新宿の夜は、少し暖かい気がする。なんとなく整頓されておらず、ちゃんとしていない人が多いように見えるのだ。
ちゃんとしていない人たちに囲まれていると、こんな自分でも生きて行けるのではないかと言う錯覚に陥ることができる。
短くなったタバコを、ちまちまと燻らせる。
何はともあれ、タバコはうまい。残金はあとわずかなのに、タバコを買ってしまうのはいかがなものかと思うが、この味で何とか生き延びているのも確かだ。浮かぶ煙を見つめていると、ままならない現実も一緒に霧散していくような気になれる。
もちろん、現実は変わらず目の前にある。今日も、誰かが自販機に忘れた釣銭で、夜を越えるしかない。どうにか生きる日々を、どれだけ繰り返しただろうか。これから、どれほど繰り返すのだろうか。
「仕事、あるかな」
重い腰を上げ、フィルターに火が移りかけているタバコを踏みつぶした。
かすかな期待を胸に、馴染みの仲介屋に向かう。合法非合法を問わず、仕事を探してもらっているのだ。
未成年の自分では、仕事も住まいもろくに確保できない。宿無しの家出少女が警察から逃げるため、どんどん日の当たらない世界に行くのは、自然の成り行きだった。
だけど、そこでも仕事は続かない。自分の性格のせいもあるし、“未成年の少女を求める仕事”を受けないようにしているせいでもある。
体を売るのは、尊厳を売ることだと思っている。誇りを持って生きていけないなら、死んだ方がマシなはずだ。
(それでも、死ぬのは怖いんだよな)
そんな簡単に、割り切れるものではない。
自分はまだ若い。これから先、いいこともあるかもしれない。ぼんやりとした希望が、尊厳を切り売りして生き延びることを促している。
自分で在るために家を出たのに、自分を殺して生き延びようとしている。
あまりにも滑稽で、もはや涙も出てこない。
“無料案内所”と大きく書かれた事務所に入ると、仲介屋と談笑する一人の男がいた。
その顔は、笑っているのに笑っていない。
その口からは、仲介屋を気持ちよくさせる言葉しか出てこない。
その立ち居振る舞いは、全てが不自然だ。
率直に、とても気持ち悪い男だと思った。
仲介屋は、アタシの姿を確認すると、男に視線を送った。男が、薄っぺらい笑顔のままアタシに向き直る。
「やあ、君がコトミちゃんかい。その服、格好いいね。どこで買ったの」
「アンタには、何も答えたくない。なんか気持ち悪い」
「ふふん、なるほど。そういうタイプなんだね。じゃあ、直球で言っちゃおうかな」
男は、握手を求めるように手を差し出した。
「君の魔人能力を知って、スカウトに来た。僕と一緒に、人をだましてお金を稼ぐ仕事をしないかい」
その時のアタシは、どれほど嫌そうな顔をしていただろう。
それでも、結局その手を取ったのは、自分の尊厳を捨てて生きるよりは、誰かを傷つけて生きる方がマシだと思ったからだ。
こうして、アタシ……英コトミと、仙道ソウスケは出会った。
ーーーーーーーーーーーー
それから、2年が経った。
ソウスケとアタシが中核となって結成した詐欺グループ“AGAIN”は、警察に捕まることもなく活動を続け、メンバーも収益も増やしていた。
新宿に構えた事務所は、それぞれ個人の机が用意されるほどの広さがある。喫茶店を転々としていたころに比べたら、随分待遇が良くなったものだ。
それぞれの机に座るメンバーは、携帯電話をスピーカーにして話すソウスケを見つめている。
ソウスケが、今まさに“仕事”の最終段階だからだ。
『20万円払ったら、確実に40万円返ってくるとか。そんな上手い話があるもんかねえ』
「いやあ、詐欺だと思いますよね。わかります。よく言われるんですよ。心配でしたら、私は大西証券の里中と申しますので、連絡を取って確認してください」
電話の相手は、人のよさそうなお爺さん。事前情報では、5年前に定年して、現在は日雇いの仕事を週4でしていると書いてあった。
