「あーゲーム作りてー。でも金足りない」
おれは高橋一鈴(たかはしいすず)。ゲームとパンダと女装を愛するどこにでも居る大学四年生。おれには今でっかい悩みがあった。
就職するのが嫌でゲーム会社を作ったのだが、機材とオフィスを購入した時点で資金が尽きたのだ!このままではニートになってしまう!
ちくしょう!美少女ゲーマーのCMで広告を集めるまでは上手く行ってたのに、美少女ゲーマーの正体がおれだと発覚した途端資金提供が止まった!世の中間違っている!
「兄ちゃんどうしたんだよ、会社立ち上げ時点で有り金尽きたみたいな顔して」
おれの双子の弟、大悟が声をかけてきた。重機と酒とエルフを愛する我が弟は既に大手建設会社に就職が決まっている。正直ウルトラ羨ましい。
「大悟、金くれ。二億でいい」
「真面目に働きなよ」
「おれは真面目だ。ゲームさえ作れたら借りた金は倍にして返すから!『アルカナヒーローズ』の体験版が大ウケしたのは知ってるだろう?」
「それは知ってるけど、オイラあんまりお金持って無いよ。こないだストロングゼロ買ったから財布二円しかないし。ホラ」
そう言って大悟は財布の中身を見せる。財布の中には一円玉二枚と広告入りのポケットティッシュ、広告内容は賞金五億のタッグマッチ予選会がおれ達の通う大学で行われるというものだった。
「あるじゃん金」
「え?」
こうして最強コンビ高橋ブラザーズが結成された。
「マッパスペシャル!」
「オゲエエエ」
「ゴシゴシー!」
「ストゼロミサイル!オゲエエエ」
「ゴシゴシー!」
ピチピチの女装姿から一瞬で全裸になり高速移動でアナルファックするおれと酒を飲む程強くなる大悟は大学での予選会を連勝。あっという間に決勝にたどり着いた。
なお、準決勝までに対戦相手や大悟がゲロを吐きまくった為、掃除のオッサンが大忙しだったが、些細な事である。そして、決勝の相手の片方はその掃除のオッサンだった。
「ゴシゴシー!俺の名はブラシマン!こことは異なる世界から来た転校生だっちゃ!」
「そして私はボギーマン。ブラシマンとは別の世界から来た転校生だ。我々は此度のタッグマッチに参加するある連中の驚異から人々を救う為に下転して来たのだーっ」
「下転?」
「何それ?」
聞き慣れない単語に首を傾げるおれと大悟。
「ウム、説明せねばなるまい!下転とは…」
ゴルフウェアのオッサンが説明してくれた。この親切さんめ!で、説明によると下転とは【ボギーマンとブラシマンのキャラクター設定を見てね!】という事らしい。ゲームに例えると、オッサン二人は元々はガチャ排出率0.5%以下の激レアキャラだったけど、今回のイベントに合わせて低レアの配布キャラになって登場したという感じた。
「なるほど、あんた等の事情は分かった。だか、おれも金がほしいから引けないなあ。まあ、二億くれるなら負けてもいいけど」
「ラフラフラフ、魅力的な提案だか、残念な事に大会中の滞在費しか持ち合わせが無い」
「しゃあねえなあ、だったらあんたらも、その危険な奴らもおれが倒してやるよ!くらえ、マッパスペシャル!」
おれは素早く全裸になりゴルフのオッサンの背後に回りそのままセックスの大勢へ!
「転校生としてのスペックを活かす事無く散れ!必殺おちんぽドリィィィル!!」
だが、おれのチンチンは後数センチで届かなかった。後一歩進めばいいのだか、その一歩が踏み出せない。
「ど、どうなってやがるーっ!両足が床に張り付いて一歩も動かねえ!大悟、助けてくれーっ」
「助けたいけどオイラの足も動かないよ兄ちゃん!」
「ゴシゴシー!それは俺の仕業だっちゃ!ブラシで擦った場所の摩擦力を自在に変える、それが俺の能力だっちゃよ!」
おのれ掃除のオッサン!大会中掃除しながら罠を作ってやがったのかよ!
「兄ちゃん、これ靴を脱げば動けるよ」
「でかした!だがおれは素足だ!」
くそっ、全裸になったのが裏目に出た!せめて靴を履いていたなら脱いで脱出できたのに…あ、おれ全裸だけど靴下履いたままだったわ。
「ボギーマン・ピッチングウェッジ・OBショット!」
「キンタマー!」
靴下の存在に気づくのが少し遅かった。おれが摩擦力マックスの床から抜け出そうとした時、ゴルフのオッサンのアプローチショットがおれのキンタマにクリーンヒットした。
「あーれー!」
床に靴下を残しておれは飛ぶ。飛距離はぐんぐん伸び、場外のラインを軽々越え、大学の外まで飛び出そうとしていた。
不味い!勝敗はもう決したからそれはいいとして、こんな格好で大学の外に出たら大悟の内定が消える可能性が!だが、おれの体は大学正門の前で急減速し、地面に着くと予選会場まで転がっていった。なるほど、バックスピンね。
「兄ちゃんお帰り」
「た、ただいま」
正門から予選会場までの数百メートルを転がったおれに圧倒的恥ずかしみが襲う。でも不思議と痛みはなかった。というかピッチングウェッジの飛距離じゃねえよこれ。そういう能力?
「ラフフフ、どこも怪我は無いかな?」
おれをふっ飛ばしたゴルフのオッサンが顔を覗き込んできた。近い。
「全裸で知らない人に見られて心が痛い」
「ついさっきまで、自らの意志で裸体を晒しまくっていたではないか」
「他人にやらされると恥ずかしいんだよ!」
「ラフラフラフ!これはすまない!サンドウェッジにしておけば良かった!」
こうして、高橋ブラザーズの夢は儚く散った。だが、転んでもただでは起きないのが起業家である。
「兄ちゃん!あの人達動画出てるよ!ボギーマンさんのバッグにも約束通りステッカー貼ってある!」
「よっしゃ!」
あの戦いの後、おれはあいつら『スポーツマンシップズ』と契約をした。あいつらは確かに強かったが、超越した存在だったが故に自分の情報は晒しまくるのに敵の情報には無頓着な部分があった。だから、おれが必要な情報をあいつらに提供し、その見返りとしておれの会社の宣伝をしてもらう事になったのだ。
「我々の目的はただ一組!あやつらをリングアウトする為に来たのだー!そして、『アルカナヒーローズ』正規版は間もなくサービス開始だ!」
「ゴシゴシー!このQRコードから登録できるっちゃよ!事前登録で魔法少女三人組ゲットだっちゃ!」
この大会にいるやばい奴らとかには正直興味無いが、あいつらには行ける所まで行って欲しい。応援してるぜスポーツマンシップズ。