満天星国

EV172

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elm0707

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EV172 ”種族を分ける”



■ 藩王声明文


 満天星国藩王都築つらねより、満天星国国民の皆さんへお話しさせて頂きたい事があります。

 我々は、これまで長い道のりを歩いてきたと思います。帝國や共和国の歴史、天に瞬く星の命に比べたら、まるで短いかもしれませんが、それでも我々には長い、とても長い道のりだったと、そう思います。満天星が満天星となる前から、そしてその後も、思い出したくも無いこと、胸に今でも暖かくのこっていること、辛かった哀しかった、楽しかった嬉しかった、様々なことがありました。
 我々は、我々それぞれの輝きを持っています。その輝きは、幾つもの星座を形作り、幾つもの物語を紡ぎあげ、壮大な星空という一枚絵を描いてきました。その絵を自ら眺めて、我々は、これまで生きてきました。

 しかし、災厄はいついかなる時でもすぐ傍にあるものでもありました。
 私にはつい先日に感じるのですが、宇宙と地上の両方において、我々は大きな哀しみを背負うことになってしまいました。星の輝きの多くが失われ、星々の形は崩れ、描かれてきた絵は、今そのほとんどを黒で塗りつぶされてしまっています。まだその哀しみから立ち直れていない方々も多いと思います。

 今少しだけ時間をください。失われた星々のために、祈りを。

 我々は、失われた過去を、そのままの形で取り戻すことはできません。
 あの頃思い描いていた未来を、そのままの形で願うことは、とても難しいことです。星座は元には戻りません、今紡がれている物語は我々が思うようには修正できず、あの絵はもう私たちの目の前からは消え去ってしまいました。

 皆さんに、幾つかお尋ねしたいことがあります。
 我々の傍らにあった、今はもうない星々は、何を願っていたでしょうか。何を想い、何を考え、何をしようとしていたでしょうか。そして、今まだ、小さくても輝きを失っていない、暗闇の中で少しでも瞬きを続けている我々は、今はもうない星々と、どのようにして共にいようとしていたでしょうか。

 少しでも、少しずつでも良いのです。思い出してみてください。

 色んな事があったと思います。とても多い、数えきれないような、様々な事があったと思います。我々には思い描く絵がありました。

 天の動きは止まりません。時間は刻まれていきます。
 その流れの中で、我々は様々なものを失いました。

 ですが、皆さんに思い出してもらいたい、大事なことがあります。

 共に描いていた絵は、一度ぐちゃぐちゃに塗りつぶされたからといって、諦めてしまいたいようなものだったでしょうか。それを諦めて、そのまま何も見えない暗闇の中で、ただ一人輝きを保っていたいと思うようなものだったでしょうか。
 今私の話を聴いている皆さんは、それを望んでいますか。

 時間は止まりません。天はただ流れるばかりです。
 しかし、多くを失った我々にも、流れる先だけは、残されています。
 私は、それは未来というものだと思います。

 未来は、わからないものです。もしかすると、今よりも遥かに暗い闇が待っているかもしれません。
 ですが、我々はまだ、命という輝きから手を離してはいません。皆さんの手には、まだ輝きが、例えそれがとても小さなものであるとしても、残されています。そして我々は、その輝きをもってして、ついこの間まで、壮大な絵を描いていたのです。
 その輝きは、貴重なものです。数多くの輝きが失われ、その輝きが望んでいた絵を描けなくなった。そんな今では、とても、とても貴重なものなのです。

 皆さんは、その輝きを手放すことができますか。

 我々には未来があります。それは、また新しい輝きが生まれてくることでもあります。
 我々には、未来を歩む権利があり、それは新しい輝きにとっても同じことです。彼らにも、描きたい絵が、きっとあります。それは我々が思い描いてきた絵とは少し違うかもしれませんが、それでも彼らがその絵を描く権利は確かにあるのです。
 思い出して下さい。皆さんが輝きを持ち始めた時のことを。その時に、そしてその後に、皆さんが周りの人たちと、どうその輝きを星座にしていったかを。

 皆さんは、新しい輝きが何の価値も無いことだと思いますか。

 我々に残された輝きは小さなものかもしれません。
 しかしながら、その輝きは一つだけでは無いのです。我々はまた改めて、また新しい星座や物語や絵を作り上げていくことができます。一方で、それはどれだけ大きな輝きであったとしても、ひとつだけでは作ることができません。
 初めて、皆さん一人一人が、誰かと何かを作り上げたことを思い出して下さい。今までに作り上げてきた、たくさんのことを思い出して下さい。

