[人喰い狼の独白]
初めて人を食べたのは幾つの時だったかなんて忘れてしまった。
僕に言えるのは、自分がただの人喰い殺人鬼って事だ。
以前、何処かの有名私立女子高の学生さんを攫った時、その子から聞かれた。
人を殺して、その肉を食べる事に罪悪感は無いのかと聞かれた。
そんな彼女に僕は逆に尋ねた。
豚や牛、鶏の肉を食べて罪悪感湧くのかと。
相手は何も言えず黙り込んでしまった。
その後、彼女はどうしたかって?
それは皆様のご想像にお任せします(笑)
[毒蛇娘の憂鬱]
その日は突然やって来る。
それは件の猟奇連続殺人事件の犯人であり、学園七不思議の一つとも言われた『人喰狼(じんくろう)』と呼ばれた殺人鬼の身柄拘束、希望崎学園はこの重大なニュースに騒然としていた。
~~学園公認暗殺集団アサシン部教室内~~
教室の扉を叩き失礼しますと声がする、新入部員の雪女ふぶき(ゆきめふぶき)が入ってくるなり
「喇魅悪部長・・・、学園新聞、お読みになりましたか?」
と青ざめた顔で話し掛けてくる。
「ふぶきちゃん大丈夫?顔色悪いんだけど(汗)」
「新聞の内容を読んでたら気分が・・・ちょっと」
無理もない、自分も学園新聞は読んだけど、今頃学園内では気分を害して体調を崩す生徒が出てるだろう。
正直なところ、俺も余り気分は良くない。
「いや、うん、解るよ、もし気分良くないなら休んでていいからね」
「はい、今日は、ちょっと・・・・・・」
「いいよいいよ、俺も新聞読んだけど、あの記事はねー・・・・・・はぁ~(鬱)」
「すみません・・・・・・失礼します」
可愛い後輩ちゃんは失礼しますと一瞥し教室を後にした。
彼女が去ってから再び学園新聞を開く。
連続猟奇殺人鬼『人喰狼』、予てから生徒会や風紀部、番長グループを含む一部自衛活動をしてる生徒達が血眼になって捜していたわけだが、そこには俺達アサシン部の面々も協力して活動していた。
最初の事件から約二年過ぎて、その間も犠牲者は増えていく一方で中々ヤツの尻尾すら追えないでいた。
それが数日前、一人の生徒の命を犠牲にヤツを捕まえる事に成功した訳だが・・・・・・。
「胸糞悪っ・・・・・・」
今思い出しても吐き気を催す。
[狼と蛇]
奴は白昼堂々と食事を楽しんでいたんだ、それも犠牲になった女子生徒一人を生きたままでだ。
動きが有ったと連絡を受け、生徒会と風紀部、俺達アサシン部の少数精鋭で現場となった校舎裏に辿り着いた時には、被害者の身体は上半身を残しその殆どは奴の腹に収まっていた。
「おや?遅かったですね♪」
そう言って鼻歌まじりで尚も獲物に喰らい付く『人喰狼』に”もう辞めろ!!”と誰かが叫んでいた。
どうやら特殊な神経毒でも注射されたのか、喰われてる側は身体を動かすことも気絶することも出来ず、ただただ自分が”生きたまま”捕食され、確実に訪れる『死』を感じ絶望していた。
「彼女から離れろ!!」
力自慢の生徒数名で引き離し押さえようとするも”人の食事中は静かにするのがマナーだよ?”と、まるで子供をあやす様に話しながら食べ続ける。
生徒会や風紀部、番長グループの生徒では歯が立たないと即断しアサシン部のメンバーで対処に当たった。
「烈火、奴を引き剥がせ!!」
「任せなっ!!」
鬼姫烈火が身体強化能力で強引に『人喰狼』と被害者を離し、すかさず浄蓮滝アラクネと連携を取った。
「蜘蛛女!」
「解ってますわ・・・・・・」
「大塚ぁぁーーー!!!!!」
「了解した」
アラクネの強靭な蜘蛛糸と、俺の身体から生える毒蛇『大塚スネーク』を撒きつかせ二重結紮拘束を行い漸く無力化に成功した。
「人の食事を邪魔するなんて酷いね」
拘束されながらもその表情は余裕綽々然としており、俺は怒りに思い切り任せぶん殴っていた。
「ダメよ喇魅悪ちゃん!!」
副部長であるアラクネに諭されるも、この憤りをぶつけられずにはいられなかった。
「落ち着け喇魅悪、この者は人にして人に非ずと思え、さもないとお前も呑まれるぞ」
「頭では解ってる、・・・・・・解ってんだよ!!」
俺が声を荒げると『人喰狼』はドス黒い悪意を抑える事もせず俺に甘く囁き始めた。
「君の怒りは尤もだよ、何も我慢する必要ないよ?!」
「喇魅悪ちゃん!!」
「僕を殺したいんでしょ?さぁ、君の毒牙でやっちゃいなよ!!」
捲し立てる様に自分を殺せと囁く『人喰狼』、俺は現状の異常さと冷静さを欠いた精神状態で段々と殺意に支配されていくのを感じていた。
