(虫の声がしないな…)
バッツはそんな事を考えながら…ただし、警戒はとかずに歩いていた。人気のない、真っ暗な町の中を。
あの、名前も知らない二人の墓からしばらく北西に行った所。
…アリアハンの城下町。
日が暮れた頃から、バッツは遠くに微かに見えたこの町に向かって歩みを進めていた。
町というのは、危険である。
雨風をしのげ、ひょっとしたら何か生き延びるのに必要な者があるかもしれない。
それ故に人が集まる。そして、集まった人間が全員“非戦”を貫いている保証は無い。まったく、これっぽっちも。
十中八九、“プレイヤーキラー”が身を潜めているだろう。
だがバッツはこの町に来た。
レナか、
ファリスがここに来ているかもしれない。
それに何より、バッツには休息が必要だった。
ぎぎぃぃぃ……。
耳と感に触る音を立てて、アリアハン城の城門がゆっくり開いた。
その音に思わずぎくりとする。今、誰かに気づかれなかっただろうか?
しばらく、誰も襲って…もしくは声をかけてくる様子がない事を確認してから、バッツは城に足を踏み入れた。
城の中にも、人の気配はほとんど無かった。まったく、ではなく、ほとんど。
(何人か…いるな。)
3人か、4人か…その程度。
用心深く歩を進め、一つの扉に手を伸ばす。どうしようもなく疲れた動作で。
鍵を閉めてしまえば大丈夫だ。鍵をしっかり閉めて、しっかり休んで、それからレナ達を…。
バッツは扉を開け放った。
扉の向こうは、書庫だった。
そこにあったのは、大きな本棚の群れとそこに整然と収まった本達。逆に無秩序に床に散らばった本達。
そこにいたのは、本を読みあさる暗黒の貴公子。
「な…。」
先客がいたことに、バッツは驚きの声を上げた。それが、本に集中していた貴公子を現世に引き戻す。
「チッ…。」
貴公子…
デスピサロは、舌打ち一つしてから立ち上がった。同時に、掌に火球が一つ生まれる。
(バットタイミング…!)
バッツは心の中で声を上げてから、走り出した。一直線に外へと。つまりは、逃げた。
それを追うように、デスピサロも走り出した。死の火球を胸に抱いて。
「メラミ!」
ピサロの声が遠く…とは言っても、距離的に言えばキッパリと近いが…で響く。
同時に、燃えさかる火球がバッツに死の牙を剥いた。
「くおっ…!」
バッツは走りながら振り向き、煌めきを失った勇気の剣…
ブレイブブレイドを振った。
魔法剣によって冷気を纏った刃が、あっさりと火球を虚空に返す。
それを確認するヒマもなく、バッツは走った。方角で言えば西へ。
全速力の
追いかけっこをかれこれ2、30分ほど。バッツの体力はそろそろ限界へと近づいていた。
「…駄目か。」
バッツはそう確信した。自分の残った体力。相手の強さ。そして目の前に広がる光景を見て。
目の前には海があった。いや、潮の匂いが無いから、湖か。向こう岸には塔が見える。追っ手を振りきって泳ぎ切れる距離ではないだろうが。
バッツは湖を背にして振り返り、デスピサロと相対した。
「レナ、ファリス。ごめん。」
そう、呟いて。
ピサロが、今までよりも大きな火球を放った。
どんっ、と言う衝撃と共に、火球が炸裂した。
…バッツから多少離れた距離で。
「え…?」
火球は、届かなかった。彼らの間に割り込んだ少年が、それを防ぎきったのだ。
ボロボロの旅装束を纏った、凛々しい金髪の少年。その少年が手にした、金でも銀でもない輝きを持った盾が、火球を弾いたのだ。
「…!天空の…盾?!」
デスピサロが動揺する。その盾を見て。これ以上ないくらいに。そして、ピサロの体勢が崩れた。一瞬だけ。
「スキ有りっ!」
それと同時に、一人の男がデスピサロに斬りかかった。壮年の、戦士が。
(親父…?)
バッツは一瞬、その男が父親…ドルガンに見えた。だが、違う。
その男…
パパスは、目にもとまらぬ速度で剣を振った。水に濡れた剣が激しく空を切る。
デスピサロは、パパスと盾を持った少年。そしてたった今、湖から上がってきた金髪の少女をにらみ据えて…城の方へと引き返していった。
「ありがとう…助かった。」
落ち着いてから、バッツは軽く手を挙げて礼を言い、名乗った。
答えるように、パパスと少年、そして少女も名乗った。
なんと彼らは、あの、湖の向こうに霞んで見える塔から泳いできたのだという。パパス曰く「殺気を感じたから」だそうだが。
「礼を言われても困るな…こちらとて、下心はある。」
そう言って、パパスは笑った。…やっぱり、親父に似ていると、バッツは思う。
「いいよ…下心でも何でも。助かったからさ。」
そう言って、バッツも笑う。つられたように、金髪の少年と少女も笑った。無邪気に。
彼らは、バッツに一人の男を見なかったかと訪ねた。紫色のターバンの、男を。
バッツは見なかった、と言い、逆にレナとファリスを見かけていないか聞いてみる。
…やはり、見ていないらしい。
ため息を付いたバッツを見て、パパスは言った。静かに。ただし、しっかりと。
「…儂らと一緒に来ないかね?」
パパスの提案に、バッツは目を丸くした。
「この“ゲーム”は…自分以外は敵だぜ?」
「
人捜しをするのにも、身を守るのにも、このふざけたゲームを止めるのにも、頭数は多い方がいい。」
続けて出てきた言葉に、バッツは今度こそ思考が停止する。ゲームを…止めるだって?
不可能に思えた。だが不可能を可能にしてみたくなった。止める事が出来れば、みんな、生き残れるかもしれない…!
「…分かった。一緒に行くよ…よろしくお願いします。パパスさん。よろしくな。二人とも。」
バッツは少年に親指を立ててみせる。それに答えるように、少年は笑顔でブイサインを出して見せた。
バッツの腰の鞘の中で、ブレイブブレイドが、ほんの僅かだけ光を取り戻したようだった。
【デスピサロ 所持品:
正義のそろばん 狼煙
基本行動方針:進化の秘法を探す
最終行動方針:なんとしてでも生き残る】
【現在位置:アリアハン西の湖畔→アリアハン城へ】
【バッツ@魔法剣士(アビリティ:白魔法) 所持品:ブレイブブレイド
第一行動方針:レナとファリスを探す
基本行動方針:非好戦的だが、自衛はする
最終行動方針:ゲームを抜ける】
【パパス 所持品:
アイスブランド
第一行動方針:子供達の安全確保と両親さがし】
最終行動方針:ゲームを抜ける】
【
クーパー 所持品:
天空の盾とマンゴーシュ(王女の支給品)
第一行動方針:両親さがし】
【
アニー 所持品:なし
第一行動方針:両親さがし】
【現在位置:アリアハン西の湖畔】
最終更新:2011年07月18日 02:05