 皆さんは、本当に先の無い暗闇の中で、未来永劫孤独なままでしょうか。

 止まらない天の動き、流れの中で、我々は残された小さな輝きを持ちながら、塗りつぶされた絵の中で、途方に暮れています。しかしながら、止まらないその流れの中で、刻々と近づいてくる未来に面しています。
 何をするべきか、何を想うべきか。皆さんが、その問いの結果として、未来に何を置くかは問いません。しかしながら、残された者として、今まだ輝きを持ち続けている者として、自覚をもってして、未来に何かを置かなくてはならない。私はそう思います。

 悲しみは、今や我々に共通したものです。その間にどんな差異があれ、我々それぞれが、その中にいることは変わりません。
 しかしながら我々には、今を生きる、未来を迎える者として、やるべきこともあるのです。
 我々には、そして我々に続く全ての存在は、やるべきことがあるのです。

 私、都築つらねは、満天星の政治をあずかる者として、為すべき事があります。皆さんにお願いする、法律や政治に関することが幾つかあります。
 しかし、それ以外に、皆さんがその輝きをもって、未来に何をしようとするかについては、星座を、物語を、絵を作っていこうと望むことには、何ら口を挟もうとは思いません。その望み、また自らの輝きと他の輝きをもって、共に素晴らしい絵を描こうとすることには、できるだけ多くの助力ができればとも思っています。

 もう一度だけ、尋ねさせてください。
 皆さんは、誠心誠意をもって、今この時、我々の未来に何を願うでしょうか。

 私は例え未来がどんなものであろうとも、この輝きを手放さないことを、切に願っています。私の先には、数多くの子供たちが続くでしょう。私の隣には、数多くの人々が、皆さんがいます。
 私は、できうることならば、満天の星の輝き、その願いとともに、未来を歩みたい。願わくば、失われた星々が、天からそれを見守っていることを祈って。そう思っています。

 また始めましょう。また続けましょう。
 未来には、煌びやかな輝きの中で、大きな絵を描けているように。

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L:満天星の民= {
 t:名称 = 満天星の民(人)
 t:要点 = かつての争い,和解の努力,慎重な
 t:周辺環境 = この世の終わり
 t:評価 = 体格2,筋力2,耐久力2,外見2,敏捷2,器用6,感覚3,知識2,幸運0
 t:特殊 = {
  *満天星の民の人カテゴリ = 高位人アイドレスとして扱う。
  *満天星の民は一般行為判定を伴うイベントに出るたびに食料1万tを消費する。
  *満天星の民は歩兵系職業着用時全能力で+4修正を得る。
 }
 t:→次のアイドレス = 話合いの努力(イベント),工場労働者(職業),バイク乗り(職業),バイク兵(職業)

☆ 満天星の民の歩み ☆


1:合併と弾圧と軍政

 T13半ばに起きた事件当時の状況は政府側からは断片的にしか知ることができていない。後の調査で判明した事は以下の3点。
 一つは合併の後、旧ビギナーズ王国出身の国民が台頭することを危惧した旧都築藩国出身の国民が先手を打って、政治、軍、司法、警察、教育、経済……、国内のあらゆるポストを独占したこと。もう一つは、その独占の元、旧ビギナーズ王国出身の国民に対する弾圧が行われたこと。そして最後の一つは、その弾圧が指数関数的に激しさを増した、ということであった。

 現時点で弾圧に関与したことが明らかになっているのは、その名を「つらね党」と言う旧都築藩国の出身者からなる団体であった。対して、旧ビギナーズ王国出身の国民、初心の民は「初心解放戦線」を組織し、これに抵抗した。

 この時、国内の内乱にかなり大規模な形でセプテントリオンが関与していたことが明らかになっている。弾圧の事実が明らかになる前、満天星国の主要産業の一つにWDの製造販売があったが、これは旧都築藩国の主要産業でもあった。一方、旧ビギナーズ王国の主要産業の一つであったエアバイクは不振に陥っている。これは弾圧の影響によるものだったが、逆に好調であるWDはその取引先の大部分がセプテントリオンであったことが判明している。また「初心解放戦線」が使用していた武装はセプテントリオンによって供給されたものであり、対する「つらね党」に対してもセプテントリオン製の核兵器が供給されていたことが判明している。さかのぼって、都築つらね藩王が“白にして混沌”ことオンサ嬢を手打ちにしたという事実無根の噂を流された結果“狂王にして法官”と呼ばれ、国民の支持を大きく失う結果になっていたことについても彼らの関与が疑われる。いずれにせよ既に起こってしまった事柄であり、ここでこれ以上の追及をする意義は薄い。