ソウスケは、何一つ本当のことを言っていない。大西証券はこの辺りでは一番大きい企業だが、そこには所属していないし、ソウスケの名字は里中ではない。
そして、これは詐欺の電話だ。
『ふーん。でも、投資とかよくわからんからなぁ。20万も出していいものかねぇ。うちは、かみさんが金の管理をしているからさ』
ソウスケが、手元のメモにガリガリと文字を書く。
メモを覗き込むと、“自分が理解できないことは、否定する”。“決定権は妻”。“儲け話に興味ある”。“自分は賢いと思っており、そう思われたい”等と書かれていた。
今の会話だけで、ここまで人を分析できるものだろうか。アタシには、いまだにソウスケの思考回路がわからない。
「おっしゃる通りです。よくわからないものに投資するのは、気が引けますよね。でもこれって、実は単純な話なんです。これから株価が上がるところに投資をすれば、確実なリターンが入る。それだけの話なんですね」
今回は、かなり端折った説明をしている。恐らく、相手に理解させるための説明だろう。
まずは、“よくわからないから怖い”という思いを無くそうとしているのだと思う。
「そして、私達は株価が上がる会社を知っている。これは、絶対の自信があります。数々の情報が入ってくる大西証券だからこそ、精度の高い予測が可能なのです」
『まあ、大西さんならね。わかるけどね』
さらに、大手企業の名前を出すことで、安心させる。
“権威”をうまく利用するのがコツだと、以前ソウスケが言っていた。特に、しっかり定年まで勤めあげた人ほど、この“権威”と言うものは効くらしい。
『そうしたら、一度かみさんに話してみるよ。それから折り返してもいいかい』
「なるほど。非常に冷静なご判断、素晴らしいです。私個人としては、それが最善手と思っているのですが、残念ながら今回に関しては難しいのです。株価は生き物。すぐにでも投資をしないと、確実なリターンがお約束できなくなってしまうのです」
『なんだ。そしたら、ちょっと今回は……』
「そこで、こう言った案はいかがでしょう。先ほど私は、20万払うことで40万が手に入ると申し上げました。しかし、それより少額でも、リターンを得ることはできます。15万円ならば30万。10万ならば20万。もちろん、細かい前後はするでしょうが」
『……ふむ』
時間的な限定をつけた上で、現実的な案を出す。今すぐじゃないとダメ、と言うことで、今決断する理由を作るのだという。
そして、最初に大きなお金の話をしてから、どんどん小さなお金の話にしていくと、財布のひもが緩くなるらしい。
これは、なんとなくわかる。スーパーの半額品とか、いらないのに買っちゃうことがある。そういうことだと思う。
「つまるところ、これはちょっとしたお小遣い稼ぎです。お金を少し引き出して、すぐに戻すだけ。それだけで、奥さんに気を使わないで使える、自由なお金が手に入るのです。趣味に使うもよし。ギャンブルに使うもよし。奥さんにサプライズプレゼントをするのもいいですね。こんな感じで、ご自身の判断で使えるお金が手に入るのです」
『なるほど……』
「なんなら、1万円だっていいでしょう。2万円と小ぶりなリターンになりますが、貴重なお金です。もちろん、100万だっていいのです。200万のリターンがあれば、夢は広がりますね。どの程度のリターンにするかは、好きなように決めていただいて結構です」
『そうか。うーん……』
決定するのは相手と言っておきながら、いつのまにか“出資するかどうか”ではなく、“いくらお金を出すか”と言う話になっている。
からくりがわかっているから冷静に聞いていられるけど、このお爺さんの立場になった時に、ちゃんと断れるかどうかは正直わからない。
「申し訳ありません。そろそろお時間がきてしまいます。焦らせるつもりは全くないのですが、そろそろご決断いただければと……」
『ま、まて! わかった! 10万……、10万円出そう!』
