るような水源は殆ど無かった。それは次の戦闘地形でも変わらない」
「なるほどね……」
思えばダフトパンクは水の確保に相当悩まされているようだった。『水族館』や『姫代学園』なら問題無かったのだろうが、『スタジアム』『トンネル』と水には無縁な場所ばかり。2回戦で大量の水を持ち込んでいたことなどが顕著な例だ。今回の『地下鉄』も条件はそこまで変わらない。故に、同じような戦法を軸にしてくるはず。
「一応懸念点として頭に入れておくか。それ以外は全部タネが割れてるものばかりだ。油断せずに詰めていけば大丈夫、こちらの有利に戦える」
揚羽は椿に向き合って、喉の奥から出た言葉を形にする。
「ここまで来れたんだ。俺達なら勝てる。勝つ」
「二人で掴もう」
短く、けれど確かな信頼が籠もった意思表明。椿はそれをしっかりと瞳に焼き付け、思う。
彼を絶対に勝たせてやりたい。
頭が良い癖に不器用で、色々なものを背負い続けて、椿のために体を張り続ける村崎揚羽を。
「言葉に工夫なさ過ぎてダサい。椿ポイント、マイナス60点~」
「はぁ!? せっかく決めたのに……! うわー恥ずかしくなってきた!」
赤面する目の前の少年に悟られないように、深呼吸で心臓の高鳴りをゆっくり抑える。
そして刃山椿は勝利を誓いながら、彼をからかうように笑ったのだった。
イグニッション・ユニオン3回戦 試合開始4時間前 帝国ホテルスイートルーム
漆原トウマはスマートフォンを操作し、とあるインターネットの記事を開いていた。
『東ブロック最有力優勝候補『闇の王と骨の従者』徹底解明!! ミステリアスなその素顔に迫る!!』
ガートルード・ビアリストックのインタビューに戦闘映像の徹底分析。最終的な結論が『闇の王の正体は宇宙人だった!?』という酷いものだったのはともかくとして、これらはダフトパンクにとって重要な分析材料となっていた。
日刊DANGEROUS!!に『闇の王と骨の従者』の特集記事を書かせたのは漆原トウマである。
トウマは漆原アキの仲介によりハーフ&ハーフ日本支部の面々と接触。彼らの協力を取り付け、そのコネクションを活用することで記事の公開と拡散にまでに至った。無論、相応の対価こそ要求されたが十分な効果を発揮しているだろう。
漆原トウマは情報戦のプロではない。スマートな方法で集めることなど不可能だ。それならば品質を問わず、ガムシャラに掻き集める。記者達の知識量と考察、Duitterでトレンド入りと共に膨れ上がっていく大量のコメント。選別を繰り返し、必要なものをピックアップしていけば十分に有用な情報を得られる。
「虎吉さん凄いね。Webライターやってるって聞いたから頼んだけど、ここまで話題になるのは予想外だ」
「まぁな。大して期待してなかったが、やるだけの価値はあったか」
「へぇ。前のトウマだったら、人の力に頼る事なんて絶対に嫌がっただろうに」
ナミタが記事を覗き込みながら皮肉っぽく言う。戦いを通じて肝が据わってきたのか或いは元々図太いタチだったのか、大会前とは大違いの態度だ。そして、変わったのはナミタだけではない。
「上品に勝ってられる試合なんて俺達には一つも無いからな。使えるものは全部使ってやるさ」
空港でニューヨークに帰る漆原アキを見送った時のことを思い出す。
「二回戦おめでとう。よくやったな」
「別に、褒められたくてやったわけじゃない。まだ2試合もあるんだ、浮かれてられるかよ」
ぶっきらぼうに吐き捨てるトウマを見て、アキは愉快そうな表情を浮かべた。
「お前ならそう言うと思ってたよ。だから、ほれ」
アキが何かを投げ渡す。トウマがキャッチすると、それは一枚の名刺だった。
『ハーフ&ハーフ日本支部代表 ディック・ロング』
「既に話は通してある。アイツならお前の力になってくれるだろうさ」
「うげ、よりにもよってあの変態のところかよ」
「ディックは良い奴だぞ? アイツとは出会ったときからかなーり気が合ってだな!!」
「……なるほど、変人同士は惹かれ合うっていう」
アキはけらけらと笑う。トウマはそんな彼を見て、呆れたような表情を浮かべる。
日常的だった兄弟のやり取り。こんな会話はいつぶりだったろうかとトウマは思う。
「正直、俺はお前のことを心配してたんだ。闘技大会に参加すると聞かされて、本当に何事かとも思ったしな」
「アンタが突然家飛び出して、知らないうちに海外行き決めてた時よりはマシだろ」
「うーん、耳が痛い! だが、問題はなさそうだな。名刺を素直に受け取ったのがその証拠だ」
「……ああ。やること全部やって、使えるもの全部使って、足掻くだけ足掻いてみるさ」
その言葉を聞いて、アキは強く頷いた。
そしてトウマに背中を向けて歩き出す。
「GOOD LUCK!! 男ならトップを狙えよ、トウマ!!」
偉大な兄はそう言って日本を去って行った。
「トップを狙え」その言葉の意味を今なら理解している。
漆原トウマは、もはや独りよがりに走る少年ではない。
「最終確認をするぞ」
書類を並べ、PCを起動する。無数に散乱した資料の数々。ダフトパンクの二人は分析に大量の時間を費やし、ひたすらに情報と向き合い続けていた。視点を共有し、議論を重ね、時には更に他者へ意見を求める。
全ては『闇の王と骨の従者』、超常の魔眼を操る強者に立ち向かうため。そして無数の情報は点と点で繋がって、ある一つの解答を導き出した。
「俺達の勝ち筋、それは『ロザ・ネグラの魔眼』が『ハッタリ』である可能性が高いことだ。そう判断した主な理由は三つ」
トウマは人差し指を立てる。
「一つ目。2回戦の試合中盤に村崎揚羽が見せた雨に対する反応」
ナミタがPCを操作し、動画ファイルを開く。
『フハハハ!この雨は能力か!?しかし!我が魔眼で消失させれば問題なし!!』