 この状況下において、クーリンガンが「初心解放戦線」に接触し、これを扇動する形で土場藩国への攻撃手段としてこれを利用している。経済的に不遇であった旧初心系国民に対し経済グループの中心である土場藩国への攻撃をそそのかしたものと推測されるが、詳細は不明である。満天星国政府は直ちに政策を発布し国民への呼びかけを試みるも、既にマスメディアの分野に対しても独占を行っていた「つらね党」によってこれを妨害され、既に政策発布による事態解決は事実上不可能な状態に陥っていた。

 ようやく弾圧の存在を認識するとともに、それを主導したとみられる「つらね党」を藩国部隊で鎮圧することが困難であると判断した満天星国政府はPHG(プリンセス・ハート・ガーズ、現EHG:エンペラー・ハート・ガーズ)に助力を要請し、PHGによって武力鎮圧が行われた。結果、「つらね党」の構成員の拘束、及び政治権限の奪還に成功している。しかし、この時既に、民族浄化と呼ぶしか無い大量の虐殺が確認されており、その被害者は700万人に達したとみられている。その多くが女性と子供であった。結果として、旧都築藩国系国民と旧ビギナーズ王国系国民の人口比は4:1にまで変動している。

 こうして、政治権限を奪還した政府であったが、そのまま事態の解決に至ることはできなかった。一連の事件に対する犯罪捜査は、警察及び法官も旧都築藩国出身の国民で占められていたため正常には機能せず、加えて、ここまでの経緯により政府の支持率は著しく低下していた。ここに至り、宰相と相談の結果、解決方法は武力鎮圧以外に無く、自力での藩国再建は極めて困難であるという結論に達し、一時的に宰相へ国権の移譲を行い、宰相府藩国による軍政がしかれることになったのである。

 ただ、現在までに相当数の旧初心系国民が国外への避難に成功していたことが確認されており、彼らを対象とした帰還事業が現在も継続中である。

(#宇宙開発拠点“コスモス”2 HISTORY(筆者:タルク)より引用、追記及び修正)

2:試行錯誤とわずかな前進と内戦再び

 宰相府藩国による軍政下で、満天星国政府の急務となったのが甚大な被害を受けた旧初心系国民をまず精神的に、そして経済的に立ち直らせることであった。おりしもEV137「平和と喜び」の最中であり、旧初心系国民がミアキス等、宇宙艦船の開発実績があり今後の発展が期待されたことから宇宙開発分野への進出が検討されるも、検討された宇宙都市計画はそれ自体が分離独立運動に火を付けかねない、とまで言われる状況であり民族間の対立は極めて険悪であった。

 それでも試行錯誤の末、宇宙開発拠点“コスモス”は完成する。しかし、その姿は本来想定されていた“宇宙における研究開発拠点”としてのものとは異なり、“交通・運輸の拠点”としての役割が与えられたものだった。これは旧都築系国民の影響が色濃く表れたため、と考えられる(ただ、L化されたデータとは異なり実際には宇宙開発に関する技術研究に利用されている事が確認されている)。コスモスはこの時点では民族間に遺恨を残す結果となってしまったのである。

 慰霊祭を行うも、人心の荒廃は激しく。国外へ避難した人々に帰還の動きは見られず。非常に困難な状況のまま満天星国はT14を迎えた。それでも、軍政からの復帰後、EV143「幸せってなんだっけ」でようやく復興の兆しが見られ、また、タルクという名のある旧初心系の国民がマンインザミサイルによって航空機の世界速度記録を更新するなど明るいニュースもわずかながら見られるようになる。また、雇用の非人種差別などの推奨と優遇措置が広範囲に行われ、ようやくかつてのポスト独占の状態から脱却しつつあるなど、まだまだ政府への信頼は低く、旧都築系・旧初心系国民が共に不安を抱えている状態ではあったが共に今の安定を大事にしたいと願う状況に至ったのだった。この衝突の状況は国内のインテリ層を発端として変化しつつある事が確認されており、一つの国としてやっていくためには、いがみ合っていてはいけないという意識が芽生えつつある事がうかがえる。この時期、農業博覧会での受賞や経済専門家の星鋼京への派遣が行われた。後のレンコンのヒットや、帝國において経済専門家が活躍へとつながる一つのきっかけであり、特筆すべきと考える。

 しかし、虐殺や拷問への恐怖から頭や手足の無い子供が生まれたり、依然として民族不和がくすぶっている事が確認されるなど、互いの国民に残された傷跡は深かった。対処として教育によって子供たちの世代から対立意識を追い出す事が模索され、現在も取り組みが続けられている。