ソウスケが、ウインクをした。その瞬間、アタシは“印鑑不要の現実”を発動させる。
アタシの手元に、10万円が現れた。ソウスケが、ぼそりと呟いた。
「We look forward to serving you again.」
『え? なんて言った?』
お爺さんの言葉を無視してソウスケが電話を切ると、瞬く間に携帯電話が消滅した。これが、ソウスケの魔人能力“心覗の嗜み”の効果だ。
今のお爺さんが折り返しをかけてきても、その携帯電話はこの世に存在しない。アタシたちにたどり着く術は、永遠になくなったのだ。
見守っていたメンバーが、わっとソウスケに声をかける。
「さすが、鮮やかですねえボス」
「最初疑っていたのに、いつの間にか手のひらでしたね。すごいなぁ」
「こんなこと、ボスじゃなきゃできねえっすよ」
「いやいや、君たちの働きがあってこそだよ。最高のお客さんを選定してくれて、いつもありがとうね」
また始まった。
いつもながら、仕事が終わった後のこの“儀式”が、嫌でしょうがない。
ソウスケから好印象を持たれたくて、適当な賛辞を言いに来るメンバーの姿は、寒々しくて見ていられない。それに満面の笑顔で対応するソウスケも、気持ち悪い。
ソウスケは、ありがとうなんて微塵も思っていない。その都度、適切な表情で適切な言葉を発しているだけだ。それだけで、メンバーはソウスケを頼りがいのある優しいリーダーと捉える。
ソウスケは、何一つ本音を言っていない。自分以外の全ての人間を見下している。
(ああ、ダメだ)
「ヤニ行ってくる」
この空間に耐えられなくて、避難しようとする。それを、最近メンバーに加入したおじさんが、厭らしげにねめつけてくる。
「おいおい、コトミちゃんよ。協調性ってもんがねえのか。まだ休憩時間じゃねえだろうがよ。しっかり働けよ」
このおじさんは、アタシが年下の女だということで、露骨に舐めた態度を取ってくる。
実害がなければ勝手にやってろと言う感じだが、アタシの行動に指図してくるなら話は別だ。
「交渉はソウスケ、受け取りはアタシで、よく働いているなんて言えるね。ソウスケのご機嫌とったり、アタシに絡んでる暇があるなら、一件でも多くテレアポしてなよ」
「あんだぁ。このアマ」
「ははは、まあまあ二人とも。仲良くやろうよ」
ソウスケの仲裁に、おじさんは納得していない風を出して引き下がる。
納得していないなら、もっと食い下がってくればいいのに。“オレは女より強い”と、周りにアピールしたかっただけなのだろうか。
(しっかりケンカをするつもりがないなら、最初から絡んでくるんじゃねえよ)
喫煙所を目指して歩きながら、出てくる舌打ちを隠そうともしなかった。
ーーーーーーーーーーーー
非常階段の踊り場に設置された喫煙所で、ぼんやりと煙を見る。
口の中に、苦みと不快感が染みわたる。
さっきのお爺さんの呆気にとられた声が、何度も頭の中に響いていた。
お爺さんをだますのは、苦手だ。心がざわつく。二年前に死んだ祖父を、両親を、家を、人生を思い出す。
(ああ、クソ。出てくるなよ)
過去の嫌な記憶がよみがえる。止めたくても止まらない。気持ちはどんどん落ち込んで、記憶はどんどん溢れてくる。
小学生に上がるとき、青いランドセルが欲しかった。母親は女の子らしくないと反対し、結局赤色のランドセルを持たされた。入学式の日にランドセルを近所のどぶに捨て、ビニール袋で登校した。後で、しこたま怒られた。
中学生の時、ベリーショートにしたくなり、自分でバリカンを入れた。クラスメイトに白い目で見られ、なぜか先生にも怒られた。めちゃくちゃに反発したら親を呼び出され、最後は頭を下げさせられた。
高校に上がるとき、パンツスタイルに憧れて、勝手に男子用の制服を買った。クラスの女子からハブられて靴を隠されたので、関わったやつら全員の靴を校庭で燃やした。結局、入学してから一か月もしないで退学した。