「これは村崎揚羽が残した明確な『ミス』だ。1回戦見てれば分かるんだよ。『無限葉の白詰草』が引き起こしているのは『気象災害』。雷や風は明確に脅威になるだろうが、雨自体はそこまでじゃない。しかも雨を消失させているのは死霊の騎士周辺のみ。本当に警戒してるなら守るべきは自分の方だろ?」
「『死霊の騎士が雨に濡れると不都合があった』、そう考えるのが自然だよね」
「ああ。だが、まだここまででハッタリと断定するのは不可能。『ロサ・ネグラの魔眼』で作った死霊の騎士が雨や水に弱い性質を持つ可能性もある。まぁ、それならそれで俺達には好都合だが」
トウマは人差し指に続き、中指をゆっくりと立てる。
「二つ目。1回戦試合中、『氷結の守護』発動した時の死霊の騎士の挙動」
画面一杯に死霊の騎士のグロテスクな姿が映し出される。『氷結の守護』によって、ガートルードの炎を消失させた時の映像を、死霊の騎士を中心にズームして解像度を上げたものである。
「ポイントは心臓の動き。炎の消失以前と以降で明らかに加速している。闇医者の鮎川さんにも確認を取ったけど、胸郭が極端に上下しているのも合わせて重度の火傷による過呼吸と脱水症状を起こしている状態に見えるって」
「ここから推測が立てられる。炎は消失などしておらず、ただそう見せかけているだけということだ。ガートルードもインタビューで疑問を呈していた。かなり非合理なやり方だが、『演出』だと考えれば説明がつく。にしてもよく気付いたなナミタ。流石女の尻ばっかり見てる奴は違う」
「うるさいよ」
「また、死霊の騎士にも疑問点がある」
ナミタの睨む視線をスルーしてトウマは語り続ける。
「『足跡』だ。改めて1回戦試合の映像を確認したが、土に残っている足跡の形状に違和感がある。本当に骨人間ならばもっと特徴的な足跡が残ってもおかしくないはずなのに、一個も見当たらない。まるで『靴でも履いてる』みたいにな」
「これらから総括して、死霊の騎士は見掛け倒しの可能性が高い。『闇の王』が作り出した怪物ではなく、生身の人間が演じているというのが俺の推測だ」
そして、トウマの薬指が立てられる。
「三つ目、『空間切除』の存在」
『これでも! そう言えるか!? 空間切除!!』
揚羽が目を輝かせた瞬間、揚羽の直線状の海水が消え去り、海底が剥き出しとなる。映像はそこでストップ。海面を中心に映像を拡大し、スロー再生を行う。
すると、一つ明らかになることがあった。
「海を割ったにも関わらず海面が静か過ぎる。本当に海の一部を消失させたって言うなら、開いた空間を海水が埋めるように押し寄せるはずだ。波の一つも立たないなんてことがあるか?」
「加えて『空間切除』は2回とも脅しにしか使われていない。本当に強大な威力があるなら何故行使しない? 自身が勝てないと認めた呪物ゴーレムにすら札を切らないのは流石に引っかかる。『空間切除』ほどの威力がある技を試す前に正面突破を諦めるほど、俺には村崎揚羽が短慮であるようには見えない」
「よって『空間切除』には実態が伴っていないという推測が立てられる。己の強さを誇示し、相手に過度な警戒をさせるための手段だ」
トウマは3本の指を全て折り曲げる。
「疑う主な理由としてはこんなものか。確信とまでは行かないが、大体偽装だろうな。村崎揚羽の魔人能力は恐らく視覚を騙す能力。映像にも反映されるなら光の屈折とかか? ガートルードの違和感は消失する感覚が無いにもかかわらず、見掛け上は消失しているように見えたことが理由だ」
「それなら『深淵の波動』が物理的な威力を持っていたのは何故? あとは空中浮遊にも説明がつかない」
「死霊の騎士、刃山椿の魔人能力がまだ分かってないだろ。未だに温存している可能性もあるが、『深淵の波動』を隠れ蓑にして刃山椿の魔人能力を使っているって方が納得いく。空中浮遊に関しても、村崎揚羽の能力が推測通りならば見せかける手段はいくらでもある。1回戦試合の序盤にわざわざ木を消失させているのも不自然だったしな」
その言葉にナミタは頷いた。大量の時間と手段を費やした分析の総決算。これらが全て正しければダフトパンクは大きなアドバンテージを得るだろう。だが、同時にあるリスクも抱えている。
「……もし、僕たちの考察が全て的外れで『ロサ・ネグラの魔眼』が或いは本当に規格外の力を持つ魔人能力だったら?」
「そうなったらどうしようも無いな。俺達の準備は全部無駄だったってことだ」
トウマは肩をすくめて笑う。
「けど、やることは変わらねぇよ。空間ごと消し飛ばすのが何だ。忘れっぽい天使・リンの現実改変もディック・ロングの貫通攻撃も一歩間違えれば敗北確定のクソゲーばっかりだった。この程度の戦力差、今更だろ。今回はハッタリの可能性があるだけ遙かにマシだ」
「あ? 誰か俺のこと呼んだか?」
その時、スイートルームのドアが開かれて巨大な陰茎が顔を出す。
「坊主、そろそろ時間だ。”一気に中出し”大作戦の最終段階だろ」
「勝手に変な名前つけるんじゃねぇよ!! すぐに追うからさっさと行ってくれ……」
「はっはっは。お前らには勝って貰わんと困るんだ。気ィ抜くなよ~」
手をひらひらと振りながら陰茎男が去っていく。トウマは深いため息をつき、だがすぐに真剣な表情を浮かべる。
これから行うのは今回の戦略の要となる仕込みだ。既にハーフ&ハーフ日本支部の面々が先行し、準備を行っている。
東京都内を流れる、この場所から最も近い一級河川。
行き先は『多摩川』。
『ダフトパンク!!』が持つ最大の切り札をここで使う。
ガムシャラに走り続ける少年達は静かに視線を交わし、自分たちの勝利を誓った。
Something's in the air!!
