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梓と転校生 ID:rNvpwWM30氏

最終更新:

匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [↓] :2010/03/24(水) 01:44:57.73 ID:rNvpwWM30
 中野梓はあくびを噛み殺しながら部室に向かっていた。
 折からの陽気の中、外では気の早い春一番が吹いている。
 桃の季節が間近に迫った、そんな放課後。ふと見下ろした窓の下、梓は彼女を見
つけた。

 まず目を引いたのは、制服。
 他校のもので、しかも近隣では見ないタイプだ。

 容姿も、ちょっと見たことがない。
 顔が小さいのか背が高いのか、とにかく等身が高い。
 梓がそれ以上に注目したのは、胸。
 軽音部の諸先輩方はもとより、顧問教師の山中さわ子と比べても、はっきりと大きい。
 ずどーんとした梓にとってはうらやましい限りである。

「転校生かな?」

 思ったが、梓が足を止めたのは、それだけが理由ではない。
 彼女がじっと見上げる、視線の先。そこにあったのは、軽音部の部室だったのだ。

「と、急がなきゃ」

 部室から漏れ聞こえてきたギターの音色に、梓はあわてて身をひるがえす。
 窓が揺れている。風はまだ止まない。

「ほあーっ!?」
「譜面がぁーっ!? なんで窓開けるのよ、このバカ律ぅ!」

 いつもの喧騒と春一番が、梓を迎えた。


42 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [↓] :2010/03/24(水) 01:46:44.86 ID:rNvpwWM30
 明けて月曜日の放課後。
 いつものように音楽室に向かっていた梓は、階段の上り端に、先日の少女を見つけた。
 制服は桜ケ丘のものになっているが、特徴的なスタイルと髪型は見間違えようがない。
 少女は階段の下から、じっと軽音部の部室を眺めている。

「あの、うちになにか用ですか?」
「きゃ!?」

 梓が声をかけると、少女は飛び上がった。

「ああああやしいものじゃないです。わたし三浦茜と言ってですね」

 少女はひどく動揺したように、体を震わせながら自己紹介を始めた。
 並んで立つと梓より頭一つは大きい長身である。

「その、まだ一年なんですけど、転校生で、場所とかわからなくてですね」

 ――ど、同級生……それでこんな差が……

 梓も知らずプルプル震える。
 ちょうど目線あたりにある巨大なものを自分と引き比べれてみれば、将来性とかいう言
葉もむなしい。

「わ、私は中野梓。学年同じだから敬語とかいいし……それよりこの上って、音楽室――
軽音の部室しかないんだけど――こないだも下から眺めてたよね? ひょっとして、音楽
に興味あったり、する?」
「ふぇ? 音楽ですか? いや、音楽は違うくてですね、むしろちょっと苦手なんですけ
ど、その、なんだかびーんじゃじゃじゃーんとか言ってるから宇宙人とかに電波送ってた
りするのかなって……」


43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [↓] :2010/03/24(水) 01:47:57.00 ID:rNvpwWM30
 ――ずれてる。なんだかこの子盛大にずれてる。

 どうしようもない認識の違いを感じて、梓は疲れたように肩を落とした。

「中でどんなことやってるか、気になるなら、見てみる?」

 もはや年下を気遣う心もちで、梓は少女に提案した。

「嫌ぁっ!」

 返ってきたのははっきりとした否定。ではなくて悲鳴。
 よく見れば茜の豊かな胸が、彼女の背後から伸びた両手に揉みしだかれている。

「先生っ!」
「うーん、戦闘力測定不能。まさに未知との邂逅」

 はふう、とくずおれた茜の後ろからあらわれたのは、音楽担当教諭にして軽音部顧問、
山中さわ子だった。というか見なくてもこんなことする人間に複数の心当たりなどない。

「いや、部室の前でまだ見ぬ胸が揺れてたら……揉むでしょ?」
「そんなキメ顔で言われても」

 どう見ても変態の所業である。

「つーか、どうするんですか。三浦さん、倒れちゃってるじゃないですか」
「うーん、とりあえず……さらっちゃう?」
「やっぱりうちゅーじんだぁ」

 さわ子のたわごとと妙にシンクロしたうわごとを、少女はつぶやいた。


44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [↓] :2010/03/24(水) 01:49:14.90 ID:rNvpwWM30
 気絶したところを部室へ連れられた三浦茜は、当然のように部員一同の好奇の視線にさ
らされた。

「なになに? 入部希望者!?」

 田井中律は目を輝かせ。

「さわ子先生……またやらかしたんですか」

 秋山澪は目を眇める。
 大正解である。梓は苦笑をうかべる。

「先生のセクハラで倒れちゃって」

 ――さわちゃんならさもありなん

 梓の説明に対する先輩たちの反応は、驚きでも非難でもなく、納得だった。
 ともあれ、気絶した茜はとりあえずソファの上に寝かされた。
 仰向けになる形だが、そうするとひときわ胸のふくらみが目立つ。

「ふぉおおおおお……」

 と、まぶしいものでも見るように、平沢唯がぷるぷると手を伸ばす。

「だ、だめですよ唯先輩!」

 中野梓は必死に三浦茜をかばう。

「でもあずにゃん、すごいよー? 特盛りだよー? 触ったらきっとご利益あるよー?」
「……ありませんから! つーか気の弱そうな子なんですから、いじっちゃだめです!」