退学届を出した夜、両親から「これ以上迷惑をかけるなら、この家から出ていけ」と言われたので、すぐに出て行った。常日頃、「人付き合いも悪くて、女らしくも出来ないなら、どうやって生きていくのか」などと言われていたし、祖父もすでに亡くなっていたので、なんの未練もなかった。
なのに、捜索願を出されて、すごく面倒くさいことになった。
本当に出ていくとは思わなかったのか、未成年を放り出すのは大人として問題があると思ったのか。どちらにしろ、そんな親の都合に振り回される必要はないと思ったので、未だに帰ってはいない。
(ろくなことが無かったな)
けど、どうしてろくなことが無かったのか、ちゃんと理解はできていない。自分のやりたいことを、周りと違うという理由で止められる意味が、本当にわからないのだ。
アタシが青いランドセルだろうが、ベリーショートだろうが、ズボンをはいていようが、誰にも関係ないだろう。
誰かに迷惑をかけて、その人から文句を言われるのならわかる。だが、アタシに怒る連中は、“みんな”とか、“周り”とか、“世間”とか言う言葉を使っていた。
“みんな”とは誰だ。
そいつは、アタシと何か関係があるのか。
そんなこともわからないから、アタシはまともに生きていけないのだろう。行きつくところは、自分の尊厳を捨てた生き方だ。
だったら、他人を傷つけて生きる方がマシだと思った。
そう思っていた。
(でも、ダメだ)
目に涙がにじむ。タバコが、指の先で灰になっていく。浮かび上がる煙の先に、祖父の顔が浮かぶ。
“コトミらしくて格好いいね”
ベリーショートにしたとき、祖父だけがそう言ってくれた。
その言葉で、本当に救われた。
ここまで生きてこられたのは、間違いなく祖父のおかげだ。
誰かに救われたことのある人間が、誰かを傷つけながら生きるのは、とても辛いことだ。
そのことに、アタシは気が付かなかった。
アタシは、普通に生きていけなかった。
だからせめて、人を傷つけても平気な人間でありたかった。
それすら叶わない中途半端なアタシは、一人で膝を抱えることしかできない。
(人生を変えたい。もう一度、やり直したい)
人を傷つけるのも、人に傷つけられるのも、もうこりごりだ。
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「コトミ、大丈夫?」
顔を上げると、ソウスケがいた。
陽がオレンジ色になっている。ずいぶん長い時間、蹲っていたらしい。
慌てて、顔を袖で拭う。
目がじくじくする。赤くなっているのなら隠しても無駄かもしれないけど、ソウスケに弱みは見せたくない。
「ごめん。時間かけすぎた。戻るよ」
「そんなこと、気にしないでよ。コトミにはいつも助けられているんだ。むしろ、ちゃんと休憩してもらわないと」
「……やめて。マジで気持ち悪いから」
「はは、傷つくなあ」
そういうソウスケの表情は変わらず、まるで言葉とかみ合わない。
それでも、ソウスケが他の“AGAIN”メンバーと話しているときよりは、気持ち悪くない。あいつらは、ソウスケを利用している。ソウスケは、そんなあいつらの思惑を理解した上で利用している。それが透けて見えるのが、とても気持ち悪いのだ。
けれど、ソウスケがアタシをどう思っているかは知らない。信頼しているか、見下しているか、利用しているかもわからない。
アタシから見えないものは、無いも同然だ。だから、気にしないことができる。
「いやでも、マジで戻るよ。さっきのおじさんに、また文句言われても面倒くさいし」
「ああ、そこは本当に大丈夫だよ。アイツは処理しといたから」
「ハァ?」
あっけらかんと言い放つソウスケに、アタシは呆れかえる。ソウスケの殺害によるメンバー入れ替えは、今回で6回目なのだ。
最初は恐怖で震えたが、流石に慣れてしまった。こういうところでも、アタシの心が鈍くなっていることを実感する。
