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第一回戦第二試合 糺礼

名前 魔人能力
糺礼 この胸にキミを抱きしめたい
灰堂四空 ステルスアイ

採用する幕間SS
なし

試合内容

「はい、それでは一回戦第二試合……」

司会による試合開始のアナウンスを聞き流しながら、礼は自分のタバコに火をつける。
戦場でタバコなど自殺行為にしかならないが、しみついた喫煙習慣の所為でニコチン無しでは思考がまとまらないのだ。
脳にニコチンを補充しながら考えるのは対戦相手の事だ。
灰堂四空、一回戦第二試合の敗者にして今回の礼の対戦相手。
観戦した試合の内容を思い出しながら、礼は相手の能力を推測する。
一回戦に置いて、この対戦相手は格闘技術を用いて敵を追い詰めていた。
若い、といえる年齢であるにも関わらず卓越した身体能力と格闘技術。接近戦ならば礼も遅れをとるだろう。
だが、それを踏まえてもなお不可解と言える当たりが何発かあった。
そしてそれらはすべてサングラスをずらした時に起こっていた。
ふっ、と煙を吐き思考をまとめる。おそらく相手の能力はこちらの感覚器に対するジャミング・ステルスの類、ならば

「おーい、お姉さん。タバコとは余裕だね。一本くれない?」

見れば、廊下の端にトレンチコートを着た長身の男が立っていた。
灰堂四空だ。

「あげないよ。君は未成年だろう?警察官が法律違反を促してどうする」
「ひっでー、いいじゃねえのちょっとぐらい」
「ダメだ。どうしてもと言うなら力づくで奪ってみなさい」

礼の言葉に、灰堂はサングラスごしでもニヤっ、という音が聞こえてきそうに笑う。

「オッケー、じゃあそうさせてもらう――」
「はは、やなこった」

灰堂が走り出すよりも早く、礼がプリンで出来た壁を突き破り逃げ出す。
一瞬、灰堂は追うのも忘れてあっけにとられる。
軽く話しては居たが、今までの状況は圧倒的に礼が有利なものだった。
灰堂は近接攻撃手段しかないが、礼は銃器を持っている。
たとえ灰堂が能力を使いすがったを消しても、目を合わせる必要性がある以上大体の位置は分かってしまうのだ。
連射で薄くとも弾幕を張ればそれだけで灰堂の突進を止められる可能性が高い。
実際、灰堂はそうさせたうえで脚力にまかせ弾幕を飛び越え接近戦に持っていくつもりだったのだ。

が、礼は逃げ出した。
灰堂の考えが読まれていたのかどうかは分からないが、こちらがスタートを切る前に一目散に逃げ出したのだ。
一体どういうつもりなのかは分からないが、接近しないことには灰堂に勝ち手はない。
困惑は一瞬で切り上げる。鍛え上げられた足の筋肉に力を巡らせ、灰堂は礼を追い始めた。


――30分後

灰堂は礼の姿を再びとらえる。だが、それに気づいた礼はまた壁のプリンになっているところを破り逃走を始める。
いらいらしつつ灰堂もまたプリンとなっている壁を破り礼を追う。
試合が開始してから30分、同じようなことが既に何度も繰り返されている。
礼は灰堂に対し拳銃を撃つこともなく、ただひたすら逃走を続けている。
灰堂もそこまで鈍足というわけでもないが、相手はプロの魔人警官だ。
逃げに徹されては追いつくことが出来ない。
そもそも、逃げる礼の背中を見ながら灰堂は考える。そもそも、なぜ相手は逃げるのか。一体何が狙いなのか。
わずかな思考は決定的に反応を鈍らせる。灰堂が気づいた時には、礼の姿は既に見えなくなっていた。
苛立ちとともに足を止める灰堂。じゃり、と床を踏む音がする。
そこには吸殻とまき散らされた元壁のプリン。どうやら、最初に礼が居た位置まで戻ってきたようだ。
随分追いかけっこをしたもんだな、と思いながら灰堂は後ろを振り返る。
廊下には、破壊されたプリンの壁がまき散らされ、礼と灰堂の足跡がくっきりと残っていた。