———Who is that?
Something's in the air!!
———Who is he?
Something's in the air!!
———Who are they?
TEAM "DAFT PUNK !!"
3rd session……
【Episode:03- あなたは蜃気楼】
———feat. King of darkness & Bone servant
イグニッション・ユニオン準決勝 戦場:地下鉄
準決勝 第2試合
闇の王と骨の従者 VS ダフトパンク!!
東京メトロ大手町駅。東京都内最大の地下鉄ターミナル。
大手町日本屈指の金融街であり、多数のビジネスマンを送り届けるために多くの路線が乗り入れ、休み無く人の流れを動かし続ける中継地点。
かなり入り組んだ構造をしており、まるで迷宮の如き様相となっていることで有名だ。
転送されて大手町駅に降り立った村崎揚羽と刃山椿。
比較的広い中央エントランスに陣取り、”闇の王”村崎揚羽は高らかに叫ぶ。
「勇敢にして無謀な若人よ! この”闇の王”村崎揚羽への謁見を許そう。とくと現れ、跪くが良い!」
「それとも不意打ちでも仕掛けてみるか? この我に、いかなる攻撃も通用しないことを教えてやろう!」
村崎揚羽の声が構内に反響する。
その隣では透明化した椿が刀に手を掛け、揚羽の死角も含めて周囲を警戒していた。刃山椿の魔人能力『PSYCHO=LAW』により生成したキューブも控えており、いつでも動かせる状態となっている。不意打ちへの対応は万全。例え相手がバイクを持ち出そうが容易く止めてみせる。
しばらくの沈黙。反応は無し。配置された場所が離れているのか、或いは警戒して隠れ潜んでいるか。
(どうするアゲハ。こちらから探しにいくか?)
(いや、出来ればここまで相手を引っ張り出したい。空間切除で圧力掛けてみる)
揚羽は大げさに見回し、そして分かりやすくため息をついてみせる。
「出て来ぬというのならば仕方あるまい。我が『ロサ・ネグラの魔眼』の前には、怯え逃げ惑うことなど無意味である!」
揚羽の瞳が紫に光る。駅の構造は頭に叩き込んでいる。最もボロがでなさそうな場所を選び、そちらに向けて手をかざす。
「刮目せよ! これが我の空間……!!」
(アゲハ!!)
マイク越しに椿が小声で遮って止める。揚羽は咄嗟に、何かを感づいて止めたかのような演技を入れながら警戒する。
違和感の主はすぐに姿を現した。
「WUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU」
グチャリ、グチャリ。重厚感のある奇妙な足音が響く。
人間のものとは思えない異様な唸り声が聞こえる。
エントランスとホームを繋ぐエスカレーターの列。そこから這い上がってくるかのように、
否、空間を埋め尽くすように!!
泥の如き不定形の巨人が現れる!!!
(うっっそだろ!?)
可能性は低いと断じたナミタの巨人化に揚羽は動揺を隠せない。しかも3mどころの話ではない。目視でも推定10m超はある異常なサイズだ。全身は泥水のように濁り、水と一緒に吸い込んだのか、見れば大量の瓦礫やゴミが肉体の各所に含まれている。立ち上がることすら出来ず、這いずるように進んでいる有様。どこまで水を吸収すればあそこまでの規模に至るのか。
(どこにそんな水源が……? しかもこの短時間で……? まさか!)
水源が無くとも可能な方法が一つだけ存在する。
時雨ナミタは試合開始『前』に、大量の水を吸収することで巨人と化したのだ。
ルールには一切抵触しない抜け穴。この方法ならば戦闘地形の水源に左右されることもない。
(想定が一気に狂った!! 状況が悪い……!!)
動揺を顔に出さないように堪え、揚羽は闇の王として威厳を保った姿で巨人に向かい合う。
「随分と待たせてくれたな若人よ! 醜い姿を晒してでもこの”闇の王”に挑む気概、評価してやろう!」
巨人が腕を振り上げ、二人を薙ぎ払わんとする。対処するのは当然椿!
「深淵の波動!! 死霊の騎士!!」
揚羽の瞳が再び紫に染まる。加速するキューブによって腕を受け止め、透明化を部分解除されて死霊の騎士と化した椿が渾身の居合いを放つ。
振り抜かれる日本刀。それは確かに大木の如き巨人の腕を捉え、切り落としたはずだった。
しかし、切断箇所は瞬く間に消えていく。巨人はそのまま大きく腕を振るって椿を狙う。
椿は大きく後方に飛び跳ねて退避。即座に小型マイクを起動。
(ヤバい、アゲハ。ぶった斬った感触あるのに落ちない)
(多分2回戦で見せた能力応用だ。スライム化してるなら切り落としてもくっつけられる)
(斬撃は無効ってこと? うへぇ、かなりキツい)
(今は時間を稼ぐ。キューブをこちらに!)
(了解!)
巨人の対の腕が振り上げられ、今度はアゲハに向かって叩きつけられる。
「その程度! 次元転移!」
直後、揚羽の姿が掻き消える。巨人の一撃は空振りに終わり、少し離れた場所に揚羽の姿が出現する。
トリックは実に単純だ。自身を透明化した直後、キューブに掴まって高速移動。間一髪で回避した後に再び離れた場所で透明化を解除。これによって瞬間移動したかのように見せかける。
「”闇の王”にこの程度造作もないわ! 巨人よ、戯れに遊んでやろう!」
「WUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU」
挑発に反応したかのように、巨人が唸る。体を引き摺るように前へ進みながら、アゲハめがけてその両腕を突き出して掴み取らんとする。
再び姿を消して上空に回避! キューブに乗ったまま空中で姿を現し、余裕の笑みを浮かべる。
(ああキツいキツいキツい!! 一歩ミスれば終わりかよ……!!)
