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準決勝第一試合 意志乃鞘

名前 魔人能力
裸繰埜闇裂練道 永劫
糺礼 この胸にキミを抱きしめたい
意志乃鞘 HERO DESTINY

採用する幕間SS
【HERO WORLD】
(礼と魔法少女について話したり、女神様と握手をしました)

試合内容


 ――『HERO DESTINY』
 それはヒーロー補正を与える能力。ヒーロー補正は、設定やシチュエーションによってヒーローに本来持つ以上の力を発揮させ、場合によっては不可能を可能にもする。
 これを極めれば『○○だからしょうがない』の境地にたどり着くという。

 さて、つまりは「世界」によって「運命」が変わる能力ともいえる。
 ではもし逆だったら? 「運命」によって変わる「世界」とは――?


 女神の力によって転移した意志乃鞘は周囲を確認する。
 辺りには不法投棄によって捨てられた大小様々なゴミが所狭しと積みあがっている。
「ついに……ここまで来たか」
 彼女が見据える先には、スクラップやどこからか持ってきた兵器で武装された巨大な塔があった。
 あの場所にこそ――倒すべき巨悪がいる!
「いざ、往かん!」

 そんな彼女を、1体の野良アキカンが物陰に隠れて観察していた。
「メ、メカ~! これはあのお方に報告しなくてはいけないメカー!」


 場所は変わって、実況席。
 この試合の司会と実況を務める結昨日司と木村沃素は目を丸くしていた。
 それもそうだろう。これから試合が始まると思ったのに、そうとは思えない映像が流れてきたからだ。
「えっ――えっ?」
「なんですか、この『これから敵の基地に乗り込んで決戦だ!』と言わんばかりのクライマックスストーリーは……!?」
「あ、司くん! 今のアバンだったようですよ!? オープニングが始まりました!」
「オープニング!? オープニングってなんですか!?」
 困惑する2人を置いてきぼりにしながら、モニターには歌と編集された映像が流れ始める。


 暗き闇を 切り裂く

 聖なる刃が 唸りを上げる

 希望の ファイター!

 燃える想いが 叫び

 熱き血潮が 体が巡る

 究極の エナジー!

 たとえ 挫けて 折れたとしても

 その足が 地を踏みしめてる限り

 負けはしないのさ!

 Oh! Oh! いざ進めやレッツゴー!

 戦いのゴングは 鳴らされた!

 Oh! Oh! 吼え叫べパッション!

 最高のバトルは この後だ!

 いくぜ ガイアファイター!

 アクス! アクス! アクス!

 ガイアファイター・アクス!!



「――」
「あ、私これ知ってますよー」
「えっ!?」
 何がなんだか分からないといった様子の2人に助け舟を出したのは、横から見ていた女神だ。
「これはテレビでやってるヒーロー番組、『ガイアファイター・アクス』のオープニングですね。すんごい面白いんですよー。今は序盤に仕込まれた伏線がどんどん明らかになってるとこで、毎週毎週が見離せないというか――」
「あ、いや、問題はそのヒーロー番組のオープニングが何故流れているかということなんですけども。……司くん、チャンネル間違えました?」
「間違えてませんよ!? これは確かに裏トーナメント第二回戦第一試合の映像です! ――自信無いですけど」
「あ、Aパートはじまりますよー。わーい」


