準決勝第二試合 バロネス夜渡
採用する幕間SS
なし
試合内容
『Oh comer done think on the coalmine hack a barn』
オカマバー「カーマラ」、閉店後。
「なあ、俺は何でこんな仕事をしてるんだ?」
「アタシに雇われたからでしょ」
机に向かって作業をする二人の男……もとい、一人の男とオカマ。
手元には青と白の二色の布。ミシンで縫い合わせているようだ。
「いや、確かに俺の仕事は便利屋なんだけどさ、もっとさ……こう……
とにかく、こういう内職するような感じじゃあないの」
「えっ」
「えっ」
「……だってアタシ忙しいのよ。仕込みもしなきゃいけないし、お店だって出なきゃなんないんだから。
それともアンタ、池松叢雲の情報でもあるっての?」
「いや……それはないけど」
「じゃあ手、動かしなさいな。
別に女装してお店入れとかじゃないんだから」
「つってもだな、俺別に裁縫とか得意じゃ……」
「魔人だから大丈夫でしょ」
「はあ、そんなものかねえ……」
――無茶苦茶な理論だ。
便利屋、南瀬弘市は頭を掻いた。
――さっさと終わらせて、家に帰ろう。
NEW【夜なべマントLv.1】
青白二色刷りの特製マント。
一部に星が散りばめられた爽やかなデザインは、バロネスには似つかわしくない。
池松叢雲。バロネス夜渡。
この二人にとっての対戦相手は、1回戦で自らを下した男を髣髴とさせる。
池松叢雲は、その遠隔操作能力に不動昭良を思い返し。
バロネス夜渡は、その身体性能に
裸繰埜闇裂練道をみることだろう。
互いにとっての疑似リベンジマッチ……そのはずだった。
熱気に包まれた空間に、空気も淀む、劣悪な環境。
酸素の欠乏と気温の上昇がバロネスの調子を狂わせ、理性を奪ってゆく。
要するに、頭が湯立っていた。
本能の赴くままに動き始めるほどに。
オカマの本能――行動原理の根底に向けて……
一方の池松は、涼しげな表情。
もっとも、彼の顔の上半分は鳥仮面に覆われているため、完全に表情を窺い知ることはできないのだが。
環境が苛烈なら、それに適応した英語を繰り出せば済む話だ。
丹田から英語を生み出し、正しき呼吸で接する。
「cool-cool-cool-cool」(「くるくるくるくる」という英語)
高度に高められた英語は、魔人能力と区別がつかない。
既に悪環境には動じない。
あとは一撃の為に、呼吸を整えるのみ。
それからしばらくの時間を経て、邂逅する二人。
出会っての、バロネスの第一声は。
「その……アタシと、体液交換しませんか?
唾だけでも、いいですから……!」
バロネスは、己が欲望に素直に動いていた。動き過ぎていた。
その根本原理は要するに、“愛”。
「I’m-nick(生憎)、そのような趣味はない」
「そ、そんなあ……いけずー」
寂しそうな(不気味な)顔を浮かべていたバロネスだが、不意に、影を帯びたような表情へと変わる。
「……きっとあの転校生や、半裸坊やの方がいいんだ。
ねえ、どうしてアタシだけを見てくれないの?
やっぱり、”向こう”で一緒になるしかないのね……」
「――落ち着け、Baroness夜渡」
「キャッ、名前で呼んでくれた! 名前、呼んでくれた……!」
「言葉が通じんようだな……いいだろう、Lessonだ」
言い終わると同時に、強烈な踏み込み(Who-mean-call-me)!
バロネスの取った動きは、迎撃ではなく――
持ちこんだマントを、高々と掲げ上げた。
青地に浮かぶ五十個の白星、白地に引かれし十三条の赤線。
星条旗――合衆国の象徴。
「アナタの為に、用意したの……気に入って貰えるよね? ね?」
主たる国の象徴、今の池松の英語では、傷一つ付ける事は叶わない。
英検士破れたり、いや違う――!