「誰か、俺を押さえてくれ!!じゃねーと本当にコイツをぶっ殺しちまう!!!!!」
「喇魅悪ちゃんゴメン!!」
烈火の謝罪の言葉と一緒に後頭部を鈍器で殴られる衝撃を感じ、そこで俺は意識を失った。
「『人喰狼』さん?うちの部長を余り苛めないでくれませんかしら?」
「事と次第によってはうちらも黙ってないよ・・・・・・」
「おやおや、おっかない♪」
少しして俺は部室のソファーで目を覚ました。
額には濡れ冷やしたタオルが載せられて、先程の出来事が夢で無かったと実感させられた。
「ようやく眼が覚めたのね喇魅悪ちゃん」
「アラクネ・・・・・・」
「あら、貴女からちゃんと名前で呼ばれたのって何時以来かしら」
俺は気怠くなった身体を少し動かすと、部室の窓から外は夜の帳だった。
「俺が起きるまで待ってたのか・・・・・・何か、ごめん」
「そうね、待ってたわ・・・・・・二人でね?」
「二人?」
「烈火ちゃんも待ってたのよ、今はご飯を買いに出てるわ」
「なぁ・・・・・・」
「うん・・・?」
「被害者は?」
「・・・・・・・・・殺したわ」
「・・・・・・・・・そっか」
「ええ」
「・・・・・・・・・そっか」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・喇魅悪ちゃん?」
「・・・・・・ん」
「泣いてるの?」
「・・・・・・・・・泣いてねーよ」
後になって聞いた話しだが、被害者生徒はもう助からない状態だった為、本人の希望で生徒会と風紀部立会いのもと大塚スネークの神経毒で安楽死の処置を施したらしい。
その日は学園の許可を貰い、俺達三人は一夜を過ごした。
[動く]
思い出すだけで暗い感情に支配されそうだ、そんな俺の心情は学園上層部や一部の大人達には関係ないのだ。
手許には学園からの封書が、そこには常軌を逸した指令が書かれていた。
『アサシン部部長なめらすじ喇魅悪様、貴殿は件の連続猟奇殺人鬼”人喰狼”と協力し、共に東京で行われる武闘大会に出場する事』
そう書かれていた。
「なんだよ・・・・・・これ!」
ふざけんな!!
学園の上層部は何を考えているんだ、一部の人間が奴を使って何かしようとしてる。
俺はスマホを出しクライアントの一人である学園上層部の女に電話を掛けた。
電話が鳴って物のすぐに女が出た。
「そろそろ電話が来ると思ってたわ」
「察しが良くて助かります・・・、あの指令はなんですか?!」
「あら、読んで字の如しよ?」
「ふざけないでくれますか!!」
「これでも真面目よ?」
「何処が真面目だ!!あの化物一人にどれだけの生徒が犠牲になったと思ってんだアンタら・・・・・・」
「・・・・・・・・・喇魅悪さんの気持ちは解るわ、それでも、貴女が選んだアサシン部って言うのはどのような理不尽な要求も心を押し殺し、任務・依頼を遂行するんじゃなくて?」
「そうです、貴女の言う通りですよ・・・・・・」
「なら「それでも!!」」
俺は相手の言葉を遮り怒号を挙げた。
「俺達は暗殺者である前に人間なんだよ!!」
俺は感情に任せ電話を切った。
「喇魅悪ちゃん」
アラクネの声がし、振り返ると何時から居たのかアサシン部メンバーが揃っていた。
「部長、話しは全部聴いてましたよ」
「水臭いッスよ」
「喇魅悪ちゃん一人で何でも抱え込む必要は無いよ!!」
「お前等・・・・・・」
「ほーら、そんな顔しないで喇魅悪ちゃん、貴女の一声で私達は動くわよ!?」
「そ、みんな一蓮托生」
今、俺はどんな顔をしてんだろうか・・・、きっと鏡見たら酷い面になってんだろうな。
でも、みんなのお陰で腹は決まった。
「アラクネ、烈火、ジェイ子、ふぶきの四人はそれぞれ二班に別れ今回の指令の出所を探れ!!アラクネとふぶき、烈火とジェイ子に別れて行動し逐一俺に情報を流してくれ」
「「「「了解!!」」」」
「みんなも気付いていると思うが、上層部が何か企んでいる・・・・・・お前等、死ぬなよ?!」
「喇魅悪ちゃんもね!」
こうして俺達は動き始めるのだった。
[嘯く狼]
はてさて、学園のお偉いさんに誘われて捕まったのはいいけど、退屈させないで欲しいなぁー。
けど、あの蛇の子、可愛いかったなぁーーー・・・・・・。
たまにはゲテモノも食べたいなぁーーー・・・・・・。
喇魅悪ちゃん、だったかな?