「僕らの仕事は、コトミがいないと成立しないんだ。そんなこともわからない奴は、いらないんだよね。あ、他のメンバーはみんな帰したし、死体は僕の友達に片づけてもらったから、ばれる心配はないよ。明日、退職したって説明しておく」
「……それ、アタシのせいじゃん」
「違うよ。アイツの人格の問題だ。なかなかいい人に巡り合わないね。まあ、僕はコトミさえいればいいんだけどね」
もはや文句を言う気にもなれない。この男は、一体どこまで本気なのだろうか。
「まあ、アイツのことはもう忘れよう。今を生きる僕らは、未来に向かって歩かないとね」
「過去にしたのはアンタでしょうが」
「ということで、未来の話をするのだけど」
アタシの言葉を無視したソウスケが、ジーパンのポケットからチラシを出した。
「これの参加、考えてくれたかい」
「ああ、それね……」
アタシは、新しいタバコに火をつけながらチラシを見る。
C3ステーションが主催する大会、イグニッション・ユニオン。エントリーした最強の二人達が戦い、最後まで勝ち残った“無敵の二人”を決める。
その賞金総額は……。
「50億。ずいぶん景気の好いことよね」
「すごいよね。個人が手にしようとしたら、人生すべて賭けても足りないような金だ。しかも、敗北によるリスクはない。ノーリスク、ハイリターンの催しだよ。参加しない手はない」
「いや、前にも言ったけどさ。無理でしょ。戦闘型の魔人でもないアタシが出て、勝てると思ってんの」
「勝てるさ。僕たちは、相手より強くある必要はない。勝つことができればいい。だったら、手はいくらでもある。ま、その辺は僕が考えるよ」
「ん?」
アタシは、その言葉を理解するのに、少し時間がかかった。
「アンタと出るの」
「え、そこ? 最初からそのつもりで話してたんだけど。逆に、誰と出るつもりだったの」
「いや、良い儲け話があるから参加してみれば、程度の意味だと思ってたから。そもそもソウスケ、別に金に困ってないじゃない」
「コトミは困ってるでしょ。足抜けしようと思っているんだから」
思わず、タバコを取り落した。ソウスケの表情は変わらない。
「なんのこと」
「はは、コトミの嘘はかわいいね。大丈夫。僕はコトミの幸せを願っているだけさ。ちなみに、取り分とかもいらないよ。犯罪者がまっとうな世界に戻るには、いろいろ入用だからね。50億は、人生をやり直すには充分な金額だ
「ちょ、ちょっと待って」
アタシがいないと仕事が成り立たないと言ったのは、ソウスケだ。そのソウスケが、アタシの足抜けをサポートするというのはどういうことだ。いくら何でも不合理すぎる。
わからない。2年間付き合ってきて、アタシはソウスケのことを何も理解できていない。
「なんなの、アンタ。何を考えているの」
「だから、言っているだろう」
ソウスケが小首をかしげて、アタシの顔を覗き込んだ。真っ暗な目に、吸い込まれそうになる。
冷たい汗が、アタシの頬を伝った。
「大好きなコトミの幸せだよ」
「……気持ち悪っ」
ソウスケの視線から逃げるように、三本目のタバコに火をつけた。
ソウスケには、裏がある。アタシを使って50億を手に入れる算段があるのだろう。優勝した後に、それを奪い取るつもりなのか。
(ダメだ。アタシの頭じゃ、それくらいしか想像できない。優勝する方法も、奪い取る方法も、まるでわからない)
だけど、ソウスケはきっと勝利するだろう。
ソウスケの人間性は全く信用していないけれど、目的を達成することに関しては、誰よりも信頼している。
2年間、一番近くで見て来たのだから。
タバコを大きく吸い込み、吐き出す。煙の向こうには、飛行機が飛んでいた。
覚悟は、決まった。
「わかった。やろう」
ソウスケにどんな思惑があったとしても、アタシはそれを出し抜いて、50億を手に入れてみせる。
アタシは、人生をやり直すんだ。
「僕を信用してくれてありがとう。僕の提案にコトミがのってくれることが、何よりの幸せだよ」
嬉しそうな声色とは裏腹に、ソウスケの表情は変わらなかった。
とても気持ち悪いと思った。