「女王陛下万歳(job-of-acre-buzz-why:「大英帝国に栄光あれ」という意味の英語)」
放たれた英語が、布切れをばらばらに切り裂いた。
布を細切れにするほどに、恐ろしいまでに鋭く英利なる舌剣でしか出来ぬ芸当。
「な、なんで……!」
「Queen’sに切り替えたまでのこと」
バロネスの困惑を攻略理由に解釈し、流暢に答える池松。
「……せっかく作ったのに……お揃いなのに……!」
「……相変わらず話の通じん奴だ」
そう言い放つと、池松は再度呼吸を整えにかかる。
荒々しく力強い所作に終始していた今までとは、いささか呼吸が異なる。
アメリカ式が全力の一撃の為に力を溜め続けるのに対して、イギリス式は平時の力の配分を極力抑え、一撃への力を温存、集中させる。
もっとも、方法論こそ異なれど、本質は同じだ。
一撃に全てを注ぎ込むための、発話(hats-were)。
ふと、自分の身体を見やると、ところどころに返り血。
池松はあの赤色は血で描かれていたのか、と得心する。
切り裂いた国旗に塗られていた血を浴びせかけるのが真の狙いか。
「ふふふ……体液交換体液交換体液交換」
バロネスがその血での操作を試みるも――
「闘ッ(taught:教えたという意味の英語)」
池松は全身を激しく震わせ、身体の血を篩い落とす。
「ひどい!」
「やっぱり……その邪魔な手足なくしちゃおう」
続いてバロネスの持ち出したのは大量の鶴橋!
既に体液はべったりついている……血の付いた鶴嘴による、波状攻撃!
迎撃も防御もせず、一歩引いてみせる池松。
なんと奥ゆかしい所作!
「……何で逃げちゃうの?やっぱり、足もがなきゃ」
刃の群れが迫る度に後ずさる池松。
じりじりと後退していった彼の背に、何かにぶつかった感触。
行き止まり。
尚も追い縋る鶴嘴。
彼の目が、爛々と光輝く。
ついに一撃の構えに入ったのだ。
反動で吹き飛ばされぬよう、背中を預けるべき壁は既に見つかった――
「雪月花(set-get-cut)」
一切の無駄の無い、洗練されきった雅(mean-yawn-been)なる一撃。
閉鎖空間で撃ち込まれた全力の英語は、襲いかかる刃物を打ち砕く。
その凶悪な勢いはそれだけには留まらず、池松自身の周囲に存在する、硬く
分厚い岩盤をTofu(柔らかいもの、校舎の外壁、等の意味の英語)の様に叩き割る。
造られた無数の瓦礫同士は勢い良くぶつかり合い、夥しい破片を生む。
破壊が更なる破壊を呼び、炭鉱全体を大きく揺るがす。
その激しい衝撃に、最初に耐えられなくなったのは――他ならぬ炭鉱自身だった。
女神の設えたフィールドは、発生した膨大なオブジェクトに処理落ちたのか。
そもそも岩盤が崩れる程度は想定していても、“フィールド全体が”丸ごと
壊される事態など想定していなかったのか。
眼下に広がる奈落へ、全てが崩落していく――!
戦闘領域は炭鉱内とされていたが、その炭鉱自体が崩れ去った今では、元々炭鉱が
あった位置がエリア限界とみていいだろう。
落下すれば、その時点で負け扱いだ。
こうなると俄然有利なのは、浮遊能力を有するバロネス夜渡。
そう思われたが……
閉鎖された戦闘空間が吹き飛んだことで、新鮮な空気が一気に肺に侵入、脳に酸素を
行き渡らせ、バロネス夜渡は覚醒した。
というより、正気に戻った。
「なーに年甲斐もないことやってんだアタシ……」
彼は自嘲とともに、自らの行いを完全に『おもいだす』。
バロネスの眼に映るは、鳥仮面の男。
その仮面のデザインに反して、飛行能力の無い彼は、為す術の無く落下を――
するわけはなく。
落下していく残骸を、踏みしめた!