 意志乃鞘はついに悪の組織『カオスノワール』の本拠地を突き止めた。
 その場所こそが、今彼女のいる島。いつからか不法投棄物が集まるようになった、通称『惨骸島』。
 彼女は戦いに終止符を打つべく、単身この島に乗り込んだのだが……。
「くっ、さすがに本拠地……! 守りも厚いな……!?」
 彼女の前に現れるのは数々の雑魚戦闘員。
 捨てられたアキカンが怨念その他諸々で魔人化した野良アキカンや、その辺に捨ててあったゴミで武装したスクラップモヒカンが行く手を阻む!
「ヒャッハー! こいつをやっつけてボスに褒美をもらうぜー!」
「メカー! 我らスクラップの安寧の地を乱させはしないメカー!」
 尤も雑魚戦闘員というだけあって弱い。
 1発か2発殴ればそれだけで十分倒せる。しかし、数が多いのは何より問題だった。
 倒しても倒しても次々に湧いてくる為一切気が抜けない。モヒカンどもはガスバーナーを改造した火炎放射機や、電子レンジを改造したマイクロウェーブ波などで武装してるから尚更だ。
「汚物は消毒だ~!」
「お前は電子レンジの中に入れられたダイナマイトだー!」
 鞘は己に向けられた火炎放射やマイクロウェーブを華麗な体捌きで避けると、一気に懐へと入る。
「まったく、こんな場所で火を使うんじゃない!」
 モヒカンの持つ火炎放射機を蹴り飛ばす、と蹴り飛ばした先にはゴミから発生したガスが溜まっていたのか、それに引火して大爆発を起こす。
「ヒャッハー!?」
「メカアアアアア!?」
 爆発は連鎖を起こし、辺りを吹っ飛ばす。勿論、アキカンとモヒカンも纏めてだ。
 鞘も爆発に巻き込まれるが、爆風を利用して敢えて吹き飛ぶことでダメージを最小限に抑えていた。
 空中でくるりと1回転し、一際高いスクラップの山に着地する鞘。眼下ではアキカンとモヒカンが爆炎に巻き込まれる阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
 熱で暖められた事によって発生する風で揺れる前髪を手で軽く押さえながら、鞘は現状を確認する。
「雑魚はだいぶ片付いた……か?」
 ――これで本拠地であるジャンクバベルに行くのが楽になりそうだ。
 そう考えた刹那、自身を射抜くような殺意をその身に感じた。
 いや、射抜いたのは殺意だけではない。咄嗟にその身を捩った彼女の脇を弾丸が通り抜けていった。
「これは――!?」
 鞘は知っている。
 この弾丸を放った者を。
 だが、認めたくはない。彼女が自分に銃を撃つだなんて――!
 そんな希望を打ち砕くように、未だ消えぬ炎が襲撃者の姿を明るく照らした。
「さすが意志乃――そう言うべきかな?」
「糺礼――! 何故、君が!?」
 スーツを着た長身の女性。その右手には硝煙が上る拳銃が握られている。
 彼女こそ糺礼。かつて戦い、そして永久の友情を結んだ筈の仲間――!
「糺礼? ……違うな。糺礼は――死んだ」
「な、何を言っているんだ礼君!」
「今の私は――」
 礼が拳銃を上空へ向けて発砲する。
 しかし、放たれたのは銃弾ではなく光の帯。彼女の頭上に展開された光は、重力に従うように落ちていき礼を包む。
 彼女を包む光の繭が消えた時、そこに居たのは――

「私は、魔法少女ちゃーみんぐ☆レイちゃんだ!!」
 ふりふりの衣装を身に纏った魔法少女だった――!


