封魔壁南西の岬。そこには今、四人の人間がいた。
じゃりっ…。
草原の草を乱暴に踏みしめて、
スコールは辺りを見回した。
誰かが、いたはずだ。ここに。ついさっきまで。確かに見た。
もうすでに手になじんだ
氷の刃を握りしめて、スコールは『敵』を探し始めた。ひどく虚ろな目で。
「マズイ…わね。」
岬に転がった大岩の陰で、
アリーナは小さく呟いた。
視線の先にはスコールの姿。血にまみれた刃を握った、スコールの姿。
ここに転移してきたとたんにあのアブナい男とはち合わせしてしまったのだ。何とか今は仲間3人で身を隠しているが。
「な、何なんだろうあいつ。あんなに剣が血まみれで…ひょっとして…。」
ガクガク震えながら、
ギルバートが怯えた声を上げた。その瞳は焦点が合わさっていない。
「うん。たぶん…やる気なんだと思う。」
アリーナの返事に、今度は
リディアがひっ、と声を上げた。やる気。つまり、人を殺せるという事。
「これは…ちょっと手荒な事をしないと逃げられないかもね。」
「手荒なこと…って…。」
アリーナの深刻な声を、ギルバートがオウム返しに聞き返す。
アリーナは仲間…ギルバートとリディアに向き直り、人差し指を立てて続けた。
「あたしがアイツを思いっきりぶん殴って注意引くから、その隙に二人は走って逃げてね。」
「ち、ちょっ…!アリーナさん!アイツ、剣…!むぐむぐっ!」
慌てて声を上げるギルバートの口をアリーナがさっと塞いだ。
「剣持った相手と殴り合って勝った事だってあるわよ。それに、こういう事できるの、あたしだけでしょ?」
そう言うと、アリーナは全身を強ばらせた。いつでも飛び出せるように身構えて…。
その姿を、ギルバートはずっと見ていた。強い人だ。自分とは比べ物にならないくらいに。
それに比べて、自分はどうだ?アリーナとリディアに頼り切りで、一度など全滅の危機まで招いた。
アンナが見たら、なんて言うだろう?アンナが…。
ギルバートが、ぎしっと掌を握りしめた。とても、強く。
そうだ、あの日、カイポの村で、アンナに約束したじゃないか!強くなる。勇気を持つって!
「…アリーナさん。」
ギルバートが、小さく、ただ力を込めて言った。もう少しも震えずに。
「…アリーナさん。僕に、良い考えがあるから…試させてください。」
「考え?」
「はい。僕もすぐ逃げ出すから、だから、リディアちゃんをお願いします。」
ギルバートはそう言うと、すっくと立ち上がり、真っ直ぐにスコールの方に歩いていってしまった。止める暇も無い。
「ギルバート、大丈夫かな…?」
怯えきった声で、リディアが呟いた。とても不安そうに。
「大丈夫…だと思う。ギルバート、自信たっぷりだったから…ほら、リディアちゃん、行くわよ…!ギルバートのがんばり、無駄にしちゃ駄目だから…!」
そう言いながらリディアの小さな体を抱きかかえて、アリーナは歩きゆくギルバートを見た。
(がんばって、ギルバート…絶対、また会うんだからね!)
スコールは訝った。少し離れた岩の陰から、羽帽子をかぶった男が突然現れたのだ。
だが、驚きも疑問もすぐに虚空に消える。虚ろな心だけを抱きしめて、スコールは男に向き直った。
ギルバートは、確かな死を感じながらスコールと向かい合っていた。
考えなんて、これっぽっちも無い。あの場の、出任せだ。ああでも言わなければギルバートを行かせてはくれなかっただろうから。
「さあ、来い…僕は丸腰だ。怖くなんて無いだろう?」
そう言いながら、ギルバートはゆっくり左に移動した。スコールがゆっくり近づいてくる。そして…。
「二人とも!今ですっ!」
ギルバートの声と共に、リディアを抱きかかえたアリーナが岩陰から飛び出した!
ギルバートが立っている場所からはだいぶ離れた迂回ルートを走って、信じられない速度で逃げていく。
「……!」
ギルバートが囮であることに気づいたスコールは振り返り、アリーナ達を追って走り出して…。
後ろから突進してきたギルバートのタックルを食らって地に伏した。
「…!」
「行かせるもんか…行かせるもんかぁ!」
ギルバートは倒れたスコールにしがみつき、必死でその体を押さえつけようとする。
スコールはぎりっ、と歯がみして、ギルバートを引きはがすべく氷の刃を振り上げた。そして。
ごつっ!
嫌な音を立てて、冷たい刃がギルバートの背に突き立てられた。
「が…!」
肺を傷つけられたせいで、悲鳴すらも空気に解けて消えていく。
彼は、最後の力を振り絞って、北の方を見た。アリーナの紅いマントは、もうすでにずいぶん遠くに見えた。
(これでいいんだよね。アンナ。)
その思考を最後に、ギルバートの全てが静止した。
「……。」
スコールはギルバートから刃を引き抜くと、しがみついたその死体を振り払った。妙に安らかな顔の死体は、あっさりそこらに転がった。
…もう死体には興味など無い。スコールはアリーナを追って走り出した。
リディアを抱えたまま、アリーナは疾走していた。鍛え抜いた足が、アリーナにすさまじい速度を与える。
(ギルバート…。)
アリーナは心配になって、少し後ろを振り返った。ほんの少しだけ。
…後ろからは、スコールが剣を構えて追いかけてきていた。
「そんな…!」
もう追いかけてきた?ギルバートは?まさか、もう、死んだ?
背筋が凍り付く。今の今まで会話を交わしていたギルバートが、死んだ?
スコールは不自然なまでの速度でアリーナを追いかけていた。リディアというハンデがあるとはいえ、100メートルはあった距離が、もう後30メートルほどまで詰まってきている!早すぎる!
逃げ切れないと判断したアリーナは、勢いを殺しながらスピードを落としていく。
立ち止まった次の瞬間には、少し乱暴にリディアを放り出す。
「リディア、あたしがアイツの相手するから、逃げて!」
スコールに向き直ったアリーナの絶叫に、リディアは怯えながらも、それを拒否した。
「わ、私だって…。」
しかしその言葉は、アリーナの怒号にあっさりかき消された。
「ギルバートが死んだの、あなたを逃がすためなのよ!行かないんだったら、あたしがあなたを殴るからね!」
その言葉に、リディアは今度こそどうしようもない恐怖を感じて…あらぬ方向へ、一直線に逃げ出した。
(…ごめんね。)
心の中でリディアにわびながら、アリーナは走り寄ってくるスコールに飛びかかった!
【アリーナ 所持品:イオの書×4
リフレクトリング
第一行動方針:スコールを倒す
第二行動方針:ソロを探す】
【リディア 所持品:なし
第一行動方針:逃げる】
第二行動方針:仲間を探す】
【現在位置:封魔壁南西の岬】
【スコール(人形状態) 所持品:氷の刃
第一行動方針:アリーナを殺す
最終行動方針:皆殺し】
【現在位置:封魔壁南西の岬】
【ギルバート 死亡】
【残り 76人】
最終更新:2011年07月17日 22:09