「追いかけてこないと思ったら、こんなところで何をしているの?」

いつの間にか廊下の端には礼が戻ってきていた。右手には拳銃が握られている。

「いくら美人のおねーさんでも、ずっと追ってたら疲れちまってね」
「そ、じゃあ今度はこっちが追ってあげましょう」

いうや、礼は拳銃の間合いまで間を詰めようとする。
対する灰堂は、相手が向かってくるのを幸いとサングラスに指をかける。
片方が止まっているならともかく、両者が動いていれば照準は難しい。
まして自分は見えなくなることが出来るのだ。拳銃など当たらない。
そうして一歩を踏み出し能力を発動させようとする。
プリンを踏みつぶす足元の感触。
違和感が鎌首をもたげる。
なぜ、今まで礼は逃げに徹していたのか。
なぜ、今になって攻撃をしかけてきたのか。
さっきと今の違い。それは
プリンに残る自分の足跡。
違和感が、確信に変わる。
灰堂は踵を返し、一目散に礼から逃げ出した。

「なんだ。気づかれてしまったか」

礼は心の中で舌打ちをする。
今まで逃げていたのは戦闘の布石だ。
相手の能力をステルスの類と推察した礼は、ステルス破りの手段を考えていた。
この手の能力破りの定番は、誤魔化される感覚とは別の方法で相手の位置を探ること。
例えば、プリンに残る足跡とか。
幸いここはプリン城、プリンは建材としてふんだんに使われている。
礼は逃げながら壁を壊してまき散らし、床に灰堂の足跡が残るように仕組んだのだ。

「まあいい。さ、追いかけっこの鬼は交代だ。今度は私がお前を追いかけてあげよう」

逃げる灰堂を礼が追いかける。
一目散に逃げる灰堂の背中を見つめ、礼は心中でほくそ笑む。
一般的に魔人の能力はその人物のプライドに直結していることが多い。
それを封じるというのは、やはりいつやっても気分が良い。
だんだんと、礼と灰堂の間の距離が狭まってくる。
一発。発砲する。
上手い事銃弾は灰堂の背中をかすめる。
まだ当たるような距離ではない。礼が銃弾を撃ったのは恐怖をあおるためだ。
能力を限定的にとはいえ封じられた恐怖、追いかけられる恐怖、そして、死が間近にせまっていることを認識させられる恐怖。
相手とてある程度の場数は踏んでいよう。一つ一つではどうということないかもしれない。
だが、重なればどうだろうか。
礼は口元に浮かぶ笑みを抑える。ああ、本当に相手を追い詰めるこの瞬間は楽しくてしかたない。
追いかけっこはつづき、今は廊下を走り切り階段が目の前に迫っている。
昇るにしろ降りるにしろある程度減速は免れない、礼はここで灰堂を追い詰めることを決意する。
と、そんなとき、灰堂が走りながらちらりと後ろを向いた。
礼と眼が合う。
そして、礼は灰堂の姿を見失った。
なるほどこう言う能力か、と礼は思いつつ床に目を向ける。
プリンがまかれた床に新たな足跡が出来続けている。
足跡は下り方向へと向かう。礼はそれを見て階段の前で一度停止する。
ある程度動きは分かっているとはいえ、見えないのに間合いを詰めるのは危険だ。
幸い、ある程度命中が期待できる距離まで接近は出来ている。相手の減速も含めれば十分に殺害を期待できよう。
構え、そして撃つ。撃つ。撃つ。
装弾数分撃ちきると、予備の弾層に入れ替え警戒しつつ礼階段を下る。
階段の中ほどで足跡は途切れていた。だが、そこに灰堂の死体は無い。
礼はあたりを見回す。壁には銃弾の跡。だが、血痕は少しも残っていない。
疑問を持ちつつさらに下を見ると、靴が片方と、トレンチコートが落ちているのが見えた。

「なるほど……階段から飛び降り、トレンチコートで着地の足跡を誤魔化したか。逃げ回ったのがあだになったな」

トレンチコートで着地とその後向かった方向の足跡を誤魔化されたため、古い足跡と混ざってどちらの方向に逃げたのか分からなくなってしまっている。
飛び降りを考えていなかったのは失敗だったな、と礼は頭をかく。確かに、飛べば一瞬でも足跡を誤魔化すことが出来る。
足跡が残ってしまうこの状況で逃げるならそれしか手はなかっただろう。考えておくべきだった。

「こうなると先ほど無駄弾を撃ってしまったのが痛いな。さてどうするか」

拳銃は構えたまま、礼はタバコに火をつける。
紫煙を吸い込み、吐く。
火照った脳にしみこむニコチンの作用を心地よく感じる。追い詰めただけでこれだけなのだから、止めを刺したらどれほどか。