「ちゃーみんぐ☆レイちゃん……だと……!?」
 鞘の表情が驚きに染まる。
 それもそうだろう。今、彼女の視線の先にはピンクを基調とした実に可愛らしい魔法少女――の格好をしたお姉さんがいるのだ!
 花が散っていたりキラキラとした光を纏っていたりすれば「あぁ、ちょっと年齢高めの魔法少女なんだな」で納得できたかもしれないが、そんなことはなく、辺りには炎と煙が渦巻いていた。
 鞘が知っている限り、礼はそのような格好を好む女性ではなかった。真面目で、クールで、煙草の似合う大人のかっこいい女性――!
「礼君、君に一体何があったというんだ――!?」
「ふ、意志乃――君には分からないだろうな」
 ちゃーみんぐ☆レイちゃんが魔法のロッド『しぐ☆ざうあー』を構える。
 レイちゃんがロッド下部に付けられたスイッチを押すと、羽の意匠が施されたロッド先端部からマジックショットが放たれた!
 慌ててステップすることで、それをなんとか避ける鞘。
「これただの銃撃じゃあないか……!?」
「違う! 魔法の力を使ったマジックショットだ!」
「思いっきり火薬に臭いがするぞ!?」
 そんな抗議の声を封じるように、レイちゃんがロッド先端部を鞘に向ける。
 鞘が黙ったのを確認してから、レイちゃんが再び口を開いた。
「私はな――魔法少女になりたかったんだ。憧れていた、といった方が正しいか」
 分かるだろう? とレイちゃんは寂しそうな笑顔で鞘に同意を求める。
「女なら魔法少女に……綺麗な女の子に変身したい。それは、どの時代であっても変わらない永遠の女性の願いだ」
 だが、
「だが、私は魔人に襲われ、おぞましい魔人能力に覚醒してしまったことで魔法少女になる術を失ってしまった――!」
 『あの時』の事を思い出したのか、体が震えている。恐怖による震えか、それとも怒りによる震えか――。
 その震えを抑えるように自分自身の体をぎゅっと抱いて、顔を伏せたまま言葉を搾り出す。
「く、ふふ……! だが、だけどな……! 私はこうして魔法少女になることができた!」
 腕を解き、胸を張るように背筋を伸ばす。
 レイちゃんのコスチュームは胸の形がよく分かるものだ。突き出される胸を見て、鞘は目を細めた。
「……普通の、胸?」
 あるべきところに胸がある。
 当たり前のことだが、これは礼に限ってはおかしいことである。彼女の場合、そこに『手』が無いとおかしいのだ。しかし、それが無い。
「私は変わった! これが私の新たな能力『この胸にキミを抱きしめたい』! そうだ。私は確かに、この『胸』で誰かを抱きしめることができるようになった――!」
 それこそが彼女の悲願――!
 だが、まだ分からないことがある。
「しかし、どうやって……! それに、何故私と敵対する――!?」
「その問いには僕が答えるよ」
 可愛らしい少年の声がレイちゃんの方から聞こえた。
 いや、正確にはいつの間にかレイちゃんの肩に乗っていた『ナニカ』だ。
「お前は……!?」
「僕が彼女を魔法少女にしたんだ。これこそがレイの望みだしね」
 嫌らしさを感じない純粋な声。――純粋な、悪意の塊。
「僕はノンべえ。――君も、僕と契約して魔法少女になってよ」


 カオスノワールの本拠地、ジャンクバベル。
 いつもは幹部が席を埋めている円卓の間に、今は1人の男しか座っていない。
 着物の袴姿の男は、目を伏せただ静かに腕を組んでいた。
「……ノンべえめ、余計なことを」
 男の名は兼石次郎。カオスノワールで特に優れた者につけられる7つの『マスター』の称号のうち、『ノックアウトマスター』の称号を与えられた男である。
 尤も次郎はカオスノワールが何を企んでいるかは興味が無いし、進んで協力するつもりもない。
 彼がこの組織に属している理由はただ1つ――強者との戦いを求めて、だ。
 次郎は知っていた。悪は強く――しかし、それを打ち倒さんとする正義は更に強いであろうことを。
 例えどんなに小さく弱い正義であっても、くじけぬ心がある限り正義はどんどん強くなる。
 それを知っていたからこそ、わざわざこんなつまらない組織にも手を貸していた――だというのに。
「『ビジネスマスター』のノンべえ……。奴が何を企んでいるかは知らんが」
 奴にも為すべき仕事があるというのだろう。だが、それは次郎には関係ない。
 関係があるのはただ1つ。ノンべえが強敵との邪魔をした……それだけである。
「ふん、潮時か……」
 強敵との戦いが出来ないのであれば、この組織に用はない。
 いっそのこと、首領の首でも土産にしようか――そう考えながら次郎は立ち上がるのであった。