45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [↓] :2010/03/24(水) 01:50:29.19 ID:rNvpwWM30
 そのやりとりを見ていた山中さわ子が、ぎらりと眼鏡を輝かせる。

「アリね」
「大いにアリです」

 紅茶を淹れていた琴吹紬もおっとりとした口調で同意した。
 またこいつらは、と言いたげな瞳を向け、秋山澪がため息を落とした。

 そんなことをやっているうち、茜が目を覚ました。
 ゆっくり薄目を開けた彼女に、皆の視線が集中する。
 驚いたようにあたりを見回すと、彼女は不安そうに口を開いた。

「あの、すいません。ここは?」
「軽音部の部室。あなた、倒れちゃったから」

 思い出したのか、茜は顔を真っ赤にして頭を下げた。

「ごめんなさい! ご迷惑をおかけしちゃって」
「いや、あれはこっちが、というかさわ子先生が原因だし、気にすることないよ」

 梓の言葉を聞いて、茜の視線がさわ子に移動する。
 さわ子はほーれ、とばかりに両手をわきわきさせた。
 茜は小さな悲鳴をあげてソファの後ろに隠れてしまった。

「――先生?」
「いやちょっとした冗談だから! あなたもそんなにおびえないでお願い後ろからの視線
が冷たすぎる!?」

 背後からの圧力に悲鳴を上げるさわ子をしり目に、紬はソファから半分顔を出した茜に
微笑みかける。


46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [↓] :2010/03/24(水) 01:51:35.81 ID:rNvpwWM30
「ほんとにごめんね? お詫びと言ってはどうかと思うけど、よかったらお茶をご一緒し
ませんか?」
「ムギちゃん印のお菓子もあるよー。おいしいよー」

 唯が皿に乗った焼き菓子を左右に揺らす。
 茜の視線が左右に揺れる。

「ちょ、唯先輩、猫じゃないんですから」
「でもあずにゃんはこれで釣れちゃうよー」
「わ、私は別に……」

 言いながらも、梓の視線も焼き菓子にくぎ付けになっている。

「ほら、あーずにゃん」
「つ、釣られませんからね!」

 顔をそむけながらも、梓は焼き菓子をチラチラ見ている。

「欲しかったらにゃーって言って、にゃーって」

 悪乗りする唯。顔を真っ赤にする梓。
 そして。

「に、にゃあああ」

 ソファの陰に隠れた少女が、焼き菓子ほしいと必死に自己主張した。
 時が凍りついた。
 茜の顔が真っ赤に染まる。
 紬はいつの間にかビデオカメラを回していた。


47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [↓] :2010/03/24(水) 01:52:42.12 ID:rNvpwWM30
 その後、茜を交えて茶会となった。
 一同甘味にとろけながら自己紹介していき、茜もそれに倣った。
 それから軽音部の活動や、めいめいの楽器などに話が移ったのだが、それについ
て彼女はなにやら勘違いしていたらしい。顔を真っ赤にしていた。
 なにを勘違いしていたのかは、ついに口を割らなかったが。

「ねえ茜ちゃん? あなた、軽音部に入ってみない?」

 ようやく打ち解けてきた茜に対し、紬が唐突な提案をした。
 さわ子がわが意を得たりと親指を立て、澪はひそかにため息を落とした。
 彼女が三浦茜のなにを買ったのか、理解できてしまったのだ。

「え? いや、その、わたし音楽は苦手で、というか全然知らなくてですね、素人なんで
そんな音楽とか」
「大丈夫だよ! 私だって入部したときなんか全然素人で、コードとかもわからなかった
し!」
「それは今でもだろう……」
「そうそう、澪も人前で歌うのはずかしいっ! ってプルプル震え――あぐぐなにすんだ
澪っ!?」

 からかうような調子の律に、澪が顔を真っ赤にして口を封じにかかる。

「それに」

 バトルする二人をしり目に、紬が言葉を継ぐ。

「わたしたちが卒業しても、梓ちゃんが一緒に演奏できる相手がいるって、それは素敵な
ことじゃないかしら?」
「ムギ先輩……」


48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします [↓] :2010/03/24(水) 01:53:56.38 ID:rNvpwWM30
 不意打ちにそんなことを言われて、梓は思わず目を潤ました。
 茜も一緒になって目を潤ませていたが、他人事ではないと思いだしたのか、あわてて手を振りだした。

「いやでもですね、わたしも放課後とか」
「おいしいお菓子もつくよっ!」
「このさわ子先生が個人レッスンもしてあげる!」
「夏には合宿とかするし!」
「私お手製のコスチュームも完備!」
「はいはい、さわちゃんこっち来て余計なこと言わない」

 さわ子は律に連れて行かれた。

「その、やっぱりですね……」

 言葉の途中、茜は一同の視線から逃れるように窓の外を見た。
 そこで何を見つけたのか。

「ほんとに、わたしでも出来るでしょうか」
「うん! ぜったい! 私が保証するよ! 優秀な先生もいるし!」

 唯が背中をたたいたのはさわ子ではなく、梓である。
 二人の眼が逢う。梓は照れ臭そうに笑って、彼女に手を差し伸べた。

「いっしょに軽音、やろう?」
「ぜひ、お願いします」

 茜は両手でその手を抱いた。
 外の風はすでに春の温もりを抱いている。
 部室から見える風景に、気風のよさそうな店主が勤める売店があったのは、まあご愛嬌。

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