XTA-45HL
設定
オオツキ重工が量産化を視野に入れて開発した、試作型対魔人兵器。
丸みを帯びた3m近い巨体は、まるでゴーレムを思わせる無骨なシルエットである。
殆どの攻撃を防ぎきる重装甲と、その巨体に見合う凄まじい出力、
さらに近接格闘戦すら可能とする良好な運動性能をも兼ね備えている。
カタログスペック上は20年代の兵器にも迫る性能を誇っていたものの、
認識した対象を単純に攻撃する事しかできない未熟な戦闘ロジックや、
巨体故の気密性の弱さ、関節部への負荷の大きさ等、多くの問題を抱えた失敗作であり、
次世代量産機の制式採用は、後のTA-73Dまで見送られる事となった。
今回は、実動テストに用いていた実験機をそのまま参戦させているため、
上記の弱点等は改良されておらず、内部パーツもやや劣化している。
【赤外線レーザー機銃】
頭部の単眼から発射されるレーザー兵器。出力は皮膚を焼く程度であるが、
空気中での減衰が少なく、回避は困難。鎮圧対象に対する牽制効果も高い。
「身体スキル」:【巨体Lv.2】【ハイパワーLv.4】
「知的スキル」:【熱源・動体センサーLv.1】【単純Lv.-2】
「固有スキル」:【感染兵装7008[魔]】【複合装甲Lv.4】
「オプション」:【赤外線レーザー機銃Lv.4】【大容量バッテリーLv.3】
特殊能力『感染兵装7008』
暴徒鎮圧用としてかつて試作されていた、旧式の生物兵器。
XTA-45HLの各部から突き出したパイプから常に吹き出す排気ガスの中には、
機体内部で培養された特殊なバクテリアが大量に含有されている。
これを吸気すると、軽度の麻痺症状と共に視神経に重大な障害を与える。
具体的には、至近距離でこの排気ガスを吸い込んだ生物は一切の視力を失い、
さらに全身の痺れによって身体能力も低下、反応速度に遅れが生ずる。
排気ガスの圏内から逃れることができれば症状は一分程度で回復するものの、
それでも後遺症として、視力は極端に低下したままとなってしまう。
プロローグ
ダンジョンオブ女神オブダンゲロス内、トレーニングフロア。
[おはようございます。こちらはオオツキ重工治安維……]
男性的な合成電子音声は、ドスン、と響く重低音にかき消える。
瞬間的な衝撃が、厚さ70cmの強化アクリルガラスを震わせた。
[現在テストモードで稼動しております。設定環境につきましては、インジケーターの表……]
またしても振動。先程から規則的に続いている。
外界から隔離されたダンジョン内は裏を返せば、兵器の性能テストのための試験場としては、
格好のセキュリティ環境を備えた立地であるとも言えるのだろう。
[デバッグ用データの送……]
ドスン、という音。
ガラスに囲まれて蠢く、金属のゴーレムじみた人型兵器の足音ではない。
それどころかこの兵器は、先刻から一歩も動けてはいないのだった。
[送信は……]
再び、ドスン、と轟音が響く。
立ち上がる。踏み出す。そして転倒。振動の正体はそれだ。
人型を模したこの兵器の左膝部を見れば、細い鎖が絡まって伸びているのが分かるだろう。
――兵器と対峙する、小柄な少女の手元へと。
「相手は相当のスペックです。危険なようであればすぐにこちらへ知らせてください」
ガラス外の記録室で呼びかけるカチューシャの少女は、運営スタッフの結昨日司だ。
隔離されたトレーニングルーム内で対峙する少女の背丈は、司よりも更に低い。
兵器との体格差は、ゆうに2倍近くはあるだろう。
「問題ないわ」
鈴を思わせる澄んだ声が、インカム越しに返る。
「機械と聞いて不安だったけれど、この程度の出力相手なら指先程度で十分ね。
直線的な動きだし、コントロールも容易い」
彼女は3m程先で転倒を続ける兵器に対して、一瞥すら向けていなかった。
立ち上がろうとした瞬間にそれを察知し、本人以外に計り知れぬ微妙な加減で鎖を引く。