「お前が『ビジネスマスター』のノンべえ……!」
 カオスノワールにそのような名前の幹部がいるという話は聞いたことがあった。
 それがまさか、こんなマスコットのような獣だとは想像の埒外である。
 ――いや、だが……!
 分かる。
 全くの穢れがない白い毛皮は、その毛皮自体が『穢れの象徴』であるということ――! 悪意しか存在しない故に、穢れることがない!
「ノンべえ! 礼君に一体何をしたというんだ!」
「さっきも言っただろう? 僕と契約して、魔法少女にしてあげたんだ」
 にこりと笑う。悪意に疎い人間ならころりと騙されてしまいそうな、可愛らしい笑み。
「契約……ということは代償があるはずだ! それは何だ!」
「代償は魔法少女になることだよ。本来は願いを叶える代償として魔法少女になるんだけどね。レイは願いと代償が一致してたんだ」
 ――くっ!
 ノンべえののらりくらりとした言葉に鞘は歯噛みする。
 ……大事な事を分かってて話そうとしないな……!?
 魔法少女になる。それだけが代償なわけがない。魔法少女にした上で何をさせるかが問題だ。
 また、代償だというのであれば、魔法少女になること自体に何らかのデメリットがある筈――!
 そんな鞘の思考に割り込むように、レイちゃんが口を挟む。
「まぁ――確かに魔法少女としての仕事を頼まれたがな。私にとっては普段の仕事とそう変わらん」
「それは……?」
「――魔人を殺すことだ」
 レイちゃんが『しぐ☆ざうあー』に魔法のエネルギーを溜めていく!
 すると、先端部が横に開き、中から新たな銃口が姿を見せた。
「バスターモード、いくぞ」
『レディ』
 雨のように弾丸が連続で発射された。


「ふふふ……。魔人を殺すことで手に入る『DP』。それこそが――」


 実況席。
「いやー、濃厚なAパートでしたね! まさかマスタークラスが一気に2人も出るとは思いませんでしたよ!」
「……そうですね。どこらへんが試合なのか分かりませんが」
「あ、玩具のCMで――『魔法少女の呪縛を破った、ワンダーレイちゃん変身セット』って明らかなネタバレですよね!?」
「よくあることですから、あまり気にしても仕方ないですよ。あっ、Bバート始まりますよ!」


 鞘は劣勢に立っていた。
 何しろ、レイちゃんの武器は強力な銃であり、しかもいまやマシンガンなみの威力と連射力を兼ね備えているのだ。
 火薬の臭いがぷんぷんしているが、一応魔法の力という言葉に偽りはないのかリロードをしている様子は無い。
 その為、鞘は近づくことすらできず逃げるしかない。物陰に隠れても、掃射で一気に吹き飛ばされてしまう。
 ――何より、どうすれば礼君を元に戻せる……!?
 このまま倒していいのか。その疑問が何よりの足かせとなっていた。
 ……魔法少女になって魔人を倒すことが契約だとしたら、その契約を執行できない場合のペナルティはどうなる――!?
 銃弾の嵐から身を隠しながら、周囲に視線を巡らせる。
 だが、この戦いをどこからか見ているであるノンべえの姿は見つからない。
「『ビジネスマスター』……ちぃ、上手いことつけた称号だな……!」
 敏腕営業マンである彼のことだ。決してリターンが回収できない契約はしないはずである。
 そう考えると、ペナルティは恐らく本人の死――! これでも『魔人を殺す』という目的は達成できる!
「なら、私が倒すことは……。――ぐぁ!?」
 唐突に右足に痛みが走って、思考が中断する。
 痛みの箇所に手をあててみると、べっとりと血がつく。跳弾か、それとも吹き飛んだ破片が当たったのかもしれない。
 このままでは殺られる。
 ――選ぶしか、ないのか……!? 私が死ぬか、礼君を殺すかを……!