 ただ、その頃に行われた「満天星国 星まつり」と、あわせて行われた慰霊碑への献花では30万人もの国民が訪れ、国内で高い評価を受けるなど民族間の対立感情は徐々にやわらぐ兆しをみせつつあった。

 だが第7世界時間で約1ヶ月後、またしても事態は急変することになる。

 法官機構が麻痺状態に陥った際、汚職を行った法官とそれを摘発しようとした法官同士の戦いが火種となり、内戦が勃発したのであった。藩国部隊によって鎮圧されたものの内戦による死者は100万人を超え、その犠牲者の90%は旧都築系国民であった。これにより政府機能は事実上の停止状態に陥り、再び憎しみと恐怖とが国を包むようになったのである。

3:試行錯誤とわずかな前進と試行錯誤

 その後、多くの人の努力のお陰で何とか「表面上静かに見える」状態まで落ち着きを取り戻したものの、民族間の対立感情は長く尾を引き続けた。

 それでも、T15に入り教育と福祉の分野から政策が実施され、また、レンコンが特産品として知名度を上げ、温泉産業振興が功を奏して観光業が徐々に上向くなど、国内制度と経済とで少しずつではあるがようやく一つの国として国を建て直し、平和を享受する兆しが生まれてきたのである。しかし、それは決して平たんな道のりではなかった。大きく人口を減らしている旧初心系国民への保護政策とこれ以上の争いを避けるための分離政策とによって国内産業は二民族間で分割された状態に置かれ、また、一度は宇宙開発拠点コスモスと藩国地上部へ同時に攻撃を仕掛けられた事もあった。だがそれでも、警察官達は黙々と職務を全うし国の護りとなり、経済専門家達が星鋼京などの諸国で大きな活躍を見せ、国内では摂政と国営工場のスタッフ達の尽力によって通称らうーるカーと呼ばれるエアバイクが帝國全土に普及する大ヒット商品が生み出されるなど、徐々に、本当に徐々にではあったが一つの国として満天星国はまとまろうとしていたのである。長い年月をかけ、旧都築系国民と旧初心系国民との間に、民族間の協力が無ければ国の発展は為し得ないという思い、もう二度とあのような国民同士で殺し合う悲劇を繰り返したくは無いという気持ちが根付きつつあったのである。

4:旧都築と旧初心と満天星の民

 そんなこんなで、おっかなびっくりながら、ようやく経済的に安定を取り戻し、長年の環境政策とらうーるカーのヒットの相乗効果で豊かな自然を取り戻しつつあった。だが、その平穏に影を落とす存在がNWに迫りつつあったのである。

 宇宙の果てから接近する想像を絶する大群。一般に広く知られる呼称を以って、これを“宇宙怪獣”と呼ぶ。目的、所属、その正体、一切が不明。ただ、接近しつつある彼らがNWに到達した瞬間、NWが崩壊する事だけは確実であった。
 この危機に諸藩国の多くの人々が尽力し、これを退けることには成功した。しかし、その余波はNW全域で莫大な被害をもたらしていた。満天星国も例外ではなく、コスモス2、地上共に甚大な被害を出す結果となってしまっている。

 いまだ被害の爪跡は深い。それでも、人々は立ち上がろうとしていた。否、生きていくためには、あの平穏を取り戻すためには、立ち上がらねばならなかった。かつて国民同士で争い殺し合った記憶は今も両国民の心に影を落とし、長い時間を経た今もその傷は完全には癒えていない。それでも、二度とあのような事を繰り返したくないという悔恨、そして束の間ではあっても確かに、共に享受した平穏への希求を胸に、おずおずと、少しずつではあっても旧都築と旧初心、共に力を合わせて立ち上がらねばならなかったのだ。

 せめて新しく生まれてくる子らに平和な国を、その心に憎しみでは無く他者への慈悲を。共に力を合わせ、再び立ち上がる事が出来た時、彼らは初めて「満天星の民」になるのだろう。

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☆ Side Story ☆


満天星国はエアバイクの国である。
 旧ビギナーズ王国ではエアバイクピケ、ピケ・サイドカー、ピケ・パンツァー。都築藩国と合併してからのピケ・アラウンドワールド。そして満天星国純正のエアバイクらうーるカー。数多くのエアバイクが生まれ、一時は衰退し、再び発展し、緩やかに国に浸透していった。
 その結果、今や満天星国は帝國最大の反重力マシンの供給国となり、最大の使用国ともなった。
 エアバイクの普及により満天星国からは舗装された道路は少しずつ数を減らし、今では僅かな散歩道以外では見られなくなった。すべてをエアバイクに乗ったまま過ごすことができるように国は発展し、国民もエアバイクが足となるほどにエアバイクに慣れ親しんできた。
 満天星国の人はエアバイクと共に歩いてきた、いや、エアバイクに乗って進んできたと言っても過言ではない。

