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第一回戦第二試合 灰堂四空

名前 魔人能力
糺礼 この胸にキミを抱きしめたい
灰堂四空 ステルスアイ

採用する幕間SS
【「ありふれた事件のひとつ」】
(灰堂の覚醒時の事件が魔人警察のデータにファイルされている)

試合内容

「…本当に無茶苦茶だなァ、この会場を作った奴は」

胸焼けするほどに甘ったるい光景。
何がどうなってこんな地形ができたのか謎である。
見渡す限り――プリン。プリンである。

(そういえば、アイツはプリンが好きだったな)

その光景を見ながら、灰堂はもう戻ることのない日常を思い出していた。

『えー、それではよろしいでしょうか。』

そんな思考を遮るように、脳内に声が響く。
アナウンス担当の斎藤窒素の声だ。

『裏トーナメント第一回戦、第二試合を開始します』
『裏といっても、表のトーナメントとはルールは変更はありませんのでよろしくお願いします』
『実況は私、木村沃素が担当するわ。といっても、所詮負け犬たちの闘い。適当にやらせてもらうよ♪』
『では、試合開始です!』



不快だ。
不快だ。

こんな大会に潜入させられて、
あんな小娘共にしてやられて、

許さない。
許さない。


糺礼のプライドはもはやボロボロであった。
魔人の、しかも高校生の子供に敗北するとは。
このザマでは出世も望めまい。

「…ハハッ」

礼の口から乾いた笑いが溢れる。



このままでは帰れない。
一人でも多くあのおぞましい魔人共を『処理』しなければ。

まだ終われない。
アイツラをオワラセルまではオワラナイ。



(…狙われてんな)

ホストクラブの用心棒をやっていればクローンヤクザどもの銃撃戦に巻き込まれることもある。
時にはスナイパーに狙われることもあった。

今も姿は見えないものの、「対戦者」が物陰から狙っていることには気づいていた。

(殺気が隠しきれてねーな…っと、あっちの方かな)

灰堂はその殺気を感じる方角に向き直り、カラメルソースのかかった窓に向けておもむろにサングラスを外した。

「覚悟はオッケーかい?行くぜ」

「―ステルス!」



「な…ッ!?」

消えた!いや、「いなくなった」!
一回戦を見た限りでは対戦相手の能力はつかめなかったが―

ドン!
ドン!

反射的に発砲するが、銃弾は遠方のプリン壁に着弾!プリンが散乱する!

(透明化か…?ワープ!?…ちっ!)

「対戦者」がいなくなる直前、確かに「奴」と目が合った!
つまり、この場所はバレているということ!

礼は殺気を隠しきれなかった己の未熟を恥じる前に走り出していた。

だが、部屋のドアを開けた瞬間、カラメルで作られたドアは『見えない何か』によって再び閉じられる!

「チィッ!」

ドン!
ドン!

扉に向かって再び発砲!だがまたしても銃弾は扉に突き刺さっただけだ。

扉から離れる礼の前に、サングラスをした男がうっすらと姿を表す。

「ドーモ、はじめまして…灰堂四空だ。悪いが姐さん、こいつはオッケーじゃねぇな。没収だ」
「…!貴様ッ…!」

その男の手には、今まで持っていたはずのSIG SAUER P230JPが握られていた。



「まず、名前を聞こうか。姐さん」
「…魔人風情に名乗る名などない」

そう言うが早いか、礼は灰堂に格闘戦を仕掛けた。

「…つれねぇな。オッケーじゃないねー」
「黙れ」

元キャリア組とは言え、礼は魔人警官としての格闘術には覚えがあった。
並の警官やそこいらのモヒカンならば束になってもかなわないだろう。
だが、相手は喧嘩のプロ。用心棒である。

「おいおい姐さん、銃(こいつ)がなきゃ並ってとこだなァ」
「黙れと言っているだろう…!」

灰堂の強烈な蹴りをガードするが、勢いを殺しきれずに距離が離れる。

(く…、何とか隙をつければ、『能力』でなんとかなるのに…)

糺礼の能力『この胸にキミを抱きしめたい』は接近戦でなければ効果が薄い。
だが、相手は喧嘩屋だ。接近戦のプロといってもいい。
何か、意表を突けるものは―

「―灰堂?…灰堂と言ったか、貴様」
「お?そうだぜ、よろしくな」

魔人警官時代に見たファイルの片隅にあった事件が、唐突に蘇る。

「ク…ククク…ハハハ…」
「…いきなりどうしたんだ?勝てないからって気でもおかしくなったか?」

「いや、違う。そうか、貴様か…!『妹殺し』の灰堂四空…!」
「!!!」

一瞬。
だが、永劫にも思える一瞬。
その隙を見逃す糺礼ではなかった。

「殺ったぞ…!貴様は私が『処理』してやる、この犯罪者がァーーーーー!」
「しまッ…!」

接近。
そして抱擁。
その瞬間、礼の胸のデリンジャーが全弾撃ちこまれ、ナイフが腹を抉る!

「が、はァ…ッ!」
「このまま、貫いてやる…!」

胸のナイフで貫こうと、礼が灰堂の背中に手を回す!
その時、灰堂ガ礼の耳に囁きかけた。

「…の、負けだ」
「降参か?降参程度で終わらせると思ったか――ッ!」
「いいや、あんたの、負けだ」

その言葉に耳を疑った礼が灰堂を見上げ―



それで、終わりだった。





サングラスを外した灰堂の、その淋しげな目を見た瞬間、

灰堂が目の前から消える。
しっかりホールドしていたはずの感触が消える。
それでも礼は力を込める。
そこにいる敵を殺す。
そこにい/ない。
いや、この胸のナイフは、この腕は、この敵を、
ここにい/ない。敵が、い/ない。
いママで、ソこに、い/ない。
戦っていた、わタしが、刺して/ない。
いる。い/ない。/いない。いない。いないいないいないあないあないあないああああいいあいいあいあいいあいあ

…何も、ない。



拘束を逃れた灰堂がつぶやく。

「ぐ、はァ…はぁ…コイツだけは使いたくなかったんだけどな。
すぐ解除した…から、『壊れて』はないはずだ…が」

魔人能力に覚醒した日。
存在が消えようとしている灰堂の手を、ずっと握っていた妹。
そのせいで、情報の矛盾によって精神を破壊されてしまった妹。

(…嫌な過去、思い出させやがって)

 ・ ・ ・ ・ ・ ・
「アンタは俺だ。俺も一つ間違えばアンタみたいにすべて恨んで、
何もかも壊そうとしていたのかもしれねーな。…まったく、今日はオッケーじゃねぇな」

大きく息を吐き、腰を下ろした灰堂の頭の中に、試合終了のアナウンスが聞こえていた。


―裏トーナメント 第一回戦第二試合 勝者:灰堂四空―


最終更新:2011年10月28日 11:39