とある町の一角。
入り口に『矢凪世界征服研究所』と書かれた木製の看板が掛けられた不審な建造物が存在した。
世界征服を企む自称天才科学者矢凪音子の研究所である!
建物内には音子が世界征服のために開発したよくわからない発明品や並べられていたり、その実験場など存在している。
ちなみに音子の他に所員はおらず、音子以外の来訪者といえば冷やかしに来る近所の子供が訪れるのみだ。
周囲の人間には子供好きな変なお姉さんが住んでる面白施設と認識されているぞ!
その研究所内の一角、開発室と書かれた部屋の中に雷鳴が轟いている。
外は一切の雲もなく晴れているのだが、実験の成功には雰囲気が重要だろうとこの研究所の所長である矢凪音子が設置したスピーカーから流れているものである。
「フフフフフ、遂に完成だ」
部屋の中央のベッドの前で音子が不敵な笑みを浮かべている。
彼女が見つめるベッドの上には少女が横たわっている。
「我が宿願である世界征服。その一歩がこのイベリスの稼働とともについに始動するのだー!!」
うおー!うおー!と雄たけびをあげて興奮しながら音子が腕をクルクルさせる。
「いやあ。ここまで苦労したなあ。まあ、もちろん私の天才的な頭脳なら完成すると信じていたけどね」
諦めなければ夢は必ずかなう!
音子は自分が世界の支配者を疑っていない。
音子の魔人能力『ルーラーオブザワールド』とはそういう能力だからだ!
「さあ起動だ」
音子がベッドの前の装置のボタンを押す。
すると、イベリスにエネルギーが流れ込み、そのまま起き上がった。
「おはようございます。あなたがマスターですね」
「ああ、そうさ。イベリス。私がこの『矢凪世界征服研究所』の所長矢凪音子。君のマスターとなるものだハハハハ」
「では、さっそく作戦目標をお願いします。具体的には何をすればよいのでしょう。国会議事堂など国内の重要施設の占拠、あるいは重要人物の誘拐」
「違う違う。そうじゃない」
「ちがうのですか」
「君はアイドルとしてデビューしてもらう!!」
袖の中で拳を強く握りしめ、イベリスに語り掛ける音子。
「アイドル……ですか?」
首を傾げ、不思議そうな顔をするイベリス。
世界征服とは無縁そうな言葉がでてきたのだから無理もない。
「いいかい。暴力革命などもう古い!力で抑え込んでもより強い力で支配を打ち破られるだけだ!故に私は考えたのだ!アイドルの力で世界を支配しようと!!」
イベリスの疑問に答えようと音子が熱弁を始める
「君がアイドルとしてデビューすることでファンをを増やしていく。まずはこの町の人間を。次は日本を。そして、最後には世界中全ての君の魅力でファンにしてしまうのだ!!!そうなれば、世界中全ての人間を支配下に置いたのと同じことだ!!完璧な私の計画君もよくわかるだろう」
「なるほど。それは素晴らしい計画です」
「フフフフ理解が早くて助かるよ!流石私が開発したロボットだ」
音子が嬉しそうに手をたたきながら首を何度も上下した。
どう考えても穴だらけの計画だが、二人が納得してしまったので仕方がない。
こうして『矢凪世界征服研究所』の世界征服計画が始まったのだ!
◆◆◆◆
「目標補足。発見しました」
「あー見つかっちゃった」
イベリスの開発から数か月後。
彼女は、研究所の近所に住む子供達とかくれんぼをしていた。
これは世界征服計画の一環として、近隣住民に彼女のファンを増やすという目的で行われている。
もっともイベリスの開発前から研究所に遊びに来ていた子供たちばかりなのだが。
「これで全員ですね」
最後の一人を発見し、
「イベリスだけ空を飛んでずるいよー」
「そうだよー」
「そういわれてもこれは生まれつき私に備わった機能ですから」
子供たちの抗議に困ったようにイベリスが言った。
「さてもう時間も遅いですし、みなさんもおうちに帰りましょう」
「はーい。またねイベリス」
沈みゆく夕日を背景に子供たちを家に帰すとイベリスも研究所に戻った
研究所に戻ると音子が何かの紙を握りしめながらこちらにやってきた。
音子に差し出された紙には『イグニッション・ユニオン』と書かれている。
子供たちの口からきいたような気がする。
たしかC3ステーションという会社が開催しようとしている闘技大会だ。
「次の我々の目標が決まったよ」
「この大会がですか?」
闘技大会というのはアイドルとは程遠いように思えたが、マスターには何か考えがあるのかと聞き返した。
「これからのアイドルはただ歌が上手い。ダンスが上手いだけではだめだ!やはり戦闘でも魅了しないといけない。だから世界征服計画の一環としてこの大会に参加するべきだと思うんだ」
「なるほど」
「現にこの大会のMCファイヤーラッコくんと恵撫子りうむくんも『グロリアス・オリュンピア』の優勝者と準優勝者だ!つまり、この大会で優勝すれば我々も注目されることは間違いない」
「完璧な計画です。ですが、その計画には一つ問題があるように思えます」
「何かな?」
「このイベントは無敵の二人を決める大会のはずです。私一人で参加しても門前払いされるのでは?」
「フハハハハーその点は抜かりない。何故なら私も参加するからね!」
「マスターが?」
「そうさ。私とイベリス。これほど無敵の二人に相応しいコンビもいるまい」
「もちろんです。マスターと私。二人なら最強です」
「そうだろうそうだろう。私たちが負けるはずがないハハハハ」
かくして、『矢凪世界征服研究所』(ユニット名ラブリーデイ)の世界征服計画が『イグニッション・ユニオン』を舞台に始まろうとしていた。
果して二人は目標の世界征服に近づく事ができるだろうか?