心の中で悲鳴が止まらない。必死にそれを堪え、押し殺し、己を”闇の王”たらんと鼓舞し続ける。
揚羽と椿に余裕など一切無い。魔人能力『涙を飲んで生きる』によって大量の水を吸収して己の体を極端に肥大化させたナミタは、呪物ゴーレムと異なり『人間』の範疇である。
故に、『PSYCHO=LAW』の『人を直接傷つけることが出来ない』制限によりキューブでの攻撃は不可能。主要な攻撃手段であった椿の居合いすら完全に無効化されている。相性は極めて悪い。
しかし、同時に揚羽には一つの勝算があった。監視カメラの映像によれば、巨人化したナミタは暴れ回った後、力を使い果たすかのように巨人化を解いていた。
このことから揚羽は『巨人化には相応の消耗が伴う』『持続時間には制限が存在する』と推測。
こちらが余裕であるかのように見せ、敢えて回避に徹していると思わせることで”闇の王”の体面を保つ。そして巨人の消耗を誘い、能力解除したところを確実に狙う!
(勝ち筋はこれしかない……! 気張れよ俺!)
己を偽る仮面を被り、村崎揚羽は舞台の上で”闇の王”を演じ続ける。
その仮面の裏側が既に暴かれていることを、彼はまだ知らない。
準決勝 試合開始より15分経過。
試合は膠着状態のまま推移していた。
狭い戦闘地形と圧倒的な質量を武器に攻め立てるナミタ。
それを『次元転移』と『深淵の波動』を駆使して軽々捌いていく揚羽。
二人は攻防を重ねながら移動を繰り返し、やがてエントランスからホームに戦場を移していた。
「どうした? 貴様の力はこんなものか、巨人よ」
余裕の笑みを浮かべながら、”闇の王”村崎揚羽は巨人と化したナミタに対峙する。
「WUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU」
巨人は唸りを上げ、何度も拳を振るう。だが、動きが鈍くなってきているのは明白だ。再び姿を消し、キューブで上空に逃げた揚羽を捉えられず空振り。負担が大きくなっているのは間違い無い。維持しきれなくなるのも時間の問題であろう。
(アゲハ、呼吸が乱れてる。一度整え直して)
(……ああ、分かった)
同時に揚羽もまた、かなりの消耗を強いられていた。一方的に攻撃を受け、回避し続けることによる肉体的及び精神的な疲労。また、自身の行動に合わせた能力の連続行使が疲労に拍車を掛けている。
椿に仕込まれた田宮流独自の呼吸法によって負荷を軽減し、表面上は余裕を保つ揚羽。静かな、だが苛烈な消耗戦。体力を奪い合い、どちらかが屈するまでこの状況は終わらない。
(漆原トウマは?)
(ダメ、全然見つからない。キューブもまだ使えてるし、本当にいないのか?)
(別行動中? 全く意図が分からない)
(警戒は続けておく。アゲハは集中)
(了解、頼むツバキ)
一向に姿を現さない漆原トウマという不安要素を抱えながらも、消耗戦はピークを迎えようとしていた。
突如巨人が両腕を地面につく。そして僅かに震えたかと思うと、体を脱力させて動きを止める。
(来た、活動時間の限界!)
(ナミタが元に戻ったら速攻で切り伏せるぞ! 漆原トウマが何かする前に終わらせる!)
(らじゃ!)
「ふはははは!! もう終わりか! 来い、&ruby(スケルトンナイツ){死霊の騎士}!」
椿の透明化が解除され、再び現れ出でるは死霊の騎士。左手に鞘を握り、右手は刀を掴む。田宮流居合抜刀の構え。必殺の一刀をいつでも放てる状態でじりじりと巨人に近づいていく。
「WOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!」
間もなくその時はやって来た。
しかし、揚羽には一つの見落としがあった。
消耗故、『ナミタの巨人化』という想定外に遭遇したが故、或いは両方であるのだろう。
『涙を飲んで生きる』によって吸水性を与えられた物体が、能力解除された時どうなるのか。
答えは一つ。
ホームに、時雨ナミタが吸い込んだ水の全てが放出される!!
「ッッ!!!」
椿は咄嗟にキューブを浮上させ、揚羽を乗せて濁流の外に飛ばした。そして己は洪水の如き奔流と瓦礫に押し流され、飲まれていく。
(ツバキ!? 大丈夫か!?)
(問題無い! すぐ戻……ザザ……耐……ブツッ)
浸水による小型マイクのショート。状況は更に悪化した。だが、相手も大きな隙を晒している状態だ。村崎揚羽は即座に冷静さを取り戻す。己のやれることはただ一つ。椿が復帰するまでの時間を稼ぐ!
「我が従者を押し流すか、この”闇の王”村崎揚羽を相手に貴様もよく足掻く!」
揚羽が萎んでいくナミタに対して手をかざす。同時にカラーコンタクトの透明化を解除、瞳を紫に輝かせる。
「時雨ナミタ! 貴様には降伏勧告などふさわしくないな! 光栄に思え! この我の一撃を以て貴様を『介錯』してやろう!」
叫んだのは小型マイクが故障した場合に備えた、揚羽と椿の間でのみ通じる符号だ。『介錯』は、相手に接近して斬れという指示を意味する。近接型魔人のタフネスなら復帰にそう時間は掛からないだろう。”闇の王”の仮面を維持し、己の余裕と戦況有利を演出しながらタイミングを見計らう。
村崎揚羽のリカバリーは完璧だった。
しかし、同時に揚羽は絡め取られていた。ダフトパンクの仕掛けた罠によって。
漆原トウマの魔人能力『トップを狙え』は『意思の無い運動』を血判に引き寄せる能力だ。
落下物や投射物に限らず、生物の無意識の動作までも引きつける。
そして、巨人化したナミタには血判が密かに仕込まれていた。
揚羽と椿は血判によって『無意識の視線と注目』を奪われ続けていたのだ。
そして、それは二人の警戒に穴を生んだ。
萎みゆくナミタの巨体、それを乗り越えて現れる一つの影。
『ナミタの背』に張り付き、隠れ潜んでいた漆原トウマが駆け上がってナミタの体を蹴り飛ばし、高く跳躍する。
狙いは当然”闇の王”村崎揚羽。
「なっ!?」
突如現れた漆原トウマの存在。完全に不意を突かれ、驚く表情を見せる揚羽。トウマは”闇の王”に防御の隙は与えない、『出来るはずが無い!』
「クリーンヒットだ!!」
空中でトウマは金属バットを振り抜く。
本来ならばこれは無謀な行動だ。『深淵の波動』による攻防一体のオーラ攻撃や『次元の扉』による肉体消失を行使する相手に特攻まがいの攻撃など愚の骨頂。今まで”闇の王”と交戦した者達全てにその思考は共通し、行動を抑制する効果を発揮していた。
だが、漆原トウマはこれまでの攻防で確信に至っている。
『ロサ・ネグラの魔眼』はハッタリであると!!