「まあ、しらみつぶしに探していくか。どうせ相手は接近戦を挑まねばらなんのだしな」

まだ半分以上残っているタバコを廊下に吐き捨て、踏み消す。
礼は探索のために立ち去り、あとにはくすぶり煙を上げるタバコが残された。

――

「いない……どういうことだ」

一階の探索をおえ、中庭にたどりついた礼は1人つぶやく。
そう、しらみつぶしに探索を行ったが、灰堂を見つけることが出来なかった。

「どういうことだ。すれ違った、のか?」

礼はいらつきを感じながらタバコに火をつける。
すれ違った。というのは考えづらい、一応一階を二周したが、自分の足跡以外に足跡が増えたような形跡はなかった。
完璧に覚えているわけではないが、一か所も違和感がなかったのだからまず自分以外が一階を移動しては居ないと考えていいだろう。
ならば、あのコートは偽装で実際は一階に居ない?
消えている利点を生かし、こちらを誘導し、自分は魔人の身体能力で上への階段までとび上がった、とでも言うのだろうか。
確かに、あの筋力ならそれぐらいの無茶は可能そうではある。
だが、わざわざ距離を取ってどうなるのか。
相手に距離の使い方があるとすれば、それは

「上か!」

礼はあたりを見回すと、見つけた一点をにらみつける。
上方より走ってくるような足音。

「ご名答!」

廊下を走ってきた灰堂が、礼の視線の先にある窓枠に足をかけポーズをとった。

「なるほど、空中なら足跡でこちらに居場所を悟られることもない、か」
「オッケー、分かってるな」
「だが、いくら消えていても空中では身動きできまい。拳銃の良い的だぞ」
「できるなら、やってみな!」

飛ぼうとする灰堂に礼は拳銃を向け発砲しようとする。
たしかに、軌道が見えていれば空中は拳銃の良い的だ。
だが、飛ぶ瞬間に消えられ、途中で壁でも蹴って軌道を変えられれば拳銃でねらうことは難しくなる。
そうなれば、勢いののった蹴りを撃ちこまれておしまいか、万が一かわせたとしても接近戦を強いられ礼にとっては著しく不利となる。
ゆえに、飛ばれる前にあてねばならない。

バンバン!

拳銃の音に合わせるように灰堂はサングラスをずらす。
礼の視界から灰堂が消える。
そして銃弾が灰堂の居たところを通過する。

血の花は
咲かない!

そうして、灰堂は、礼めがけ軌道を

さて、ここで一つ閑話をしよう。
なぜ、先ほど礼は上の階の一点を見つめたのだろうか。
礼が見つめてから灰堂が走ってきている。つまり、上の階にいた灰堂の姿をとらえたわけではない。
ではなぜか、それは――

ぐしゃ、と壁が崩れる。見れば、灰堂が足をかけた窓枠の下――壁がプリンとなっている場所が崩れている。
灰堂は己の失策を呪う。まさか、こんなところがプリンになっているとは。
だが、これは本当に灰堂の失策なのだろうか。
灰堂がこの場所から飛んだ理由、それは
礼の視界に入り、能力を利用するためだ。
そう、礼が一点を見つめたのは、飛んでくる灰堂を邪魔するために出来るだけプリン壁が近くにある窓に目を向ける必要があったからだ!

地面にたたきつけられるプリンと灰堂。
そして、その場所に銃弾が撃ち込まれる。
この度の銃弾は外れることなく。
灰堂四空は絶命した。

「一瞬ひやっとしたが蓋を開けてみれば楽な勝負だったよ」

ポケットからタバコを探しながら、礼が1人ごちる。

「お前が能力に頼らず、普通に私の後ろの窓あたりから奇襲を仕掛けていればまた結果は違ったろうが。そうはならないことはある程度予想がついていた。
何せ――貴様ら魔人どもは、まるで誇示するように自分の能力を使いたがる。
私の視界に入らなくちゃならないって制約があるにもかかわらず、まるで万能の武器のように使いたがる。
それが、命取りになることだってあるんだ。良い勉強になったろう
こんなものはただの道具だ。道具にひっぱられて死んでちゃあ、意味がない」

ポケットからタバコは見つからない。
少し、タバコを吸いすぎたかな、と礼は困ったように頭をかいた。



最終更新:2011年10月28日 10:41