 エアバイクを乗りこなすということは、ただ単に機体の挙動に慣れるということではない。空気を読み、地形を読み、適切な時適切な力でもって浮遊するということである。ある程度は機体のコンピューターが判断して行うものではあるが、高速で動けば動くほどその補正は甘くなってゆく。
 その機械で判断しきれない部分はただ経験を持ってしか補うことはできない。経験はただひたすら長く乗り続けることでしか得られないものであるし、今まではそれは戦場を駆けるピケライダーの間にしかなかったと言われている。
 しかし、今は違う。今の満天星国民にはそれがある。
 今や満天星国の国民は乳母車代わりにエアバイクに乗って育っているのである。学校への登下校は無理でも幼少時から自家用のもので自転車代わりに乗り回している者もいる。その日々の積み重ねは紛れもないエアバイク乗りとしての経験である。
 そしてそれは、今確実に芽吹きつつあった。



 満天星国商店街。そこは今やエアバイクに乗ったまますべての店舗で買い物ができるようになっており、らうーるカーが行き交えるように道幅は広く取られている。その広さと、エアバイク交通ルールの普及によりほぼトラブルは起きないのが常であった。
 しかし常というものは『常に』破られるものである。

「どこ見て浮いてんだてめぇ!」
「そっちこそどこ見て流されてやがんだよ!」

 そんなに狭くもない、広くもないそんな道のど真ん中で2台のエアバイクが、いや、エアバイクのライダーがもめていた。片や民生用ピケに跨った銀髪の、片やらうーるカーに跨った黒髪のライダー。
 別に二人の機体がぶつかったというわけではないし、どちらかが危険運転をしたというわけでもないのは周囲の状況からも明らかであった。そしてもう一つ周囲の状況から明らかなのは、この騒ぎが今回だけのことではないということである。
 どの店を見ても『またやっているよ』という表情でその顛末を見守っている状態だ。どうやらこの商店街ではおなじみの光景らしい。

「お前はいっつもそうだよなっ!中学の時から流されてばっかでよー」
「おま、小中高と浮わっついてばかりのお前に言われたくねえょ!」

 等々、お互いに子供の頃からの相手の不満を大声でわめき続ける。おそらく二人は幼馴染なのだろう。それ故に皆も見守っているのだと思われる。
 ぎゃあぎゃあと擬音がつくほどの口論の末、恐らくは辺りの店で控えている店員に取り押さえられるのであろう。
 それが破れた常の『常なる』治まり方なのだと思っていいた。


「きゃあ!」

 きっかけは一つの悲鳴。同時に響くエアバイクの加速音。
 その音に気付いた全員がそちらを見た時には、既に事は過ぎ去っていた。
 残されたのは倒れた女性だけ。
 ひったくりだ、誰が言葉にするまでもなく全員が気づいた。
 そして犯人を捜す。しかしすでにその後姿も残ってはいなかった。
 電光石火、そう評するのが相応しいほどの早業であった。
 誰もがあっけにとられて追うことも動くこともできないでいた。

 しかし、二人は違っていた。

 同時にターンをかけてフルスロットル。
 甲高いファンの回転音が周囲に響き、一瞬遅れて二つの流星が飛び出した。
 立ちぼうけているエアバイクの間を縫い、僅かに残されたエアバイク特有の気流を追う。
 エアバイクが走った後は気流が乱れる。すぐにそれは元に戻るが、隊列を組んで進む場合は後続車がそれを計算に入れる必要もある程度には跡が残る。
 二人はそれを追うために敢えて計算しないで進んだ。運転が乱れる方向からどちらに犯人が逃げたか計算するためである。ある程度まで計算できればその先では必ず何かしら新たな痕跡を発見することができる。
 再びの悲鳴もそれにあたる。
 逃走を急いだところで商店街は狭くはない。必ずどこかで人と交錯する。その声が近いことを確認して二人は互いの顔を見合わせた。
 同時に頷いて二手に分かれる。ピケはそのまま追跡をし、らうーるカーは脇道に機首を向けた。
 程なくピケライダーが犯人の姿をとらえる。お決まりの黒ずくめの恰好はらうーるカーには不似合いだなと思った。
 犯人が衝突した時にできたであろう障害物を最小限の動きで躱して追跡する。
 距離が詰まってきたところで相手も気付いたらしく、更に障害物をまき散らそうと店舗の前を掠めて妨害に走る。
 それもすべて躱し、更に肉薄しようとするが、なかなか距離が詰まらない。
 スペックとしてはあまり変わりないはず、ということは考えられる答えは一つ。改造車である。
 その事実にピケライダーは憤慨した。そのような邪道は許されない。いつも張り合ってきたあいつはそんなものには頼らなかった。ただ自分の腕前と壊れない機体だけをもって向かってきた。
 だから、絶対に逃がさないと決めた。