 それは決して忘れることのない思い出。
「ねーねー、ヒーローって……何?」
「正義の味方だよ」
「正義……?」
「あぁ、そうだ。そして正義とは――己の信念。だから、迷わなければなんでもできる。それこそが――ヒーローさ」
「……うぅん、よくわかんない」
「ははっ、その内分かる時が来るよ」

 大事な思い出。


「――ふっ、そうだったな……!」
 ヒーローとは信念を貫き通す正義の味方! 今の私にように迷っていて、一体何ができるものか!
 気合を入れる為に両頬を強く叩く。
「私は死なないし、礼君も救ってみせる――!」
 ――それでこそ、ヒーローだ!!


 ジャンクバベル、最上階。
 5メートルはあろうかという扉の前に、次郎は立っていた。
「……さて、ここに『マスター・オブ・マスター』がいるはずだが」
 巨大な扉を片手で軽々と開ける。
 扉を抜けた先にあったのは、広間と玉座。だが、玉座に王の姿は無い。
「メガガガガガ!!」
「む」
 錆付いた鉄が擦れるような笑い声と共に、扉が自然と閉まる。
 それと同時に広間の中心の床が開き、階下から更に床がせり上がってきた。
 そうして新たに姿を現したのは、赤く錆びた巨大なドラム缶……!
「お前は……『アキカンマスター』の廃棄王ドラムカン、か」
「メガガガガ! 『ノックアウトマスター』次郎! 貴様、こんなところで何をしているメガ!」
「ふん、知れたことよ。首領の首を貰い受けに来た」
「メガー、やっぱりメガ! 貴様の動きが怪しいと思って見張っておいてよかったメガ!!」
 廃棄王ドラムカンの中から、アキカンが次から次へと出てきて周囲を埋め尽くす……!
「我がミリオン(一万)ストライク……貴様に受けきれるメガ!?」
「ふ、準備運動としてはちょうどいい――来い!」
 『アキカンマスター』と『ノックアウトマスター』の戦いが始まる――!


「うおおおおお!!!」
 残骸を集めて作った盾を前面に持ち、鞘が走る。
「その程度、撃ち砕いてやる――!」
『バースト』
 魔法のロッド『しぐ☆ざうあー』から放たれるマジックショットの嵐が盾を次々に削っていく。
 削られた破片が鞘の体を抉り、血が辺りへと飛び散る――しかし鞘は決して足を止めない。
「だが――これで終わりだ!」
『フルバースト』
 今の薄さの盾なら、簡単に貫ける。そう判断したレイちゃんは魔法力を最大まで注入する。
 それによって放たれたマジックバズーカは……盾を粉々に砕いた。
 砕かれた盾の向こう側に、鞘の姿は無かった。
「その身ごと、砕けたか。……最期に、私の『胸に抱いてやろう』と思ったのにな」
「おっと、その言葉は本当か――!」
「なっ!?」
 声は――上だ!!
 鞘は盾が吹き飛ばされることを念頭に置いて、跳躍をしたのだ。
 バズーカの超破壊力で盾が粉々になって煙幕となったことが手助けにもなっていた。
 鞘がレイちゃんの懐に入る。
「くっ……!」
 最早、この距離は鞘の距離。彼女の拳は一撃必殺――それはライバルとして数々の戦いを共に潜り抜けたレイちゃん自身が知っている!
 だが、
「――もういいんだ」
「えっ……?」
 鞘がレイちゃんを抱きしめる。自分の胸に抱くように、ぎゅっと――。
 攻撃ではなく、抱きしめられることに戸惑いを隠せない。
「魔法少女になんてならなくても……礼君は、礼君だ!」
「な、何を……!? お前に何が分かる!」
「分からない!」
 分からない、だけど。
「私が礼君を好きなことは、分かる――!」
「な、ば、馬鹿言うな!?」
「馬鹿じゃない! 君は素晴らしいヒーローとしての素質を秘めている!」
「……あ、あぁ、そう」
 なんだかレイちゃんががっかりしてるように見えるのは気のせいか。
「魔法少女になれないんだったら、ヒーローになればいい! 女性が変身するのは魔法少女だけじゃないんだ……!」
「だけど! あんなおぞましい私が……!」
「いいや。礼君が信念を貫くのであれば――それだけで、ヒーローだ。見た目なんて些細なことだ」
 鞘が何を言っているのか。レイちゃんには理解できない。
 理解できない。だけど、それでも、
 ――何故だろう。胸が、打たれる。
「……私が、ヒーローに……なれるのか?」
「なれるとも!」
 鞘がレイちゃん――いや、礼を抱きしめたまま、ジャンクの山に立つノンべえへと叫ぶ。
「さぁ、『ビジネスマスター』! クーリングオフだ!」