するといかなる力学的作用が働くのか、鎖の先端に繋がれたオオツキ重工の対魔人兵器――
XTA-45HLの巨体は、揺れる天秤の如くバランスを崩し、強かに床を打ち付けるのだ。
[おはようご……]
少女が鎖を引く。コンクリートをも砕く威力の拳撃は見当違いの方向へ繰り出され、そして転倒する。
敵の行動の一瞬前に『力の流れ』を脳内で解体する、生来の才能。
そして鎖を通じて微妙な力を加える事で……全く別の『流れ』へと再構築する。
ただ縛るだけで一切の抵抗を無力化するこの『封鎖』の技を使いこなす戦闘者は、
数十名を超える結昨日家の魔人の中にも、彼女唯一人しか存在しない。
名を、結昨日鎖という。
「んー。やっぱり鎖ちゃんには勝てないか」
ガラスの向こうを覗き込む映の呟きは、予想通り、というニュアンスも含んでいた。
一方でモニタに向かって戦闘記録を打ち込み続ける結昨日司は、
結昨日鎖と対魔人兵器の戦闘の様子は、目指せずともその魔人能力で把握する事ができる。
「対魔人兵器とはいっても、所詮は旧式という事なのでしょう。
もっとも……あの結昨日鎖様以上の兵器がトーナメントに参戦されても、
それこそこちらが困るのですけれど」
「そうは言っても、鎖ちゃんと互角程度っていうのがオオツキと最初に決めたラインだからね。
面白そうだったけど、こいつの投入はちょっと見送りかなー」
無様に転倒を続ける人型の巨体は、スポンサーのオオツキ重工から提供された『参加者候補』。
選手が足りない場合のリザーバー枠として……という名目だが、
XTA-45HLという型式番号からして、失敗した試作兵器の厄介払いという意図は明らかである。
一通りのデータを打ち込み終えた司は、ため息と共に鎖に呼びかけた。
「テスト完了です。お疲れ様でした、結昨日鎖様」
「分かったわ。開けて頂戴」
司達の居る記録用エリアに繋がる小さな扉が開き、やや憔悴した様子の鎖が姿を現す。
遠隔操作で戦闘モードをカットされたXTA-45HLは、ガラスの向こうで人形のように座り込み、動かない。
「……さすがに頑丈だよね。
鎖ちゃんの封鎖ってさ、相手の力をそのまま返すタイプの攻撃なんでしょ?
見た限りあいつ、ほとんどダメージ受けてないじゃん」
「ええ、確かにそうですが……結昨日鎖様」
「……大丈夫だって言ったでしょう。この程度のこと。気にしないで」
「何……? 鎖ちゃん?」
ふらついた鎖の華奢な体を、咄嗟に駆け寄った司が支える。
『限定全知』は、自動的に戦況を把握する。それが当人にしか感じられない、主観的なものであっても。
結昨日鎖が圧倒していたかに見えたこの試験にあって……司は『その異変』に気付いていた。
「目をやられたのですね?」
片手で顔を覆った鎖は、数秒ほど逡巡したようだったが……
司の問いに、かすかに頷いた。
「最初に煙を浴びたのが迂闊だったわ。
……でも鎖を繋ぐには、凌いで当てるしかなかったから」
「結昨日映様。すぐにワン・ターレン様を」
「煙……って、ちょっと……」
ガラス越しに観戦していただけの結昨日映も、さすがに状況は理解できた。
煙に毒が……恐らくは何らかの生物兵器か、化学兵器の類だ。
ワン・ターレンに連絡を入れながら、ガラスの中を見る。
先程まではどこか滑稽な印象のあったこの丸みを帯びた巨体が、どこか寒々しく恐ろしい物に思えた。
単純な突撃兵器と見せかけて、その裏に文字通り毒を仕込む。
まさに対魔人の名に相応しい、悪辣な兵器――
鎖は視力を奪われながらも、手元に伝わる力の感触のみで『封鎖』を行う自信があったのだろう。
それを確認はしても止めることはしなかった司の判断も分かる。
映といえど、それは理解している……
しかしそれが分かってもなお、冷や汗が流れる。
「鎖ちゃんじゃなきゃ……やばかったんじゃないの?」
最終更新:2011年12月03日 01:15