「堂ッ(dome)」
舞い散る瓦礫を――
「烈ッ(let)」
蹴り飛ばしては――
「魅ィッ(meet)」
次の瓦礫へ移り――
「風ァッ(far)」
まるで宙を駆けるかの如き――
「空ッ(solar)」
英語!
目にも止まらぬ速さで、鳥仮面の男がアクロバティックに飛び回る!
英検の級から段への最大の壁と言われる、八艘跳び(hash-auto-beam)の技前だ。
巧みなる動きに、翻弄されるバロネス。
ただ跳び回っているだけでなく、踏み込んだ足場が絶妙に蹴り込まれ、バロネスの逃げ場は狭められているのだ。
そして――
「死ッ(shit)」
頭上からの強烈な蹴り!
身体を無理繰り紙一重でかわすバロネスと、池松の視線が合う。
蹴りは囮。
狙いは交錯の一瞬――!
拳に乗せた全力の一撃を叩きこむため、池松が発音する!
「オワリダ(all-warn-eater:『これで終わりです』という意味の“不完全な”英語)」
……“不完全な”英語!
英検40段の人間にはあり得ないことである!
急速に動きの鈍った池松を、バロネス夜渡の拳が捉える。
防御に掲げた腕を圧し折り、重い一撃が叩きこまれた。
池松を襲う、違和感。何処から来るものか、彼は思考する。
殴られた触覚……否(inner)。
自らの英語を聞き取った聴覚……違う(cheek-gown)。
正体は……味覚。
血の味。自らのではない――!
「シタヲ!」(hit-tongue-war!:『舌を操りましたね』という意味の“不完全な”英語)
星条旗を切り裂いた時に、飛び散った血液。
体液交換を目指した“先程までの”バロネス夜渡が、池松の仮面に付いた返り血を
彼の口内向けて滴らせていたのだ。欲望のままに。
池松の身体は、平時のパフォーマンスを発揮できない。
それどころか、全身に火傷のような痕が生まれ始めている。
不完全な英語は、話者を大きく傷つける。
特に有段者ともなれば、その反動は計り知れない――
英検士とは、そのリスクと引き換えに英語を宿す覚悟を決めた求道者なのだ。
「……ふむ(whom)」
落下していきながらも、瓦礫の一欠片を手に取る池松叢雲。
それを逆手に構えると。
自らの身体に、しめやかに刻み付ける!
そこに刻まれた文言、それは。
Come-could-go――『覚悟は出来ています』という意味の、英語。
Speaking、Reading、Listeningと共に、英語の四聖と称されるWritingの技術である。
英語を刻まれた肉体が、再び勢いを取り戻す!
最早足場となる物体が無くなりつつあるものの、池松は数少ない足場を駆使し、バロネスへと飛びかかる――
「『Bloody-Siege』――英語ってこんな感じだっけ?」
ビリビリに破かれた星条旗の切れ端が、寄り集まり。
形成するは、トリコロールの幾何学模様。
青地に赤と白のラインからなる、王国の象徴、ユニオン=ジャック――
既にその身に書き込んだQueen’s(えいこくしきえいご)が、本能的に“それ”への攻撃を拒絶する。
空中で急制動をかける池松だが、勢いは止まらず。
池松叢雲の身体が、物理的な壁に当たったのかの如く弾かれる。
虚空に投げ出された彼は、足場を失ったまま、彼方へと落下していく。
「ミゴトだ」(we-got-done:『見事な発音ですね』という意味の、“不完全な”英語)
仮面の奥の瞳が、一瞬柔和な笑みを湛えた、そんな気がした。
終(See-you:「お読み頂きありがとうございました」という意味の英語)
最終更新:2011年11月13日 23:37