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人々は、それを見てこういうだろう。

宝玉を称えた兜、猛々しくも洗練された剣、重厚なる盾、蒼い外套。

人々は、それを見てこういうだろう。

水晶を称えた杖、古ぼけていながら美しき本、妖しき指輪、灰色のローブ。

『勇者』と『賢者』にしか見えぬ二人組。
強力な魔人能力者であり凄腕の暗殺者の二人組である彼らは標的を仕留めに今日も行く。

今日の、獲物は――――

「LvUP!LvUP!LvUP!LvUP!LvUP!LvUP!」

『勇者』が吠える。剣を振るい盾をかざしその勢いはさらに増す。

「LvUP!LvUP!LvUP!LvUP!LvUP!LvUP!」

『勇者』が吠える。敵を追い敵が対応し敵が来るたびその強さはさらに増す。

勇者の能力は単純にして強力。何かを経験する度に勇者は強くなる。強くなる時に過去の傷は全て治る。
そんな限界なく際限なく強くなり続ける魔人を前に構えているのは――――

「ぱあ」

余りにも弱弱しい、矮躯の少年であった。

「――――勝負あり、ではないのかの御嬢さん?」

年輪を思わせる声がに響く。
『賢者』の声である。1を知れば全を知るかと思わせる叡智を湛えた質量すら伴う声。

「儂らも鬼畜の類ではない・・・大人しくしていれば御嬢さんの命は保証するし―――」
「―――そこの小僧も苦しまずに逝かせてやる。悪い取引ではないと思うが?」

『賢者』は余裕であった。余裕を持って言葉を発していた。

さもあらん。

賢者の能力は玄妙にして凶悪。何でもできる。何にでもなれる。魔法と呼ばれる現象を悉く使いこなす。
そんな限界なく際限なく強くあり続ける魔人を前に構えているのは――――

「否、よ。」

余りにも華奢な、長身の少女であった。

「清純はあんな奴には負けないしそんなあんたにも殺されはしないわ。」
「何故なら、『私が見ている』んだから。」

事実その通りであった。

少女の持つ魔人能力により、少女が少年を見ることを妨げる要因は排除される。
『メガネ越しに対象を見つめる』能力。対象と長く強く傍に居続けているほどにこの能力は精密に強力になっていく。
少女が少年をその目に焼き付けている限り。その視線は止められはしない。

――――その能力によって『賢者』は少女に魔法をかけて捕えることも。少年に魔法をかけて殺す事も出来ずにいた。
視界を奪う眠りの霧も、視界を埋め尽くす殺戮の紫電も少女の邪魔をするがゆえに。

「なるほどなるほど、確かに『おぬしが見ている』。それは認めよう。」
生かして連れてくると言った依頼人にも納得がいく。この能力はなかなかのものだ。

だが。

「LvUP!LvUP!LvUP!LvUP!LvUP!LvUP!」
「『勇者』はおぬしが見るのを邪魔はせぬぞ?」

限界なく際限なく強くなり続ける魔人を前にその能力はいささかの役にも立ちはしない。
『世界』をも相手にできる最強の二人。相性では確かに『賢者』はこの少女には分が悪い。だがそれがなんだというのか?

「LvUP!LvUP!LvUP!LvUP!LvUP!LvUP!」

『つよさ』も『ぼうぎょりょく』も『すばやさ』も、その一切合財が常識の埒外。
外にはみ出した化け物による全力の一撃が、少年に迫り―――




      ち ん



「――――は?」

何の変哲もない、人並みに振るわれた人並みの刀が、『勇者』に吸い込まれるように刺さり、切り裂いた。

「言ったわよね?」
「清純はあんな奴には負けないわ。」

少年は、めくらであった。更には過去にあったなにがしかの影響で耳も聞こえず。肌も鈍く。鼻も弱かった。
世界を感じ世界を変える魔人として。
少年は余りにも世界に対して感じるものが乏しかった。
乏しいままに発現させた<ruby><rb>魔人能力</rb><rt>ココロの中</rt></ruby>もその乏しさを埋めはしなかった。

少年の世界は外からの刺激なしに『完結』していた。
世界を感じ世界を変える魔人能力者として、それは余りにも異質すぎるバグであった。

バグが能力を振るう。
『つよさ』も『ぼうぎょりょく』も『すばやさ』も、その一切合財が常識の埒内。
内からはみ出る事のないゆるりとした一撃は、しかして刀しかなく『完結』している<ruby><rb>少年</rb><rt>バグ</rt></ruby>の振るう技であり――――

『勇者』が斬られた瞬間に、即座に逃げようとした『賢者』の脳天を貫いた。

「ぱあ」

少年は、めくらであった。更には過去にあったなにがしかの影響で耳も聞こえず。肌も鈍く。鼻も弱かった。
心を持って何かを成す魔人として、何も感じることなくただ『刀を振るうこと』だけしか出力できないガラクタであった。
ガラクタの振るう刀は、一つのことにのみ注力された魔人の刀は、誰一人止める事叶わぬバグと成り果てた。

あたりにたちこめる、火と、灰と――――精液の匂い。

少女は、それをじつと見続けていた。眼に、焼き付けていた。

さてはて、これにてこの一幕は終わりを告げる。
少年がこう成り果てた顛末と、少女が少年を目に焼き付けるようになった顛末は。
また、次の機会に語ることとしよう。
最終更新:2021年04月25日 23:42