 ジャンクバベル最上階、決戦場。
「ふん、これで九千……といったところか? アキカン程度では準備運動にはならんか」
 辺りには粉々に砕かれたアキカンの残骸が散乱していた。アルミ缶ですら粉砕する次郎の力はさすがノックアウトマスターといったところだろう。
 しかし、一方的に押されている筈の廃棄王ドラムカンは余裕の笑みを消さない。
「メガガガガ! 粉砕されることも作戦のうちメガ!!」
「ほぅ?」
「いでよ! ジャンクロード!」
 粉砕されたアキカンの残骸が部屋のあちこちに飛来していく。
 そのアキカン礫を攻撃と判断した次郎は身構える、が彼の方に飛んでいくことはなかった。
「何をするつもりだ……?」
「メガガガガ!! すぐに分かるメガ!!」
 直後。
 ジャンクバベルが揺れた。
 地震、ではない。まるで『それ自身』が立ち上がるような揺れだ――。
「メガー! アキカンの『要素』をこの塔に散布したことで、この塔自身を『アキカン』にしたメガー!」
「何……?」
「そして、アキカンであれば『アキカンマスター』のワレが支配することができるメガ! これこそがジャンクロード!」
「――しかし、塔が動いても結局この場は変わらないのではないか?」
「……メガ?」
 廃棄王ドラムカン、窮地を脱せていないことに気付いていなかった。


 ノンべえにクーリングオフをしてもらった礼はいつものスーツ姿に戻っていた。
 『ビジネスマスター』の称号を戴いてるだけあってか、仕事はしっかりこなすようだ。
 ノンべえ本人もここで抵抗する事の無意味さを知っているのだろう。ここで時間を取るぐらいだったら次の営業に回った方がいい、と。
「さぁ、後はカオスノワールを潰すだけ――って、なんだ!?」
 彼女達の視線の先、ジャンクバベルが動き始めていたのだ。内部から手足が生えており、まるで巨大なアキカンのような形になっていた。
「拠点そのものが最終兵器……というわけか!?」
 そう呟いた刹那、塔の頂上付近で爆発が起きた。
「……一体、何が起きているというんだ?」
 動き始めた塔は、爆発が起きたことが原因でか動きを止めた。
 ――だが、沈黙は何かの前兆だったのか。
 塔は先程以上に暴れ始めたのだ!
 腕を、足を、振るえば地面が抉れ、スクラップが宙を舞う。あの爆発を生き残ったアキカンやモヒカンが踏み潰されていた。
「な、何ぃ!?」
 そんな2人の前に1人の男がどこからか現れる。『ノックアウトマスター』次郎だ。
「……やれやれ。まさか廃棄王ドラムカンを潰したら、暴走するとはな」
「お前は、『ノックアウトマスター』!」
「正義の味方、か。……手を合わせたいところだが。そういう場合でもないな」
 鞘も次郎も、お互いが倒すべき敵だということは理解している。
 だが『ジャンクロード』が大暴れしている以上、次郎は邪魔の入る戦いを望まないし、鞘の優先度も現状を切り抜けることの方が高い。
 超大型の機動兵器が暴れているという途轍もない状況――ではあるが、次郎はニヤリと笑った。
「ふ、機動兵器潰しか……。それもまた良い戦い、か」
「……まったく、さすがのバトルマニアだな。しかし、あれが外に出ても困る」
「あぁ、ここで潰さなくては――!」
 こうして、意志乃鞘、糺礼、兼石次郎の最初にして最後の共闘が始まる――!