「ぐふっ」
渾身の一振りで顎を捉えられ、脳が揺らされる。キューブから吹き飛ばされて体が宙を舞う。
意識が朦朧とする中で、揚羽の視界は一瞬椿を捉えていた。
オレンジのストレートボブが似合う少女が、顔を真っ青にしてこちらを見上げている。
(まずい……透明化が解けて……)
必死に目を開き、透明化をかけなおそうとする。
だがその前に視界はぐにゃりと歪んで、
まるで空飛ぶ鳥が力を失うかのように、水しぶき村崎揚羽はホームに墜落した。
準決勝 試合開始より21分経過。
「……ハ! ……しろ……!」
(ああクソ……! 全身が痛ぇ……!)
ぐらりぐらりと頭が揺れる。耳鳴りが止まらない。呪物ゴーレムの猛攻は覚悟を決めて耐えられた癖に、急所に不意打ち一発喰らえばこのざまか。
完全に意識を失い、戦闘不能判定を取られるまでにいかなかったのは幸いだ。だが、少なくとも数分は朦朧としたまま座り込んでいた事実。
「……ゲハ!! ……ゲハ!!」
(状況は……どうなって……)
歪んでいた視界が明瞭になっていく。そこに映っていたのは、
「アゲハ!! しっかりしろ!!」
揚羽を守るように立ち塞がり、トウマと切り結ぶ椿の姿だった。
振るわれた日本刀と金属バットがかち合って火花を散らす。短く握った手数重視の振りで攻め続け、隙あらば即座に持ち替え大振りの打撃を狙うトウマ。
それを捌き続け、返しの刀を繰り出す椿。トウマは金属バットで受け流し、更にカウンターの打撃を叩き込む。
椿は回避せず、日本刀を切り返して受け止めた。明確に響いてくる獲物の重量差。己の筋力で無理矢理押し返し、鞘に納めて居合の構えを取る。
しかし、直後に椿は姿勢を崩す。
「なっ!?」
トウマの後方に控えるナミタが地面に手を置き、椿の足元をスライム化したためだ。軌道がブレた斬撃をトウマはサイドステップで間一髪回避、そのまま踏み込んで頭部を狙った一撃を放つ。
「……ッ!!」
ギリギリのところで椿は金属バットを受け止める。始まるのは鍔迫り合い。スライム化しておぼつかない足元と相手の重量が牙をむく。追い詰められているのは椿の方だ。
(こんなに動けるなんて聞いてない……!! いや、違う……!!)
村崎組序列二位”切り込み椿”。若年ながら超武闘派魔人集団のナンバー2までのし上がった実力は伊達ではない。間違い無く『達人』と呼ぶに相応しい域にあるだろう。
それにも関わらず、漆原トウマに苦戦を強いられる理由がいくつか存在する。
トウマが村崎揚羽を狙い続け、椿がそれを阻止する防戦の構図となっていること。ナミタがトウマの強烈な一撃を喰らってダウンしたアゲハより早く復活し、そのまま二対一の構図になっていること。そして、
(何……? この違和感……!)
漆原トウマは、時雨ナミタが多摩川で水ごと吸い込んだ瓦礫の一部に予め血判を仕込んでいた。水の放出と共に周囲に散乱し、ランダムに配置される血判。
それらが刃山椿の『無意識の動作』を引きつける。
即ち、「視線」「踏み込み」「立ち位置」「構え」「振り」他剣の技術全て。
『意識せずとも完璧に行える』ほどに熟達しているが故に漆原トウマの血判は機能し、確かなズレと精度低下を引き起こす。
加えて、『闇の王と骨の従者』陣営は漆原トウマの血判が『意思のない運動』しか引き寄せられないことを知らずに居る。椿の意思で動くキューブには効果を発揮しないが、未だ対象となる可能性を警戒する椿は魔人能力を使えない!
恐るべきはここまでの不利な条件を背負って尚、互角以上に戦い揚羽を守り続ける刃山椿。
だが、限界は間違い無く近づいていた。揚羽のサポートのためキューブを動かし立ち回り続けた椿に対し、隠れ潜むことで体力を温存していたトウマ。少しずつ押し込まれ始め、椿はじりじりと後退する。
(どうする……どうすれば良い!)
霧が晴れていく思考を回転させ、己が取るべき行動を算出する。
(今は椿の支援を!! それで状況を立て直す!!)
「死霊の騎士よ退け!! 深淵の波動!!」
トウマと鍔迫り合いを続ける椿に対し、咄嗟に手を伸ばして透明化を行使する。
突如目の前で椿の姿が消える。
死霊の騎士を退避させて深淵の波動で狙っているかのように演出、この隙に透明化した椿がトウマを切り伏せる!
「……なるほどな」
だが、トウマが焦る様子は無い。
トウマは、即座にバットを構えて防御した。
金属同士がぶつかり合う音が響く。透明化した上で放たれる、必殺の居合を受け止めていたのだ。
(読まれた!? まさか)
そのままトウマは大きく後方に飛び退く。そして、大声で叫んだ。ナミタだけでなく、この場にいる全員に聞こえるような声で。
「ナミタ!! 俺達の予想通りだ!!」
「世界に干渉する魔眼なんてものは存在しない!! 『ロサ・ネグラの魔眼』の正体は『透明化』だ!!」
「ッ!!?」
揚羽は必死に動揺を飲み込んだ。そして、己のミスにも気がついた。
まだ椿の姿が元に戻るくらいなら『死霊の騎士の支配が解けてしまった』などと言い訳が出来ただろう。
だが、椿を助けるための透明化。あれは明らかな失策だ。足下に広がり、くるぶしほどまで溜まっているナミタが放出した大量の水。
トウマは水面の動きから、椿がその場から消え去っていないことを確かめたのだ。
(水面ごと透明化するべきだった!! 何で気付かなかったんだよクソッ!!)