 一度集中する。空気と地形と人の流れをもう一度確認する。ベストの流れ、ベストのラインは必ずある。敵がそれを走ることができない程度の相手であれば、ベストのラインをつけば必ず追いつく。
 焦らず、ただ全身に返ってくる空気の波を感じる。
 ここだ、という波をつかむ。
 相手が乱す気流も計算して、最適なタイミングで、最適な強さで、スロットルを回した。
 今まで流れるように進んできたピケが速度を上げ、滑るように走り出した。
 勝負はその瞬間に決していた。スペックの差を埋める技術によって両者はついに並んだ。

「観念してお縄につけ!」

 銀髪のライダーの叫びに犯人は一瞬だけそちらを向き、ためらいもなく持っていたバッグを投げつけた。捕まるよりも今逃げる方を優先した故の判断である。そしてそれは有効であった。
 バッグを受け止めたためにバランスを崩したピケをはその場でスピンし急停止した。
 自らの目で追跡が止まったと確認した犯人は悠々と再加速し、その場を後にする。

「そこまでだっ!」

 その瞬間、脇道かららうーるカーが飛び出した。
 あまりにも突然すぎて避けきれなかった犯人と衝突し、両機はくるくると回りながら店舗の壁にぶつかって停止する。
 先ほど別れた黒髪のライダーは裏道を駆使して先回りしていたのだ。タイミングと場所はなんとなくあいつならこれくらいの速度で追いつくだろうという経験から弾き出した。
 結果として少し早かったが最も油断した瞬間を捉えることができた。
 その代償として揃ってらうーるカーは中破し、黒髪のライダーも額から血を流すこととなった。
 犯人も同じ状況ではあったが諦めないもので、中破したらうーるカーからのろのろと抜け出し、更に逃亡しようとする。

「今度は観念するよな?」

 しかしそこには復帰したピケが待っていた。
 一瞬の逡巡の後、犯人はその場に跪いた。



 騒ぎが収まった頃に到着した警察によって犯人は連行されていった。
 中破したらうーるカーの回収も終わり、事故にあった黒髪のライダーは救急車の前で手当てを受けていた。
 そこに、銀髪のライダーが近づいてくる。

「お前もっと早く来いよ。俺が追いついてなかったら逃げられてたぜ」
「うるせぇ、俺は善後策として最終的にお前の立ち位置につく予定だったんだからお前だけで捕まえとけよ」
「知るか。バッグ落としたら大変だろうが。というかお前もっとうまくぶつかれよ、機体壊してんじゃねーよ」
「うっせ、修理に出す俺の財布の寂しさも考慮しろっていうんだ、無傷で済ましやがって」
「……都築系が」
「……初心系が」

 言ってはいけないはずの言葉を口にし、しばし沈黙する二人。
 やがてどちらからともなく口を開いた。

「「やるじゃねーか」」

 ニヤリと笑ってお互いの手を取り固く握手を交わす。
 固く握られたその手は、この国のこれからを象徴しているようであった。


 この二人が後に軍に入りピケライダーとして頭角を現していくのは、そう遠くない未来の話。


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(クリックで別画面が開きます)

L:満天星犬士 = {
 t:名称 = 満天星犬士(種族)
 t:要点 = 犬人間、迫害、過去
 t:周辺環境 = 世界の終わり
 t:評価 = 体格2,筋力3,耐久力3,外見2,敏捷2,器用2,感覚2,知識2,幸運2
 t:特殊 = {
  *満天星犬士の人カテゴリ = 犬士種族アイドレスとして扱う。
  *満天星犬士は根源力100000を持つ。
  *満天星犬士は一般行為判定を伴うイベントに出るたびに食料1万tを消費する。
  *満天星犬士は任意の満天星所有の人アイドレスに変化出来る。
 }
 t:→次のアイドレス = 人狼(職業),狼人(職業),土場犬との接触(イベント),いぬのデカ(職業)

☆ 満天星犬士 ☆


満天星国の犬士の待遇は一時期まではそれはもう酷いものであった。
国の設立からずっとというわけではない。
犬妖精を起点とする犬属性に関わる運命が育たなかったという事情もあるが、戦闘に随伴する事もなくなった頃から顕著に見え始めたと言われている。
国の施設や帝國軍に資源のように配置され、
奴隷同然の扱いを受けても報償もなく、
役に立たなければ捨てられた。
ただ死ぬだけなら良い死に方と考えられるほどで、
最終的にはそのまま屠殺場に回ることすらあった。
正直奴隷以下の扱いであった。
生き残りは王犬を含めて僅かであり、その王犬ですら国の大事に守られることもなく死ぬことすらあった。

