『猫岸魅羽、五年後。』
頑丈なだけが取り柄の、粗雑な造りの木製の棒。
ちょっと、自分に似ているとこがあるかな、なんて思ったりして。
猫岸魅羽が五年間押し続けてきた、労働バー。
流石にこれだけ長いこと押し続ければ愛着も湧いてくる。
最初はつらい労働だったけど、慣れるのにそれほど長い時間は要らなかった。
でも、いつまで経っても慣れないことは、ある。
――ヌガコンブ帝国。
それが、ふたりの女帝“
北楢椎子”と“桐森ヒトハ”が統治するこの国の名だ。
かつては日本と呼ばれていた列島に位置している。
そして、帝国の地下深くには電源を安定供給するための巨大労働バー施設が建造され、伝説の樹を巡る争いに敗れた者たちは死ぬまでバーを押し続ける。
そこに、百合原かもめ(旧姓)の姿はない。
アンドロイドであるかもめの動力源は電力である。
そのかもめが労働バー発電に従事するとどうなるか……エネルギー保存の法則をご存知の方なら、それは全くの無駄であることは理解できるだろう。
かもめが解体処分されてから、もう五年が経った。
「かもめちゃん……」
労働バーを押しながら、魅羽が今は亡き愛しいパートナーの名を呼ぶ。
涙が頬を伝う。心が暗い闇に沈む。
それでも、体は動く。
五年間続けてきた動き通りに、労働バーを押して足を運ぶ。
労働バー装置が、回る、回る、回……止まる!!
ダン! 空気を震わす大きな音とともに、労働バー区域の照明が消え、地下空間が闇に包まれる。
ミシミシ。ミシミシ。労働バー装置の中央で機械が軋む音。
労働バー装置が、破壊されている音……?
ミシミシ。ミシミシ。破壊音は一ヶ所に集束してゆき……そこに緑色の光!
光はやがて人の形を成す。
ああ、その姿は忘れようもなく!
「ごきげんよう。私のことをお呼びになって?」
「か……かもめちゃん!?」
魅羽は労働バーを投げ捨て、かもめの元に駆け寄って飛び付く。
ここで逃がしたら今度こそ永遠に再会できぬとばかりに、強く強く抱き締める。
「どうして……どうして……?」
「うふふ、たとえ身体は滅びようとも、パーソナルデータは健在でしたの。でも、ごめんなさい。帝国のメインサーバを乗っ取るのに少々時間が掛かりすぎてしまいましたわ」
「ううん、いいの。良かった……無事で良かった……!」
「手土産もありますのよ」
そう言って、かもめは一束のデッキを取り出す。
「これが、この五年間で私達が蓄えてきた力。例えばこの『雨竜院愛雨』を御覧になって」
「これは……矢達メアさんの未来の姿……? ステータス合計……79!?」
「ふふふ、他にも凄いキャラクターがいっぱいですわよ」
「これなら……あの二人に勝てる!」
「そう! 今こそ時を遡り、雪辱を果たすときですわ!」
「時を……遡る!?」
ドーン! 労働バー施設が大爆発!
その衝撃で魅羽とかもめは五年前の世界に戻った……!
未来の最強デッキを手にして!
――森の奥深く。
魅羽とかもめの前に現れたふたりの女性。
緑色のマントで身を包んだ少女が、紫の唇に穏やかな笑みを浮かべる。
みすぼらしいなりをした、痩せた貧相な少女がおどおどとした様子で付き従う。
五年前に見た光景と全く同じ――でも!
魅羽とかもめは手にした未来のデッキを握りしめる。
今の私たちなら、あいつらにだって……
GK「流血少女MMのキャラクターは使用禁止です。また、存在しないキャンペーンのキャラクターが多数デッキに入っています。悪質なマナー違反とみなし『狩るにゃんエクスプレス』は失格とします」
「えっ?」
「えええっ!?」
(おわり)
最終更新:2015年09月14日 20:29