 ジャンクロード。その力は絶大にして暴力的といえるものであった。
 正に、絶暴の象徴――!
 仕込まれた数々の砲塔からはマシンガンが、ロケットランチャーが、ビームが発射され、辺りを火の海へと変えていく。
「だが――狙いは大雑把だな」
 ゆっくり歩くようにしかし尋常ではない素早さで火線を潜り抜け、一気に足元へと入るノックアウトマスター。
 両足を地にしっかりとつけ、真っ直ぐ立つことで丹田に気を溜める。
「破ァァァァァァ!!!」
 巨体を支える脚に向けて、裂帛と共に拳が放たれる――それが、ジャンクロードを大きく揺らし、倒した。
「――ちょっと、言うべき言葉が見つからんな」
「あ、あぁ……」
 一個の人間の力とはとても思えない攻撃に、鞘も礼も呆然とするしかない。
「しかし、これはチャンスだ!」
 ジャンクロードの形からして、そう容易くは起き上がれない――そう思った時だ。
「む――?」
 倒れたジャンクロードの壁面に火が点る。――ブースターだ。それを利用して、起き上がったのだ。
 いや、起き上がるどころではない。なんと飛行したのだ!
「飛行アキカン塔・ジャンクロード……。なんでもありだなぁ……」
 さすがに飛んだ相手には手が出せないのか、次郎も困った顔を見せ――いや、笑った。
「成る程。この力を使うことになるとはな――『永劫』」
 時が止まった。
 いや、正しくはその場にいるものが動けなくなったのだ。
 これこそが次郎の能力、永劫! 範囲内にいる者の動きを止めるというもの!
 ジャンクロードは人間ではない為効果が無い――そう思われた。しかし、ジャンクロードはあくまでもアキカン! アキカンであれば――効果がある!
 行動不能状態になり、ジャンクロードは地に堕ちる!
 落下地点のスクラップを破砕し、墜落するジャンクロード。しかし、そのボディに傷はついてない。
「追撃の――激!」
 そこに次郎の蹴りが叩き込まれる、が、やはり少々抉った程度で効果的なダメージにはなっていない。
「未熟……!」
「いや、少しでもダメージを与えるだけ凄いと思うけどなー……」
 永劫の効果が切れたのか、絶暴のジャンクロードが再び立ち上がる。
 このままでは――決め手がない。
「……さて、どうしたものか」
「――私にいい考えがある」
「いや、ちょっとその言い方だとあまり聞きたくないんだが」
 礼の言葉を無視して、鞘が作戦を話し始める。
「あれだけの巨体だ。どこかに動力炉がある筈。それを叩き潰す――!」
「成る程、道理だ。……だが誰がやる?」
 次郎の問い。それは「誰が死ぬ?」というものだ。
 動力炉を潰すということは、大爆発が起きてもおかしくない。そうでなくても、ジャンクロードの崩壊に巻き込まれたら死は免れないだろう。
 その問いに、
「私が往く」
 やはり、というべきか。鞘が名乗りを上げた。
 更に、
「ふ、お前にだけいい格好はさせるか。私も手伝わせてもらおう」
 礼も表明した。
 彼女は近くにあったモヒカンのバイクが動くことを確かめると、それに跨る。
「後ろに乗れ。届けてやるよ」
「おいおい、警察がノーヘルで2人乗りしていいのか?」
「緊急事態だ」
 礼の後ろに鞘が乗り、礼に抱きつくように腕をまわした。
「いくぞ――!」