しかし、それでも、どんなに報われなかろうとも、彼らは国を離れることはなかった。
離れられなかったということもある。離れたわずかなものもいるという説もある。
後に彼らを評するに当たって愚鈍であったという者もいるが、好まれたのは次の表現である。

満天星国の犬士は、面倒見がよかったのである。


彼らがそこまで人から離れなかったのにはもちろん理由があり、それを紐解くには人の歴史に関わらなければならない。
満天星国とは民族不和と内乱の国であった。
元はビギナーズ王国と都築藩国という二つの藩国の合併によって誕生した。
その時、都築藩国の国民達が抱いた排他されるのではないかという不安が民族差別を引き起こした。
表面上は何もなく、調べなければ分からないその異常事態が発覚したのは民族虐殺に発展してからであった。
初心系と称される元ビギナーズ王国国民は大幅にその数を減らし、一部の人間が国外に退避していると判明するまでは絶滅もやむなしという状況であった。
宰相府の介入や当の都築系の国民達の努力もあり、その陰は限りなく薄くなっては来ているが、未だにわだかまりとして民族の間に残っているのは確かである。

まだ細かいことを語ればまだまだ事件はあった。
犬士達はそれをすべて、つぶさに見てきたのであった。
そして、人は何をしているのだろうと思ってきた。
犬の間には種による上も下もない。何千種という犬の種類の中で、特に強い種というのはない。
もちろん小型犬と大型犬、力の強い個体とそうでない個体で明確な力の違いはあり、それにしたがってパワーバランスは成り立っている。
しかしあくまでもただ個と個があるのみなのだ。
重ねて言うが、犬が種で区別をするということはない。
故に種で差を付け合う人を何をしているのだと思って見ていた。

それ故に、人というのはそういうものなのだと理解し、助けてやらねばと思っていた。
人同士で争うのであればそれを見守ってやろうと、世話をしてやるのだという気でいた。
明確な差別が始まるまでは、犬士の側からすればの話ではあるが、そのような風潮であったと記録されている。
もちろん犬士と人とでは主従関係にあり、命令を受けて行動するのが犬士ではあるが、それを受けてやるのだという気がなければ主従関係というものは成り立たない。
現にサイドカーに乗って戦場を駆けるその姿はまさに人犬一体というものであった。

それが崩れたのは、奇しくも今必要とされている根源力によるものであった。


根源力が一定以下しかないものは強制的に死亡するというその能力の前に犬士は無力であった。
故に編成からは外され国の施設に配備されるか、もしくは帝國軍に出仕するという扱いになっていった。
その頃からであろうか、犬士は書類上でただの数字として扱われ始めた。
恐らく時を同じくして、犬士に対する差別は始まったのだと考えられている。
数字の上で増減と配置をされるだけの存在に、人権は認められなかったのだろう。
ただ少し、政策でその労をねぎらい、なにがしかの褒章を与え、配置先のない犬士についてもフォローがあれば、今頃は違う現在に行きついていたのかもしれない。
しかしすべては起きてしまった後である。
実際に犬士はその権利をほぼ奪われた形になり、
奴隷のように働かされ、
役に立たなくなれば屠殺され、
王犬ですらその庇護は受けられず、
数少ない満天星国の犬士はただ数値の上で存在しているだけの、そのような存在になってしまった。


そんな状態になっても国を出ていかないのは、暗愚だからだと言う者もいると先述した。
奴隷だから自由もなく出ていくこともできないのだと言う者もいる。
国に縛り付けられて動けなかったという事情もある。
しかし、もう一つ先述したことがある。
満天星国の犬士は、呆れるほど面倒見がよかったのである。
面倒見がよかったからこそ、彼らは人の歴史をつぶさに見続けてきていた。
故に人のことを深く理解していた。
人がそうするであろう境遇を理解し、そうしてきた歴史を理解し、自分達より下の立場にあるものを虐げることも理解した。
それと同時に彼らは自らの待遇に、奴隷としか言えない扱いをする人を恨んでいた。
恨みながらも理解し、理解しているからこそ恨みもした。
奴隷だから反逆しなかったのではなく、理解していたからこそ反逆しなかったのだ。
それが無駄だと知っていたから。
人による扱いは低かったかもしれないが、彼ら自身の魂は気高かった。