揚羽は立ち上がり、必死に叫ぶ。
「ほざくか漆原トウマ!! この“闇の王”の魔眼を偽物だと!!」
「なら撃ってみるか? 『次元の扉』に『空間切除』。その力で俺を止めてみろ」
「……ッ!!」
揚羽と椿に一歩ずつ迫る漆原トウマ。もはや彼らに”闇の王”村崎揚羽の虚像は通用しない。
いや、それよりも前から通用していなかったのか。本当に『空間切除』を恐れていたのならば、当たる面積の広い巨人化など使ってはこないはずだ。
わざわざそれを大声で叫び知らせたのは、揚羽の精神的動揺を誘うため。
自分たちと同じように、相手も徹底的にこちらの分析を行っていたのだろう。既に見破られていた事実を揚羽は噛み締める。
『闇の王と骨の従者』にとって、『ダフトパンク!!』は初めて明確に『格下』と言える相手だった。今まで格上と戦い続けて、それを常に想定してきた二人は己の立場が逆転したことに気づけなかった。今や『攻略する側』ではなく、『攻略される側』にあることを。
戦力差を覆すため、あらゆる手段を駆使して勝利に執着する『弱者』と戦うということを。
実力も経験も何もかもが足りないことを知った彼らが、『闇の王と骨の従者』という難敵に対して研ぎ澄ませてきたその牙を。
(どうするどうするどうするどうする!!?)
思考を焦燥感が支配する。”闇の王”を演じなければ、村崎揚羽は『透明化』を行使出来るだけの非力な魔人だ。加えて椿も今までの戦闘で消耗している。相手は椿と互角に打ち合える魔人。更にこちらの手の内を把握し、自らに有利な地形を作り出している。『PSYCHO=LAW』を無力化してくるのも最悪だ。
『ダフトパンク!!』という存在が揚羽の中で無制限に肥大化していく。己が”闇の王”を強大な力の持ち主として演出していたように、揚羽は実物以上に二人の力を過大評価して恐れていた。
心の隅では理解していても、どうしても止めることが出来ない。
漆原トウマが迫る。”闇の王”の虚像を喰らい尽くした男が武器を構えている。
何が出来る? 今の無力な村崎揚羽に何が?
どうする!!
どうする!!!!
どうする!!!!!!
「アゲハ!! 『蜃気楼』を!!」
その言葉は揚羽を反射的に動かした。
自身と椿に対して透明化を発動。その場から姿が消失する。
「逃がすか!!」
トウマは踏み込んで急加速し、金属バットを振るう。しかし捉えることは叶わない。
ポチャリポチャリと水面に波紋が浮かぶ。透明化した二人が逃げているのだろう。次々と生まれる波紋は列をなして階段への道筋を作っていく。
「トウマ!」
「いや、いい。追いかけるのは悪手だ」
波紋が消えるまで見届けたトウマはナミタの方を振り向く。
「透明人間を相手取って鬼ごっこするほど馬鹿じゃない。ここを動かずに待ち構える」
「向こうが出て来なかったら?」
「24時間経てば勝敗は判定で決まる。そうなれば勝つのは間違い無く俺達だ。まぁ、向こうがそんな真似をするとも思えない。すぐ戻ってくるだろ」
そして、柔らかい笑みを浮かべたトウマは握り拳を作ってナミタに向けて差し出す。
「良い仕事ぶりだった。最後まで気張れよ、相棒」
「うん、勿論」
二人は拳を突き合せる。
イグニッション・ユニオン 準決勝 『闇の王と骨の従者』VS『ダフトパンク!!』
決着の時は近い。
準決勝 試合開始より26分経過。
薄暗く狭い通路を一組の男女が駆けていた。ボロボロになった”闇の王”村崎揚羽と”骨の従者”刃山椿。絶対強者を演じ続けたこの二人が、今無残にも背を向けて逃げ出している。
「……うん、追ってきてない」
背後を確認した椿の言葉を受けて、二人の透明化が解除される。
糸が切れたかのように揚羽と椿は壁にもたれかかり、激しい呼吸をする。どこまで逃げたのだろうか。それすらもろくに把握出来ていないほどに余裕が無かった。
「……『蜃気楼』、透明化して一時退避の符号。あれが無かったらヤバかった、悪い」
「いいよ、気にすんな」
再び沈黙が場を支配する。早く打開策を話し合わないといけない。なのに、喉の奥から言葉が出ない。
「……ちくしょう」
揚羽がぽつんと零した。
情けなくて、情けなくて、情けなくて仕方なかった。
簡単なことではないと言いながら、どこかで心の片隅で信じ切っていた。己が描いたシナリオ通りに全て進み、自分と椿が望んだ未来を得られるのだと。
それが今やこれだ。”闇の王”村崎揚羽の仮面は無残にも剥がされ、道化に成り下がった。
『…確かにそれなら大いに盛り上がるだろう…だけど、それでもし“闇の王”が敗れることがあったら、馬脚を露わすことがあったら、反動を大きく受けるのは君ではないのかね?』
『それもエンタメってことで!強そうに見せていたガキが派手に負けて正体を晒す、そういうの、皆スッキリするでしょ?』
大嘘つきの言葉だ。覚悟の一つも出来てなかった癖に。負けることがこんなにも怖いことだと知らなかった癖に!