 バイクが走る。
 絶暴の象徴へと。入り口は見えている――爆発で穴が開いた最上階だ。
 尤も、バイクでそのまま行くことはできない。
 そこで、
「いくぞ!」
 バイクが下に棒が仕込まれた板の上に載ったところで、次郎が板の反対側を強く踏み込む。
 そうして、てこの原理でバイクが――空を飛んだ。
「うおおおおおおおお!!」
 空を飛ぶバイク。2人がジャンクロードへの頭に近づいていく。
 このままいけば2人は無事にジャンクロードの中に入ることができるだろう。
 が、
「――死ぬのは1人だけで十分だ」
「えっ?」
 鞘が後部座席で立ち上がり、バイクを蹴るように跳んだ。
 その反動でバイクは失速するように落ちていく。
「ノックアウトマスター――任せたぞ」
「……やれやれ」
 落ちていく礼を次郎が空中でキャッチし、スクラップの山に着地した。
 それを見届けて、鞘が内部へと入る。
「待て――待て! 私をヒーローにしてくれるんじゃないのか……!?」
 礼の声は届かない。
「……さぁ、じきに爆発するだろう。その前にここを離れるぞ」
 そんな礼を、次郎は羽交い絞めにすると無理矢理移動を開始する。
 ――ヒーローになるというのであれば、ここで死なすには惜しい。
 礼も抵抗はするが、相手はノックアウトマスター。首に手刀を入れられて気絶させられてしまった。

「……生きて、戻れよ」
 次郎が繋がれたボートである程度島を離れた時。
 島が極大の爆発に包まれた。


 ――こうして、ジャンクバベルは崩壊した。
 ――しかし、戦いはまだ終わっていない。なぜなら『マスター・オブ・マスター』は姿すら見せていないからだ。
 ――失意に沈む仲間達の前に、新たな敵が姿を現す!
 ――それに立ち向かうのは――!? 次回ガイアファイター・アクス、『現れたモヒカンマスター』期待してくれよな!

「はぁー……いいお話でしたー」
「え、いや、次回予告されても困るんですけど……これどうするんです?」
「誰か説明してください……」
『説明しよう!』
 沃素の言葉に応えるように、モニターに繋がれたスピーカーから男性の声が聞こえる。
「わー、ささきさんの声です! 番組のナレーションですよ!」
「……うん、説明してくれるならそれでいいです」
『結論から言ってしまえば、これは意志乃鞘の能力によるものだ!』
「意志乃様の……? しかし、意志乃様の能力は――」
 司が首を傾げる。彼の知っている鞘の能力はあくまで人にヒーロー補正を与える能力。こんなことができるものではない。
『正しくは、彼女がヒーロー補正を与えた能力によって、こうなったというべきだ』
「ヒーロー補正を与えられた……?」
『世界を作る能力者がヒーロー補正を持つことで、世界は運命によって変わるようになってしまった――逆転してしまったんだ』
「運命によって変わる?」
『ヒーローがいるなら、ヒーローが戦える世界に。魔法少女を望む者がいるなら、魔法少女になれる世界に。達人がいるなら、達人が力を発揮できる世界に――改変された。その結果が、これだ』
「鞘ちゃん……はともかくとして、礼さんや次郎さんまでなんというか、こう……ハジけてたのは?」
『世界の影響を強く受けちゃったのではないだろうか。何はともあれ、原因は世界ということだ』
「え、しかし、このマップは女神様が作ったもので――!?」
 そこまで言ってから、司は気付く。
 鞘が一体誰にヒーロー補正を与えたのか、ということを。
「……え、なんで私を見るんですか?」
 女神オブダークネス。
 聞いたところによると、彼女は試合前に鞘とがっつり握手をしていたらしい。その時に補正を付与されたのだろう。
「これ、ルール的にどうなんです?」
「……う、うーん。事前に制定した反則には抵触してない、ですね」
「勝敗は?」
「……島が爆発に包まれる前。つまり、意志乃様が確実に生きている状況で、兼石様と糺様はマップから離脱しています」
「ってことは……?」
「意志乃様の勝ち、ですね」


 ――『HERO WORLD』






「さーて、次に魔法少女になってくれる子はどこかな……?」
最終更新:2011年11月11日 23:28