あの子と一緒なら、武闘大会も楽しいだろうなぁーーー楽しみだなぁーーー・・・・・・(笑)
それはそうと、今日の晩御飯(生け贄)は何(誰)が来るのかなぁーーー・・・・・・(涎)
[DNA2]
生徒会執行部の牢に入ると雁字搦めに拘束された奴がいた。
「迎えに来たぞ『人喰狼』」
「おや?食事にしては少し早いと思ったけど君だったのか、えっ?!もしかして、君が今日の晩御飯!!?」
俺は奴の道化染みた嘯きを無視し近付いた、そして・・・。
「俺に協力しろ、そうすればお前の命は保障する、但し、俺の要求を拒むならお前を”生きたまま”毒を使って内側から溶かして殺す」
「・・・・・・・・・ようやく、それらしい顔つきになったねカワイ子ちゃん(笑)」
「どうすんだ、協力するか、しないのか」
「君も罪な女の子だね、この状況でどちらかを選べって(苦笑)」
「協力するなら、可能な限りお前の要求は呑む」
「おやおや、僕を相手にそんな事を言って良いのかい?」
「学園は俺達を利用して何か企てている、お前はそれを理解した上で逆に利用し楽しんでいる、違うか?」
「さぁーーー、何の事だか?」
「今は惚けてればいい、私もお前を利用して学園上層部に探りを入れる、その為の必要経費と思えばいい」
奴のニヤケ顔に悪意が濃くなる、やっぱコイツは人間じゃない。
それでも、今はこの化物を利用してこのクソったれな計画を企てた奴を始末しよう。
その後で俺とこの化物が死のうがどうでもいい・・・・・・・・・。
「東京で始まる大会に俺達は出る、その上でコンビ名が必要になるらしい、お前なら何て名前にする?」
「そうだねぇーーー、僕達は一致しない、マッチする事の無い二人だよね?」
「あぁ、テメェとは相容れないな」
「それならこんなのはどうかな?!」
Do not apply (当てはまらない)2人=『DNR2』
「それでいい」
「いいネーミングセンスしてるでしょ?!」
「さぁ、な」
こうして俺は殺人鬼と共に戦う事になった、これからどうなるかなんて俺には解らない、それでも、俺は生きて戻り、この殺人鬼と学園上層部に落とし前をつける。必ず。
(プロローグ完)
「早速だけどさ、僕の要求を聴いてくれると有難いんだけどなぁ~~~♪」
「・・・・・・何?」
「僕お腹空いたんだけどさ、君を少しつまみ食いしてもいいかい?」
「ダメだ、これから大会が終わるまでの間は俺と同じ普通の飯を食ってもらう」
「(´・ω・`)」
「他に要求は?」
「ちょっと耳貸して♪」
俺は訝しげに睨み付け、耳を貸した。
「食事は仕方ないから我慢するからさ、その代わり・・・」
「その代わり・・・・・・?」
「君と〇〇〇させて欲しいんだけど♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!!!!!」
俺は顔から炎が出るんじゃないかっと錯覚をするほど赤面した。
そして、拘束されたまま動けないこの化物を、思い切りぶん殴った。
(プロローグ終了)