自分たちに協力し、信じてくれた人達を裏切ってしまうのが怖い。
“闇の王”を演出する目論見が潰えてしまった今、この先どうなってしまうのか分からないのが恐ろしい。
底なし沼に絡め取られるような感覚。確かにあったはずの道筋を完全に見失った。絶望感が己を支配していく。
「ちくしょう……!!」
「ねぇ、アゲハ」
揚羽が顔を上げる。椿が覗き込むようにこちらを見つめていた。互いの視線が重なり合う。揚羽はそれに耐えられなくなって目を逸らした。
「どうせ『俺はダメだーもうおしまいだー』って考えてるんでしょ」
「…………まぁ、そう、かも」
「はぁ~~~これだからバカアゲハはバカアゲハ」
呆れたように肩をすくめる。
「正体がバレたから何? 何で諦めないといけない訳?」
「ツバキこそ、何言って……!!」
「”闇の王”はあくまで手段。当初の予定とは違ってくるけど勝ち上がって、優勝して、村崎揚羽の強さを見せつけられさえすれば先に繋げられる」
「ボロ負けして必死に逃げてきたところだろうが……!! 俺達の戦略は”闇の王”としてのハッタリありき! 『ロサ・ネグラの魔眼』の正体が暴かれた俺なんかに一体何ができっ」
「勝って優勝して!! 村崎組を真っ当な組織にするんでしょ!!」
椿が感情を露わにして叫んだ。
「約束してくれたよね!? 原宿でクレープ! 映画! ピクニック! 海辺のカフェでお茶するって!」
「ッ……」
「本当に本物の制服着てさ……!! 学校通って平和に普通に過ごせるって……!!」
椿は瞳に涙を浮かべていた。充血するほどに拳を握りしめて、強く訴えて。
「私に未来を見せてよ……!! アゲハならやってくれるって信じさせてよ……!!」
女傑と呼ばれるにはほど遠い、椿の内面の発露。彼女も年相応の少女なのだ。それをよく知っていたはずだ。
(ツバキが泣くところなんて、久しぶりに見た)
(ああ……本当に、俺は何をやってんだ!!)
その涙で全てが吹っ切れて、村崎揚羽は『覚悟』を決める。
揚羽はふらりと立ち上がり、顔の前に手をかざす。瞳を紫に染めて、
そして揚羽は叫んだ。
「ふははははは!! 何が世界に干渉する魔眼だ、そんな大層なものなど不要!!」
大げさなポーズで、大げさな言葉で、高らかに宣言する。
「限られた手札を駆使してこその強者!! 我が真なる能力を以て!! この村崎揚羽が!!」
己を鼓舞するように、最高にダサく最高に恥ずかしく、それでも格好良く。
「必ず勝利をもたらし、お前の願いを叶えて見せよう!! 刃山椿!!」
幼い頃に夢想したヒーローのように、二人の約束をもう一度口にした。
「だから心配するな、ツバキ。俺に任せろ」
「……大アホアゲハ。椿ポイントマイナス200点」
年相応の少年少女のように、泥まみれになった顔を突き合せて笑う。先のことを考えるのはやめだ。今目の前にいる彼女のために勝つ。それだけを考えて動く。
「返済は優勝後にしか受け付けないから」
「キッチリ耳を揃えて返してやる」
「ならばよしっ」
軽口を叩きながら二人は歩き出す。
イグニッション・ユニオン 準決勝 『闇の王と骨の従者』VS『ダフトパンク!!』
決着の時は近い。
準決勝 決着まであと僅か
「……来るぞ」
トウマは気配を感じ取り、金属バットを構える。
恐らく透明化を使っている。対処法は変わらない。水面の変化と周囲の音に最大限の注意を払うトウマ。
その直後、
二人が立っていた駅のホーム『そのもの』が消失する。
「なっ!!?」
周囲一帯をまとめてくり抜き、空洞にしたような異様な光景。『地下鉄』だというのに頭上には太陽が輝き、対して足元は底が見えない奈落だ。まるで空中に浮いているかのような錯覚。だが、踏みしめれば確かな地面と水の感触がある。
(地形ごとまとめて透明化!? 効果範囲が広すぎる……!!)
村崎揚羽の魔人能力『ロサ・ネグラの魔眼』もとい『透けルンです』。
その効果射程1km、条件は目視と極めて軽く、タイムラグも存在しない。持続時間こそ10分ほどだが重ねがけによる延長が可能。
『透明化』に特化した異常な高性能を誇る魔人能力。
刃山椿が『武術家』として大会上位の実力を持つとすれば、村崎揚羽は『能力者』として参加者でも指折りの練度を誇る魔人である。
その彼がハッタリに頼らず『本気』で能力を行使するならば。
ナミタはいつでも能力発動可能な状態を維持。トウマは目視での補足を諦め、聴覚で相手を捉えんとする。
地形をまとめて透明化されたために、トウマの遠近感が狂わされる。周囲や足下の障害も把握不可能。殆ど機動力を奪われたようなものだ。
トウマは静かに金属バットを構える。水面を切り、周囲を回りながらこちらに接近する足音が2つ。恐らくは片方が囮、もう片方が本命。
見切るために思考を回転させろ。判断材料を掻き集めろ。打ち合った時に把握した相手の背丈と刀のリーチより、間合いと仕掛けるタイミングを推定。極限まで意識を研ぎ澄まし、最速のカウンターを狙う。
――トウマの背後にて足音が変わった!!
僅かな、だが確かな変化。立ち止まり、力強く踏みしめるような。それが意味するものはただ一つ。
「ナミタ!!」
即座にナミタは攻撃に巻き込まれぬよう地面に伏せ、同時に能力を起動させる。トウマとナミタが立つ位置以外の全域がスライム化。
明らかに何かが沈み込むような音。それによって方向を特定し、トウマは振り向きざまに全力の横薙ぎを放つ。
これは揚羽と椿がダフトパンクに対して仕掛けた罠であった。
変化した足音の主は刃山椿。居合の構えを取り、強く踏み込む予備動作。当然、トウマはそちらを『本命』と判断してカウンターを狙う。
それが誤算であった。
田宮流 演武 無刀抜き
刀を『持たぬまま』居合の構えを取って抜き放つ動作を行う技術。囮は刃山椿の方である。
では本命は? 刀の所在は如何に?
答えは決まっている。
(何が最弱だ。ここまでよくもやってくれたよ『ダフトパンク』)
(蜃気楼は無様に掻き消えて、”闇の王”村崎揚羽は完膚なきまでにボロ負けだ)
(だけど、俺にも意地があるんだよ)
(ただの村崎揚羽であろうが、負けたくない理由があるんだよ!!)
