夕日

美しい夕焼けが、アリアハン全土を真紅に染めていた。
大魔王ゾーマの『生贄』とされた者達は、それぞれの場所で、それぞれの夕日を眺めていた。
その内何人かの者は、それが人生の最後に見る夕日となった。



規則的に並ぶ西側の窓全てから、斜陽が鋭角に射し込み、巨大な王城の謁見の間を紅に染める。
最早、そこに在るべき王が永遠に座る事の無い玉座に腰掛け、一冊の古い書物を熱心に読み耽っていたデスピサロは、
ふと顔を擡げ、斜陽刺し込む窓の方を見やった。

「…………」

彼は本を肘掛に置き、窓へと歩み寄り、ナジミの塔の向こう側に浮かぶ太陽を見た。

「…………」

この地に来て、初めてロザリーのことを思い出す。

(ロザリーの為に、そして人間どもへの復讐の為に、私は生き残る。
 再び魔族の王国を組織し、今度こそ帝王エスタークを完全なる形で復活させ、
 人間どもの世界を消えることの無い炎で覆い尽くしてやろう。
 ……私は生き残る。何としても……)

太陽の底が、水平線に触れた。

「日没か……」


アリアハンの最西端、海に面した小高い丘の上で、ガウとクイナも遥か遠くに煌く太陽を見つめていた。

「ガウ、夕日……キレイだからスキ……」
「確かに綺麗アル。ワタシも夕日スキアルよ」
「太陽、海の中に沈む……」
「アレは海の中に沈んでるんじゃないアル!海の向こうに隠れてるだけアル!」
「……ガウ?……?」

太陽が少しずつ、水平線の向こうへと消えてゆく。
やがて円は半円となり、その半円は次第に小さくなる。
……そして、太陽は完全にその姿を隠してしまった。

アリアハンに、夜の帳が降りる。
ガウは夜空を見上げ、彼らしく屈託の無い元気な声を上げた。

「ガウ、星空もキレイだからスキ!!」

まるで太陽が沈むのを待ち侘びていたかのように、
零れ落ちる程の数え切れない無数の星が現れ、澄んだアリアハンの空を飾り付けていた。

「ワタシも、星空スキアルね……」

クイナがかつて見たこともないような美しい夜空を見て、
思わずそう呟いた直後、彼らの間を血も凍るような一陣の冷風が駆け抜けた。
同時に大地が地鳴りを上げ、大きく揺れ始めた。


家具が次々と倒れ、その中の物を床にぶちまける。家全体が軋みの悲鳴を上げる。
窓際で夕日を見ていたティーダは、突然の大きな振動にバランスを崩し、大きく床に尻餅をついた。

「う、うわっ!!じっ……地震!?」

突然、アルスの顔に緊張感が走る。
窓に駆け寄り、身を乗り出して空を睨み付けた。
キャンバスに黒い液体を溢したかのように、
アリアハンの夜空が、猛スピードで深い闇に侵食されていく。星が消える。

「……違う……この揺れは……!!」

アルスは、過去に自分の目の前で起きた惨劇を思い出していた。

魔王バラモスを倒した勇者の凱旋を祝い、謁見の間に集まった人達が、
闇から放たれた霹靂に打たれ、次々と砕け散っていった。
音楽隊、兵士、市民……多くの人が、祝いの席で非業の死を遂げた。
血と肉片が散乱するアリアハン城の謁見の間で、闇の中に浮かび上がったゾーマの姿。
ゾーマの高笑い、王の落胆、自分の無力……様々な苦い記憶が、アルスの脳裏に蘇る……。

空を睨む勇者の発する気迫に、ティーダは尻餅をついたままに、何一つものも言えないでいた。


アリアハンの空が、何一つ見えない漆黒に支配された。
果てしない闇の空の中に、巨大なゾーマの姿が浮かび上がる……。

「我が生贄達よ!
 何ゆえ、下らぬ馴れ合いを演じるのか?
 敵を、仲間を、出会った者全てを滅ぼし、その苦しみをわしに捧げよ!

 既に八名の者が、我が腕の中で息絶えた。
 我が絶望の宴で息絶えた者の魂は、永久に救われることは無い。
 闇がこの世にある限り、その中でもがき、苦しみ続けるのだ。

 死にゆく者こそ、美しい。

 そなたらより一足先に闇に堕ちた、そやつらの八名の名を読み上げるとしよう。


 これからは半日ごとに、息絶えた者達の名前を読み上げる。
 そなたらの大切な者の名前を聞く時も、そう遠くはあるまい。

 わははははははははっ……!!
 さあ、苦しみ、悩むがよい。
 そなたらの苦しみは、わしの悦び……。

 我が名はゾーマ。命ある者全てに、絶望を与え、滅ぼす者。

 さて、ここから先は、そなたらに幾つかの『ルール』を設けさせてもらう。
 出でよアークマージ!そしてこやつらに、新たなる『ルール』を説明せい!」


参加者の皆。いかにこの絶望の夜を過ごしているか?
 我らが主ゾーマ様は御主等の血を求めておられる。
 精々もがいて生き抜くがよい。

 …ルールを説明する。
 このゲームのルールは始まる前にゾーマ様が仰せられたとおりだが補足を加える。

 ひとつ。
 ここに禁止呪文を設定する。
 ルーラ、バシルーラ、テレポなどの転移呪文、魔法。
 および、リターン、デジョン。
 これらの呪文、魔法を使った輩は即座に首輪は爆発する。

 ふたつ。
 明け方になる頃新たな戦場への旅の扉が複数出現する。
 その場所においてはその都度放映する。
 新たな旅の扉が出現して二時間!それがタイムリミットだ。

 以上だ」

【アリアハン:昼→夜へ】


←PREV INDEX NEXT→
←PREV ガウ NEXT→
←PREV クイナ NEXT→
←PREV ティーダ NEXT→
←PREV アルス NEXT→
←PREV デスピサロ NEXT→
アークマージ NEXT→
←PREV ゾーマ NEXT→

最終更新:2011年07月18日 08:16
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。