差別が進んだ今、残っている犬士の数は数えるほどしかいない。
王犬コロも元王犬ジーロも死にかけたが、どうにかその命をつないでいる。
藩王の下にはその生き残った犬士達が集っていた。
いや、残ったのは国に使役されるわずかな数だけだったという方が正しい。
彼らはもちろん人を恨んではいる。
しかし同時に、人を理解してもいる。
だからこそ、人がもう一度やってみるという言葉を信じてやろうと考えた。
人がようやくわだかまりを超えて一つになろうとしているのだ。
自分たちに対してもそうしようとしている意志があるのであれば、
今まで何も動こうとしなかった国であっても、今からそれを成してくれようとするのであれば
それを信じてやってもいいかもしれない。
たとえどんなに虐げられようとも、食べられるよりはただ使役されるだけの方が悪くはない。
離れられないのであれば面倒を見てやる、食えるものならば食って見ろ。
謝罪は受け入れない、許しも与えない。
ただ、指示は聞いてやろう。生き残るためには、それが必要なのだから。
それが満天星国の犬士の、数少ない生き残りの総意であった。


そんな彼らに、藩王は新たな名前を授けることにした。
許しを請うことは許されないが、ただただ済まないという思いだけを込めて、
満天星国でこれからも生きてほしい、これからも共に歩いてほしいという意味を込めて。

満天星犬士と。



・犬士の形質について


彼らは人と同じ様な姿形をしている。あくまで同じ様な、であってまったく同じではない。
基本的には犬をそのまま人間の形に引き伸ばしたといってもいい。
手足や体は毛皮こそついているものの人と同じ形になっている。シッポを除けば、だが。
顔は大きく異なり犬そのもの。目、鼻、口、耳、すべて犬の形質をそのまま受け継いでいる。
異なると言えば人語を操ることができる程度であろう。
古くはビギナーズ王国や都築藩国が設立された当初からそのような人に近い形をしていたという。
そのような姿になった経緯については諸説あるが、一番有力なのものが一つある。
元はいわゆる犬としての形をしていたものが長い時を経て人に近寄っていたというのだ。
しかし、それでも彼らは元は犬なのであり、自分達の祖である犬の血を何よりも重んじている。
自らを示す時にはゴールデンレトリバー、黒柴、赤柴のいずれかを表すマークを用いるのはそこに由来する。
王犬の肖像ではいわゆる犬と呼ばれる姿が描かれてるが、これは王犬の正体を隠すための偽物であったと言われている。
これが国に仕える、帝國軍にも出仕している犬士達である。
そして満天星国にはもう一種の『犬士』が存在する。

古くまだアイドレスの世界が若かった頃、犬妖精というアイドレスを纏った者を『犬士』と通称することがあった。
紛れもなく人ではあるが、犬士に近い形質、いわゆる犬耳、尻尾を持っていた。
人であるゆえに、その間に生まれてくる子は人であった。
しかし犬に近いその姿故か、代を重ねることでまれにその『犬士』の形質が表に出てくることがあった。
彼らは犬耳を持っていたり、尻尾を持っていたり、人からは離れた姿をしていた。
そしてその姿故に『犬士』と呼称されるようになった。
これが国に仕える者以外の、満天星国の『犬士』であった者たちである。
そして、虐殺の対象であった者達でもある。
虐殺が行われたからか、はたまたただ血が薄まったのか、現在ではその出生率は0に限りなく近づいているという。

現在満天星国政府が公に確認している彼らの数は、記録されている上では0である。


・犬士の保護とこれから


満天星犬士は数が少ない。
元から国に仕えていたものだけに戻ったとも言われるが、とにかく少なかった。
虐殺に加えて国内で起こった化け物による蹂躙で見捨てられたこともあり、前述の通り確認できる数はほぼ0となっている。
しかし、国で公に確認できる数は国の混乱が終わった段階での数であり、明確かつ詳細な調査を行うことができなかった可能性が高い。
誰がどのように扱っていたか不明ということは、それを助けていた人間側の面倒見が良い者がいた可能性もある。
そのような可能性があることを信じて、『犬士』として扱われていた者達を保護する準備が進められており、そのための施設として国に寮が設立される予定である。
保護された犬士達には肉体的、精神的なケアを通じてもう一度満天星国の一員として立派に生きていけるよう、国が責任を持ってその後見を行ってゆく。



これからの未来、彼らがその印を誇り高く掲げることができる世界であるように。
満天星の民がそう願うことができるように。願うことができる者であるはずだから。
そして犬士達が人と同じ姿でよかったと思えるよう、努力を続けていく。
それだけがただ一つの償いであると信じて。


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