直後、トウマの肉体を揚羽が背後から刺し貫いていた。
(沈め!! 沈め!! 沈んでくれ……!!)
裏をかいた完璧なタイミングでの不意打ち。
揚羽はこの一撃に全てを懸けていた。
直後、揚羽の視界が反転する。
「!?」
軸足を払い、受け身すら許さないほどの早業で肉体を投げ飛ばす。
ローション柔術四十八手 こぼれ松葉
ディック・ロングの協力を得ることで習得した『隠し玉』。ここにきて初めて見せる技術に揚羽が対処することは不可能。
地面に叩きつけられる揚羽に対し、トウマは腹から血を溢れさせながらも金属バットを全力で振り抜く。
何故日本刀で刺し貫かれた漆原トウマが動けるか。
端的に言えば、剣術の素人である村崎揚羽に『意識的に狙った箇所を突く』ことなど不可能だったからだ。達人とは異なる理由で、どうしても『無意識』の領域は発生する。
故に決死の一撃は『血判』の引き寄せる対象となって位置をズラされ、急所を外れた箇所を貫いた。
当然それでも重傷ではあったが、『近接型魔人』のタフネスならば十分に行動可能。
複数の要因が重なり合い、トウマは最後の一撃を凌ぎきる。
(ああ、クソ……!! 何で耐えきるんだよ……!!)
トウマの一撃が目の前に迫る。走馬灯のように様々な思考が泡のように生まれては消える。
力を尽くし、それでも叶わなかった。”闇の王”としての虚像ではなく、初めて村崎揚羽としてこの戦場に立った。勝つこと喜びを知った後に、負けることの恐怖を知った。
そして、
椿の顔が思い浮かんだ。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
揚羽は咄嗟に上体を起こし、拳を繰り出していた。
絶対に諦めたくなかった。絶対に勝ちたかった。
全身全霊のクロスカウンター。一発逆転の僅かな可能性に望みを賭けて、
トウマの振るった金属バットは、揚羽の顔面を捉えていた。
アゲハの振るった拳は何も捉えることが出来ず、ただ空を切った。
透明な奇跡は、狂おしいほど望んでもその手に届かない。
意識は急速に失われ、視界が黒に染まっていく。
“闇の王”としてではない。ただ一人の魔人として己の全てを賭けた村崎揚羽の戦いは、
こうやって静かに終わりを告げたのだ。
———3rd Session is over!!
【Winner: ダフトパンク!!】
Finisher:村崎揚羽、意識喪失による戦闘不能———
二回戦 終了後 村崎大亜別邸にて
試合を終えて、村崎揚羽と刃山椿は元の場所に転送される。
そこには、下衆山と村崎大亜が二人を迎えるかのように立っていた。
「キヒヒ!! お疲れ様ですよ、お二人さん」
労うように下衆山はタオルを差し出す。それを受け取りながら、アゲハは呟く。
「ごめん、俺達の負けだ」
「ええ、勿論存じてますよ。見事な負けっぷりでしたねェ」
「ぐふっ」
下衆山の率直な言葉がグサリと刺さる。隣で大亜が大声を上げて笑った。
「ガハハ!! だがよくやったのう、揚羽。お前はよくやってくれた」
「は? 何でだよ親父。俺達は負けて、その上”闇の王”のハッタリまで全部」
「その上でお前さんはよくやったと言っとるのだ。見てみぃ」
集まっていたのは村崎組の幹部達だ。それを見て、揚羽は顔を真っ青にする。
「親父!? 嘘だろ、まさか俺報復されるんじゃ……!!」
「「「「「お疲れさまっした!! 二代目!!」」」」」」
屈強な男達が揃って揚羽に対し、深く頭を垂れる。そこには恐怖による支配ではなく、確かな敬意が込められていた。揚羽はポカンとした表情で眺める。
「あの試合で揚羽、お前さんは自分の強さを十分に知らしめたのよ。”闇の王”だか『ロサ・ネグラの魔眼』なんてものに頼らなくともな」
「さぁ、村崎組はお前のものじゃ。好きなようにやってみせい」
大亜は揚羽の背中を強く叩き、幹部達の前に押し出した。
椿も立ち上がり、揚羽の隣に立つ。
「アゲハ」
「……ああ」
揚羽は確かな意思を瞳に宿し、語り出す。
「俺は、村崎組を真っ当な組織にしたい。無軌道な暴力と闘争を繰り返す今のままじゃダメだ。いつか必ず限界が来る、それにこのままじゃ救われない人がいる」
「だから俺は、二代目村崎組長の名の下に組織の改革を実行する!! 優勝して力を示しきることは出来なかったが、大会を通して村崎組に興味を示してくれた団体はかなりある。まずはそこを足がかりにして、改革の第一歩にする。暴力と犯罪に頼らなくても組織が回るように作り替える」
「今は納得出来なくても良い。だけど、俺を組長だと認めてくれるならどうか力を貸して欲しい!! よろしくお願いします!!」
「「「「「押忍!!」」」」」」
組長の揚羽が幹部達へ深々と頭を下げる姿に、椿はおかしくなってクスクスと笑みを零す。
少なくとも、彼らから組長として認められたのは間違いなさそうだ。
これからやることは沢山ある。村崎組を健全化し、世間にそれを認めて貰うために駆け回らなければならない。
この刀を抜くことも少なくなるか。出来ればそうであって欲しいと椿は願う。
「中々茨の道になりそうじゃん」
「一番難しいところは乗り越えたんだ。後は頑張れば何とかなるだろ」
村崎組の健全化。実現するのはとても厳しい道のりとなるだろう。
だが、その先に二人の願った夢、人並みの幸福を掴める未来があると信じて、
村崎揚羽は更なる一歩を踏み出した。
イグニッション・ユニオン
準決勝
戦場:地下鉄
闇の王と骨の従者
VS
ダフトパンク!!
勝者:ダフトパンク!!
To be continued